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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
6章 エルフ領域
213/306

189話 アイリとチヌカ

アイリ視点です。

時間は少し戻って182話の直後からになります。

 わたしの鎌がチヌカの鎌と激突、キン! と甲高い音が辺りに木霊する。



 …よし、無事にチヌカを止められたね。世界樹の入り口も無事に閉じた。…これでお父さん達に追いすがることは出来ないね。なら次にやるべきは…。



「…セン!世界樹から離れて!」


 …こいつを──チヌカを世界樹から引き離す。…目的がわかんないけど、どうせろくでもない。



「ブルルッ!」


 わたしの声にセンが駆け出しながら鳴き、答えてくれた。



 …世界樹からの妨害は…なし。…去る者追わずなのかな? それとも、お父さんたちが中に侵入できたからそっちに対処しなきゃなんないのか…。



 …どっちにしろ、わたしにとって好都合なことは違いないね。…あいつはここで仕留める。



「…ひとまず外縁部まで」

「ブルッ!」


 …ありがとね。セン。…思いっきり前向いて走ってね。わたしが後ろを見とくから。



 …チヌカは予想通り……ひょっとしたら勘というべきなのかもしれないけど…、何はともあれ、わたしをしっかり見てるね。…鎌も飛んできてる。



 …鎌は小さい。でも、確実に人の首は刈り取れる刃渡りを持ってる。それが一、二…、うん。数えるのも馬鹿らしいぐらい浮いてるね。



 …そんなのがチヌカの一挙手一投足に従って、そこそこの早さで滑らかに追って来てる。いずれ鎌を落としながら、戦いやすい場所を探す…、なんてしなきゃダメになりそうだね。



 …でも、まだ鎌は遠い。…手をこまねいて待つ意味もなし、鎌を巨大化させて叩き折る!



 鎌群へ鎌を滑りこませると、硬質な音を立てながら鎌が落ち、砕け散る。



 …ん。刃を砕けば鎌は消えるね。密度高いところ狙って消滅させていこう。



 …鎌が大きくて小回りが利きにくいけど…、手で捻って向きを変えるときだけ、鎌は小さくすればいいね。そうすれば、空気抵抗が減って多少はやりやすくなる。



 …にしても、本当に数が多いね。…近い鎌、鎌の密度が高いところ…、そんなところをかなり優先しなきゃダメみたい。



 右側手前、左上方中奥…、下方最手前…、…むぅ、優先順位を付けるのさえ大変。



 …簡単なのは「気を抜いたら一気に鎌がこっちまでくる」なんて自明の予想を立てることぐらい。



 …唯一の救いは、刃を砕くのに失敗しても、鎌が落ちてくれることだけど…。チヌカと鎌の間に見えない線でも通ってるのかな? …わたしの鎌の刃があいつと鎌の柄の間を通ったら落ちて行ってくれているし。



 …ただ、あいつが触れたら再利用されそうなんだよね…。



 …あ。丁度鎌が落ちた鎌に近づいてる。…ちょうどいいし見ておこう。



 …浮いてる鎌から黒いのが流れ込んで、二つの鎌がゆっくり浮き上がったね。



 …やっぱり復活した。…時間稼ぎには良い、でも、鎌の本数自体を減らしたいなら、刃を確実に壊さないとダメだね。…打撃になってるかはわかんないけどね。



「ブルルッ!」

「うぇっ!?もう着いたの?」

「ブルルン!」


 「そーだよ!」かな…?



 …うん。たぶん合ってるはず。



「ブルルルルッ!ブルルゥブルルッ!」


 …ごめんよくわかんないや。



 …「早いのは、お父さんとお母さんのおかげ」とかそんな感じ…なのかな?



「ブルルッ!」


 「あってるよー!」かな?



 二人のおかげ…?



 …あぁ。なるほど。「お父さんとお母さんが触媒魔法使って、世界樹の周辺の様相が一変しているから」ってことね。…あちらこちらにあった障害物がほぼすべて悉く吹き飛ばされたもんね。



 …そう考えると、世界樹周辺は障害物が少なくて開けているから、戦いやすい土地に思えるけど…。



 …止めといた方がいいかな。…見るからに足場が凸凹だし、…なにより世界樹が鬱陶しい。



 …要素を列挙してみると、別の広いところを探したほうが良さそうなのは間違いないかな? …わたしがアレをそのままにしておくつもりがないのとおんなじくらい、アレもわたしを放っておく気はないみたいだしね。



「開けた場所に」

「ブルッ!」


 …ちょっと言葉省いたけど伝わったね。…ここで世界樹周辺に戻ろうとしたらどうしようかと思った。



「ブルルルルッ?」

「…ん?大丈夫かって聞いてくれてる?」


 センがわたしの問いに答えるように高く鳴く。



「…ん。大丈夫だよ」


 鎌の本数が増えている気がしないでもないけれど、ちゃんと捌けてる。無理でもセンがバリアを張ってどうにかいなしてくれるだろうけれど…。出来るだけ頼らずに済ませておきたいな。…数本以上だとあっけなく呑み込まれちゃいそうだし。



「ブルッ!?」

「どうしたの!?セン!?」

「ブルルッ!ブルルッ!」


 お父さんとお母さんじゃないからちゃんとはわかんない…、



 …ッ! 前からも鎌が来てる!



 …失敗した。「いつの間に」かはわかんないけど、こっそりわたし達の正面に回り込ませていたんだね。



「ごめん。セン。正面は任せる」


 …あんまり頼りたくない。そう思ったばかりだけど。



 …数もそこまで多いわけじゃないけど…、いくら何でも前と後ろ、両方は鎌一本じゃ無理だよ。



「ブルルッ!」


 今のは「了解!」じゃないような…。「やっほーい!」とかの方面なような…。



「ブルルゥ!」


 センが白球を出して鎌に当てていく。ぶつけられたとしても大した破壊力はないはずなのに、白球が命中した鎌はそれだけで沈黙。力なく横たわる鎌は、駆け抜けていくセンに刃を踏み抜かれて完全に消滅する。



 …なるほど、聖魔法は効くのね。踏み抜かなきゃダメだけど…。でも、だから喜んでるのかな? 魔法が刺さるから。



「ブルルッ!」


 走るよ! …かな。そんな感じでセンが嬉しそうに鳴いて、センが木々の隙間を跳ねるように抜けていく。道中、進路の木々が伐採されて倒れてくることもあったけれど、バリアを張って無力化する。



 チヌカは…、森に入ったけどちゃんと追ってきてる。…よく考えると、木々の間を抜けて行っているとはいえ、馬の脚力に追従できる時点でおかしいね。



 …傍から見たらものすごくアレなんだろうね。日本語で「シュール」…だったかな? …あってようとなかろうと、わたし達にそれを楽しんでる余裕なんてないけど。



 ッ!? 危ないなぁ!



 切りかかってきた鎌を、少し余裕を持って柄の部分で鎌を受け止める。自分の鎌をクルリ回転させて、刃の部分でチヌカの鎌の先端を地面にたたきつける。



 …ほんとに油断も隙も無い。



「ブルルッ!」

「…今度は何!?」


 今のは…たぶん「前見て!」かなぁ? …悪いけど、わたし、お父さんたちほどに意思の疎通は出来ないよ。…何よりもっ、忙しいしねっ!



「ブルルンブルルッ!」


 「わかってるけど、それでも見て!」…なのかな? …多分そう。ここまで言うってことはわたしの判断がすぐに必要なんだね。…仕方ないね。手札を切ろう。



 …お父さん達から貰った紙を取り出して、右手で持つ。鎌を巨大化させ、あたりに生えている木々もろとも、力任せに強引に左から右へ、木の根元付近を薙ぎ払う。



 あまりに雑に薙ぎ払うものだから、根元から切断された木々が鎌の動きにつられて左から右へ。それを尻目に…、



「『聖壁』」


 薙ぎ払った上側にお父さん達から貰った魔法を展開。…一回で消えちゃう設置型? とでもいうモノだけど…、その分、厚みがある。…ん。狙い通りだね。上に逃げようとした鎌がそれにふれてぽとぽと落ちた。そればかりか何本か砕け散ってるね…。…浄化されきったのかな?



 …にしても、さすがわたしのお父さんとお母さんだね。わたし自身の力だけじゃあ、まるで使える気がしない聖魔法が、これほどの規模で使えるなんて…。



 …ん。ひとまずの安全は確保できた。センの言ってることを確認しないと。



 …切り札を一枚使い切っちゃったけど、日本語だし。…それに、考え方を変えれば、「もう使えないのに警戒させられる」んだから丁度いいかもしれない。



 ぽんぽんとセンの背中を叩く。



「ブルルッ!」


 それを合図にセンは前方を薙ぎ払ってくれる。…これで視線は確保できた。



 …あれは何だろう? …水が大量に溜まっているみたいだし、湖…なのかな?



「ブルルッ!」


 …「広いね!」……かなぁ?



 …確かに広い。…でも、いくら何でも湖の上での戦闘は嫌だからね?…間違いなく広いけどさ。……。



「…セン、この状況下でも安定して水上走ったり出来る?」

「ブルルルルッ!」


 …自慢げな声だね。…となると、出来る。なら…!



「…湖の上に出て。そこから良さげなところを探す!」

「ブルルッ!」


 元気よく一鳴きし、センは一切の躊躇なく湖の上に躍り出て、足を進めていく。



 …嘘はつかないとは思ってたけど…、実際に水面を走っているのを感じると、何も言えないね。



 …走り方は、水をはじくようなバリアを足元に展開、それで浮く…って感じかな? …魔力消費が大きそう。急いで戦闘に良さげな場所を探さないとね。…ないなら手近で安全な場所に突っ込んでもらわないと。



 …鎌も普通に湖の上まで追って来てるね。…早く全方位を確認したいけど、まだちょっと陸に近すぎる。…全方位を一度に見渡すにはもう少し中へ行かなきゃダメかな。



 …湖の上は一切隠れる場所がない。だから見逃さない限り鎌の奇襲はありえないんだけど、周囲を見渡しながら、鎌も撃破しないといけない。…センがいるとはいえ、なかなか大変。



「ブルルッ!」

「…何!?」


 わたしの声にセンが飛び上がって一回転。後ろに光球を乱打。



「ブルルッ!」


 …今のうちに見ろ。そう言いたいのね。…えっと、場所は…。あ。都合よくあった。



 …でも、遠いね。…エルフ領域の境界のそばだね。…丁度世界樹から一番遠いところ。



 …あの辺りだけ木が全くと言っていいほどなくて、ごつごつした岩肌が露出してるように見えるけど…、何でだろ? クアン連峰が近い…ってだけじゃあないはずだし。



 …理由は今はいいよね。ちょうどいい場所がある。…それだけで十分。



「…セン!」

「ブルルッ!」


 たったそれだけのやりとりでセンは加速してくれる。…ありがとね。わたしはわたしの出来ることをしよう。




 …もう紙は一回使っちゃった。…だから、相手は既にわたしが鎌以外にも何か出来るってわかってるはず。…使わない手はないね。



 …気前よく使っちゃうと、補充も利かないからすぐ全滅しちゃうだろうけど…、過保護な二人からいっぱい紙は預かってるから、さっき使ったのも含めて20枚はある。…そのうち5枚は『回復』だけど…。数枚程度ならいいでしょ。



 …今は、湖の上。だったら、



「『火球』」


 火の玉を飛ばして鎌を落としていこう。火球を避けようとした敵の鎌をわたしの鎌が切り裂き、わたしの鎌が飛んでいく火球に敵の鎌を追い込んで溶かす。



 鎌を巨大化させて…、そういえば…、今まであいつ自体を狙ったことがなかったね。…一切の情報無く倒しちゃうのはよくないと思うけど…、倒せればあっちに見えてる世界樹に戻れる。…何よりあいつを消せる。



 …やらない手はないね。



 敵の鎌を大量に薙ぎはらって、打ち砕き、溶かす。…わたしの主目的があくまで鎌を除去し、センの道を拓くことだと思わせておいて…、



 …鎌で足場を作って優雅に浮いてるアレ目がけ、渾身の一撃をッ!



 ガキャッ!



 なっー!? 止められた!?



 …いや、それだけじゃ終わらせない。…無理やり当てるんじゃなくて、誘導して当てさせる。…わたしの鎌をあいつが鎌で──あいつの膂力で──受け止めているなら、これは避けられないはず!



「『聖球』」


 白く輝く、呪いに打ち勝つ球。それが…って、ダメだね。撃った瞬間に確信できた。球の早さは遅くはない。…だけど、そぶりを見て取ったのか射線から離れられちゃった…。火球の紙を2枚も犠牲にしたんだけど…。



「ブルルルルッ!」


 …よし、着いたね。センから飛び降り、目的地──開いた空間──の中央付近に降りる。



 辺りには若干白っぽい岩肌が太陽光に晒されていて、わたしが身を隠すような場所もなければ、あいつが鎌を伏せておけるような場所もない。



 センがわたしの横に来てくれて、湖からわたしによく似た黒い髪、赤い目を持つ女がゆるゆると鎌に乗ってやってくる。



 …あいつの顔、割とわたしと似ているような気がしないでもない。…わたしが大きくなって「綺麗」って褒められる顔立ちじゃなくて、「可愛い」って言われやすい方面の容姿になったらこんな感じかもしれない。



 …「大きくなったらお母さんみたいな綺麗な人になりたいな」って思ってたけど…、その気持ちが強まった気がする。…あんまり気にしてなかったつもりなんだけど、心の奥はそうじゃなかったみたい。



「…貴方が『エルモンツィ』だね」

「そうです。私が、チヌリトリカが配下、エルモンツィです」


 「どうぞお見知りおき下さいませ」なんて言いながらムカつくくらい綺麗な一礼をする。



「貴方は?」

「…敵に名乗る名前なんてあるとでも?」

「ふふっ。これはこれは。どうやら親御さんの教育がよろしいようで」

「…ある意味、貴方のおかげ」


 …エルモンツィさえいなければ、わたしのシャイツァーが鎌であっても、きっと捨てられることはなかった。…逆に言えば、エルモンツィがいなかったらお父さん達に会えていないってことだけど。



「あら。そうなのですね。まぁ、想像に難くないですが…。チヌカたる私と同じく美しい赤と黒をお持ちですものね」


 …皮肉が通用するわけないとは思ってたけど…。ほんとに通じてないね。…一番面倒な返しだね。「事情を理解してるくせにわざと逆なで」…なんて、よくやるよ。



「私の象徴たる鎌もお持ちのようですし」

「…挑発は無駄だよ」


 …ばっさり切り捨てる。…延々と続けられるとウザいことこの上ないから。…わたしを怒らせたいなら、わたしの話をしても意味ないよ。



「でしょうね。貴方の雰囲気からそんなことだろうと思っていました。で、お名前は?」

「…言わないって言ってるでしょ?もう忘れたの?それとも…、名前を聞かなきゃならない事情でもあるの?」

「まさか」


 …つかみどころのない人だね。声や口調だけなら大人しい人に見えないこともないのに…、相手をおちょくって遊んでいるような、そのくせ、普通にしゃべっているだけのような、そんな感じがする。



「名乗っていただける気配もなさそうですし。そろそろやりましょうか」

「…だね。わたしも貴方と遊んでいる時間はそんなにない」


 わたしもエルモンツィも適度に距離を取り、武器を構える。



 ヒュゥゥゥン!


 特徴的な音を立てながら鏑矢が飛んできて、エルモンツィがそれを見もせずに撃墜。それを合図にわたしもセンも、動きだす。



「ハイエルフ様のお姉さまッ!援護いたしますッ!」

「…お願い。…当てないでね」

「もちろんです!貴方様の足は引っ張りません!」


 …さっきの矢はあのエルフが撃ってくれたものだね。



「ハハッ!群れで来ますか!私の前で数は無力だと言う事を証明してさしあげましょう!」


 …エルフの援護はわたしが頼んだわけじゃないんだけどね。



 鎌を振るって小型の鎌を叩き落しながら、エルモンツィを鎌で、『風刃』で狙う。それに呼応して、周囲から無数の矢が放たれる。



 エルモンツィは無数の小さな鎌でそれらを切り裂き、逆にその鎌や、どこからともなく取り出した鎌でこっちを狙ってくる。



「ブルルルル!ブルルッ!」


 …「おねーちゃん(わたし)の周囲は、任せて!」かなぁ? …わたしの横にペタっと貼り付いてくれてるし、たぶんそう。



「…なら、お願いする」


 …遠距離からじゃ確実に当たらない! …肉薄する!



「おや、飛び込んできましたか。エルフの皆さまと連携が取れませんよ?」

「…問題ない。取れる」


 …エルフ達を信頼してるわけじゃない。でも…、センがいてくれる。だから、大丈夫。



 胴へ向かって鎌を思いっきり振るう。…ッ、止められた! だけど、



 『聖弾』を使って追撃を…ッ!? もう一本!? …唱えてる間もなさそうだね!



 …グイっと鎌を押し込んで反動を利用しつつ後退。その間隙を逃さず、センが光球を放って下がり、エルフ達が矢を叩き込んで、数名が飛び込んでゆく。



 …それ(接近戦)は駄目だよ!? 少なくともわたしより上手くないと…!?



「連携の心配は無用でしたか。聖魔法が混ざっているのがアレですねぇ」


 なんて言いながら、周囲の鎌が縦横無尽に動いて矢を切り捨て、彼女の持つ二本の鎌が振るわれ、鮮血が散る。



「とはいえ、所詮自爆特攻ですね」

「お家芸だからなっ!」


 …自爆をお家芸にするのは止めた方が良い。



「回復は不要ですよ」

「…ますますただの自爆特攻ですね」


 エルモンツィがスッと目を伏せた。



 …誘われている? …だけど行くよ!



 一本の鎌で二本の鎌をいなす。周囲の浮いている鎌はセンやエルフが何とかしてくれる!



「骨があるのは貴方と、そこのお馬さんぐらいですね」

「…悠々綽々と切りつけをいなされてるんだけど」

「まぁ、私、チヌカですから」


 何処を狙おうとも、二本の鎌の内どっちかで防がれる…。やりにくいことこの上ないね。



「とはいえ、貴方も貴方で大概ですね。受けた後の逆撃はきっちり避けていますし…。何より、戦闘中に飴を食べていますよね?」

「…飴、大好きだからね」

「左様で」


 …よっぽどじゃないと噛み砕かないよ。勿体ない。



「ところで、何故貴方は彼女を…、ハイエルフ様のお姉さまを狙うのです?」

「あ。それ聞くのですね」


 …悔しいけど同感。今聞くのね。脳天目がけて鎌を振りぬく!



「おっと。話を振っておいて攻撃はなしですよ」


 ちぇっ…、受け止められた。



「…わたしは振ってない」

「…左様で」


 ここで『ウォーターレーザー』!



 …スッと射線外に出られた。ほんとに軽々いなすね…。先読みされてるのかってぐらい。



 …魔法を交えてなお、手数不足感が否めない。



「ま、答えてあげましょうか。冥土の土産にすらなりませんが。単にこの子が人間だからですよ」


 …え?



「…エルフに興味ないの?」

「えぇ。むしろ何故あると?私はチヌカですよ?」


 本気で困った顔してる…。何で?



「まぁ、神話決戦に参戦出来ていませんが」


 よよよ…。と手で目を覆う。そのくせして、わたしの一撃を受け止め、まわりの矢もわたしの魔法もセンの魔法も、粉砕し、受け、流していく。



 …完全な嘘泣き。



「考える雰囲気を出しながら、攻撃してくる貴方も貴方ですけどっ」


 …言いながらわたしを狙ってくるのはどうかと思うな。



 後ろに下がって回避。もう片方から飛んでくる鎌を受け止める。



「…世界樹から離れていいの?」


 …エルモンツィの言葉には応じない。どっちもやってること一緒だし。水掛け論。



 だから、代わりに問いを投げつけ、斬りつける。



「ええ。世界樹の障害は取り除かれる。もしくは、少なくとも中の人の攻勢を弱めてくれるでしょう」


 また受け止められた…。紙…も無理だね。折角、今、聖魔法を使おうとしたのに、予見されて回避行動に入られてる。



「…それでいいの?」

「構いませんよ。私とて世界樹を──ひいては世界を──破壊したいわけではありませんので。入れてくれませんけどね!」


 …入れてくれないのはチヌカだからでしょ。…それよりも、



「…何で?何で壊したくないの?」


 言いながら鎌で地面ごと掬い上げる!



「それが主の望みですので」


 バク転で回避しながら答える彼女。…意味が分からない。何で壊したくない?



 …でも、今が絶好の機会! …空中では回避が難しい!



 周囲から矢がエルモンツィに殺到。それを周囲に旋回する鎌を用いて撃沈させていくエルモンツィ。



 わたしとセンをじっと見つめてるけど…、構わない!



 『聖弾』を発射。…あっ。消えちゃった。これで後、残ってるの聖弾は一枚。でも、これで追い込めた!



 『ホーリーウォール』をとな…



「ブルルルッ!」


 前? ーッ!?



 ガガガガガッ!


 センが大量の鎌をバリアで受け止めてくれてるけどっ、もたない!



「『ホーリーウォール』」


 エルモンツィに突っ込ませてやりたかったけど…、眼前のふざけた量の鎌を叩き落すには『ホーリーウォール』を張るしかない!



 センの張った防御壁が鎌によってわずかに貫かれる。だけど、完全に粉砕されるまえに張られた壁が、鎌を一本たりとも通さない。



 紙を犠牲に設置されているからたぶん大丈夫だと思うけど…、『ホーリーウォール』の負担を減らせるよう、『死神の鎌』で浮いている鎌を叩き折る。



 その隙に、少し消耗しているセンと一緒に射線外に…!



 …あいつ、鎌の操作できるから射線も何もないけどさ。



「…大丈夫?」

「ブルルルッ、ブルルルゥッ!」


 …「驚いたけど、へーき。」かな? …怪我も無さそう。…魔力だけ心配だけど、それはセンがいいと良いと言ってるなら信じるほかないね。



「まったく…。お馬さんも貴方も、よりにもよって聖魔法ばかり撃ってきてくれますね…。今もそうです。ついつい無駄に鎌を叩きつけてしまいましたよ」


 …開き直って聖魔法はやめろって言い始めた。…焦らせることができた…のかな?



「特に貴方ですよ。貴方。『聖弾』、『聖壁』、『ホーリーウォール』と3つも聖魔法じゃないですか…。鎌もシャイツァーだから妙ですし…。一つだけ言わせていただくとすれば『聖壁』と『ホーリーウォール』を分ける意味が分からないことですけど」


 …それはわたしも思ってる。たぶん漢字とカタカナで違うからとかだと…、あれ? …おかしいな。何かが引っかかる…。



 …何だろ? ……あ。なるほど。あいつの言い分を踏まえると、わたしが『ホーリーウォール』を打つ前に、エルモンツィはそれ(ホーリーウォール)が聖魔法だって判断してるってなるからか!



 …なるほど。スッキリした…けど、嘘!? そんなことがありえるの!?



 …だって、この推測が正しいなら…、あいつは日本語を理解できる(・・・・・・・・・)ってことになっちゃう。

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