186話 リャール
世界樹の若芽にまとわりつく禍々しいモノ。それは若芽にピタッと貼りつき、若芽本来の色を美しくも鮮やかな緑から、形容しがたい不気味な緑や紫が混じったような色へと変えている。
「流石にアレはやっちゃ駄目だよね?」
「そーだね。あそこがしんぞー。アレがないとせいちょー出来ない」
「まだ伸びるのかよ…」
ガロウに同意する。既にかなり登って来た…、もとい吹き飛ばされてきたはずなのだけど。まだ成長が足りない。そうおっしゃるわけか。
「あー、ここ、別次元にあるからねー。ふつーに世界樹の天辺を目指すだけならー、ここには来れないよー」
「何が何やらわかんねぇな」
「もう思考停止で「さすが世界樹」でいいのでは?」
だね。四季の言うようにするのが一番だろう。精神安定的にも。
「あんたら緊張感なさすぎない…?」
「いえ?俺らはちゃんと持ってますよ」
「ですね。少なくとも奇襲は許しません」
四季と一緒に下からこっそり這い出してきていたツルを切り取り『輸爪』の上に乗せて踏みつぶす。…ふむ。強度はそこまでないな。ぐりぐりすれば普通に潰れてくれる。
「チッ…。今ので決めれればよかったんだけど。…どうもやりにくいわ」
「やりにくいってのには俺も同意しますよ」
「私も同意します」
まさか敵がまともに意思疎通の出来る相手だとは思わなかった。しかも、まともな人型。少しやりにくい。
形だけまともでも意味がないのはわかってはいる。どうせ体の構成要素も魔力や怨念などの非実体物なんだろうって推測も出来るし。現に服をはじめ、皮膚に髪、唇に至るまで体全体がほぼ紫系統の色で出来ていて、色合いに違和感がある。
それに、彼女が巻き付いた世界樹の若芽。そこを見ると彼女の人型は世界樹に拒絶されているかのように──実際、拒絶されているのだろうが──―触れている部分が崩れ、再生ということを繰り返している。
…こんなに変な要素並べられたら、やりにくい要素なんてないはずなんだけどな? どっかで見たことでもある?
いやいや、んなわけないでしょ。でも、聞くだけならタダだよね。聞くか。情報をくれるかもしれない。
「あの、どこかでお会いしたことがあります?」
「え!?あー、ん?ちょ…!?」
予想外に動揺している。適当に揺さぶったら何か情報くれたりしないか?
「えーと、確か5年前に…」
「はぁ!?5年前!?馬鹿なんじゃないの?!てか、会ったことがあるわけないでしょ!?あたしは約2000年前の人間よ!」
うわぁ…。思ったより口が軽い。動揺しているからかもしれないが、まさか口から出まかせを言っただけで本当に情報をくれるとは。おかげでこの人は約2000年前の人間だってわかった。神話決戦の関係者か当事者だろう。
「ですよね。ところで私達、貴方のお名前を知らないのですが?」
「え?あ。ごめんなさい。そうね、おとうさんもおかあさんも言ってたもんね。えっとね、あたしは『リャール=カー』…って、何で答えなきゃいけないのよ!?あんたら敵?でしょうが!」
むしろこっちが聞きたいのですが。本気で何で答えてくれるんですかね!?
「何か言いなさいよ!?」
「何か」
!? ガロウ!?
「はぁ!?」
リャールが激発。それと同時にレイコがぺしっとガロウを叩く音が響いた。ちょっと手遅れだったね。レイコ。リャールが一人でかっかしているだけだからどうとでもなるだろうが。
「てか、あんた誰よ!?その人らの何なのよ!?」
「俺?俺は二人の息子だぜ!」
誇らしそうに胸を張って言うガロウ。俺らが親であることを自慢してくれているんだろうけど、目の前でやられると少しくすぐったい気分になる。
「はぁ!?所詮義理でしょ!?義理!?」
「関係ないぜ」
「ですね。私たちはお二人の子供です」
「でもー!このエルフだけは除いてねー!」
カレンがテェルプさんを指さして言う。…人に向かって指さすのは良くないんだけど。今言うのは野暮か。
「ぐぎぎぎ…」
リャールが歯ぎしり…するような音を口から出す。彼女の体に実体がないからそうせざるをえないんだろうが、すごく間抜けに見える。…というか、
「今ふと思ったんだけど、何で一人であそこまで盛り上がってるんだろう?」
「さぁ…?私にもわかりかねます。」
そっか、四季にもわからないか。困った。どっからどう見ても一人で怒っているだけ。意味が分からない。さっきみたいに奇襲したいわけでもないみたい。攻撃が完全に停止している。
ひょっとして頭に血が上っていて、攻撃する意思すらどこかに行ってる? なら、このまま放っておくのは下策か。怒りが天元突破して暴走とかされると非常に困る。
本題を切り出してしまうか。
「あの。リャールさん。」
「何よ!?」
「世界樹から離れていただけませんか?」
リャールは俺の言葉に目を見開き、うつむく。…落ち込んでいるのか? それとも、怒りに震えているのか、判別がつかない。
「貴方がおそらく今回の世界樹の危機の原因だとは私達、推測しt「「げーいんだよ!」だってー!」…原因だそうなので。世界樹のためにも」
四季はわざと彼女が原因だと断ずる必要はないと思って避けたんだろうに…。
カレンも煩わしそうな顔をしているから世界樹がわめくなりして言わせたんだろうな。全く、世界樹め。命がかかっているのはわかるが、少し落ち着け。難しいだろうけどさ。
「貴方たちの目的は世界樹を枯れさせないこと?」
「「はい」」
カレンが世界樹を枯らして欲しくないみたいだしね。後、無くなるとリンヴィ様とかの知人が困る。
「そうよね。ええ。知っていたわ。あたしだってわかってるわ。世界樹が大切なモノだってことぐらいちゃーんと把握してる」
リャールさんはそこで言葉を切り、息を大きく吸った。
「でも!それは認められないわ!例え誰に──友達や親友、家族──にさえ認められなくとも!あたしは止めない!そうじゃなければあたしが、『リャール』が納得できないの!」
吸った息を全て吐き出すように、リャールは言葉を紡ぎきった。彼女の溢れんばかりの思いのたけを込めたからか、息をしていないはずの彼女は息が上がったかのように、肩で息をしている。
彼女は少し時間をかけて呼吸を整えると、
「だから…」
体から放つ雰囲気を変えた。それに触発されて、自然に俺も四季もカレンもガロウもレイコもテェルプさんも、そしてルナさえも。各々戦闘態勢に移行する。
そんな中、
「世界樹を守りたいならかかってきなさい。あたしを殺す。それ以外に道はないわ」
リャールは完膚なきまでに決定的な、一片の疑いの余地もない言葉を放った。
瞬間、四季がこつんとルナの足を叩いて合図を出すと、ルナが四季の背中から飛び降り、ガロウ、テェルプさんと一緒に『輸爪』に乗って最前列に。その後ろ、中衛に俺と四季とカレン。最後尾の後衛にレイコがつき、隊列が完成した。
完成した途端、流れるように、ガロウが『護爪』を撃ち、テェルプさんがどこからともなく取り出した短刀を放り投げ、ルナが家で殴る。前衛3人の邪魔にならないよう、カレンが弓で極太の矢を放ち、俺と四季、レイコの魔法が一直線に飛ぶ。
「その程度、無駄よ」
その場から動くことなく、りゃーるは足元から出したツルで叩き落とす。
「『|蒼凍紅焼拓《ガルミ―ア=アディシュ》』を使っておけばリャールさんに損害を与えられたと思いますか?」
「さぁ?どうだろ?」
『|蒼凍紅焼拓《ガルミ―ア=アディシュ》』であれば、座ったままの彼女には当たったかもしれないが…。
「ふふん、会話している時間なんてないわ!風よ、吹き飛ばせ。あたしの周囲から悉く!『風護』!」
彼女の宣言が高らかに響き、彼女──世界樹の中心──から、外側へ向かってそこそこ強い風が吹き始める。
「考えるより先に…。」
「行動。ですよね。わかっております。お父様」
よくわかってる。レイコ。戦いが終わっても気になるなら見解を話してあげよう。
にしても、この風、厄介だ。さっきまでの会話では思いっきり自爆を繰り返していたが、見極める目はあるらしい。
確実に『輸爪』は踏ん張りが効かないってわかっててやってる。今すぐにどうこうなるわけではないが、じりじり押し流されている。足場がしっかりしていればこんなことは絶対ありえないのだが…。
飛び降りるわけにはいかない。足場は全部世界樹だ。しっかりしているのはわかってはいるが、リャールが乗っ取りかけている以上、今の床は毒沼よりも質が悪い。
「この風は彼女の生来持つ魔法ですかね?」
「じゃないかな?木と風は結びつかない」
「そーらしーよ!」
補足ありがとね。カレン。
カレンに言っても詮方なきことだが、まだ世界樹の力の方が良かったんだが。リャール自身の持つ手札があるってことになってしまう。…どんな手を使ってくるか予想もつかないぞ?
「てか、カレン姉ちゃんはまたそれしてんのな」
「ガロウの負担減るでしょー?」
いつもの如く、カレンは自分の矢で飛びながら笑顔で言う。
「そりゃそうだが、風の力を俺よりひどく受けねぇ?」
ガロウの言葉にたちまち、カレンは苦虫を噛み潰したように顔が曇る。が、すぐさま力強い顔になって、
「なんとかするー!」
と叫んでギュンと加速…したはいいけど、進めてないね。頑張っているんだろうけど、風への抵抗で精いっぱい。その状況では矢を放ったところで届かないだろう。
「風と攻撃で列がめちゃめちゃですっ!」
「だね!」
初めて『輸爪』に乗ったテェルプさんはかなり押し流されている。カレンは矢で飛んでいるせいでテェルプさんの次にしんどそう。それ以外は全員同じくらい。だが、ルナが先行している。
家が丁度ルナを覆うようにバリアを展開してくれているからだろう。…そんな健気な家をルナ自身はハンマー代わりに使う気満々。煙突が持ち手で、家本体が殴打部。
見てる場合じゃなかった。ルナを止めないと。あの進み方は魔力の無駄が多すぎる。
だが、明らかにルナはやりたいって思ってる。「護られてばっかなのは嫌だから、今、役に立ちたい」って気配がヒシヒシと全身から溢れてきてる。
…これを止めるのか? 泣かれない?
いや、たぶんあの子もわかってるだろう。多分泣かれないはず。…でも、ルナの気持ちがわかる以上、配慮してあげたい。特に俺と四季が見ているうちにルナが何かをしたってのはなかったはずだから。
いつまでも悩んでる場合じゃない。どうするか決めねば…って、遠いな! 意外に近づいてる。ルナを風よけにしたとして…、追いつけないか!
「どうする!?」
「一発やってもらいましょう。それでひとまず納得するでしょう!」
…それしかなさそうか。
「方法は?」
「私にお任せあれ。ルナちゃん!一回、大きくして、やってみてください」
「大きく?…わかった。かあたま。それでやる」
届かないなら大きくして無理やり届くようにすればいい。それが四季の答えね。脳筋チックだが、わかりやすくていい解だ。
ルナはグングン家を巨大化させる。あっという間に家の大きさは50 mを超える。
…ん? 風が止んだ? ツルの妨害はあるけれど、効果切れ?
「やる!」
考察は、今はぶん投げよう。これだけは言っておかないと。
「若芽を殴らないでね!」
「ふぇ!?」
嘘ッ!? って顔でこっちを見てくるルナ。さっき言ったよね!?
家は既に大上段から若芽に向かって振り下ろされている。小さくすれば…って、間に合わない!
「しっかしなさいよ!」
よかった。リャールがツルで止めてくれた。数本ツルは逝かれたようだが、無事止まった。リャールを始末できても若芽が死ねば意味がないからね…。
「ごめんなさい」
ぺこり頭を下げてくるルナ。
「わかってくれてるならいいよ」
「ですね。今度は気を付けるように。でも、ちょっと下がりましょうか」
「あい」
反省しているなら怒る必要はない。…今回ばかりは怒ったほうが良いんだろうけど。ものすごくしょげちゃってるからなぁ…。
兎も角、これで一旦ルナを下げられる。
「ちょ…!?おま…。貴方たち何考えてんのよ!?ねぇ!?」
そう言いたくもなるよな。当事者である俺ですらそう思うんだから。リャールならなおさらに。
「正直、止めてくれて助かりました」
「尤も、貴方がそこにいなければこんなことにはなっていないのですが」
「え、あ?これはお父様、ご丁寧にどうも…。お母様。それは無理な相談で…」
ん? 何でそんな反応…? ひょっとして元々いいとこのお嬢様か何かかだったのか?
「って、違うでしょうが!?」
なんだどこにでも…はいないけど、ノリツッコミの出来る、笑いのわかる人か。
「変なこと考えてるでしょそこの親共!?でもそれはいいわ。何で精神的に幼い子を戦線に立たせてるのよ!?」
…はい?
「何で全員首傾げてるのよ!?」
え? 本気で理解していない…?
「何で、ちっさい子を立たせてるのよ!?」
聞き間違いじゃなかった。訳が分からない。何で世界樹を乗っ取ろうとしている奴が…、ひいては世界の破壊をもくろむような奴が幼子の心配を?
え、となると…、さっき都合よく風が止んだけど、それは偶然効果が切れたんじゃなくて、リャールが切った? ルナの魔力消費が跳ねあがることを憂いて。
「貴方、矛盾していません?」
「この子を守ろうとすることと、世界樹を滅ぼすこと。俺らは相反することだと思いますけど?」
ましてリャールは俺らが勇者だってことを知らないはず。この子を連れて別世界へ! なんて考えに至るわけもなし。
「矛盾?かもしれないわね。でも、それが何か問題?」
開き直りやがった。
「あたしが苦言を言った理由は定かでは…あるけども」
「あるんかい」
「あるのよ」
ガロウのツッコミには返事をするのな。
「でも、」
ガラリとリャールの雰囲気が変わる。それに呑まれたのか子供達がわずかに後退する。
「あたしにとって世界は恨む対象でしかないのよ。神も民も土地も生きとし生けるもの全てね。だからこそ、繰り返しになるけれどあえて言っておくわ。誰に何と言われようとも、あたしはあたしの信念を曲げないわ。例えあたし以外の誰も、それこそあたしが大好きな人が望んでいなくても。あたしが望む限り、それを為すわ。それがあたしのおとうさんとおかあさんの教えよ」
なかなか素敵に狂ってる。普通、親しい人に言われれば止まれるだろうに…。
この人を此処まで追い詰めたのは「恨み」か。きっと「復讐なんて何にもならない」なんて、ありきたりだけど、説得によく使われる言葉など、この人にとっては虚無でしかないのだろう。
「誰だこの人育てたの…。厄介な教えを説きやがって…」
「お父様とお母様に似ていますけどね…」
確かにね。ちょっと似てるね。俺も四季も皆には好きに生きて欲しいと思っている。だから、間違いなく似たことは言ってるはず。
でも、リャールの言葉には俺らにとっての大前提が抜けている。「本人が幸せである限り」という前提が。…あの人が幸せならいいけど、傍から見る限り幸せではない。
恨みがあるのは確か。だが、良心とか慈愛の心とかとの葛藤に苦しんでるように見えなくもない。後、一応「人に迷惑をかけない範囲で」ってのも抜けてることは抜けてる。
「ア゛ア゛?おとうさんとおかあさんを侮辱するならすぐ消すぞ?ア゛?」
ガロウとレイコの会話を拾ったのか、すごく機嫌が悪い。
「するかよ。挑発なら兎も角、挑発する気もないのに言う気はねぇよ。そもそも、欠席裁判なぞくそくらえだ」
「ガロウ。口」
ニッコリほほ笑みレイコがガロウに詰め寄る。
「あ。うん。ごめん」
「あまり人はいませんが、気を付けないとお父様とお母様の品位までも下げてしまいますよ。…欠席裁判については同意いたしますけども」
「ボクもー!」
ガロウにレイコとカレンが追従。そして、視界の隅ではわかっているのかいないのかは定かではないけれど、ルナも激しく頷いている。
リャールはリャールで「わかればよろしい」と言わんばかりに満足げ。重度のファザコン&マザコンか…。
「で、それはどうでもいいわ。何でそんな娘を前に出すのよ!?あたしなんて楽に捻れるってこと!?」
「んなわけねぇだろうが!」
「ねー!」
「お父様とお母様がそんなことなさるわけがないです!」
わぁ…。沈黙を保とうとしたのに子供達が激発した。
そりゃそうだよ? みんなの言うように俺らだって好き好んでルナを出したりしない。でもさ、それを言っちゃうと理由を聞かれるよ?
「じゃあ、なn「父ちゃん達だぞ!?ルナを大事にしてるに決まってるだろうが!?」…」
「そーだよ!そーだよー!」
「そうですよ。貴方は見ていてその程度のこともわからないのですか!?」
レイコ、普通にそれは無理ゲーだと思うなぁ…。
「くっ…」
それで黙っちゃうのね…。理由を聞かれたのに、謎理論で押しつぶした。ありがたいけど、それでいいのか。
よくないって言われると困るから言う気はないが。折角うまく隠せているのに「普通に俺と四季の魔力がキツイ」ってバレたら意味がない。
…やはりここに来るまでに無茶をしすぎた。やっぱ爆破で移動するのはキツイ。
ルナを庇って戦うのと、ルナに戦ってもらってそれの補佐をするのでは後者の方がまだ楽なはず。常にルナが視界に入るからな。
「って、近づいて来てんじゃないわよ!?」
詠唱もなく風を出してきた!? しかも前より強い!
「もー!もっとゆっくりしていってよー!」
「お断りよ!?てか、油断も隙も無いわね!?こそこそ近づいてくるとか恥を知りなさい恥を!」
奇襲は恥ってか? どこの武士だよ。というか…、
「お前が言うな」
「後ろ、焼いてください」
「了解です」
四季の指示でレイコが後ろへ魔法を飛ばす。魔法は後ろでこそこそ成長している植物を跡形もなく燃やし尽くした。
「あっ…。折角いい感じに育ってたのに!てか、木の上で燃やす!?」
レイコなら安全に燃やせるからな。しかも、嫌な予感もした。ここで魔力を惜しんでもらったりするものか。
…ほんと、油断も隙もない。
それはさておきどうするか。戦場のはずなのに「遊び」の雰囲気が出来ていて、今も継続中。ならばここで一発盛大に叩いてしまうか? 幸いなことに若芽からは離れられないみたいだし、彼女を構成するものが「呪詛」系列だってのもほぼ確信できた。
やるなら、風と若芽が邪魔。でもこれは、ある程度の細さのレーザーで首を刈ってしまえば解決できる。いつもみたいにゴリ押しする必要もない。いいところがいっぱいあるように思える。思えるが…。
首を刈るだけで仕留められるか? 四季は…、同じ考え…ね。顔にそう書いてある。刈った首を粉みじんにすればいけ…る?
子供たちは間違いなく白紙委任。テェルプさんも同じく全権をくれる。
…下からツルが生えてきているが、その程度。やってみるか。きっと今以上に隙を晒してくれるなんてありえないだろう。
四季と手を繋ぎ、動きを気取られる前に…!
「「『『ホーリーレーザー』』」」
光より劣るが音よりは間違いなく速い聖なる光線を放つ。触媒魔法ですらないが、割と強めの紙に魔力を注ぎ、強化したモノ。
そんな直径1 cmほどの光線は過たず首に命中。クイっと軌道を捻れば首を切断…出来てない!?
「効いてない!?」
「いえ、違います、そもそもその次元の話ではないです!当たってません!」
訳が分からない。
「あら、あの一瞬で察するなんて、さすがね。でも、それだけじゃあたしは倒せないわよ。帰るなら追わないし、ここにいてくれるなら歓迎するけど、どうする?」
リャールの口調には自信が溢れてる。強者故の自信だ。
だが、帰ったりするものか。カレンの頼みを放棄して逃げるわけにはいかない。次、ここまで来れるわけがない。残って油断させて…も無駄、絆されることはないが、対策されてしまうのは間違いない。
はっきり言って勝算があるわけではない。だけど、今まで面倒くさいやつらの相手は何度もしてる。今回だってやってやる。