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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
7章 魔人領域再び
227/306

200話 魔人領域再突入

 ふわぁ…。



「父ちゃん。大丈夫か?さっきからずっと欠伸してっぞ?」

「ん?大丈夫。流石に俺と四季の交代要員が起きてきてくれるまでは耐える」


 エルフさん達の声が聞こえなくなるなりルナが寝て、他の子らは無理やり寝かせた。だからあと少しすれば起きて来てくれるはず…。



「いや、でもさぁ。今はまだ高度を上げてる最中だぜ?俺だって見張りの数が少なくなるから、高度上げるぐらいの対策は取るぞ?下見てもらえりゃわかるけど、既に前の高度は超えてるし…。少なくとも前の倍くらい…2万くらいまではあげるぞ?」


 ガロウが対策を取ってくれてるのは分かってる。でもなぁ…。俺が休むなら四季も休む。となれば、見張りはガロウとレイコ、それにセンの二人と一頭になってしまう。ちょっと少ない。



「じゃあ、ちょっとぐらい仮眠するか?この位置なら敵は来ねぇだろ」

「遠慮する。起きれなくなる気がする」


 徹夜継続中のこの状況じゃマズイ。仮眠じゃすまなくなる。…というか、こんな状況で悠々と昼寝できるほど呑気じゃない。



「はぁー。やっぱ父ちゃんは父ちゃんだわ」

「そりゃ、俺だしね」


 というか、前も似たようなこと言われた気がする。顔もこんな風に嬉しそうだった。



「きっと母ちゃんも後ろで同じようなことをレイコと話してるぜ」

「だろうね」


 ガロウの推測は間違っていないはず。だって、四季とレイコだもの。



「父ちゃん。寝ねぇなら、気晴らしに話でもしてくれよ。そうすりゃたぶん寝落ちしねぇだろうしさ。俺は後で同じ話を二回聞くことになっても別に構わねぇからさ。図書館の話とかさ」


 優しいね。ガロウ。ありがたくのらせてもらおう。



「図書館は何もなかったよ」

「マジで?本気で何にもなかったのか?」


 うん。そうだよ。文字通り「何も」なかった。新しい情報なんて一切ない。



「どの本を見ても、愛の女神ラーヴェ神がいて、戦神シュファラト神がいて、侵略者としてチヌリトリカがいる。この構図で変わらない。道中は若干だけ違ったりしたけれど、始点と終点は常に同じだったよ。チヌリトリカが侵略してきて、神話決戦が起きて、チヌリトリカは倒される」

「チヌリトリカは倒されたはずなのにさ、チヌカにやたらと遭遇してるよな」


 ほんとそうだよねぇ…。



「実は「チヌリトリカは倒しきれてない」って言われても驚かない自信はある」

「うへぇ…」


 嫌そうな顔だ。でも、あながち間違いではないと思う。チヌカと出会う頻度もそうだけど、神の一柱にラーヴェ神がいるのもそれに拍車をかけてる。



「えっと、嫌な事には蓋をしようぜ。他にさ、どの本でも共通してたことってあった?」

「ラーヴェ夫妻が逃げてきて、それを見て感動したラーヴェ神が世界樹を作った…って最後の部分は一緒だったよ」


 …世界樹の役目が「瘴気の浄化」だから、本気で感動したかどうかは怪しいけど。魔力が足りないから二人の愛をリソースとして利用しただけ…とかないよね?



「他は?」

「ないy」


 ……よし。セーフ。さっきは駄目だったけど、今回はちゃんと欠伸をしたときに口を抑えられた。



「ごめん。ガロウ」

「んにゃ。いいよ。それよか、寝る?」

「寝ない」

「だよなー」


 寝たらダメだ。というか、見張りもしないと…。



「でさ、他は?他に何かなかったのか?」

「なかった」

「お…おう」


 ごめんね。ガロウ。せっかく会話を繋ごうとしてくれてるのに…。でも、本気で何もなかったんだ。



「…はぁ」


 ? ガロウがもの凄く嫌そうにため息をついた? そして、息を大きく吸って…吐き、顔をパチッと叩く。音が大きくてものすごく痛そう。というか絶対痛い。涙目だ。



「『回復』」

「ごめん。ありがと」


 少しばつが悪そうにガロウが言うと、俺がしゃべるよりも早く口を開く。



「じゃあさ。ルナの話しようぜ。もし、ナヒュグ陛下が糞野郎で話の通じない…それこそリャアン陛下ばりに通じない奴だったらどうする?」

「消す」


 考える間もなく即答すると、ガロウの肩が一瞬跳ね上がった。でも、すぐに戻って「やっぱり」という顔に。



 じゃあ何で聞いた…って、俺が寝ないようにだよね。



「一応理由聞いていい?」

「いいけど、理由なんてないよ?」


 「重力圏下では人間が上から下に落ちる」…ってくらいには自然な結論だし。



「国が荒れそうだが?」

「それは知らない」


 悪いけれど時間をかけて心をへし折って手を出させないようにする。そんな時間が無駄。帰還魔法が見つかった。そして、戦争の足音が聞こえる。この2要素がある以上、急いで級友たちに合流しないと皆に申し訳が立たない。



「…薄々わかってたけどさ、それでいいのか?」

「よくはない。けど、何とかなるでしょ。ニーフィカ様とかワァンクさんとかいるし。何より、地球に帰れば見えない」


 アークラインとあっちの世界で往復できるなら別だが…、そんなことはないだろうし。



 …我ながらなかなかひどい発言だ。だけど、ほとんど知りもしないような魔人領域の人々と、級友たちでは重さが違う。



「ついでに、「二人を打倒すれば帰れるかもしれない」ってのもある。だって、ナヒュグ陛下もジャンリャ皇后も公称皇帝でしょ?だから、ジンデ様も含めて纏めて薙ぎ払えば…「魔王討伐」って望みは果たせると思わない?」


 「魔王討伐」すれば帰れるはずだしね。



「まぁ、確かに思わないでもない。てかさ、ジンデ様はついでで消されるのな」

「うん。本気でついでだしね」


 あ、でもこれだけは言っとかないといけないか?



「ジンデ様に限っては、話を聞く限りナヒュグ様達との関係如何によらず討伐しないといけないと思うよ」


 ナヒュグ様と破談になった場合は既に言った。だから、良好な場合だけど…。



「言われなくても覚えてるぜ。「魔王討伐」の「魔王」が「ジンデ様」の可能性が最も高く、実際に討伐部隊として父ちゃんらの級友が送られる…ってことはな。後、魔王討伐の有無は実際に話して決めるってことも」


 うん。偉い。よく覚えてる。もうわかってるね。



「でも、話で決めるつもりだが、伝聞を聞く限り、討伐になる。だから、ジンデ様は討伐する。って感じだろ?」


 やっぱりわかってたね。偉い。頭を撫でてあげよう。嫌がるかもしれないから、軽く一回だけ。



 そっと手を動かすと、ガロウは嫌がらずに受け入れてくれた。顔は恥ずかしいのか背けてるけど。



「あ。そうだ」


 少し顔を赤くしたガロウがくるっとこっちに向きなおる。



「もしさ、もしも…。ナヒュグ陛下も、ジャンリャ皇后もジンデ様も打倒して、そして、あの帰還魔法も使えない。でも、どうしても帰りたい父ちゃんらの級友たちが「魔王を倒す」という願いを実行するため、公称皇帝であるルナを狙ってきたらどうする?」


 その場合ねぇ…。



「…父ちゃんでも迷うのか?」

「まさか」


 迷うわけなんてない。ただ、引かれないかと思っただけ。でも、今のガロウの少し寂しそうな声色を聞く限りその心配も不要そうだ。



「その場合は級友たちを迎え撃つよ。徹底的に叩く」


 出来るだけルナを狙うのを断念してもらう方向で手を打つけど…、最悪の場合も含める。



「級友たちには悪いけど、四季やアイリ、センにカレン。ガロウとレイコ。そしてルナとコウキにミズキ…、この誰か一人と他は天秤で量る以前の問題。家族を取る」


 例えその他がタクであっても。



「じゃあさ、俺らの中の誰かと誰かの場合は?もしくは、誰かと世界なら?」

「それならどっちの場合でも両方」


 家族の中の誰かを選ぶなんて出来ない。無理を押し通してでも両方取る。



「前者の場合はやらないで失って後悔するより、やって諸共死ぬ方がいいでしょ?」

「だな」


 …うちの子らならそう言うと思ってたけど。即断か。



「後者は?」

「単純に世界を助けないと生きていけないから。…惑星が崩壊すれば、しばらくすれば皆死んじゃうし。宇宙で人は生きていけない。…惑星残って人類が滅びるなら…、まぁ、滅びてもいいんじゃない?縄文とかに戻るだけ。皆がいれば狩採集で生きていけそう」

「だな」


 それはそれで楽しそうではある。…一生、今の生活に戻れないけど。



「でも、人類全体でも全部取るよ」

「何で?」

「次代に繋がらないでしょ?」


 どうせいつか人間は滅びてしまうはず。でも、だからといって「滅び」が確定した未来に皆を誘うのは違うだろう。その決断は長期的に見て「皆はいるけど、地球滅んだ」って時と何も変わらない。



「ブルルッ!」


 ん? 「何か来たよ!」…?



「久方ぶり…というには聊か微妙な期間しか経ておりませんが、お久しぶりです。上位者様方」


 聞いたことのある声のする方を見れば、ズィーゼさんが馬車の前でとぐろを巻くように浮いている。



「えぇ。お久しぶり…で構わないでしょう。お久しぶりです。ズィーゼさんもお元気そうで何よりです」

「有難く。上位者方もお元気そう…ではなさそうですか?少々、不調を抱えておられるように見受けられますが…」


 !? 一日しか徹夜していないはずなんだけど…。そんなに疲れてるように見えるのかな?



「父ちゃん。忘れてるかも知んねぇけど、徹夜する前に寝込んでたじゃねぇか。そっからまだ一週間も経ってねぇよ」


 ガロウに考えを悟られた…。ちょっとヤバい?



「なんか父ちゃんに貶された気がするぜ…。一応、俺だってレイコを見てたんだから姉ちゃんたちや父ちゃん達に及ばないにしても、それくらいわかるわ!というか、父ちゃん。ズィーゼ様を放置すんな」


 確かに。ありがとうね。ガロウ。



「すみません。ズィーゼさん」

「いえ。上位者の皆さまが此方を待たせる程度でお気になさる必要はありません。そのような些事よりも、既に霧散しているようですが、先に感じた強烈な殺気と、見事に為すべきことを為された上位者様方の疲労の色が濃いことの方が問題です」

「あ。ズィーゼ様、その殺気は既に解決してます」


 ジトッとした目でこっちを見てくるガロウ。…その殺気の発信源は俺か。



「左様ですか。ですが、依然、疲労は解決しませぬ。故に、存分に羽を休めていただくために、此方も同道いたしましょう」

「だってよ。父ちゃん」


 「寝ろ」ってことね…。



 ……。ズィーゼさんがいてくれるならば心配は要らないか。お言葉に甘えさせてもらおう。



「ありがとうございます。ズィーゼさん。ガロウもありがと。後は任せます」

「あ。母ちゃんは?」

「俺が呼ぶよ」


 御者台から引っ込んで荷台に。適度な大きさに調節された家の横を通り抜ければ四季とレイコがいる。



「四季、今良い?」

「ふわぁ…。あ。ごめんなさい」


 四季も眠そうだ。



「お父様。ズィーゼ様が来てくださったのですよね?」

「うん。聞こえた?」

「はい。バッチリ聞こえました。お母様。気力を保つためのお話も丁度、区切りです。お休みください」


 レイコがそっと四季を促すと、四季は礼を言って立ち上がり、手を取ってくる。



「ありがと、レイコ」

「レイコちゃん。ありがとう」

「いえ、この程度、礼には及びませんよ。さ。早くお休みください」


 押し出されるように家の中に。…ベッドの上ではアイリにカレン、それにルナとコウキにミズキが仲良く寝ている。



 …仲良くって言うにはコウキだけのけ者にされてる感がある? でも、アイリ・カレン・ルナが弾いたってより、コウキが遠慮したか、ミズキが振り回した結果に見える。



 …どっちも正解かな? 前世は兄妹だったからかミズキは割と遠慮がない。隅にいるコウキにミズキがべたっと抱き付いて枕にしてるし…ふわぁ。駄目だ。寝よう。丁度、中央に空間開けてくれているし…。



「おやすみ。四季」

「はい。おやすみなさい」


 二人でベッドに倒れこむように寝転がり、即落ちた。







_____


 暑い。起きたはいいけれど暑い。とりあえず布団から脱出…したいけど、その前に周りの確認。



 左…は四季が近い。振り向いたらすぐだ。そのままちょっと首を前に動かせば、それだけでキスできてしまいそう。後、俺の左手が見事に四季に潰されてる。



 いわゆる腕枕状態…だけど、四季に腕枕をして寝た記憶はないんだけどな? そもそも、距離もほどほどにあったはずなんだけど。



 右手も動かない。えっと、下手人は…カレンね。相変わらず寝相が自由だね。俺らの寝ている向きと上下逆になって右手をギュッと胸元に抱きしめてる。しかもよだれ付き。…かけないでくれると嬉しいな。



 カレンの下、右足の方にアイリ。彼女にしては珍しく俺の足に抱き付くように寝てる。というか、何で足を直視できるんだ? 掛け布団はどこに…、って、見事に端っこに追いやられてるな。



 …なるほど。そりゃあ、暑い。でも、動けないな。心情的にも物理的にも。



 四季は…、俺と似たり寄ったりの状況か。右の手は俺と違って自由だけど、左足はミズキが、左手はルナとミズキが拘束してる。



 ルナは左手の肘から先あたりを胸元で抱いている。かなり胸がもぎゅっと潰されているけれど、どっちも痛くないのかな?



 てか、ルナもカレンと同じように天地逆だね。その上、かなり見にくいけれど…、ルナとカレンの足は絡まってない? …どうやったらそうなるの?



 でも、二人は気持ちよさそうに爆睡してる。謎だけど、ならいいかな。



 ミズキは四季の左腕、その脇あたりをくるっと両手で抱きこんで、両足を四季の左足に巻き付けてるね。ルナがいなくても四季はたぶん左の手足は動かせないな。



 俺と四季の距離が詰まったのも皆のせいかな。ぎゅうぎゅうと両サイドから押されればそりゃ詰まる。



 で、コウキはミズキの奥に…いない。あれ? どこだろう? 寝る前はミズキと一緒に…、って寝る前の状況は既にあてにならない状態だった。



 足元? …やばい。見にくい。出来るだけ腕を動かさないように…、上半身だけを浮かせ…、見えた。



 どことなくいつかのガロウを彷彿とさせる位置だね…。俺と四季の足元。その丁度間ぐらいにいる。



 コウキの手も足も丁度俺らの足に触れるか触れないかってとこにあるな。「触ろうと思ったけれど遠慮した」って感じかな?



 その「遠慮」の気持ちはありがたく貰っておくけれど、俺も四季も、コウキは子供なんだから全く気にしないんだけど…。寧ろ距離感を感じずにグッと来てくれてもいいんだけど。それこそミズキぐらいに。



 …あれ? ミズキの目元、ちょっと赤い…?



「うわぁ…」

「ガロウ。気持ちは分かりますが。お仕事しましょう。どうにかしてお父様とお母様を起こすのです」


 ガロウとレイコが家に入ってきた? …小声で何か言っているようだけど、聞き取れない。何かあったか?



 とりあえず、手を挙げる。



「あ。父ちゃんは起きてる」

「ですね。ガロウ。要件を伝えてくるのです」

「このカオス状態で起こさないようにするのは難度たけぇなぁ…」


 声が小さいし、足音もゆっくり。入ってきたときから薄々感じてはいたけれど、緊急ではなさそうだ。



「父ちゃん。そろそろズィーゼ様がクアン連峰を抜けそうだって言ってるぞ」


 え? もう? 早いな…。いや、寝てれば早いもないか。



「ありがと。とりあえず」


 どうしよう。四季だけ起こしても無駄だよな? 動くなら全員起きて貰わないとどうしようもないっぽいし…。少なくともこの子らを起こさずにこの状況から脱するのは無理ゲーだと思うんだけど。



 一人で考えても無駄だな。四季を起こして一緒に考えてもらおう。



 出来るだけ耳元で、小声で漏れないように…。



「四季…」

「ひゃっ!?」


 あ。やらかした。四季が跳ね起きた。



「うぇ?あ、習君。近いです…」


 顔が赤い。耳元で息を吹きかけられるとくすぐったいよね。



「ごめん四季。それにおはよう」

「おはようです。ところで習君。動けないんですけど」

「んあ…。二人ともおはよう。…あ。ごめん」


完全に起こしちゃった。アイリに続いて皆起きてきて、銘々が挨拶と謝罪を述べる。



「こっちも起こして悪かった」

「ですね。ごめんなさい。で、習君。用件は?」


 切り替えが早い。いいことだ。



「もう着いたらしいよ」

「なるほど。それで起こしてくれたんですね。流石に挨拶無しは礼を欠きますものね。習君。ありがとうございます」

「いや。それはガロウとレイコに言ってやって」


 俺はそれを伝えたに過ぎないから。



「了解です。ガロウ君、レイコちゃん。ありがとうです。さ、外に行きましょう。挨拶しますよ」


 四季の言葉で全員、スムーズに外に。



「ズィーゼさん。護衛ありがとうございました。おかげでよく寝れました」

「いえ。此方にとってこの程度、造作もありません。上位者様方の睡眠時間を確保するため、少々到着を遅延させようかとも考えましたが…、何分お急ぎとのこと。此方が出来る全身全霊を尽くしました」


 時間はまだようやく昼になったくらい。本気でかなり急いでくれたみたいだ。シャルシャ大渓谷も小さいが見えるし、実はエルフ領域とかいう可能性もない。



「お礼は結構です。上位者様方は既にそれ以上のことを為してくださっております故。此方が同道可能なのはここまで。これにておさらばです。最後に、お言葉ですが、体調にはご注意なされよ。例え急いでおられても、敵地に向かわれるのであれば、休息は取られよ」


 言うだけ言うとズィーゼさんは風になったように素早く去っていった。本気であれ以上、礼を言わせてもらえなかったな…。



「二人とも。高度を下げるぜ。流石に上からは行っちゃダメだもんな?」

「うん。お願いする」


 「上からお邪魔します」とか、ダイナミック不法侵入すぎる。絶対に警戒される。というか、落とされる。



「その間に昼ご飯作りますかね」

「だね」


 さ、作って食べよう。ナヒュグ様のいるところには…、頑張れば一日で着けそうだけど、到着は夜中になりそう。…ズィーゼさんがわざわざ忠告してくれたんだ。一回、野宿するか。



 それから行く方が問題は少ないでしょ。







______


「皆!壁が見えてきたよ!」

「綺麗なので、外から見る価値はありますよ!」


 二人で馬車の中に声をかけると、皆がわらわらと顔を覗かせる。



「…ほんとだね。綺麗に見える」

「そうね。姉さま。野宿ではあったけれど…、もう一晩寝たからか陽の光も煩わしくなくて気持ちいいわね」


 …無理やりでも寝かせるべきだったか?



「父さん。母さん。あれ、他と比べてどうなの?」

「え?他?他の公称皇帝であるリャアン様のところと同じ…いや、ちょっと立派だね」

「ですね。デザインはあっちの黒一色に比べてこっちの方が綺麗ですけれど、南にある陽の光が当たって少し眩しいくらいです」


 だね。本当に輝いているように見え…ん?



「四季、警戒したほうが良さげ?」

「ですね。習君。あの壁が「滅多に塗りなおさないが、丁度塗りなおした」なら構わないのですが…「一切、攻められていないから綺麗」や、「何度も塗りなおせるほど財源がある」のなら面倒です。前者は単に周囲が友好国だけってオチもありますが」

「最悪を考えておいたほうがいいよね」


 警戒を…ん? あの人影は…シールさんか!?



「あぁ。やっと来てくれた!成分を!成分を補給させておくれ!」


 …あ。声を聴く限り間違いないわ。…で、その後ろに二つの人影が見えるけど…。



「おぉ!?あれは…。あれは我々の宝では!?」

「そうでしょうとも!間違いありませんよ!ナヒュグ陛下!あれが探し求めていた…、妹です!」


 と明らかにルナを指さして叫んでいる。



 今、こちらと視線がガッツリ交差している魔人二人…、あれがきっとナヒュグ陛下とジャンリャ皇后なのだろう。

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