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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
22/306

22話 蕾

 街道に戻ってしばらく進めば見慣れた人たちがいる。あれ?道間違えた?

 

 

 とりあえず知り合いだし挨拶しよう。



「アレムさんの騎士団ですよね?おはようございます」

「おはようございます」

「…ます」


 その声を聴いて、こちらに振り返った騎士さん方が、そろいもそろって「またお前か」みたいな顔をしているが、気にしない。気にしたら負けだ。



「一応言いますけど、私のじゃないです。『フーライナ第一騎士団』です。おはようございます」

「「おはようございます」」


 「アレムさんの」という言い方が嫌なようで訂正された。



 馬鹿みたいに考えなしに突っ込んでいくこともあるけれど、こういうところはまじめなんだよな…。



「で、こんなところで何をしているんです?」

「私達、道間違えてます?」

「いいえ、まったく」


 あれ?じゃあなんでここにいるんだろう?



 「そんなに簡単なこともわからないのか…、やれやれだぜ…」とでも言いたげに肩をすくめて話し始める。



「昨日ですね。雨が降りそうだから次の村で休むって言いましたよね」

「確かそんなこと…」

「言っておられたような…」

「…たぶん言ってた」

「珍しいことにちゃんと言っていましたよ」

「リベールさんが言うならそうなんでしょうね」

「そうですね」

「…だね」

「ちょ…私との差…」


 手をついてあからさまに落ち込むアベルさん。美少女落ち込むの図。



「日頃の行いですよ。(ばーか、あーほ、おまぬけー)」

「今、煽りませんでした?」

「いえ?まったく」

「白々しい…。まぁ、いいでしょう。で、話を戻しますね。そういうわけで、その村で止まって、暗雲を見て、これは野宿するとまずそうだな。ということで本格的にそこで休むことにしたんですよ」

「はぁ」

「そろそろ夕食を食べようかな?そう思って野外でね、みんなで作ることにしたんですよ」

「はい」

「で、私が野菜と間違えて手を切っちゃって、ソーネが手当してくれてる時に、空をふと見たらですね」


 あっ。



「竜巻が空を登っていくのが見えたんですね。しかも真っ赤な」

「村人は全員がその竜巻を見て恐れおののきましたよ。しかも、その竜巻、暗雲を全て消し飛ばしたんですよね」


 …村人は?



「私たちは現場であるこのあたりに急行したんですね。首都に使いだして。ちょっと確認してきますと。周辺の村から何か通達があってもお任せくださいと。もうお分かりですよね」


 と出来の悪い子に確認するように優しく聞く。



「村人は、って何です?」

「……四季さん…。騎士は驚きませんでしたよ。ええ。普段なら驚いていたでしょうけど」

「つまり、竜巻を見て「ああ。どうせあの人たちだろうな。確認しよう」でいいんですか?」

「それでいいです」

「首都に連絡したのは、我々以外来ないようにするためです。お三方、身元を探られるのとか、パーティとかお嫌いでしょう?」

「そうですね…。ありがとうございます」

「じゃあ、私達の顔を見たあの反応は…?」

「ああ、違うかもと思っていたけど、やっぱりそうだった。という諦観?ですかね」

「…ところで、二人の仕業前提で話進んでること、気づいてる?」

「「……あ」」

「言わないのでご心配なく。」

「よかったです。全部しゃべったほうがいいですよね?」

「お願いします」

「はい。お察しの通り、アロスも倒しましたよ」


 「ですよねー」という顔。知ってた。



「ボスらしき奴もいましたよ。勝手にボロスと言っていますが」

「そうですか…。小さいとは思っていたのでいるとは思ってたんですけど。やっぱりいましたか。研究のために素材もらって行ってもいいですか?」

「いいですけど…。ねぇ…?」


 俺たち三人は顔を見合わせた。



「何か問題でも…?」

「一発で言っても伝わるとは思うんですけど…」

「伝えるためにはいろいろ段階を踏む必要があるんですよ」

「順を追って話します」

「まず、この街道を進んでいると雨に降られました」


 この時点で「馬鹿じゃねぇの。忠告聞いてよ」みたいな顔をされる。仕方ないじゃん。急いでたの!



「で、その最中に、いつもの霧が見えたので馬車から降りて確認してたらですね。核見つけちゃったんですよ」

「それで、道を変えようとしたらアロスが飛んできて…。その攻撃がボロスのものだったんです」

「確認のために馬車から離れていたので、逃げるのを諦めて戦うことにしました」

「核は木の上にあったんですよ。アロスが生えてる」

「「「はぁ?」」」

「文字通りそうだったんですよ。それ以外に言いようがないですよ。ねぇ、習君」

「はい。なかったです。なんだかんだあって、ボロスとその木。まとめて『竜巻』で吹っ飛ばしました。赤かったのは血ですね」

「じゃあ、それでないんですか?」

「それですめば楽だったんですけどね…」


 皆、まだあるのか。という顔をする。



「まだありますよ。チヌカのリブヒッチシカとかいうやつが襲ってきたんですよ」

「「「チヌカ…!?」」」


 騎士団から声が出る。



「チヌカってあの?」

「はい。自称ですが、間違いないでしょう」

「報告書めんどくさい…」

「頑張れアレム!」

「ソーネ…。代わりにやって?」

「嫌です♡」

「ソーネェェェ」

「(どうせ私がやることになるんだよな…)」


 小声が不憫すぎる…。



「…話続けるよ?」

「「「どうぞ」」」


 騎士団ミニコントを一発で終わらせた。いい子だアイリ。



「とりあえず、それも倒しました。そいつからの情報によると、このフーライナの異常な魔物4種の発生はこいつが原因だったようです」

「目的は自身の完全復活」

「ということは、エルモンツィや、チヌリトリカ自身も…」

「可能性はあるでしょうね。エルモンツィにいたっては完全体計画?なるものがあるらしいですし」


「報告書が…」

「頑張れ♡頑張れ♡」

「報告書…」


 「頑張れ♡」とか言ってるけど、絶対やりたくないからなんだよな…。もうほっといていいかな?



「ダメです。はい、しゃんとして」


 蹴とばした!?



「まぁ、そんなこんなで戦場がめちゃくちゃなんですね」

「さらにですね」


 まだあるのか…という顔されても…。はい。そうです。まだあります。



「リブヒッチシカが白授の道具のノサインカッシュなるものを持っていてですね。それがゴリラみたいな、ノサインカッシェラになったんですよね」

「それを倒すのにも色々あったので…」

「なるほど…。ということは、素材がそもそもどこにあるかわからない。壊れてないかどうかもわからないと」

「欲しかったら頑張って探してください…」

「探すしかないでしょう…。特に、木とボロス、ノサインカッシェラは…」

「ところでお三方はあれの処分されないのですか?」


 とリベールさん。?



 ああ、忘れてた…。



「全部上げますから、お願いしていいですか?割といっぱいいっぱいです」

「でしょうねー。わかりました。じゃ、やりますか。ソーネ。やりますよ!」


 疲れているのを察してくださったらしい。さっさと行ってしまった。相変わらずの行動力である。



 少しして静かになった後に、



「休憩されるなら、次の分岐点を川のほうに行ってください。少し遠回りですが、一泊しても、一泊分遅れるだけです。次の日にはもう国境です。割と大きい、『ハラフリコス』という町です。まぁ、アークライン神聖国の首都がすぐそばなので買い物はしなくてもいいでしょうけど。後、もらいすぎだと判断した場合、こちらが一方的にお金を押し付けますので。では!」


 リベールさんが伝えてくださった。そして、感謝や断りを伝える間もなくさっさと行ってしまった。



 色々と深く聞かれるわけこともなかったのはありがたい。けど、お金…。大量にもらっても困るんだけど…。



「…もらえるならもらえばいいじゃん。…それだけのことをしたんだよ?」

「そっか」

「そうですよね。じゃあ、行きましょう!」


 四季の号令で馬車は進む。そのままセンに馬車を引いてもらっていると、言われた通りに分岐点が。そこを右に曲がり、川沿いをのんびり歩いていけば『ハラフリコス』に到着。



 ハラフリコスは大きいといっても、トヴォラスローグルほどではない。それでもそこそこの大きさはあるが…。



 適当な宿屋に突撃すると、お昼前なのにもかかわらず、気前よく泊めてくれた。昼食代も含めたお金を払って、三人で久しぶりにのんびりとした時間を過ごした。



 買い物とかは次のアークライン神聖国で。リベールさんも言っていたしね。



 昼食はグラタンのようなもので、具材は野生の熊。ジビエになるのだろうか。美味しかった。



 自分達でもびっくりするぐらい何もせずに、ぼーっとしていたら、紙を作らないといけないことを思いだして、二人で作っていたら夕食の時間になった。その間アイリはずっと俺たちの様子を観察していた。



 晩御飯のメニューは牛のステーキとオニオンスープ。あとサラダ。と、お酒。すっごい美味しかった。うん。すごい美味しかった。でもやらかした。





 気が付いたら朝だった。今回は部屋が一階だったので運びやすかっただろうけれど…。酔いつぶれて運ばれてしまうというのはいかがなものか…。



 酔っている間に何かやらかしてなければいいけど…。



 アイリの「馬鹿なの?」という視線がつらい。ついでに四季の顔が赤い。何かやらかしたっぽいなぁ…。



 でも、普通に声をかけてきてくれる。大丈夫そう。だと、信じたい。



 いつものようになんやかんやを済ませて、さっさと出発だ。目指すはアークライン神聖国。門を出ると、すぐに見えた。



 ていうか、これが見えなかったらいろいろやばい。そう思いたくなるほどの迫力がある。小高い丘の上に、丘を囲むような大きな壁が一枚。そして、その丘のほぼ中心部にまたもう一枚大きな壁がある。



 その2枚の壁のせいで中の様子がまったくわからん。



 でも、迷うことはなさそう…。とはいっても、あんなものなくても、隣を流れているこの川沿いを行けばいい。迷う要素がないのだけれどもね。



 今、御者台には俺と四季が座っている。俺たちの間にはアイリがいる。二人で座っていたら寂しいのか来た。馬車のほうが楽できるのに…。



 こないだからずいぶんなついてくれたな…。嬉しいことだけど。



「…ねぇ、川のほう見て!」


 アイリの声で右を流れる川のほうを見てみると…。どんぶらこどんぶらこと大きな何かが流れてきた。



 何だあれ…。



「何なのでしょうか、あれ?」

「さぁ…?蕾じゃないか?アイリはわかる?」

「…わかんないから声かけたの…」

「そっかあ。わかんないかぁ…」

「とりあえず回収しましょうか」

「そうだな。調べるためにもそれがいいだろ。また、前みたいなチヌカがらみのだと面倒くさすぎる」

「セン。並走お願いしますね」


置いて行かれないように、四季がセンに声をかけて、紙を取り出した。



「はい、お願いします」

「了解。さっさと書くよ。橋でいいかな?」

「…網は?」

「それいいね。採用」


 しゅぱぱっと書いてしまう。そんなに強度も要らないだろうから、魔力消費が少なくていい。



「じゃあやるよ」

「「『『網』』!」」


 紙が粒子に変わると、同時に投網機から射出された網のように網が飛んで行く。



 出てきた瞬間に網を掴んでおく。射出するだけじゃ川に全部落ちて意味がなくなるしな。



 よし、狙い通り。ちゃんと捕まえた。



「じゃあひっぱるぞ」

「セン。よろしくお願いしますね」


 いつの間にか四季がセンに網の先端を結び付けていた。仕事が早い。



センがダッと駆け出せば、それにつられて勢いよく網もひかれる。そんなに蕾は重くなさそう…。って、はやいはやい。網を引く速度が速すぎる。蕾が岸にぶつかる!



「セン!早すぎる!ちょっとスピード落として!」


 声をかけたとたん、速度が遅くなる。これなら大丈夫。そのままの速度で引っ張るのを続行してもらおう。



「もうちょい、もうちょっと…。よし、届いた!」

「セン。ありがとう。もう引っ張らなくていいですよ。後は私達の力でやりますから」


 四季が声をかけたと同時に、


「ブルルッ」


 という声が、耳のすぐそばで聞こえた。賢いから、俺の声を聴いてもう自分の役目が終わったということを察していたのだろう。…結構驚いたのは内緒。



 せっかくセンに運んでもらった蕾を壊してしまわないように、ゆっくりゆっくりと引き上げる。ん?けっこう重いぞこれ…。まさか蕾を持ち上げるのに『身体強化』しないといけなくなるとは思わなかった…。よし。引き上げた!



「結構重いなこれ…」

「ですね…。アイリちゃんとどっちが重いんでしょうかね?」

「…さあ?比べる?」

「やってみましょうか」


 え。やるの?俺が困惑している間に、



 四季が『身体強化』しながら、アイリを持ち上げ、続いて蕾も持ち上げた。



「どっこいどっこいですね。あ。アイリちゃんの年がわかりませんから、アイリちゃんが平均体重だと仮定して比べようとしたのですが…。あんまり意味がないですね」


 えぇ…。



「…だから、わたしが軽すぎるのか、それが重すぎるのかもわからないと…」

「そうだな…」


 としか言えん。



 俺は俺で蕾を何もなしで持ってみようとしたら、片手じゃ持ち上がらなかった。

 

 

 確実に10 kgはあるはず。だいたい30 kgかな?アイリとどっこいどっこいなら体重から逆算すると…、9か、10歳かな?身長も確かそれくらいの歳の平均値のはずだ。そもそもアイリは日本人じゃないけど…。



「で、これはいったいなんなんだ?」

「さぁ?やっぱり蕾で間違いなさそうですが…。チューリップとか睡蓮っぽいですね」

「一番向こうでもよく見た形だしな。蕾=これ。みたいな」

「ですね」

「…でどうするの?これ?」

「どうしよう…」

「邪悪な感じはしませんよね」

「そうだな。むしろ神聖な感じ。次の国で機会があれば聞こうか」

「そうしましょうか。馬車に積んでしまいましょう」


 サクッと馬車に蕾を乗せると、再びセンにひっぱられて馬車は進み始める。もうそろそろアークライン神聖国の国境だ。

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