195話 エルフ領域の朝
触れ合った唇。嬉しさと愛おしさで四季をギュッと抱きしめて…ッ!?
「習君!」
「ああ!」
わかってる、四季!枝が突如消え失せて俺らは今、落ちてるってことぐらい!
安全じゃなかったのかって、文句を言いたくなる。言っても始まらないが。魔法で何とか…。
「おとーさん!おかーさん!」
カレンの方が早かったか! 声が来たってことは矢が…、もう来た!
掴みやすい位置に来てくれた矢に手を伸ばし…、あれ? 伸ばし…。はぁ?
「おとーさん!?」
「ふざけてないよ!?なぜかわからないけど届かない!」
「え!?ならー、おかーさんにも!」
四季の方にも矢が来て、落ちていく俺らに並走してくれだした。だけど、四季もつかめなさそう。
「何でー!?何でダメなのー!?」
「…わたしも」
「俺も行く!」
言葉とほぼ時を同じくして、アイリが放り投げてくれたカクとリピ、それにガロウの『輸爪』が到着したのはいいけど…やっぱり届かない!
「下!」
「私達の下へ回してください!」
「…言われなくとも!」
「やってるさ!」
「よー!」
流石だ。言う間でもなくやってくれていたか。
3人の矢、鎌、爪が移動して…、下に来た。これで…、って、そんなのありか!? 思いっきり弾き飛ばされた!
なら次。次だ。前にこっそり書いておいた『落下制御』は…、あれ? ない? それどころか全部ない!?
「四季は!?」
「私も全部駄目です!」
訳が分からない。でも、なら書くまでだ。ペン先に魔力を回して…、
「駄目です習君!魔力が紙になりません!」
「四季もか!俺も魔力がインクにならない!」
ペン先から壊れた蛇口から水が落ちるように魔力が流れ出て行ってしまう!
ならば。もう普通に助かる方法はない。被害緩和策を取る。うまく足が下になるよう、叩きつけられても、足から順に接地できるよう調節する。一人じゃ難しくても、四季と協力すれば簡単だ。背中合わせに手を繋いで…、よし、出来た。
と同時に黒い湖面へ足から叩きつけられる。同時に上の方で俺らを案じる子供たちの声が木霊する。
……あれ? …衝撃を逃がす準備は出来ていたのに、その衝撃自体がまるでない?頭も、手も、足も、どこにも痛みはない。ただ、冷たいだけ。湖に落ちたから当然と言えば当然だけど…。
それより四季だ。四季はっ!? ギュッと手を握ると、それに負けないくらい強い力で握り返される。
後ろを向けば四季がいる。よかった。…なら、次は上がらねば。──!? 何で今更激痛が…? あ。意識が…。
______
「んぐ…」
うぅ…。体が重い。でも、よかった。ちゃんと目が覚めた。子供たちが何とかしてくれたのね。
周囲の状況は…。俺はベッドの上。四季は…俺の横か。
横って言うよりは真横だけど。何でほぼ隙間なく隣で寝かされてるんだろう? こういう時って離すのがセオリーな気がするけど。ま、いいか。
この子らのことは信用してるけれど、一応、脈…。あるね。規則正しく胸も動いてる。よかった。
さて、子供たちは…、ベッド周辺で寝てるね。恰好から判断するにベッド脇で俺らを心配してみていたら眠気に負けたんだろうなぁ…。
ベッドサイズ的には全員余裕で乗れる。でも、俺らが気絶しているから遠慮したんだろう。ちゃんと寝床に入って寝るようには言ってるんだけどなぁ…。
でも、今回は怒れないな。俺らが心配だったってのは分かるから。一応、苦言ぐらいは言う必要はあるだろうけれど。ドラマなんかでよく見る、心配でちゃんと寝れずに体調を崩す…。なんて羽目に陥って欲しくないから。
「あ。おはようございます」
「おはようございます」
いつの間にかドアが開いてる。そこにエルフさんが一人。俺らは名前を知らなそうだ…。
「テェルプを呼んできますね。少々お待ち下さいませ」
礼儀正しく一礼、ドアを閉めて…、
「テェーループ―!!ハイエルフ様のお父様が目をおさましにィー「この馬鹿ッ!」グエフッウ!」
さっきのエルフさんの大声。それに割り込むテェルプさんらしき声と、痛そうな悲鳴。そして、断続的に響くガッという音が断続的に。
………。あのエルフさんは何なんだろう。流石に目の前で叫ぶのは非常識すぎるでしょ…。テェルプさんもテェルプさんで、殴った? あの訳の分からない悲鳴的には飛び蹴りだったかも。その後は…引きずったのかな? 余程雑に振り回したか、階段を下ったか…。どっちにしろ容赦ない。
幸い、この子らは起きなかったけど。
逆説的に、この子らがよほど戦闘で疲れていたか、もしくは俺らの横で献身的に動いてくれたか。ってことだけど。本当に可哀そうなことをしてしまった。
ガッシャーン!
今度は何!?
「ごめんなさーい!」
窓を突き破ったせいで血まみれになったエルフさん。彼? は飛び込んだ勢いそのままに、たぶんジャンピング土下座…、
「このわからず屋ァ!」
しようと思ったら続けて彼よりも洗練された動きで入ってきたテェルプさんが彼を回し蹴り。地面につかせず部屋の外に蹴りだした。
テェルプさんの蹴りは実に綺麗なフォームだった。
「失礼しました。あの阿保…、24番には…、あ、皆様にはこちらでした。『トヴェティーオ』にはきちんと言い聞かせておきます。言い聞かせられる気がいたしませんが。本当に申し訳ありませんでした。あ、後片付けはしておきます」
さっと割れたガラスを集め、廊下に出て、天井付近までジャンプ。代えの窓を取ってきてぴったりはめた。
「では、大変失礼いたしました…」
申し訳なさそうに小さくなって出て行った。…なんか疲れた。見てるだけだったのに。この子らが起きてないのはよかっ、
「…ん」
あ。アイリが起きた?
眠そうに目をこすってるし…、起きちゃったか。他の子らももぞもぞしてるし、起き出してきたね。窓の外の朝日から考えるに朝だけど…。この子ら何時に寝たんだろう?
「お父さん!」
考え事してたらアイリが飛び上がってきて、足にのしかかった。
「…あ。ごめん」
「俺は大丈夫」
跳びかかった瞬間にまずいと思ったのか、位置を調整してくれたみたいだしね。何よりアイリは軽いし。…「軽い」なんて体重の話は女の子にふる気はないけど。
「それに、悪いと思ってるならいい。わざわざ怒りはしないさ」
まだ気まずそうな顔をしているから言っておこう。
「…ん。ありがと。皆もごめんね」
ペコっとアイリが頭を下げると、他の子らも微笑ましいものを見るように頷いた。
「…あれ?お母さんはまだ起きてないの?」
「ん?そうだな。まだ寝てるよ」
あれだけの騒動があったにもかかわらず…ね。さっきも確認したけど、一応、脈と呼吸を…。うん。ちゃんとある。
「たぶん疲れてるんだと思う。だから、もう少し寝かせてあげよう。俺は立てるし、外に行こう。聞きたいことも色々あるからね」
皆、コクっと頷いてくれた。アイリ達に促されて外に…の前に。
「書き置きは残しておこう」
四季が不安にならないように。絶対目に入るように天井と、四方の壁にでかでかと紙に書いて置いておく。
よし、行こう。
「…あ。そうだ。ここの2階は自由に使っていいって」
「この、折れてる先にも部屋はあるけどー!」
「そこは覗かねぇって」
ふむ。完全にプライぺート空間にしてくれてるのね。割と大きめの「自由」だな。
「トイレ等は二階にもあるようですが、お風呂だけは一階にしかないそうです」
「…言えば貸し切りにしてくれるらしいけど」
「ルナ!いりゅ!」
ここぞとばかり手を挙げて存在感をアピールしてくるルナ。妙に必死で可愛らしい。
お風呂が一番、シャイツァーの設備の中で大変そうだけど…、やりたいって言ってるし、頼るか。あまり頼らないと悲しい顔をしちゃうだろうし。…最悪、駄目そうなら止めればいい。
「お風呂はルナ。任せていい?」
「ん!任せちぇ!」
パッと目を光らせて言うルナ。本当に微笑ましい。あ、でも、もうすぐ階段だから落ちないでね。
「ごめんなさい」
階段に差し掛かったと思ったら階下のエルフさんがそう言って頭を下げてる。…何で?
「やればできるではありませんか。トヴェティーオ。…あの、皆様。特にハイエルフ様のお父様とお母様には申し訳なく」
あぁ。朝方に色々やらかしたエルフさんだったのね。顔が見えないからわからなかった。
「気にしてないので。構いませんよ。後、俺達は名前で呼んでもらっても構いませんよ?」
「え?あ、あぁ。あの、そう言っていただけるのはありがたいのですが…、我々は皆様の名前を知らないのですが…」
実に言いにくそうに切り出してきたテェルプさん。
…記憶を漁ってみよう。出会いは…飛んできたな。そっから世界樹に入って、俺らを庇って転生して…、名乗って無さそうだな。
「ごめんなさい。そうでしたね。俺が習、嫁が四季で、後は…」
視線を子供達に滑らせると、各々自己紹介してくれた。偉い。
「了解いたしました。以降お名前でお呼びさせていただきます。あの、今更になりましたがお体は大丈夫ですか?」
「えぇ。万全とは言い難いですが…、子供達と話をしようかと」
若干眠いけど、それより今は情報が欲しい。でも、四季は起こしたくない。
「なるほど。でしたら図書館をお使いください。どうせガラガラですので。私は…、シキ様の様態を見ておきます」
「え?あぁ。お願いします」
テェルプさんが付いてくれるなら安心。…だけど、俺も含め、皆、頭回ってないな。起こしたくないとはいえ、四季を一人にしてどうすんだ…。いても何もできないけど…。
…ん? 安心って言ったけど、テェルプさんは今、女性だけど転生前は男性だったような。…この辺りは気にするだけ無駄か。少なくともテェルプさんは間違いなく信用できる。だからそれでいい。
「図書館は?」
「…こっちだって」
腕を引かれて部屋の中に。部屋の中は森のような安心感があって、そこに本があちこちに並べられている。…のはいいけれど、テェルプさんの言うようにガラガラ。人の気配がまるでない。
「理由、聞いてる?」
「ふっこ中?だてー」
おぉう。ルナが一番早いとは…。この子も頭の回転早いね。偉い。
で、「ふっこ」か。「復古」じゃないだろうし…、「復興」か。
「手伝った方がよくないか?」
「…要らないって。家からたたき出された人とかいるなら兎も角、見栄を張る部分の修復だけしかしないんだって」
「だからー「ハイエルフ様やそのご家族様かつー、世界樹の救世主様の力を借りる必要はなーい、というか寧ろー、やーめーてー!」だってー」
「やめて」の部分がテェルプさんでさえ、朝方のエルフさんレベルで土下座して来そうな勢いだ…。
「なら、言わない方が良いか」
「…ん。いい。言うと拒否しにくくなるだろうし」
「休んでて欲しいんだろ」
「ですね。休むのも私達…、特にお父様とお母様のお仕事の内です」
だね。…甘えさせてもらおうか。
「てきとーに座ろー。あー。おとーさん。ここはふっこーちゅーじゃなくてもー、さびれてるよー?」
「それは転生するから?」
「…らしいよ」
やっぱりか。きっと既にここの本なんか読みつくして内容を覚えてしまっているんだろうな…。だからわざわざ読む必要がない。図書館にしてるのも知識を保管するため程度の意義なんだろう。
適当に椅子を引いて座って…、ルナが俺の真横で目をキラキラさせてる。膝の上には乗せてあげないからね?
…ダメだ。凝視してくる。ほっといたらこのまま椅子に座らず横に居座りそう。手で誘導して…、よしよし。偉いね。ちゃんと思った通りに椅子に座ってくれた。
「じゃあ、話をしよう。まず、今日はいつ?俺らが気絶してどれくらいたった?」
「今日はー、おとーさん達が気を失った次の日だよー」
「だから、たぶん9時間も経ってねぇと思うぞ」
「あくまで日の位置から判断する限り…ですが、」
となると…、目が覚めたのは8時間たった後くらいか? あまり時間は経ってないのか。よかった。
「で、何があったかわかる?」
「…お父さんは?何があったかわからないの?」
俺? 俺か…。
「当事者から聞いたほうがわかりやすいだろ?」
ガロウの言う事は一理ある。だけど…、
「悪いけど、全然わからなかった。突然全身に痛みが走ったと思ったらダメだった。何処に何されたかもわからない」
普通、刺されたなら刺された場所ぐらいは分かりそうなもの。だけど、それすらわからなかった。
「でしたら、落ちている最中はどうでしたか?」
「落ちてる最中も同じ。何が何やらさっぱりわからない。ただただ、「なぜかみんなの救助が届かなくて、紙は無くなってるし、新しいインクも紙も出せない」って感じ。あ、でも、水の中で呼吸は出来てたかも」
流石に軽くパニックだったから確証は持てないけど…。
「…なるほど」
「皆は?上から見ててどうだった?」
一転して皆が悔しそうな顔に。
「…球が邪魔」
「水が邪魔ー」
「遠い」
「の三重苦でしたので、はっきりとは…」
…そっか。…そりゃそんな顔にもなるよね。
「一応、俺とレイコが見た限りでは…」
「根?のような、触手?のような何かがお二人に刺さっていたように見えました」
「刺されたのはたぶん下半身だと思うぜ。確証はねぇけど」
「ですね。後、刺さっていた時間はお二人とも一瞬でしたが、わずかにお母様の方が長かったように思われます」
四季の方が長い…? 何か意味あるのかね?
「あるかもしれないしー。ないかもしれないー」
だねぇ…。こんな時に頼れそうなのは…。
「テェルプさんとかには聞いた?」
「…世界樹に聞いてある」
既に一番偉い人(樹だけど)に聞いてあるのね。
「どうだった?」
「よくわからないらしーよ。」
「ついでに、エルフじゃ接触できねぇ領域らしいぜ」
…え?
「エルフじゃ接触できない…ってことは神絡み?」
「それもわかんないらしーよ」
えぇ…。何で?
「…カレンが理由聞いてくれてる」
「曰くー「曖昧な推測を話すわけにはいかないしー、固定観念つけるわけにもいかなーい」だってー」
どこかの探偵かな?
「…ちなみに「それでもいいから」は言ってあるよ」
補足ありがとうね。アイリ。…薄々わかってはいたけれど。この子らが俺ら関連で妥協を許すはずがない。
「お姉さま方が脅しもしたのですが…」
そこで言葉を切る。…ボソッと「私も混じろうと思ったのですが、姉様たちとガロウに却下されてしまいました」と続けたのは多分気のせい。
積極的になってくれるのはいいけど、方向性に修正が要りそう。
「レイコが混じる必要はねぇよ」
「…ん」
「だよー」
気のせいじゃなかったー。顔を見る限りレイコを止めたのは、ガロウは素。だけど、姉二人は優しいレイコが混じると真実味が下がると思ってなんだろうなぁ…。
普段明るいカレンがロートーンでかつ、俺ら至上主義者のアイリが根元に鎌をそっと置いた状態で「伐採するよー?」って言えばかなり効きそうだし。
「…お父さんも入れてもう一回やる?」
「いや、黙ってるのは脅しが通じなかったのを残念がってるわけじゃないからね?」
残念そうに落ち込まないで。二人とも。頑張ってくれてるのは知ってるから。
というか俺らが混じればそれこそダメでしょうに。レイコ同様、何のために守ったのか分からなくなるから脅しって看破される。
「でも、俺らに不都合なことではないだろうし…」
ガタガタッ!
「揺れちゃ?」
「揺れたね。ルナ」
それも思いっきり。
「ここって、どこなの?」
「…エルフ領域ギルド本部」
「姉ちゃん。たぶんそっちじゃねぇ。それもいるけど」
「世界樹の根元。私達が突入した入り口の近傍です」
なるほど。ということは、世界樹の根元のそばのはず。エルフ領域の周りは崖と急峻な山脈と、地震があってもおかしくはなさそうだけど、世界樹の根元なら根のおかげで地盤が安定していそうなものなんだけど…。何故に。
「…理由分かった?」
「わからん。揺れたのも、俺らのもどっちも原因不明」
「世界樹に聞けばわかりそーだけどー、」
だんまりなのね…。ちょっと揺れたのも含めて。
「後、強いて言うなら神だけど、こっちは接点皆無だしねぇ」
聞けるわけない。
「…そういえばお父さん。指輪渡さなかったの?」
え?
「いや、渡したけど…?四季と一緒に作って互いに指にはめあったけど?」
「指にないよー?」
それは気づいてる。皆が起きた時ぐらいに…。でも、
「みんなが外してくれたんだと思ったんだけど?」
「見てねぇぜ」
「ないですね」
「…知らないよ?」
「見てなーい」
「にゃい!」
ルナにまで否定された!? となると湖か…。やばい、探せるか? それ以前に凹む…。
「まぁ、また作ればいいじゃん」
「…ガロウ。そう言うわけではないでしょ」
「喧嘩はしないでね。二人共の言う事は両方とも一理あるんだから」
喧嘩はしないだろうけど、一応言っておこう。
証としての指輪はまた買えばいい。これがガロウの考え方なんだろう。…慰めで言ってくれてるのかもしれないけど。これは俺も渡す前に「四季が気に入らなかったら云々」で考えてた。
あの時の指輪はあれしかない。こっちがアイリの考え方なんだろう。
「お父様、紙も、指輪もないのでしたら、他はどうか確認なさった方が良いのでは…?」
「だね。身辺漁ってみる」
と言ったって、持ち物はそこまでないんだけど…。あの時あったのはシャイツァーと剣、それに指輪の材料を突っ込んでおいたカバンと、紙くらい。
紙がないからポッケはスカスカ。カバンはある。…あれ? 剣ないぞ?
「剣を知らない?」
揃って首を振る。マジか。
「…剣も?」
「うん」
困ったな。四季の持ってる方が拗ねる。あの剣には「二人揃って」とかいう謎縛りがあるからな…。使えるか?
いや、それよりも、衝撃もなかったのに湖に落ちただけにしては無くなり過ぎだ。手にしっかりはまっていた指輪、ポケットにあった紙、腰にしっかり固定していた剣とどれもこれも簡単に外れるものではない。
「戻ろう」
「…それがいいと思う」
ルナ以外の子らは似たようなことにいき当たったみたい。ルナは…眠そうだ。ごめんね。さっさと部屋へ。
「あら。お帰りなさいませ。シキ様はまだお眠りになられておられますよ」
「ありがとうございます」
「くぅ…」
あ。起きた。起きるまで待とうと思ったけどタイミングばっちりだ。
「おはよう四季。体の調子はどう?」
「習君…?おはようございます。体の調子は良くないですけれど、心は幸せですよ」
可愛らしい顔でニッコリ笑う四季。左手の薬指を愛おし気に撫で…、顔が真っ青になった。
「習君…、ごめんなさい!私、私…」
「四季、落ち着いて。俺もだから」
「俺も無くしたから落ち着こう!」とかどうかと思うけど、とにかく落ち着いて欲しい。
「で、ですが…」
駄目か。ベッドに上って抱きしめて、背中をポスポス叩く。
「落ち着いて。ほら、息をすって…、吐いて」
10回くらい繰り返せば落ち着いてきてくれたね。
「落ち着いた?」
「え、えぇ…」
「それより」
引きずって欲しくないから強引にでもこっちのペースに乗せる。
「四季、剣と紙はある?」
「え?しばしお待ちください」
よし、ちゃんと話題変えれてた。けど、四季があそこまで焦燥したのは自惚れでなければ俺のせいだよなぁ…。「チキンな俺がようやっと告白したのにその証が無くなった…。」あの表情や、雰囲気はそう言ってたもの。
「ありゃ?習君、私、剣と紙も無くしちゃったみたいです」
…やっぱりか。
「安心して。四季。俺もだ」
パニックにならないようにすぐに抱きしめて言う。
「ふぇ?」
ポカンとした四季の顔。四季にはちょっと申し訳ないけれど、目が少し泣きそうになったからか潤んでいるのが、言いようもなく可愛らしい。
「俺も無くしてるから、大丈夫」
「…?あれ?あの、習君。そこのどこに大丈夫な要素があるのでしょう?」
普通はないね。でも…、
「俺も四季も揃って夫婦で無くしたんだから、相性は心配しなくていいでしょ?」
告白する前から相性はいいだろうってことは分かってるけど。敢えて言うと、抱きしめている四季がぴくっと跳ね、そして「ふふっ」と笑いだした。
「ですね。…ありがとうございます。習君」
「たいしたことはしてないさ。俺も無くしてごめん。回復したら一緒に湖まで探しに行こう?」
「ですね。その時は皆にも手伝ってもらいましょう」
四季が横を向くと、子供たちはみな、頷いてくれた。
「安心したら眠くなってきました…。起きたばかりなのに…」
「そっか。お休…ふわぁ。あれ?俺も眠いわ」
さっき起きたばかりなのに…。
「…寝れば?」
「眠いからー、ボクらも寝そーだけど」
「俺らだけじゃ心配…ってわけでもねぇだろ?」
コクっと頷く。
「でしたら、お休みくださいな。私達の心配は不要ですから」
「だよっ」
ルナが元気に手を挙げてる。可愛…ふわぁ。あ。駄目だ落ちる。
「お休み」
何とかそれだけ言うと、すぐ落ちた。