184話 続世界樹の中
「カレン。これ伝えて」
チラッとカレンは俺の書いた字を読むと、コクっと頷き集中し始めた。邪魔にならないようにありがとうの気持ちと、よろしくねという気持ちを込めて頭を撫でる。
そうするとカレンは少しだけ迷惑そうにこちらを見た後で、顔をほころばせる。実に可愛らしい。
「見せて」
「私も見せてください」
「私も」
はい。どうぞ。
「ただ、テェルプさんには読めないと思いますが…」
「ふむ…。確かに読めませんね。あぁ、私への説明は不要ですよ」
え…。日本語で字を書いていることや、内容を説明しようと思っていたのですが…。
「重ねて言いますが、説明は不要です。私は知らなくて結構です。というか、お願いしますから説明しないでください。私のせいで事態が悪化することなぞ、許容できませんから」
テェルプさんはあっという間に言い切ると、俺らが返答する間もなく、元のように警戒し始めた。
「「知らない」ことで損害が出ることもありますが…?」
「承知の上です。ですが、今回の話は私が知らなくとも問題ないでしょう?私は皆さまがやることに口を挟むつもりはありません。邪魔になった場合、即座に斬り捨ててください。どうせすぐに復活しますから」
……。貴方がそれでいいなら俺達も構いませんが。やっぱりこの人、重い。
「で、この後どうすんだ?」
「え?『一直線に突き進むだけ』だけど?」
会話にも日本語を交えておく。なんかガロウが目を丸くしているけれど、これで敵は混乱する…よな?
カレンに世界樹に伝えてもらっていることは「世界樹が余計なことをしないこと」と「絶対に潰しちゃダメなものは潰す直前でもいいから教えて欲しいということ」この2点。
まず、最初の言伝で世界樹からの働きかけをある程度断つ。木兵での援護とか、敵との区別が面倒くさすぎる。余計に時間がかかってしまう。だから助けは必要な時にカレンに頼んでもらう。
こうしておけば、世界樹内で起きることは全部敵のやったこと。後腐れなく粉砕できる。
そして、絶対に潰しちゃダメなものは教えてもらえれば回避できる。世界樹を助けたいのに殺すとか本末転倒。…まぁ、人間で言う、腕の一本や足の一本は重要じゃないから切り落とすかもしれないが。
…うん。カレンに伝えてもらえばとりあえず前に出てくる人型を後腐れなく粉砕することはできるな。そうすればひたすら前進できる。さっきまで言っていたことと真逆。きっと混乱させられる。
「あの、お父様、お母様。『性急ではありませんか』?」
レイコが悟ってくれたか。…顔を見る限りガロウも悟ってくれたみたい。いい子達だ。
「確かにそうだね」
「ですが、結果的に一番いいでしょう」
俺らの世界なら兎も角、こっちには魔法があって、俺らは『回復』魔法が使え、足や手なら再生できる。だから申し訳ないけれど、世界樹に及ぼされるその辺りの割と大きいけれど、無視できる損害は無視する。
チマチマ時間をかけて、全身裂傷からの出血多量とかのほうがマズイ。蘇生なんて出来ない。だからこそ、ゴリ押す。この方が最終的な被害は少なくて済むはずだ。
「だけどさ、父ちゃん。母ちゃん。世界樹が納得s「したよー!」マジかよ…」
「あまり私が言うべきことではありませんが…。世界樹。だからですかね?」
だろうね、レイコ。その推測は合ってるはず。
世界樹は負いたくもないのに背負わされている責任を自覚していて、やらなきゃならないこともわかってる。だから「俺らのせいで妨害に使われた世界樹の機構が一部破損しても致命的でなければ見逃す」そう決断した。
「あぁ、レイコちゃん。レイコちゃんは先ほど「言うべきではない」と言いましたが、気にする必要はありませんよ」
「え?」
レイコも元々「神獣」で、訳の分からない縛りに縛られていたけど…、
「気にする必要はないよ。こういっちゃあ何だけど『世界樹』と『神獣』では格が違う」
何をやってるのかわからない、というか定義さえよくわかっていない『神獣』と、ラーヴェ神に作られ、瘴気の浄化を担う『世界樹』。この事実の隔たりは大きい。
…あれ? レイコがキョトンとしてる。かと思ったら、クスクス笑いだした。
「「レイコ(ちゃん)?」」
「すみません。少しおかしかったので。お父様、お母様。私はそもそも気にしておりません。「言うべきではない」という言葉は「生まれついて立場が存在しましたが、そこから離脱した」という事実を指したにすぎません」
はっきりレイコは言い切り、さらに言葉を紡ぐ。
「私とて全く負い目がないとは申しませんが…、気にすることは、お父様とお母様、そして過去の私を蔑ろにするものです。ですから気にしておりませんよ。私は今、幸せですから。それに、もしも仮に私が抜けたことで影響があったとしても、お二人が何とかしてくださりますから」
レイコの言葉、その最後の部分は俺の聞き間違いでなければ断定形だったのだが…。
「お父様とお母様であれば、動いてくださいますから」
顔色から心を読まれたのか、レイコが嬉しそうに言い放った。やっぱり信頼が重い。それに依存されている気がする。それでも、やっぱり子供達から頼りにされた嬉しさのほうが大きい。
「おとーさん。おかーさん。「ちめー的なものはー、ちゅーすーにしかないからー、遠慮なくどぞー」だってー」
…リップサービスかもしれないが「遠慮なくどうぞ」ね。…それほどまでに切羽詰まってるのか。
「とうたま、かあたま。どうするの?」
「進む」
「敵は、潰していきます」
「んにゃ」
ルナが言いながらコクリ頷く。なかなか不安になる返事。でも、進もう。
「道は?」
「そのままぜんそくぜんしーん!」
「了解」
「走りませんけどね」
「知ってるー!」
じゃあ何で言ったし…。そんな俺らの内心を察しているはずなのにカレンはガン無視。そのまま進む。まぁ、俺らの腕を掴んで必死に前に押し出そうとしているから「カレンが真ん中」ということは守ってくれるらしい。
それで集中できるのとか言いたいが、俺らが先に行けば済む話。行くか。
坂道を登り切ると大広間。さっきまでいたところと何も変わらないように見える。それこそ、一瞬、最初の部屋に戻ってしまった? と思うレベル。
だけどカレンは部屋を一顧だにせず、何も言わず俺らの腕を押し出し次の道へ。歩いているはずなのに押し出され続け、大広間を出て道へ。壁の色が最初に入った道よりわずかに明るくなったような気がする。
「またー!?」
周りを観察していたらそんな声。進行方向はU字に折れていて、その先にまた壁。この壁も前より色が心なしか明るい。
たぶん前みたいにやれば開く。だからやる。四季は何も言わずとも備えてくれている。今度は周囲に気を配りつつ…。
魔力を腕に纏わせ壁に触る。…あ。開いた。確かに一瞬だけ光が奔ったような気がしなくもない。
「ボクが頼む前に開けたのー?」
「試してみたかったからね」
その結果何かを得たかと言われれば微妙だけど。光ってるからと言って何があるともわからないわけだし。
「まーいーや。登ってー」
「「了解」」
登ろう。どこまで登ればいいのかさっぱりわからないけれど。
「ん?なあ。また足音してねぇ?」
ん? 歩きながら耳を澄ませてみると「コツッコツッ」と遠くの方で音が聞こえる。でも、前より足音が少ない。少数精鋭で来たか? それとも味方だと思わせる偽装工作。どっちだ? どっちであれすぐに潰すが。
「私が凍らせましょうか?」
「ありがたい申し出ではあるけど、めくら撃ちにならない?」
「ならないのであれば考えますが…」
「考える」とは言ったけど、心の中では既に答えは出てる。無駄打ちにならないならやってもらう。
「むぐ…。お役に立てるかと思ったのですが…、見えないので不可能です」
あ。レイコがしょんぼり落ち込んでしまった。無理に役に立とうとしてくれなくてもいいのに。
所々でこの子らには俺らの役に立とうとしすぎるきらいがあることを思い知らされるな。
「また今度頼むから、ね?前みたいに」
「そうですね…。わかりました」
納得して復活してくれた。早いのは良いけど、今度は今度でチョロい気がする…
「で、どうすんのさ?」
「曲がり角についたら考える」
「着いたぜ」
近い。もうすぐなのはわかってたけど近いよ。…考えごとに思考を取られ過ぎだ。反省せねば。
「敵は何処にいると思う?」
「私が足音から判断するに、この曲がり角すぐの坂道にいるとは思いますけど?」
四季もそう思うのね。音の反響が少なく、一直線に音が向かってきているからね…。となれば。
四季の顔を見る。意図を察して手を繋いでくれる。やるか。
「「『『ロックランス』』」」
壁向こうを確認せずに岩の槍で薙ぎ払い、岩の槍が通過して空いた空間を通り抜ける!
「無理に破壊する必要はない」
「『このまま一気に突っ切ります』!」
ちらほら生き残りが散見されるが…、俺らの道を遮ることは出来ない位置だ。敵もたぶん動揺するだろうから…、その間に行けるところまで行く!
大量に沸いている木の兵隊。その集団の邪魔になるところだけ潰す。剣とペン。それに岩の弾に、氷の槍。加えて水流に風の刃。ありとあらゆるものを活用して道を拓く!
よっし、このまま兵隊群を抜ける!
「ちょっー。速いよー!」
えっ!? この速度なら普通にレイコもルナもついてこれるはず…あぁ、世界樹とのやり取りで集中しているからか?
のんびり行くなんて今は論外。…背負うか。動作が阻害されてしまうが…、そのくらいなら割に合うだろ。それに後衛3人との距離も詰められる。
なら、少し以上に乱暴だが…、
「カレン。ごめんよ」
走りながら言って、抱き上げる。その勢いを生かして後ろに回す。そして、素早く取り出しておいた紐で俺とカレンを括り付ける。これで良し。
「危ないー!」
「わかってるよ。でも、ありがとね」
大丈夫、既に心の中で「こんなおんぶの仕方あってたまるか!」って絶叫した後だ。それでもわざわざ言ってくれるのは俺を心配してくれてるからだな。たぶん顔を見たら頬を膨らませて可愛い顔をしているんだろうなぁ。
「ルナも。ルナも」
!?
冗談…。ではなさそう? カレンがおんぶされて羨ましい…ってわけでもないか。確かにルナの目はキラキラ輝いていて、俺と四季──専ら四季──を見ているけれど、息がかなり上がっている。
辛いなら辛いって言ってくれればいいのだが…。今まで遠慮してたのね。この子、無邪気だけれども、空気ぐらいは読める子だからな…。
「今回はやってあげましょう」
四季も俺と同じように走ったまま抱き上げてそのまま背負い、ある程度楽なように紐で体を支えてあげる。
二人も背負うなら俺がルナ背負うべきだったな。ルナには悪いけど明らかにカレンよりもルナの方が重いんだから。
「どのみち『身体強化』しますから、大した差ではありませんよ。固定できるように紐でごにょごにょしないのであれば、身長的に習君の方が良いでしょうけれど」
疲れてきて足を引きずるのは申し訳ないもんね。残念ながらいくら何でも俺らの手はフリーでなくては対処できない。
「ルナちゃん。しっかり、抱き付いてくださいね。私の肩に、手を回す。か、私の胸。その上側で、手を組んでください」
「んー」
ルナはコクリ頷いて四季の胸の前で腕を組む。そういえばルナはおんぶされたことなかったか。
…にしても、体の大きいルナが四季におんぶされていると、親が子と遊んでいるというよりは、怪我を負った女性が運ばれているようにしか見えない。遊んでいるわけではないから後者の方が正しいのだろうけれど。
「そろそろー、大広間ー」
「道は?」
「しょーめん。ただー、穴ちゅーい」
階段を登りきればまた大広間。色合いはやっぱり前より心なしか明るい気がしないでもない。そして中心部に2 mぐらいの大きな穴。落とし穴? それとも何か出てくる穴?
どっちでもいいか。「塞がないで」とは言われていないのだから。
「「『『球』』」」
坂を駆け上がりながら四季と手を繋ぎ、重い球を召還する。材質なんてどうでもいい。穴をギリギリ通るサイズのただのデカい球。それを穴に落とす。
「ガロウ!」
「あいあい!」
「「返事は一回!」」
「はい」
ガロウが女性陣に怒られつつ、穴の上に『輸爪』を出して穴をふさぐ。その間に一瞬だけ、後衛三人を追い抜かせて『球』を通ってきた道に流し込む。
これで木兵も追ってこれないだろう。
「ざっつぅ…」
「めんどくさいからね」
「仕方ないです」
乗っ取ろうとしてるやつも同じことやってきたし。その仕返し?だ。
「世界樹が悲しんでるよー?」
そう言えば、さっき敵にやられたとき「もういや!」って感じでボッシュートしてたな。…出来るだけやめておいてあげよう。ヤバそうなら遠慮なくやらせてもらうけど。
「休憩はいりますか?」
「要らねぇ」
「不要です」
「私も要りません」
ならそのまま。ガロウが掛けてくれた橋(輸爪)の上を通って最短距離で大広間を駆け抜ける。
そのまま中央の道に…!
「レイコー!まほー!」
「え!?『|蒼凍紅焼拓《ガルミ―ア=アディシュ》』!」
一瞬だけ戸惑ったレイコだが、すかさず球体を召還。魔法が俺らを追い抜き入り口のところで爆ぜる。
「ありがとー!」
「よかったです。お役に立てて。」
待ち伏せ…ね。少し手段を変えてきたか。カレンを背負っているとはいえ、その程度で後れをとるとは思わないけれど、ありがたいことに変わりはない。
道の入り口を通り抜けて、入り口の右脇を剣で一度斬りつけ、ペンを投げる。反対側で四季も同様に。これくらいで凍ったやつの処理はいいだろう。
「父ちゃん達!足音がするぜ!」
「ああ。わかってる!」
どたどた五月蠅く耳障りな音が上方から響いてきている。大広間から見えないよう、上で控えていたのか? まぁいい。
「突破する。行くよ」
「後ろの警戒をお願いしますよ」
坂を駆け上がる。坂の中ほどで木の兵隊が眼前に。見たところ武器は構えていない。…ここに来て「味方ですよー」とアピールか? 構わず潰す。
「「『『ロックバレット』』」」
四季と手を繋いで岩の弾丸を形成。それで木の兵隊の中央をぶち破る。続いてガロウやレイコの攻撃が着弾、大きく中央を広げる。
こじ開けた中央に飛び込む。目の前にいる木兵を切り倒し、ペンで押し倒し、魔法で破砕する。決して包囲されないよう立ち止まることなく、がむしゃらに突き進む。
「攻撃はそこまで極悪なものはないですね」
「球以外は。だけどっ」
でも、極悪ではないから回避しやすい。おんぶしていなければ、視認してからでも一、二拍置いてから動き出しても十分に回避できる程度の速度しかない。これであればおんぶしていてもまだ回避しきれる。
でも、心なしかさっきまでに比べて動きが悪いような?
「そーいうならー、すれすれで回避するのはやめてー」
あ、うん。ごめん。でも、
「カレンには当てないから」
「ルナちゃんにも、当てませんから」
だから大丈夫。
木兵3人が槍を突き出してくる。クルリ体を回して回避。
「怖いよー!?」
顔の前スレスレを槍が通ったかな?
「言ったばっかなのに―!」
「大丈夫。当てないから」
「それってー、我慢してってことじゃーん!」
一回目はそれを言われなかったのになぁ…。確かに我慢してってことになるね。本当にごめんね。
心の中で謝罪しつつ、槍を突き出してきた兵をぶん殴って、後衛3人を超えて皿に後ろへ吹き飛ばす。
「申し訳ないとは思ってるけど、俺らを信用しろ」
「私達ならそれが出来ます」
剣を二人で力任せに左右に薙ぎ、兵士を壁に叩きつけ前方に空間を作り出す。
背負っているカレンとルナには絶対当てさせない。回避できないのであれば。体を盾にしてでも守る。
「ひきょーだよ。それ言われちゃうと何も言えないじゃーん」
拗ねたような声。
知ってる。卑怯なことぐらい理解してる。それに、こういえばカレンが…、というより子供達皆、何も言えなくなることまで知ってる。
「つまり私達のことを信頼してくれるってことですよね?」
わざとらしく四季が問うと、
「もちろーん!」
弾けた嬉しそうな声でカレンが答える。わかってはいたけれど、ほんっとうに信頼されてるな俺ら。声に含まれる安心感が尋常じゃない。この子らを守らないと
ある程度この子らを立てる必要もあるが。今は進もう。木兵を魔法で壁際へ押しやりさらに前へ!
木兵の数は多い。だが、通路が狭く、数の多さを生かしきれていない。それに木兵自体軽いからすぐに押し切れる。視界の圧迫感に反して進みやすい。
とはいえ、木兵が軽すぎて完全破壊しにくいが。コアがないから再生されないように粉みじんに…、って言われてもどの程度までやればいいのやら。
燃やせば確実だけど…、世界樹まで燃えると笑えないから出来ない。レイコなら『|蒼凍紅焼拓《ガルミ―ア=アディシュ》』で焼けるだろうが…、そうすると今度はレイコの魔力が凄い勢いでゴリゴリ減る。
世界樹がボッシュートしてくれるなり、どう考えても乗っ取られているこの機構を取り戻してくれれば楽なのだが。
薙ぎ払われる剣をジャンプして回避。着地する際に勢いよく踏みつけ、衝撃で木兵の体を浮かせ、剣で思いっきり首付近を薙ぎ払って切断。壁に叩きつける。
やはり軽い。普通なら絶対こんなこと出来ない。
「父ちゃんらが凄いのか、こいつらが雑魚なのか…、区別つかねぇな」
「どちらもあると思いますよ?」
「ですよね。お母様。私でも悠々回避出来ますし…」
…やっぱりさっきに比べて雑魚になった? ということは…、
「『バレました』かね?」
「かもしれないな…」
カレンに話してもらい、俺らの動きを変えて敵を撃破してから、そこそこ時間が経った。そろそろ敵に「全部ぶっ潰す」という(脳筋)作戦を悟られていてもおかしくない。
「ボクはわかんないよー?背負われてるだけだしー」
役に立ててないと思っているからか不満そう。
「ごめんね。道を教えてもらうのが「ルナも、わかんない」…了解」
まさか割り込まれるとは…。「道を教えてもらえる方が大事」って言い切らせてもらえなかった。カレンには何回か言っているからか通じているだろうけれど。
「ルナちゃん。あまり人の話に、割り込んではいけませんよ」
「うにゅ?……わかった」
ルナには言ってなかったはずだけど、一発で納得してくれた…ように見える。ありがとね。わかんないなら後で説明するから。
「やっぱ父ちゃん達がおかしいわ。何で普通に戦いながら喋れんだよ!?」
「ですね…。私ならば舌を噛んでしまいそうです。それに加えてとっくに一発受けているでしょうし…」
「四季がいるから」
「ですね。習君いますしね」
俺の死角は四季が抑えてくれているし、危ないときはフォローしてくれる。そして逆もまた然り。実にやりやすい。
何故か軽くルナを除く子供達の顔が引きつってるな。
「後、慣れ」
油断するつもりはないけれど、こいつらカレンを背負っていなければ余裕ってレベルの動きしかしてこない。動きも基本予想出来る。だから今も余裕をもって避けられる。
…ただ、時たまカレンのスレスレを攻撃が通るのは許して欲しい。流石に精神の安定まで考えて回避出来るレベルじゃない。
いくらこいつらが阿保だからとはいえ…ね。
「慣れって…。割合は?」
「7:3ぐらい?慣れは後者ね」
四季がいることの「慣れ」って言うのを含めるならたぶん逆転するけど。
「それにしても、この兵たち、動きが単調すぎませんか?」
「だね。出来の悪いAIみたいだ」
まるで「目の前の敵を攻撃する」ことしか頭にないぐらい、遮二無二攻撃してくるだけ。
「しかも、兵がいるのはいいですが…」
「道の端に自重で圧壊している木兵がいるな」
量が多すぎるんだろう。そして管理出来ていない。となれば、
「何か仕掛けてくるつもりですかね?」
「十中八九そうだろうね」
木兵の制御を放り投げ、何か別のことをしている。そう考えるのが自然。
外のアイリ達に何かしようとしているのかもしれないが、俺らの方が脅威度は高いだろう。その可能性は除外できる。前みたいに上から木球を流してくるか?
でも、もうすぐでこの道も終わりだぞ? 木兵をぶっ飛ばした先に広間が見えた。となると、やりたいことって何だ?
「飛んで!」
カレンが切羽詰まった声で叫ぶ。それを聞いて全員反射的に飛び跳ねる。瞬間、床が抜けた。