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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
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190話 VSエルモンツィ

アイリ視点です。

 …エルモンツィが日本語を理解できる。…なんて、きっとわたしが穿った見方をしすぎているだけのはず。



 …だと思いたいんだけど。…ウォーターレーザーを使おうとした時、スッと射線から外れてた。…あの動きは『レーザー』が一直線に飛ぶモノだと知ってないと、不自然だよね?



 …それに、『レーザー』は『風刃』とか、『球』とか、『壁』とかのどれとも挙動が違うし…。「穿ちすぎ」って考えは現実逃避だね。



「ハイエルフ様のお姉さま。どうなさいました?」

「ブルルッ」


 …心配されちゃった。考え込みすぎたね。…丁度、エルモンツィの攻撃が緩まっていたのに。



「…大丈夫。問題ない」


 …実際、問題ない…はず。…日本語がわかるなら、字を読ませず。単語を聞かせず。…これで封殺できる。…お父さん達ならまた別なんだろうけれど、わたしは紙を見られないように使えば対策は出来るね。



「いっぱい鎌使って疲れましたよ」


 …あ。その嘘くさい疲れました感の演出、まだ続けるんだね。



「…貴方、今ぐらいの攻勢で疲弊するたまじゃないよね?」


 …油断を誘いたいなら無駄でしかないよ。



 …第一、鎌の数が多いって言ったって、一人と一頭でギリギリ支えて、逃れることは出来る量だよ? ここで攻勢を控える理由としては弱い。



「貴方、自分とお馬さんの魔力量、わかってないんですか?それは買い被りですよ。少し疲れていますよ。ほら」


 わたしの魔力が多いのは知ってる。…でも、あれだけで消耗するわけがない。



 …そもそも、「ほら」とか言いながらプラプラ手を振ってるけど…、あからさますぎる。誘ってるのがバレバレだよ。



 …誰が飛び込んであげるものか。…だけど、エルフが行きそう。



「ぐはっ!」

「音もなく、掛け声も出さないのは褒めますが…、捻りがなさすぎですね。無駄です」


 止める前に飛び込んだけど、袈裟懸けに一刀両断されちゃった。…即死だね。その死をきっかけに、ゆったり回っていた歯車の回転数が急速に上がる。



 わたしとセンが飛び込んで、エルモンツィと切り結ぶ。そして、エルフがわたし達ふたりを射線に入らないように注意しながら矢を放つ。



 鎌を振るう。右手の鎌で止められる。センが蹴り、左の鎌で受け止められる。センと一緒に強引に押し込んで、『ホーリーボール』を…!



「チッ!」


 撃つ前にエルモンツィが急に後ろに下がって、さらに浮いてる鎌が割り込んでくる。



 …むぅ。見られちゃった? …万一見られてもいいように、敢えてこっち(ホーリーボール)を選んだけどさ。



「…やっぱり貴方、日本語理解できるよね?」


 問われたエルモンツィは大した動揺も見せず、ゆっくり口角を上げる。



「名前、教えてくれれば答えるか考えて上げます」

「嫌って言ったけど?年取って物忘れが酷くなった?」


 わたしが返すと、空気を読まずにエルフが突撃、それにわたし達も続く。



 エルフが切りかかり、エルモンツィから逆撃を受け…そうになってるのを、わたしが押し出し避けさせる。斬撃はわたしが受ける!



 キン! と澄んだ甲高い音が鳴る。これを受けなが…せない。…ひょっとして「年増」って言われて怒ってる? …そんなことはなさそう。単にわたしを仕留めたいだけだね。



 …あぅ。苦しい。力が足りない。…このままじゃ押し負けちゃう。…でも、わたしだってそこまで軟弱じゃない。



「ブルルルッ!」


 センが来るまでなら十分耐えられる。浮いてる鎌はエルフ達が何とかしてくれる。だから、大丈夫。



「このお馬さん鬱陶しいですね!」


 センが頭に角みたいなのを生やして突撃。エルモンツィは2対の鎌でそれをガッチリ受け止める。



 センを攻撃しようとする鎌はエルフ達が止めてくれてる。…好機だね。



 一撃でエルモンツィの左腕を切り飛ばす。根元から切り落とされた腕がクルクル回転して地面に落ちる。だけど、大きな鎌はそのまま。



 …力の均衡が崩れて、センの突きが刺さるかと思ったけど…、そんなことはなかったね。でも、これならこれで首を─ッ!?



 何で地面が目の前にあるの?



 ビターン!



 …思いっきりたたきつけられた。痛い。



「お姉様!?」


 …何で? 何をされたの? …倒された?



「足元です!」


 足…? あぁ…。わたしが切ったばかりの手が、わたしの右足を掴んでるね。それで倒されたのね。



「『風刃』」


 手と指を切り離す。これで掴むことは出来ない。コロリ転がって、エルモンツィから距離を取り、立ち上がるついでに腕に鎌を突き刺し、切り裂き、消滅させる。



「がぶっ…。ブルルルッ!」


 …センが顎に一撃を貰って吹き飛ばされてきた。



 だけどセンは空中で姿勢を整えながら、わたしを回復してくれる。そして華麗に着地。



「…ありがとね。『回復』!」

「ブルッ、ブルルル。ブルルルルルッ!」


 …センを回復させたら、指を浄化して消してくれた。…ありがと。…指であっても消したほうが良いのね。



「自分達の回復はするんですね。」

「そもそも私達が不要だと申し上げていますので!」


 エルモンツィの皮肉にエルフが割り込み。エルモンツィが物凄く嫌そうな顔をしてる。



「…良心に訴えても無駄だよ」


 …エルフに魔力を割くとか、良心の呵責とかその辺りを期待したんだろうけど…。…無駄だよ。…今回の場合、エルフ達が既に覚悟を決めてるから、わたしよりちょっとまともな感性のある、お父さん達も絶対揺らがない。



「…自慢じゃないけど、わたしの心配りする気がある範囲の狭さを舐めない方が良い」

「私が言うのもなんですけど、本当に自慢できることではないですね」


 …やっぱりこいつ、やりにくい。…見透かされてるような気さえする。…やはり早く倒さないと。



「…ふむ、やはり貴方には効果なしですか。…はぁ、ここにいる者、全員私と相性が悪いのに。とりあえず、腕がないと不便なので生やします」


 エルモンツィがポツリ呟き、右肩辺りにうねうねした、いつもの白と黒が混じった汚い何かが出てくる。



「やらせるな!」


 エルフの誰かが叫んで、近場のエルフは飛び込んでいって、距離のあるエルフは矢を放つ。



「一人相手に物量作戦とかどうかと思いますよ」


 なんて言いながらも悠々エルフと切り結び、切り捨て、矢を回転しながら回避していく。



「…あなたはそれに値する相手でしょ」


 わたしも続いて鎌を振りおろす。…また受け止められた。



「『風刃』」


 …紙が消えちゃった。



 …のに、風刃は割り込んできた鎌に軌道を逸らされ、エルモンツィには当たらない。



「エルフが邪魔です!」

「邪魔できているなら、それだけ我らがお姉様のお役に立てているという事!これ以上の誉はありませんよ!」


 誰かの矢が、エルモンツィの足を撃ち抜き、地面に縫い付ける。この機に首を…!



「今がこうk!」

「なわけないでしょう」


 エルモンツィが冷たい声とともに、叫ぼうとしたエルフの首を切り裂き、自分の足を切り捨てる。斬り捨てた側の足を真上に持ち上げ、クルリ回転しながら右へ。



 そして、突如再生した足に、首を狙ったわたしの鎌が弾き飛ばされる。



 …鎌が! それに、再生も早い。



 立ち上がったあいつはその場でくるり一回転。鎌で周囲を薙ぎ払いわたしの方へ飛び込んでくる。



 …回避も無理。素手で受けるのも…無理みたい。防御姿勢。…こうしておけば、



「ブルルッ!」


 センが割り込んできてくれ…、



「そう来るのは分かってますよ!」


 エルモンツィが鎌を強烈にセンに、ひいてはセンのバリアにたたきつける。



 …やられた。グエッ…。



 避ける間もなく、センと一緒に弾き飛ばされて、地面に叩きつけられる。



 ギャッう、うぅ…。痛い。…でも、それだけだね。痛いだけ。傷はセンが既に癒してくれた。鎌も戻ってきた。



 …まだやれる。…ん? 斬られたエルフの傷の色が…変だね。…真っ黒。既にエルフは事切れちゃってるけど…。



「…セン。やってみて」

「ブルッ!」


 …主語省いたけど、ちゃんと浄化してくれた。ありがと。…ん。浄化は効いたね。傷が黒から元の色に戻った。



「あ。…気づかれてしまいましたか」


 エルモンツィの顔が珍しく苦々しいものになってる。



「…知られたくなかった?」

「いえ。別に」


 …うわぁ。じゃあ、言う必要なかったよね…。



「まぁ、単に私にとって相性が最悪であるというのはそう言う事ですよ。エルフは勿論、聖魔法の化身とでも称すべきそのお馬さん、それに貴方。皆が皆、それが効かない。というだけですから」

「…教えていいの?」

「聖魔法が効く。それが露見している以上、別に構わないでしょう。不利にはなりませんよ」


 …わからない。本気でこいつがわからない。



「…確信のあるなしの差は大きいけど?」

「私の話を完全に信じられますか?」


 …信じられはしない。だけど、目、態度は嘘を言っていない。…わたしのその辺りを見る目は、間違いなく本物だと自負してる。それが全部「真」だと訴えて来てる。



 …そうじゃなきゃ、わたしがわざわざこんなこと言うもんか。



「…真実を語るくせに、わたしに誘導されたわけでもなく、誇りたいわけでもない。…何がしたいの?」

「この話の真偽を確かめるのに、名前、教えてくれますか?」

「…記憶力は大丈夫?」

「ですよね」


 …あっさり引き下がった? …ほんとに何がしたいの?



「困惑してますね。では、私がやりたいのは、貴方の隙を作ること…と言えば信用出来ますか?」


 …まさか。出来るわけがないでしょ。



「…後ろに鎌が待機してるのは知ってる。まさか、それじゃないよね?」

「わぁ。知らないんですね。幸せな人。…とでも言えば良いんでしょうか?」


 ………。―ッ!?



 鎌で地面を薙ぎ払う。…間一髪。さっき斬り捨てられたあいつの足が何かする前に吹き飛ばせた。



「ブルルッ!」


 …だよね。この機会に来るよね。…まったく、切断された足を完全に消し去る余裕もないね。



「足はお任せを!」


 …お願い。…わたしはこいつの相手を。



 …でも、完全に後手に回っちゃった。…圧倒的に不利。…出来るだけ受け流していきたい。いきたいけど…、辛い。…一撃一撃の重さが尋常じゃないよ。…なんとか飛び跳ねて──正確に言えば、受けきれなかった衝撃で軽く吹き飛ばされながらだけど…。一応、対応出来てるね。…でも、出来てるけど、センと離されてる!



 …むぅ。わたしがもう少し大きければ、吹き飛ばされるのがマシになるんだけど。



 …センとエルフが鎌に集られてる。…本格的にマズイ。



 …わたしを孤立させるのが目的だね。…それが叶えばっ、()られちゃうっ。



 …『聖壁』系統は既に使い切っちゃってるんだよ…ねっ。ないものねだりをしても仕方なっ、いけど…さ。



 …縦斬りが来る。これを避けて…、次の一撃が来る前にポケットの…。あった。



「『岩壁』」


 紙と引き換えに壁を作る。後13枚だね。今のうちに体勢を立て直す。



「無駄ですッ!」


 …嘘。お父さんたちがかなり頑丈につくってくれた壁だよ!? …立て続けに同じ場所を狙われちゃうと厳しかったのね。



 …慌てちゃダメだ。まず、破片を消滅させて…、当座の安全を確保。



 …で、足を地面に前よりしっかりつけて、鎌で流す!



 ぎゃっ…。相変わらず…重い。



 …受け流そうとしてるのに、受け流そうとした一撃一撃で押される。…ほんと、どんな膂力してるのさ。…壁を使う前とあんまり変わらない状況。…少しは後ろに下げられるのがマシになった。なったけど…、押されるのは変わってないっ。



 …森に逃げ込む? …そんなことしたら死角から鎌に斬られて死んじゃうだけ。…もし、森に入ろうものなら、センやエルフ達の鎌はきっとこっちに一斉に来る。



 …でもっ、このままじゃっ。



「よく受け流せますねぇ」

「…どこが!?」


 受け流すってのは、力を完全に逃がすこと。…わたしがやってるのは受け流しじゃあないよ。ただ、受け損ねてるだけ。



「普通なら、既に一撃は入れれてるんですけど」


 …エルモンツィの「受け流し」の基準がおかしいだけ…だったのね。つまり、今までは既にいい一撃を貰ってる…と。



 …全く救いにならないね。重篤な一撃は貰ってないけど、軽い裂傷ならチラホラ貰ってる。



 …どうにかして打開しないと。…でも、やれることが少なすぎる。左右の鎌の攻撃を見切って受け流して、避けて流す。それだけ。



 …あぁ、もう。エルモンツィが二本鎌を持っているのが面倒すぎる。…一撃を避ける、受ける、受け流す、どれをとっても、上手くもう一本と連携させて来る。



 …反撃を狙うことっ、…も出来ない。…紙を取り出すこともっ、警戒されてるっ。



 …わたしの鎌が一本しかないのが問題。



 …圧倒的に手数が足りてないね。…手数を増やすなら魔法。だけどっ。…警戒が強い。…この思考は駄目だね。循環しちゃうや。



 …あぅ。もう、きついよ。…ほんとに。…ほんと相手が何本もあるのがズルい! …こんなこと言っても仕方な…くはないね。…うん。まだ手はあった。



 …わたしにとって、一本しかないのが問題。…なら、やってみる価値はあるよね。



 …自前の『(シャイツァー)』にこだわる必要ない。…足りないなら奪えばいい。



 …エルモンツィ相手では悪手。…そんな気もする。けど、やらなきゃダメだね。…このまま終わる気は、わたしにはない。



 あいつの右手の鎌を流して、左も流す。あいつの右手の鎌が、わたしの胴の高さを横薙ぎする。



 しゃがんで避けて…、避けられて空を切る鎌にわたしの鎌を引っかけて…! 地面にたたきつける!



 鎌から手を離して、エルモンツィの左手の鎌に魔力を纏わせた手を伸ばす。



 ちょっと高いけど…、届いた!



「ちょっ…」


 …五月蠅い。黙ってわたしに鎌を寄越せ。…今は奪取を優先。聖魔法がこいつ本体に効くかどうかは怪しい。



「『聖弾』」


 だから、左手を狙う。『聖弾』で左手を消し飛ばして強奪。その場で回転。わたし本来の鎌を回収しながら鎌を叩きつける。



 奪った鎌がエルモンツィの足を切り裂き、続くわたしの鎌は受け止められた。



 …ちぇっ。…でも、これで鎌の本数は二本になったね。…でも、略奪した鎌を持つ左手がちょっとむずむずする…。…魔力を纏わせているんだけど。



 …予想通り何か悪いことしようとしてる?



 …悪い子だね。…悪い子には罰を。ひとまず魔力を流して黙らせる。



「手癖最悪ですね!」

「…わたしだからね」


 魔力を流しながら、答えながらでも、シャイツァーを投げつけるぐらいは出来る。…ん。案の定、投げた鎌を受け止めてくれたね。



 『風』…この紙を使おう。…お父さんたちが敢えてあんまり厳密に決めずにくれたから、わたしが自由にいじる余地がある。想像を固める時間が少々いるのが難点だけど…。



 …その鎌を受け止めた時間があれば、十分だよ。



 …わたしが望むのはあいつを吹き飛ばす猛烈な風。ただそれだけ。…これで吹き飛ぶといい。



「『風』」


 奴が払いのけたわたしのシャイツァーを回収。それと同時に、龍を模した風のようなものがエルモンツィの腹に食らいつき、そのまま運んでいく。



 …明らかにお父さんとお母さんが使ってた魔法に影響されてる。…まぁいいや。それより合流しないと。…ついでに鎌に、罰を加えないとね。



 シャイツァーで、強奪した鎌の刃の一部…、刃の根元付近を狙って僅かに欠けさせる。後…、さっきもやったけど、無理やり魔力も流しておこうかな。



 …これは走りながらでも出来るね。急いで合流しないと。…吹き飛ばしたはいいけれど、わたしの周囲にふよふよとあいつの鎌も浮いていることだしね。



 …にしても、消されるかな? と思ったけど消されないね? この強奪した鎌。…何でだろ?…しかもこれ、妙にわたしになじんでる…。



 …全く重さを感じない。…物凄く軽い。わたしの鎌の力かな? 確か…『呪■■■鎌 カ■■■・■■イズ』だったはずだけど。



 えっと、今は…。



 『呪断■■■鎌 カ■■■・■■イズ』…ね。



 …間違いなく「呪」いを「断」つ「鎌」だね。…なるほどね。だから呪いがわたしに効かないのね。……あれ? …伏せ字部分、増えてない?



「ブルルッ!」


 ! 思考を打ち切ろう。…シャイツァーだし、害はないはず。



「…ん。ありがと。平気だよ」


 …今回のセンの言いたいことはわかりやすい。こんなに心配そうな目をしてくれていれば間違えるわけがないね。



 センの頭を一撫でして…。さ。いくよ。



「お姉さまッ!」


 ッ!? 鎌が飛んできた!?



 奪った鎌で真っ向から斬りつけ、刃を粉砕する。



 …ん。…さっきあいつを切った。今、鎌を切った。…あいつ本体、鎌どっちを切るのも問題なし。



 …この鎌でもあいつ相手に十全に戦える。



「よくもやってくれましたね!」

「…それはこっちの台詞」


 前から飛びかかってくるあいつを二本の鎌で受け止める。



 …もう前みたいに、無理やり鍔迫り合いをさせて…、なんて通用しないよ?



「チッ…。何で私の鎌なのに扱えるんですかね。本当に面倒です」

「…知らないよ」


 …でも、やっぱり力が強い。直接受けるのはやっぱり得策じゃないね。



「聖魔法をっ!」

「ブルルッ!」

「チッ!」


 よし、距離を取ってくれた。…今度はこっちから!



 躍り出るように距離を詰める。詰めたら、右の鎌で左に切った…けど、受けられた。



 そのまま受け流され、反撃が来る。それを左の鎌で受ける。流された右の鎌をひいて…、突く!



 …これも入らないのね。



 逆撃を避けて、流して、わたしが反撃。受けられて、右の鎌の一撃を逸らして、一撃。それが流されて…。



 …ちょっと楽になったけど当たらない。…周囲はまだ、相変わらずエルフのおかげで気にしなくていいけど。



「この子も鬱陶しいですが…。やはり、エルフも大概ですね!…というか、あれ?減らしたはずのエルフが増えてませんか?」

「お姉様の援軍に後から来てます」


 …援軍に来てくれてるんだ。ありがたいね。



「世界樹からの距離は結構あるはずなんですけど」

「状況が好転してるってことですよ」


 …お父さんとお母さん達かな? 内部に侵入されて、外に意識を配ってる暇が無くなった…。とか、そう言う感じかな?



 …普通に会話しながら、わたしの応対をされてるって事実からは目を逸らしちゃ…だめだよね。



 …動きが雑になってるから、こっちの攻撃は掠ってて、相手のは掠りすらしてないけど…。…ほんと、歴史に名を残すだけはあるね。



 純粋な鎌を振り回す腕前に、大量の浮遊鎌の操作。これだけで厄介なのに、自身の肉体の破片が、敵対者に牙を向く。…そして、斬りつけられた相手に呪いで致命的な損害を与える。



 …きっとこの呪いは、鎌に分解するとか、操るとかそんな感じだろうね。…兎も角、あいつの兵力になるのは間違いないかな。



 …それを、わたしとセンは自前の耐呪能力で防いでる。エルフは…、なんでだろう? …呪いが魂に作用するもので、すぐ転生して世界樹に逃げられちゃう…とかそんな感じかな?



 …こうして列挙してみればみるほど、エグイね。



 …聖魔法を使える人がいないと、人を集めても無駄。…むしろ、人が多い分、呪いとエルモンツィの肉体欠損で被害が拡大する。



 …あながち過去──500年前の被害は、誇張じゃないのかも。…むしろ足りないまであるかも。



 …500? そうだよ。…エルモンツィは500年前だよね。…そして、日本語がわかる。



 …妙にわたしの名前を気にしていて…、「名前が知られると良くない」そう言われたのは『シャルシャ大渓谷』の呪いとか、その辺り。



 …我ながら荒唐無稽な考えが出てきた。…でも、試してみよう。…これで激高されれば酷いことになるけれど、動揺を誘えれば好機になる。



「…エルモンツィ。気が変わったっ」

「何ですか?」


 …相変わらず涼しい顔して攻撃受け流してくるね。



「…名前、教えてあげる」

「ブルッ!?」


 …センはきっと、「いいの!?」って言いたいんだね。…何もセンに言ってないしね。



 …でも、それよりエルモンツィだね。…普通なら見逃しちゃうだろうけれど、一瞬、嬉しそうに顔を綻ばせた。



「エルモンツィ。とか言い出したら怒りますけど?」

「…まさか」


 …ちゃんと別の名前だよ。…別のね。



「…ちゃんと聞いててね。いくよ? わたしの名前は…『アリア(・・・)』。『アリア(・・・)』だよ」


 …わたしにとって完全な偽名。…だけどそれは、推測が正しいなら、わたしだけに限った話じゃない。



「なっ!?その名前は…!?」


 やっぱり動揺したね。…この機に首を刈ってセンと一緒に聖魔法を…!



「うがっ、ウガアァァァァ!」


 ッ!? 撤退!



 エルモンツィから距離を取って防御態勢。



 …なにあれ。エルモンツィの体から…、いつものあの、白と黒が混じった汚い色が、大量に飛び出してきてる!?

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