202話 皇帝の試練
ガロウ視点です。
「なぁ、姉ちゃん。何でこうなったんだ?」
「…さぁ?わたしに聞かれても困る」
「だよなぁ…」
アイリ姉ちゃんでもわかんねぇか…。
「むー!ガロウー!ボクも姉なんだけどー!?」
カレン姉ちゃんがぷんすか怒ってる。
カレン姉ちゃん。言いにくいけど…、何というか…、こう、あれだ。真面目な場面? ではアイリ姉ちゃんのほうが信頼度高いんだわ。…言わねぇけど。
「まぁまぁ、カレンお姉様。私にお姉様の見解をお聞かせしてもらえますか?」
「えー?いーよ!でもねー、ボクもわかんなーい!」
知ってた。カレン姉ちゃんは信頼を裏切らねぇな…。
「妹達はどー?」
「にゅ?」
言いながら首をかしげるルナ。分かってないな。これ。
「僕もわかんないなぁ…」
「アタシもよ。確か「ルナ姉さまを臣下に会わせてから、試練」とおっしゃっていたはずなのだけど…」
姉ちゃんたちも妹達も皆頷いてくれた。だよなぁ。俺の聞き間違いではないよなぁ…。
じゃあ何でなんもかんもすっ飛ばして闘技場みたいなところに案内されてんだ?
しかも俺らがいるのは特等席っぽい。この場所から見渡せる椅子には貴族と思しき豪華な服に身を包んだ魔族がたくさん。その上、父ちゃんらがいるのは闘技場脇の控室ときた。わけわからん。
もしかすると、戦う寸前にルナの紹介。そっから流れで試練…とかか? でも、それだと性急すぎるんだよな…。お。ナヒュグ様とジャンリャ様が闘技場っぽいとこに出てきたぞ。
「本日、朕と我が皇后ジャンリャの前に集いし諸君!」
「先ずは妃達の急な招集に答えてくれたことに感謝する!」
会場の中心で声を張り上げる二人。…威厳がすげぇ。さっき自然とボケをかましていた二人とは到底思えねぇぜ…。ひょっとして、あれも策略だったのかね?
…かもしれんな。ここに連れて来られたらこの状況だったし…。なら、俺はよく耐えたな。
ここに案内してくれるまでの間、先行する二人の歩く速度は俺らの乗る馬車よりも明らかに遅かったけど、「馬車に乗れば早いんじゃね?」みたいなことを言わなかった俺を褒めてやりたい。
「…ガロウ。どうしたの?」
「!?いや、何もないよ。アイリ姉ちゃん」
だからジトッと見つめないでくれ。………駄目だこれ。疑われてるからか、視線を逸らしてくんねぇわ。視線を逸らしても、目が合う。こんなの絶対、見透かされちまう。何とかして話題を逸らさねぇと…。
「さて、本日は朕らから大切な知らせがある!」
お。これを使おう。
「いや、単に二人の一人称変わってるけど、なんでかな?って思っただけだぜ」
「…そう。…ふぅん」
…うぐ。姉ちゃんの目が「嘘つくの?」みたいになってる。…ダメか?
「…ま、いいけど」
ほっ。目元が緩んでくれた。
「…確かに変わってるね。…ナヒュグ様が朕。…ジャンリャ様が妃。だね」
「こーてきな場。だからじゃなーい?」
「そうなるねぇ」
「…シールもこっちなのね」
みたいだな。知り合いだから一緒にされても問題ないけど…。ぶっちゃけ少し嫌。父ちゃんや母ちゃん、姉ちゃんらは割と緩い感じで接してるけど、俺からしたら群長は雲の上の人なんだよなぁ…。
「でもさ、あの二人は場が公的ってだけでは変えないんだよね」
「では、どのような場合に変えなさるのですか?」
「それはね。「国を背負うとき」だよ。獣人領域の代表たる僕の時は「朕」だったけど、他の貴族に対しては「余」だったから間違いないはずだよ」
? どう言う事なんだ?
「『朕』は確か勇者様の世界が原典…のはずの一人称だよ。もっと正確に言えば、フランクだかフランスだかの王様の言葉『朕は国家なり』だったかな。この言葉から「朕=皇帝=国」になって、国にとって大事な決定をする…。そんな宣言の籠った一人称のはずだよ。…勇者様からの口伝だから間違ってる可能性もあるけれどね。あ。聞かれる前に言っておくけど、ジャンリャ様のは知らないよ」
えぇ…。でも、シールさんが間違って由来を覚えているかもしれないことも、知らないことも、たいして大事じゃねぇな。大切なのは…皇帝夫妻がそれほどまでにこの場を重要視しているってことだな。
「これを見よ!」
ナヒュグ様がなんか掲げると、一瞬で会場がざわつく。あれは一体なんだ?
…うーん。見ても騒ぐ理由が分かんねぇ。俺には金縁で飾られた白い紙に青いものが浮かび上がってる。それが二つあるようにしか見えねぇ。
「そう!これこそ、朕らが捜していた妹にして、所在不明だった公称皇帝が見つかったという証拠である!」
会場がますます湧く。
やべぇ。熱狂に全くついて行けねぇ。姉ちゃんらも妹らも置き去りだ。てか、張本人のルナに至っては床に座り込んで一人で遊んでんじゃん!
土足厳禁だから座っても怒られはしねぇだろうが…。一人じゃんけんは楽しいのかね?すぐ飽きそうだ。
「ねー、シール。アレが何か知ってるでしょー?」
「うげぇ…。よくわかったね」
何でそんな露骨に嫌そうな反応をすんですか…。
「バレたならいやいや言うよ。仕方ないしね。あれは血のつながりを判定するモノみたい。片方はナヒュグ陛下との。もう片方はジャンリャ陛下との繋がりだね。二人の血統は疑うまでもないから、この二人と血縁=公称皇帝ってことだね」
本気でいやいやだ!? いや、そんなことより。
「…ねぇ。シール。その検査って何でするものなの?」
姉ちゃんが聞きたかったこと聞いてくれた。
ほら、シール様。早く応えを寄越してください。
「え?何って…。あ。待って。近づいて来ないで。アイリちゃん。カレンちゃん。それにガロウ君にレイコちゃん」
「…何でやるの?」
「唾らしいよ」
…唾か。となると、ルナとの初対面の時に取られちまったか? クソっ! あんときのルナの泣き顔で分かってたけど、こんな風にしくじった証拠を見せられるとイラつく! あぁ、もう! クソったれ! あの時に危害を加える気があったら、ルナを守れてねぇじゃねぇか!
「気持ちは分かるけど、落ち着きなよ、ルナの兄姉達。あれでもあれなりに、ルナに配慮はしてるんだよ?」
「どんな風に?」
あっ…。少し言葉が雑った。だが、シール様は気にした様子もなく顎でルナを指し示した。
「アレを出すことでルナちゃん本人が出張らなくてもいいようにしてるのさ」
…確かに。そう考えると配慮してると言えなくもない。アレを使わないんだったら、ルナはここで遊んではいられずに、降りなきゃならなかったことは確実だしな。
「あのお二人も家族が大事なんですね」
「一応ね。割合で言えば1割ぐらいだけど」
「9割が家族d、」
思いっきり口について出たが、ちげぇわ。絶対。アイリ姉ちゃんとカレン姉ちゃんとシール様の顔がそう言ってるもん。
「んなわけないでしょ」
「…わけないよ」
「違うよー!」
おうふ…。途中で止めたのに全員にほぼ同時に否定された。
「まぁ、僕が見た感じ9割は…国だよ。あの皇帝夫妻の感性はシュウやシキの家族超大事って感性とは相容れないし、何より、アイリちゃんの家族第一主義と同じくらい狂ってる」
「…わたしはおかしくないよ?」
………。
「あの二人は国を守るのが第一だ。だからそのためにあらゆるものを犠牲にするだろうさ」
シール様が見事にアイリ姉ちゃんの言葉への言及を避けた。…賢明だ。俺でも避けるわ。
無視されたアイリ姉ちゃんは頬を少し膨らませてむくれてる。可愛い。でも、触れたら大やけどするんだぜ…。地獄かよ。
「あらゆるとは?どこまで含みますか?」
「レイコちゃん。話の流れ的にわかるでしょ?」
応えるシール様の口角が挑戦的に上がる。なるほど。「自分も含めてあらゆる」だな…!
「皆悟ったっぽいね。さすがだ。あぁ。それでいいよ。僕の見立てでは文字通りあらゆるさ」
自分も含むなら、家族が「国」と釣り合うわけねぇな…。あの二人からすれば家族なぞ「血のつながった他人」以上の価値はない。
「一応、家族としての情はあるっぽいけどね。ただ、天秤が釣り合うか?といわれると不可能と言わざるを得ないね。あの二人は国がかかわった瞬間、天秤の逆にあるものは一瞬で吹っ飛ばすよ」
ふっとばす? えっと、国が重すぎて一瞬で振り切れるってこと? 要は、躊躇いもなく斬り捨てるってこと…だよな。
なかなか逝ってんな。リンヴィ様でも逡巡しそうなのに、それがねぇってことだもんな…。あれ? じゃあ…。
「何でルナを探してたんだ?」
「ん?それはね…。あ。静かになっちゃった。後で教えてあげよう」
「あ、ありがとうございます…」
あれ? 何故シール様に悟られたんだ…?
「…声に出てた」
「だねー。あー。これはー、心読んだよー」
シール様には悟られたってわけではなかったのな。姉ちゃんらには当たり前のように読まれてるが。
「これより、勇者様二人に朕らの妹を託せるか否かの試練をする!」
「試練は妃達との勝負。勇者様二人が妃らに「降参」宣言をさせる、ないし、戦闘不能にさせれば妹を託す!」
「勇者様方の敗北条件は朕らと同様である!」
「また、試練場の外へ被害を出す可能性の高い魔法の使用、および、相手の殺害は禁止である!」
「「以上!」」
皇帝夫妻が声を揃えてそう〆ると、わっと歓声が上がる。ルナの一生を決める試合のはずなのに、なかなか手短に説明を済ませたな。
あれ? 一旦、会場の外へ出ようとしてた二人が振り返ったぞ? 何が…。
「念のため言っておくが、試練への手出しは禁ずる。反したものは首を斬る」
ッー!? 「反すれば確実に死ぬ」そう言わんばかりの威圧感が場を包み、会場が静まり返る。だのに、その対応をせずに二人は引っ込んでしまった。
…ふぅ。やっと圧が消えた。父ちゃん、母ちゃんで慣れてなけりゃ失神してたかもしんねぇな…。あ。となるとルナは…!?
…ほっ。よかった。なんださっきと全然変わってねぇわ。一人遊び続行中。さすがに一人じゃんけんは飽きたようだけど。今度は一人にらめっこか?
「んー。これは「さすがシュウとシキの子」というべきなのかな?それとも純粋に君らを褒めるべき?」
「…ん?シール。どういうこと?」
「下で顔が青ざめてるやつらもいるのに、君ら兄姉はルナちゃんに気を向けたからさ。ルナちゃんが平気なのはわかんないけど…。公称皇帝で済ましていいのかな?」
そんなこと言われてもわかりません。ただ、俺らを褒めてくださったのは嬉しいです。
…んなことより、コウキとミズキは? ルナは大丈夫でも、二人は駄目かもしんない…と思ったけど大丈夫そう?でも、困惑しているようにも見えるな。てか、さっきからずっとしゃべってねぇな。それこそ、皇帝陛下夫妻が来た頃から。
「…どしたの。コウキ、ミズキ」
「特にミズキだねー。浮かない顔してるよー」
「え?あ、あぁ…。あのね。一つ聞きたいんだけどさ、この試練って死なないものだったっけ?」
ん?
「規則としては殺すのは禁止ってなってるぜ」
「ですね。ですから、規則上は死なないものなのではありませんか?」
「…うん。そうよね。うんうん。アタシの聞き間違いじゃなかったわ…」
ミズキが頭に手を当てて空を仰ぐ。ついでにコウキは横で頭を抱えてる。
「ねぇ、一体どうしたのよ!姉さま!兄さま!」
? こっちからすればミズキの方が「どうした?」なんだが。
「どうして誰もあんながっばがばのルールに文句言わないのよ!?あんなルールあってないようなもの…、反故にしようと思えばいくらでも反故に出来るのよ!?父さまと母さまが死んじゃうかもしれないじゃない!?」
ルール…。あぁ、規則のことか。うん。気持ちは分かるぜ。俺も初めて──獣人領域での2対100──の時は心配だったもの。
「…大丈夫。二人だよ?」
「だねー」
「ちょ…。そんなの根拠になってないわよ!?」
「そうだよ。姉さん達!それは根拠ないよ!ただの盲信!」
コウキとミズキの反論。それにアイリ姉ちゃんとカレン姉ちゃんが「それがどうした」と言わんばかりの視線を返す。
「二人とも。落ち着けよ。考えてみろよ、もし問題があったら既に父ちゃん、母ちゃんは文句言ってるぞ?」
「ですね。お二人は勇者なのです。それを言っても問題ない程度の格はあるのですよ」
そんな二人が「いい」って言ったんだ。問題ないはずだ。
「…それに、魔法も変な器具で封じられたわけでもないよ。…どっちの陣営も死ぬと思えば普通に使って避けるでしょ」
「そ、そうね」
「まほー、使った方が負けだろうけどー」
カレン姉ちゃんー!? 何でそれを!?
「!?それじゃ、魔法使わずに死んじゃうんじゃないの!?」
「二人はへーきだよ。試練が達成できなくてもー、ルナを手放すと決めたわけではないからねー。別のほーほーもあるよー」
あ。ちゃんと姉ちゃんが自分で蒔いた種を自分で回収してる。しかもちゃんと理にかなってる。最悪、負けても構わない。ルナを連れ出す方法は強行突破をはじめとして色々ある。
「…ガロウ。脳筋」
何故姉ちゃんに突然暴言を吐かれた。
「今回「統一の後押し」を餌にすれば十分でしょ?…ジンデ様を潰し、「皇帝の地位への不干渉」を誓えばいいんだから。…ダメ押しに、二人の級友たちも説得して全勇者で正当性を認める。とかもありなんだよ?」
おぉぅ…。よくそんなすらすら出てくんな、姉ちゃん…。
「…姉だからね。後、さらにミズキを安心させられる材料を上げるとすれば、わたし達の存在かな。…二人は今回みたいな撤退可能な戦いでわたし達を残して逝ったりしないよ」
だな。二人は引くときはちゃんと引く。
「じゃ、じゃあさ。シール様。あの二人もちゃんと引き際をわきまえられるわよね?殺しちゃって全軍と戦争とか、死んじゃいそうじゃない?」
「退くよ。あの二人が死んだら国がジンデ様でまとまっちゃうからね。二人は元からジンデ様の人間領域へ戦火を広げるやり方を嫌ってる。そして、僕だ」
エヘンとばかりに胸を張るシール様。
「あ。ごめん。えっと、ミズキ…ちゃんとコウキ君でいいよね?」
コクっと二人が頷く。
「ん。ありがと。二人はあの時いないの忘れてたよ。僕等、獣人領域はチヌカの情報を提供して、対チヌカに備えた共同戦線構築を提案したんだ。あの二人も乗り気だったよ。ね?人同士で殺し合ってる場合じゃない。ジンデ様に勝たせるわけにはいかないのさ」
シール様がコウキとミズキへの配慮をしてる…!? …よく考えたらこの人、割と配慮の人だった。父ちゃん達に遠慮がないだけで。
「で、でも、魔法が使用可能か否かって、あっちの胸先三寸で決まるんじゃないの?」
「ないよ。此処にいる魔族たちも二人が勇者ってことを知ってる。皇帝夫妻が変な判定をだそうとしても通るわけがないよ。それに何より、そんなことをしたら「皇帝は朝令暮改する」って思われて、皇帝二人への信頼が崩壊しちゃって国が死んじゃうよ?」
そりゃやらねぇわな。
「…そうかな?シール。…ここにいる魔族たち基本的にナヒュグ皇帝陛下夫妻の同類だよ?」
「確かにそうだね。でも、大多数はナヒュグ陛下夫妻程じゃないよ。二人が勇者って事項は十分天秤に載り得るのさ」
「…なるほど、彼らほど狂ってるのは稀ってことね」
しみじみ頷く姉ちゃん。
姉ちゃん、真横にいるシール様の「この場に4人いるんだけどね…」って言葉は聞こえてねぇな。
「で、でもさ、つい殺っちゃったらどうするのよ!?」
「つい」って…。えぇ…。でも、
「「「「問題ない」」」」
姉ちゃんたちと言葉が被っちまった。折角だし、説明は任せちまおう。
「…そのためにわたし達がいる」
「殺されそーになったら止めればいーよ」
「え?父さまたちのことを信用してないの?」
さっき信じてるってアイリ姉ちゃんは言ってたはずだが…。父ちゃんらが心配すぎてミズキの頭が軽く錯乱してんな。
「…してるよ。でも、不測の事態があり得るんだから無条件では信じてない。…ただそれだけだよ」
「だねー。むじょーけんで信じれるのはー、二人がボクたちのことを好きってことだけー」
コウキもミズキもハッとしたような顔をしてる。さすが姉ちゃんたちだ。説明が上手い。
「…だからわたし達はここで信じて待つだけ」
「ついってことがあればー、」
「私達が乗り込む」
「ただそれだけのことだ」
あっぶね。何で混じった。レイコ。危うく遅れるとこだったぜ…。
「乗り込んだらどうするのよ?」
「…退却すればいい。皆殺しにする必要はない。…何人か味方に回ってくれるはず」
「そのほーが。逃げやすいしねー」
「…出来たら夫妻は取りたいけどね。…後でニーフィカに押し付けるのが楽になる」
!? 何故にニーフィカ様!?
「…あの人は有能だからね。…それに割と大胆」
「ねー」
…あれ? 姉ちゃんらの目がちょっと怖い。…ニーフィカ様、何かやらかしてたか?
「…わたし達にリャアンの処分を押し付けてきたしね」
アイリ姉ちゃんの声の闇度がえげつねぇ。聞かなかったことにしよう…。空耳だ空耳。それか姉ちゃんが穿ちすぎた見方してんだ。
「…ま、今のは全部想像だけどね」
「もーそーって言っても良ーかもねー」
それを言っちゃあ御終いだぞ。姉ちゃんたち。
「…ま、わたし達は待っていればいいよ」
「そーすればおとーさん達がなんとかしてくれるよー!」
「結論は変わってないじゃない…」
「僕もそう思う」
だな。でも…、
「要は信じて待てってことさ」
「ですね。私達のお父様とお母様です。ミズキたちが不安に思うようなことは起きませんよ」
…やっぱり不安そうだな。
「大丈夫だよ。二人とも。そもそも何でこの試練をしようってなったと思ってるのさ?陛下たちが試練をしようって言うまでに、誰かそんなこと言ったかい?」
…言ってねぇな。というか「ルナが父ちゃんらといたい」的な事さえ、誰も言葉にしてねぇわ。
「ね?大丈夫そうでしょ?皇帝陛下夫妻が色々な状況から「ルナちゃんが二人といたがってる。逆もまた然り」って悟って、言いだしたんだから」
シール様がすごい。コウキとミズキの顔が前よりも少しはましになってる。年の功……なのかね。
「…あ。始まるね」
会場を見下ろすアイリ姉ちゃんはそう言うと、口に飴を放り込んだ。
4人が会場に入って来た。もうそろそろ始まる。