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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
7章 魔人領域再び
244/306

217話 続々ジンデ

「習君、少しだけ時間下さいね」

「了解」

「その後、力を貸してください」

「勿論」


 四季の頼みなら否はない。というより、倒すためには四季の協力が必須。こっちからお願いしたいくらいだ。



 俺の返事を聞くと四季はすぐさまゴソゴソとファイルを弄る。



「デカい糞共!俺様の相手をしやがれェェ!」

「今、その準備をしてるところだよ!」


 普通にやったところでジンデには一切通用しない。だから通用するようにしようとしているのだから、黙って…。



「お、そうか!なら、楽しみにしてるぜ!」


 素直か。



「…ってか、このちっせえ糞共邪魔だな!」

「なら、ちったぁ、俺らの攻撃が通るようにしろや!」

「はっは!嫌だね!それこそ、俺様が俺様である証みてえなもんだ!」

「だよなぁ!」


 …もはや何も言うまい。



「習君、これ、お願いします」


 ファイルと共に差し出される紙。だが、形がいつもと違う。この形は…、『火』の字。



 …あぁ、なるほど、そういうことか。



「はい。そう言う事です。習君が私の紙に字を書き、方向性を定められるなら…、私が紙の形で字を書いてしまっても問題ないはずです。おそらく、これで今までよりも良くなるはずです」


 だね。早速書こう。四季のファイルを下敷きに紙に字を……、書きにくいなぁ! 試しだからいつもより籠っている魔力は少ないはずなのに、書きにくさがいつもの2倍以上だ。



 この書きにくさは…、四季の意思…というか魔王のイメージが混じってるからか? いつもの抵抗にプラスして…、という感じだからそれで正解っぽいな。



 …何となくだが、四季が思ったのと似ていなければ徐々に不安定になって、最終的には破綻する。そんな感じがするしな。



 この紙には「水」や「土」なんて絶対書けない。もし、書こうとすれば瞬く間に俺から紙に込められた魔力と同等程度の魔力を奪って消えてしまうだろう。「光」は一応書けそうだ。イメージ的に「火」と似ているからだろう。…まぁ、書いたところで普通の紙に書くより威力は絶対下がるだろうが。



 でも、「火」に「光」はいける感じがするくせに、「火球」の紙に「火柱」だとか「火炎放射」は書いている間のどこかで破綻する気がする。



 …となると、今まで四季が渡してくれていた長方形の白紙は「山の頂上に溜まった水」で、今の火の形をした紙は「川の水」に例えることが出来るか? 「山の頂上に溜まった水(長方形の白紙)」ならば、俺が|どこの壁に穴を開けよう《どんな魔法を書こう》と、|開けた穴から水は流れて《魔法は発動して》くれる。要するに、今までの紙は俺が自由に使える魔力源。



 だけど今回の「川の水(火の形をした紙)」は違う。川は下流に向かって流れる。この絶対的事実(四季の想像)を守るように書かないと意味がない。もし、それを無視して、水をせき止めようとしたり、上に流れる道を作ってそっちに流そうとしたりすれば…、時差はあれどいずれ破綻する。だが、四季と同じ方向を向いていれば、川の勢いを増すが如く威力は増大する。言うなれば、用途の決まった魔力源か。



 …あれ? 実験する前から威力が上がる気がしてるな? 威力増加は嬉しい。だが、肝心なのは増加割合だ。10に1を足す程度なら効果は劇的にあると言えるが、一億に1を足されてもほぼ意味ないからな…。



「書けそうです?」

「ん?あぁ。書けたよ」


 考え事をしていたが、今のくらいなら問題ないだろう。何しろ、いつものぽわっとしたイメージだから。さて、こっからでも撃てるが誤射が怖い。紙を動かしてジンデに撃って…、ん? 撃って…、あれ?



「どうしました?」

「紙が動かない」

「え?」


 俺が紙を持つ方を四季も持ち、クイクイっと動かす。



「なるほど。確かに動きませんね…」


 ただの紙なのにね。重さも感じないし…。謎。



「とりあえず、手を離してみましょう」

「だね」


 …浮いたな。紙なのに、俺らの目の前で宙に浮いている。というか…、これは浮いているというより、宙に固定されているというほうが正しいか? 戦場をサッと吹き抜ける風にも、紙は何の動きも見せないのだから。



「力が足りなかったのですかね?とりあえず、全力で引いてみます。……あ。駄目ですね。習君はどうです?」


 待って。試す。さっきは全力じゃなかったし。『身体強化』して、思いっきり引っ張る! …あ。駄目だこれ。



「私も、習君も駄目ですか…。まさかないとは思いますが、力不足かもしれません。一緒に押してみましょう」

「了解」


 四季と一緒に『身体強化』。そして、同じ側から思いっきり押す! ………あぁ、動かないな。びくともしない。紙なのに思いっきり押しても動くどころかたわみもしない。



 となると…、まさかとは思うけれど。



 俺と四季がそれぞれに、ぴったり同じタイミングで紙に剣を振り下ろす。



 ……やっぱりか。いや、想像以上というべきか。振り下ろした剣は紙に触れた瞬間ぴたりと止められた。しかも、思いっきり振り下ろしたものを急に止められたというのに、こちらに何の損害も与えずに。



 であれば…、だよな。ググっと押してみても進みやしない。四季も困惑しているから、四季が何かしたわけではなさそうだし…、俺だって、字を書くときにこんなの考えてないから、

原因不明だな。これはこういうモノなんだろう。



 この謎の絶対不可侵領域の形成に、俺らが注いだ魔力を無駄遣いされているという感じもないし…。って、光り出した!?



「てめぇら!何あs…『『火』』ははっ!」


 暴走する気配があったから、即発動。ジンデが何か言ったが気にするものか。



 宣言と同時に紙が消え、代わりに火の龍が現れる。龍はジンデに向かって飛びかかり、ガブリとジンデに喰らいつく。そして、ジンデの抵抗をものともせず、上へ向かって放り投げるとパクっと丸呑みし、爆ぜた。



「ちっとは威力上がってるようだが…、効かねえなぁ!」


 …威力は上がってるのな。それはそうだろう。だって…、



「今のは触媒魔法ですよね?」

「だね」


 触媒魔法なのだから。通常の触媒魔法より、威力の増分は大きそうだったが…。



「使いにくいことこの上ないな…」

「ですね…。紙は動かない上に、勝手に暴走しそうになり、挙句、強制触媒魔法ですからね…。」

「いいところを上げるなら、イメージがふわふわした「火」であっても四季がある程度既に固めてくれてるから、俺が方向性を決めるのがより楽になる…ってところか」


 白紙だと、『火』であれば、俺がふわふわした火のイメージを固めないと駄目。後は、それを発動前のイメージで軌道修正…しかできない。でも、今回のであれば、四季が既に「ふわふわした火」の像は作ってくれてる。それに俺がさらに柔軟性を持たせてやれば、さっきみたいに『火』でも、かなりまともなモノを作れる。



 便利なのは違いない。違いないのだが…。今回に限っては少し不便な点が目立つ。



 今回は「ジンデに紙を貼り付けて使いたい」のだから、それをしようと思うと、ジンデに四季が紙を貼り付け、そこに俺が書かなければならない。



 思いっきりジンデの行動に左右される。ジンデが油断して、準備の最中に何もしないことを期待するか、がちがちに固定して無理やり書くか…、方法はいろいろ思いつく。



 が、正味、ガチガチに固定して書くのが安全だな。最悪、書いた魔法が効かなくとも次につなげられる。紙を書ききれるかどうかは…、何とかなるだろう。



 幸い、カレンはまだ「世界の狭間に敵を縫い付ける」矢は放っていない。人数も多い。初見殺しと人数で封殺する。



「習!まだか!?」

『ああ!行ける!』


 日本語で応える。謙三達三人と、ルナ以外にはこれで何か企んでることが伝わる。



『ジンデの胸付近に空間をとって…、』

『拘束してくれ!』


 引き続きの日本語。これでルナ以外にはやって欲しいことが伝わる。ルナにだけは通じないが…、



「ルナ姉さま。ジンデを拘束して欲しいって」

「にゅ!」


 増えたミズキの一人がルナに耳打ちで伝えてくれる。多少、ロスは出るが、ジンデに内容を悟られずに伝えられる利点の方が大きい!



「こいよ!強すぎる俺様を倒して見せろ!」


 声で皆が動いたことで、何かを仕掛けることはバレても、それが何かわからなければたいした問題にはならない。



「おう!やってやんよ!これでも喰らえ!」


 いきなり大剣を投げつける謙三。ジンデはそれを横に飛んで回避。だが、いつも通り遮二無二攻撃を仕掛けてくるものだと思っていたジンデは、大剣の後ろから飛んできた謙三に組み付かれる。



「どっせぇぇぇい!」


 声を上げながら謙三は背負い投げの要領でジンデを地面に叩きつける。そして、顔を体で押しつぶす。間髪入れず、カレンが手足と首を世界の狭間に縫い付け固定。アイリが両足に鎌を一本ずつ突き刺し動きを封殺。ガロウとレイコは両手にとりつき抑え込み、ルナは腰を家で押しつぶし、地面と縫い付ける。光太と天上院さんが聖剣と聖杖で肩を貫き地面と結ぶ。



「うぉふっ!?やるひゃねぇか!」


 この状況でも喋れるのな…! だが、その余裕もこれで突き崩す!



 ジンデに駆け寄る四季がファイルに手を突っ込む。四季は魔力をかなり取られたのか少し顔色が悪くなったが、流れるように紙を胸の辺りに貼りつける。



 そして、四季はジンデの体の横、開けて貰ったスペースに座り込むと、またファイルに手を突っ込む。



 …ん? あれ? 何でファイルに手を…って、一画だけしか貼れてない? 勝手に一度に全て貼れるかと思ってたけど…、無理だったのね。



 少しだけ顔色を悪化させながらもう一画。ここまでで書けたのは「一の下にノ」。だよね。字の候補は数あれど…、俺らが選べるのは実質的にその一字だけだ。



 真剣な顔の四季がさらにもう一枚紙を取り出す。きついからか四季の顔には汗が溢れていて、ぽとりぽとりと地面に落ちていく。だが、四季はそれに構わず、もう一画を仕上げる。



 これで一とクが完成。今の一画は湾曲しているのに、貼るときは一枚でいいのね。若干、不思議。…俺がくだらないことを考えていても、四季は動き続ける。顔色を悪くしながらももう一画。



 これで一とタが完成。後は「ヒ」を作れば終わり。ジンデの抵抗は完全に封殺できてる。というか…、



ふへっ(ははっ)ふふぐったいふぇぇ(くすぐったいぜぇえ)!」


 まともに抵抗する気がない。おそらく…というか確実に、「俺様は大丈夫だ」と高を括っているのだろう。…四季が頑張ってくれているのにこの態度。少しムカつく。別にイメージしやすい「無」でも俺は構わないのだが…。



 …だが、俺が憤っても意味はない。四季が意に介していない。そもそも、効くと思い込んでいるけれど、効かない可能性もあるしな。



 何より、今さら「無」に変えることは出来ない。何より俺らは困らないが、「無」では死体が残らない。倒した確たる証拠がなければナヒュグ様とジャンリャ様が困る。…だからこそ、俺らが選べる字は「死」以外にない。



 さらにもう一画、四季が加える。顔色は今まで見てきた中でもかなり悪い。それに、息が上がっていて、肩で息をしている。だが、それでも四季は姿勢を崩さない。最初と同じように凛と座ったまま、滴り落ちる汗を拭うこともせず、最後の一画を貼り付けた。



 途端、四季の体勢が崩れる。だから、完全に四季が崩れないように体を割り込ませて、四季を支える。一瞬だけ、四季の柔らかな感触が折れに伝わってきたが、四季はすぐさま俺に手を突いて体勢を立て直す。



 そして、脂汗まみれの青い顔で、今にも崩れ落ちてしまいそうなのに、四季は気丈にもこっちをまっすぐに見つめ、



「ありがとうございます。私を心配してくださることも感謝します。でも、習君はやるべきことをお願いします」


 と伝えてくる。あぁ、わかってるよ。四季。心配しなくても俺はやるべきことをやる。四季の頑張りを無駄にはしない。



 四季のことはアイリ達に任せる。誰も手を貸せないのなら、俺によりかかってくれればそれでいい。書きにくいのは間違いないが…、四季なら、支えながらでも書ける。



 …大丈夫そうだ。足は崩れているけれどなんだかんだでちゃんと座ってる。なら、書こう。既にイメージは固まってる。後はそれを極限まで集中して、紙に魔力と一緒に込めればいいだけ。



 ペンをそっと一の左に置…っ。置いただけで分かる。反発が酷すぎる。右に左、手前に奥は勿論、上下。ありとあらゆる向きにペン先を滑らせようとしてくる。しかもこれ…、宥めたり、いなしたりするのはほぼ無理っぽい。



 …仕方ない。右に滑るときは力を抜いて、動くままに任せる。左や手前、奥に動くときは、それとは逆にちょうど対抗できるくらいの力を入れて、ペンを滑らないようにする。上の時は跳ね上げられないよう、ペンがめり込まないように力加減を調整。沈み込むときはペンが紙から離れない程度に上向きに力を入れて抵抗する。これしかない。



 実質的にペンをまともに動かせるのは進行方向と抵抗が一致するときだけだが…。仕方あるまい。ミスって紙が消えるよりはるかにマシだ。



 ペンを滑らせ…というより、紙の抵抗に滑らせてもらってやっと一画。たった一画なのに疲れがいつもの比ではない。一気に魔力を吸われたからか? …魔力量は増えているが、一気に出せるようになってない…のか?まぁ、いい。息を整え、次。



 一の中央、やや左にペンを置く。ペンの動きに意識を割きつつ…、四季が形作ってくれた「死」を肉付けしていく。そういっても、あっちなら死生観は宗教や神話によって違うし、脳死とかもあって難しい作業だが…、こっちであればそう難しいことではない。



 こちらであれば、少なくとも魂を視認できる。それ故に「魂が肉体から離れ、輪廻に戻るなり消えるなりして、肉体に戻ってこれなくなる」それで「死」は定義できる。



 だからこの魔法で形づけるべき流れは…「ジンデの魂を肉体に引っぺがし、閻魔様的な人のいるところに叩き込む」そんなもの。



 閻魔様がいるかどうかはわからないが…、俺や四季が死後どうなるかまで決める気はない。



 …っ、よし、書けた。きっついなぁ…! さっきと違ってググッと曲がるから、調整がキツかった。だが、止まってる暇はない。ジンデが大人しいうちに、更に次!



 急ぎつつ、でも、失敗しないよう、軽く息を整え、ペンを入れていく。ジンデの魂を肉体から引っぺがし、閻魔様の前に叩きだす。そのイメージが確たるものとなるようにペンを…ん?少しペンの操作が楽になった?



 さっきまでより、心なしか行きたい方向に押す力がペンにかかる割合が確実に増えてる気がする。それに、力のかかり方もちょっと素直になった。具体的には左に緩くかかってた力が急に強烈に右にかかって行き過ぎそうになる…というようなミスを誘う動きが減った。



 紙に少しは認めてもらえたような、そんな感じがする。となれば…、可能性があるのは、四季のイメージと俺の持つイメージが似通ってるのが伝わったということか?



 だとすれば、四季が込めてくれた念と俺の想像が一致すればするほど書きやすくなりそう。となれば、俺がとるべきは四季のイメージに一致させつつ、肉付けだ。それなら、俺と四季の得意分野だ。何しろ、俺も四季も思考がかなり似通っているのだから。



 四季のイメージを補強するように…、魂を肉体から引っぺがす力、魂を閻魔様の前に弾き飛ばす力を強力に出来るように想像しながら…、ペンの軌道をカクっと折る。…よし、いける。抵抗と行きたい向きが一致した! 一気に流す! そのままペンを今書いたところのちょい左上に置き、今書いた部分とつなげ…て…!



 よし、後はヒだけ。だがっ…、しんどいなぁ! 全身から噴き出る汗が止まらない。それだけじゃなく、顔は暑いのに、体が寒い。かと思ったら体が熱くなって顔が凍えるように冷たくなる。そりゃ、四季も…、顔色が悪くなる。あまり大丈夫な気はしないが…。



「…ねぇ、黒いの出てるけど、大丈夫?」


 死にはしないはず。意地でも俺と四季で終わらせる。終わらせてやる。いつまでも戦い続け…なんて願い下げ。ペン動かし、ヒの右上に。



「…?聞こえてなさそう?」


 そこから少し左下まで…、…やりにくいな。



「ないねー」

「集中してんだろ」


 …む。また書きにくくなった? せっかく抵抗が弱まったのに…って、俺の手が震えているだけか。チッ。手の震えは制御できない。だから、抵抗をもうちょっと素直にしないと…、さっきよりも書きにくさが悪化する!



「ふぇあ!?ふぉれは…」

「黙ってろ」

「謙三は容赦ないねぇ…」

「見事に口を体で押しつぶしていますわね」


 ちっ、ここにきてジンデがもぞもぞ動き始めた。普通の紙に字を書くだけなら問題にならない程度だが…、今、この状況では好ましいことじゃない。



「…ルナ。もっと重く。それで動きにくくなる」

「わかった!」

「…勇者と聖女ももっと」

「ん、了解!」

「かしこまりましたわ」


 少しだけ動かしやすくなった…。理由は何だ? いや、理由なんて今は何でもいいか。ともかく書いて…よし、後一画! 一番長くて、一番大変なところだ。



「…ねぇ、ほんとに大丈夫?」


 ほんとに? 何で一回目なのに念押し系…。あぁ、既に聞いてくれてたのかな?



「…無理してるよね?」


 ………。



「でも、死ぬほどじゃない」


 アイリが求める答えでないのはわかってる。でも、「うん」と言って止めるのだけは出来ない。此処までやったのが無駄になる。そして、そのことはアイリ達もわかってる。物凄く辛そうで悲しそうな顔をしているけど、それ以上は言ってこないのだから。ほんとに聡い子だ。



 息を整え……っ、その時間も取れないか! 少なくとも紙とペンは接触してなきゃダメってか! ペンを最後の一画の始点に置いて、出来るだけ息を整える。四季とイメージを合わせていって、ペンを制御して…、二つのことに思考の大部分を割いているから、呼吸を整えるのに割ける思考は僅か。だが、それでもしないよりはマシだ。



「ふぁさふぁ…、ふぉのふぃふぁらは…」

「だから黙ってろ」

「助けは来ないわよー。アタシ達と、勇者三人がふっとぱしてるもの。まぁ、人間達も近づけてないから、敵も増えないけどね」

「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁ!」

「笑ってねぇで大人しくしてろ」


 ちっ、暴れ出した。というか揺れてる? いや、違う? これは…、めまい? それとも体が揺れてるだけ…?



 うぅ…。気持ち悪い。でも、書かねば。震える手を押さえ、暴れる下敷き(ジンデ)の力と、紙から受ける反発を上手く制御して…、直線は書けた。ここで折れて…。一直線に延ばして…。



「ふぉふふぁ!ふぉうふぁっふぁのか!」

「潰されててもしゃべりはするのな…」

「何かに納得しているようですが…、何に納得しているのでしょう?」


 よし。後は上に跳ねるだけ。だが、手が動かない。字を書くこの体勢を保つだけで正直、いっぱいいっぱい。



「ふぉふふぃつなふぁでのふぃのふぇふぁい!ふぉい!実にいい!」

「マジで黙れよ」

「唯一、声が通ったのは謙三が潰すのに体を上げた時だけか」

「それ以外でも、喋っていらっしゃるようですが…。(わたくし)達にはよくわかりませんね」

「そうですわね…。翻訳が必要ですわ」


 後少し、上にあげるだけ…、これが動かない! 動かせない! くそっ、もう倒れる勢いで動かしてしまうか…?



 そっと取られる手。これは…四季か。この暖かさに柔らかさ、感触。間違いなさそう。



 …書いている間、俺に触れないものだと勝手に思っていたけれど、違ったか? …今は置いておこう。四季の優しさに甘えて、無駄なことを考えてる余裕はない。彼女も既に限界に近い。



 でも、四季こうしてくれるおかげで…、手を動かす力が増える。さらに、四季の紙に込めたイメージが直接伝わってくるから、紙の抵抗が随分素直になる。これなら…、最後の跳ねぐらいはいける!



 ペンをすっと上に動かせば、上に動けば動くほど勝手にペンが離れていき、綺麗な跳ねに。よし、出来た!



「離れろ!」


 ちっ、声が掠れてる…。



「ははっ!こりゃあ、勝てん!強すぎる俺様でも無理だ!」


 暴れられる前に…、四季と手を繋ぎ、逆の手で紙に触れる。俺と四季、紙を環状に繋ぎ、体に残る全魔力を紙に叩き込んで…!



「まさかこの場に、勇者i『『死』』…」


 宣言と同時、俺らの魔力のほぼ全てを込められた紙は静かに、されど、一瞬で消える。



 派手な爆発も、発光も何もない。だが、俺と四季には紙が消える瞬間、ジンデの魂を無理やり連れて行ったことを感じ取れている。そして、ジンデが間違いなく死んでいることは心臓の鼓動が止まっていることが伝えてくれている。



 …あれ? 何でジンデの鼓動が止まってるってわかるんだ? …あぁ、俺、今、倒れてるのか。



 あ。駄目だ。限界。



「後はよろしく…、」

「お願いします」


 なんとかそれだけ言うと、一瞬で落ちた。

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