197話 湖再び
「習君、そろそろ動いても良いですよね?」
四季と夫婦になり、謎の体調不良に苛まれて五日が経過した。
「何時までたっても、貴方にだけ任せて寝ているのもいい加減心苦しいのです」
「俺の完全復活は経過観察日を入れると、落ちてから三日目。まだ二日しか経ってないけど?」
「何時まで」という長さではないはずだけど…。
「習君。そう言う問題ではないのです!というかですね、そもそも、昨日にでも私、動けたんですよ?」
「知ってる。でも、念のための経過観察日なんだから。俺も四季に言われて取ったけど、俺だって四季のことが大事なんだよ?」
四季の顔が朱に染まる。好きって言う前はそうでもなかったのに、言ってからの方が恥ずかしい。
「で、では今日は動いてもいいのでは?」
「だから、それは四季の体調を調べてから。というか、何故そこまで動こうとするのさ」
「だって、習君にばかり迷惑をかけていられませんから!」
ちょっと紅に頬を色づかせて言う四季。
「でも、地球の結婚式では「病めるときも健やかなるときも…以下省略」ってあるよ?」
「ですね。いつでも一緒にいたいと思ったから指輪を貰ったわけです。が、それが当たり前だと思われるとムカつきません?」
確かに。
「…これ以上は平行線だよ。二人とも」
「だな。二人ともが互いに好きで大事って以上進まねぇよ」
「口論は止め、お父様はお母様の体調確認をなさるべきです」
あ。うん。わかった。
えっと、脈は…ちょっと早い? それに熱は…少し高い? …いや、これはガロウに「互いが好き」って断言されたからだな…。早く慣れたい。
「習君、どうです?」
「おそらく大丈夫。でも、湖だよ?」
「わかってます。でも、私は貴方がくれた指輪を早く見つけたい。その気持ちを押して一日待ったんです」
…翻意は無理か。
「かあたま、とうたま、大好きにゃね」
「うえっ!?そ、そうですが…、あぁ、もう!行きましょう!」
一気に四季が真っ赤になる。
「四季、俺も大好きだよ」
「にゅっ!?何でいきなり…、」
四季が動揺してて可哀そうだったから。…まぁ、すんごい恥ずかしいけど。
「私も大好きですけど…」
はい可愛い。
「行こうぜ。皆」
「え、えぇ。行きましょう!」
「だね!」
ガロウの言葉に乗ってさっと立ち上がって廊下に…。って、皆、そんなもっと見ていたかったのにみたいな顔しない! ついでにガロウをキッと睨むのも駄目!
「そ、そういえば、外に出るのは五日ぶりですね!いくら体調不良だったとはいえ、いささか体に良くないのでは?」
「だと思う。でも、入院とかしたらざらにありそうじゃない?」
「それって、動けないってことですから、もうすぐお迎え来ませんかね…」
…それもそうだ。
「…露骨な話題逸らし」
わかってる。けど、指摘しないで、羞恥で死ねる。ええい、建物の外に行こう。
ドアを開け放って外に…、ん? あれ? ナニコレ。
何でこんなに立派な街が? カムフラージュで街をつくるとか言っていたけれど、このレベル?
建物は全て茶色で統一された木…というか木の根で出来ている。だというのに、街の色合いは単調になることなく、茶の濃淡で見事に美しい街並みを形成している。
とても数日でここまでの街になったとは思えないけれど、建物の放つ独特の新品感がそれを雄弁に裏付けている。
この街並みを見る限り…、
「中心はギルドなの?」
「みたいだよー」
「姉ちゃん。ギルド以外は全部エルフ達が作り上げたのか?」
…ん? ギルド以外? 後ろを見てみる。…街並みに比べて古いな。
「そーだよ。ガロウー」
「あの。お父様、お母様。どうなさいました?」
ん? ああ。ごめん。
「今更だけど…、このギルドっていつからあった?」
「父ちゃん達を引き上げた時には既にあったぞ」
ということは…、やっぱり最近つくられたモノじゃない?
「これってどうやって作ったんだ?」
「街を含めすべての建物は木の根を加工して出来ているようですよ」
木の根で出来てるのはあってたのね。ということは、
「カレン。もしかして、この建物って世界樹が引っ込めたり、壊したりできる?」
「出来るみたいだよー。かこーは無理でもー、破壊は一瞬ー」
カレンの答えは思った通り。じゃあ、何でだ。何で町は壊されたっぽいのにギルドは残った? いや、それよりも、
「カレンちゃん。リャールはギルドに触れましたか?」
「待ってー。…ないってさー。一片たりともー」
だから本とかもそのままか。破壊された街と傷一つ付けられなかったギルド。…どこに差が?
「父ちゃん。母ちゃん。俺が見る限り、リャールの頭は若干イカれてたぜ?考えても無駄じゃねぇか?」
「こら。ガロウ。そんな汚い言葉を…」
…むぅ。確かに。ちょくちょく論理破綻してたしね。世界樹破壊しようとしてるのに幼子云々とか、その最たるもの。
「行くの!」
「あぁ。うん。だね」
「ですね。行きましょう」
ルナが俺らを引っ張って歩き出してしまった。切羽詰まってるわけでも、超真面目ってわけでもないから、動きたくなったのかな?
動くのはいい。いいよ。でもさ、そっちは湖じゃない。湖はギルドの裏手…、世界樹をぐるっと回ったところ。そっちはたぶん大陸の端…。
あ。軌道修正した。ちゃんと道を覚えてるのね。偉い。でも、もうちょっと歩きやすい道を選んで欲しい。ここ、世界樹が近すぎて根が天然のトラップになってる!? めっちゃ歩きにくい!
四季とたびたび衝突しそうになりながら、なんとか抜けた。怒ったほうがいいんだろうけれど、ルナがこんな悪路もこけずに無事に歩き通せたことが嬉しい自分がいる。…でも、今度は止めたほうが良いよね。せめて引っ張っていくのは止めよう。
「さて、湖につきましたが…。相変わらず大きいですね」
「だね…」
見つかるのか不安になるけれど…、見つけてみせる。
さて、魔法の準備。書くのは『撥水』でいいだろう。これとガロウの『輸爪』があれば水中の移動は事足りる。四季から紙とファイルを貰って、書く。
「なぁ、父ちゃん」
「ん?何ー?」
よし、撥は書けた。魔力が馬鹿みたいに籠ってるわけじゃないからものすごく素直。
「湖ってこの湖で良いのか?」
? どういうこと…、とりあえず、書き上げた。
「あの湖もさ、世界樹の若芽あった場所よろしく異次元にあるんじゃねぇの?」
聞かなくても察して答えてくれた。…確かに。しかもあの幻想的な風景。むしろその可能性は高そう?
「カレンお姉さま。どうなのです?」
「待ってー。………」
いつもに比べて圧倒的に返答が遅い。
「ようりょーを得ないけどー。そうっぽいー?あの場所はあの時しか行けないらしーよ?」
え゛。となると…、次は25日後ぐらい? 長すぎる…。流石にそれまでここで時間を潰すわけにはいかない。
「…でも、お父さん。お母さん。あの時暗かったけれど、位置関係的にはこの湖のはずだよ?」
「そうなの?」
「…ん。だって、わたしの戦闘跡があったもん」
アイリがピッと指さす。その先に不自然に荒れた大地がある。今なら辛うじてわかるけど、よく暗かったのに見えたね…。
「…お父さんとお母さんを見てたらたまたま目に入ったからね」
アイリらしい。…ん? それって、暗くても偶々目に入るほど凝視してたってことでは?…それこそ、アイリらしい? …まぁいいや。思考放棄。
「結局、どうなんだ?ここなのか?それとも別世界の湖なのか?」
分からない。あの世界は実は鏡面世界だったとかも十分ある。でも、
「25日も大人しく待つほど、」
「私達はじっとして居られません。無駄でも構いません。一回くらい。探りましょう!」
ルナも一回、魔人領域に連れて行かないといけない。帰還魔法も探さないといけない。両方、待たせてる。そして、動いている間に次の時期が過ぎてしまえば目も当てられない。だから、動く。
「ガロウ。『輸爪』を」
「了解」
カレンがルナと一緒に輸爪に。それ以外は一人一基。
「さ、行くよ」
「「『『撥水』』」」
ピカッと紙が光って…、何故か湖も光り出す。
「ちょっ…、一体何だってんだ!?」
その気持ちは分かる。でも…、
「下がれ!ガロウ!」
「もうやってる!」
ならいい。場数を踏んで慣れてきたかな?
「あ。光が晴れて来ましたよ…」
今のところ光に敵意は無さそう。だけど、湖面がコポコポ泡立っている。何が出てくる?
警戒する俺らの前で湖面がゆっくり盛り上がる。二人ぐらいの人影があるような。後ろ手に組んでいるから警戒を怠るわけにはいけないが。
「父さん。母さん。二人が落としたのはこの指輪ですか?」
「それとも、この剣ですか?」
「それとも…、」
現れた人影は水に包まれたまま喋り、言葉を切る。そして…、
「「我々ですか?」」
何故か包まれた水から指輪と剣を突き出して問うてきた。…なるほど。そう来たか。
「金銀の斧ですかね。これ?」
「かもね。だとすると、何と答えればちゃんと指輪が返ってくるか…」
「そこが問題ですね。グレードアップとか不要ですもんね」
「…二人とも、現実見て」
あ。やっぱり?
「やっぱり聞き間違いじゃなかった?」
「…うん。聞こえたよ」
「俺もだぞ」
「私もです」
「ボクもー!」
「ルナも!」
そっか。ルナもかぁ…。じゃあ、「父さん、母さん」は聞き間違いじゃないか…。
「なぁ、父ちゃん、母ちゃん。何で二人はそんな顔してんだ?」
「「いや、するでしょ(う)?」」
水はもう湖に還った、だから、彼らの顔を見て欲しい。それでわかるから。
「ええと…、貴方の言葉はどういう意味で?」
ほぼ察してるけど。確認。
「字義通りの意味だよ。父さん」
にこっと微笑みと共に返す男性。
…やっぱりかぁ。よくよく考えれば、カレンの時の「おとーさん、おかーさん」と同じ響きだった。現れた二人組はお揃いの服を着た男女。
男の方は身長165 cmくらい。黒髪黒目、髪の長さは男子としてはちょっと長いくらい。女の方は身長160 cmくらい。茶髪黒目で、髪は肩より下ぐらいまで。
そして、男が語った「字義どおりの意味で」を体現するように、二人の顔つきは俺と四季に似ている。というか、俺と四季を足して、よりかっこいい or 可愛いようにした感じ。
男は俺よりも四季に似たのか大人しそうに見える。女は四季よりも俺に似たのか少し活発に見える。…俺自体はそんなに活発ではないけれど。
後、女の子の方は俺らよりも色素が薄いからか肌がちょっとだけ白い。
とはいえ、全体としてみれば。親と子と言っても普通に通じてしまうくらい似ている。というか、年齢が似たようなものだから兄弟でも通じそう。
「ねぇ、父さま、母さま、いい加減答えてくんない?」
「ん?何を?」
「え゛」
「「え?」」
あれ? 何か聞かれてたっけ…。
「指輪が云々とか聞いたでしょうがぁ!?」
女性が叫ぶ。そういえば聞かれていたね。なら、返答は一つ。
「落としただろうって断定できるのは、指輪と剣と紙だけ」
指輪と剣は断言する。
「それが返ってこれば後は不要…とは言いません。が、」
「「二人はどうしたい(ですか)?」」
二人の処遇は決めないよ。
「えぇ…。そうくるの父さん、母さん」
「アタシとしては、決めてくれた方が楽なんだけど!?」
だろうね。でも、やらない。だって、二人は考える頭はあるから。
考えられるならば、自分で納得して決められるはずだ。将来、この決定に後悔するときがあっても、誰かのせいにしてずっと進めないなんてことはないはずだ。
たとえ選択肢が一個しかなくとも、こうすることで押しつぶされてしまうようなことがあっても、きっと、何度も何度も同じことをやらかしてしまうよりはずっとマシなはずだ。
だから、聞く。幸い「すぐに言葉を与えないと消えてしまう」といった状況でもないのだから。
「父さん達は意見を変える気はないかー」
「でも、問われる前からアタシらの答えは決まってる」
男は飄々と言い、女もそれに続くように軽い調子で言った。だが、一転して顔を引き締め、
「僕は二人と、皆とともにありたい」
「アタシが、あんたらの子になってあげる!」
真面目なトーンでそう言った。なら、了解。詳しい話は聞いてないけど、俺らは君らの親…。
「…何で上から?」
「うえっ!?言葉のアヤよアヤ!その殺気を引っ込めて!」
ヌッっと出てきたアイリに女の子が見事に潰されてる。ツンデレみたいなこと言うから…。
「父さん。母さん。あれ、放っておいていいの?」
「いいよ」
「ですね。今のうちに盛大に地雷原を突っ切っておくほうが楽でしょう」
後で起爆されるよりはずっとね。
「それより話を聞かせて。名前は?」
「名前はないよ。僕も妹も」
「なら、決めるか」
四季と話をしようとしたら手で制された。
「待って。話せることは話すよ。忘れてることの方が多いんだけど…」
忘れてる? …いいか。今は集中して聞こう。
「えっと、僕と彼女は双子で…、DNAだっけ?遺伝子だっけ?その辺りは遺伝子検査しても父さんと母さんの子供って結果が出るよ」
ものすごく聞き捨てならない言葉が…。いや、黙って聞こう。
「DNAとかの言葉を知ってるのは二人の記憶を遺伝子情報…、要は、精子と卵子を取るときにコピーしたやつを貰ってるからだよ」
待って。待って。無理。黙って聞いてられない!
「父さん。母さん。気持ちは分かる。けど、落ち着いて。これよりもっと驚くことがあるから」
苦笑いする男の子。あれ? 言葉に出てた? いや、きっと内心を悟られてる。それだけの話をしている自覚はありそうだしね。
「実は僕も妹も転生者。ただ、この世界の魂で、前世の記憶はほとんどない。僕の境遇の記憶は…、最近4人組に倒されたことぐらい?妹は…樹が云々とか言ってたような」
…そりゃ落ち着いてって言われるよ。衝撃がでかすぎる。待って。
「整理しますよ?えっと、貴方の話を纏めると…」
「転生者(記憶ほぼなし)の遺伝子学上は完全に俺と四季の子。それが二人?」
コクっと頷いた。さすが異世界。それしかないわ。
「この前、アイリちゃんと話したばかりで、処女懐妊ですか…」
なんか四季が聞きとりにくい声で何かつぶやいてる。きっと、親に会った時どうするかを悩んでるんだろう。
俺もどうしよう。地球に帰れれば四季の実家にも行かないといけないわけで…。どうやって説明しよう。普通に殺されそう。それこそ「挨拶に逝く」になりそう。
実子じゃないよ作戦は不可。どっかで遺伝子検査されたら一撃でバレる。…後で考えよう。棚上げだ。
「その辺りは了解。で、いつからここに?」
「五日前。二人がこの湖に落ちてから。受精卵からここまで謎の力で育った。って感じかな?」
映画の中のクローンとか、ホムンクルスの作り方みたい…。
「原理は知らないよ。妹も知らないはず。でも、ここは『複合泉』もしくは『樹宝湖』だから…」
ぐらっと大地が…というよりは世界樹が揺れた。なるほど、語るに落ちたな。世界樹。
「…やっぱ〆る」
「落ち着いて、アイリ」
女の子と遊んで? たはずなのに、変わり身早いよ!
「カレンちゃんもですよー」
「むー!」
俺と四季で二人を宥める。明らかに世界樹が絡んでるけど、やめたげて。
「後で絞ればいいから」
「ですよ。後で吐かせましょ」
よし、納得してくれた。ほっとくとガチで伐採されそうだし。
「えっ、吐かせるの?父ちゃん、母ちゃん?」
「しかないでしょ」
怒る気はない(あんまり)だけど、わかってそうなのに黙られるのは非常に困るからね。悪いけど、知ってることは教えてもらう。
「世界樹よりも名前ですね。決めましょう」
そっちのが大事だね。いつまでも男の子とか女の子とか言ってられない。
「二人は希望ある?前世のがいいならそれにするけど?」
「前世の名前はアタシら覚えてないって言ったでしょーが!」
あっ。ごめん。
「そんな暗い顔しないでよ!覚えてても付けてもらう気だったし!」
「僕も」
そっか。なら、ちゃんとつけさせてもらおう。
「双子ってことを活かす?」
「活かしましょう。何もなしよりかは遥かに決めやすいですもん」
なら、響きを似させるか、字を同じにするかがいいけど…、この二人なら響きよりは字のほうがよさげ。名前の響きだと性別と名前のイメージが合わない可能性があるから。
「字を使うなら…、やっぱり「樹」かな?」
「世界樹が絡んでそうですものね。それがよさそうです。その字は後ろに置きましょうか」
「それがいいね」
前に置くと響きが似るだろうから、聞き間違いが起きそうだ。そうなると、少し悲しい気分になりそう。そんな要素は除外する。
そして、「樹」を使うなら、読みは「き」がいいかな。この子らの外見的に「じゅ」にして洋風感? を出す必要は無いだろう。
「末尾はいいとして、他はどうする?」
「何か一文字と「樹」の組み合わせが一番、私達が一番重視するもの、もしくはそれにまつわるものを表現できそうですけど?」
「それがよさそうだね」
シンプルイズベスト。無暗に難しくする必要はない。
一番大切にしたいもの。そうなるとやっぱり「幸せ」かな? ……四季も顔から判断するに同じみたい。
「幸せ」は定義がしっかりいていないけど…、だからこそいい。自分で幸せだと思ってくれていれば、それでいい。
「幸せ関連だとパッと思いつくのは「幸」に「福」、「運」と「吉」…あれ?思ったより無い」
しかも「樹」と合わせるなら「幸」しかない…。
「「幸」の字は良いのでは?」
「…確かに。「幸樹」なら間違いなく読めるしね」
となると、これは確定。男の子だな。
「次です。次」
「了解。幸せ関連なら、範囲を広げると吉兆とか?」
いいことの前兆。それなら幸せと似ているような…。
「そうなれば「虹」や「初日の出」、「瑞雲」…って、これ違いますよね?現象名になってしまってますもん」
凹む四季。
「いや、凹む必要はないよ。いいヒントくれた。「瑞」を使うのはどう?」
「「瑞」ですか?となると「瑞樹」ですか…。うん。良さそうですよ。少し漢字が難しいですが、読めないと言う事はないはずです」
なら、決まり。…あ。どっちが上かわからないな。
「あのさ、どっちが上?」
「今世の話?わかんないわよ」
「でも、前世はたぶん僕のほうが上だよ」
了解。なら、悪いけどそっちに合わせる。
「兄は幸樹で、」
「妹ちゃんが瑞樹です」
嬉しそうに頷いてくれた。よかった。産まれたばかりの子と違って、頭があるから受け入れてくれるか、もっといえば気に入ってくれるかどうか。そこが最大の関門だからね…。
「あ。俺らの知識があるなら意味とか分かると思うけど…」
「説明は必要ですか?」
「一応、お願いする」
「アタシも聞かせてもらって…、あ。ごめんなさい。聞かせてください」
ミズキが微妙に上からの態度を取ろうとしてアイリ達の殺気に負けてる…。いくら地雷原特攻してもらうって言っても、話をした方が良さげだね。
「幸樹はほぼ読んで字のごとく。「幸」せの「樹」だ」
「樹のようにしっかり大地に根を張って、幸せという枝や葉、実をたくさんつけて欲しい。いっぱい幸せになって欲しい。そんな感じです」
「単純だね」
それは諦めて。
「そもそも私達の願いが雑に言えば「幸せになーれ」であって、」
「それが簡潔に伝わって欲しい。そんな名前だからね」
「了解。ありがとう」
どういたしまして…でいいのかな?
「次は瑞樹」
「瑞はちょっと難しいです。が、簡単に言えば「良いことの前兆」です。吉兆の次に来るのは「いいこと」でしょう。そんな考えが前提にあります」
「だから、ストレートには分かりにくいけど、幸樹とそんなに変わらないよ」
要するに「幸せなことが沢山ありますように」ってことだから。
「後、「瑞」は「瑞々しい」という言葉もあって「瑞樹」で「瑞々しい樹」とも取れます」
「こうとってもらうと、「いつでも健康でありますように」そんな感じの気持ちが籠ってる」
「前者の方を重視していますが、こっちも大事なので両方含有してると思っていてくださいな」
「ん。わかったわ。ありがとう」
良かった。…にしても面と向かって説明するのは少し恥ずかしいな。
「ちなみに、幸樹のほうもちゃんと、樹一字だけど「健康」であって欲しいって意味はあるからね」
「枯れないであって欲しい。そうでしょ?」
ん。そう。…なんだ、理解してくれてたんだ。
「というわけで、僕が「幸樹」で、」
「アタシが「瑞樹」よ!」
「「よろしく!」」
二人の言葉に姉達が歓迎の言葉を返して、何故かそのままくんずほぐれつ。…団子になるときに怪我しないようにって、配慮はあったから放っておいてもいいか。
これからよろしくね。コウキ、ミズキ。