196話 体調回復
最初習、途中アイリの最後習視点です
「…あ。起きた?」
「うん。起きたよ、アイリ。おはよう…ではないね」
外を見る限りとっくに太陽は南中している。だいたい南西くらい。ということは地球で言う3時くらい?
「…お腹すいたでしょ。ご飯食べる?」
「お願いしていい?」
「…ん」
アイリは読んでいた本を脇に置いて立ち上がり、準備してくれ始めた。
「俺が寝てる間に四季は起きた?」
「おとーさんが寝てからは一回もー」
俺と一緒に寝てから寝たまま…と。となると、
「たぶん四季も起きると思う、だから、四季の分もご飯作ってあげて貰っていい?」
「…ん。ガロウ。そこのレトルトキュラヴェ雑炊取って」
「あいあい。ちょい待ち」
あ。やっぱりレトルトなのね。…というか、何で起きるのわかるの? とか聞かないのね。
「…お父さんだし」
「ですね。大外れではないでしょう」
「…お母さんが起きなきゃわたしが食べればいいしね」
普通なら食べすぎだと思うけど…、アイリなら平気か。ん? いや、その前に。
「皆は食べたの?」
「昼まで寝て、起きてから私たちは食べましたよ」
「アイリねえたまが、一番、はやい」
アイリが一番起きるのが早かった…のかな?
「…そ。わたしが一番早かった。…ついでに寝るのもルナの次。…ガロウ。まだ?」
「ちょっと待ってくれ。ねぇんだけど」
「…え?ほんとに?…その前に、できたから、お父さんどうぞ」
「あ。ありがとう」
ことっとご飯を置いてくれた。布団の上で食べるのは汚れそうだけど…、今日は許してもらおう。いただきます。
「うん。美味しい。ありがとう」
「…ん。それほどでもない。…で、ガロウ見せて。…あれ?ないね。あれで最後だったのね…。お父さん。リヴェシュ雑炊でもいい?」
「いいと思うよ?四季ならアイリが作ってくれた毒以外のものなら何でも好きだと思うよ?」
俺だってそうだしね。
「…不味くても?」
「俺は頑張る。四季もたぶん頑張る」
「毒なら?」
毒!? それは…。
「悪いけど捨ててね?」
「だよな」
聞いたガロウが苦笑いしてるじゃん。そりゃ嫌だよ。流石に。「毒キノコ煮込み」とか、「漂白玄米」とか「鉱物油天ぷら」とか…。
「そうじゃないなら、満腹でも頑張るよ。あ。足の早いやつに限るけどね」
…そうじゃないなら許してね。まぁ、言わなくともこの子らも苦笑いしているからわかってくれているだろうけれど。
そういえば、今、3時だったよな…。食べない方が良かったか? でも、朝も昼も抜いてるし…。夜減らせばいいか。
「…食べないの?冷めるよ?」
「ん?食べるよ?」
折角作ってくれたんだし。
「ふわぁ…」
あ。四季が起きた。
「おはよう。四季」
「?あぁ。習君。おはよう…ではないですけど、おはようです」
だね。確かに「お早う」ではないね。でも、これ以外に知らないしねぇ…。
「習君。それは雑炊ですか?」
「うん。そうだよ。アイリが作ってくれたレトルト蟹雑炊」
眠そうに目をこすっているけれど、四季の顔は器をじっと見てるね。食欲はありそう。匙に掬って息を吹きかけて冷ます。四季の目の前に持って行くと、四季は一息に食べた、
「はふっ…。あったかくて美味しいです」
「だね。アイリが用意してくれたからなおさらね」
掬って食べる。…うん。やっぱり美味しい。四季にもまたあげる。それを交互に繰り返すと、量がどんどん減る。
「姉ちゃん。吹きこぼれてっぞ」
「うぇっ!?あっ…」
わたわたと火を消して後片付け。それが終わるとアイリが戻ってきた。
「…何で食べずにわたしを見てるの?」
「ん?アイリらしくなかったからさ」
「風邪をひいているのかと心配になったのですよ」
俺と四季の答えを聞いて、アイリは一瞬面食らったような顔に。
「…風邪はひいてないよ。ちょっとボーっとしてただけだよ。…ところで出来たけど、そっちはなくなった?」
そっち…? あぁ。ご飯ね。
「うん。無くなったよ」
「…ん。交換する」
すぐに器を持ってきて、空になった器と交換してくれる。
「ありがとね」
「アイリちゃん。ありがとうございます」
「…ん。気にしないで。わたしは幸せだから」
なんて言いながら器を撤収していく。
言葉通り、本当に幸せそうににっこにこだ、アイリ。ガロウとレイコも似たような感じ。少し頬が紅いけど。この子らも風邪ひいてないよね…?
ルナはカレンに取り押さえられてジタバタしてる。ルナ的にはかまってもらえてうれしいって反応だろうから、カレンの負担には無さそうなのが幸い。そのカレンも楽しそう。
「習君。下さい」
「あ。だね。今度は牛擬き雑炊だよ」
出来てすぐだからさっきよりも多めに冷まして…。
「どうぞ。熱そうだったらもっと冷ますよ?」
「はふっ…。これでちょうどくらいです。ありがとうございます。それに、一杯分を少なくしてくださっているので、中が高温で火傷するなんてオチも無さそうです」
そっか。それはよかった。また冷まして、どうぞ。食べてる間に、まだ俺、足りてないし貰っておこう。
…アイリ達はさっきと何も変わってない。全員、楽しそうに笑ってる。…罪悪感が凄い。そこまでアイリやみんなに心配をかけちゃっていたんだな…。
「習君。もう食べないんです?」
「うん。夜も近いし、既に結構食べてるしね」
四季の口元に匙を持って行く、ぱくっと四季が食べる。
「四季はどう?食べきれそう?」
「これは食べきれますね。夜は…不安です。なので、両少な目で栄養あるものお願いしてもいいですか?」
「了解。とはいえレトルトになるだろうけど、考えて取っとくね」
「お手数おかけしますが、よろしくお願いします」
また匙を持って行く。四季が食べる。それを数回繰り返すと空になる。
「「ご馳走様でした」」
「…ん。お粗末様。お皿は貰う」
「「ありがとう(ございます)」」
相変わらず笑顔のアイリが器を撤収。いつもよりも数段テンション高めで動く。
「姉ちゃん。手伝い要る?」
「…要らない。数もないし、匙も一本で済んだし」
「だな。匙が一本で済んだもんな」
何故に二人はそんなに匙の本数を気に…あ。あぁ…、あー。なるほど。四季は…、顔真っ赤。これは四季も気づいたね。
…本気で俺は何をしてるんだろうか。仲のいいカップルが食べさせ合いっこをしているのは見るけど…、同じ匙でご飯を食べるってどうよ?
しかも、四季も俺も体調が万全じゃないのに…、いや、よければいいってわけじゃないけどさ…。あー! もう! 何回間接キスしたのやら。普通にするよりなんか恥ずかしい。
そりゃあ皆、食事中にあんな反応するわ…。
アイリは筋金入りの俺ら大好き。ガロウとレイコはそれにちょっと劣るけど似たようなもの。ただ、この子らは互いを好き合ってるけど進まない、ちょっと前の俺ら状態。だからたぶん俺らと自分達を重ね合わせて赤面。
ルナは楽しそうだから混ぜてもらおうとして、カレンはそんなルナを妨げる…。
うぅ…。皆の反応に理由のヒントあったじゃん。でも途中で気づかない方が良かった?変に意識したら二の句が継げない自信がある。
何でこんなことを…、って簡単だよなぁ。単純に俺も四季も頭回ってない。寝起きかつしんどいというダプルパンチはここまで効くか…。
「…お父さん。お母さん。どうするの?」
この状況で平気でブッ込めるアイリがすごい。ジト目で見返すと、アイリの顔に「何でそんな顔されるのか分かんない」って文字が浮かんできた。狙ってやったんじゃなんかい。
えっと、気分を切り替えて…。
「コホン。四季、動けそう?」
「むぅ…。早く探しに行きたいのはやまやまですが、はっきり言って今日は動きたくないです」
そっか…。
「あ。習君は、私に配慮しなくていいですよ。動けるなら動いてください」
…四季を見とこうかと思ったけど、ずっと居られても困るよね。特に今は羞恥からか顔も合わせてくれないし。
なら、指輪捜索か、情報集めか…。だけど、情報集め一択だな。今のところ俺にも四季にも何もないけれど、これからも何もないとも限らないし、あのあたりの情報が欲しい。
なにより、泳ぎに行ったらすぐにばてそうだしな…。余計に心配かけてどうするんだ。
「情報集めに図書館に行こうと思うけど、何か欲しい本ある?」
エルフさん達は復興で忙しい。いくら見栄の部分とはいえ、邪魔するべきではないだろう。だから図書館。
「本を持ってきていただいても、寝落ちしそうなので今日はいいです。それより、頭が完全に回っているとは言いがたいですが、話が聞きたいです」
「…なら、わたしが残る。…いい?」
くるっとアイリが辺りを見渡すと、俺を含めた子供たちが首肯する。
「俺らは父ちゃんについてくぞ」
「あまり数がいてもお母様にご負担をかけるでしょうからね…」
「ルナー。おとーさんと行くよー」
「うにゅー」
あれ? もう行く体制出来てる。…ちょっと数が多い気がするが、いいか。行こう。
「じゃあ、行ってくる。四季は無理しないでね。アイリも話すのに夢中にならないように」
「わかってます。行ってらっしゃいです」
「…ん。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
部屋の外に出て戸を閉める。さ、図書館に行こう。
_____
「…こんな感じだったよ」
…とりあえず、お母さんにあの時の話をお父さんや妹、わたし、各々の視点からの情報と所見を交えて話せたね。
…しんどいって言ってるからしんどいはずなのに、聞いている間ずっと──今もだけど──顔はきりっとしてる。恥ずかしがって赤くなってたお母さんとの落差が凄い。
…そんな落差もわたしは好きなんだけど。
「話を聞く限り…、どうも高位存在が関わっていそうですが…、それがわかったところでだから何なの?って感じがしますね」
「…世界樹も、ラーヴェもおいそれと手が届くものじゃないもんね」
世界樹は脅したけど口をつぐむし、ラーヴェは接点がない…。強いて言うならシャイツァーで、脅したこともあるけど…。答えてくれるわけ無さそうだし…。
「とはいえ、世界樹等の高位存在が関わっているからこそ、不安にならないこともない…のですが、だから習君達が情報収集に行ってくれたんでしょうし、今は放置で」
「…むぅ。むずがゆいね」
面倒な。
「ですけど、悪いことばかりではないですよ?」
?
「少なくとも指輪と剣は見つかりそうです」
どう言うこと?
「根拠と言うには弱いですが、世界樹はラーヴェ神の作成物です。そのラーヴェ神は愛の女神。である以上、その二つ、すなわち「愛」に関わるものを奪ったりしないでしょう。返ってくるかは別問題ですが、どこか象徴的な場所に置いてありそう…だと思いませんか?」
…言われてみれば確かにそうだね。ちょっと断定がすぎる気がしないでもないけれど、わたしの両親は揃って3種類も失くすほど鈍くない。…だから、きっとそうだと思うな。
「…心配しなくても、戻って来るよ」
「その根拠は?」
「…ラーヴェは優しい」
ポカンとした後、お母さんは心得顔で頷く。
「なるほどです。なら、返って来てくれそうです」
お母さんが嬉しそう。よかった。…実際、ラーヴェは優しいしね。わたしの脅しに屈しちゃうくらいには。だから返って来るでしょ。
…まぁ、「だったらわたしに鎌を渡すな」とか「お母さん達から強奪するな」とかツッコミはいれれちゃうんだけどね。…神だからかそのあたりの感覚がおかしいのかもしれないね。
「と言うことは、私達の元から無くなったのは、愛を確かめるため…とかだったりするんでしょうかね?」
「…かも」
…返ってこなければとりあえず、強硬手段に出よう。…折角、二人が進んでくれたのにその証を奪うとか、許さないからね。
「あれ?今、少し揺れましたかね?」
「…だね」
世界樹のせいかな? …心当たりあるならとっとと吐いてくれた方が良いよ。
「あの、アイリちゃん。悪いですけど、喉が渇いてしまったので、飲み物貰っていいですか?」
「…ん。悪いなんて言わないで、どんどん頼ってね」
それがわたしの喜びなんだから。…二人には難しいだろうってのは分かってるけど。今だって、後ろで苦笑いしてるね。
…えっと、しんどいって言ってるから、少しぬるめのお茶がいいかな?
「…はい。どうぞ」
「ありがとうございます。美味しいです」
「…よかった」
音を立てずに優雅にお茶を飲むお母さん。…お父さんもいればもっと綺麗な光景になるだろうに。…あ。そういえば。
「…ねぇ、お母さん」
「何ですか?」
「…何でさっき「愛」ってスッと言えてたの?」
あの流れだとどう考えても「愛」は「お父さんとお母さんの」愛。お母さんなら赤面しそうなものなんだけど。
「…あぁ。それは単に私が気づいてなかっただけですね。真面目だったのでそこまで気が回っていないといいますか…」
…いつもの真面目モードだったのね。それで「愛の証」とか言う言葉も流したと。
「…ねぇ、お母さん」
「ん?何ですか?」
「…それで子供作れるの?」
「ぶえっ!?」
あう。お母さんが噴出してお茶が思いっきりかかっちゃった。
「あっ、ごめんなさい、アイリちゃん!」
「…大丈夫。服なんて洗えばいい。それより、お母さんの方が大丈夫?」
「え?えぇ。大丈夫です。アイリちゃんにはかけてしまいましたが、私にはかかっていないので」
……あれ? そこで言葉切っちゃうの?
「おーい、アイリちゃん?」
「…子供の方も、大丈夫なの?」
正直言って心配。
「うえっ!?えぇ。大丈夫ですよ」
「…ほんとに?何をもってして「大丈夫」って言ってるの?…というか、方法は知ってるの?」
この話題でそこまで動揺しているようではそれすら心配なんだけど。
「は?えぇ。知ってますよ。コウノトリが運んで…」
「…いや、お母さん。そっちじゃない。…配慮してくれるのは嬉しいけど、わたしが聞きたいのは虚構の流通経路じゃなくて、実在の生産方法を知ってるの?って話だよ?」
「え?」
…ポカンとされても困るんだけど。
「何でアイリちゃんがコウノトリコピペみたいな返しを…」
…空を仰ぎ見てそんなこと言われても困るんだけど。コピペって何さ。コピーペーパー?
「アイリちゃんは知ってるんです?」
「…ん?知ってるよ?前に言わなかった?…というかそうじゃないとわたしが正誤判定できないじゃん。男と女を揃えて女性k「わー!わー!それ以上は駄目です!」…よくわかんないけど。わかった」
…お母さんの目が怖い。そんなに言っちゃダメなの?
…あっ。眼力が上がった。…わたしの内心を悟られたみたい。…あの、お母さん。ほんとにわかったからクワッと目を見開いてこっちを見ないで?
「アイリちゃん。知っていても、その手の話は明け透けに言うモノじゃないです!いいですね!?」
言葉でダメ押し。滅多にないお母さんの剣幕に思わず頷いちゃう。
「よろしい。というか、いったい誰ですか純粋なアイリちゃんに教えた人は…。あの流れ、確実に知ってるパターンじゃないですか…」
「純粋」って何だろう? …お父さんとお母さんに会う前から既に、わたしの心はある程度荒んでいた自覚はあるんだけど。
「…わたしに教えたのはルキィ様の近衛だよ?」
ルキィ様が好きすぎるからもはや親衛隊と言ってもいいかもしれないあの人たち。
「あぁ…。あの百合の民ですか」
「…百合?」
「知らないなら知らないで良いです」
また目力が強い…。
「…わかったよ。話は戻るけど、欲しいの?子供?」
「くっ…。話が戻りましたね。とはいえ、アイリちゃん達にまともに話したことはなかった気がしますし、話しましょう」
…やった。
「あ、それなら妹達呼んだ方が良いよね?」
「そうすると習君が来ちゃうので…。流石に習君の前でまともに話せるほどの勇気はないです。どういう形であれ、ひと段落すれば話すつもりではありますが」
…了解。なら、諦める。
「…わたしが妹達に言うのはいい?」
「むしろお願いします。出来れば習君に聞かれないようにしてくださるとありがたいです…」
ん。わかった。
「で、肝心の話ですが。ちゃんと夫婦になったのですから、そりゃあ、子供は欲しいです。とはいえ、別に産めなくても構いません」
「…そう思うのはわたし達がいるから?」
二人が心を無理やり抑えるならわたし達は消えたほうが…。
「こら。アイリちゃん。それは駄目ですよ。皆がいるから諦めるとか、そう言うわけではありませんよ。単純に、戦いばかりをしていれば私か習君、もしくは両方、生殖機能に異常が起きていてもおかしくはないでしょう?」
何故かギュッと抱きしめて言ってくれる。
「たぶん習君も同じ気持ちでしょう。私と夫婦になったからと言って皆との関係が変わるものですか」
「…根拠は?」
わたしもそうだと信じてる。でも、聞かずには居られない。
「ふふっ。そんなの決まってるじゃないですか。私の自慢の夫の習君ですよ?そう思ってるに決まってますよ」
ニッコリ笑ってお母さんは言い切った。
理由になんかなってないはずの返し。なのに、何故だか妙に納得しちゃう。
「とはいえ、作るにしてやはり一段落してからですね。私と習君、二人の理性がどこまでもつかにかかっている…と言えなくもないですけれど」
顔が見えるようにわたしを抱き寄せるお母さん。視界に入ったお母さんの顔は紅い。
「ですが、作ろうと作らまいと、貴方たちは私のかわいい子達です。それは変わりませんから」
お母さんのあったかさが伝わってくる。
「よかった。震えが止まりましたね」
お母さんの小さな声。震え? …え? わたしが震えてたの? もがもがと蠢いて立つ。
「あれ?アイリちゃん。どうしました?」
「…着替えたい」
「あぁ。ごめんなさい。濡れたまま喋らせちゃいましたね。…駄目ですね。私」
「駄目とか言わないで!」
!? 何でこんなにおっきな声が?
「えぇ。わかりました。言わないようにします。ほら、私が悪いですが、着替えておいで」
「…ん」
ほぼ乾いちゃってるけど、着替えよう。…むぅ。わたしも、わたしらしくない。…やっぱり、頭と心は別ってことかな。
もし、二人に死ねって言われれば死ぬし、消えろって言われれば、こっそり視界に入らないように見守る。その覚悟は出来てるはずなんだけどね。
着替え終わったね。下着は変えなくてもいいから早いね。…お母さんがベッド叩いてわたしを呼んでるね?
「…どうし、わふっ」
近寄ったら抱きしめられた。…考えたくない未来のことを考えるのは止めよう。今はこの温かさを全身で享受していたい。
…あ。ドア、開いたね。
_____
「お帰りなさい」
「ただいま」
俺の声に子供達が続く。アイリだけ四季に抱き寄せられてるからちょっと遅かったけど。
「図書館、どうでした?」
「混ぜてー」
俺が答える前にルナが走りだして、四季とアイリのところに。ルナは四季に撫でられ手ご満悦。
「指輪に関連しそうなのはないね。情報は結構あるけれど、被ってるのが多いね」
神話とかね。人間、獣人、魔人。各領域で見たようなものばかり。
独自情報もあったけど…、前にディナン様とかと話したものっぽい。子宝の泉とか、誓いの泉とか。今はその情報要らない。湖の情報が欲しい。
「でもさ、あの光景の記述はあったろ?」
「まぁ、あったね」
「どういうモノなんですか?」
「あれ?あれはね…」
簡単に言っちゃうか。
「簡単に言えば、どうも浄化された瘴気が一斉に天に昇っていく光景みたい。世界樹の中で白と黒の汚い色だった瘴気が浄化される。浄化された瘴気は湖に放出されて、白と黒に分離して昇っていく…。みたいなの。一応、月齢が満月に近くてかつ、月が南中する頃って時間の縛りはあるみたいだけど」
月一のイベントみたいなもの。少し幻想性が減っちゃった。
「まー。言っても―、きのーの規模はー、もーないけどねー」
何…あぁ。そりゃそっか。
「世界樹が解放されたからか」
「そーいうことー。普通はもっと少なくてー、時間も短いらしーよ」
世界樹はいい時間を選んでくれたんだね。
「二人とも湖に落ちたから見てるどころじゃなかったけどな!」
「ガロウ。それは言わないお約束ですよ…」
だね。苦笑いしかできないよ。
「了解しました。お疲れさまでした…の前に、習君、今日はもう休みます?」
「ん?そのつもり。ご飯食べてお風呂入ったら寝るよ」
ちょっとしんどいしね。
「そうですか。では、お疲れさまでした」
心なしか答える前より顔が嬉しそう。そんな四季を見ていると俺も幸せな気分になる。
「ありがと。じゃ、夜ごはん作るね。四季は休んでて」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
「いーよ。気にしないで」
どうせレトルトだし。さ、作ろう。四季はいつちゃんと回復するか…。俺はおそらく明日には回復できるが。