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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
224/306

閑話 ある主従の会話6

いつものです。3人称視点。

「へーい、イジャズ?調子はどう?」

「よくはないですね。よくは」


 水面に映る女の問いに答える男。



「えー?何でよー。ついに始まったのよー?」

「だからよくはないんですが…」


 男はこめかみを抑えながら答える。広々とした玉座の間ではあるが、例によって例の如く、彼を助けてくれるものなどどこにもいない。



「だから何でさ。みんな大好き戦争が、大戦争が始まったのよー?」

「はぁ。本気で戦争が好きなモノなどいないでしょうに。居るとすれば頭のおかしい異常者ではないですかね」

「はっはー。かもねー!「戦争」のワードに”Krieg(クリーク)”ってルビ振られてそーね!いぇーい、レッツ戦争(Krieg)!」


 駄目だこいつ。男は頭を抱える。



「でもさ「自身が戦火に巻き込まれない限り」という意味では好きな人もいると思わない?なんてったってダイナミック(動的な/精力的な)…ん?ドラスティック(根本的な/抜本的な)?あれ?どっちだっけ?」

「体の主の母国語使えばどうです?」

「え?そうね」


 男はジトッとした目になる。だが、女はそんな男を気にしない。というか、見ていない。



「兎も角、戦争は劇的に歴史が動くきっかけになりうるのよ!?それが巻き起こる遠因となったかもしれないくんずほぐれつの思惑を考えてみたり、勝敗の原因を考えてみたりが好きな人はいるでしょう」

「そりゃ、いるでしょうね」


 男の言葉に女は嬉しそうに頷く。



「後、絵とか動画としての戦争が好きな人とかもいるわよ!人と人がぶつかって、血肉が舞う!大群同士の激突は古代であっても…、ううん、寧ろ火薬がないぶん壮観かもしれないわ!でも、火薬登場以降も負けていないわよね!というか、映像や音の迫力としてはあの爆音があってこそとすら思えるわ!戦場の主役が火器になって以降、火を噴いた大砲の一撃で複数人が木っ端のように宙を舞い、数千もの人間を抱いた鉄の船は魚雷の一撃で諸共没するようになったわ!ミサイルが出て来てからは…、まぁ、あたし的には面白みに欠けるのだけれど。スイッチポチーでミサイルドーン!はねぇ……。研究者たちの貢献は尊いものだけれど、せめて略爆(戦略爆撃機)を使って欲しいわ。そう思わない?」

「さっぱりよくわかりませんが、貴方が言うならそうなのでしょうね」


 でしょう! と女は声を張り上げる。いい加減音量が上がってきて鬱陶しかったので、男はそっと音量を下げた。



 どうやら男は主が幾度「夜中にうるさい」と言っても学習しないので、ようやっと主を変えることを諦め、自分が変わることに(機構を開発)したらしい。



「あっちでも本物の戦争を求める人だっていたけどねー。武器を売って金を作り、雇用を生む。それがために…、経済を回すために大火を求める軍産複合体とかね。後…、高度に発展した人権意識が邪魔だから、戦争で合法的に人を減らすとかあるかもね?」

「それ、嘘ですよね?」


 男の声が震える。



「え?後者は知らん。でも、前者はあったはずよ。たぶん!陰謀説とかかもしれないけどー。とはいえ、みんな大好きなあの国ならやりかねないのよねー。何しろ「やりかねない」そう思われてるからこそ陰謀論が勃興するのだから!」


 絶句する男を前に、女は高笑い。男はそっと音量をさらに下げた。



「定時報告に入ってもよろしいですか?」

「ん?いいわよー。どぞー」


 男は音量バーをグイっと上げた。落ち着いた主の声が聞き取りにくかったらしい。



「またチヌカの撃破報告ですね。どうやらエルモンツィがやられたようで」

「…ん?エルモンツィ…?あ。あぁ。あの子ね。あの子、あたしが関わってないから「デキソコナイ」とか言われてなかったっけ」

「そのはずですね。私はそのような悪口に関与していないので存じ上げませんが」

「でしょうねー!」


 また女が笑い、音量が下げられる。



「あんたはあたしが直々にちょろちょろっと頭を弄ったもん。そこらの子らとは頭の出来が違うわ!」


 頭の出来(精神性)であるが。男だけはチヌリトリカに絶対服従ではない。さりとて、服従優先であるのは違いない。



「で、そんな子は何をやらかして消されたのよ?」

「世界樹付近で何やらしていたようですが?」

「世界樹?」


 女の声のトーンがぐっと下がり、



「あれに手を出すようなら、あたし直々に消し飛ばすけど?」


 その調子のまま言い放つ。男は背筋が凍えるような思いをしつつも…、



「既に討伐されたと言いましたよね?」


 忠告する。と、主の重圧はすぐさま霧散し、再びケラケラ笑いだす。



「あ。そっか。そうよね。何してたの?その子?」

「さぁ?世界樹に危機が云々なので、それに対応するとかなんとか」

「へぇー。なんだ。消すどころか殊勲賞モノじゃない!復活…は無理ね。魂がどっかに行っちゃったわ。まだあるみたいだけど。その子が幸せになれることを祈ってあげよう」


 男は「貴方に祈られると逆に不幸になりそうなんですけど」という言葉をグッと呑み込んだ。言わなくてもいいことは言わない方が良いのだ。



 そして、主は謎のくねくねした祈りの動作を終わらせると、口を開く。



「あ。そうだ。外を見せたげるわ。面白いわよ!」

「ん?外ですか?そこは既に戦地。外は人間と魔族しかいないのでは?」

「はっはっは。甘い甘い!それが「面白い」わけないでしょう!」


 男はそっと音量を下げた。女はそれを気にする様子もなく、ちょっと魔力がもったいないけど、気分がいいし見せたげる! なんて言いながら、女は通信機器である水晶を持ち上げ、



「『光よ。あたりを照らしなさい』」


 呪文を唱えた。女の命令に従って、周囲はパッと照らされる。



 映し出されるのは暗闇ばかり。「何が面白いのか?」そう疑問が生じた瞬間、男はハタと気づく。



「なんか静か…いえ、これは…人の気配がないのですか?」

「イグザクトリィ!まさにその通り!」


 男の指がそっと音量を下げる方向に動く。



「ふっふん!だってあたしが全部(・・)消したもの」

「は?」


 男が少し抜けた声を上げ、目をぱちくり。そして、



「ちょっ!?貴方、何やってるんですか!?何で…、何で人間(・・)まで消し飛ばしてるんですか!?」

「え?別に構わなくない?」

「よくないでしょう!?貴方、作戦を忘れたのですか!?それとも、貴方がおっしゃったことをお忘れか!?」


 男が珍しくヒートアップ。「静かにしないといけない」そんな認識さえも吹き飛ばして叫ぶ男に、女は五月蠅そうに耳を抑える。



「まさか、覚えているわよ。作戦も覚えてるし、級友の皆も護りたい。だからやった」

「このタイミングでですか?この開戦二日目とかいう戦況がクソも動いていない状況で?」

「ん?あぁ、情報伝達が遅れてるのね。戦況は動いたわよ。れっちゃんがもう仕事した後だもの」


 男は「れっちゃん」って誰だ? と考え、すぐに蔵和(くらわ)(れつ)のことだと思いだす。ついでに、絶叫は外のそれ以上の修羅場にかき消されていることにも気づいた。



 男は冷静さを取り戻した。



「どうやら報告が到達したようですね…」

「みたいね。伝令はそこそこ有能みたいね!たぶんれっちゃんのだよ。そろそろ「北部方面連絡途絶」が行くでしょうよ」


 嬉しそうにケラケラ笑う女。男は理解が追い付かない。



「作戦では南に被害を出し、貴方のいる北も被害を出し、薄くなった中央──ファラボ大橋──を突っ切り、魔王を狩る。そんな斬首作戦のはずでしたが?」

「うん。だけどね、しょっぱなかられっちゃんがやったのよ。南の大部分を消した。だからあたしは北を丸ごと消したわ」

「丸ごとですか?」

「うん。丸ごと」


 文字通りの丸ごと。すなわち「(魔族)味方(人間)も全部」



 それを悟った男は、だからこそ女は「北部方面壊滅(・・)」ではなく「連絡途絶(・・・・)」だと言ったのだと悟った。



「何故?」

「第一に、れっちゃんのやらかしに呼応して、北から戦力抽出されて、殲滅量が減ったら面倒なこと。次に、北は所詮弱小国の寄せ集めってことよ。バシェルも数軍混じってはいたけど、所詮は雑魚よ。北方に位置する諸国で練度の高い軍を持つ国々フーライナ、アークライン神聖国もイベアもあたしら(チヌリトリカ一派)の対応で様子見だからいないしね」

「?」


 男が首を傾げ、より詳しい説明を求める前に女は言葉を繋げる。



「ふふん。魔族はバシェルと戦争してるんじゃなくて、人間と戦争してるのよ?だから、北方が壊滅すればそこを抜けてどこへなりとも行くわ。だから、上記3国も警戒せざるを得ないし、もしかしたらこの戦争に引きずり込める」


 男は納得する。そして、フーライナは確定で引きずり込めるだろう。とも。何しろフーライナは「人類の穀物庫」である。魔族も食料を狙うだろうし、人間側…フーライナもそれを破壊されるわけにはいかない。



「あたしらの安全と、(級友)の安全性は高まるでしょう?」


 男は一瞬頷きかけ…、やめた。



「ですが、それでは北を抜かれて退路を断たれたり、魔族が撤退を選択したりするのでは?」

「退路は断たれない。バシェル王都は落ちない。みっちゃんがいるもん」


 男は即、みっちゃんが青釧(おうせん)美紅(みく)のことだと理解する。



「随分高く評価されているのですね?」

「そりゃね。あの子だし。座馬井兄妹を絶対守るわよ。かるーく洗脳して能力もあげてるし。あんたもいるし」


 男は女の珍しい誉め言葉に頬を朱に染める。



「撤退もないわ。初手でこんだけやられたら退けないわよ。退いたらそれこそクーデター不可避よ?だから、ガラガラになった北に魔族は戦力を掻き集めて斬首作戦をするかもね?バシェル王を殺しても人族国家の大半は揺らがないけど。魔族たちは人間が統一国家だと思ってる節はありそーだし」


 男は女が男を褒めても、それに何の感慨も抱いていない様子に一抹の悲しさを感じたが…、



「だから望月君らはいけるでしょ。ぶっちゃけ何の根拠もないけど」

「えぇ…」

「賢いからファラボ大橋にこだわらずに薄くなる南から凸るんじゃない?そっちならシン君らの支援…という名の弾の嵐を受けられるだろうし」


 納得できそうな理由の後にこの雑さ。「そういえばこんな主だったわ」と男は思い直した。



「とりま、あたしらは北に行くわ。あ、忘れずに『蒼穹(そうきゅう)賢人(けんじん)』作戦と『(かお)花壇(かだん)』作戦は実施しておいてねー」

「なっ!?『蒼穹の賢人』もですが、『香る花壇』もですか!?」


 男の焦りに、女はきょとんとした目を返す。



「いや、何焦ってるのさ。あたしにはわからないんだけど…」


 男は言葉を紡ごうとして…、



「アキ。起きてるなら起こしなさいよ…」

「そうだよ。百引。壊滅させたんだからいつ次来るかわからない。だからさっさと行くよ!って言ったのは君だろうに」


 阻まれた。



「あ。ごめんよ。愛ちゃんに、瞬。そうだったね。覚えてたよ。ちゃんと。じゃあ、イジャス。後は任せた。これは人間領域をごたつかせるのにいるんだからね!絶対だよ!」


 念押しすると女──百引(ひゃくび)(あき)の体を乗っ取ったチヌリトリカ──は男にうんともすんとも言わせずにぶった切る。



「え?」


 後に残された男の声だけが虚しく部屋に響く。



「は?…え。本気…なのですよね。返事も聞かずにお切りになられたのですから。ですが、ですが…。『蒼穹の賢人』は兎も角…、いえ、こちらも微妙ですが…。『香る花壇』は確実に級友を巻き込みますよ…?」


 男はブツブツ独り言を言いながら頭を整理する。



「級友を守りたい。この発言は嘘?いや、それはないはず。体の持ち主が級友を大切にする方のようですし、体の持ち主に返したいとかほざいていらっしゃるのですから」


 男は頭の中で思考を重ね、そして一つの結論に達する。



「…考えるだけ無駄ですか。なんだかんだであの方ならうまくやるのでしょう」


 男は自分を無理やり納得させると道具をごそごそと片付け始める。



「『蒼穹の賢人』は王を動かせば事足りる。『香る花壇』は…、チヌリトリカ様が配下に置いたあの方に連絡すれば終わり。私のやることはたいしてありませんか」


 そう呟くと男は玉座の間から立ち去る。



「寝ますか」


 ボソッと呟き部屋に戻る男。だが、彼はこの後寝付こうとした瞬間、主と主の体の持ち主の級友が引き起こした戦地の混乱が王城をこれまでにない程の混迷に突き落とし、その処理のためにその混沌の中央に突き落とされることになるが…、男はまだ、そのことを知らない。

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