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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
21/306

21話 戦い終わって

主人公視点です。

(特に明記しない限り主人公視点ということでお願いいたします)

 痛いなぁ…。



 体中に響いている鈍痛とともに目を覚ます。空はまだまだ暗い。目を開けて寝ころがったまま視線を横に移すと、センとアイリがいる。アイリもセンも俺が起きたのに気付くと、駆け寄って来る。

 

 

 服が綺麗になっているから、着替えたようだ。



「…大丈夫?どこか変なところない?」

「んー。ちょっと体中が痛いけどどうってことないよ。えーと、あいつは?」


 問いながらあぐらをかいて座れば、センがじゃれてくる。頭をなでる。相変わらずのさわり心地。気持ちいいな…。



「…倒したよ」

「そっか。よかった。四季は?」

「…あっち。大丈夫だよ」


 と指さしてくれる。その先で四季は気持ちよさそうに寝ている。大丈夫そうだ。



「よかった。ありがとね」


 思わず頭を撫でようとして、手を伸ばす。



 …あ。嫌がるかな?やっちゃったか?



 そう思ったけど、予想に反してアイリは俺の横に座って、頭を撫でられながら体を預けてきた。しばらくそうやっていると、



「んん…」


 四季が目を覚ました。



「むぅーっと。あ、習君。無事でよかったです。アイリちゃんとセンもお疲れ様」


 寝転がったまま伸びをしていた四季は、こちらに気づいてそう声をかけてくる。



「…ん。とても疲れた。色々話すことあるけれど、疲れた…。寝てからでいいよね?おやすみ…」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

「…ありがとう」


 時刻はわからないけれども、真夜中、もしくは明け方だ。いつものアイリの就寝時間と比較すると、驚くほど遅い。かなり負担をかけちゃったな…。



 そんなことを考えていると、まだ肩に重みを感じる。



 いつもならすぐにアイリは馬車の中に入ってしまうんだけど…。何か言いたそう。どうしたんだろう。声をかけようかな?



迷っていた俺よりも先に四季が声をかけた。



「どうしたの?寝れないの?こっちにおいで」


 言いながらちゃんと座りなおして、ポンポンと自分の膝を叩く。



 アイリはそれを見て、ちょっとだけ顔を赤くする。けれど、すぐに花が咲いたような嬉しそうな顔になって、駆け寄っていく。



「…ありがとう。…膝借りるね…。おやすみ」


 アイリはそれだけ四季に伝え、膝の上に頭を乗せると、一瞬で眠りに落ちた。



「アイリがここまで甘えてくるなんて珍しいな。肩に寄りかかってきたことも、膝枕で寝ていることも含めて」

「信用されたってことじゃないですかね?」

「なのかな?そろそろ全部話してくれると嬉しいんだけど…」

「まだ難しいでしょうね。心のどこかで私達に嫌われたくないと思っているような気がしますから…」

「甘えることさえ遠慮がちだしな…」


 先ほどのアイリの様子が思い出される。基本的に自分からは頼んでこない。あぁ、飴は別ね。

 

 

 こっちから頼んだ時だけ、受け入れる。そんな感じ。



 年齢がわからないから何とも言えないのが困る。そもそも、年齢による一般論でアイリを考えようとするのが間違いなのだろうけど。日本じゃアイリみたいな子はレアケースだし。



「寂しい、もしくは…、」

「愛に飢えてる?そんな気はするよな」

「ですよね…。とりあえず、話してくれるのを待ちましょう。それまで今まで通りでいいでしょう。ちょっと向こうが甘えてくれるようになるかもしれませんけど」

「だな。基本的には今まで通り俺らの娘ということで」

「そうですね…」


 ちょっと恥ずかしいけど、スルッと口から出るようになったな…。お互いに。



 それよりも…。


「なあ、四季」

「はい、なんでしょう?」


 すごく言いにくい。言いにくい…。



 アイリの頭をなでなでしている四季は声をかけてきただけの俺を不思議そうに見ている。



「どうしました?」


 重ねて尋ねてくる。覚悟を決めるぞ。よし。



「四季。自分の服見て」


 四季はきょとんとした顔になる。でも、すぐに言われた通りに服を確認して、赤面しながら、



「習君。上下の着替えお願いします…。あ、わかっているとは思いますが、習君も上下の着替え要りますよ…」


 うん、知ってる。アイリも俺ら二人を着替えさせるのは無理だったんだろう。それか、寝かそうとしてくれたか。多分後者だな。



 それはともかく、俺たちの着ている服は雨のせいもあるが、泥とか土、さらには誰のものともわからない血のせいで上下ぐちゃぐちゃ。一応、乾燥してるけどさ…。

 

 

 しかも、切り傷、ほつれ、穴、擦れた跡とまさに傷のバーゲンセール。なんともひどいありさま。



 ズボンは二人ともまだいい。最悪、座って手を置けば見えないし…、そもそも問題があるようなダメージを受けていればたぶん死ぬしな。ちゃんと布が残ってる。



 問題があるのは上。アロスもボロスもノサインカッシェラも全部、結構な頻度で急所を狙ってくる。そしてその急所は心臓か頭。



 だから、上のダメージがやばい。戦闘中はまるで気にならなかったけど、いつからだ?

…たぶん最後か。二人とも胴体に直撃したし。



 兎も角、やばいのだ。男の俺は上がなくてもそんなに問題ないけど…。四季はな…。色々とまずいのだ。どこがとは言わないけど。



 馬車の中に戻ってさっと着替える。そういえば、センは馬車を放置して援護に来てくれていたはずだけど…。何も取られたりはしてないっぽい。



 さすが『フーライナ』。抜群の治安の良さ。魔物が出るから人がいなかった可能性もあるけど。



 着替えるときに、ちょくちょく「ズキッ!」とした痛みが走る。アイリが治してくれたはずなんだけれどもな…。まぁ、それは置いておこう。今は四季だ。



「四季。着替え持ってきたけれど…。アイリどうする?」


 極力、四季のほうを見ないようにしながら声をかける。



「あー。ちょっとそこに座ってください。あぐらでいいです。あ、後ろ向いててくださいね!」


 慌てて付け足さなくても…。わかってるよ。それくらい。



 少し呆れながらあぐらをかく、四季は少し不満そうに、



「乙女心をわかってないですね…。まぁ、いいです。ちょっと動かないでくださいね…」


 俺が座っている間に抱えたのだろうか、抱えていたアイリを俺の膝の上に乗せた。かわいい寝顔だなぁ…。癒される…。



「って、いいの?」


 一瞬振り返りそうになったが耐えた。思い出した自分をほめたい。



「大丈夫でしょう。先に私が声をかけたから私の上で寝ただけであって、習君が声をかけていれば、習君のそばや、膝の上で寝ていたでしょう」

「そう…」

「納得いかない。みたいな顔してますね。けれど、私のこの考えは一応間違えてないはずです。ていうか、さっき横で座って撫でられてたじゃないですか!」

「あ、それもそうだね」


 フフッと楽しそうな声が聞こえる。







______


…いつまで後ろにいる気だろう?けっこう時間、たった気がするんだけど、一向に動く気配がない。



「なあ、四季。いつまでそうしているつもりなの?早く着替えてきなよ」

「はわわ、そうでした!行ってきます」


 やっと、服がズタボロなのを思い出したのか、たぶん顔を真っ赤にして聞いたことのない声を出して、かなり慌てた足音を立てていった。馬車はすぐそばだけど、転ばないでよ…。



 しばらくすると四季が戻ってきた。



「思いっきり何回か見ましたよね…。一回目は仕方ないですけど」


 お手本にしたいほどのジト目。



「ごめん。ちょっと…、うん。ごめんなさい」


 土下座。言い訳などしない。欲に数回負けました。



「まぁ、いいですけど…。どうでした?」


 は?えっと…。どういう意味…?そういう意味だよな。逡巡していると、四季が不安そうな目で見ていることに気づいた。思い出すのは酒を飲んだ時の四季の寝言。

 

 

 ここで告白とかできれば…、いや、ムード壊滅してるよな?そもそも無理。顔を合わせてはまだ無理。



「えっと…。きれいだったよ」


 照れ隠しで言うのが精一杯。我ながらヘタレである。それでも四季は、安心したような顔をした。が、自分が何を言ったのか思い出して今更、ゆでだこのように顔の色が変わった。



 やばい。どうしよう。話を変えたい。照れくさすぎる…!



 心の中で一人転げまわっていると、タイミングのいいことに二人とも「ぐう~」とお腹が鳴る。



「お腹すいたな」

「そうですね」

「食べようか」

「はい!」


 なんとかこのループから脱出できた!あ、そうだ。センにもご飯あげないと。



四季は馬車の中から昼ご飯を取り出してくれている最中。だから、俺がセンに確認しよう。



「セン、魔力いるか?」


 センは気まずそうにツイと視線を逸らした。



「セン?」


 声をかけるとさらに目を逸らす。



「セン?どうしたの?」


 四季に声をかけられると、俺ら二人と目を合わせたくないのか下を向いた。あ、察した。



「寝てる間に食べた?」


 ピクリと体が震えた。間違いないな。



「まぁ、別にいいけど。生きてるし。なあ」

「そうですよ。センも頑張ってくれたんでしょう?」


 「そうだよ。一応」という顔だ。



「じゃあ、全く問題ない。」

「ですね。食べましょうか。センはいらないの?」


 「うん!」という顔。…………許したけど、これひょっとするとかなり持って行かれてるよな。



 まぁ、食べよう。本日も出来合いのもの。地球で言えばお惣菜かな?魔法を使えば冷凍とかしなくてもいいらしい。原理は知らない。



 ステーキと、ジャガイモもどきこねて、野菜を加えて焼いたもの。これが今晩のメニューだ。



 まずくはないけど、肉が硬い…。ジャーキーや魔物よりもましだけど!



 ジャガイモもどきは見た目に反して美味しかった。カラフルすぎて食べる気が起きなかったけど…。食べれば美味しい。



 でも、赤、緑、黄色はいいとして、紫、青ってなんだ。野菜にあるまじき色だぞ。



「「ごちそうさまでした」」


 食べ終わって、後片付けも終了。



「じゃ、紙作りましょう。紙」


 忘れないうちにやらないとね。びっくりするぐらい紙を使ったしな。

 

 

 デメリットなくならないかな…?シャイツァーはかなり謎だ。よくわからん。ま、いっか。



 ひとしきり紙を作り終わってもアイリが目を覚ます気配はない。まぁ、それもそうか。寝ていてわからないけれど、ほんとうに頑張ってくれていたみたいだし。

 

 

 空は少しだけ白み始めてきた。だけど、眠い。



「四季、馬車に戻ろう。で、寝よう。気絶していたけど、寝るのは大切だ」

「そうですね。アイリちゃんをお願いします。セン。おやすみなさい」

「おやすみ」

「ブルルッ」


 よっと、俺はアイリを抱っこして、四季と並んで馬車に戻る。そのまま3人仲良く寝た。







______


 翌日。いつものようになんやかんや済ませ、皆で馬車に乗って、再び、北を目指す。



 戦闘によってかなり街道から外れてしまったので、まずは戻る。センはいつもに比べてゆっくりした速度で進んでいる。その上に俺たち3人。



 センに乗ってゆっくり進んでいるのは俺らへの配慮のため。舗装されていない道でいつも通り走られたら俺らのお尻と馬車が泣く。



 昨日の話を聞こう。



「昨日の話を聞かせてもらっていいか?」

「私も聞きたいです」

「…いいよ。二人が飛ばされてから、でいいよね?」


 頷く。



「…えっとね、二人が吹き飛ばされてから、ちょっと一人で戦ってたんだけど…。…二人が遅いなと思って、確認したら…紙が落ちてるのが見えた。で、ひょっとしたらまずいかな?と思って、戦いながら下がった。その最中に、失敗して攻撃を受けたけど二人のそばまで偶然行けた。で、この紙」


 とこっちの言葉で書いた『回復』の紙を出した。



「…これじゃ魔力が足りなかったから、頑張って、日本語で書いてくれた紙。それを使って回復した。…その後、センが復帰してきたから、『明かり』の紙を使って、センが攻撃して倒した。…後、センが核の残骸みたいなの食べたよ」

「そっか、ありがとう」

「ありがとうね」


 頭を撫でる。くすぐったそうにするが手は払いのけられない。四季は残念ながら手が届かない。少し悲しそうだ。雰囲気で分かる。



「日本語の紙使えるようになったのか…」

「…そうだよ。たぶん」

「たぶんじゃなくて、次もできますよ。なんならやりますか?」

「…遠慮しとく」


 少し顔を引きつらせるアイリ。まぁ、環境破壊不可避だしね。



 それはともかく嬉しいな。だが、ネーミングセンスのなさがばれる。全部直球だぞ。厨二とどちらがいいのかわからないけど…。



「そういえば、言葉は大丈夫か?」


 俺らはシャイツァーでわかるけど。アイリはどうなんだろう?と思って聞いてみる。



「…ん?大丈夫だよ。フーライナもアークライン神聖国も方言みたいなものだし。後、わたしは近衛だよ?だから、人間領域の言葉ぐらい話せる。(使い道なかったけど。)」


 ドヤァ…、という顔をした後の悲しい顔がかわいそうすぎる…。それはさておきうちの子天才じゃん…。



「すごいな…」

「すごいですね…」

「…そう?」

「「間違いない」」

「…そっか。すごいか…」


 嬉しそうに顔をほころばせる。



「そういえば…。どうして二人とも『明かり』のあれ使わなかったの?」

 

 心底疑問そうな顔のアイリ。



 ああ、それね…。



「答えは単純だ。」

「私も習君も、『明かり』は『解呪』と同系統の魔法だと思っていたからですね。」

「つまり、ファンタジーでいう「光」属性。それだと思っていた」

「…………?」


 わかってなさそうだな…。



「要は、そもそも攻撃魔法だと思ってなかったし、『解呪』とかと同じ系統だと思ってたんだよ」

「…岩山破壊しといて?」

「うん」

「そうです」


 うわぁ…。という顔をするのはやめていただきたい。そもそもあれも、攻撃する気はさらさらなかった。



「系統もどうやら自分の意識が絡んできそうだな…」

「ですね…。どうやって決めてるんでしょうか?」

「…わかるはずがないよね」


 まぁ、そうなるよな。



「…あ、街道が見えたよ」


 あれ、もう着いたのね。会話をすると早いな。



 会話は出来たけれど、アイリから秘密にまつわる話はなかった。



 やっぱり怖いのだろう。



 そのことは、俺たちは言うまでもなく、おそらくルキィ王女も知らない話だ。



 勘だけど。

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