191話 続VSエルモンツィ
引き続きアイリ視点です。
「ぐぅぅぅぅうううううう!」
エルモンツィから距離は取った。…たぶんこの位置なら安全なはず。
「ううう…、うううううう!」
…なにこれ。どうしたらいいの? …少なくともエルフが突っ込んで行っちゃまずいってのは分かる。…たぶんあれ、瘴気とか呪いで、エルフは呪い耐性がないから…。
「ハイエルフ様のお姉様。どうしますか?我々から一人適当に選びますか?」
「…却下」
…一人適当に選んで「実験台になって」…はさすがのわたしも承服しかねるよ。
「死んでも転生できる」って、いったって…、見てて気分のいいモノじゃない。…手段を選べなくなったら、その時はその時だけど…ね。…そんな残虐な方法は今、取るべきじゃない。
「うががっ…、うがぁあああ!」
…苦しんでるのかな? …よくわからない。…だから、ちょっと怖い。
…あいつの体から何か出てるね。…黒い球かな? …よく見ると、その黒の中に何かあるような。
…球は何となく「わたしの方に来たがってる」ような気がするけど…、何がしたいのかな? そもそもあれは敵? 味方? 敵ではなさそうだけど…。
「…ふぅ」
…!? …治まっちゃったね。ということは…来る!
地面を思いっきり蹴ってエルモンツィが突っ込んでくる。それを鎌で受けて流…っ!? 流せない。…この状況で押し込んでくるのね…!
…付き合ってらんない。後ろに下がって…、まだ来るの!? …こいつ、防御はどうする気なのさ。そのつもりなら、避けて、反撃…は出来ないか。下がる。…攻撃一辺倒だね。
「…何をそんなに焦ってるのさ」
「貴方にはわからないでしょうね!」
…そりゃね。…わたしは貴方じゃないもん。
「全力で行きます。出し惜しみはなしです」
エルモンツィはそう言うと、さっきよりも多くの鎌…、軽く倍の鎌を展開。手を振ってそれを全てエルフ達とセンの方へ。
…また分断する気? させない…っ!?
浮遊鎌がわたしの前に割り込んできて、軽く頬を切られた。…危なかった。頬でよかった。叩き落すのに失敗したら大惨事だった…。
…あれだけ展開しておいて、まだ余裕があるのね。
「何処を見ているのです?「まだまだ」ありますよ。「出し惜しみなし」はその程度ではありませんよ」
エルモンツィの方を見ると彼女の上に大量の鎌。あまりの鎌の多さに空が真っ黒に染まってる。…これがエルモンツィの本気。
「行きます」
宣言と共に、エルモンツィと鎌が一斉に突っ込んでくる! …こっちだって出し惜しみはしない。
『爆破』『爆破』『爆破』
紙を使い切るまで爆破。…多すぎてどこを狙っても一緒だけど、可能な限り刃を破壊するように撃った。
『ウォーターレーザー』『ウォーターレーザー』
…水流が薙ぎ払うように二条飛んでいく。これでこの紙も消えた。…一本はエルモンツィを狙ったけど、無駄だったね。浮く鎌…浮遊鎌は破壊できたけど。
…だけど、あの光線で軽く撫でるだけじゃ青空が見えるようにはならなかったね。
『風』『風』『風』
…消えるまでに3回使えた。…地面に叩きつける下降気流。3回全部それで想像する時間を省く。
…右、中央、左を狙ったけど、減ってる気がしないね。…地面、鎌同士の衝突で刃を一気に壊すことを目論んだけど…、効果は分かんない。
『聖弾』
飛びかかってきているエルモンツィに一発。…あぅ。避けられちゃった。後ろの鎌を薙ぎ払って消えちゃった。ついでに紙も。
…魔法を撃つ時間はもうない…ね。二本の鎌を手に携える。
エルモンツィの蹴り。それを避けて肉体目がけて斬りつけ…、るのは止めよう。上から降ってくる斬撃をさらに避ける。
…今だ。肉体目がけて鎌を振りぬく。当たらなくてもいい。…でも、鎌で受けられるのだけは避けないと…。
鎌で防ごうとしてくるのを、上手く軌道を逸らしていなす。肉に当たらなかったけど、
カンカカカカカカカカン!
…ちゃんとあいつと鎌の間のつながりを断ち切ることは出来た。目の前に落とされた鎌の山が広がってる。
「…鎌がこれほど落伍すると、ギャグみたいな音、鳴るんですね」
…真顔で言われても困る。…というか、返答が欲しいなら斬りかかってくるのは止めて。…まぁ、止めてくれないよねっ!
自前の鎌を大きくして薙ぎ払って、浮遊鎌を撃墜。もう片方の奪った鎌でエルモンツィの鎌の一撃を受け流し…、薙いだ鎌を引き戻して、その場で回転。周囲の浮遊鎌を砕く。
…ダメだね。わかってたけど、浮遊鎌が多すぎる。手数が云々ってレベルじゃない!
…小さい傷は甘んじて受けよう。肉は切られてもいい。でも、骨は駄目。…立ち直れない。…一回、あいつの首切ってみようか。試したことはないけれど…、作戦変更に感づかれる前なら、やれるはず。
…ん。やろう。
右の鎌を避けて、鎌で斬りつけ、浮遊鎌を落として…、左の鎌を受け流す。クルリ回転。浮遊鎌を落として…、相手の横薙ぎを飛んで避ける。…からのエルモンツィの縦斬り。空中で移動できない。そう思ってる今が好機!
「『死神の鎌』」
鎌を掴んで左下に移動。ーッ!? エルモンツィの鎌がシャイツァーを持ってる右肩に突き刺さった…!
…覚悟はしてた。なんてことはない。完全に切り落とされないよう、シャイツァーで防ぎつつ…、強奪した左の鎌で首を刈る!
スパッ!
心地よい音を立てて首が飛ぶ。…でも、これだけじゃ、駄目!
『ホーリーボール』
すっ飛んだ首のあった場所に打ち込む。浄化の光が奴の上半身を包み込み、猛烈な勢いで鎌が落ちる。
わたしの上にある鎌が落ちてきてる! …効いたか確認する間もない。
…ひとまず傷を『回復』で癒して…、…治ったはいいけど魔力かなり持っていかれちゃった。
…万全になった右手に握るシャイツァーを大きくして、わたしの頭上付近を薙ぎ払う!
ギャリッッッ
…音がおかしい。それに…手ごたえがっ、…重い!
…でもこれ鎌自体の重さだけじゃなくて、魔法的な何かも混じってる。…まだ、決着はついてない…ね。
《そうだね。ついてないよ》
!? …この声、エルモンツィ!?
《半分正解、半分不正解。さてさて、今の状態でケリをつけることは不可能だ。だから、ワタシの話を聞いて欲しい。わたしに誓って騙すようなことはしない》
声はわたしの横からしてる…?
首を声のする方に回すと、肩で切りそろえられた黒髪と、お父さん達を思わせるような黒い目で、それ以外は全部エルモンツィと同じ。そんな女の人がいる。
…だれ? …というかいつの間に…。ッ!? 触られちゃう!?
《身構える必要はないよ。わたし。上に集中しな》
…そっか。…何故かわからないけど、声を聞いたら頭が判断するより早く、体がこの謎の人への抵抗を止めちゃった。
…むぅ。その間に触られたね。……変なことはされて無さそう。それだけが幸いかな。
《なるほどなるほど、なかなかワタシのせいで面倒な…。ふむふむ了解。了解したよ》
…一人で納得されてる。わたし、置いてけぼりだ。…何故だかちょっとイラっとする。…このイラつきを上にぶつける!
鎌に力をグッと込めて、抵抗もろとも浮遊鎌群を粉砕する。…ちょっと疲れちゃった。
《む?あぁ。ごめんよ。さぁ、やりなおそうじゃないか。ハロー。ワタシの子孫。ハロー。わたし。名乗りは要らない。今、教えてもらった。わたしにね》
……? …ん? よくわからない。え? …え?何を言ってるの? この人。ワタシの子に、わたし?
《正確には子孫だ。わたし。それより先に、まずは名乗ろう。偽名だけど。そこは勘弁願いたい。すまないね。ワタシはアリア。さっきわたしが名乗った偽名と一緒だぞ》
……え? は? …え? 急展開が過ぎる…。
《おや、私が再起動しそうだ。相手して》
…だね。浮遊鎌が忙しなく動いてる。…こっちの対処をしないと。
鎌の山の下から出てくるエルモンツィ。飛び出した勢いそのままにこっちに…。来ないね。…狙われてるのは女性だね。
割って入って鎌で止める。
「なかなかご機嫌じゃないか。私。まぁ、ワタシに手は出せないよ。わたしがいるからね」
「チッ。どうやらそのようですね」
…あ。会話成立させるんだ。…エルモンツィはわたしと鍔迫り合いしてるんだけど…。
「ワタシの前にわたしを取る気かい?」
「……」
「無言は肯定。イエスだとみなすけど?」
「…チッ。やりにくいですネ…。にしても、初対面のはずなのに、この気安さ。…なるほど、そう言う事ですかネ」
…わたし越しに会話をする精神。…逆にすごいね。
…置いておかれてるわたしだけど、暇じゃないんよね。…エルモンツィの動きは少し精彩を欠いてるんだけど、鎌の扱いの上手さ、力強さにそこまで影響は出てない。
…油断してると押し負けちゃう。
《さてさて、どこから話そうか。わたし》
…あ。この状況でも話すのね。…意識をちょっと向けつつ、エルモンツィの対処。これでいい。…というかこれしかないね。
まともに受け合ってる余裕はないね。後ろに下がって…、
《まずは、あれだ。あれからかな》
エルモンツィの浮遊鎌に微かに切られつつ、懐へ。
《わたし、わたしの推測はほぼ合ってるよ。正解》
エルモンツィの振り下ろし。姿勢をさらにさげつつ、わたしに当たる前に…!
《それでいいのさ。アリアはエルモンツィだ》
回転。二本の鎌を叩きつける。切るというよりは、殴るだけ。右の鎌は受け止められた。…構わない。寧ろそれでいい。右の鎌はシャイツァーだから。
…手を離して、『死神の鎌』でエルモンツィの持つ鎌を妨害。そして、奪った左の鎌で、浮遊鎌を破砕しつつ、殴りつける!
《あれは500年前…》
…やった。吹き飛んだ。回った勢いそのままにシャイツァーを大きくする。シャイツァーは遠いところ、強奪した鎌は近いところ。そうやって役割分担させて…浮遊鎌を無力化する。
《いや、正確には…、512年前?ん?違うな。498年前だったかな…》
…待って。どう考えてもその話、要らないよね? 何年前とかいいよ。…正直言っていつでもいい。…それより、倒す話をしてくれない?
《おおぅ。そーりー。そーりー》
…ちゃんと謝ることも出来ないのね。
《わたしがこれをお父さんとお母さんから教わってるのは知ってるからね。…まぁ、ごめんよ》
…エルモンツィが復帰してきた。この女性…、偽名だけどアリアらしいし、アリアって呼ぼう。…アリアと遊んでる場合じゃない。
『水球』『水球』
…あう。これ以上撃ってる時間はないかな。…近距離だとやっぱりどうしても鎌の方が使い勝手がいい。
でも、飛んで行った水球が複数の浮遊鎌を巻き込み、球の中で急速に攪拌。凄まじい勢いで鎌と鎌が激突し、巻き込まれた鎌は刃がバキバキと砕け散った。
さ、やろう。先行して飛んでくる浮遊鎌の刃を左の鎌で破壊する。巨大なシャイツァーでエルモンツィを牽制、わたしの方には来させない。その間に浮遊鎌を削らなきゃ。
《わたしがワタシで私の話とかもしておきたんだけどー》
…大きい鎌だと、小回りが…、すぐ詰められちゃうだろうね。
《聞いてる余裕ないよね?》
…あると思ってるなら、きっとアリアの頭は楽しいね。…今の牽制だって、少しはまともに聞くための方策なんだよ?
《わぉ、辛辣。このワタシの話し方だって、本来のワタシじゃあないんだけど…。ま、いいや。うん。省く。時間無さそうだけど…、知識は伝わるでしょ。うん》
…心読まれてるはずなのに、無視されてる。…。
ッ! 抜けられた。
ギャルァッ!
再び鎌と鎌が激突して変な音を立てはじめる。受け流して、避けて、ついでに浮遊鎌を左の鎌で叩き落して…、
《最短でいい?》
…勿論。むしろ、それでお願いします。…わたしはお父さんたちのところに行きたい。
《たははー。筋金入りだね。りょーかい。りょーかい。任せて》
…前半部で苦言の一つでも言おうと思ったけど…、「任せて」でガラッと雰囲気が変わって何もいう気が無くなっちゃった。
「ねぇ、私。さっきはああ言ったけど…、わたしを無視して、ワタシを狩る。その方法がないわけじゃないのは分かってるよね?ね」
「もちろん。むしろ何故、それが出来ないと思ったのでス?」
…またわたし、置いてけぼり…。エルモンツィはちょっと動きが鈍ってるのにね。…いくら、エルフ達を相手にしてるなら問題ない程度とはいえ、…少し面白くないね。
「ねぇ、私?それをしないと負けるよ?」
「まさか」
…少し動揺したね。アリアの策かどうかは分かんないけど、一撃は入れとくよ。…嫌なところに浮遊鎌を置いてあるけど、構うもんか。
浮遊鎌の隙間に体を押し込む。体の一部から微かに鮮血が噴き出しつつも、強奪した鎌で首を再度狩る。…おまけもあげる。
シャイツァーで心臓の辺りに刃を突き立て…、って、以上に硬いね。
…貫くのは諦めよう。硬すぎる。…それより、吹き飛んだ頭を…、あっ。再生された。
「…そのようですネ。仕方ありませんネ」
…何かする気かな? …でも、やらせないよ? この至近距離で…。
エルモンツィが体を捻って後ろに下がる。それに合わせてわたしも距離を…、
にゃぎゃっ!? …え? 逆に遠ざけられた…? …なるほど、わたしを遠ざけるためだけに適当に浮遊鎌たちをぶん投げてきたのね。
…本当に急だったからか、わたしに刺さった刃はほぼない。…ないこともないけど、致命傷はおろか、重症にさえ程遠い。…ご丁寧にまだ一塊になってる。鎌を振るって全部砕く。
『回復』
ポケットの中にあるやつを発動。…今ので無くなったね。回復は後、4枚。
「よっ…ト。これで貴方にも届きますネ」
「まぁ、「当てられれば」だけどね!だろう?」
エルモンツィの持つ鎌の色が変わってる? いつものあの汚い色になってる。
「チッ。…いらっとさせてきますネ。貴方。ところで、わざわざ私にそれを思い出させた理由ハ?」
「ん?そんなの「わたしのため」だよ。それで納得してくれるよね?むしろそれ以外に何かあるとでも?」
「…はぁ。納得しましたヨ」
…またわたしだけ蚊帳の外。
《全部終わればわかるよ。全部…ね。たぶん。だから、心配はいらないよ。あ、後、全力って言ってたくせに色変わってるけど、わたしにとってはそれだけだから。気にしなくていいよ。おけー!》
…え? あ。うん。たぶんとか聞こえた気がするけど…、
!
ガキン!
アリアを狙って振り下ろされた鎌が空ぶって、わたしにまで来た。…会話は終わり。突っ込む!
「避けてるんじゃないですヨ」
「はっは。むざむざ死ぬほど馬鹿じゃないよ。間抜けでもない」
挑発するようにケラケラ笑うアリア。…命を狙われているのは貴方なんだけどね。…兎に角、エルモンツィに斬りかかる。…これ以上、アリアへの追撃はやらせないよ。
腕を狙って斬りかかり、それが受け流される。滑る刃を流されるままに流し、もう片方の鎌で…、斬りつける!
…あう。止められた。……これをやっても倒せないんだったね。…アリア。本題は?
《…本題?》
…は?
《こっわ。怖いよ。わたし。可愛い顔が台無しだよ。見るも無残》
…なら緊張感を持って欲しいな。…打ち合いは疲れるし、油断したら即死するんだから。
《そうだね。一理あるね。じゃ、簡潔に言うよ。何度も言うけど一度で理解してくれると嬉しいな。ハッピー》
…無心でいよう。…心を読まれるなら、変に考えて脇道に突っ込まれるよりは圧倒的にマシなはず。
《信用無いなー。まー。仕方ないか。仕方ナッシング。真面目に行くよ》
ガラっとアリアの放つ雰囲気が変わる。
…!? わたしが一瞬、呑まれそうになった…? …危なかった。今の状況でそれは命取り。
《アレを倒すにはあの白黒の鎌を浄化すればいい。それだけだよ。たったそれだけなんだ》
…それだけ? 案外簡単な…。
エルモンツィが右手に持つ、白黒鎌を回避。どうやっても防げない浮遊鎌がわたしの肌を軽く撫でる。
《そうだよ。尤も、魔力がかなり必要だろうけどね。たいりょーに》
斬ってきた浮遊鎌の刃を砕く。『回復』は…。この程度、まだ不要だね。
《お馬さんにも助力を請えばいい。一応、白黒鎌の刃を粉砕しない程度に傷つけておいたらちょっと楽だよ》
…ん。なら…! 強奪した鎌で鎌をかちあげる。振り下ろされる白黒鎌をシャイツァーで真っ向から受ける! 振り下ろされる勢いと、わたしの勢いを合わせて…、
…っ! …重い。それに…硬い!
《そりゃあね。白授の道具だよ?硬いに決まってる、そりゃあもうベリーハード》
…それもそうだね。…可能な限り狙って行こう。
力で押しつぶされないように刃を滑らせて、空振りさせる。
《一応、鎌にされる前は胸が白授の道具。要は本体の場所だったけど、そっちのほうがよかった?》
…今言われても困るね。もうそっちに戻ることはないだろうから。
左右の鎌で浮遊鎌を砕き、叩き落し、2振りの鎌の一撃をすんでのところで避ける。
《そりゃそうだね。はは。参ったなぁ。一本取られちゃった》
…ねぇ。アリア。貴方、さっきまでと微妙に違うね。声が震えてる。
回避したついでにエルモンツィの胸目がけて刃を突きつける。…白授の道具が抜けても、硬度は健在。…厄介なことこの上ないね。
《あちゃー。心に直接語りかけてるんだけど。なのにバレちゃったか》
…バレない方がおかしいよ。
胸を貫くのは諦める。鎌先をツッと滑らせ肩へ。脇で刃をクルリ上向きに回転させて…、…にゃっ!? 脇で挟まれた!?
ニヤッとエルモンツィが笑う。そして鎌が振り下ろされる…けど、忘れて貰っちゃ困るよ。
『ロックランス』
お腹に巨大な岩の槍を猛烈な勢いで突き刺し、吹き飛ばす。
───! …痛みで言葉が出ない。両肩に鎌が突き刺されちゃった。…完全に切れてないからいいけど。
…『回復』! …緑の光が腕を包んで元通り。…でも、たぶんこれ、次使ったら消えるね。
…で、さっきの話にもどすよ。あの鎌、あれだけはアリア。貴方に通じるんだったよね?
《…そうだよ。…よく聞いてたね》
…逆に何で聞けてないと思ったのさ。…それに、白黒鎌を出させたのは「急ぎたいわたしだけのため」ではないでしょ?
浮遊鎌を薙ぎ払って、道を拓く。
《…正解。…何で分かったの?》
わたしだからね。
拓いた道を使って、センの元に! …鎌が半球を作ってるからあそこにいるはず!
《あはは!そっか。そうだよね。そっかそっか。…うん。そうだよね。わたしがわからないはずがないよね》
…ちゃんと、わたしの意図した意味が伝わったみたい。
…わたしはわたし。…お父さんとお母さんの子、アイリ。
…だから。心配しなくていいよ。…わたしは貴方を守る。…わたしのために、むざむざ自分から死地へ飛び込んだ貴方を。
………明言しておいた方が良いよね。伝わってるかどうかわかんないから。…わたしの確固たる意思も載せて。…少し抵抗があるけど、それでも、わたしはワタシだ。
《わたしはワタシに敬意を払う。…だからワタシの悪夢を、私を終わらせる》
ワタシに伝える気で、心の中で言葉を紡ぐ。
《…後回しにしたはずなんだけど。ちゃんと通じてたのね》
…触られたときには気づかなかったけど…。こっちにも来てたみたいだよ。…後で整理するけどね。
《くははっ。そうだね。寧ろ、そうして。「ワタシはワタシ。わたしはわたし」だ。そこを違える気はないけれど。…うん。お願い。思いっきりやって》
…任された。
…何でわたしが世界樹の外に残ったのか、何であいつを倒さないといけないと思ったのか。…それがはっきりした。
…私を終わらせる。わたし達のために。…きっとそのためにわたしはお父さん達と離れてここにいる。
……運命なんて信じちゃいないんだけどね。