198話 湖と世界樹
ルナの「お腹すいた!」の言葉で、子供たちの団子は自然に崩壊。湖畔で適当にバーベキュー。あっちなら色々制約があって面倒だけれども、こっちはそんなものがない。楽だ。…火事に注意しなきゃならないのは変わらないけれど。
バーベキューは楽に準備を出来る料理…料理? 切って焼いてタレをかけるだけだけど…、まぁ、料理でいいか。さくっと食材を切って準備終了。焼きながら食べよう。
食べてる間は身の上話は避ける。どうやったって重たい話に繋がる。コウキとミズキにとって転生して最初の食事なんだから、楽しくいかなきゃ。
…身の上話を避けると付き合いが長いわけでもないから、信じられないほど話題に窮したけれど、一緒に食べることで仲良くなれたような気がする。
後始末は最後まできっちりして、ゴミも全回収。さ、世界樹に話を聞かせてもらおう。
「カレン。お願い」
「任せてー!」
元気よくカレンは頷いてくれた。そして…、
《ごめんなさーい!》
「《ごめんなさーい!》だってー!」
あれ? カレン以外の声が重なったような…。
「…どうしたの?」
「今、声が重なったような…」
「習君もですか?私もそんな気が…」
四季もなのね。でも、その割に子供たちは首をかしげてる。
《よっしゃあ!よくわかんないけど直接繋がったぁ!これで勝つる!これで樹は生き残れる!》
…この頭に響いている残念な声は世界樹か。
「父ちゃん、母ちゃん。なんかあったのか?」
「何かあったならアタシらにも説明なさいよ!」
あぁ、ごめんよ。
「どうも世界樹の念がこっちにも来てるみたい」
「そのようですね。曰く、理由は不明のようですけれど」
こっちも理由なんてわからないけれど。
「カレンお姉さま?ものすごく微妙な顔をなさってますよ?」
「世界樹の残念さがかなしーだけー」
《ちょっとぉ!?樹の守護者なんだからそんなこと言わないでよ!?》
残念に見えるのは無駄にテンション…というか声量? が大きいのが原因だと思う。
《酷い!酷いよカレン!》
なんか言われたんだな。たぶん「事実ー」とかだろうけれど、カレンの言葉は伝わってこないのに、世界樹だけのが伝わってくると滑稽さがいや増す。
《はっ!?そうだった!言い訳しなきゃ!》
言い訳かぁ…。
「いーわけは駄目だよー!」
《違う違う!?》
また足元が…って、足元だけじゃない! 枝も葉も、全部が全部揺れてる。動揺しすぎだろう世界樹!?
「落ち着け、何もしないから!たぶん」
《たぶん!?》
あぁ、失敗した! 悪化した。
「父さん!なんでたぶんなんてつけたの!?」
「そんなの態度によるからでしょう!?」
「なんで母さまが答えるの!?」
「答えたいからじゃないかな、コウキ!あ、四季の言葉は合ってるよ!」
素直にしゃべってくれれば何もしない…、って、これダメなやつじゃない? 喋った後でお前は用済みだって消されるパターンのやつ。
「何で今度は父さまが…、って、合ってるの!?」
「二人だからな…」
「お父様とお母様ですからね…」
遠い目で言うガロウとレイコ。
「兄さまと姉さまが諦観してる!?」
「…ミズキもいちいちツッコミを入れるという行為は無駄だと諦めたほうが良い。黙って見てる方が幸せになれる」
「アイリ姉さんは姉さんで大概な気がするんだけどね…」
アイリだしねぇ…。
だべりながらも世界樹を宥める。なでなでさすさすしてあげれば…、落ち着いてきたような気がする。
「ほら、落ち着いて」
「何もしませんから」
《またたぶんって言ったー!?》
!? そんなの言ってないし、思ってもないぞ?
《カ゛レ゛ン゛ン゛ン゛!》
カレン? 何で…?
「ふざけて思っただけじゃーん!ボクもー、おねーちゃんもいもーとたちも、二人が何もしないなら何もしないよー!」
《信頼できなぁぁぁい!》
「何でー!?」
ごめんよ。カレン。可愛らしく頬を膨らませているけれど、こればっかりは世界樹に同意。だって、アイリとカレンはただの脅しでかなりガチな殺気を出せるもの。それにやるときは躊躇なくやりそうだもの。
…というか、前々の脅し、止めなきゃたぶん実行してたでしょ。
「おとーさんとおかーさんのほーがたぶんえぐいのにー!?」
《びえっ!?》
こっちに飛ばして来ないでよ…。余計に怯えちゃってる。
「どうすの?」
「ルナ、こういう時はね、」
「落ち着くまで待つほかないんですよね」
他の手段はたぶん余計に悪化する。今、俺らが触れようものなら確実に悪化する。ひょっとしたらエルフが降ってくるかもしれない。
「…でも、心を鬼にするなら酷い方法もある」
アイリが言いながらおもむろに鎌を構える。そして、それまでの緩慢とした動きと比較にならないほど素早い動きで、鎌をクルリ回転させつつ鎌を巨大化させ、
「世界樹。落ち着いて。生死は聞いてから判断する」
とんでもなく冷たく、研ぎ澄まされた言葉を叩きつけながら、幹にスッと鎌を添えた。
《にゃぴっ!?あ…、うん》
あ。止まった。荒療治過ぎる…。申し訳ない気持ちもあるが、これ以上のぐだぐだは不要だ。さっさと聞こう。
「世界樹。この湖は何?」
《えっとね、それは…。樹が知る限り…》
「あ。待ってください。皆に伝わるように出来ませんか?」
四季の言うようにそうできるならそうしてくれた方が良い。俺らかカレンを介する必要があるのは手間だ。
《むむ…。待って。ちょっと試すね。念が漏れると思うけど笑わないでね…》
了解。それくらいならお安い御用。
《にゅにゅにゅ…、えー、聞こえますかー?アイリちゃーん、ガロウ君にレイコちゃん。それにルナちゃんとー、後、確か…、コウキ君とミズキちゃん!聞こえてたら返事してー》
………。
《やっぱ無理―!》
「「やっぱ無理―!」だってー!」
カレンが世界樹の言葉を流すと、
「…そんな気はしてた」
「だな」
「ですね」
「だね!」
「僕も」
「でしょうね」
満場一致。少し同情する。特に、幼いルナと付き合いの薄いはずのコウキとミズキにさえ言われてることが致命的。
《うわーん!》
強く生きて。…でも、これまた流れるか?
《えぐっ、えぐっ…。あ、でも、シュウもシキも、カレンも笑わなかった…。それでいいや。うん。いい加減、知ってることを教える。後で纏めて伝えてあげて。ただ、そんなに知らないよ?》
流れはしなかったけど…、今度は速攻だな。真面目に聞こう。
______
《という感じ》
「了解。待って。一回整理する」
「私も脳内でまとめますね」
そうしたほうが話しやすいからね…。
「じゃー、ボクは皆に世界樹の言う事を右左するー」
「…ん。お願い」
《!?うそん。これって、樹同じ話をもう一回しないといけない系?…あれ?ねぇ、ねー!うわぁ。親二人聞いてねぇ。まぁ、やるけどさ…》
この湖は元々ディナン様と話した種々の泉──「子宝」や「誓い」、「供物」に「待ち人」等々──だった。けど、それらが合体。そうして出来たのがアレ。だから複合泉。
泉が湖になったのは神話決戦の時。湖底は深いみたいだし、瘴気の汚染が最もひどかった地域がエルフ領域らしいから、大激戦地にでもなったんだろう。
合体によって湖の効果は前と変わった。だけど、世界樹は合体前の泉、後の湖とも詳しい原理はラーヴェ神から教わっていない。そういうわけで、世界樹自身の複合泉における観測結果からの推測ぐらいしか情報がない…と。
ただ一つ確実なのは、この湖はあの光景…『白と黒の旅路』が起きていようが、起きていなかろうが、常にここにあると言うこと。つまり、あの日上に行くまでの間の挙動は、時間つぶし以外に何の意味もない挙動だったということ。
…で、この湖は『白と黒の旅路』が起きているときに、湖の上で、「いつかこの人の子供が欲しいなー」と互いに思っている二人が、「この二人の子供になってもいーよ!」という魂があるときに、愛を誓って、魔力を捧げたら、ああなるんじゃない?
…と。子供の件は無視しよう。うん。思ってないと言えば嘘になるけどさぁ…。ここは考察不要。
前半部も考えなくていいな。後ろ…「魂」の部分…も要らないか、干渉できない。「愛を誓う」部分は告白だよな。そして「魔力を捧げる」はたぶん指輪作成のアレかなぁ?
見事に条件を満たしにいってるな。そりゃ解説途中に逆切れ染みた弁解として世界樹に「あそこで魔法使うとか予想できないよ!ていうか、この湖がこうなるのだって、初めてなんだよ!?ぶぁぁあぁか!」って言われるわな。しかも「ぶぁぁあぁか!」は世界樹が人だったら間違いなく涙目だ。
…うん。なんかごめん。起動条件はこんな感じかな。
そして肝心のコウキとミズキの作り方は、まず俺らを湖に叩き落とす。材料である精子と卵子を採取し、受精。そして、俺らから取った魔力(紙)と愛の証(指輪と剣)に籠った愛を使って、魔法を用いて受精卵を成長させる。
この時、成長は魔力が足りていれば一番都合のいいところでたぶん止まる。足りなかったら、どっかで止まる。
こんな感じか。
愛を使うのはラーヴェ神らしいといえるかな。転生させるのも…彼女らしいのかな? 前世で後悔のある人にやり直しの機会が与えられるし。
でも、転生は今回の場合、即戦力になるほうがいいから構わないけど、普通は困りそう。
まさかとは思うが「赤子を直接押し付けられても困るだろうから、そこそこ育ったのあげるー!」とかいうふざけた理論ではないよな? …うん。ないな。
とりあえずこんな感じかな? 纏めて話そう。
《あ!そうだ、二人に見て欲しいものがあるの!》
「皆、なんか世界樹が呼んでる」
「ついて来てくれますか?」
皆コクっと頷いてくれた。…なんか妙に声が焦ってたな。詰られると思ったのかな? さすがに説明を聞いて詰ろうとは思わないはずだけど。
《正門の方…、前に入ったところに来て-!》
了解。じゃ、行こ…、
「とっお、ルナ。飛びついてきたら危ないでしょ?」
「ごめ。でも、とうたまと、遊びたい」
…? あ、なるほど。ルナはたいてい四季が抱っことかしてたもんね。
「世界樹。危険はある?」
《あったら樹が死ぬ》
あ。うん。
「なら、習君、らかまってあげてください」
四季の言葉にルナの顔にパッと花が咲く。拒否できんな。『身体強化』して…っと。これでよし。それだけでルナは嬉しそうにはしゃいでる。
「ミズキ、僕はいいから君も母さんにやってもらえば?」
「なっ!?ばっ、馬鹿じゃないの!?アタシ、そーゆー年じゃないのよ!?」
「母さん。照れ隠しだから。やってやって」
「ちょおぉぉぉ!?」
四季が困ったようにこっちを見てくる。
四季の思っている通りやってあげて。そう手で促すと、四季はコウキに詰め寄るミズキを流れるように抱き上げた。
「えっ、ちょっ…。母さま!?恥ずかしいから止めてよ!?」
あまりに自然だったからミズキは一切抵抗できずにスポンと腕に収まる。
「恥ずかしいと言っても、見られる可能性のある他人はエルフさん達だけ。そして貴方は末っ子。何もおかしくはありませんよ」
「なるほど…、とはならないわよ!?アイリ姉さまとかレイコ姉さまの方が…」
「アイリとカレンの方が小さくて、妹に見える」と言い切る前に察したね。
あんまり気にしてないみたいだけど、最近、背の高い妹達が増えて気にする度合いが増してるみたいだからなぁ。少しだけ地雷度が上がった。やっぱり話しとくべきだったか?
「気にせず行きますよ。ほら、ミズキちゃん。エルフの街ですよ」
「えっと、確か…ガワだけ作ったんだっけ?」
「えぇ。そうですよ。あ、私の髪がついちゃってますね」
四季がミズキの顔についた髪を取る。…ん?
「「ミズキ(ちゃん)?」」
「にゃ、にゃによ?」
やっぱり。泣いてる? 何で?
「母さん。撫でてやって。ミズキはそうやって触れ合えるのが嬉しいのさ」
コクっと頷いてなでる四季。抱かれるのは恥ずかしいと言っていたミズキだけれども、それを抵抗することなく、寧ろ気持ちよさそうに、嬉しそうに受け入れる。
「ルナも」
了解。お姫様の仰せのままに。
同じように抱かれながらも、ルナとミズキの表情は対照的、けれど、二人の中に宿っている気持ちは同じ。ちょっと不思議だ。
《あ。正門はギルドに入って、ギルドの関係者以外云々を盛大に無視して中に入ってもらえればつくよ》
盛大に無視って…。あぁ。なるほど。ギルドに入った先、誰もいない受付的な台を乗り越えて…、そのまま裏に。
人がいたら出来ない…というか部外者がやっちゃダメな行動だな。
…にしても、今日のルナは甘えたさん。ちょっとでも手を休めると「撫でて!」と言わんばかりに手に頭をぐいぐい押し付けてくる。落とさないようにしつつ撫でて、歩くのは少し大変。
かつて通った世界樹内部への入り口。そこを抜けて少し前に通った大広間に到着。
《中央…、なんか円形になってるでしょ?そこに乗って》
広いから全員余裕持って乗れるね。ありがとう。後、出来れば前みたいに無駄な動きをしないでくれると嬉しい。
《カレンの信頼のなさが辛い》
「たぶんおとーさんとおかーさんもだよ?」
《無駄な動きをされると思ってる。》
カレンも同じことを思ってたのね…。
《うわぁ…。顔的にカレンの言う通りじゃん…。泣きたい》
罪悪感が…。
《樹だから泣けないけど》
霧散した。この世界樹も世界樹でよくわからない。
《あ。純粋に時間かかるから、適当に時間つぶしといて》
なら、
「時間がかかるみたい」
「ですので、皆で話をしましょう」
コクっと頷いてくれる。
《話ならその辺に座ってやればいいよ。綺麗にしてあるから》
「「ありがとう(です)」」
手で座るように促して…、ルナを優しく降ろしてあげる。一瞬、悲しそうな顔をしたけれど、ルナはするすると離れてくれた。
のはいいけれど、ルナはコウキを引っ張ってきた。
何がしたいんだろう? ぐいぐい手を引っぱってるから、倒そうとしてる? 喧嘩ではなさそうだけど…、そのまま倒されると俺に当たるんだけど。
「座りぇ」
あぁ。なるほど。やっとルナが何をしたいかわかった。触れ合う時間を作りたかったんだ。
「おいで。コウキ」
呼べば、ちょっと顔を赤くしてコウキがこっちに。撫でる…のは一回だけにしておこう。きっと恥ずかしいだろうから。
やっぱり俺らに比べると小さい。当然か。前世はわからないけれど、少なくとも肉体は俺らより若いんだもの。やっぱりもう少し撫でよう。恥ずかしそうな顔をしていたけれど、それ以上にミズキ同様、嬉しそうな、でもそれでいて悲しそうな顔をしているから。
ありがとね。ルナ。「後で」的なことは言っていたけど、うまく機会を作ってあげてくれた。感謝の気持ちを込めてルナを撫でると、蕩けるように破顔して、遠慮がちに触れとせがんでくる。…まぁ、腕は二本ある。コウキとルナだけなら何とかなる。
「なかなか混沌としてるが…、何の話をすんだ?」
「とりあえず、自己紹介」
いくらコウキとミズキが俺らの記憶を持ってる(たぶん一部)とはいえ、本人からされるのとでは違うだろうしね。
「お父様とお母様もなさるのですか?」
「そりゃあ、しますよ」
「二人にした記憶がないからね」
したところでこの子らの呼び方は「お父さん」とか「お母さん」とかから変わらないのは間違いない。だけど、向こうに帰ってから、もしくはこっちで友人と再会した時に「森野(清水)いる?」って聞かれたときに「?」って首を傾げられると困る。
全員でさらっと自己紹介を済ませ、次は…、地雷の話もしておこうか。少し不快になるかもしれないけれど、知らないまま踏み荒らすよりはマシだろう。
…でも、これは俺がコウキに、四季がミズキに耳打ちでやっておくほうが良いな。他の子らは悪いけど、ちょっと内々で遊んでてね。
ひとまず、皆に共通するであろう最大最凶の地雷が「俺ら」関係ってことを押さえてもらえばいいよね。馬鹿にすることは論外で、不利益になるようなことも基本避けようとする。それがこの子ら。
…既にこの子らも、その気はあるけど。後の地雷は扱いが微妙なものラッシュだな。
アイリは「呪い」関係。もはや気にしていないらしいし、見てる限りもそう。飴を基本的にいつも食べてるのもその名残だけど…、触れない方が良いよね。聞きたきゃ覚悟して聞いてね。
カレンはハイエルフってことだな。外では禁句。本人は気にしていないけれど、俗人に触れられると面倒だ。ついでに露骨な性別の話題も。「無性だよー?」って言われるとすぐアウト。カレンなら言わないだろうけれど。
後、さっきも言った…、言ってないわ。アイリもカレンも背丈。周りの巨大化に危機感を若干覚えているみたい。
ガロウとレイコは同じで、「神獣」関連。特にレイコで気を付けてあげるべき。変に敬ったりして、悲しい顔をさせたくはないしね。
後、獣人領域では触れないように。「神獣」の概念は殺してきたけれど、完全に息の根を止められていないかもしれないから。
ついでに、ガロウとレイコは相思相愛ってこともかな? そっとしておいてあげて。勝手に進むよ。俺らより若いんだし。
ルナはほぼない。外見と中身がまるで噛み合わないってことを押さえておいてくれればそれでいい。後、たぶん公称皇帝ってことも。
今なら「だから何?」で流されるだろうけど。大きくなったらどうなるかな? こんな感じかな?
「逆にコウキとミズキには?」
「僕?強いて言うなら転生者扱いよりは、二人の子供扱いして欲しいってことかな」
「それは言われなくても大丈夫」
初対面の時、あの時の「父さん、母さん」あれで十分に伝わってるよ。
「そっか。なら、たぶんないよ。あ、前世の話は思い出したらした方が良い?」
「一応、お願いする。コウキのこと、ミズキのことが知りたいから」
「わかっ。
何かに繋がるかもしれないし。情報はあるに越したことはない。
「「あ」」
「「どうぞ」」
…どうぞどうぞの動作までコウキと被った。
「僕のほうが大事じゃないから先に言うね。今更だけど、ミズキと僕は前世でも兄妹だと思うよ」
「そんな気はしてた」
二人とも妙に息が合ってるからね。
「じゃあ、父さん。どうぞ」
ん。ありがとう。
「あ。待ってください習君。こちらも終わったので、ミズキちゃんにも聞いてください」
聞こうとしたら割り込まれた。同じくらいの時期に終わったのね。なら、好都合だね。佇まいを四季と整えると、二人も揃って整えた。
「二人とも、俺達が帰るとき、」
「向こう…、私達の元の世界まで一緒に来ますか?」
これは確認しておかないといけない。
…これを聞くのは慣れない。何回やったって、答えを聞くまでの間、脈拍が上がって、緊張で汗が噴き出てしまう。
「僕は勿論ついてくよ」
「アタシもよ。今度は最後までいるわ」
口からホッと息が抜ける。
「わかった。よろしくね」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
「宜しくお願いするわ!」
出来ればこれを聞くのは最後にしたいけど…、まだルナがいるんだよねぇ。
「…さすがお父さんとお母さん。全然付き合いないはずの二人も一緒に来るって言わせたね」
なんて答えればいいのやら。でも、付き合いという意味ではそうだね。一日すら経っていない。
「それは簡単だよ。アイリ姉さん。二人が帰る時が来たら…って考えなかったとは言わないけど、そんな時間ないかもしれないしね。僕等のことを考えてくれてるのは分かってるし」
「そうよ。だから即答できるのよ。あり得ないだろうけれど、翻意したらそれはそれで受け入れてくれるでしょうし」
…だろうなぁ、寂しくはあるけど、受け入れるだろう。
《つくよー!一応、目を閉じたほうが良いよー?》
ん? ーッ! 眩しい!
《あ。ごめん。遅かった》
「遅いよー!」
「あの空気に割り込めないでしょ」
「ですね。怒らないで上げてくださいね」
眩しさからまだ立ち直れていないけれど…。あ。やっと慣れてきた。
目を開いた先、そこでは圧倒的な魔力が白と黒の力の奔流を伴い、力強くも優しく発光している。
思わず目を取られそうになるけれど、目を凝らしてよく見ればそんな流れにも規則性があって、かなり大きな球体の空間のなかで所せましと何らかの文様を描いている。円や四角はもとより、球や正方形といった種々の幾何学模様が複雑に組み合わさったような、そんなもの。
まさかこれは…『帰還魔法』か?