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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
218/306

194話 進展

「とうたま。かあたま。暗い」


 ? 「暗い」? 家の中は普通に明るいし、沈んでる子なんていないけど…?



「父ちゃん。母ちゃん。外だよ。外」


 あぁ。外か。確かに暗い。窓の外は微かに明るいが…、それは何故かうすぼんやりと発光する世界樹のせい。それを除いてしまえば、完全に夜の帳が降りている。



「二人ともたまに鈍いよな…」

「…そこが二人らしさ。だよ、ガロウ」

「そーだよー!」

「ですね」

「まぁ、そうだな!」


 鈍いのが俺ららしさとは…。字面だけならアレだが、子供たちが嬉しそうな顔をしているから反応に困る。笑顔の裏で心底ディスってきているなら兎も角、そんな顔でないのは間違いないし。



 …夜か。夜となると…。



「昼ごはん遅かったけれど、どうする?」

「…食べる」


 アイリは即答。まぁ、わかり切ってたことではある。他の皆は…、悩んでるな。食べれるけど、そこまで要らないし…。みたいな感じか。



「量を少なくしますかね」

「だね。余れば明日に回せばいい」


 さぁ、行動を。



「…出来合いじゃなければ、わたしが全部食べるよ?」


 と思ったら、アイリがきょとんとした顔で一言。…ほんとにこの子、俺らの作る料理好きだねぇ…。



「無理して食べるのは体に悪いのですが」

「…知ってる。…でも、それとこれとは別」


 …こんな場面でそんなキリッとした顔、毅然とした態度をされても困るんだけど。というか、そもそも手抜きしようと思っていたんだけど…。



 …アイリもカレンも頑張ってくれたし、なんか作ってほしそうな顔を皆しているし、作ろうか。



 しんどいことはしんどいけれど…、動きたくないってレベルではない。それに、作るにしてもいつもより少ない、問題はなさそうだ。……量が足りなければ、それこそ手抜きご飯。レトルトとかで我慢してもらおう。



 四季も同じ考えみたい。やろう。



「作ろっか」

「了解です。適当に材料見繕っておきますねー」

「任せた」


 まず調理用具を出して…、今、出ているものを見る限り、鍋とフライパン2つあればよさそう。



 鍋に水を入れて、火にかける。片方にコンソメと醤油を入れて味をつけておく。フライパンに油をひいて放置。四季がジャガイモ擬きの皮を剥いてくれている間に、少しだけミンチ肉を作る。



 四季がジャガイモの皮を剥き終え、それを鍋に…。



 ポン!



 入れる前に妙にコミカルな音が。今度は何だ?



「習君。電子レンジが出てきてますよ」


 何でさ。便利なのはいいけど、このシャイツァー()の立ち位置がわからん…。



「使えそう?」

「そうです。5分ぐらいにしておきますねー」

「お願い」


 四季がレンジにジャガイモを入れてスイッチオン。地球で何度も聞いたグォォォンというような駆動音が響いた。正常に動いてるみたいだね。ジャガイモはレンジに任せよう。



 小間切れ肉に塩コショウして…、少し放置。魔法でサッと手を洗って、四季が皮を剥いてくれたニンジンをサイコロ状に切る。



「…ねぇ。何か手伝うことある?」

「んー。量も品目もそこまでないし…、」

「たぶん私と習君で出来ますね。なのでのんびりしておいてくださいな」

「…ん」


 上手く納得してくれた。この子らならおそらく邪魔にならないけど、息が合わなきゃ邪魔だからね…。量が少ないから衝突が増えそう。とはいえ、それだけは言いたくないからな…。



 …いや、今回は「身長足りない」とかでいけるかかな? 俺と四季が腰を曲げずに楽に動けるってことは、台上まで約1.2 ~ 1.3 mはある。アイリは140 cmぐらいだから…。下手したら目が台の上より下に来るな。少なくとも腕を上げなきゃならないのは確定かな?



 ガロウとレイコ、ルナは手伝えるのに、アイリとカレンは厳しい。…泣きそうだ。というか可哀そう。次はその辺り考慮しとくか。



 停止した電子レンジから熱いジャガイモ擬きを出して、サイコロニンジンを放り込む。これも5分でいいや。



 俺がジャガイモを叩き潰す。その横で、四季が下処理したピーマン擬きを刻んでくれる。



 ある程度潰せれば、まず肉を焼く。芋を潰しながら肉を炒め、ほどほどに火が通れば、四季が刻んでくれたピーマンを投入。鍋の水が沸騰してきたので火力を下げると、四季がレンチンしたニンジンをほぼ入れてくれた。残りをジャガイモのところへ。



 そして、さっき俺が作ったミンチと牛乳、塩コショウを加え、ほぼ抵抗のなくなった根菜類諸共混ぜ混ぜ。それを適当に成形する。



 俺は前に炊いたご飯を取ってきて、それと四季が刻んでくれたネギ擬きを投入、四季が成形したものをフライパンの上に並べて火にかける。



 さっと二人手を洗い、俺が鍋にワカメ擬きを、四季が別の鍋にもやし擬きを入れる。



 四季が大根擬きをすりおろし、俺がご飯に卵を加えて炒める。



 適当にサッと半熟ぐらいで火を止めて、大皿によけておく。フライパンを洗い場にどけ、燃やしの水を切り、皿に盛る。前に作った揚げじゃこを振りかける。



 その横で、四季がジャガイモをすりつぶしたものをひっくり返し、蓋をしてくれている。それを尻目にもやしに大根おろしをかけ、ポン酢をかければ、これはこれで完成。ご飯にゴマを振れば、これも出来た。



 俺が鍋からスープを掬って、四季がゴマを軽く散らせば、3品目。



「完全に同時は無理か」

「ジャガイモが諸悪の根源ですね」


 根菜は火が通りにくいからな…。



「というわけで先に食べてていいよ」

「ルナちゃんだけは待ってくださいね」

「…いや、待ってる」


 だよね。ま、そろそろいいだろう。ジャガイモから蓋を取って強火で焼く。焦げ目がついたら出来上がり。



 冷めちゃったかもしれないけれど、たぶん許容範囲。



「出来たy…」


 皿を持ってくるっと振り返り、声をかけようとしたら声が止まってしまった。何で皆が皆…、ルナは除くけど、そんな生暖かい目をしてるの!?



「…どうしたの?」


 え…。あぁ、言いかけて止まったからか。聞くのは後でいい。



「食べよう。ただ、これはルナの主食だから…」

「ルナちゃんに多めにあげます」


 四季と一緒にルナの分ジャガイモを確保しておく。後は一人分の数を気にせず、皆の胃の容量と、好みを考えて良さげな数を選んで渡す。これで全部良し。いただきます。…ルナには俺か四季が食べさせてあげないといけないけど。



「…ところで、さっきはどうしたの?」


 アイリが少なめ(アイリにしては)のチャーハンをゴクッと呑み込んで口を開いた。



「あぁ。それ?振り返ったら皆の目が…」

「生暖かったのでびっくりしちゃっただけですよ」


 俺らの言葉に子供達が揃ってやれやれと言わんばかりに首を振る。むぅ。居心地が悪い。ルナに四季と一緒にご飯をあげて誤魔化そう。



 スプーンで四季が成形してくれたジャガイモを崩す。その間に、四季がルナを足の上に座らせて逃げないようにしてくれた。でも、近づいたら鳥の雛みたいに口をパクパクさせているから必要なかったかもしれない。二人でフーフー冷まして口にそっと入れてあげる。



 …うん。ちゃんと噛めてる。それに呑み込むことも出来てるね。よしよし。



「ねぇ、皆もっと冷めちゃうよ?」

「もったいないので早く食べてくださいな」


 皆、ハッとしたように食事に戻ってくれた。…ふぅ。無事脱せた。



「あれ?父ちゃん。これ味薄いぞ?」


 これ? …あぁ。ジャガイモを焼いたやつね。



「ルナ用だから薄味にしてあるよ」

「黒コショウか、塩。もしくはタイムを適量振りかけて食べてくださいな」


 後、醤油もいいかも? でも、醤油なら焼くときにつけておきたいよね。



「何故これをおつくりになられたのですか?」

「割と簡単な理由だよ?単に毎回毎回、」

「ルナちゃんだけ別メニューなのがかわいそうだったので」


 それだけ。…言うほどルナと一緒に食べてる機会があったわけではないけれど、せっかくだからね。



 ルナもいつもより心なしか嬉しそうだし、やってよかったと思う。



 …ただ、胃を痛めないか不安ではある。一応、中期ぐらいの離乳食を元に出来てるはず。だけど、この子は扱いが難しいからな…。



 ルナはおそらく最後の公称皇帝。だから、離乳食すら食べたことがないはず。なのに体は育ってる。それもかなり。



 ガリガリで辛うじて生きてる…とか言うレベルじゃなくて、超健康的。身長も高いし、胸やお尻と言った肉のつくところには適度についてる。…本気で訳が分からないよ。



 一応、乳児は1年くらいかけてじっくり今の俺らと同じ食事に変えていくんだったはず。でも、絶食状態からの復帰なら色々情報はあるけど、3日とかだったはず。



 食べていない時期と合わせるって情報もあったはずだけど…。今回は絶対違うだろうし。さすがに大雑把に見積もっても10万日を超えるのは…ねぇ。仮に俺らが100歳まで生きれても俺らが先に死ぬ。



 …ともかく、扱いによって長さが変わってくるのは困る。今、普通に拒絶反応もなく食べてくれてるけど…。食べさせて良い物も変わるからなぁ。



 アレルギーは個別だから別にして、例えば乳幼児に生のはちみつは駄目だ。腸の中でボツリヌス菌が育てないようになればいいらしいけど。…そこまで整ってるかな?



 …考えてもわからないな。この子らには幸せになってほしいけど。ここでしくじったら最悪死んじゃう。そうなったら幸せもくそもない、



「とうたま。かあたま。食べなの?」


 無邪気に首をかしげるルナ。



「ん?食べるよ」

「ですね。食べましょう」


 一瞬、こっちの心も知らずにと思ったけれど…、この子を不安にさせては駄目だろう。棚上げして食べよう。最悪、四季と一緒なら何とかできるはず。…あれ? 前もこの結論に達したような。



 まぁいい。今は食べよう。ルナに食べさせながら食べるのは少し手間だけれど、四季と一緒にやって見せよう。



 俺らの分までまとめて作るんじゃなかったとは思うけど。







______



「…美味しかった」

「「お粗末様 (でした)」」


 アイリが食べ終わると、お皿を食洗器に入れて、後はお任せ。乾燥までやってくれる。



 …もはや何でもありだな。動力は俺らの魔力だろうか?極微少量が逐次減らされている気がするけど。



「次はどうします?」

「それならー!世界樹が呼んでるよー」


 …世界樹? それはまた何で…。



「見せたいものがあるんだってー」


 決定事項ね! と言わんばかりに俺らの手を引いて立ち上がって外へ。



「カレンちゃん?いきなりすぎますよ?一体何があるんです?」

「見てのお楽しみ―!って言ーたいところだけどー!きれーなこーけー(・・・・・・・)が見れるんだってー!」


 引っ張っていた手をパッと離してこちらに向きなおって、パチッとウインク。ポカンとする俺らの手を引いて再度走り出す。



 …なるほど。綺麗な光景(・・・・・)ね。…もうそんな時間か。というか、世界樹が俺の告白の後押しをしてくれるのね。



「習君?」

「ん?」


 心配そうにこちらを覗き込む四季。



「あぁ。ごめん。ルナのことで少し考え事」


 四季は真剣な美しい顔でコクリ頷き口を開く。



「後で一緒に考えましょう」

「だね」


 今の関係が壊れたらと思うと、この期に及んでなお恐怖心が出てくる。だけど、もう止まらない。止まりはしない。



「世界樹ー!」


 ルナが叫ぶと、待ち構えていたかのように…、というか実際待ってくれていたんだろうが、地中からするする枝が出てきた。



「姉ちゃん。これに乗るのか?」

「そーだよー!」

「ガロウの『輸爪』の方が、安定感があるのですが…」


 二人の言うように出てきた枝は驚くほど細い。いつの間にかセンにまたがっているアイリとルナは、セン諸共簡単に落ちてしまいそうなほど。



「それはへーき!世界樹を信じろー!」

「俺が出しちゃダメか?」

「ダメー!これじゃないといけないとこだからねー!」


 『輸爪』は駄目と。というか代えが効かないんだろう。諦めるほかない。



「じゃーいくよー!」


 ぐいっと引っ張られて枝の上に。



「皆はそっちねー!」


 え?



「なあ、カレン」

「皆はあちらとは…?」

「枝は二本あるー。別れたほーが、いーでしょ?」


 うん。それなら確かにそうだ。でも、内訳がおかしいでしょ!? 俺と四季、カレンがこっちで、カレン以外の子供たちがあっち。子供だけで乗せるか普通!?



「なら、私と習君は分かれた方が安全保障上いいn「動き出したよー」えぇ…」


 俺も四季と同じ気持ち。何故動かしたし。



 子供たちだけで大丈夫か? あの子らを侮ってるわけじゃなくて、あっち狭いぞ? 俺と四季が枝に座って、カレンがぴょこっと出てる葉に立てばそれで埋まる。



 ガッと揺れただけで狭すぎて落ちかねない…。



「心配むよー!見てー!」


 …うわぁ。枝が広がってる。皆の乗れる場所がどんどん広くなってる。物理的に枝が太く大きくなって、枝から更なる枝葉が生えてきて空間を作っている。



 最初からそっち一個でいいじゃんってぐらいに広い。



「あっちは可変式なんだってー。センが全力で走り回れるくらいまでは広がるよー!」


 ということは半径100 m以上いける? …本気で一個でいいじゃん。



 好奇心で端に行って落ちないかな…? 心配の筆頭はルナだけど、それ以外の子らも大人びているとはいえ、心配。確実に落ちない場所じゃないなら事故は起きうる。



「まほーがあるから落ちないよー!」


 カレンがコンと枝と葉の間の何もないところを叩くと、どこか神々しい雰囲気を纏った黒い波紋が広がった。



 落下防止バリアか? 試しに足…。おぉ。弾かれる。なら、横は? 横はちゃんと…あるな。腕を伸ばせばコツっと当たった。これならいい。



「ふふっ」

「どうしたの?カレン?」

「何か面白いことでもありましたか?」

「単におとーさんと、おかーさんらしーな。と思っただけだよー」


 俺ららしい…?



「ほぼ二人だけでいれる空間なのにー。ボクらを心配してくれたでしょー?」


 …別に褒められるようなことではないでしょ。いくらカレンに案内されて、かつカレンが動揺していないとはいえ…、事情も聞かされず。分断されて、かつ足元を握られている。これで第一に考えることが「やったー。四季と二人だー」とか、少し能天気すぎるだろう。



「びみょーな顔してるねー。だいたい思ってることはわかるけどー。それがいーんだよー?」


 …さいで。



「まー。少なくとも「ボクらは」ってつくけどー。座ろー」


 座れるの…? バリアあるけど。



 でも、カレンは普通に座れてる。立ってると疲れる。座るか。



 こわごわ足を曲げ、四季と背中合わせにお尻を枝につく。足を外に投げ出すと、何故かバリアがあったはずなのに、阻まれずに下に降りた。



 座れたな。足をもうちょっと伸ばすと…。障壁があるな。



「障壁は邪魔にならないよーに、出来るよー。足を支えて欲しーなら、そーなるしー、そーじゃないならー、足ブラブラできるよーに離れてくれるよー」


 実際に楽しそうにして見せるカレン。



 最初からバリアとか何やらを言ってくれればよかったんじゃ…。



「ボクは悪くないよー!世界樹が教えてくれたのが今なのー!」


 世界樹ェ…。あっ。ちょっ…。誤魔化すように速度上げんな!



「世界樹ー!速度戻ったー。ついでに反省もしたらしー」


 ならいい…のかな?



 よくわかんないけど、四季と並んで座っていると枝はぐんぐん上昇。世界樹の枝葉が生い茂るところに突っ込んだ。障壁があるのか、当てないように動いているのかわからないが、こちらに一切枝葉を当てることなく動く。



 途中で、上に行くばかりではなく、下や左右、前後に動いたり、来た道を戻ったり、木の中を通ったり…。



 さながらゲームでよくある特定ルートを通らないと進めない場所を通っているかのように移動。そして、いよいよ日が変わるというタイミングで…。



「着いたよー!」

「「長い(です)」」


 普段から長距離移動は念頭に置いて対策してるけど、不意打ちは止めて欲しかった。



「この時間じゃないと駄目なんだってー!おねーちゃん!ルナを起こしてー!」

「…了解。かわいそうだけど起こす」


 既に寝ているのに起こすのね…。



「見る価値はあるらしーよ。節目だしー」


 後半の部分だけ俺の耳元でカレンは言った。…確かに節目にする予定だけど、ルナにわかるか?



 …わからなくとも、綺麗な光景を見るのは財産になるか。現に今の風景だけでもきれいなんだし。



 眼下に広がるは闇に包まれ黒く見える巨大な湖。その中央上空に真円に近い形の月が輝き、白光を降り注がせている。月の明るさのためなのか、ほのかに発光する世界樹のためなのか、それとも異界だからか、理由は定かでないけれど、黒々とした夜空にただ月だけがそこにある。



 見方を変えると、月が黒い空を独り占めしているようにも、湖が月を包んでいるようにも見える。



「始まるよー」


 何が? と問う間もなく、俺らの乗る枝が湖の中心へひとりでに動き出し、それに続いてアイリ達の乗る枝も動く。



 その枝の上を見ると、アイリ、カレン、ガロウにカレン。それにルナとセンがどこか嬉しそうに固まってこっちを見て…、え? カレン。いつの間にそっちに?



 見惚れていた間か。…移動したのは二人にしてあげようという配慮? いや、それより、俺の横にいて後押しするよりそっちの方が良いと踏んだ線が濃厚かな。…こっちの方面での信用が皆無でいっそ笑えてくる。



「わぁ。何か出てきましたよ?」

「ん?ほんとだね」


 四季に促されるように下を見ると、白い球体と黒い球体が湖から出てきた。



 白い光は光一つない闇の中でもどこまでも照らせそうなほど明るい光。だけど同時に、そんな暗がりの中でも、目を潰されることは無さそうな優しい光でもある。



 黒い光は足元を照らす光。足元をはっきり照らし、見逃しを無く灯り。それと同時に、そっと体を包み込んで安心感を与えてくれる。そんな光だ。



 白が先にいて背中で優しさを示す光なら、黒は傍らで向き合って優しさを示す光。



 白が先を照らす灯台なら、黒は足元を照らすランタン。



 そんな光が俺らの視線の先で一つ二つではなく、無数に生じて空へ、月へ吸いだされるように消えていく。



 ふと世界樹に目を移すと、こちらも色が変わっている。上のほうは灰色っぽいが下に行くに従い、完全に白と黒に分かれていき、最終的に根から湖へ放出されているように見える。



 湖から出てくる白と黒、たった二色の球。それらは宙に消えるまでの間に、三次元的に重なり合い、別れ、互いに引き立て、目にも鮮やかな光景を作り出す。



 そこに白い月、黒い湖と空、さらに灰色の世界樹が加わって、実に幻想的な、目どころか、心を奪われるような光景を作り出す。



 …って、見とれていてはだめだ。動かなければ。



「ねぇ、四季」

「はい、何でしょう?」


 見惚れていてダメかと思ったけれど、四季はすぐに振り返ってくれた。



 その彼女の顔を白と黒の球が照らし、魅力を引き立たせる。思わず息を呑んでしまうほどに。



「…あの?どうしました?」


 少し朱に頬を染めて尋ねてくる四季。…少し待って。心を落ち着かせて…。顔を引き締めて向きなおる。



 四季がはっと息を呑んだような気がした。よし。言おう。



「あのさ、四季。いえ、清水四季さん。俺と結婚してくれませんか?」


 震える唇と、目を背けようとする顔を押さえつけ、四季の目をまっすぐ見つめ、言い切る。四季は一瞬、ポカンとすると、



「はい。喜んで」


 すぐさまそう言ってくれた。あぁ。よかった。さっきまでの恐怖と受け入れてくれた嬉しさで、座り込みそうになる。でも、まだ終わりじゃない。



「あのさ、四季。これ…」


 こっそり準備した3つ──『トリラットヤ』と『シャデニー』と『婚約指輪作成』と書いた紙を差し出す。



「これは…?」

「結婚指輪。一緒に作ろう?」


 このまま最後まで内緒で作れたけど…、どうせなら一緒に作りたい。



 サプライズで指輪を渡すわけでもなく、一緒に買いに行くのでもない。中途半端なサプライズになってると思う。でも、



「ふふっ。いいですよ。その方が私達らしいでしょう」


 俺が心の中で思っていたこと、それを四季の口が紡いで、優しく笑ってくれた。何を言うわけでもなく自然に座ったまま向かい合い、間に『トリラットヤ』を置く。互いに『シャデニー』を薬指にあてがい、紙を発動させる。



 するする体から魔力が抜けて、紙がほどけるように糸になる。それが指にあてがった『シャデニー』にまとわりついて、指の形に折り曲げる。さらに俺らの間にあった『トリラットヤ』がふわり持ち上がると、ダイヤモンドのようにカットされペタリ指輪の中心に引っ付いた。



 カットされ、除かれた部分は束ねられて、一本の線になり指輪をクルリ一周。それで全部終わり。



 後に残ったのは、美しい黒っぽい銀色の輪に金とも白金ともつかぬ細い円が一周。その上に『トリラットヤ』が一つ、地球ならダイヤモンドがあるであろうところに鎮座した指輪。



 それをそっと四季の指に押し込み、しっかりはめると、四季もそうしてくれる。赤く紅潮し、潤んだ目の四季と目が合う。



 どちらともなく顔が近づき、口と口が触れ合った。

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