181話 エルフ領域
少しグロイので注意です。
ここまで読んでくださった皆様なら全く問題ないかと思いますが。
血特有の鉄の臭い。甘いような酸っぱいような言葉にし難い腐った肉の臭い。そんな何とも形容しにくい臭いが、『身体強化』した鼻をつく。
「ガロウ。レイコ。大丈夫か?」
「無理そうならb「「大丈夫だ」」…それならいいですが、無理だと思ったら言って下さいね。」
コクリ頷く二人。…この子らのことだから「無理」って言った場合の処理の面倒くささも考慮してくれているはず。だから、本気で不味そうならちゃんと言えるはず。そこは俺らが信用してあげないと。
「アイリとカレンは?」
「…ん。問題ない」
「ボクもー!」
この二人は俺ら同様、完全に問題なさげ。
「ルナは?」
ルナは聞いた俺と四季の顔を交互に見ると、にひゃっと嬉しそうに顔を蕩けさせ、抱き付いてきた。とりあえず頭撫でるか…。
「ルナちゃん。いけそうですか?」
四季の声に反応して四季の方を見るルナ。そして、頭をグイグイ四季の方に押し付ける。四季が優しく撫でると「にゃー」とも「にゅー」ともつかない、楽しそうな声をあげて嬉しそうにはしゃぐ。
「習君。ルナちゃん可愛いですけど、わかってませんよね?」
「わかってないね…。可愛いけど」
だったら俺らが決めるしかない。既に凄惨な光景を見たことがあるし、覚悟も出来ているルナ以外の娘たちを連れて行くことに何の問題もない。
だけど、ルナは「覚悟?何ソレ?美味しい?」状態。そんなこの娘に見せてもいいものだろうか? こっから先、成長するときに悪影響が出たりしないだろうか…。
「…大丈夫」
「「その心は?」」
あっ、少し語調が強かった。余りにもアイリの口調が軽かったからって、アイリがルナをどうでもいいと思っているわけなんてないのに。
「…お父さんとお母さん。気にしないで」
謝る前に慰められてしまった。俺らの立つ瀬がない。しかも怖がらせる意図はなかったとはいえ、割と怖かったはずなのに一切怯んでない。それどころか嬉しそうに笑ってる。
「…ええと、理由だよね?…そんなのルナの親が二人だから。だよ」
やっぱりそれなの? それ以外に何か…。
「ないよ」
俺らの心はこの子なら読めているはず。なのに、きっぱりと言い切った。
「…わたしはね、性格なんて「周りの環境で決まる」って、そう信じてる。…多少は親から受け継ぐかもしれないけどさ」
アイリの言葉は妙な重さがある。…実体験に基づいているからだろうか?
「だから、お父さんとお母さんがいるなら大丈夫。…二人が親っていうわたしの知る限り最高の環境なら大丈夫。…少なくとも変な事にはならないよ。…でも、二人が「それでも」って言うなら…、…十中八九そう言うと思うけどさ」
いつものことではあるけれど、一言も口にしてないのにアイリは俺らの心を暴いてくる。
そして、俺らの心を読んだアイリは少なからず動揺してしまった俺達を見て、顔をさらに綻ばせた。
「…だったら、ずっと見てればいい。…二人なら加減を間違えたりしないだろうから、曲がりそうなら殴ってでも止めればいい。…ルナが分別を身に着けて、もう大丈夫って思えるまでずっと見守っていればいい」
それでいいのだろうか? それだけでルナが変に曲がらないと断言できるだろうか?
「…出来るよ」
「んー!」
「だな」
「お二人ならば出来ると思いますよ」
不思議だ。子供達にそう言われると良いような気がしてくる。そもそも、正解なんてないし…。
「…ん。正解なんてあるはずないよ。あったら皆やってる。…素直が取り柄だった人は宮廷闘争で使い捨てられた。…正義感が強くて、融通の利かなかった人は暗殺された」
まるで見てきたよう…、もしかして実話?
「…ん。実話だよ」
うわぁ…。道理で説得力があると思った。一般的に美徳であっても、それが時と場合によっては良いこととは限らない。そういう事を伝えたいのね。
「…それにわたしも」
「ボクもー」
「俺も」
「私もいます」
そこまで言うと4人は言葉を切って、互いに顔を見合わせもせず、かといって、誰かからの合図があったわけでもない。だというのに異口同音に──「思い通りにやればいい。」──そんな言葉をくれた。
…あぁ。そっか。戦闘で頼るつもりがあるなら、こっち方面でもある程度頼っていいのか。
「「じゃあ、お願いしていい(ですか)?」」
俺と四季の言葉に4人はコクリ頷き、センが一鳴き。
「…センも混じりたいのかな?」
「みたいだよ、アイリ。人間の子育てには種族が違うから触れる気はないみたいだけど」
「頼りにはして欲しいみたいですね」
種族が違うと言っても、厳密に言えば俺と四季とアイリ以外、この家族に同族はいない。だから、余り気にしなくてもいいような気がする。
けど、人型か否か。そこに配慮したんだろう。
「そろそろ、行こうか」
「ですね。ルナちゃん。いいですか?」
ルナは元気よく頷く。この穢れ無き笑顔を守りたい…そう思うのは俺のエゴか。
「…そもそも子育て自体がエゴの塊だから問題ないでしょ」
………ズバッと言い切るね。だけど、完全に否定できないことも確か。色んな装飾を取り除いて極論してしまえば、そうだ。
子供は「産んで欲しい」なんて親に頼んでいない。というか、頼めない。この事実は、どこかで読んだ小説の一節──「だから英語では|I was born.《私は生まれた。》と受け身形だ」──によって俺に深く突き刺さった。
…後で、英語の先生にこの話をしたら「受け身を常に「~される。~れる」で訳していたら訳出不能な文章が産まれるから、別に能動で訳してもいいんじゃない?」って言われたけど。
それは置いておこう。こんな風に考えると、子供が産まれるのはアイリの言うように親のエゴだ。コウノトリを呼ぶのは、親が子供を欲しがったから。
成長時も、無垢な子供は周りに、程度はあれ染められる。どうあがいたって周りの環境に影響される。完全に影響を排除しようとすれば死ぬだろう。
…だから、曲がらず生きて欲しい。幸せに生きていて欲しいってのもエゴではある。
あぁ、だから「思い通りにやれ」って言ってくれたのか。どうルナが育とうとも俺と四季が後悔しないように。やれるだけやった後なら、後悔しようがない。
本当に聡い子供たちだ。…迷う必要はなかった。でも、色々再確認できたのは良かった。
さ、行こう。いつも通り首を突っ込んで、終わらせて、全員で帰ればいい。ルナがここまで無垢ならば、そこまで影響されないだろう。
されたらされたでその時だ。ルナが死ぬちょっと前に一生を振り返って、「幸せだった」そう言ってもらえるように。俺らが思う必要な物を与えればいい。
何も難しいことはない。これまでアイリ達と接するときにやってきたことだ。ならば、
「ルナ。行っていい?」
改めて聞いてみると、さっきと同じようにルナは可愛らしく微笑んだ。よし、覚悟は決まった。
「カレンちゃん。方角は?」
「あっちー!」
元気よくカレンが森を指さす。世界樹は見えない。けれど、カレンが言うならあるはずだ。
「よし、じゃあ、馬車に乗って!」
「私達は御者台の方に行きますから!」
子供たちを馬車に詰め込み、前へ回り、乗り込む。俺らが乗り込むと荷台から、
「行ってー!」
カレンの声。それに応えて、
「ブルルン!」
「りょーかい!」というようにセンが鳴く。そして車輪が回りだ…s、ん? 何か飛んできた!?
「止まってください!」
「ブルッ!?」
四季の声とほぼ同時にセンが停止し、馬車も同時に止まる。少し先に何かよくわからない物体が落ちてきてぐしゃっと音を立てる。
「どーしたのー!」
「何か降ってきた!」
「…じゃあ、行く!」
待つか。その間に目の前のを観察しよう。…赤くてブヨブヨしている。見た感じ、人肌ぐらいには温かそう。…嫌な予感がする。
「とうたま、かあたま。あれ、なに?」
「「うぇっ!?」」
「どったの?」
「ちょっと。驚いただけ」
「それ以外に、ないです」
いきなりだったからね。まさか真横にルナがいるとは思ってなかった。…それだけ目の前に集中していたってことか
「そー。あれ、何?」
あ。話戻すんだ。…どうやって説明したものか。あれはどう見たって…、肉塊だ。
「ちょっと、待って」
「確認します」
一応、違うかもしれない。近づいて確認しよう。
「…お父さん」
「おかーさん」
「諦めろ」
「お二人の推測で合っています」
先に確認された…。いや、でも、確認するよ。ひょっとすると違うかもしれないから。…信用していないわけじゃないけど、信用していないわけじゃないけれど確認しよう。
近づいてみる。あー。駄目だこれ。どうあがいてもこれ、肉塊だわ。
「なに?」
「お肉」
限りなくマイルドに言ってみる。
「食べる?」
え? 何で? 得体のしれない肉だよ? というかたぶん人肉…。マイルドに言ったからか。
「食べないです」
「なんで?」
ルナのすごく純粋な目。倫理って言ったところで伝わるかな…?
「…つついちゃダメ。仏だから…」
暇を持て余したからか肉をつつこうとしたルナをアイリが止めてくれた。ありがとね。
「なんで?」
あ。そっちも「何で?」なのね。確かに知らなければ、何で? だけどさ…。
「倫理的に…」
「りんり、なに?」
おうふ。だよねー。やっぱり伝わらないよね。抽象的概念だもんね…。
「倫理は、人として、やっちゃいけないこと、の集合体です」
ルナはこてっと首を傾げる。うん。知ってた。それでわかったら賢いってレベルじゃない。
「大きくなれば分かるよ」
諦めて伝家の宝刀を持ちだす。…うん。皆、その顔止めて。「うわぁ…。マジか…」って露骨に言ってるよ?
「大きくなったら?なの?今、じゃない、の?」
「そうです。兎も角、今は後回し、です。後で、納得いくまで。お付き合いいたしますから」
だから、今は脇に置いておいて欲しい。
「今は、食べちゃダメ」
「それだけ、わかってもらえれば十分です」
「ん」
首を若干傾げながらも頷いてくれた。
「…で、これは何の肉?」
「「さぁ?」」
飛んできたからな…。しかも、地面に叩きつけられる前からして肉塊だった。
「エルフだよー」
「根拠は?」
「ハイエルフとしての勘ー!」
勘か。でも、ここがエルフ領域という事をふまえると…、まぁ間違い無さそう。魔物なら瘴気が少なからずあってしかるべきだが、それがない。
「ボクが思ってるよりー、まずそー?かも?」
「急いで行こうか」
「おねがーい!」
「…じゃあ、戻るね」
頼んだ。皆。元通り馬車に乗り込んで…、
「行ってー!」
「出発!」
「は、待って下さい!」
何で…。ッ!? また何か飛んできた!? 今度は赤くない。…まさか、エルフ!? ええと、受け止めるための魔法は…な…い?
「習君!」
「ああ!」
「急いでください!」
「わかってる!」
ないなら作るまで! 字は出来るだけ簡潔に。『網』でいい。衝撃でブチブチ引きちぎられないように、本体を強化して…。よし。
「書けた!いつもより使うけどいい!?」
「よくはないですが、子供達の前でぐしゃられるよりはマシです!」
だね! ならば委細問題なし! 魔力消費の多さくらいのみこむ!
「「『『網』』」」
四季と手を繋いで、二人で握りつぶした紙に魔力を流せば、紙と引き換えに巨大な網が出現。何とか地面に激突する前に網が飛んできたエルフさんを受け止める。
衝撃で網は後ろに勢いよく引っ張られる。が、辛うじて突き破られることはなかった。反動で吹き飛ばされる前に、網を消して…。
「『回復』は…」
「必要そうですね」
だね。他人の返り血かと思ったけれど、裂傷が酷い。他人の血も混じっているだろうけれど、大部分はエルフさん本人の血だ。
「「『『回復』』」」
これで命は大丈夫だろう。後は意識が戻ってくれればいいが。
「またか?」
「うん。ガロウ。まただよ。また飛んできたよ」
だから、子供たちもまた降りてきている。
「今度はエルフですか…。目を覚ましていただけると良いのですが」
ほんとにね。そうすれば情報を貰えるんだけど。
「食べる?」
「食べない」
「食べちゃダメです」
恐ろしいことをぶち込まないで。ルナ。
「理由は、後?」
「そうしてもらえると嬉しい」
「倫理?」
「ですね」
さっきのは肉塊だったけど、今回は明確に人だ。
人を食べちゃいけない。これは現代人なら当たり前の感覚で、こっちでも同じ。だけど、人肉を食べて飢えをしのいだ例は調べれば普通に出る。それこそ戦争中とか。
でも、そんな例を見て猛烈な忌避感を覚えることは確か。だけど、そこに明確な目に見える根拠はあるのかと言われると…途端に難しくなる。
そんなことを考え出すと「何故人は人を殺してはいけないのか?」そんなことにまで飛び火してしまう。
けど…、認めてしまえば好き勝手に人が人を殺して喰らうようになるかもしれない。そんな世紀末は認められない。
だからこそ「死んでもいないのに、(死んでから行く)地獄をこの世に顕現させる必要はない」そんな先人の、もしくは人間という種に刻まれた本能なのかもしれない。
「…後でって言ってる本人が考えてるね」
…ごめんね。でも…。
「…わかってるよ。言ってみたかっただけだから」
「言おうとする本人がー、納得できてなきゃ―。くーきょになるだけだからねー!」
言おうとしたことをいい笑顔のカレンに全部持っていかれた…。
「こら。ルナ。触れてはいけませんよ」
「なんで?レイコねえたま」
「疲れてるから。だな。ヤバいとき以外は、そっとしといてやれ」
「わかった。でも、起きたよ?」
え? 確かに起きてる。目がぱっちり開いている。エルフさんはぐるぐる目を動かすと、勢いよく立ち上がった。そして、そのまま駆け出した。
えっ…。止める間もなかっ
「行かせないよー!」
たと思ったけど、止める間はあった。カレンが矢で地面に縫い付けた。
「カレン」
「一応、怪我人ですよ?」
四季が「一応」ってつけたのは、今、元気よく跳ね起きて駆け出して行ったからだろう。怪我人…? って首を傾げる動きだった。
「知ってるー。でもー、ボクから逃げるのがー、わるーい」
凄い言葉だ…。偉い人が言いそう。…実際カレンは偉いけど。ハイエルフだし。
でもな…、いくらカレンが世界樹のことを心配していて、かつこの人が事情を知っていそうな人一号だったとしても…、
「もう少し穏当にするように」
「あーい。気がせいてたー」
気の抜けた返事。だけど、たぶん大丈夫。声色は真面目だった。
カレンはちょこちょこ小走りでエルフさんの元へ。そして、顔の前にしゃがみこんで矢を消した。
「何でこんなひどいことを…」
文句を言いながらおもむろに顔を上げたエルフさんは、カレンの顔を見ると硬直した。
「やー。何があったかー。しゃべってー」
カレンが声をかけたけど、エルフさんは未だに硬直している。
「ハイエルフ…様?」
小声でぼそっと呟くと、エルフさんは土下座した。…どっかで見たことあるなぁ。というか、『チャユカ』で見たなぁ…。
「ボクはカレンだよー。へーふくはいい。せつめーして」
「え…?畏まりました。ですが、言葉で説明するよりは一度、見ていただくほうがよいかと」
「だってー。おとーさん。おかーさん」
カレンの声にエルフさんが首を傾げながらこっちを見て、そして驚いた顔をした。何故驚いたんだ? …功績を主張するつもりはないけれど、一応、俺らが助けたんだけど。
「行こ―!」
「え?あ。はい!」
エルフさんが許可を出したならば…、
「了解です。皆、馬車に乗ってください!」
「セン!行くよ!」
進むまで。今度こそ。出鼻をくじかれずに出る!
「…いつまで硬直してるの?」
「むー!行くよー!」
「え?あ…。はい」
まだ混乱してるのね。早く馬車に乗ってほしいんだけど…。また降ってこないとも限らないし。
「あ、あの、お二方!」
「「はい。何ですか?」」
「何か降ってきても無視してください!それが例えエルフであっても。です!」
え…。何で!? いや、でもエルフさんが言うならばそうしたほうが良いんだろう。
「…全員乗った!」
「ブルルッ!」
アイリの言葉にセンが答え、馬車の車輪が回り出す。狙ったようにまた肉塊が飛んでくる。
「俺がはじく」
ペンを投げて軌道を逸らす。これで当たらない。背後でぐちゃっとつぶれる音がする。
「次、来ましたよ。」
「エルフさんか…!」
無視するって言われても、人だ。しかも血まみれ。これの無視は…。
「無視してください!ここにいるものはまだ若い。ですのでそれで構いません!」
若い? それとこれと何の関係があるのかわからないけれど…。エルフさんが言うなら従おう。
「皆、ルナは任せた!」
一応、見せないようにしておきたい。たとえ後で無駄になる気遣いであったとしても。
ペンを回収。再度遠投。軌道が変わり、完全に関係のない方角へ飛んでゆき、ぐちゃっと肉がつぶれる音がした。
嫌な音だ。これを続けるのはちょっとキツイ。
「せめて無視する理由をください」
「我々、エルフは生殖でも増えます」
知っている。だからこそ、所謂普通のエルフには男女の性があることも。
「が、世界樹からも増えます。エルフは世界樹の管理者でもありますから。著しく数が減った場合、世界樹に生ります。このように産まれた者は自我なんてありません。ただの肉人形です。一応、あるにはありますが、どうせすぐに記憶を引き継いで転生しますから」
…それならやっぱり助けたほうが良かったんじゃ? 転生したとしてもそれは今のエルフさんではない。
「ハイエルフ様のご両親の内心はお察しいたしますが、助けない方が良いです。私自身、死んで死んで死んで死んで、また死んで、その果てにこんな感じになっているだけですから。現に、今は男の体ですが、女の時もありましたしね。私のように早く動けるようになって世界樹のためになるほうが良いです」
きっついなぁ…。
「それで副作用はないのですか?」
「最終的には摩耗して魂が消滅しますよ。ですが、それはそれで名誉です。私達の存在意義はそれですから」
…何も言えない。ルナでさえ言っていることの歪さを察したのか黙っている。そんな中でエルフさんだけが口を開く。
「何より、今、この領域にいるエルフは全員私の同族ですからね。助けるだけ無駄ですよ。世界樹のためという理由もありますが…、その空虚さは見ていただく方が早いでしょう。あぁ。後、皆さまに言っておきますが、私に名前なんてないですよ。強いて言うならテェルブですかね?数字の12です」
助けるだけ無駄って…。それに名前が番号。言葉に上手くできないけれど悲しいな…。
「心配されずとも、ハイエルフ様は別です。れっきとした確たる一個体です。エルフ領域以外で見られたエルフも我らとは違います。彼らも既に確たる一個体となっているでしょうから」
カレンもそうじゃないかな? って心配したわけではないんだけど…。今の沈黙を彼──テェルブさん──はそう取ったのか。本人が悲しんでいないならば言うべきではないか。
「ぐちゃっ、ぐちゃっという音にまいっておられるやもしれませんが、もうすぐですよ。もうすぐ世界樹が見えます。が、少し覚悟はしておいてくださいね?今以上にまいるかもしれませんよ?」
テェルプさんの声は真面目。
言われなくともわかっていますよ。世界樹に近づくにつれて死臭が強まっている。それに瘴気も。
…これから導かれる光景なんて決まってる。
「抜けましたよ!」
漸く見えた大樹。そして眼前に広がるのは予想以上に凄惨な光景だった。