203話 夫婦VS夫妻
コウキ視点です。
「…始まるよ」
アイリ姉さんの声で僕も含め、この場にいる全員の目が会場に向く。
やっぱり不安だ。僕とミズキを必要以上に動揺させないように…って配慮からなのかもしれないけれど、何で姉さん達や兄さんが落ち着いていられるのかがわからない。
前世ではこんなの結構あったはずなんだけど…。肉体年齢に引っ張られてるのかなぁ? 案外、早死にしてるのかもしれないけどさ。でも、それは父さん達に限ってそれはないはず。
…よくよく考えてみればこの中では僕とミズキだけが父さん達の戦いを知らないんだよね。父さん達が戦っているときの記憶は二人から貰ってる。でも、実感がなさすぎるんだ。まるで、演技に心がこもっていない映画を見ているみたいようで、なんにも伝わってこない。
「うぅ…。不安よ…。前みたいに置いて行かれなければいいのだけど…」
ミズキがめっちゃ不安げな顔でなんか言ってる。案外、僕のこの不安感もこの妹に由来してるのかもしれないね?
「がんがえー!」
ルナ姉さんが声を張り上げると、ガヤガヤしていて聞き取りにくいはずなのに、お父さんとお母さんは揃ってこっちを向いて手を振ってくれる。
僕もミズキも兄姉達に混じって手を振ると、二人の目が僕とミズキを捉え、口が動く。あれは…「心配しないで」かな?
…そっか。心配しなくていいんだ。何故かわからないけれど、二人のその行為は妙に僕とミズキの心を落ち着かせてくれた。
「戦闘開始はこの硬貨が地に落ちた時だ。よいな?」
ナヒュグ皇帝陛下が確認するように問えば、すぐさま場にいる全員が頷きを返す。それを見たナヒュグ皇帝陛下はコクっと頷くと、指で硬貨を跳ね上げた。
ナヒュグ皇帝陛下はたいして力を入れていなかったらしく、硬貨はナヒュグ陛下の頭よりも少し下ぐらいまでしか上がらなかった。頂点に到達すると硬貨はクルクル回転しながら落ちていき、十も回転しないうちに地面に落ちた。
瞬間、4人がほぼ同タイミングで地を蹴って飛び出し、武器同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
父さんの武器は剣とペン。母さんは剣とファイル。いつも通り。ナヒュグ皇帝陛下は大きな両手剣で、ジャンリャ皇后陛下はナイフっぽいものの二刀流。皇后陛下は剣よりは射程はないけれど、機動性は高そう。
でも、皇帝陛下夫妻の武器、実用性は高そうだけど…、シャイツァーではなさそう。
「…ねぇ、シール。そう言えばあの二人のシャイツアーって何なの?」
「ん?服装を見てみなよ。君ならそれでわかるんじゃない?」
服装? 服装か…、父さんと母さんはいつもと同じ軽装、そして、似合ってる。…息子の僕としては何故もう少し防御に振ってくれないのかと思う。重装備だと機動力が死ぬけど、もう一枚くらい、防御が高めのシャツでも着てくれればいいのに。
父さん達の愚痴を言ってても進まないね。陛下夫妻は…、も、同じ? 見た感じ、初対面の時と変わってないね? 二人とも皇帝・皇后の証たる冠を頭に身に着け、長いマントを身に纏って…、ん? 待って。何でそんな恰好なんです!? それじゃあ、防御力も機動力も終わってませんか!?
「…むぅ。絞れない…」
「ねー。どー考えても余分なー、冠とマントー、どっちかだろーけどー」
「絞れねぇな…」
「ですね…。時間が経過すればわかるのでしょうけれど」
「…それではよくないよね」
姉さん達がマイペース過ぎる。何故ツッコミを入れないのか。…既に入れた後なのかな? …そうだと思っておこう。
僕もシャイツァーはマントか冠だと思うな。マントは明らかに長くて邪魔。冠はそもそも被ってるのがおかしいもんね。普通、壊れちゃうよ。ナヒュグ陛下の王冠も、ジャンリャ皇后のティアラもとてもお二人の風貌に調和していますけど。
「よくないって…。僕はその付近ってわかってさえいればいいと思うけど?」
「…駄目だよ」
シール様の慰めをアイリ姉さんが間髪入れずに否定した。もうちょっと受け入れてm、
「お父さんとお母さんはもうわかってるだろうから」
え。嘘…だよね? まさかそんなわけ…。うわっ、シール様が達観したような顔になってる!?
「あの二人ならやってそうだねぇ…。でも、あの二人は戦ってるからね?それを忘れちゃいけないよ」
「…ん。わかってる」
「既におとーさんもおかーさんもかるーくだけどー、冠とマントに一撃ずつ叩き込んでるもんねー」
いつの間に…。剣と剣がぶつかる音ばっかりだったはずなのに。
「お、新局面かな?」
ですね。皇帝陛下夫妻が動いた。
さっきまで、互いに手に持ったものをぶつけあっていただけだったけど、陛下夫妻が羽や尾なんかの体の一部も混ぜてきた。斬られると痛いからか、手に持っている両手剣やナイフに比べると少し慎重ではあるけれど。
父さんらを挟む夫妻の尾が地を撫でるように振るわれると、二人は飛びのき、背と背がぶつかり合う…かと思いきや、クルリ体を捻り先ほどまで相対していた相手とは逆の相手を斬りつけた。
それをナヒュグ様が避け、ジャンリャ様が受ける。瞬間、父さんがしゃがみ、その上を母さんが通過。ジャンリャ様の逆撃をファイルで防ぎ、しゃがんだ父さんから足目がけて一閃。でも、刃が届く前にナヒュグ様が防いだ。
そして再度、カカン、カカンと武器同士がぶつかり合って甲高い音を奏で始め、そこに羽や尾が空を切る鋭い音、移動するザっという音が加わる。
その最中、父さんと母さん、皇帝陛下夫妻のペアは場所を交換しあい、押し出しあい、支えあう。その二組の動きはあたかも一個の獣のようで、4人の戦いは二頭の獣の美しい舞の如く魅せる。
綺麗だ。
今、理解した、下で繰り広げられている芸術作品。その美しさをたたえるには僕の語彙では足りない。いや、これは僕じゃなくても無理だ。これはきっと言葉の敗北だ。
それほどまでに、4人の息遣いさえも含めた一挙手一投足の立てる音は、一つの曲を奏でるかのようで。4人の動きは一つの流れを為して、見る者を魅せる。
誰もが見入ってしまっているのか、会場は熱気を保ったまま、死んだように静まり返っている。その中で、
「エグイねぇ…。こんなの魅せられたらもう、何も食べれないじゃないか。これは毒だよ」
シール様の言葉が響いた。
ですね。僕もそれに同意します。シール様の「イチャイチャしているのが見るのが好き」そんな性癖は知っているけれど、それでもです。
僕でさえこうなんだから、彼の性癖を知らない魔族の人たちは一拍となく首を縦に振るだろう。下の芸術は「まさしく毒である」と。
何しろ、こんな綺麗なものを見せられてしまえば、「到底及ぶはずがない」とわかっていたって真似したくなってしまう。
真似したくなって、真似をする。だが、出来ない。届かない。それに愕然とする。でも、今、眼下で繰り広げられる光景への憧憬を捨てられず、何度も挑戦する。その度に憧れと現実、その彼我の間に横たわる遥かな距離を思い知らされ、打ちのめされる。そして、最後には絶望する。
例え絶望する前に諦観を得て目指すことを止めたとしても、この頂を目指さなくとも、誰かが協力して物事に取り組んでいるのを見るたびに、この光景への恋慕とも崇拝ともつかぬ尊敬と、届かないことへの敗北感が胸に沸き起こってしまう。
こんな毒を撒けるなら、姉さんや兄さんが「大丈夫」って言うよ…。この劇の一翼を担う二人の連携の前では、並大抵では一瞬たりとも持たない。
…逆に言えば、もう一翼である皇帝陛下夫妻の連携もまたおかしなレベルってことなんだけど。ちょっとだけ父さん達に劣っているけど、ぶっちゃけ、二組とも異常って言っちゃっても4人以外は誰も怒んないと思う。
これ程までの技量を誇る連携なんて、前世──ほぼ覚えてないけど──では見たことがな…いわけでもない? あれ? 割と身近にあったような気が…!
「…ジャンリャ様のシャイツァーはマントかな?」
「みたいだねー」
!? 何で分かるの…って、父さんが母さんに殴りかかったー!?
何やってん…ん? あれ? 何だ。気のせいか。今、場では父さんがジャンリャ皇后陛下と、母さんがナヒュグ皇帝陛下とそれぞれ相対中。やっぱり見間違いだよね。母さんが二人いたなんてそんなわけがないもんね。
父さん達の攻撃に陛下夫妻が横にスライド、相対している相手を変え…!?
ジャンリャ皇后陛下が父さんになった!? あげく、母さんが視界に入ったばかりのそれを躊躇なく斬りつけたぁ!?
フレンドリーファイア…ではなさそうだ。母さんが斬りかかった先にいたのはやっぱりジャンリャ皇后陛下。なるほどね。さすがにここまでされれば僕でもわかるよ。
「ジャンリャ皇后陛下のシャイツァーの能力は『変身』…ですか?」
「そうみたいだよ。コウキ君。ついでに言えば「シャイツァーは『マント』よね?」…」
「…だね」
ミズキに言葉を取られたシール様は目を丸くする。そして、口を開く前にアイリ姉さんに言葉をさらに取られた。
シール様はわずかに悲しそうに目を伏せたけれど、すぐに復活してきた。
「うん。それであってるよ。効果は…説明しちゃうと面白くないかな?」
「だねー。でもー、まさに今ー、実践してるよー?」
「え゛?」
だね、カレン姉さん。既にジャンリャ皇后陛下は父さん達の視界外でアイリ・カレン・レイコ姉さん達に変身した。だけど、それを認めた父さんと母さんは彼女の立っていた場所を一切の躊躇なく切り裂いた。そんなシーンの後です。
「で、でも、まだだよ。まだその真価は…」
何か言いかけていたシール様の言葉は、眼下のジャンリャ皇后陛下がマントをナヒュグ皇帝陛下と交換する…という光景を見て止まった。
ジャンリャ皇后陛下の冠が消え失せ、ナヒュグ皇帝陛下が父さん、母さんの死角でその姿をルナへと変え、ジャンリャ皇后ともども二人の視界に飛び込む。…が、父さんも母さんも相変わらず、動揺すら見せずに、二人に対して攻撃をかます。
そして、更に姿を僕やミズキに変えた。だけど、こっちが少し悲しくなるくらい、すがすがしいほどに躊躇なく攻撃した。
…で、でも、姉弟間で差はなかったし…。いっか。
「何でさ。何で、何でそれをしちゃうのさ、陛下ぁ…」
横でシール様が崩れ落ちてる…。
「…と思ったけど、たぶんそう言う事かな」
「…だろうね」
「ねー」
!? いきなり復活した!? しかも何か悟ってる!? 一体シール様とアイリ、カレンの両姉さまは何を……あ。あぁ。なるほど。これ…かな?
「待って!?姉ちゃんらも弟妹も悟るのはええよ!?」
「私達にももう少し時間を…あ。あぁ!」
「はええよ!?あ!なるほど!」
ガロウ兄さん、レイコ姉さんも十分早いと思うなぁ…。てか、アイリ、カレンの両姉さんは何者なの? 何で僕とミズキよりも早いの?
「これは全員、僕と同じ考えっぽいね…。シュウとシキの子供達、優秀過ぎて、笑えて来るよ」
シール様の褒め言葉にカレン姉さんがエヘンと胸を張る。
「…カレン。説明しないとあってるかわからないよ?」
「だねー。「偽物を見抜けるかどーか」それを試したんだよねー?」
「だと思うよ…」
よかった。姉さん達と同じだ。たぶんアレは「偽物に惑わされないか?」を試そうとしてるんだと思う。
父さんと母さんへの変身は兎も角、僕等姉弟への変身はもう少し間を置いた方が良かったと思わないでもない。でも、あまりの父さん、母さんの躊躇のなさに「一気にやっちゃってもいいんじゃない?」って思ったのかもしれない。
「…何度考えても、やっぱり父さんたちは本気で躊躇なさすぎるよ…」
「…ん?お父さん達だしね」
声が漏れちゃったか…。そして、解答はいつものなのね。
「…それしか言えないからね。…お父さんがわたし、お母さんがカレンの変身体を攻撃するとき一瞬だけ遅れたけど、それは「何故ここに!?」っていう動揺だろうしね」
…あ。そんな逡巡あったんだ。全然気づかなかった…。即ザクーにしか見えなかったよ…。
「だと思うよアイリちゃん。にしても、シュウもシキも、互いの配偶者の変身体を攻撃する決断を下すまでの速度に、攻撃速度、そして攻撃のキレ。どれをとっても君らの時を上回っているのもまた美味しい!」
うわっ…。シール様が悪癖発動させてる…。
「あ。ごめん。気に障った?」
「…別に。寧ろ、二人だからそうじゃないとおかしい」
「ねー」
「だな」
「ですね」
父さんと母さんへの信頼感が厚い。…それでいいの? って言いたくなっちゃうくらいに。
「そ、そう。それでも、ごめんね。えっと、いい加減ジャンリャ皇后のシャイツァーを説明するよ。彼女のシャイツァーはあの『マント』だ。マントを纏ったものは、その魔力を用いて、その想像に応じて別のモノへ変じることが出来るようになる…らしいよ。骨格や声色は勿論のこと、性別とかその辺りは自由自在。…って感じらしい。さすがにそれ以上は教えてもらえてないよ」
なら、架空の人物とかにも変身できそう。スパイに有用そうだね? …もしかしたら、この国の情報部を握っているのは彼女なのかもしれない。
シール様が教わっていないのは戦闘力かな? もし龍になれてもブレスとかは吐け無さそう。だから、変身しても攻撃能力は変わらなさそう。いや、寧ろ、僕とかに変身すると尻尾とか羽がない分、攻撃力が下がりそうだ。…大きくなるだけなら別だろうけどさ。
後、マントを遣って変身させてもらえる人の制限もありそう。さすがに「ジャンリャ皇后陛下が信頼している相手」じゃないと使用不可だろう。条件満たしてないとマント纏った瞬間に、絞殺される…とかもありうるかなぁ?
「…で、シール。ナヒュグ陛下のシャイツァーは?本体は王冠だろうって目星は付けたけど」
「切り替え早いし、合ってるよ。アイリちゃん…」
シール様って結構、教えたがり?
「悔しいから教えてあげない。考えて。でも、手掛かりなしじゃ難しすぎるだろうから、それはあげるよ。実に彼らしくて、皇帝に関係のある…そんなものさ」
ヒントはあげるから頑張って! ってことですか…。
「考えてって面倒くせぇな」
「ガロウ兄さん。シール様は結構なヒント…手がかりをくれてますよ?」
「そうね。穿ちすぎ…って可能性もなくはないけれど。きっとあってるわ」
「マジか…。ちょっと考えてみるわ」
兄さんとレイコ姉さんが考え始めた。僕にはシール様がヒントをくれたってこと自体がかなりヒントに思える。
「手がかりなしじゃ難しい」≒「この戦いでは使わない」ってことだろうし…、これでグッと絞れそうだもん。
その推測を裏付けるように、戦いはまたさっきと同じような感じになってる。『変身』の手札を切ったなら、次のステージに行ってもおかしくはないはずなのだけれど…。
マントで『変身』することすらやめてるね。父さんと母さん達の前では変身しようが無駄だって悟って、魔力温存してるんだろうね。
結果的に下で繰り広げられているのはさっきまでと同じ。相も変わらず見る者を魅了する剣舞だ。両者とも一撃一撃が鋭く、にも関わらず掠りすらしない。そんな状況が4人の技量の高さをこれでもかと象徴してるね。
…だけど、これ、決着つくのかな? 千日手になってないな?
「ね、いつ、とうたまとかあたま、帰ってくる?」
「…もうすぐ。少なくとも、半鐘もかからない」
短っ!?
「何でよ。姉さま?」
「…どっちも疲れてるけど、皇帝陛下夫妻の方が疲れが大きいから」
「もーすぐ崩れるよー!」
カレン姉さんの声は確信に満ちている。
「だねぇ…。ナヒュグ陛下は何にもしてなくても魔力消費があるからねぇ…」
それってナヒュグ陛下が病気なのでは…。
「あぁ、病気じゃないから。そんな顔しなくても大丈夫だよ。シャイツァーのおかげだ…、あ。くっそう!また手がかりを与えちゃったじゃん!」
顔からナヒュグ陛下を心配したことを悟られた…のかな? シール様なら普通にやれそう。割と心の中がわかりやすい兄さんもいるし…。彼の言葉の後半部は触れないでおこう。
「…そろそろ終わるかな?」
「何故ですか、アイリお姉さま」
「…わたしの政治的感性がそう言ってる」
政治的感性って…。
「僕もそう思うなぁ。そろそろ決まるよ」
シール様もアイリ姉さんも真剣に場を見つめてる。二人は心の底からそう思っているんだろう。
でも、そんなにすぐに決まるかなぁ? ここから見ている限り、父さん達も皇帝陛下たちも、どっちも疲れてはいるけれど、「心底」疲れたって程ではない。その上、一般的な技量を持つ人なら気づくレベルの疲労差は存在しているけれども、劇的って程ではない。
だからこそ、何度も繰り返した澄んだ鋼のぶつかる音が高らかに響いているわけだけれども…。
「来たよ!」
「…動くよ!」
アイリ姉さんとシール様の声が響く。同時に、陛下夫妻が今までよりもわずかに深く斬りこむ。その一撃は今までと同じように回避行動を取った父さん、母さんの頬を捉えて軽い裂傷を負わせ、さらに、腕に突き刺さって肉を抉る。
だけど、父さんと母さんはそれを気にかけることなく二人へ体当たり。衝撃で二人を吹っ飛ばして衝突させようとする。
そして、二人がぶつかりあう瞬間に、皇帝陛下夫妻の胴を横断し、かつ、剣にも腕にも遮られない、必殺のラインを父さんのペン先から出た青インクが二人の体に刻んだ。
「『回復』」
母さんの声が妙に場に響き、二人の傷が完全に癒える。
「朕らの負けだな」
「ですね。妃達の負けです」
二人から声が漏れるなり、会場が沸き立つ。けども4人は熱狂を意に介さず、静かに歩いて会場から立ち去る。
「さ、子供達、皆の両親に会いに行くよ!」
シール様の号令に僕たちは立ち上がる。
ルナ姉さんがてってこと先行して、それにアイリ姉さん達が続く。
本当に終わった…。って、あっけにとられている場合じゃないね。ついて行こう。…む。ミズキはまだぼうっとしてる。
「ミズキ。ぼさっとしてないで。行くよ」
「あ。うん。そうね。行くわよ。兄さま」
ミズキが小走りで走り出す。…これじゃ、僕が置いてかれちゃうね。少し走ろう。