2話 王城で
なんだかんだその2
部屋を出て廊下をまっすぐ歩いていると、左手に図書館が見えた。よし、さっそく…
「おい、後でな。先に部屋だ」
なん…だと…!?駆け出そうと思ったのに、それはないよ…。
「そんな悲しそうな顔すんなし」
「だってさ、そこに面白そうなものがあるんだぞ?しかも安全な」
「お前はそういうやつだった…」
上を見あげるタク。お城の天井とか目新しいけど、夜だからほぼ見えないぞ?
「まぁ、後で存分に堪能しろ、後7時間ぐらいしかないけど」
あ、そうか。出なきゃいけないのか。
「じゃ、早くしろ」
「変わり身早いな。おい。まあいいけど」
タクは一瞬呆れた顔をすると、足を早める。突き当りを右に行くとすぐ俺の部屋があった。
部屋の確認は出来た。なら戻ろう。できるだけ早く!
「ぐぇ。」
タクに襟をつかまれ、首が軽く絞まる。走ったせいで俺の勢いがプラスされててしんどい。
「走るなアホ。時間を考えろ。みんな寝てるんだから」
あ、そうなのか、それで早足だったのね。
「納得したからはやく行こう」
「絶対してない…」
諦めたような声でタクがそういっていたのを聞いたが反省はしない。
「一応俺の部屋も教えとくぞ。この廊下突き当たって右に行ったところのこっち側から3部屋目の右の部屋な」
「そうか、覚えとくよ。ありがとう。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
眠たそうに眼をこするタクは俺に手を振りながら自分の部屋に消えた。
さて、面白そうな本はありますかね。図書館に戻って、無駄に大きくて豪華な扉を開くと先客が。24時間営業らしいから当然か。
…にしても読書に集中してるのか全くこっち見ないな。黒髪、黒目だから日本人…なのだろうか。
すごく綺麗な人だ。大和撫子ってこういう人のことを言うのだろうか?あ、目が合った。
?なんか驚いているような。
とりあえず頭を下げる。たぶんクラスメイトだし。頭をあげると、相手も頭をさげてくる。クラスメイト…でいいのだろうか。たぶんそうだけど。となると、ということは、クラスメイトがこっちに来るとは思わなかったから、びっくりしていたのだろうか。
「こんばんは。えーと、日本人ですよね?」
一応確認する
「あ、はいそうです」
「やっぱりそうですか。俺は森野習って言います。あなたのお名前は?」
「私ですか?私は清水四季です」
「あなたも、『シャイツァー』の能力で言葉理解できてるんですか?」
だから眠くないんですか?という意味を言外に込める。たぶん通じるはず。
「そうです。ちなみに私のやつは『ファイル』です。意味が分かりませんよね?」
クスクスおしとやかに笑いながら言う清水さん。
「俺のやつは『ペン』でしたね」
ついでに軽くタクと実験してわかったことも話しとこう。
「謎な『ペン』ですね。私のも謎さでは負けてませんよ」
清水さんが虚空からファイルを取り出し、そこからすっと紙らしきものを出した。
「どうぞ」
取り出した紙らしきものが差し出された。
…どうしろと?とりあえず、さわって、振ってみる。においをかいでみて、透かしてみる。うん、これはたぶん、
「紙ですね…」
「そうなんです。紙です」
語彙力が足りてねぇとか言われそうだが仕方ない。だって紙なんだもの。
「あ、でもこれノートの紙っぽいですね」
「そんな気がします。でも、これでどうしろっていうんでしょうね?」
と首をかしげる。
「じゃあ、西光寺派ですか?」
「そうです。ところで、~派ってなんか嫌なので、~班にしません?」
突然だな。でも、これなら仲たがいしました感が薄れていい。だからすぐに頷く。
「森野君も西光寺班ですか?」
「そうですね。あ、時間もないですし本読みましょう。暇つぶしですが、情報集めも大切です。俺は清水さんと被らないように読みます。なので、今まで読んだ本と読みたい本を教えてください。あ、よくばって「全部読みたい。」はやめてくださいね。確実に間に合いませんので」
「そんなことわかっていますよ。残念ですけど」
すこし頬を膨らませる清水さん。少し外見から受ける印象にそぐわないけれど、可愛らしい。
清水さんから読んだ本、読みたい本を教えてもらって、被らなくてかつ面白そうなものを読む。
あ、この内容はメモしたほうがよさそう。何かメモとるもの…。そういえば、清水さん『ファイル』から紙出してたし、清水さんにもらおうか。
「すいません。清水さん、紙もらってもいいですか?」
「いいですよ?はい、どうぞ」
「とりあえず、私の『ペン』でかけるか試したいので一枚だけいただきます」
紙の上で、ペンを横に動かす。そしてぐるぐる回す。うん、問題なさそう。
「書けそうです。念のため3枚ぐらいください」
「どうぞ」
さて、紙ももらったし、どんどん読んでいきますかね。ちなみに清水さんが読んでいるのは主として歴史の本。
俺は、魔物とかの料理。後単純な興味で一冊魔術の本だ。たぶん読み切れない。とりあえず魔術の本を読もう。
ふむふむ。魔法と『シャイツァー』は術者の意図や思いを反映する…と。なるほど、タクのが双剣なのは実にあいつらしい。
あ、ダメだ。いちいち感想言ってたら脱線する。どんどん読もう。
______
「おい、起きろ習。」
ん?誰だろう?目を開けると横で清水さんも寝ている。とりあえず起こそうか。
「清水さん起きて」
声をかける。これで…、
「ふわぁあ、あ、おはようございます」
起きてくれたね。
「おはよう」
「森野君とえーとそちらのお二人は?」
二人?声からどうせタクだろうからほっといたけどもう一人いたのか。
「あー、俺の名前は矢野拓也です。こっちの方が、」
「あ、いいですタク様、自分であいさつしますので。おはようございます。森野様。清水様。そして初めまして。私の名前はルキィ。ルキィ=カーツェルン=バシェルと申します。この国の第二王女です」
なっ、なんだってー!そういえば初めてこの国の名前聞いたな。バシェルっていうのか。
「二人ともさぁ…王女って聞いて驚いたと思ったら、すぐ同じような顔になって話聞いてないような顔になってたけど、何考えた?」
タクがじっとした目でこっちを見てくる。
「えーと、そういえばこの国の名前初めて聞いたな。と思いまして」
「俺も一緒です」
「あれ?なんで言ってないはずなのに国の名前がわかるのですか?」
「うちの世界の伝統?的なものでだいたい貴族の名前の最後は領地名っていうところから?」
「私も同じく」
「なるほど、確かにこの国の名前はバシェルです。で、ものすごく大事なことをお伝えしないといけないのですが」
「あ、そういえば出発ですね。間に合うかな?」
「無理です」
そっかー、無理かー。
「「ええぇ!?」」
二人の声が重なる。
「どうしましょう。こっちの世界に来たばかりなのに」
「どうしよう。おいて行かれてしまった」
「そんなこと言いながらお二人とも本開いて読もうとしていらっしゃるあたり、お二人ともかなり余裕ありますよね?」
「そうですね。習はわかりますけど、清水さんもみたいですね。人は見かけによりませんね」
「まったくですね」
そんな二人の会話を尻目に本を読もうとしたら、タクに本を取り上げられた。清水さんは王女様に取り上げられたみたいだ。
「残念ながらそのような時間はないのですよ。申し訳ないのですが」
「なぜです?」
「それはですね、えーと」
言いよどむくらい言いにくいのか?
「ぶっちゃけてしまうと、「召喚したけどニートに飯はやらねぇ!てか、死んでくれたほうがいいから殺す!」だってさ」
うわぁ。そりゃ言いよどむか。
「お前らさっきからずっと同じ反応するよな。よそよそしく会話してるけどさ、普通にしたらたぶん仲のいい夫婦に見えるぞ」
「「誰が夫婦だ(ですか)!」」
…ん?なしてニヤニヤしながら手招きしてるの?
「とかいいつつ好きだろ。お前」
おまっ。なんで…、いや、長年一緒にいればわかるか…。
「正解。黙っとけよ?」
「わかってるさ。顔赤いのなんとかしておけよ?」
いたずらが成功したように笑うタク。ちょっと憎たらしい…。
清水さんもルキィ王女と話して顔を赤くしている。空気を変えないと…。
「それはそうとどうしてもっと早く来てくれなかったんだ?」
「起きれなかった。起きたら見送るから早くって言われた」
「私は「せっかくお見送りするのですからおめかししましょう。」って言われまして…そもそもお二人がここにいらっしゃることを知らなかったのですけど。言い訳にしかなりませんが」
「理解しました。そういえば、なぜ西光寺たちは待ってくれなかったんです?」
「諸事情です。」
便利だよね。諸事情って。
「それが知りたいのですが」
「要約すると、召喚してさっさと討伐に出征してもらおうと盛大なお見送りをしようとしたみたいけど、俺らが二派にわかれたから意味がなくなった。だから住民にばれる前に出て行ってもらおう!とさ。あと、戦ってくれないなら殺っちゃえ♪もある。まぁこのせいでお前らが向こうに行けないわけだが」
うわぁ…。
「うう、申し訳ありません…召喚自体止めたのですが力及ばず…」
あ。王女様が落ち込んでしまった。フォローしないと。
「大丈夫です。王女様。王女様が止めてくれたのは理解しましたから」
「そうですよ。王女様は止めてくださったのですよね?」
二人で励ます。
「うう、ありがとうございます。父上も姉上も一体何を考えているのやら…」
姉…だと!?王女様では区別できないじゃないか。
「お二人とも何を考えていらっしゃるのですか?」
「何もないです。ルキィ王女様」
「私もです。ルキィ王女様」
「それはそれで問題なのですが…絶対何か考えていましたよね?」
ジト目で見てくる王女殿下。
「大方、「王女様ってルキィ様を呼ぶと姉と区別できない」ってところでしょう」
流石タクだぜ。バレテーラ。あ、けどあったことないしルキィ様=王女様でいいか。清水さんは見透かされてびっくりしているのか口を開けて固まっている。
「清水さん、清水さん。タクは基本俺のこと見透かしてくるから、似ているらしい清水さんもきっと見透かされると思いますよ」
「そうですか…仲いいのですね」
「いわゆる腐れ縁ですがね」
そんな会話を交わしていると向こうも会話が終わったのか声をかけてくる。
「お二人には申し訳ないのですが、お二人にはお二人で北に行ってもらいます」
「どうして?」
「西光寺様たちに追いつくには南に行くしかないのですが…言いにくいのですが、見張りにみられてしまうと後で殺されてしまうかもしれないので…」
えぇ…。
「誰にですか?」
「色々いますが、一番はあのいけ好かない糞野郎です。あいつが来てから父様…メリコム父様が、しばらくして姉様がおかしくんなったんですよ!」
おおう、王女の外面をとりつくろえてないぞ。どんだけ嫌いなんだ。
「実際、あいつはやばいと思う。王様も第一王女様、ああ、アーミラ様っていうんだ。も、なんかあいつの影響受けてそうな気がする。あと、名前も知らないクラスメイト数人はもっとやばそうだけど。ああ、ルキィ様にはすでに言ってある」
「タクが言うならそうなんだろうな。理由はわかりました。で、俺らはどうすればいいんですか?」
「ついてきてください」
タクと王女様はクルリと向きを変えて図書館を出て行く。
「おいて行かれる前に行きましょう」
「そうですね」
俺と清水さんも急いでついて行く。
「どうしてこんなに急いでいるんです?」
「この時間は見張りが少ないのです。そして目的地である私の部屋のある建物は私の権限で今は誰もいません」
「なるほど、それでですか」
さすがにいつまでもノーガードとはいかないと。急いで歩くが、誰にも会わない。気持ち悪いな…。
「ルキィ様の子飼いの部下のおかげだぞ」
さすがだタク。俺の言いたいことを察してくれる。階段を下りたり、渡り廊下を移動したりして目的地に着いた。
壁に大きな穴が開いていて、穴はどこまでも続いていそうだ。
「この穴をまっすぐ行ってください。そうすれば近くの森に出ます。」
「これは?」
「王族専用の脱出通路です。王族本人が魔術具で作るので本人しかつながっている場所、起点はわかりません。それと、これをもっていって下さい。せめてもの贈り物です」
「ありがとうございます」
穴の横に置いてあった袋を渡してくれた。結構重い。
「ルキィ様が短い時間で城からかき集めた。少ないけどそれで手一杯だ」
「あ、それと、外では苗字は使わないで下さいね。貴族みたいに思われますし、黒髪黒目は珍しくはないですが、多数派っていうわけでもありませんので」
「あと、二人ともよそよそしいのはやめとけ、一人旅だと思われると面倒だぞ」
「二人旅でもか」
王女様が何か言いかけたが、タクがよろけて思いっきりこけてルキィ王女も巻き込んだせいで喋り切れなった。
タクはさっさと立ち上がって、王女を起こし、
「あー。ルキィ様すいません。疲れがたまっていたようです」
「許します」
「ありがたき幸せ」
ちょくちょく聞き取れなかったけど…、猿芝居臭がすごい!あぁ、それと。
「タクちょっと耳かして。」
「ん?」
「タクが残った理由はルキィ様が好きになったからだってのは黙っててやるよ。だからお前も…」
黙ってて。と言おうとしたが、
「わかった。わかったから」
さっさと行け。みたいになあなあで流された。本当にわかっているのかね?まぁいいか。
「「行ってきます」」
「「いってらっしゃい」」
そう言葉を交わすと俺たちは穴を通り抜けていった。
______
ふう、無事に行ってくれたかな?若干心配だが、習だし、なんだかんだでうまくやるだろう。
「矢野様、最後森野様なんと言われたのです?」
「お前の秘密は黙っててやるからお前も言うなって言われましたね。まぁ、聞いてから二人がしゃべってる間にルキィ様に伝えてましたが」
だからあの口止めは意味をなさない。
「ああ、なるほど。両思いですものね。だから先ほど私の言葉を止められたのですよね?」
「そうです。さっさとくっついたほうがいい気がするんですよね。あの二人」
「私もそう思います」
二人でニコニコ微笑みあう。
「で、矢野様の秘密とは?」
「秘密は秘密だから秘密というのですよ」
「それもそうでしたね。」
あっさり納得してくれた。
「ばれないうちにこっそり戻りましょうか。まだ、足りてないのもあるのでさっさと護衛に渡さないといけませんし」
「そうですね」
俺らは元来た道を戻る。とりあえず俺は様づけが取れるように頑張りますかね。