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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
217/306

193話 世界樹救援戦結果

「無事に世界樹から出たけど…」

「アイリちゃんはどこでしょうか?」


 チヌカがいたから待機なんて出来ないのはわかってる。だけど、見渡す限り戦闘しているような雰囲気もない。



「世界樹に聞ーてみよーか?」

「「お願いする(します)」」


 あてにできるかはわからないが。でも、圧倒的な樹高があるんだから、周囲を探すなら俺らより早いはず。



「お。父ちゃん。センの足音がしてるぜ」

(わたくし)も聞こえました」


 『身体強化』。耳を澄まして…、ああ。聞こえた。その方角を見れば、センが爆走してきている。



「…お父さん!お母さん!大丈夫!?」

「こっちは大丈夫!そっちは!?」

「わたしも、センも大丈夫だよ!にゃっ!?」


 ちょっ…。セン何やってるの!? センが急停止するからアイリが放り出されたぞ!?



 『身体強化』して走っ…たら落とすな。これ。丁度俺と四季のいるところに落ちてくる。…セン、狙ったね?



 適当に調節、ポスっとアイリを二人で受け止める。



 受け止めたアイリの服はボロボロだ。そこそこ頑丈な服のはずなのに、アイリの纏う服はあちこち穴が空いて、破れてる。その上、血と土で変色してしまって元の色がわからない。



 色々言いたいことはあるけれど…。そんなものは全部ゴミ箱に捨てる。



「「おかえり(なさい)」」


 この一言で十分だから。



「…ん。ただいま」


 嬉しそうに笑って、アイリは俺と四季に顔を押し付けてくる。



「ブルルン!」


 「いい仕事をした」かな? 得意そうな顔だし、これが人間だったら思いっきり胸を張ってるんだろうなぁ…。



 実際、いい仕事してくれてるけどさ。アイリがこんな風に露骨に甘えて来るなんてそうそうあることじゃないから。



 だけど、それはそれ。



「セン。乗ってる人を飛ばさないように」

「危ないですからね」

「ブルルン」


 言っておかないとね。センもわかってるから完全にポーズでしかないけれど、ルナがいる。危険だと伝えておくのは義務だろう。



 それに、アイリにとってはいい隠れ蓑になる…かなぁ? 抱っこされているとはいえ、顔を押し付けて甘えるのは誤魔化しが…。



「ルナも。ルナも!」


 効かなそうだね。ルナがぴょんぴょん跳ねて存在感をアピールしてる。アイリは…、俺の方に来るのね。四季、悪いけどルナをお願い。



 さっと四季がルナを抱き上げ、頭を撫でる。それだけでルナは嬉しそうにはしゃいでる。



 …こうやって二人で並んで抱いているとやっぱり違和感がある。体の大きさ的には明らかにルナが姉なんだけど、姉はアイリ。



 それに、アイリもルナも撫でているだけなのに、この上なく幸せそうな顔をしてくれている。けれど、外見に反して、子供らしい反応をしているのはルナ。



 その上、姉に見えるルナはリャールが配慮してくれたのか、服は俺らの仲で一番破損してない。でも、妹に見えるアイリはボロボロ。とまぁ、並べれば違和感の原因がよくわ…、



 あ、服! 着替えるの今の今まで忘れてた!



 …変に意識すると死ねる。平常心。平常心…。



「ルナ。家出して」

「ん!」


 一瞬で家が完成。



「あれ?習君。家を出してどうするんですか?」


 こてり首をかしげる四季。何故気づかない。…人のこと言えないけど。



「習君?」


 距離を詰められた。…ルナを抱いているとはいえ普通に見えそうなんだけど。…意を決して言わないと気づかなさそう。



「あのさ、四季」

「はい。何でしょう?」


 不安げな顔。…む。そんな不安がることはないのに。恥ずかしいけど、すぐにそれはなくしてあげないと。



「服」

「?…あっ。なるほど。着替えてきます…」


 ぽかんと口を開けたかと思うと、すぐに顔を朱に染めてルナを抱いたまま家へ。



「アイリも行っといで。カレンと、レイコも」


 アイリを降ろしながら促すと、アイリは少し寂しそうに、カレンは嬉しそうに、レイコは恥ずかしそうに入っていく。性格が出てる。



「父ちゃん。俺らは?」

「…さぁ?」

「うわぁ…」


 男だし、外で着替えることになってもあまり問題はないけど…。



「換えの服ねぇじゃん」

「だね」


 あれ? というか、心読まれた?



「習君!適当に仕切り作ったのでどうぞ!」

「お。行こうぜ」

「だね」


 四季がちゃんとしてくれたし。ドアをくぐるとすぐ右に家を横断する衝立が立っている。完全防御。



「適当に服は選んでおきました」

「ありがとう。それを着させてもらうね」


 そこまでやってくれたのね…。



「父ちゃん、自分の服を選ぶ感性が終w「はい。黙る」…おう」


 言われなくてもわかってるから!



「…お母さんはどうする?」

「え、今のタイミングでそれ言っちゃうんですか?」

「…?…選んでもらう?」


 アイリが仕切りの向こうで天然を発揮してる…!



「母ちゃんもアレだもんな…」

「「アレ」で伏せたのは褒めてあげる」


 アレで伏せようと伏せなかろうと、残念なことに四季も俺も、自分の服を選ぶセンスは死滅してるって事実は変わらないけれど。…馬鹿言ってる間に着替え終わったな。



「…で、お母さん。どうするの?」

「うぇっ!?まだ続いてたんですか…?既に途中まで着替えてるのでいいです」

「だってー!」


 了解。なら、外で待ってよう。…少し残念ではあるけど。屋根がせりだしてる部分で待っとこう。



「なあ、父ちゃん」


 家に背を預けながら、ガロウが少し声を潜めて尋ねてくる。



「どうした?」


 こっちもガロウに合わせて声を潜める。一体何が…。



「今更だけど、服の惨状に気づいてなかったのか?」


 全く深刻な内容ではなかった。…一応、内容がアレだから潜めるべきだけど。



「まぁ、あの一瞬まではね」


 声を潜めながら答える。



 だって、戦闘中に服が破れて恥ずかしいとか、そんなの考えてる暇はない。あってもせいぜい「防御力が下がる」ってぐらいだもの。



「じゃ、じゃあさ…。姉ちゃんたち見ても何もねえの?」


 顔を真っ赤にして、目を逸らしながら一言。…なるほど。声を潜める判断は正解だったね、ガロウ。色の話題かぁ…。



 …意図的にこっちも避けてるんだけど。…不安になったのかな? …というか誰だ。ガロウに色恋沙汰を教えたの。



「父ちゃん達に会う前から教わってるぞ」


 さすが異世界。…まぁ、元の世界でもガロウの年なら…、年わからないけど…、中学上がるころにはなぜか知ってることもあるしな…。



「で、どうなんだ?」

「ん?アイリも、カレンも、レイコも、ルナも全員、娘だよ?」

「知ってる。でも、見た目が良いぞ?」


 確かにね。それは否定できない。だけど…、



「俺の中で皆は「被保護者」だからねぇ…。護ってあげたいし、可愛がってあげたい。そればっかだね」


 自分で言ってて妙にしっくりきた。…ということは。色方面ではこれでいいだろう。だけど、頼るって決めたのにまだ深層意識では「護りたい」で変わらないのか…。



「じゃあ、母ちゃんは?」

「え?そりゃ…。俺は四季が好き。というか、大好き。これで察して」


 言わせないで、恥ずかしい。絶対顔真っ赤だ。ええい、仕返しだ。



「ガロウは?」

「ふぁっ!?え、俺?俺は…、レイコだけだぞ。うん。アイリ姉ちゃんは姉ちゃんだし、カレン姉ちゃんも姉ちゃんだ。ルナは…、どう見ても妹だからな」


 理由が理由になってない。だけど、俺と同じで「察しろ」と言わんばかり。…くっ、追及できない。



「そんなことより」


 あ、話題変えるんだ。



「父ちゃんのことまるで言えねぇけど、このままでいいのか?」


 真剣にじっとこっちを見つめて来るガロウ。………なるほど。本命はこれか。



「ガロウは進めたいのね」


 俺と四季の関係を。恋人から婚約者、もしくは本当の夫婦に。



「ああ。何回も言うが、二人のこと言えねぇけど…。あ、でも、言い訳させてもらえるなら、俺らはまだ若いから!」


 ガロウは必死だ。顔まで赤くなってる。見ていて少し面白い。…でも、ここで笑うのは失礼だ。ガロウの言う通りなのは間違いないんだから。



 今までこの世界を見てきた限り、こっちの世界基準では問題ない。日本でも18を二人とも超えてるし、問題ない。



 だから俺と四季の結婚に、俺らの気持ち以外の障害はな…いわけでもないか。よく考えたら「親の許可がない」わ。



 …考えたくはないが帰れなければ関係ない。…とはいえ、普通なら考える必要がある。今の今で除外してたのはたぶん「お前が後悔しないなら、いいよ!」って、俺の両親なら言うのが目に見えてるからか。



 後は四季だけど…、ダメなら納得してもらえるまでやればいい。



「…ところで、ガロウの気持ちはわかったけど、何で今?」

「ん?母ちゃんいねぇじゃん。基本二人一緒にいるからな、こういう時でもないと言えねぇ。後、二人なら大丈夫だと思うけど…、何かあった嫌だろ?」


 「何か」……ね。この「何か」は「死別」も含んでる。…あぁ。なるほど。だからか。ついさっき死ぬかと思った。そして、二人きり。この二つがこの子を駆り立てたのか。



 後、ガロウは昔、レイコと抜け出して死にかけた…というのも遠因だろう。死別…ね。関係を結んだ後、そうなれば俺は勿論、そして四季も多分だけど、ずっとひきずる。



 だけど、俺はそれでもいいって思えるほど、四季が好き。四季の横が安心出来て、落ち着けて、一緒にいたい。というか、四季より好きになる人なんていないって断言できる。から、進めたいんだけど。



 だからこそ四季に嫌われたくない。四季も俺を好いてくれてる確証もある。だけど、やっぱり怖い。立ち直れるかどうか不安になるくらい。そのくせ、指輪の準備はしてて、結婚したいと思ってる。



 …矛盾してるなぁ、俺。清水の舞台から飛び降りる気持ちでいっそやったほうがいい…だろうけど、



「機会がなぁ…」

「話は聞いたよー!」


 バーン! と戸を跳ね開けカレンが出てきた。…ちょっ、今の会話聞かれてた!?



「世界樹けーゆだからー、安心してー」


 ならいい…のか? 世界樹経由でカレンに回ってるけど。



「世界樹曰くー、きょーの夜!みずーみの上でー、綺麗なこーけーが見れる!らしーよ!」


 露骨にお膳立てされてる!?



 でもここまでしてくれてるんだ。乗ろう。というか、そうじゃないと、俺がヘタレすぎて、次にいつ告白できそうな状況になるかわからないんだから。



 何より、死ぬ間際に「好きでした」とかごめん被る。



「やるよ」

「りょーかい!世界樹に頼んどくねー!」


 …世界樹に? …まぁ、任せよう。カレンなら悪いことにはならない。



「習君。着替え終わりました」


 …危なかった。下手したら今の会話聞かれてたぞ…。



「あ。服は結局、アイリちゃんが選んでくれました」

「そうなの?…うん。動きやすそうだし、四季の優しそうな雰囲気が強調されてて似合ってる。よくやった。アイリ」


 …ん? アイリが走ってきた? …撫でて欲しいのかな?



「どうs「…決めたのね」…うん」


 こそっと話すとアイリは嬉しそうに微笑んで、てってと戻る。…気づくの早すぎるでしょ、アイリ。よく外で会話してたのに、告白する気だってわかったね。



「…わたしだし」


 その一言は説得力があるなぁ…。アイリは「俺に任せる」ってスタンスだったけど、「結婚しろ」ってずっと、もしかしたら俺よりも強く思ってたわけだから。



「…む。私自身の服選びのセンスがディスられてる気がします」

「ディスってないよ。四季」

「お父様。次はどうなさいますか?」


 ありがとうレイコ。話題を変えてくれて。



「テェルプさんをどうする?」

「何とか埋葬したいところですね…。なんだかんだで助けられましたし」


 だね。少なくとも「家の中放置」なんて状態からは脱したい。



「埋葬は不要ですよ。何なら私が勝手に処分しますけど?」

「処分って…」

「私的にはさすがにそれは…」


 四季も同じ気持ちか。いくら転生できるエルフさんとはいえ、死体の冒涜はよろしくないだろう。



「え?私のですよ?私がどう扱おうと勝手では?」


 むぅ。強情な…。ん? 「私」? 四季と一緒に振り返ると、すらっとした女性のエルフさんが立っている。えっと、まさか…。



「「テェルプさん…?」」

「えぇ。テェルプですよ」


 ニッコリほほ笑むエルフさん。…本当に転生したんだ。しかも、男だったのに女性になってるし。というか、転生するにしても早くないですかね…。



「皆さまが何をお考えかは予想がつくので解答します。復帰が早いのはひとえに世界樹が回復したためです。より詳しい話をさせていただきますと…、世界樹が持つ全てをエルフ製造に割いている。と言うことが一点」


 と人差し指を立て、「何しろ、この領域を管理するエルフが足りていませんからね、全力生産中です」と続けた。



 …工業製品か何かだろうか?



「後、私は12番と、数字が小さいので…、自分で言うのもなんですが、割と偉いのです。なので、休むな、とっとと働けと言うことが二点目です」


 2本目の指を立て「復活に注力されたのです」とどこか誇らしげに〆た。…ブラック企業も真っ青だな。死んでもとっとと蘇って働けとか…。



 …それがエルフだと言うならばとやかくいう気はないけれど。



「そう言うわけで、私はここにいます。ですから、繰り返しになりますが埋葬は不要ですよ。こちらで適当に片付けます。片づけのお手伝いも不要ですよ。十分に働いてくださったので、存分に体をお休めください。文句を言う人はいませんよ。では、失礼します」


 頭をペコリ下げ、



「集合!片付けるぞ!」


 と叫ぶと、どこからともなくわらわらとエルフさんが集まってきて、テェルプさんの亡骸を雑に運んでいく。…何か言う間すらなかった。



「足を引きずるのはどうかと思うぜ…」

「戦闘中だったけどー、ボクでさえしなかったのにー」


 カレンが言ってるのは、テェルプさんの遺体を避難させたときか。…心配しなくともそんな(命がかかっている)時にとやかく言う気はないよ? 死んだら意味ないもの。



「…お父さん。お母さん。話聞か「ぐぅうぅうう」……」


 思いっきりアイリのお腹が鳴った。…そう言えば、昼ご飯まだだ。太陽はとうに南中しているにもかかわらず。



「まず、食べよっか」

「ですね。昼には遅い時間ですが。食べましょう」

「その後は、テェルプさんに甘えさせてもらおうか」

「ですね。戦闘で疲れています。のんびりさせていただきましょう。皆もそれでいいですか?」


 四季の問いに子供たちは笑顔で首を縦に振った。さ、まずは食べよう。







______


「…なるほど。お父さん達の方の話はだいたい理解できたよ。…整理するのに、軽くまとめていい?」

「「どうぞ」」


 否なんてない。アイリなら俺らの所見を交えた話をうまくまとめてくれるでしょ。



「…世界樹乗っ取りの黒幕は『リャール=カーほにゃほにゃ』で、この世界に恨みがある。…でも、どこかチグハグだよね?」


 だね。ルナのことで怒った割に、エルフは世界樹に生ってるエルフでさえ抹殺していたし。



「…それにたぶん偉い人だよ?そうじゃないと世界を恨んだりしないだろうし…。…何より言いかけてた「カー」はたぶん『カーツェル』か『カーツェルン』だよ?」


 『カーツェルン』? …ルキィ様についてるアレ?



「…そうだよ。それ。バシェル第一王女『アーミラ』様にもあるよ?『カーツェルン』は王族の証。『カーツェル』は王のみに許される真ん中の名前。…人間領域ではアークライン神聖国以外は基本それだよ?」


 イベアでは聞かなかったような…。



「…イベアはたぶん面倒くさがった。最初に会ったディナン様が言わなかったから…、他の3人は既に聞いてるものだと思ったのかも」


 ディナン様ェ…。



「…わたしが習慣を説明しなかったのもある。ごめんなさい」

「それは気にしてないから」

「ですね」


 だから、気にしない。知らなくてもたぶん問題はないしね。



「…一応、補足しとくと神話決戦の時の王『ウシャール=カーツェ=ラーヴェ』に敬意を払ったと言われてるよ。…まぁ、リャールはいいや。それよりカレンだよ」


 …あ。いいんだ。よくはないと思うけど、妹の方が大事だよね。



「…名前は『越弓 ユヴァ―ゲ』で、…お父さんたちが見た感じでは、「超える」ことに特化した弓。…なんだよね。…カレンの想い「お父さんとお母さんをどこにいようと護りたい」それが元だと。これでいいよね?」


 全員で頷く。うまくまとめてくれてるね。



「…わたしも同感。…で、出来ることは、放った矢を瞬間移動させること。そして、世界が違っても世界の境界を「越えて」命中させること。…レイコと合わせると誰にでも攻撃が通りそうだね?」


 高防御ならレイコが中を焼く。次元屈折とかされてもカレンが撃ちぬく。その二つが組み合わさっても、二人で力を合わせれば届きそう。



「…でも、一つだけ欠点を挙げるとすると、敵の中にさせそうにないことかな?…たぶんだけど、敵全体を「越えるべき境界」と捉えてしまって透過しちゃうよね?」


 アイリが不安げに首をかしげる。



「俺らもその見立て」

「後でそこは試すー!」


 カレンの声にアイリがほっと息を吐く。



「次ー!おねーちゃんの話ー!」

「ねえたま。聞かせて」


 キラキラした目で二人に詰め寄られるアイリ。少し困ったような顔をしながら、



「…ん。わかった。色々ツッコミどころはあるけど、最後まで聞いて」


 と一言。…不安しかない出だしだ。







______


「…というわけ。何か質問ある?」

「「体は大丈夫 (ですか)?」」


アイリは一瞬目を丸くすると、嬉しそうにコクリ頷く。なら、よかった。



「それ以外の質問は待って」

「整理する時間をください」

「…ん。いくらでも待つ」


 ありがとね。さ、纏めよう。



 アイリの前世はアリア(エルモンツィ)。始まりはだいたい500年前、日本人の勇者だった衛津(えいつ)瑠衣(るい)が召喚されたこと。



 彼女は魔人領域、獣人領域の惨状…呪い(瘴気)に心を痛め、それを仲間と一緒に浄化することにした。この時、彼女が持っていたシャイツァーは鎌。呪いを断ちきり、鎌の中に蓄える(・・・・・・・)。そんな鎌。



 …シャイツァーの効果が断ち切り「消滅させる」のではなく「蓄える」であるあたり、当時の酷さがわかる。消滅させていてはとても間に合わない。ってことだろうし。



 彼女は魔人領域を歩き回って、呪いを回収。蓄えた呪いは決められた場所──シャルシャ大渓谷──にまとめて捨てた。一か所に蓄えておけばまだ後で浄化がしやすいから。



 そして呪いを回収する最中、彼女は「アリア」を名乗った。呪いに名前が知られてはならなかったがために。…呪いと名前の話は図書館にいたリュレイさんに聞いてたな。眉唾ものの話ではなかったのか。



 アリアは偽名を名乗って旅をして、魔人領域にめどをつけると、獣人領域に。そこでも瘴気を集め、許容量を超えそうな分は同行していた勇者のシャイツァーである本に閉じ込めて封印した。



 …この本、獣人領域の図書館で見たな。リンヴィ様達にズタボロにされてたはずのファヴ──もとい、マカドギョニロ製作の泥人形を補強したのは、この本に閉じ込められていた呪い(瘴気)だろう。ファヴの核を護るとかいう鬱陶しいはたらきもしてた。



 獣人領域もめどが立つと、魔人領域には戻らず、人間領域に。



 「大丈夫だと思った」から。「呪いを捨てるのもしんどい」から。「戻る体力がもったいない」から。色々理由はあるけれど…「魔人領域、獣人領域に比べて人間領域ははるかにマシだったから平気だろう」これが最大の理由のようだ。



 …アイリの話を聞く限り明らかに「マシ(当社比)」のようだけど。



 ラスボス(魔人領域)ラスボス一個前のボス(獣人領域)と比べたら1面ボス(人間領域)は雑魚もいいところ。だけど、既にアリアがゲームスタート時の勇者並みに弱っていれば…、かなりキツイ。



 だけど、アリアは強かった。人間領域をほぼ回り切った。が、そこで予想外が起きた。



 お腹も膨らんでいなかったはずの彼女が破水した。その時、誤って皆が彼女の本名を呼んでしまった。一人なら問題なかった。姓か名のどちらだけだから。でも、突然のことに全員が叫んだ。結果、姓名が揃ってしまった。これが決定打になった。



 赤子は産まれたが、アリアは死んだ。代わりにエルモンツィが産まれた。



 …で、この赤子がアイリのひいひい(略)おじいちゃんもしくは、おばあちゃん。だからアリアはアイリに「ワタシ(アリア)の子孫」と言った…と。



 呪いでチヌカと化したアリア…、エルモンツィは人間を狂ったように殺しまわり、討伐され、人間領域では勇者──衛津瑠衣とアリアの記録は抹消された。勇者がチヌカになるなど、残せるわけがなかった。



 そして、獣人領域と魔人領域では残った。呪いを片付けてくれたがために。でも、それは『アリア』でしかなく、『衛津瑠衣』ではない。残ったのは…、逸話と照らし合わせる限りせいぜい『エツ=ルイ』ぐらい。



 だが、倒せたからこれでめでたし…とはならなかった。実は倒せたのは魂の一部──約8割ほど──だけ。これが輪廻に戻って転生した。これがアイリ。だけど、残り2割は残ったままで、エルモンツィとして存続していた。



 それが今回アイリと相対したエルモンツィ。一応討伐されて、半分くらい瘴気に戻ったエルモンツィが人間のいない領域を目指したからここ(エルフ領域)にいた。



 世界樹に入ろうとしていた理由は分からないみたいだけど。



 …魂視点から見れば、アイリはアリアでもあって、エルモンツィでもある。故に、アリアは「わたし」と呼んだと。



 そして、アイリはエルモンツィと激突。その最中に残っていた魂の一部…、ワタシ(アリア)(エルモンツィ)を回収。そのおかげか、シャイツァーが『呪断結幸双鎌 カクトぺ・リピイズ』になった…と。



 …シャイツァーで変わったのはまず鎌が増えたことか。基本左に持つことにしたらしいパクった鎌を『カク』、右を『リピ』と呼ぶことにしたと。…名前で違いはないっぽいけど、色を変えれるなら変えたほう面白いかも?



 …そこはアイリに任せよう。シャイツァーには常時呪い無効(減衰かも?)効果がある。これは伏せ字の時からあったっぽいけど…、「明確にある」とわかったのはいい。



 で、一番大きい特殊効果みたいなものは「呪いを断ちきり消失させる」こと。センと被ってるような一部被っているような気がしないでもない。けど、対呪いに限定すればアイリの方が強いだろう。アイリ自身の思いに、おそらくアリアの思い(無念?)も混じってるだろうしね。



 …幸せを結ぶ(物理)な気がするけれど。なにしろ「呪いを断って、幸せを結ぶ」鎌なわけだし。何はともあれ、俺らの仲で最高の対呪い、対瘴気要員だろうな。



 …このくらいかな? …ぽいね。もっと簡単にまとめよう。



 「アイリの前世はアリア(衛津瑠衣)」で、かつ「アイリはその子孫」。さらに「エルモンツィはアリアから派生したもの」であるがゆえに「アイリもアリアもエルモンツィも、同じ魂を持っ」ていて、アイリが「魂の破片を回収して鎌が強くなった」…と。



 カオスだな。



 でも、この子が嘘つく必要もないし、アリアと混じったからなのか、今まで聞いたことのない情報もある。だから、このカオスが真実なんだろうな。



「混沌としてんな!姉ちゃん!」

「…わたしもそう思うよ、ガロウ」


 そう言うアイリの顔は真顔…じゃないな。よく見ると目が死んでる。



「「大丈夫 (ですよ)」」


 そっと立ち上がってアイリを二人で抱きしめる。一瞬、ビクッとアイリの方が跳ねあがる。



「アイリはアイリ」

「私達の娘であることに変わりはありませんよ」


 声をかけながら、さらにギュッと抱きしめる。そうすると、震えて強張っていたアイリの体がふにゃり柔らかくなった。



 …もう少し、再会した時のアイリのおかしさを考えてあげるべきだったな。こんなことがあったら、拒絶されるかもって不安になるに決まってる。



 全部理解した上で、もう一回聞いておこう。



「なぁ、アイリ」

「アイリちゃんに悪影響は出ていませんか」


 再会してすぐに聞いているけれど、怖くて隠していたかもしれない。だからもう一度聞く。



「…ん。ないよ。…たぶん消える前にワタシ(アリア)がちゃんとやってくれたんだと思う。…だから、わたしはわたし。お父さんとお母さんの長女、アイリだよ」


 と雲の合間からのぞく太陽のようにほほ笑んだ。



 俺らの長女…ね。「嫌なら嫌って言ってね」って聞こうと思った矢先にこれ。本当に嬉しいことを言ってくれる。ちょっと乱暴に頭を撫でる。



「…あぅ。やめてよ」


 口では嫌がっているけれど、顔は蕩けるよう。



「ルナも混ぜて」

「では、(わたくし)も」

「じゃー、ボクもー!」

「えっ、なら俺も」


 子供たちが集まってきて、くんずほぐれつ。…少し苦しくはあるけど、まぁ、いいか。



 これが長く続けばいいの…、あー。さっき告白しようって決めたんだった。



 …撤回したくなる。けど、俺も男だ。今夜、四季にちゃんと言おう。「結婚してください」って。

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