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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
197/306

177話 滝つぼ

「ねぇ、何で僕だけ馬車で一人なの?」

「あ、おはようございます」

「おはようございます」


 いつの間にか馬車の中から這い出し、ベッドの足元の方にいたシールさんに挨拶する。



「え゛?今、気づいたの?」

「「?」」

「うわぁ…。僕、かなり前からここにいたんだけどなー」


 ああ、そういうことですか。気づかなかったのは、子供達ばかり見てそっちの方全く見てなかったからでしょうね。



「まぁ、君ららしいと言えばらしいか。…うん。実に美味しかったし」


 この人の悪癖…、いちゃいちゃ好き性癖を満たせたってことか? 何で? それをしてたのは冒頭だけ。その時、シールさんは寝ていたはず。



「残留いちゃいちゃ…かな?」


 何で心読んでくるんですかね。ついでに、残留いちゃいちゃとは何ですかね…、農薬ぶちまけたわけではないんですけれど。



「まぁ、いいや。僕の扱い悪くない?」

「気のせいです」

「扱いが悪いならその場で放置してますよ」

「確かに!」


 納得してくれて何より。でも…、



「「五月蠅いです」」

「あっ。はい」


 起きてしまったらどうするんですか…。



「あ、ついでに言わせていただくならば、これ以上の扱いなどベッドに寝かせるしかないわけですけど」

「人数的に考えても、この子らが子供ってことを考えても、俺らがこの子らの親であるってことを踏まえても、出来るわけがないのはお分かりでしょうに…」

「つまりそこに僕が入るという可能性は…」

「「皆無ですね」」


 考える必要すらない。



「何で?」


 何でって…、



「何で知り合いとはいえ、子供を他人と寝かせなきゃならないんですか」

「そうですよ」

「ああ、そこに帰着するんだ」


 寧ろそこしかないでしょうに。そもそもあなた男性でしょうに。うちの子らは可愛いんだから…あぁ、女性でも却下。カッコいいガロウがいるから。



 あ。子供達が動き出した。もぞもぞ動いて掛け布団から這い出る。ベッドに座り込むと目を眠そうにこする。



「…ん?あ。おはよう」

「ん。おはよう」

「おはようです」


 アイリが挨拶すると、他の子らも追従してくる。よかった。皆、ちゃんと起きてくれた。これで起きなかったらどうしようかと思った。



「…お父さん。お母さん。体に異常はない?」

「ん?ないよ」

「ないですね」


 子供達が露骨にホッとした顔をする。…ごめんね。心配かけて。そしてありがとね。心配してくれて。



「…あのね、お父さん。お母さん」

「アイリ。説明してくれるのはいいけど…」

「その前に、お着換えしましょう。服の損傷が少し見過ごせませんから」

「ちょっ…!?僕は後ろ向いとくよ!?」


 慌ててシールさんが後ろ向いてる。どうしたん…あぁ。



「シールさんも着替えてくださいね」

「立たないでくださいよ。俺が行きますから」

「守らなきゃならないところは守れてるよ!?」

「あぁ、ならいいです」


 なら立ってもらっても問題ない。四季をはじめ、娘たちに後ろ向いてもらってもいいけれど、人数多いし、突発的事故があるかもしれない。



「目を逸らして正解だった」

「何故です?」

「何で、って…、君らならあられもない姿を見たとかで目つぶしするよね?」


 凄まじいジト目。



「「しますね」」

「うぼわぁ」


 魂が抜けるような声をあげるシールさん。魔法で再生するから躊躇する理由もない。全力で潰して、後…、記憶も殴って飛ばそう。



「シュウはいいの?」

「ええ。ですよね?」


 四季が言うと、子供達がコクリ頷く。…ルナは分かってないはずだから、後でちゃんと聞いておこうかな?



 …まぁ、俺ならいいとか以前に、恥ずかしがって隠してるのがレイコだけというね…。まぁ、破れてるとはいえ、穴が開きまくってるだけ。布面積は普通に水着以上にあるけどさ。もうちょっと羞恥心を育んで欲しい。



「理不尽だ!」

「親だぜ?」


 ガロウの言葉に皆頷いた。信頼が厚い。絶対に裏切れない。裏切る要素ないけど。子供に欲情するようなヤバいやつではないし。世の中には子供を襲う親もいるようだけど。



「とりあえず、着替えてください」

「だね。ガロウ。シールさん。馬車裏行きましょう」


 着替えをガン見するのは親でも違うだろうし、引っ込もう。…一人で着替えられないとかなら手伝うけどさ。着替えが怪しいルナもいるけれど、四季がいるし、娘が三人もいるから問題ない。



 俺も着替えよう。さ、ご飯作ろう。流石にお腹が空いた。…そういえばソーセージ? 貰ってたし、あれ焼こう。



 四季が戻ってくる前にさっさと火を通す。じっくり低温でとかそんな面倒なことはしない。お腹が空いた。フライパンにソーセージをドカッと展開。人数が多い、アイリが大量に食べる。そんな理由ですぐにフライパンが満杯。



 着替え終わった皆と一緒に、野菜を大量に切って、パンに切り込み入れて、野菜詰めてホットドッグの山を作る。…一つの皿に盛ったからか、美味しそうに見えない。



「…話す?」

「食後でいいよ」


 四季の方を見ると、コクリと首肯する。一番喋るであろうアイリが一番食べるんだからね。流石に行儀が悪すぎる。



「いただきます」

「「「いただきます」」」


 ちょっと遅めの朝食だ。食べた後は話を聞こう。合いの手を入れるのは聞き終えてからでいい。



 よかった。見た目アレだけどちゃんと美味しい。







______


「…という感じ。ちょっと無茶してごめんね?」

「「構わない(です)よ」」


 多少の無茶ぐらいこちらの無茶ぶりに答えてくれたんだし、安いもの。



「一応言っておくけど、」

「私達以外にそんなことしちゃダメですよ?」

「…ん。わかってる。お父さんとお母さん以外にはしない」

「「ならよし(いいです)」」

「えっ、いいの!?」


 いいです。というか良いに決まってます。何言ってんですか。



「うわぁ…。呆れた目で見られた。わかってたけどさ」


 俺らですしね。わかってたでしょうに…。やらなきゃわかんないことの方が多いんですから。



「…でさ、お父さん。お母さん。ルナのシャイツァーってどんなのだと思う?」


 ルナのシャイツァーね…、アイリの話と、気絶前見たことを統合すると…、



「移動要塞…?」

「より正確に言うならば、移動は自力では出来なさそうなので…、持ち運び要塞ですかね?」

「あぁ、言い得て妙だね」


 字面が意味不明だけれど、それが一番近そう?



「中の人の魔力量に依存するけれど、強力な{防衛能力《結界》を持ってて}

「攻撃手段もありますし…、」

「その上、サイズが変わる」


 ガワを小さくしすぎると、内側から出撃不能になるだろうけど、要塞に当てにくくなる。動かせないなら的でしかないけれど、誰かが移動させるならば、かなり面倒だろう。



「父ちゃん、母ちゃん、結局、あの攻撃って何だったんだ?」

「あれ?あれは…、」

「おそらくカウンターだと思いますよ?コントローラーを見る限りですが」


 ルナが話せるならそれが一番早いけど、無理だしね。それでも、結構当たってると思う。



「コントローラーって何ー?」

「ん?アイリの話に出てきたやつ。というかそこにある」

「…照準合わせるやつ?」

「うん。それで合ってる」


 子供達やシールさんが知らないってことは、俺か四季…、専ら俺の記憶から引っ張ってきたんだろうな、アレ。



 レバーに蜘蛛の巣みたいな照準器が付いてて、それで狙いを定めてボタンを押して撃つ。そんな仕様。この世界に似た機構のモノがあるとは思えないし…、というか、よく戸惑わずに出来たね、カレン。



「勘だよー!」


 そっかぁ。勘かぁ…。



 このコントローラーは360°回る。たまたまミュゴが窓の方にいたみたいだけど、たぶんこれ、窓、壁関係なしに照準を合わせられるな。



「あの、お父様、お母様。お話が逸れてます」

「ああ。そうだね。ありがとう」

「ですね。一応、根拠はこの照準器にある残量表示ですかね?」


 アイリ曰く、瓶みたいなやつ。



「…どういうこと?」

「念じてみたけど増えなかったからね」


 魔力も減らなかったけど。



「自分で増やせない…ということはカウンター系でしょう」


 自分の攻撃もカウントされるかどうかは分からないけれど…、溜まる条件が相手の攻撃であることはほぼ間違いない。



 残量が異常だったらしいけど、その原因はマカドギョニロが延々と500年ぐらいちょっかいかけていたから……と考えると不思議ではない。ミュゴからも攻撃をそこそこ受けていたようだし。



「ねぇ、シュウ。シキ。何でカウンターなんだろうね?というか何で今まで攻撃しなかったんだろうね?」

「魔力の問題じゃないですか?」

「相手の攻撃を吸収して攻撃回す方が、おそらく楽でしょうし…」

「今まで攻撃しなかったのは、攻撃に回すリソースがなかったんでしょう」


 今まで、防御に専念していれば不都合はなかったのだから。



「何で今更攻撃しようとしたんだろうね?」

「「考えずともわかるでしょう?」」

「ん?まぁ、そうだけどさ。君らの推測の方が正しそうじゃん」


 丸投げですか。子供たち…も、シールさんと同じ意見なのね。



「ルナが俺らと一緒にいたいと思ってくれた。結局、これに尽きるでしょう」

「ですね。明らかに相手がつぶしに来ていたあの状況下、防御だけしていても手詰まりですから」


 カウンターである理由も、そこも一因かもしれない。既に魔力のない俺らから引きずり出して倒しきれなかった時に困る。だから、最大火力をぶつける。そんな配慮があったのかも。



 皆の視線がルナに集まる。ルナはきょとんとした顔でこちらを見ている。言葉は分かってなくても、感情はある。ルナが頼れるのが俺らしかなかったとはいえ、俺らを頼るだけじゃなくて、護ろうとしてくれたことが嬉しい。



「ありがとね」「ありがとうございます」


 俺と四季のお礼に、ルナは目を瞬かせると、お日様のように微笑んだ。…可愛い。



「見惚れてないで。これからどうするんだい?」


 もう少し見ていたいですが…、切り上げるか。



「マカドギョニロがいたところの奥と、」

「滝つぼの底を確認しましょう」


 帰還魔法があると言う気が微塵もしないけれど、念のため。



 ついでに、滝つぼの底で見かけたあの黒みがかった銀も取りたい。きっと、トリラットヤとも合うだろうから、指輪にしたい。



「僕に異存はないよ」


 シールさんの言葉に続いて、子供達も賛意を示してくれた。



「じゃあ、行こっか。まずは滝の裏から。」

「どう考えても滝つぼは疲れそうですしね…」


 シャルシャ大渓谷の呪いを防ぎつつ、滝の裏の奥へ。警戒しつつ、でも、歩くだけじゃ暇なので少々遊びつつ、奥へ。



 俺と四季でルナをはさんで、ルナが跳ねるタイミングに合わせて持ち上げる。昔、楽しかったような記憶があるし、たまに公園とかで見たことがあるからやってみたかった。



 それを皆で順番に。やってみたのはいいけど、存外難しい。うまく調整しないと最悪、脱臼しそう。この子らは体格的に大きくて、赤子に比べて頑丈。たぶん、大丈夫だけど…。その辺りを考慮しないと悲しみを背負いそう。



「父ちゃん、母ちゃん、俺にも出来んだな」

「俺も四季も身長は結構あるしね」

「というか、私達、日本人としては間違いなく長身ですからね」


 確か20歳の男が約170で、女が約160だったかな?



「二人の世界的に見たらどうなんだ?」


 世界的? …どうだろう?



「俺はたぶん普通…、ではないな。世界平均はだいたい175のはずだから、5 cmも高い。上位10%ぐらい?」

「私は…、かなり高めでしょう。世界平均が記憶では162とかになっていたはずです」

「13 cmもお母様の方が高いですね…」


 差だけ見れば、俺の二倍。



「身長も正規分布…、ああ、グラフ作った時に釣り鐘型になってるやつね。アレになってるだろうから…」

「割合としては上に行けば行くほど減りますし…、あれ?下手したら私、世界の女性の中で1%ぐらいの可能性が?」

「でけぇな」


 ちょっ…。



 ベシッ!


 俺らがガロウを咎める前に、平手打ちの音が洞窟に響く。



「ガロウ。女性にそんなこと言っては駄目でしょう?」

「確かに。ごめん。母ちゃん」

「私は気にしない人なので大丈夫です。まぁ、気を付けたほうが良いのは確かですがね」

「だな…。ごめん」


 ガロウはいいか。レイコは…咎めたほうが良いのか? 速攻で実力行使したけど…、困った。



「あ、アイリちゃん、謝らなくて良いですからね?」

「そうだね。不要だよ」


 レイコならちゃんとわきまえてくれるはず。今はアイリを優先しよう。



「…何で分かったの?」


 先手を打ったら驚いた顔をされた。…いつも心読まれてるから、新鮮だ。



「初対面のこと、思い出してると思ったので」


 「二人は大きいから丁度いい」って言ったことを。…そんなに前でないはずなのに、前な気がするから不思議だ。



「というかあれ、立案者ルキィ様だったよね?しかもそのルキィ様から謝られてるよ」

「それに、アイリちゃんも既に謝ってくれてたでしょう?だから不要ですよ」


 何度も申し訳なさそうな顔をされるとこっちが苦しい。全く関係ない人でさえ、見ていてちょっと悲しい気持ちになるのに、大事な子がそんな顔をしてるとなれば、何をかいわん。



「ブルルッ!」

「ついたよー!」


 話していたらついたか。



 …魔法で掘った部分だからか、不自然に途切れてる。ちょっとだけ下方に下がっていて、ただの泥が流れ込んで溜まっている。だけど、それだけ。



「わかってたけど、何もなかったね」

「ですね。撤収しましょう。強いて言えば…、泥で汚れたくらいですかね?」


 だね。泥対策はしてないからねぇ…。



「戻ったら昼かな?」

「おそらく、なので汚れてしまったので、お風呂入ってご飯食べて、滝つぼみましょう」

「それで行こうか。皆もいい?」


 即、頷いてくれた。



 じゃあ戻ろうか、行きと同じように、だけどちょっとだけハメを外して遊びながら戻る。



 手を振って持ち上げるだけの単純な遊びだけど、皆の性格が出て、面白い。どの子も嬉しそうにしてくれるけど、アイリは遠慮がち。カレンははしゃぐ。ガロウは少し恥ずかしそう。レイコは楽しんでくれてて、ルナは目を爛々と輝かせ、喜びを全身で表現してくれる。



 楽しい時間はすぐに過ぎ去り、帰宅。…シャルシャ大渓谷にある家だけど。



 ルナが起きてるからか、仕切りが出せた。さっさと男女に別れて汚れを落としてしまおう。あ、そうだ。



「ガロウ。シールさん。ちょっとだけ耳を貸してください」


 小声で四季に聞こえないように、滝つぼの底の金属の話を通しておく。指輪は四季に内緒で作りたいから…。俺のエゴだけど。



「了解。じゃあ、俺から姉ちゃんとかに伝えとく」

「シュウが取ってる間に、シキの気をそらせばいいんだね?任せてくれ。僕、そういう行動を見るのも好きなんだ」


 シールさんに伝えたのは間違いだったんじゃあ…。とりあえず、協力してくれるみたいだし、良しとした方が良いのか?



「上がりましたよー!」


 早いな。皆で昼食作成。実食。さ、滝つぼに降りよう。



「…どうやって降りるの?」

「触媒魔法を使って滝を…、あー」

「どうしたんだ?」

「「土の触媒魔法が使えない(ません)」」


 これじゃ安全に降りれる気がしない。マカドギョニロに撃っちゃったからなぁ…。



「…じゃあ?」

「二日待って」


 一日でもいけそうだけど、大事をとって二日間、ルナに言葉を教えつつ、勉強を教え、勉強する。







______


 さ、二日経ったし行こう…、ん?



「どうしたの、カレン?」


 しきりにあちこち見渡しているけれど?



「んー?何か呼ばれてる気がするー。でも、たぶん気のせー」


 気のせい? カレンが言うならそれでいいけど…。



「ひとまず、今日こそ、滝つぼに行きましょう」


 全員で外に出て、滝つぼを見据える。滝の水が落ちてくるところと、滝つぼから流出するところを結ぶようにイメージ。そして…、



「「『『水道橋』』」」


 その2点を直接触媒魔法でつないでしまう。これで物理的に滝の水は滝つぼに落ちず、直にチャルチャ川に合流するようになった。



「豪快だねぇ…」

「手っ取り早いでしょう?ですが、いつ消えるかわかりませんよ」

「それに、環境への影響も甚大そうです。急ぎますよ」


 水を弾く結界を、呪い対応魔法の上に展開。N同士の磁石が斥力によって逃げるように、水が俺らの周囲から逃げる。十分降りれるな。ガロウの『輸爪』で下へ。



「…お父さん。帰還魔法はわたし達に任せて」


 降りる最中、アイリが俺の耳元でささやき、ルナ以外の子供達全員が頷いた。ガロウが皆に話してくれたのか…。



 「やっとか」みたいな視線が痛いけど、ありがたくやらせてもらおう。



「四季、俺は左側を見るよ」

「では、私は右ですね。皆はお任せします」

「じゃー、ボクはルナを見とくよー」


 カレンがルナと一緒に遊び始めた。さり気なく俺に四季の視線が通らないようにしてくれてる。…他の子らも適度に散りながら視界を遮る位置だ。…ちょっと露骨すぎない? 気づかれる前に取ろう。



 確かこの辺に…、あ。あった。見間違いではなかった。この距離で見ると、さらに美しい金属だ。



 深い愛を湛えるような黒が、力強い銀の光沢を持って輝いている。



 四季に贈るに申し分ない。貰っていい…、えぇ…。



「…飛び込んできたね」

「だな」


 貰っていいか聞く前に飛び込んできた。「貰え」って感じで。



「もしかしてさ、この世界の石って生きてる?」

「…なわけない。とりあえず、目的は果たしたでしょ?みんなに伝えてくる」

「ああ、お願い」


 四季にバレないように、忘れないうちにこっそりカバンに突っ込んで…。これでよし。さ、次の目標、帰還魔法を探そう。







______


「習君、ありました?」

「なかった」


 結局なかった。まぁ、こんなところに作ってたら鬼畜でしかないからなぁ…。



「カレン?どうしたの?」

「んー?やっぱり呼ばれてるー?」

「誰からですか?」

「わかんないけどー、気のせいー?」


 さっきも似たようなこと言ってたな…。



「とりあえず上がろう」

「それでいいですか?」


 全員同意してくれた。なら、上がろう。2回も感じられたなら、おそらくカレンにだけわかる何かが原因で、きっと気のせいじゃない。



 カレンだけ…? まさか。いや、先に上がろう。話はそれからだ。



 上陸。さて、伝えるべきか否か。伝えた瞬間暴走する予感があるんだよなぁ…。



「どーしたのー?」


 目敏いね。四季と顔を見合わせてたらツッコまれてしまった。なら、伝えてしまおうか。



「エルフ領域で何かあったんじゃないの?」

「そう思いますよ。カレンちゃんはエルフ…、それもハイエルフでしたでしょう?」

「そーいえば、そーだね」


 !? 何で忘れてるの!?



「おとーさんとおかーさんの子供ってほーが大事だしー」


 この子らしい理由。嬉しくはあるけど…、ハイエルフってこと忘れちゃダメじゃない? 資料全然ないから、この世界での役目とかいまいち分からないけど…、それでも、ハイエルフだぞ?



「となると、ハイエルフらしいものが関係するのか?」

「そうでしょうね。ガロウ。エルフと言えば世界樹というイメージがありますが…」

「…だね。レイコ。エルフと言えば世界樹」

「それだー!」


 いきなり叫ぶと、いつものように弓に矢を番えて発射。



「ちょっ…!?待って!」

「ああ、ダメですね。聞こえてません。セン!お願いします!」

「ブルルッ!」


 センが馬車の前へ移動。すぐさま馬車の動く準備が整え、俺と四季で御者台に飛び乗る。



「「『『橋』』」」


 シャルシャ大渓谷から出るための橋をかける。



「走って!」

「馬車にしっかり掴まってくださいよ!」


 急ぐだけなら、これが一番早い!



 俺らの声に応え、馬車が急発進。坂を一気に駆けのぼりシャルシャ大渓谷底がどんどん遠くなる。



「見て」


 ルナが僅かに覚えた言葉を操りながら、服を引っ張ってくる。彼女の視線の先を見ると、丁度、触媒魔法が効力を失ったところ。



 水道橋は一瞬で元からなかったように消え、その上を流れていた水が、キラキラ光りを反射して輝きながら、わずかな間その形を保つと、端から徐々に崩れて水しぶきをあげ、元の形に、滝の形に戻ってゆく。



 落ちた滝の水はほんの瞬きする間、わずかにチャルチャ川の水位を押し上げ、元のように落ち着く。そして、表面上は何も変わらず、されど確かな変化を俺らにもたらされた不帰の(ヒュシャハ)滝は、1分もしない間に元のように白煙を吹き出し始めた。



「ねぇ、君らさ、このままエルフ領域に行く気かい?」

「おそらくそうなります」

「だって、カレンが俺らを無視してすっ飛んでいくなんて相当ですよ?」

「だよねぇ…」


 シールさんが考えていることは…、ナヒュグ様のことだろう。



「ルナ。一緒、来る?」

「行く。ずっと一緒」


 強い決意の籠った目で言い切るルナ。一番ナヒュグ様に会わせないといけない子だけど、これではこの子を置いていくことなど出来ない。そして、この顔は待ってる人がいるって言っても無駄だ。



「仕方ない。シャルシャ大渓谷を抜けたら降ろして。僕だけでも行ってくる」

「ありがたいですけど…、大丈夫ですか?」

「腐っても僕は群長で…、しかも獅子さ。一人でもなんとかなる」


 ルナに負けないくらいの決意を込めて、シールさんははっきり断言した。



「あ、でも、勇者の権力は使わせて」


 …カッコいいかと思ったけどそうでもなかった。



「ブルルッ!」

「もうじき森を抜けますよ!」

「そうかい、なら都合がいい。ここでお別れだ!」


 シールさんは荷台からサッと馬車の上へ飛び上がる。



「これからも二人仲良くイチャイチャすることを祈ってる!」


 なんて言い放つと飛び降りる。ちょっ…、



「御達者で!」


 別れを惜しんでくれているからか、ひどく切なげで、だけど、芯の通った俺らの無事を祈ってくれる台詞。…文句を言おうと思ったけれど、言う気なんてなくなった。



「「御達者で!」」


 俺らも同じ気持ちを込めて言い返す。それに子供たちも追従してくれる。御者台からは見えないけれど、彼はきっといい笑顔をしてくれているはず。



「御達者。何?」


 「御達者」は初出だったか。



「別れの挨拶」

「親しい人との別れを悲しみ、無事を祈る。そんな言葉ですよ」


 荷台からルナが俺らの説明と言葉を繰り返す声が聞こえる。



 一人減ったけれど、一人増えた馬車はエルフ領域目指してひた走る。この分だとすぐ着きそうだが…。『クアン連峰』に着くまでにカレンを捕まえなければ。

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