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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
223/306

199話 世界樹の根

《おっ、せーかーい!帰還魔法ってよくわかったねー!》


 声が漏れていたか…。



「…これが帰還魔法なの?」


 うん。やっぱり漏れてるね。アイリにまで聞かれてるんだし。



「らしいですよ。私達…、あ。この「私達」は私と習君だけを指すわけではないですよ」

「一緒に召喚されたクラスメイト。皆が求めていたソレ(帰還魔法)らしい」


 まさかこんな来にくい場所にあるとは…。



 ただでさえ、エルフ領域自体が人間領域とはカスボカラス断崖、魔人領域とはクアン連峰という難所で区切られているのに、その中でも心臓部である世界樹の中とは…。ラーヴェ神は優しいと思っていたからこの選定は意外。案外、優しい(自分の世界の人間に対して)とか言うオチなのかもしれない。



《説明していーい?》

「「お願いします」」

《おぉう。3人に敬われた…。気持ち悪い》


 酷い言い草だ。普通に俺らは敬語使うのに。扱いは知らないけど。



《まぁいいや。やるよ。えっとね》

「あ。待ってー。皆ー、せつめーは聞き終わるまでちょっと待っててねー」


 全員コクっと頷いてくれた。



《じゃあ、いくよ?ここにあるのは間違いなく帰還魔法だよ。樹が託されたときに愛の女神ラーヴェ神から直々に聞いてるからね。たぶんだけど、泉の知識がないのはこっちの知識とかを詰め込むのにいっぱいいっぱいだったからだと思うな!うん!》


 世界樹。責めないから。いちいち弁解しなくていいよ。



《弁解してるんじゃないよ》


 世界樹に読心された!? …違うか。単にカレンと考えていることが一致しただけっぽいな。



《これはただの樹の推測だけど…。樹を作って陣を用意して、全部終わったら悲しそうに帰って行ったし、案外間違ってないと思うな》


 悲しそう? …ラーヴェ神しょっちゅう悲しん出る気がする。大戦がそこまでショック…だよなぁ。



《脇にぶれたから戻すよ。ここは樹の下の方。若芽のあったところとおんなじで、ここは異界になってるよ。位置で言うと…、根の最下端になるね。ついでに根の最下端の役目も若芽と同じ。だから、今もここはゆっくり下に伸びていってるよ》


 何でそんなところに作ったんだろう?



《え?落ちてきたら早かったんじゃないって?流石に止めて。上は上に広がっていくから上に広かった。だからあの強引な方法でもよかったけど、ここはこれがあるから異界の広さはこれだけなの》


 これはカレンの内心に対する答えかな? 話を聞く限り、この場所が無くなると世界樹も困りそう。



《ちなみにここをぶち抜かれたら樹は死にます。心臓みたいなものだね》


 困るってレベルじゃなかった。



《まぁ、そんな重要区画だからこそ帰還魔法はここにあるんじゃないかな?ここなら防備もバッチリだからね。…余分に防御機構を作る手間を惜しんだともいえるけど!》


 お、おう。



《え?樹が信用されてるってー?えへへー。それは嬉しいなー》


 カレンの内心と会話してるんだろうけれど…、それを知らなかったら世界樹はただの変な樹だなぁ…。今回は、カレンのおだてにのったのかな?



《ま、だからこそ、ここに来るまでに時間がかかったのさ。此処は大事だからね。安全に来るには手順が必要なのさ。リャールの手もここまでは来れなかったしね!》


 若芽が無くなると詰むんじゃ意味がないんじゃ…。



《うっぐ。カレン。それは言っちゃダメ。若芽は別だよ。別!》


 カレンが見事に俺らの心を代弁してくれてるね…。



《それは置いといて!話戻すよ!一応、樹はここが勇者召喚陣で呼ばれた勇者を帰す超重要なモノだって聞いてるよ。使い方は簡単!乗って「帰還」って唱えればいい!ただ、流れた時間は諦めて。召喚されるまでは兎も角、帰還するとき、時間の流れはアークラインも召喚元の世界も同じ時間が流れた後らしいから…。でも、生命体なら双方が望むなら、非生命なら問答無用で一緒に帰れるらしいよ。ただしそれに付随する色んな面倒ごとは「自分で何とかしてね!」って感じかなぁ?》


 雑にまとめれば「帰ったら向こうでは失踪期間が生じるけど諦めて!代わりに望むものは持って帰っていいよ!あ、でも、アフターケアはないよ!」かな?



 ふむ。「皆と一緒に帰れる」これがわかったのが一番うれしい。



 今のでサラッと最大の懸念事項を吹っ飛ばしてくれたんだから。…だからほぼ確実に留年してるだろうって事実は受け入れよう。退学処分くらってなければいいけど…。



《なんか親二人が嬉しさと悲しさの狭間にある顔してる…。えっと、進めて大丈夫?》


 頷く。



《そっかならいいけどさ。じゃあ、乗ってみて。勇者なら陣が反応するらしいよ》

「了解。皆、一回四季と乗ってみるね」

「皆はこっちで待機しておいてくださいな」


 少し不安そうな顔をしてるけど…、皆頷いてくれたね。



 …ありがたいけど、少しは我がまま言ってくれてもいいのよ? って気分になる。これが親心だろうか?



《別に二人で行けとh、…ん?何?カレン?…あいあい。わかったよ》


 何が分かった?



《ん?行って、ゴーゴー!あ。乗るっていうのは、中央に行くってことね。湖の上に行った時みたいに、足場があるからそこ通って》


 英語…ってことは別言語使った? 何か誤魔化されてる…?



《何も企んでないから進めー!》

「そーだよー!」


 カレンが言うなら…。四季と顔を見合わせ、コクっと頷き合い、一歩陣へ足を踏み出す。すると、空中に踏み出した足を支えるように足場が出来た。



 …この足場、湖の上の時と同じ感じがする。…前みたいに変なことにならなければいいけれど。靴でコツコツと叩いてみる。



《確認しないでよ!?安全だよ!?安全なの!というか靴でやっても意味ないよ?ナッシング!》


 …確かに。なら行ってみようか。少し不安ではあるけれど…、足を一歩入れただけなのに陣の白と黒はますます鮮やかに輝き出し、中央に誘おうとしているように見えるしね。



 一歩、また一歩と歩みを進めるたび、光は増す。次で中央…ッ!? …吹き飛ばされたな。空中で姿勢制御して…、無事着地。



《大丈夫!?》

「「「大丈夫!?」」」

「うん。大丈夫」

「私もです。うまく着地出来ました」


 心配してくれている皆は、すぐに安心させてあげないと。そしたら、原因を考えよう。



 何故、中央に行ったらすぐに弾かれた? しかも世界樹ですら想定外っぽい。



「俺の所感を話すぜ。俺には二人が中央にたどり着いた瞬間に白と黒、そして、二つが混じったようなものが上がった気がしたぞ?あ。でも、混じったって言っても、いつものアレじゃないぜ」

「「いつものアレ?」」

「コウキとミズキはわかりませんよね。瘴気です」


 レイコがうまくガロウのフォローしてくれた。ありがとね。



「白と黒が混じった」

「瘴気じゃないものですか…」


 そんなもの知らないな。白と黒が混じったモノと言えば瘴気だ。



「…ガロウの言ってるのはわたしも見たよ」

「ボクもー!」

「ルナはわかんない!でも、(にぇん)!」

「僕もルナ姉さんと同じくわかんないけど、変だったね」

「アタシも同上。でも、変だったわ」

《樹も見たよ》


 …見間違いではなさそう。



「瘴気以外の白黒って何か知ってる?」


 皆横に首を振る。…そっかぁ。



《一応補足しとくけど、ここは神聖な場所だよ?一応だけど、ここは神聖なんだよ?》


 …世界樹は「不浄の塊である瘴気なんてあるわけがない」って言いたいのね。



「でもさ、瘴気を浄化してるのが世界樹じゃなかった?」

《確かにそうだよ。でも、その作業の影響が心臓部に出てどうするの》


 ごもっとも。普通、出ないようにする。出ればそれは設計ミスだ。



「そもそも、これを使って私達が帰れない…というわけではありませんよね?」

《そのはず…なんだけど、「勇者なら無条件で帰れる」って言ってたはずの記憶と矛盾するの。困ったな。記憶に自信が持てないー》


 世界樹も歳だから仕方ないよね! …ではすましたくないのだけど。



「あの、あの白黒が禍々しいモノでないのならば考え方を変えてみられてはいかがでしょうか?」


 考え方…。あぁ。伝承とかを疑ってみれば? ってことか。となれば…、



「ひょっとすると「望みを果たせば帰れる」んじゃなくて「望みを果たしてここにこれば帰れる」のかもしれない?」

「可能性としてはあるかもしれませんね」

《あまりラーヴェ神を疑いたくはないけど…。あの様子じゃなぁ…》


 進みそう…かな?



「ありがと。レイコ」


 レイコの顔にパッと花が開いた。



「世界樹さん、ここに勇者は来たことは?」

《ん?ないよ?これは確実。絶対だよ》


 伝承を疑う一歩目から躓いた…。四季の問いにはYESが返ってくるもんだと思ってたけど、違うの? 帰った勇者もいるはずなんだけど。



「考えてもどうしようもないんじゃね」


 …悔しいけど、そうだね。まずは級友たちにこのことを伝えないと。俺らは駄目でも他の人と一緒ならいけるかもしれない。



「でも、もう一回」

「確認させてくださいな」

「…ん。任せて。受け止める」


 アイリに続いて、力強く全員が頷いてくれた。…頼もしい子達だ。でも、自力でちゃんとするからね?



 再度、二人揃って中央に…ッ!? やっぱダメか。くるっと回って着地。



「むー。こっちに着地を任せてくれてもいーのに」

「親の沽券に関わるから…」

「そんなことでアタシたちの親の沽券は揺らがないわよ」


 何故か付き合いの短いはずのミズキがそんなことを宣って、それを幸いと皆乗っかった。…なんも言えないなぁ。でも、



「それはそれ」

「これはこれ。なのです。今度は一人ずつ行ってみますか」

「だね」


 先手を譲る気がないのを察してくれているのか、四季に押し出されるように中央に…、あ。うん。だよね。見事に弾かれた。3回目ともなれば慣れたもの。驚きすらなく、着地。



「今度は四季ね」

「行ってきます」


 四季が突撃。そして皆が言っていたように白と黒、それに混ざったような色が噴き出てきて弾かれる。やっぱりそう…っっとお!



 危なかった…。飛んできた四季を落とすところだった。



「あ、ありがとうございます…」

「構わないよ。それより、怪我はない?」

「ええ。習君が優しく受け止めてくださったのでないですよ。習君はどうです?」


 ん?



「俺も無いよ」


 …にしても何で、三回目に限ってこうなった?



「…お父さんが陣に近い。…お母さんが前より吹き飛ばされた。だからだね」


 ありがとね。アイリ。読心されてるのはツッコまないよ。偶然と俺のせいなのね…。



「習君。ありがとです」


 口を開く前に四季がギュッと俺に抱き付いてくる。あったかくて柔らかい。愛しさがこみあげてきて、四季を抱きしめ返す。こうしてるだけで幸せな気分になる。



「ルナも!やる!」

「だめですよ。ルナ」

「そうだぜ。ルナ。二人もいないのに帰還魔法の陣に乗るには危ないよ」

「うぇ?そんなの、言ってにゃいよ?」

「…ルナ。ここは黙って見とこう」


 …一瞬とはいえこの子らのこと忘れてた。ゆっくり四季を降ろして…。



 皆、「もっとやらないの?」みたいな目で見ないで。やらないよ。「二人の世界に入るだけならとやかく言わないよ?」…何で心を読んだような目を全員がしてるの。



「コホン。誰か乗れるか試してくれますか?」

「じゃー、ボクいくー!」


 四季のあからさまな話題逸らしにカレンが乗ってくれた。勢いよく陣に乗ろうとして…、



 ベチーン!



 漫画のように大きな音を立てて見えない壁に阻まれた。



「「『『回復』』」」


 めっちゃ痛そう。何で勢いよく突撃しちゃったのさ?



「えー?だってー」

「あ。ごめん。説明は求めてないから」

「寧ろしないでください。お願いします」


 呆れ顔から読まれたな。先手を打って封じる。カレンの献身をむざむざ無為にする必要はない。



「そっかー」


 よし! 納得してくれた。



《戻るかい?》

「…カレンとお父さん達だけが駄目なのかもしれない」

「ですね。(わたくし)達も試してみましょう」

《なんか奇跡的に会話が繋がったようになったね!嬉しい!》


 …反応の正解がわからない。スルーしとこう。カレンが何とかしてくれる!



 アイリの言う事には一理ある。皆を危険に晒したくないけれど…、何故だか大丈夫な気がする。ならば、頼るべきだね。頼れるときに頼って鳴れないと。



「「じゃあ、お願いしていい(ですか)?」」


 俺らの声に全員がコクっと頷いてくれる。そして、長女(アイリ)から順々にゆっくり陣に乗ろうとしてくれた。



 …が、



「全員ダメじゃないのよ!」


 ミズキの言う通り、子供たちは皆、陣中央に行くことはおろか、帰還魔法のある空間へ移動することさえ、透明な壁に阻まれ、叶わなかった。



「でも、皆のおかげで少なくとも勇者じゃないと陣に乗れないってことは分かったよ?」

「ですね。つまり、勇者関連なのは間違いないと言う事でしょう」


 だからほぼ「帰還魔法」で違いないだろう。…日付制限とかあったりするのだろうか?



《上げる?》


 ? …あぁ。足場か。



「皆、上げて良い?」


 皆頷いた。なら、



「「お願いします」」

《へーい!》


 世界樹が奇怪な返事をすると、台が上へと戻っていく。



「ねぇ、父さん。母さん」

「「何 (ですか)?」」

「ふふっ。ほんと仲いいよね」


 重なっただけなんだけどね。



「コウキ、それは置いておいてあげなさい。あのね父さま。母さま。それよりも、ラーヴェって愛の女神なの?」

「うん。そうだよ。ねぇ、四季?」

「えぇ。そのはずですけれど?」


 俺達が見たどの資料もラーヴェ神は愛の女神って書いてあったけど?



「あれ?そうなの?」

「何言ってるのミズキ。ラーヴェ神は創造神でしょ?」


 ん?



「アークラインの神話において創造神はいないはず…」

「ですよね」

「あるぇ?待って。知ってる神は何柱?」


 え?



「2柱だけど?」

「習君、一応、3柱にしときましょう」


 あれ(チヌリトリカ)も入れるのね。でも、コウキがやたらと首をかしげているな?



「3柱全部列挙すると、一柱目が愛の女神ラーヴェ」

「そして、二柱目は私達がそれっぽいものに会ったことのある戦神シュファラト」

「…後、チヌリトリカとかいう侵略者」


 アイリが割り込んできた。珍しい…。



「むぐぅ…。変だ。僕の朧げな記憶と噛み合わない…!」

「アタシはそうでもないんだけど…。歯に何か挟まったような違和感があるわ…」


 コウキとミズキが困り顔。



「コウキの記憶ではどうなの?」


 俺らに違和感はない。けれど、違和感があるなら吐き出してもらおう。そうすれば整理出来るかもしれない。



「僕の記憶ではラーヴェ神は創造神で、この一柱だけ。チヌリトリカはただの侵略者で、シュファラト神なんて…いなかったはず」


 シュファラト神は神界でチヌリトリカと激突してたから知らない…って、これだと地形の説明が出来ないよな?



《とーちゃーく!》


 同時に慣性が襲い掛かってきてガクッと体が揺れる。



「うぇっ!?何なの?」

「コウキ、着いたらしいよ」

《ごめーん!》

「ごめーん!だってー!」


 カレンが通訳してくれた。



「僕は気にしないけど…」

《やったぜ!あ。既に外は夜なんだ。ごめんね!そーりー!》

「切り替えが早い…。ですが、良い物を見せてもらったので気にしませんよ」

「あ。いいものがなければ伐採する!というわけではないですから」

《わぁい!生きてるぅー!》


 …ありがとう四季。言い方が不味かったわ。あれだとまた世界樹大暴走だった。



「で、コウキ、ミズキ。どうする?」

「え?あ、あぁ。悩んでるから配慮してくれてるの?なら」


 コウキとミズキの顔が揃って引き締まる。それにつられてこっちも引き締まる。



「お願い。今日だけ徹夜させて」

「アタシ達、図書館でこの違和感の原因を調べたいの」


 ん?



「調べるのは構わない」

「ですが、徹夜は駄目です」

「「そこをなんとか」」


 …強情な。



「体に悪いこともわかってる」

「でも、それでも徹夜じゃないと駄目なの」

「じゃあ、何で?」

「父さまと母さまの級友がいるからよ」


 皆が待ってるから一刻も早く行くって?



「理由はそれだけですか?」


 四季の問いにコクっとミズキが頷く。



「「なら駄目「あのね」…」


 割り込まれた。そして、



「心配してくれるのはありがたいわ。でも、二人にとって級友が死んだら困るでしょ!?アタシはそんなの絶対に認めない!たとえアタシを止めてくれるのが父さま、母さまであってもね!いえ、違う。二人だからこそ認めないわ!」

「僕もミズキほどではないけど、そう思う。二人の級友が戦争に参加するならば、僕等の些事は投げ打って、ルナの件を清算して、早く合流すべきだよ」


 ミズキもコウキも強い語気で言い放った。そんな理由…いや、そんな(・・・)ではないか。ミズキ、コウキの語調は「そんな」なんて言葉を使うことを許さないもの。



「ちゃんとアタシだって、二人の考えはある程度分かってるわ。級友よりアタシらを優先したがることぐらい」

「何より、僕等は転生者で、二人より少し下程度の肉体年齢だけど、今日、この世に産まれたばかりなんだから」


 ………はぁ。そこまでわかってるのね。俺らの気持ちも、これからの予定──ルナの件を魔人領域で片付けて皆と合流──もわかってる。なのに、言ってるのね。



「わかった。許可を出す。ただし、図書館行は夜ごはんを食べてから」

「そして、私達も付き合う。これが条件です」


 コウキもミズキもコクっと頷く。…この子ら的には俺らの説得が難事。だから、やらせてくれるなら受け入れるんだろう。



「付き添いの役割分担しよう」


 俺らがつき合うと言えば子供達全員そう言うに決まってる。だから、先手を打って分けておく。



 明日、魔人領域へ出発するなら、センがいるとはいえ馬車に護衛は必要。ぞれに馬車で寝ればいいとはいえルナは徹夜に耐えられない。



 となると、ルナは寝てもらうのは確定。ルナの付き添いは俺らが駄目ならカレンがいいんだろうけど…、カレンは来てもらった方が良いな。後の3人アイリ・ガロウ・レイコは付き合いの長さ的にはトントン。



 馬車で絶対に起きておいてもらわないといけないのは…。ガロウだな。『輸爪』が落ちる。なら、セットでレイコもか。…これで人数的には良さげか? 足りないなら、俺と四季なら少しぐらい寝るのを遅らせればいい。探す人数を減らしすぎるとコウキとミズキのためにならない。



「ガロウと、レイコ。それにルナはいつも通り寝てて。馬車で活躍してもらう」

「アイリちゃんとカレンちゃんは私達と徹夜です。それで構いませんね?」


 よし、頷いてくれた。さっさと食べて、探そう。それから出発だ。







_____


「もう少しゆっくりなさってもよかったのですよ?」

「ごめん。テェルプ。ほぼアタシとコウキの我儘みたいなものだけど、急がなきゃならないのよ」

「ミズキ様、それは違いますよ」


 ミズキの言葉を俺らが否定するまでもなく、テェルプさんが否定してくれた。



「ふふっ。だって、お父様とお母様の顔に「ミズキ様の我儘ではない」そう書いてありますから。ですから、私がそう言えるのです。さて、我々──世界樹も含め──皆様に感謝しております。調べもののための場所提供ごときで、世界樹を救っていただいた恩を返せたとは言いません。が、その分、我々は皆様の無事と、旅の幸運をお祈りしております。勿論、機会がありましたら、その節には恩を返させていただく所存です。が、今回はここまでです。皆様、お元気で。さようなら」


 テェルプさんが一礼すると、どこからともなくエルフさん達が大量にやってきて、全員がこちらに手を振り、口々に別れの言葉をくれる。



 それを受けてセンが足を進め、車輪が大地を掴む。俺らも言葉を返し、手を振り返す。



 エルフさん達は見えなくなるまでずっと手を振ってくれ、木々に遮られて見えなくなっても声が聞こえた。そして、声が聞こえなくなってもなお見える世界樹は、俺らとの別れを惜しむようにいつまでもいつまでも、風に揺られて枝葉を揺らしていた。

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