閑話 集合魔王討伐班
魔王討伐班のリーダー。望月視点です
「ねぇ、雫。なんでこんなに大きな部屋貸してくれんだろ?」
一応、僕──望月光太──は勇者で魔王討伐班のリーダーをしているけれど、勇者で話し合いたいだけ。だからこんな豪華な部屋である必要は、まかり間違ってもないんだけれど。
「わたくしにもわかりませんわ。確かに、意図が分からぬものほど怖いですけれども…、今回は単純に「最高戦力になりうるわたくし達に媚を売りたい」そういう意図ではなくって?」
質問を投げた幼馴染でもある天上院雫はすらすらと自分の意見を述べてくれた。
雫の考えと僕の考えは一致してる。なら、間違いないかな?
「やった!2番手だよ!愛ちゃん!」
バン! と扉を跳ね開けて入ってきたのは、百引晶さん。西の班のリーダーだったはず。となると…。
「もう、アキ。嬉しいのはわかるけどはしたないよ?」
「百引。落ち着け」
「俺も落ち着くべきだと思うぞ!」
百引さんを窘める3人──羅草愛さん、神裏瞬君に、久我謙三君──もいるよね。
「うわっ。ケンゾーに言われた…。もう、マジ無理座ろ…」
いつものことだけど、謙三君の扱いが酷い。幼馴染4人衆だから許される距離感。僕は雫しかいないからなぁ…。羨ましい。
だけど、本当は有宮文香さんもいれて5人組なんだけど。シャイツァー的に仕方ないとはいえ引き裂いてしまったのは申し訳ない。
「愛ちゃん。あたしがそっち座るから、こっち座って」
「うん…」
さりげなく百引さんを羅草さんと瞬君で挟み込んだ。瞬君の隣に謙三君。…露骨に百引さんを抑える配置。
「我。帰還セリ」
「ただいま。皆」
「お灸お灸」
東の面子が入ってきた。中二病の臥門芯君と、常識人の旅島順君。そして爆弾娘の蔵和列さん。
再会しても蔵和さんの思考回路のぶっ飛び方は変わらない。
「シン君。通訳お願い!」
「百引は分からぬか…。これは、お灸の灸を「久しい」の久に変換。そうしたら「お久」になって。久しぶり。だ。まだ初歩だ」
「流石、許嫁のことはよくわかってる」
順君が揶揄うと、芯君は「五月蠅い」と吐き捨てながらも顔を赤くして、蔵和さんは嬉しそうにはにかみながら顔を赤くする。本当に仲がいいよね。この二人。
「何?」「何かしら?」
何故か皆の視線が僕と雫に集まってるけど…?
「あんた等が言う?」
? 羅草さんが非難するように言う。
「わかる。雫?」
「わかりませんわ」
目で聞いてみると、目で答えてくれた。どうしよう。どういうことなんだろう?
「ねぇ、愛ちゃん。やっぱりこの二人は無理だよ。言っても無駄。天然だもん」
「そうだったね…」
この話題になると誰が相手でも大抵こうなっちゃう。追求…はしない方が良いか。足音が近づいてきてる。
「あー!俺ら最後やで、りっちゃん!」
「見たらわかるで、兄ちゃん!」
「せやな!」
座馬井条二君と座馬井律さんの座馬井兄妹が息を切らせながら言う。
「みっちゃん!はよう!」
「ドベになるで!?」
「別にうちはかまへんのやけど…」
なんて言いながらも、言われた青釧美紅さんは少しだけ小走りになる。
「「着いたー!」」
「それはええけど、二人とも。先に言わなあかんことあらへんか?」
入ってきた青釧さんが首をかしげながら言う。
「「せやな!遅れてごめん!」」
「よろしい。みなはん、遅れてしもてごめんなぁ」
「たいして待ってないから大丈夫。ほら。座って」
待ってないのは本当だし、謝る必要なんてないけど…、謝罪は受け取っておく。
臥門君たち東の班が僕の横に、芯君、蔵和さん、順君と座り、青釧さんの南の班が僕等の対面に座る。
「これで揃ったね」
「望月君、ウェイト!まだ3脚空席あるよ?一脚は矢野だろうけど…、あれ、矢野はどうしたの?トイレ?」
タク? あぁ。言ってなかったね。
「タクならルキィ様の護衛についてるよ」
「ルキィはんの?…それはまたけったいなことしはるなぁ」
変ではないと僕は思うんだけど…。
「ああ、うちかて非難したいわけやあらせえへんよ。ただ、矢野はんの恋路を応援したいだけ。こういう理由やったら、うちら承知せえへんよ?」
「そこは心配不要。ルキィ様には護衛が必要。これは間違いないから」
「応援の気持ちが100%なかったか?」と聞かれると頷けないけど。間違いない。
「だな。かの姫君はこの王国の中で唯一、|闇に魅入られていない《正常な思考回路をしている》からな」
…厨二で言ってるけど、翻訳すればその通りだと思う。最悪、国王陛下と第一王女が倒れてもルキィ様がいれば何とかなると思ってる。…逆にルキィ様がつぶれるとこの国は詰む。
外交を放り投げて対魔戦。そんな無茶をやった過去があるから。
「電車。電車」
「話題、脱線してるってさ」
3脚の空席の話だったね。
「そうだね。戻すよ。れっちゃん。矢野君を入れると13人。でさ、私が言いたいのはさ、私の記憶じゃあ、これで全員だったと思うんだけど?」
え?
「またまたー。アキ。変な事言っちゃダメだよ?」
「そうだよ。早く寝ろ」
「ドカッと一発寝ろ!」
謙三君、たぶんそれ、気絶してる。
「うそん。私の記憶がおかしいの?名前は?名前は言える?」
「クラスメートの名前が言えないわけあらへんやん。な、りっちゃん!」
「せやな!「クラス替えの時に転移させられてなければ」って注釈つくけどな!」
「ほんまや」
僕は幸い、クラス委員だったから割と顔を見る機会があったからほとんどの同学年の人は知ってる。だから知ってるはずなんだけど…、思い出せない。あったことがなかったのかな?
「わたくしがクラス名簿の名前のメモを取っていますわ。それで確認いたしましょう。ええと…、白螺宇恵さんと、富湯楽黒都さん。この二人ですわ」
…誰? 一切記憶にないんだけど。容姿すら出てこない。
「知ってる人、挙手!」
百引さんの声。だけど、誰も手を挙げない。
「俺も知らないけど、みんな知らないの!?どっちかだけでもいいよ!」
「何故上からなの?兄ちゃん」
「ノリだよ!りっちゃん!」
やれやれと首を振る律さん。兄妹仲がいい。
それはさておき、誰も手を挙げない。
「これ、誰も知らはれへんのとちゃいますか?」
「なのかな?雫。名簿の原本は持ってる?」
「持っておりませんわ。皆さまもお持ちではないですよね?」
全員、コクリ頷く。
「てかさ、そもそもそんな人いた?」
「ちょ、愛ちゃん。そこから!?」
「うん。そこから」
記憶を漁ってみよう。……あれ? いなかった気がする。
「召喚失敗ってわけじゃねぇの?」
「だが、我の記憶では机の数は30だったぞ?」
謙三君の疑問を芯君が否定する。
「0、0?」
「もしかして、0?って、列が言ってる」
翻訳ありがとう。芯君。
「まさか、そんな非科学的なことあるわけないじゃん!」
「って、言えないのが今のあたしらの現状なんだけどね!」
「「せやな!」」
妙にテンションの高い百引さんと羅草さん。それに座馬井兄妹。
…分からなくもないけれど。だって、図らずしも僕たちの現状が一番、非化学の塊《異世界転移》だしね。
「考えたっていいことありゃあしまへん。流しましょ」
皆、頷く。少し顔が青い人もいるし、そのほうが良いかな。
「議題は「出陣」について。皆、どう出る?」
出陣するのが僕等、魔王討伐班の役目。だから出るのはいい。けど、どう出るか。ここが大切だ。
「私ら全員適当に分割しちゃう?それとも全員で凸る?どっt」
「突撃!お前が夜ご「おい、馬鹿、やめろ」痛くない!」
百引さんの言葉を遮る謙三君を瞬君が止めた。割と全力だったように見えるし、音もおかしかったのにぴんぴんしてる。えぇ…。
「…万一に備えて城に守りを残したほうがいいのとちがうんやあらへん?」
「それも一考の余地ありですわね。ですが、今回は「攻撃は最大の防御」これが当てはまるとわたくしは思いますが…」
「我も同意だ。今まで、あのファラボ大橋を越え、満足な橋頭保を確保できたことなどないぞ?」
かといって守りが要らないとはならないんだよね…。
「ん?シン。それって本当?」
「ああ。我が調べ、聞いた限りはそうだった」
百引さんは順君と蔵和さんに目線をやる。二人が頷くのを見るとさらに言葉を繋ぐ。
「それならさ、吶喊もファラボ大橋だけじゃない方が良くない?たぶん大軍勢が渡りやすいのがあの辺。ってだけだと思うんだけど?」
「確かにね。俺らが見てきた限りではそうだった」
「だな。順。我ら勇者の少数精鋭であればこっそり渡ることは出来るな」
「鳥、鳥?」
蔵和さんの「鳥」という言葉に芯君が露骨に顔を顰める。
「鳥…、飛ばすのはやめてくれ。心の臓に悪い」
……まさかの人間大砲?
「越境方法は今は良いでしょう。今、決めねばならないのは、わたくし達がどうするべきか。という事ですわ」
「大前提として、一応、まだ皆、魔王と対話する気はあるよね?そこをまず私は確認しておきたい」
「聞く気ある人、手ぇあげて!」
「台詞を座馬井兄に取られたー」
悔しそうに言う百引さん。だけど、手はちゃんと上がっている。
「全員かー。となると、あんまりこういうこと言いたくないけど、こっちの世界の人間邪魔じゃない?」
「かもしれはりまへんな。功を焦ってブスリ。なんてやらかしはる人が出るかもしはれへん」
「それでは対話になりませんわね…。となると光太、わたくし達がとるべき手段は…」
ほぼ決まったかな。
「分けよう。流石に勇者として呼ばれてるのに、誰一人として見えるところにいないのは問題あるだろうし、何より大量の人死にを見過ごせない。だから、僕らは正面、北、南の三方に別れよう。これでいいかい?」
「この国の首都に守りは置いておかはれへんの?どうやったって抜けてくる人らもではるんちゃう?」
それはそうだ。でも、それはどうやったって出る。
「突入するわたくし達の戦力が希薄になってしまいますわよ?」
「雫ちゃんの言う事も一理あるけどさ。万が一バシェルが壊滅するようなことがあれば私達は孤立無援になるよ?」
ああ、もう。どうしたらいいの!?
突撃戦力を増やせばそれだけ兵士の犠牲は減る。首都防衛とかいう、来るかどうか定かでないものに備えた遊軍を作らずに済む。だけど、首都防衛に人を置かなければ、万が一来た時に大量の非戦闘員が犠牲になる。
「雫。今回の大戦の作戦計画書とか持ってない?」
「流石に持っていませんわ。将軍を捕まえて聞きましょうか?」
そうしてもらおうk
「ふっふっふ」
目の前で不敵に百引さんが笑ってる…。
「こんなこともあろうかと、貰ってきてる!てっててー!「それ以上言わせないよ?愛ちゃん。」あ。ごめん。アキ。はい。『作戦地図』」
シャッと机の上に広げられた地図。青猫ロボ関連の物まねにツッコミたいけど、それよりも。
「早く出して?」
異口同音に音が部屋に響いた。
「テヘペロ。忘れてた」
……。
「地図見る限り…、勇者は考慮されてないかな?」
「無視しないで!?」
「だまっとこーね」
「がっ」
羅草さんが口を抑えた。…口の中に思いっきり指が入っているんだけど。
「わたくしたちは考慮されていません…、いえ、逆ですわね。考慮された結果がこれですわ」
「首都空っぽに見えるが?」
「わたくし達の中から数名置けば守れる。そういう算段なのだと思いますわ」
「雫の言う通りじゃないかな?勇者がいるなら士気も上がるだろうし」
…首都に兵士ほとんどいないけど。
「置くしかないね。首都防衛隊」
ガラガラのところを放置するなんて出来ない。
「ほな、うちらに首都は任せてくれはる?音楽の力で守り切って見せましょ」
「僕等は中央かな?シャイツァーが聖剣だし。旗頭には丁度いいでしょ」
「じゃあ、私は北が良い!」
「我らは南だな。そっちの方が土地勘がある」
綺麗に散った。そのまま班ごとに散らせばいいかな。あ、でも…。
「ごめん。百引さん。誰か一人貸して。僕等二人しかいないのはマズイ」
一番重いだろう中央が薄すぎる。百引さんのところは4人いるから貸して欲しい…。
「かまわないけど…。ええと、聖剣と聖杖だったよね?」
「そうだよ」
「となると…、天上院さん守る壁が良い?」
「貸してくれるなら誰でもいい」
無能はこの中にいない。
「それなら。ケンゾー。行っといで。あんたが一番適任」
「りょーかい。よろしく。光太」
「肉壁にでも使って。…ここぞと言うときしか使い物にならないから」
どうしよう。かりたけど、めっちゃ不安。
「ごめんね。私が抜けるとまとめ役がいないし、愛ちゃんは回復できる。回復の一極集中は避けたいでしょ?瞬は…、うん。肉壁。「おい!?」ケンゾーじゃ、対応しきれない。小回り効かない。「無視かよ!?」うん!」
「ツッコミどころ満載やな!?」
物凄く混沌と説明されたけど…、まぁ、それなら仕方ないか。雫もこれでよさそうだし。
「じゃあ、最後にまとめるよ。中央に僕らと謙三君。これで陽動。南に臥門君の班。こっちも陽動…でいいよね?」
「必然的にそうなるな。列のシャイツァーで隠密など出来ん」
大砲だからね…。
「北の百引さんの班が本命だね。僕等も浸透するけど頑張って欲しい」
「りょーかい」
3人しかいないけれど。
「で、青釧さんの班が首都防衛。これでいい?」
「構わぬ」
「いーよ!」
「うちらもかまへんよ」
班長が同意して、メンバーが頷いてくれた。
「なら、今日は解散。各自出撃に備えるように!」
もう少しで戦争が始まる。雫やみんなと、無事に帰れると良いけれど。