214話 合流
「おはようございます。皆さま」
家から出るなりベッドの上で寝ていたジョルシェン将軍は立ち上がり、礼儀に沿った美しい礼をする。そして、
「おはようございます。貴き皆さま」
その横でナータさんがジョルシェン将軍以上に美しい礼をする。
「どうなさないました?」
こてっと首を傾げるナータさん。その横で天を仰ぎ見る将軍。たぶんこの場にいる全員の心は「そこまでやれるなら、最初からやれ」で、統一されているのは間違いない。
「「おはようございます」」
ツッコミを放棄して俺らがあいさつの先陣を切ると、子供たちも、シールさんも夫妻も、それぞれが挨拶を返す。
「さて、ジョルシェン。兄の場所はわかるか?」
「えぇ。わかりますとも。朝方確認しましたので…。ひとまず、地図を広げますね」
将軍はベッドから降りると他に良さげなスペースがないからか、躊躇いなく地図をベッドの上に広げる。
「さて皆さま。魔力を節約してチマチマ探すか、魔力を惜しむことなく使って情勢を一気に把握するか、どちらがよいですか?後者の場合、皆様に暗記していただく必要がありますが…」
「どうする?シュウ殿。シキ殿。朕らはそちらに従うが…」
「だな。妃達の知り合いは兄の方面にはいないからな」
「兄以外な」
でも、俺らには級友がいる可能性があるからな…。級友…ね。魔王討伐班にいる面子を考えると…、
「後者のほうがいいと思うんだけど、どう思う?」
「私も同意見です。皆はどう思います?」
四季が子供達に話を振る…が、子供たちは俺らに判断を委ねてくれるようだ。言いたいことがあるなら言ってくれていいんだよ…って、何もないから黙ってこっち見てるんだよね。
「…ん。そうだよ」
また心読まれてるし。
「でも、一応聞いとこっか。何で後者なの?やっぱり父さん、母さんの友人が気になるの?」
「うん。そうだね」
「ですね」
「それはー、安否的な意味でー?」
そうだよ。ただし、
「こっちの安否だけどね…」
「ですね…」
級友全員と面識があるわけではないけれど…、確実にやらかしやがるのが一人いるからなぁ…。
「さすがに地図の上で名前がわかるとかはないですよね?」
「無理ですね。精々強さの規模くらいです。人数もわからなくもないですが…。振れ幅が大きいですよ?」
ですよね…。ならば、
「あの。ナヒュグ様、ジャンリャ様。シールさん。地図作成、手伝ってもらっても?」
よかった。頷いてくださった。
「本職も微力ながらお手伝いいたします。ナータ。お前は座ってろ」
「知ってます。人には得手不得手がありますし」
開き直りやがった。その方が病みにくくてよいのだろうけど。
…得手不得手で言えばうちならルナが除外かな? まだわかるとは思えないし。でもあからさまに弾く気はない。ひょっとすると分かる可能性もあるから、戦力として数えるのは止めておくという程度。
ルナ以外の俺らの家族8人とシールさんと夫妻、将軍で12人。適当に分担して覚えれば十分だろう。それを後で地図にし直せばいい。
「なぁ、そもそもだけどさ…、父ちゃんと母ちゃんは描けんの?」
描ける…? あ、あぁ。地図の話か。
「大丈夫。地図は描ける」
「絵でもない限り私も大丈夫です。…自分で言ってて悲しくなりますが」
「心配しないで四季。俺もだから」
俺も四季も絵がド下手だから…。…あぁ、だから心配してくれたのね。ありがとう。でも、大丈夫。地図なら描ける。…うん。言ってて悲しくなる。
「あの…。表示させる予定の範囲の地図はナータに準備させますよ?」
「俺が準備しますよ!」
「ですので、皆様に覚えていただきたいのは駒の配置になります」
俺と四季が悲しい思いをする必要はなかったかぁ…。
「えっと…、広げても?」
「お願いします」
「では、いきます」
俺と将軍以外誰もしゃべらないまま、将軍が宣言。それと同時に地図が光り、駒が分裂しながら地図の上に散っていく。西はファヴェラ大河川、東はジュンシャ川まで。将軍の指揮下になかったジンデの領域全てが一堂に表示されている。
全部見てる場合じゃないな。駒が出てこれている間に、決めた範囲の情報を可能な限り頭に入れておかねば。
「…ッ、限界です」
「では、描きましょう」
覚えた情報を地図に記載していく。地図を見た感想は後でいい。
「これで出尽くしました…かね?」
のような気がしますね。
「…あ。今更ですけれど、青色がお味方で、赤が敵…ジンデ。そして緑が第三勢力となります。要するに人間ですね」
某シュミレーションゲームと同じ分け方ですか。あれはパッと見て何が何かわかるから割と便利。
「かなり押し込まれてる…よな。ジンデ様」
「だねぇ…」
最も大きく、1と書かれた赤い駒。それがおそらくジンデだろうが…、それが地図の中央よりやや右の位置にある。そこを頂点として「く」を鏡に映した形で大きく食い込まれている。人間が一番押せていない上下の端の部分でさえ、もうすぐで地図の中央を越えそう。そして、国境だったファヴェラ大河川周辺には赤は一つも存在していない。
「だが、もうすぐ中央は止まる。あの兄、戦はめっぽう強い」
「だな。陛下。あの兄は戦だけは強い。故に尤も兄に近い大きな緑の2~4人で取れるかは怪しいぞ?いくら勇者様であってもな」
「…助けに行く?」
「いや、先に行くところがある」
皆が皆、どこ? と目で聞いてくる。だから俺は戦場から少し離れた同じくらいの大きさの緑の駒を指さす。
「何でここなのよ?」
「確認もせずに撃たれたら困るから」
「あの娘なら問答無用でぶっ放してくるでしょうからねぇ…」
四季の想像している人もたぶん同じだな…。
「もう少し詳しい説明頂戴」
「了解。此処にいるのはおそらく基本的にいつも一緒にいる『門臥芯』に『蔵和列』、そして『旅島順』の三人組」
「そして、私と習君は矢野君からこの3人のシャイツァーは聞いています。順に『スナイパーライフル』、『大砲』、『機関銃』…と全て遠距離攻撃です」
「ですから、この3~5人となっている部分をそのお三方だと思ったのですね」
そうだね。こっちの兵器や魔法ではこの距離ではジンデやその周辺は狙えないはずで…、奇襲するために迂回しているってわけでもなさそう。なのに駒が大きい。力が強いのをむざむざ遊兵にするわけないから、これは勇者で確定だろう。そして、タクから聞いた魔王討伐班のうち、超遠距離攻撃持ちが複数いるのはこの集団しかない。
「で、何が問題なのよ?」
「俺も四季もこの三人と面識はあるんだけど…、」
「なんか意外だね?」
? シールさんの問いの意味が分からない…。
「あぁ。ごめん。突拍子なさ過ぎたね。単に君らのことだから互いが誰を知ってて誰を知らないかなんて、興味ないだろうから知らない。そう思ってたのに、知ってたから驚いただけ」
あぁ。そういうことですか。
「…ん。正解だね」
「その都度でいーやー、って思ってたみたいだけどー」
「…この前、久我何某で凹んだから、他にもありそうってことでやったみたい」
俺と四季、共通の知り合いが久我だったからな…。しかもそこそこ互いに関係の深い。でも、何故に二人が答えるんだ…。別に構わないけどさ。
「で、結果はどうだったんだい?」
「そこそこ互いに面識のある人はいたみたいだぜ」
「その数にもかかわらず、こちらに召喚されるまで面識がなかったみたいなので凹んでおられましたが…」
確率を求める気もないから大小は論じれないけど…、うちのクラスの1/3くらいは俺も四季も知ってたからね…。
「って、今、それは置いておこう」
「ですね。そのうちの一人、列ちゃんがかなり問題なのです。きっとあの子、門臥君に止められなければ、ジンデに…、ひいては勇者たちに突っ込んで行く所属不明の馬車なんて滅多打ちにしますよ?」
あの子はそんな人だ。俺らも大概だと思うが、あの人は暴力で全てを解決しようとするきらいがある。
「だから最初にそっち」
「私か習君が顔を見せれば攻撃はされない…ですよね?」
「たぶん。俺と蔵和さんの間にはそれくらいの信頼関係はある…と思う」
「同じく。なら、無駄足にはならなそうです」
だね。
「まず、蔵和さんに撃たれないために蔵和さんのところに行こうと思います。それでいいですか?」
異論は…なさそうか?
「…ひとつだけ聞いていい?」
いいよ。何?
「…蔵和さんとお父さんの間に恋愛感情は?」
「ない」
「ほんとのほんとにー?」
「ありえませんね。列ちゃんの愛とかそういう感情は一から十まで門臥君に向いてますから」
「逆もまた然りだ。そこに他人が介在する余地なんてないよ」
割り込もうものなら「馬に蹴られる」なんて比じゃないレベルの「磨り潰される」だとか「簀巻きにされてマリアナ海溝に沈められる」とかの逆撃を受けるだけ。
「あの二人はお似合いなのですよ?確か「常華高校生が選ぶ、〇年生の中で最もお似合いだけど羨ましくないカップル」を2年連続受賞で、今年度もとって殿堂入りするだろう…。なんて言われてましたもの」
「ねぇ。母さま。それって名誉なの?」
「なんじゃないんですか?」
たぶん違うと思うなぁ…。
「なので、浮気とかは心配しなくてもいいですよ。列ちゃんのことですから、どう考えても習君に向ける感情は「近所にいる仲のいいお兄ちゃん」や「門臥君に信頼されてる人」って程度でしょうよ」
「だね。恋愛感情なんてありえない。というか、四季がいるのに持たれても困る」
絶対に応えられないのだから。尤も、告白されたら? とか無意味な過程でしかないが。ついでに言えば、寝取りは趣味じゃない。
「というわけで会いに行こうと思うんだけど、異論はない?」
…ん。今度こそなさそうだ。
「朕らも行くぞ」
「既にその方向で指示は出した。兄の行く末を見ずして、統一したとは言えぬだろう?」
「それに朕らがいれば、多少なりとも人間と交渉もしやすく…なるかは不明だが、魔人の代表がいないという状況よりはマシだろう?」
…ですね。人間は魔族全体と戦争してると思ってるみたいだからなぁ…。人間に「実は戦争してたのは魔族の一部とだけで、その一部、今から併合されるんです。これからは仲良くしようね。」なんて言っても魔族は兎も角、人間は納得してくれない。
それを考えれば、絶対に沸くであろう人間の強硬派を叩きのめす手間を考えても、交渉できるお二人がいてくださるほうがいい。
「お二人とも、将軍はどうなさるおつもりですか?」
「置いてゆく。ジョルシェンの性格的にも、シャイツァーの性質的にも、降伏を反故にするなぞありえぬ」
「故に統治の手伝いをしてもらう。何より、10万を治められる人材に死なれては困る」
ぶっちゃけますねぇ…。
「あぁ、僕も行くからね。新しい国の形。見ておかないと」
でしょうね。ある程度身も守れるし…、シールさんは大丈夫か。
「では、行きましょうか」
「はい!」
俺の声に四季が続き、お三方と子供達が追従する。さ、ジンデのところに行って、級友に会って、ジンデをのして、戦争を終わらせよう。
「あれ?私は…?」
「城で仕事してろ。連れていけるわけねぇだろ」
「ですよねー」
部屋の中から残された二人の楽しそう? な声が響いてきた。
______
「父ちゃん!母ちゃん!今の川は!?」
「ジュンシャ川だ。ガロウ殿」
「だな。ここからは妃達の兄の領域だ」
すなわち、敵地。とはいえ、西から行くのに比べれば圧倒的に楽なことに変わりない。ジンデの軍は全て西を向いていて、シャンドゥ陥落を想定していないのか東を向いているものはない。
「ねぇ、父さま。母さま。先にアタシが二人の友達に会ってきちゃダメ?」
「「どうやって?」」
「カレン姉さまの力を借りれば行けるはずだけど…」
カレン…? あぁ、アレか。確かに行けるだろうけど…。
「無駄だと思うよ?」
「同感です。ただ痛い思いをするだけだと思いますよ?」
「そう?でも、やって見なきゃわからないわよ?」
確かにそうだけど…、あいつら…というか蔵和さんの場合、絶対無駄だと思うんだけど。
「…冷静に考えてミズキ。…矢で人間が飛んできたら普通、撃墜するでしょ?」
「姉さんの思考がちょっと短絡的じゃない?」
「アタシもそう思うわ。でも、一理あるから白旗上げとくわ。父さま達の同郷なら伝わるでしょ?」
それでも変わらないと思うけどなぁ…。蔵和さんは別だが、芯が異世界に来て『文化の違い』を考慮してないとは思えない。白旗が「殲滅」を意味するならどうする?っ て。
「いいんじゃない?獣人でも伝わるよ」
「魔人でも伝わるな」
…その情報、人間領域に残ってますかね…。
「ならやるわ!」
「危なくないように…は無理でしょうから、余り負担のないようにしてくださいね」
「うん。ありがと」
危なくないわけなんてないし、確実に打ち出したミズキは自殺するのだろう。それでも、ミズキは四季が心配してくれるのが嬉しいのかパッとはにかむ。
「じゃ、姉さま。お願い。後、母さま。紙。旗の代わりにするわ」
「どうぞ」
「んー!…いけるよー!」
「ありがと。二人とも。じゃ、行ってくるわ!」
矢に乗ってびゅっと飛んでいくミズキ。…あ。
「―ッ!撃墜されたわね…。ただの鉄球だったけど、振ってるのに容赦ないわね…。姉さま。母さま。もう一回」
「りょーかい!」
ぐぐっと弓を引き絞るカレン。
「僕等のとこでも白旗の代用で白いのはいいんだけど…」
「朕らのところもだな」
「騙し打ちするために白旗なんて上げようものなら皆殺しなのだかな…」
それでも落とすのが蔵和さんクオリティ。芯が気づいてくれれば何とかなるか…?
「行ってきまーす!」
また飛んでいく。が、さっきよりもこちら側で撃墜された。しかも爆発付き。
「ぐぬぬぬ…。マジで容赦ないわね…」
「人が飛んでくるという状況はやはり異常ですので」
「他の物の方が良いな」
「きゃみ?」
それが一番用意しやすいもんね。ルナ。問題は人でないから芯ですら打ち落とす側に回るだろうってことだが。順に届かないかなー。無駄だろうなぁ…。ハイになればあいつ、芯以上に容赦ない。まぁ、書いてみるか。
「四k「はいどうぞ」ありがとう」
待ち構えてたね…。待たせてごめんね。書く内容は…、どうせ燃やされるだろうし、何でもいいか。俺と四季の名前、それとあいつらの名前を書いて…。
「カレン。お願い」
「りょーかい!」
一直線に飛んでいく矢。今度は…撃墜されないっぽい? 何故に。
そのまま矢は飛んで行ってあいつらがいるであろう山に消えた。
「変に動かしちゃダメですよ…」
「うん。それくらいわかってー、あー。燃やされたー!」
ですよねー。芯が突然飛んできた矢文に触れるとか、そんな間抜けなことをするわけがない。だからあいつファッション中二病とか中二病に逃げてるとか言われんだよなぁ…。真に中二病なら嬉々として拾いに行くだろうし。
というか…、あいつらの居場所を把握して矢を飛ばしてもらってるから、それで余計に警戒されてる? となれば、
「もう一回、アタシ行ってもいい?」
「「えっ…」」
「ありゃ?何でよ?」
「こうするから」
センに繋がっている紐をキュッと引けば、大半は家に入っているのにセンは慣性で酷いことにならないように減速してくれる。
「まぁいいわ。カレン姉さま。お願い」
「んー!」
あぁ、そそくさと準備を始めてしまってる…。
「別にミズキがいかなくても、というか行かない方が成功すると思うんだけど…」
「そうなの?ならやめとくけど…、結局矢を射ってもらうんじゃないの?」
そうだね。
「ならいいわ。そのほうが目立つじゃない。別に減るもんじゃないしね」
魔力も減るし、痛みで心が摩耗すると思うのだが…、あぁ、行っちゃった。なら、行動せねば。二人で四季が作った紙を振る。…あ。また落とされた。
「な、ん、で、よ!」
「んー。でも、俺らのやりたかったことは達成できたっぽい」
「ですね。おそらく、撃たれることはないでしょう」
「何でよ!?」
グルン! とこっちを見てくるミズキ。ちょっと怖い。
「芯の視力なら俺らの顔が見えたはず」
「ですから、撃ってきませんよ」
ただし「近づきすぎない限り」だが。芯のことだ。俺らが偽物って可能性を捨てたりしないだろうから、会って早々ハグ! なんてかまそうものなら即ズドン。
「さ。セン。急いで。あいつら、どうせ動かないだろうし、山まで入っちゃって。ただし、あいつらの100 mくらい前で止まって」
「慣性は心配しないでください。家にいますから」
「ブルルッ!」
家に引っ込むやいなや、馬車は急加速。たちまちのうちに風景を置き去りにして平原を抜けきり、山に入って急減速。風情のへったくれもないが、早い方が良い。
「ありがと、セン」
「ですね。ありがとうございます。見事に指示を満たしてくれてます」
「ブルルッ」
「えへん!」だな。この元気さが心地いい。さて…と。
「芯!俺と四季のことは分かるだろう!?」
「あぁ、わかるとも我が輩よ」
「「あ。そういうのいいから」」
「その辛辣さ…。間違いなく我が暗黒の「清水寺。清水寺」列に遮られた…」
落ち込む芯を尻目に蔵和さんがてってと走ってきて四季に飛び込む。
「Ltns。Ltns」
「えぇ。久しぶりですね。列ちゃん」
「あぁ、久しぶり。蔵和さん」
「シュークリーム。シュークリーム。Ltns、Ltns」
蔵和さんと芯は全く変わってないな。少し安心。
「待って。意味わかんねぇんだけど」
「心配しないでガロウ兄さま。父さまと母さまの記憶のあるアタシもわかんないわ」
「僕も」
だろうね…。蔵和さんの話し方は色々おかしい。蔵和さんがまともに呼ぶのは芯の名前だけ。それ以外はめちゃくちゃ。
だけど、今回はまだわかりやすいほう。俺と四季が割と親しい枠に入れてもらえているからだと思うけど。Ltnsだけは別だが。
『清水寺』とか、漢字だけ見りゃ寺を取れば「清水」だし、シュークリームもクリームを取ればほぼ習だし。
もしもこれが俺らでなければ、四季は『しき』の発音から『死期』になって”tod”とか『天命』だとか『三途』とか言われてもおかしくないし、俺は俺で森野から森だけパクってきて『森鴎外』を連想。そっからさらに『作家』だとか『医者』とか『軍医』になっても何もおかしくはないのだから。
Ltnsは誰であっても変わらないだろうが。でも簡単。”Long time no see”…和訳すれば「久しぶり」の頭文字を取っただけ。
「ところで…、我が輩よ。何故馬車を摩擦の虜にした?」
「ん?お前のことだから止めた方が良いと思ったんだが…?」
「もしかしてあの東郷平八郎元帥のあれを踏まえてか?」
うん。東郷平八郎さんが完勝といっていい大戦果を治めた日本海海戦の時の白旗の逸話を踏まえたぞ。
「あぁ…。それでか」
「待て。芯。積もる話はあるけど、今は後のがいいでしょ。二人は目的あるのに寄ってくれてるんだから。あ。久しぶり。返答は要らないよ」
「おま…。だが、一理ある。用件は?」
それは単純明快。
「今から魔王のとこにいくから撃つな」
「それだけです」
「了解!援護は任せろ!」
「Roger!」
ありがとう。さ、走るよ!セン!
「あ。白旗を掲げた場合、移動も含めたあらゆる戦闘行為を止めねばならぬのは母なる海の上だけだぞ!国際法にもそう書いてある!」
「だが、降伏交渉で戦車や馬車で突っ込むのは馬鹿だと思うぞ!」
「だが…、「うるせぇ!」おうふ」
あ。黙らされた。
「あそこにいるのは光太と、天上院さん。それに謙三!これを伝えろや!」
了解。ありがとう。
「ふっ…。確かに、法律と伝統の闇を払うよりも「うるせぇ」…」
漫才は聞き流すか。
「なぁ、父ちゃん。母ちゃん。あれって何?」
それ気にするのね。時間は…まだある…か。なら簡潔に。
「日本海海戦で東郷平八郎さんが白旗上げても機関が動いたまんまの船を撃ちまくった話」
「彼の勝利への執念を感じさせる話として有名なものです」
「一見、問題ありそうだが、国際法的に何も問題ないんだよ」
「「機関が動く」というのは「逃げる意思あり」と見なせますからね」
「面倒だな…」
だねぇ…。でも、その面倒は万一が起きないようにする仕組み。「砲や魚雷の射線を外しておかなきゃならない」のは「弾薬や乗組員の暴発を防ぐため」だからね。
「それとさっきのー、どーつながるのー?」
「ん?俺らはそれを踏まえて一応、馬車を止めた」
「門臥君ならそう言うの好きそうですから」
馬車が動いてる! 撃つぞ! ってされそうだったし。
「ですがどうも、「その動く白旗を撃って問題ないのは海の上だけ。陸上じゃいらない」と言いたかったようですね」
「だね。ちなみに俺が言いたかったのは、爆弾持って突っ込んで「交渉して!」って言うやつがいる?って話だね」
ガチで爆弾を持って行くなら自爆テロだが、戦車とか車であっても似たようなもの。アクセルを踏みさえすれば正面の人は殺せるのだから。その後、殺されるが。
「…そのあたりは常識で考える?」
「…のかな?」
ある程度厳密に決めておかないと、文化の違いとかで解釈変わると死ねるけど。
「父さん。母さん。そろそろじゃない?」
「あぁ、そうだね」
「そろそろ戦場が見えますね」
もう山は下りた。地図を見ていた限り、そろそろ木が無くなって大平原、すなわち戦場につけるはず…。
「ブルルッ!」
「見えたよ!」だね。なら…、
「これで…、」
「どうだぁ!」
「どりゃぁ!」
様子を見ようと思った瞬間、級友たち3人の攻撃がジンデの急所を切り裂いた。