206話 戦地へ
「セン。走れる?」
「ブルルッ!」
「任せて!」…ね。なら、
「セン。聞きたいことあるんだけど…、あ。ちょっと待って。ルナ。起きて」
「ルナちゃん。起きてください」
ルナが起きてくれた方がやりやすい。可愛そうだけど起こそう。
ゆらゆらゆさゆさ…。起きない。ごめん、セン。起こしてから話しかけるべきだった。センのワクワクテカテカといった感じの目線がめっちゃ突き刺さる…。
「あの。ごめんなさい。皆と遊んで時間を潰していてくれませんか?」
「ブルッ!」
四季の問いに首肯するセン。ごめんね。そして、ありがとう。
出来るだけ早くルナを起こさないと…。幸せそうな顔をして寝ているけれど心を鬼にして振れ幅を大きくする。そして、四季が軽く頭をわしゃわしゃと揺する。
おーきーてー! あ。起きた。心の中の叫びが通じた…のかな?
ルナは眠そうに眼を擦って大欠伸。寝ぼけなまこで目を動かすと俺と目が合って、ニパっと笑って嬉しそうにぐいぐい頭を押し付けてくる。
罪悪感がエグイ。幸せそうに寝てたのを邪魔したのに…。いっそ「何で起こしたの?」みたいな顔をしてくれる方がよかった。
でも、そんなことばかり言ってられない…な。ルナを降ろして、
「ルナ。家出して」
ルナが何か行動する前に頼む。そうすれば、意識はそっちに誘導できる。
「うにゅ。大きしゃ?」
「私の背丈くらいで」
「あい!」
ありがと。なら次。セン…はナヒュグ陛下に顔をグッと近づけてる? …一体何がしたいんだろう? 不審者かどうかを改めてみてるのか? まぁ、いいか。
「セン。本題に入るよ」
「ブルッ!」
「待ってた!」…ね。待たせてごめんよ。
「あ。ガロウ君、『輸爪』お願いします」
「あいよー」
ちょうどいいところに出してくれた。いい仕事だ。
「ルナ。家をこれに乗せて」
「ん!…、これで、だいじょぶ?」
「ええ。それでいいです。ルナちゃん。ありがとうね」
「にゅー!」
嬉しそうによくわからない声を上げて「褒めろ!」と言わんばかりに四季にアタック。それを四季は危なげなく受け止めて、優しく撫でる。たちまちルナは顔が蕩ける。
…やっぱり、ルナはアンバランスだ。四季の背が高いからまだ絵になっているけれど、160 cmくらいしか…しかではないか。日本人女性の平均くらいだし。兎も角、そのくらいの身長しかなければ受け止めきれずに倒れてもおかしくない。
「ブルルッ!」
あぁ。ごめんよ。呼んだのに放置しちゃってたね。
「これ曳ける?」
「ブルッ?ブルルッ!」
「これ?曳けるよ!」ね。ごめん。質問が悪かった。そうじゃなくて…。
「ブルル…。ブルルッ、ブルルルッ、ブルルルン!」
おぉう。言う前に意図を汲んでくれた。「でも…。全力で!ってなると、紐がもたないよ!」かな?
紐か…。そっかそれが問題か。
「ブルル、ブルン、ブルルルッ、ブルルルッ!」
「それに、家も固定しないと、落ちるんじゃない?」ね…。確かに。
「ナヒュグ陛下。丈夫な紐とか綱とか…、」
「兎も角、何でもいいので強度の高い縛れるものと、繋げるものありますか?」
「む?少し記憶を漁る。暫し待て」
「私も探る」
お願いします。俺らの手持ちでは相応しいものはなかったはずなんだよな…。
「皇帝陛下夫妻は流したけど、何でシュウとシキはセンと会話出来てるの?」
「…さぁ?わたしも一応わかるよ。…自信ないけど」
「ぶっちゃけー、二人だからでー、解決する気がしなくもなーい」
何か言ってるけれど、大事な話ではなさそうだ。流しておこう。
一応、結ぶのにちょうどいいモノを魔法で作れるようにしておくか…。
「すまぬ。二人の希望に応えられそうなものは近場にない」
「じゃの。二人が求めているであろう強度を持つようなものは、軍需物資として国境にあるの…」
なら、書きますか。紙を…「なぁ」ん?
「どうしたの?」「どうしました?」
「あのさ。二人がやりたいのは高速移動だよな?」
そうだよ?
「ならさ、いっそのこと、誰かがセンに乗ってさ、シャイツァーを持てばよくねぇ?重さで難しいかもしんねぇけど…。」
「いや、ガロウ。出来る」
「ですね。出来ます。重さならルナちゃんに頼めば何とかなりますし…。盲点でした」
自信がないのか尻すぼみの声だったけど、間違いなく名案だ。
ずっと馬車で来ていたから「馬車を曳く」ということに考えが凝り固まってしまってたな。そうだよ、別に高速移動したいだけならわざわざ家を曳いてもらわなくてもいいじゃん。
センに乗った人が家を持ってさえいればいい。センに乗る人が疲れやすいし、少人数での旅にしか見えなくなるという欠点はあるけれど…。今回は、そんなもの時間に比べればどうでもいいな。
「…何を感心してるの?」
「シュウ殿とシキ殿達が作る親子関係に。だな」
「私らから見て、子らは二人を盲信しているように見えていたのじゃが…、違ったからの。二人の見えていないところを見て、かつ、それを言えた。その上、二人はそれを受け入れた。そういうところに感心していたのじゃ」
分からないところを誤魔化してもどうせすぐにばれますしね。…そもそも、ちょくちょくダメなところを見せてしまっていますし…。
「…わたしが無条件で信じるのはわたし達に対する気持ちだけ。それ以外はそうでもない」
「たまにー、無茶苦茶やらかすからねー」
コクっと残りの子供たちも頷く。盲信されてないのは良いけど…、相変わらず妙な信頼をされている。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか…。
って、今はこんなことしている場合じゃない。聞かなきゃいけないことを聞かなければ。
「今更だけど、これから戦場へ行くのだけれど、皆も来る?」
「今までも命の危険はないなんて言えませんでしたが、今回は自ら鉄火場に頭を突っ込みます。死んでしまう可能性は今までの比ではない…ということは覚えておいてくださいね」
俺達が問うと、皆は「何をいまさら」と言わんばかりに笑みを浮かべる。
「…愚問だよ。お父さん。お母さん」
「ブルルッ!」
「センも「だねー!」って言ってるー?勿論、ボクも行くよー!」
「俺も」
「私も行きます」
今まで綺麗に年の順に答えてくれてる。となると次はルナだけど…。
「行く!」
分かってるのかな?
「死んじゃうかもしれませんけど、」
「それでも来る?」
「行く!」
二度目も即答。それも、撫でられてご満悦の顔だったのに一転して、少し引き締まった顔になってからの一言。きっと大丈夫。
「僕も行くよ」
「当然アタシも行くわ。置いて行かれるぐらいなら諸共死ぬわ!」
「…だね」
ミズキの言葉にアイリが同意を示したのをきっかけに、畳みかけるように皆が賛意を示す。
…盲信はされなくなったっぽいけれど、こっちは変わってないのね…。
「…大丈夫。寿命なら諦める」
物凄く笑顔だけど、どこが大丈夫なんだろう?
「なら、余らも聞いておかねばなるまいな。シール様。シール様はどう動かれるおつもりか?」
「僕も同道させていただきます。事の顛末を見届けたのち、国元に帰って報告いたしましょう」
「承知いたした」
全員で突撃か。まぁ、家を使うから人数は大した問題にならない。
「ルナ。一回家を降ろして、大きくして」
「ん!」
ルナが家を地面に下ろすと、家がいい感じの大きさに。完璧だ。ルナ。
「…入って。陛下。皇后陛下」
「うむ」
「てーさいとか、気にしないよねー?」
「せぬの。そもそも、体裁は最上級に整っておるぞ?何しろ、勇者様に運んでいただくのじゃから。中があれじゃと別じゃが…、二人のことじゃ、家の中の環境が劣悪なわけもなし」
アイリとカレンが皇帝陛下夫妻と一緒に家へ。
あれ? 打ち合わせは…?
「ルナ。行くぞ」
「馬車の中でしばらく私達と遊びましょ」
「わかった!」
さらにガロウとレイコがルナを引き連れて家へ入って、それに続けてコウキとミズキもシールさんも入る。
あっという間に俺らだけが残った。話し合いがなかったけれど…、俺も四季も、どっちかだけが体を外に晒しているような状況を良しとする気がないのを察してくださったのか?
「ルナ。家小さくするよ」
「ん!」
家の中からの声が響くと、巨大な家がキーホルダーサイズに。落とさないように腰につけて…。センにさっとまたがって、四季の手を取り引き上げる。
適当に位置を調整して…、
「『チャンサ』までは街道がある」
「それに沿って行くと安全で早いのじゃ」
「了解です。セン!行って!」
「ブルルッ!」
センが高らかに嘶くと、ルナの家の戸が閉じられる。続けて、試練場の入り口が勢いよく開かれ、ついで街の出入り口までにいた人が左右に分かれ、最後に街の門が開かれる。
センは徐々に加速しながら出来た道を走り抜ける。門付近でトップスピードになり、街道のちょっと脇を蹴って駆け抜けてゆく。
わかってはいたけれど、揺れが凄い。風はセンのおかげで平気だけど、地面の起伏はどうにもならないからな…。
「四季!大丈夫!?」
「許可をもらう前から習君に抱き付いているので、習君が落ちない限り平気です!あ。離れたほうが良いですか?」
「まさか。四季が落ちる可能性が僅かでも上がるなら、抱き付くのを拒否したりなんかしないさ」
「ですよね。ありがとうございます。習君もお気をつけて」
ありがとね。四季も落ちないでね。…顔が見れないのが残念だ。きっと今ならきりっとした顔か、笑顔が見れたのに。
「何故このタイミングで恥ずかしがらないのぉぉぉぉ!」
「…真面目な状況だから」
「だねー」
…戸が閉まっているせいか、中が賑やかなのは分かるが、何を言っているのか分からんな。
「えっ。皇帝陛下夫妻以外、全方向から殴られたんだけど!?」
「残念ながら当然ですね」
「ガロウの言う通りです」
「おうふ…」
あ。ちょっと静かになった。何かを考察しているのかな? 丁度、センも思案していそうな雰囲気だし。…中は兎も角、センは記憶を探っているような感じ。何か変なものあったか?
「ていうかさ!君らも君らじゃない!?自然に二人を二人きりにしたじゃん!?」
「…それは結果論。結果的にお父さんとお母さんを二人きりにするという目標が達成されただけ」
「……ん?ごめん。それ、言い訳?僕には開き直りにしか聞こえないんだけど」
「…?」
「クソっ!天然か!親か!?親の影響か!?特にシキ!」
「クシュン」
「大丈夫?」
四季がくしゃみをするなんて、珍しい。
「俺の髪が鼻に入った?」
「抱き付いていますが、それはないですよ。よくある原因の分からないやつです。体調が悪いわけでもないですし」
そっか。ならいいけど…。
「でも、シールさん。実際問題、父さんと母さんが二人きりになったのは、僕等が仕向けたからってだけじゃないんですよ?」
「そうよ。貴方なら言わなくてもわかるだろうけれど、皇帝陛下夫妻だけをセンに乗せるのは、陛下たちにアタシたちを運ばせることになっちゃうから論外なのよ」
「…あ。前提として、センに相乗りできるのは大人だけなら二人までだよ」
「へーかたちのー、どっちかだけとー、ボクらの一人が一緒も駄目ー。運ばれるだけの人が出るからねー」
あ。正面に魔族さん達が…。そろそろ首都からもかなり離れた。丁度いい機会だ。やっておくか。
「「『『魔人化』』」」
適当に姿を誤魔化しておく。ナヒュグ陛下たち公称皇帝を参考にしちゃうと、新たな交渉皇帝疑惑とか出てきて、ロクなことにならない可能性がある。だから、さっきの『シーツィ』さんやら『テクゥ』さんやらをいい感じに混ぜて、体の色を変え、羽とか尾を生やしておく。
見た目的には中ボスになりそうな悪魔かな?
「何故今更変身したんだ?」
「シール様から聞いていた故、余の領地に勇者…、すなわち人間が来ることは広めていた。が、人魔大戦が勃発したからな。それゆえだろう」
「人間族の別動隊と見間違えられてしまうと困る…ということでしょうか」
「そういうところじゃろうな。二人きりで別動隊と間違われる可能性はないじゃろうが、安全策を取ったようじゃの」
ちゃんと通り過ぎれ…た? なんかあの人ら騒がしいけれど…。『身体強化』……、センの早さに驚いているだけか。放置安定。
「…あれ?よく考えなくてもさ、皇帝陛下夫妻を外に出せない原因の大半って、僕が同道してるからじゃない?皆は勇者の身内だけど、僕は獣人領域の名代に過ぎないし…」
「…今更?心配しなくても、それくらい二人は織り込み済み。心配することはない」
「二人に頼りすぎてるね僕。後で謝っとこう…」
…もうあの人たち見えなくなった。一切攻撃もなかった。変身も完璧といえるかな?まぁ、攻撃されたところで届かないし、届いてもセンと家の二重障壁で阻まれるけど。
「謝罪は要らないと思うよー?」
「…二人に二人きりの時間を作れたからね」
「それ、アイリちゃんの主観じゃあ…。でも、確かに二人は気にしなさそうだ」
「何か問題があれば余らが出る」
「不審だからと言って、出会い頭に切りかかるようなやつは私らの下に居らぬ。問題はないの」
…家の中で俺らの話がされてた気がする。家の戸でも開いていれば聞きやすいんだろうけれど、無意味に開けっぱなしにしておいて滑落されたり、外の揺れを見て酔われても困るからな…。
「今更ですけれど、皇帝陛下夫妻たちは二人の行動に驚かないんですね」
「簡単な事よ。ジャンリャの持つシャイツァーみたいなものが他にないとは思えぬからな」
「じゃの。それに私らの認めた二人が、間違いを犯すようなこともないじゃろうしの」
「僕は、二人だから諦めただけ」
「…折角、ガロウの言葉で皇帝陛下夫妻がお父さん達を褒めてくださったと思ったのに…」
「うわっ。やめてよ、アイリちゃん。一切光がない目とかただの恐怖だよ!?」
また中で俺らの話をしてそう? その場にいないから話題にしやすいんだろうけれど…、変に持ち上げすぎないでね?
「ブルルッ!」
「思い出したー!」…?
「セン。何を思い出したの?」
「ブルルッ!ブルルルッ!」
「皇帝陛下に、会ったことがある!」…うそん。
「え。どこで!?センは一体どこで皇帝陛下に会ったの!?」
そんな機会ないはず…。
「ブルルッ!」
「『人間領域』…ですか?」
「失礼。話に割り込ませていただく」
戸を開けてナヒュグ陛下が割り込んできた。薄々わかってはいたけれど、中から外への音は遮断するけれど、外から内へは害がない限り、通すみたいだな。
「余が出会った可能性があって、かつ、ここまでになるような馬だと該当は一件しかないのだが…。まさか、そなた。余が金代わりに宿屋に置いて行った馬…いや、魔物だな?」
「ブルッ!」
「これは余でもわかる。肯定だろう?」
俺らもセンも首を縦に振る。
「先にしきりにこちらを気にしていたのはそれでか…。だが、そなた…、いくら汚れていたとはいえ、これほど純白ではなk「陛下?」……」
…地の底から響いてくるかのようなジャンリャ様の声。家の中の温度がガクッと下がってそうだ。
「来た!痴話げんか来た!これで勝つる!」
なんかシールさんのギアが壊れてる。普段のシールさんなら皇帝陛下夫妻をネタにはしないはずなのに…。
「…期待はずれがあったからね」
? よくわかんないけど、教えてくれてありがとね。アイリ。
「何故お金代わりに馬を置いていく必要があったのじゃ?そもそも、ルナを探すための旅では路銀は大量に渡しておいたはずじゃが?」
「落ち着け。ジャンリャ。「人としてあまり付き合いたくはないが、昔からいる有名人」という人格を作るためには必要不可欠だったのだ」
ジャンリャ様の詰問にナヒュグ様は堂々と答える。その堂々さは並みの人であれば即「あ。そうなの?ごめん」って言ってしまいそうなほど。
「私のシャイツァーの効果を考えると妥当といえば妥当じゃが…。それは真に必要だったのかの?」
「ああ。必要だとも。言わずともわかるだろう?」
「人魔大戦への配慮じゃろう?」
ここでも尾を引いてくるか『人魔大戦』。ナヒュグ陛下がセンと会ったのは10年の節目だろう。ルナを探しているだけでも、絶対にバレないように細心の注意を払う必要がある…そんなところか。
「待ってー。全然わかんないんだけどー!?」
「俺もだ。話が全く分かんねぇ!」
「私もです!」
「僕もわからない!」
「アタシも!」
だろうね。アイリ以外の子らはその時いなかったんだもの。
「簡単に言うと、人魔大戦が近いから常日頃の捜索の時よりもナヒュグ様はバレないようにしようとした」
「そこで「前々から近所で有名な浪費家」になろうとしました。誰かに奢るわけでもなく、ただ一人で酒を呷って、酔って奇行をする…。そんな人ならば、わざわざ話しかけようとは思わないでしょう?」
そうやって、人との接触を少なくする。こうすれば露見はしにくくなる。
「そこで「魔族を探している」とかいう噂を流せば…」
「浪費できるだけのお金はあるのですから、情報屋が釣れるでしょう。ルナちゃんを探したいナヒュグ陛下からすれば一石二鳥なわけです」
|呼ばれていないお客さん《強盗》も来るかもしれないけれど、それくらいナヒュグ様ならば余裕で叩き潰せる。
「で、でも、それじゃ捕まらねぇ?」
「素行不良なら捕まるだろうけれど、そんなことしていないだろうから平気。どうせやっても、酒場で騒ぐぐらいだったと思うよ?」
それだけでも十分ウザいだろうけれど。
「何より、「いつものこと」で処理されるよう、ナヒュグ陛下はジャンリャ皇后陛下のシャイツァーを活用しているでしょう。「昔からあの人はあんな感じだけど、問題は起こしたことがないから平気だろう」とね」
「昔から問題を起こしていないから、今回もないだろう」そんな推測は普通、成り立たないんだけどね。
人ならリストラくらってお金がなくなったとか十分あり得るし、設備なら言わずもがな、経年劣化する。
「えー!?さっきそんな話されてないよー!?」
さっき? …あぁ。戦いの最中にシールさんが解説してくれていたのかな? ありがとうございます。
「全部話す必要はないしね。」
「とはいえ、おそらくですが…、シールさんには話していたんじゃないですかね?誠意を示すとかいう感じでお伝えしていられるのでしょうから、バレたら面倒くさいってレベルではすみませんから」
「確かにその通りじゃが…。シール様は言わなかったのじゃな…」
「お二人があの試練で披露されたものならば、この家族は察しがいいですし、私個人も仲良くさせていただいていますので、お伝えしました。が、披露されなかったその辺り許可はいただいておりませんでしたので」
忘れそうになるけれど、シールさんも有能なんだよなぁ…。
「では、今説明しておくのじゃ。皆が知らぬじゃろう、私のシャイツァーの能力は『架空の人物に姿を変えた際、変身者が作り上げた設定を周りの人間に押し付けること』じゃ。設定は何でもよい。あまりに無茶苦茶すぎると魔力量が酷いことになるから使えんがな」
でしょうね。「神」とか言われてもどうすんのって話ですし…。あっちの世界なら新興宗教の教祖レベルなら簡単に出来そうだけれども、こっちにはラーヴェ神などが実在しているのに。
この力の真髄は俺には種族を偽ることじゃなくて、時間を弄れることだと思うけれど。実際に時間を弄れるわけじゃない。だけど、感覚としての時間を弄れるのは敵地に潜入する際とかに便利。
施設に潜入する際、上役だと思い込まさせれば顔パス出来る。そこで情報を大量にパクった挙句、破壊工作をしたとしても、「長い間そこに勤務したが、転勤した」という設定を作って周りに押し付ければ、まず疑われない。そういう場合疑われるのは新顔だ。
「…そういえば。そもそもナヒュグ様。よくセンを助ける気になったね?」
「クアン連峰で余は一度、知性ある魔物に助けられたことがあったからな。その時の魔物と、センは同じ目をしていた。だからだ」
知性ある魔物…『ズィーゼ』さんのことか。
「でも、何で置いて行ったんです?助けたなら最後まで責任持つべきだと、俺は思います!」
ガロウの意見は正しい、俺もそう思う。…緊張してるのか、最後、勢いで乗り切った感じになってるけど。
「仕方あるまい。目立つのだ。動きにくいことこの上ない。それは余の本意ではない。だが、余は最大限できることはやったつもりだ。誰かの庇護を受けられるよう、わかっていそうなところに託したぞ」
「…センは絶食状態になってたけど?」
空気がピキッと音を立てて凍り付く。
「あー。あー。なるほど。すまぬ。普通の馬と同じ扱いで問題ないと考えていた。謝って許されることではないが、すまない。セン」
「ブルルッ、ブルルルッ!ブルルゥ、ブルルッ!」
「「助けてもらったもん。きにしないよー!それより、こっちこそありがと!」という意味のことを言っています」
「ナヒュグ様、申し訳ありませんが、口調は許してあげてください」
だね、四季…。この子もこんな性格ですので…。
「勿論、構わぬ」
「ブルルルゥ!」
「「街が見えてきたよー!」だそうです」
話の切れ目。タイミングばっちりだ。
「ならば、ここからは皆で歩いてゆこう。シュウ殿とシキ殿も魔法を解くがよい。余らとともにあれば攻撃されることはなかろう」
了解です。では、歩いて行きますか。…もう街の入り口まで500 mもありませんが。