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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
192/306

172話 早朝の急襲

 今のドーン!って音は何だ!?いや、その前に…、



「無事!?」

「はい!」

「…ん!」

「無事ー!」

「生きてるぜ!」

(わたくし)もです」

「僕も!」

「ヒヒ―ン!」


 およそ返事が期待できるメンバーは全員無事。ルナは…。よかった。無事だね。まだぐっすりすやすや寝ている。あの爆音で起きないその胆力。少し羨ましい。



 外はまだ暗い。微妙に日が差し込んできているだけ。一応明け方ではあるか。…ん? 何だ? 窓に向かって何かが飛んできてる? …チッ、爆弾だっ!



「四季!」

「わかってます!」


 魔法は間に合わない。四季がベッドから皆を引きずり下ろし、俺がベッドを立て即席の盾に…、



 ドガーン! ドーン!



 する前に、猛烈な爆炎と音が窓を襲うのが見えた。だが、間一髪間に合った!



「衝撃に備えろ!」

「固まって!」


 皆集まって爆風を待つ。……………。



「来ないな」


 おかしい。あの状況なら言ってる最中に衝撃が来てもおかしくないのに。衝撃はおろか熱さえ伝わってこない。



 ベッドを戻して…、嘘だろ? 窓に傷一つないように見える。ここの窓はどう見ても芸術品で、防御力なんてあるはずもないのに!



 目をこすってみても見間違いではない。本当に傷一つない。ヒビは勿論、風で運ばれた砂がひっかいたような傷さえない。



「習君。この家、シャイツァー確定でいいですよね?」

「いいよ。…薄々わかってたけどさ」


 間違いなくシャイツァーだろう。まず、窓に傷すらないのがおかしい。そのうえ、一切衝撃がなかったというのも変だ。普通、あの爆炎であれば家は多少なりとも動揺する。



 そこに「ルナがシャルシャ大渓谷底でも今まで無事に生きてた」って事実を加えれば、もう否定しようがない。



「今、それはいいよ!どうするのさ!?」


 どうしようか、少なくともこの攻撃がルナを狙っているものだというのは確かだろうが…、



「あっ、また来たぜ!」


 …やっぱり来るよね。



「既に対応してくれてるな」

「偉いですよ。ガロウ君」


 褒められて尻尾を振るガロウ。壁と天井。その中でも特に弱そうな部分を既に『護爪』で防御してくれている。万が一、家の壁が抜かれてもこれで止められる。



 ドカン! ドカン!



 普通に家の壁で止まったな。さて、どうするべきか。



「引きこもりますか?これほど破壊力のありそうな爆弾。数は多くないと思いますが?」

「こんな辺鄙なところで狙ってくるぐらいだ。頭おかしいぐらい貯めているかもよ?」


 それに…、チラッとルナを見れば、四季は心得顔で頷いてくれた。



 この家の防御力が不安だ。



 ルナも危なくなってきたら教えてくれるだろうけれど…、「どの行動が危険の合図」なのか、それに危ないって言っても「どの程度」なのか。それがわからない。他の子達ならば言葉がある。が、ルナにはそれがない。



 最悪、手遅れの時に言われるかもしれない。そうなればお手上げ。



「出るしかないか」

「ですかね。防御を家に依存していますから、その負担は全部ルナが負ってくれているのでしょうし」

「…寝てるけどね」


 …うん。アイリの言うように寝てる。しかも、この期に及んでぐっすり。この子の魔力が尋常じゃないのか、それとも防御機構の仕事が優れているのか、はたまた別の要因があるのか…どれだ。



 今はいいか。外に出るなら断続的な攻撃を何とかしないといけない。ただ守るだけじゃ反撃できないから、家の周囲をぐるり囲んで守って、かつ、敵の位置を補足できる視界を保てる。そんな魔法が必要。



 透明度を優先するならガラスとか…ダイヤ? 駄目だな。両方衝撃に弱い。おとなしく触媒魔法を使おう。



 すっと俺の顔の横に四季が紙を差し出してくれた。心が通じ合っていると実にやりやすい。



「ありがとう」

「こちらこそ」


 書こう。字は何が良いかな。



「あ。ルナ起きたよー!」

「おはよう」


 ルナの方を向いて挨拶すれば、四季を筆頭に全員続いてくれた。何気ないところから覚えていくだろうから、こういう基本事項は放り込めるときに放り込んでおかないと。



 ルナがこっちに来た。そのまま俺の横に座って手元を凝視してくる。興味があるのかな? 邪魔されると困るけれど…、見てるだけっぽいし、いいよ。



 …いつでも止められるようにカレンが後ろについてくれているし。



 魔法は家の周囲…地中も含めて壁を作ろうか。壁の材質は…、ああ、うん。ガラスでいいか。どうせ触媒魔法にするし、何よりさっき理不尽な強度を誇るガラスを見たもの。それに、エコスフィアだかバイオスフィアだか、ガラスの中の生態系もある。展開が長期にわたっても、生きて行けるはず。



 さて、書こう。



 今の状況は、戦闘中のはずだが、家の防御のおかげで戦闘中でない気がする。そんな微妙な宙ぶらりん。



 そのせいか、急いだほうがいいような気分になったり、逆に、焦っちゃダメだと無理に落ち着こうという気分になったり。心持ちが安定しなくて書きにくい。



 紙の抵抗をうまくねじ伏せまとめ上げながら…、そんな気持ちも落ち着かせて安定させる。焦る必要も、落ち着こうとする必要もない。ただこの紙の抵抗を抑えつつ書けばいい…。よし。書けた。



 『硬質ガラス球』


 ツッコミどころ満載だが…、気にした瞬間負けだ。使えなくなる。さて、出よう。



「とうたま。かあたま」


 ぐえっ。服をがっしり掴まれたからか襟が首にちょっと食い込んだ。外に行って欲しくないのか?



「「どうしたの(ました)?」」


 俺と四季の言葉が被った。言葉はわからないはずだけど、要求されていることは察しているのか、口をもごもご動かしている。



 言葉にしようとしてくれているみたいだけど…、肝心の言葉を知らない。だから伝えられない。もどかしくて苦しい。今の状況はそれかな?



 英語の授業中に「英語だけで喋ってみよう!」って言われて知らない単語祭りだった時こんな感じだった。今のルナは英語──俺らにとっての第二言語──どころか母国語すら壊滅している。その時の俺の比ではないくらい苦しいはず。



 だんだん泣きそうになって、掴まれた服の皺が深くなっていく。伝えられなくて苦しい。けれども俺らに外に出て欲しくない。その姿勢は間違いなく本物。



「わかった。ここにいるよ」

「それでいいですか?」


 ルナの横に座って頭を撫でる。泣きそうな顔で俺らを見ていたルナは、俺らが完全に外に出る気をなくしたということを理解したのか、パッと花が咲いたように笑った。



 思わず見とれてしまいそうになるほどのあどけない笑顔。二人でそのまま撫でていると嬉しそうに身をよじった。



「緊張感がないね…」

「やっている本人もそう思いますけど…」

「他に私達に手段なんてないですよね?」

「まぁ、そうだね」


 ルナに出て欲しくないって請われ、その要求を呑んだ。だったら、この子を信じる。少なくとも状況が変わるまで動くことはない。



 …外の爆発音を聞いていたら言いたくなる…ってのはわかる。逆の立場なら絶対言う。



「…ねぇ、家、傾いてない?」

「え?」

「そんなことはないと思いますけど…」


 いきなりなんてことを言ってるんだ? 俺の感覚は家が水平だと訴えてきている。…ビー玉を置けば転がるくらいの傾斜はあるかもしれないけど。水平だ。でも、アイリが嘘を言うとは思えない。



 窓の外に視線を…、目がおかしくなった? それとも脳の視覚情報処理するところがバクった? …そんなことないな。となると現実だな。



「アイリちゃん!?既に手遅れじゃない!?

「…そうだね」

「ちょっ…、アイリちゃんの反応薄くない!?シュウ!?シキ!?」


 窓枠と地面がだいたい45°の角度をなしていて、既に手遅れ。



「無反応…だと!?それはそうと、何でもっと早く言ってくれないの!?」


 シールさんのテンションが一人だけ妙に高い。



「…ついさっき気づいた」

「「なら、仕方ない(ですね)」」


 そういうこともあるさ。



「ちょおおぉ!?」

「…あ、わたしの反応が薄いのはお父さんとお母さんがいるからだよ」

「今、その説明いる!?」


 不要でしょうね。…アイリ本人は可愛らしくこてっと首を傾げているから、本人からすれば必要なんだろうけど。



「シュウ!?シキ!?打つ手は!?」

「あれ?さっき手遅れって言いませんでした?」

「ファー!」


 壊れた。…あぁ。なるほど。さっき言ったのは心の中だったな。



「え、待って。父ちゃん。母ちゃん。本当に打つ手ないのか!?」

「沈むのはどうしようもない」

「大丈夫です。死ぬときは一緒です」

「キリッとかっこよく二人で断言されても困るぞ!?てか、何が大丈夫なんだ!?」


 実に正しい反応だ。ここで「なら安心できる!」って言われても困る。そういう反応をするのはアイリとカレンとレイコだけでいい。………あれ? うちの子たちって4人だよな。3/4ってどうなんだ。センも入れると5人だけど…。比率おかしくないか? …ま、アイリが重傷過ぎるだけだし、たぶん問題ない。



「さっきのは冗談ですよ。死ぬ気なんてありません」

「ああ。生きて帰るさ」

「…まだ結婚してないもんね」


 アイリ!? 確かにそうだけど…それが理由じゃないからね!? 他に理由が…、他に理由が…、あれ? ない? ただ死にたくないだけ。それを除いてしまえばトップに来るのはアイリの言った通りのこと、もしくはそれに類することのような…。



「漫談はいいけどそろそろ限界だよ!?」


 いよいよ角度が酷くなってきた。家の地盤の滝側だけガリガリ削られているのだろう。家が建つ土台全部をまんべんなく削るような間抜けだったら御しやすかったんだが。



「で、どうするのさ!?」

「滝に落ちてからしばらくしたら上がります。その時には油断しているか、」

「ルナが死んだかを確認しようと準備している。そのはずですから」


 その隙を突く。



「滝つぼに落ちてからしばらくの間の防御は!?」

「この家任せですね」

「!?」


 そこまで驚いたような顔をしなくても…。



「大丈夫ですよ。シールさん。ルナ任せですけれども…」

「シャイツァーは言葉がなくとも十全にその使い方を教えてくれますから」


 シャイツァーの持ち主であるルナが大丈夫と判断した。ならば信じるだけだ。ダメだったら俺らが補えばいいだけのこと。



「実に君ららしい…。結果は神のみぞ知るってやつかい」

「あの」


 ん? どうしたの、レイコ? 指と指を合わせてぐりぐり。何か言いたいことがあるけど言いにくい。そんな顔。



「どうしたんだい?レイコちゃん」

「既に落水しておりますが…」

「え?」


 シールさんが間抜けな声を出した。



 窓の外を見てみると、水が複雑に渦を巻き、紛れ込んだ岩や流木が破砕される。そんな光景が展開されている。レイコの言う通り本当に既に落ちてた。



「うそん!?」


 外を見る限りこの家は滅茶苦茶にシェイクされている。上下左右の運動は勿論のこと、回転や振動、ピンボールみたいにあちこち激突…と様々。なのに、こちらには一切影響なし。俺らは勿論、停めたままの馬車すら微動だにしていない。三半規管がどうとかいう問題じゃない。



 この家が動けば乗り物酔いとは無縁になれそう。…何とかして馬車の中に詰め込んでみようか。



「ルナ。めっちゃうれしそうだな…」

「シキの膝の上のって、頭をシュウに擦り付けてるもんね…」


 不安そうな二人。ルナの魔力消費が心配なのだろう。普通に考えて尋常じゃない量を使うはずだから。



 でも、平気そうな顔してるし問題ない…よね。外に俺らが出なかった嬉しさでその辺忘却されてるとか笑えないからね?



「…ガロウ。家、持ち上げられそう?」

「え?ちょっと待ってね。姉ちゃん」


 ガロウが家の外に『輸爪』を展開。上から降ってきた岩に砕かれた。



 再度展開。今度は水が運悪く固まっていたらしくそれに直撃、粉砕された。…近くに沈む艶やかな黒鉄はびくともしていないが…それがまた哀愁を誘う。



 ガロウは次に『護爪』を展開。すぐさま砕け散りはしていないけれど…、バランスが取れてない。水流に流れ流されその場にとどまることができていない。



「うん。ごめん!制御する自信がない!」


 そっか…、じゃあ仕方ないね。



「気にしなくていい。まだやれることはある」

「出来ると思っていて出来ない。これが一番困りますからね。まだ十分に修正が効く段階で言ってくれる方がありがたいです」

「だから気に病む気はないよ。…ぶっちゃけここに落ちたのも流れだし」


 ルナに止められて出なかったからこうなった。あの弾幕のなか飛び出すのとどっちがマシかを考えると…収支はトントンかこっちのがマシってレベルか?



 触媒魔法はどっちであれ使わないといけなかっただろうし。



「…そろそろ上がってもよくない?」

「だね。」


 爆音もしなくなったし。家に攻撃が効かないから、思いっきりやる。足りないというのが一番後に差し支える。家の真下を盛大に触媒魔法で爆破。その勢いで上がる。



 『爆発』は既に書き上げているから新たに用意する必要もない。少しばかり頭の中で指向性を持たせてやればいい。



 戸は…、開けても大丈夫そう。ルナは相変わらず俺らの服を掴んでいるけれど、取っ手に手をかけても反応しない。ドアを僅かに開けてみる。



 よし、水は入ってこない。水面を見ても、耳で聞いても、爆発は小休止していると判断していい。上がっていいだろう。



「上がるよ!」

「対ショック体制取ってくださいよ!」


 開いたドアの隙間から紙を投げ捨てる。四季と手を繋いで、家を上へ吹き飛ばすようにイメージ。



「「『『爆発』』」」


 言葉とともに先とは桁の違う爆音が辺りに響く。だが、家は一切揺れず。されども窓の外の風景は確かに変わる。



 窓の外が映す風景が水中、水面、渓谷と目まぐるしく変わり、最後は土に。…うん。やりすぎた。崖にめり込んだ。



 まぁいいか。皆は無事か…? 無事っぽい。でも四季が辛そう。



「大丈夫?」

「え?習君こそ、大丈夫ですか?」


 あれ? 俺も? でも、そういう四季の方が…。



「…二人とも汗と疲れが酷いよ?」


 それは変だ。今の魔法はたいして魔力を使わなかったはずなんだけど。



「あれ?魔法使った記憶もないのに、僕の魔力が3割ぐらい減ってるよ!?」

「…わたしも少し」

「ボクもー」

(わたくし)もです」

「俺もだ!あ、自分で消費した魔力は抜いてるぜ」


 全員魔力使ってる? となると…、



「このシャイツァー、たぶん家にいる人の魔力吸って防御してるな」

「間違いなさそうですね」


 滝つぼの水流だけでもヤバいのに、触媒魔法の爆発と激突まで重なった。だから目に見えてゴリっと削られたんだろう。…となると、この家についてから呪い防御のためにじわじわ削られていたはずだが…、微々たるものだから気づかなかったのか。



 家の中にいる人から同意なしでパクっていくのはどうかと思うけれど、魔力量の多い人を優先して魔力を貰っていくようだ。そのせいで俺らの負担がでかい。



 …子供達がしんどい思いをするくらいなら俺らから貰ってくれる方が良いけれど。



「って、さっさと出ようよ!」

「ですね。出ましょう」

「ルナは…私達についてくるようですよ」


 ならそれでいい…かな。家に籠っていて欲しい気持ちもあるが…。的がでかいうえに、全員が籠ってる時より明らかに強度の落ちる家にいられるよりは精神的にはいい。



 戸を開け…、たら壁。なるほど、扉側が崖にめり込んでいたのか。これじゃ出れない。窓から出よう。



 何も言わずに窓の横へ。



「さ、行くよ」

「締まらないねぇ…」


 気にしたら負けです。『身体強化』して、窓からルナを抱えて飛び降り、着地。レイコ以外各々の方法で飛んで、レイコだけガロウに『輸爪』で運ばれた。



 レイコは飛び降りるのにちょうどいい魔法がないからね…。



 今の場面、ガロウがお姫様抱っこでもして飛び降りればかっこよかったのに、と思わないでもないけれど。



「…お父さんもガロウのこと言えなくない?」

「ルナがいたから無理」


 二人一緒に! とかは絶対嫌。アイリとカレンなら辛うじて出来なくもない。…抱っこというか肩にしがみついてもらう形になるけど。四季とルナは身長が高すぎて危ない。



「習君、アイリちゃん、行きますよ」

「だね。怪しいのは滝の裏だよね?」

「はい。誰も出てきて来ませんし…、あそこが怪しいでしょう」


 だね。滝の裏に洞窟でもあるんだろう。出てこないのは、滝の音が五月蠅くてさきの爆音が聞こえてないからか?



「あ。周囲に散らばっている泥、片付けながら行くよ」

「ん?何でさ?」

「「いつものです」」


 いつもの黒と白が混じった汚い色。すなわちチヌカの気配がひしひしと泥から漂っていている。それに、よく神経を研ぎ澄ませてみると滝の裏からも。



 ただ、たぶんラーヴェ神だろうけど、彼女の神気的なものが強すぎて探りにくい…。



「了解。納得したよ」

「遠くは(わたくし)とお父様、お母様とセンで片付けます。シール様は近くをお願いいたします」

「おうとも!というか僕、近くしか攻撃できないからね!」


 わかってます。だからレイコもそれを踏まえてそう言ったんでしょう。



「…手の打ちようのないわたし達よりはマシだよね」

「だよなぁ…。中距離にある泥をシール様に押し付けるくらいしかやることないもんな」

「暇ー!」

「いや、張り切りすぎ!量多いよ!?歩く速度に処理がッ、処理がッ、追いつかない!?」


 だらしない…とは言えませんね。ルナとレイコ以外の皆が皆、浄化で見せ場はないけれど、集めて見せ場…、要は役に立とうとやる気全開で頑張ってるから。



 どんどん泥が集められていく。うわ。アイリ。滝裏の壁面にへばりついたやつをこそぎ落としてきた。あの位置はどう考えても|俺や四季、レイコの担当《遠距離》だと思うんだけどなぁ…。その位置を狙える誘導弾なんてないからありがたいんだけど。



 …心なしかアイリが引っぺがしてきた泥の色が本来の茶系になっている気がする。まさか、泥がアイリのやる気にドン引きしている…とでも言うのだろうか?



 滝つぼ一帯を悉く浄化しながら、流れ落ちる水の裏へ回り込む。やっぱり洞窟があった。



 四季と目を合わせ、視線を子供達…そしてシールさんへ。ルナ以外全員覚悟は出来てる。ルナを俺と四季の間のちょっと後ろに隠し、魔法で明かりを灯しながら突き進む。



 ここも泥ばかり。滝の裏という立地を考えれば変ではないのだろうが…、どれもこれもいつもの泥の色ではない、白と黒の混じった色が入っていて、鬱陶しい。



 …誰かいる。手で合図して皆を止める。ルナは…四季が抱っこしてくれた。ありがとう。ルナには悪いけど暴れられると困るから…。ごめんね。二人は守るから。それで許して。



 舌打ちしながら釜をひっくり返し、泥を吐き出させ、再度釜に別の泥を詰める…そんな作業をしている誰か。



 ん? 釜から出てきた泥の色は…、いつもの色か。つまり敵。やろう。



 触媒魔法は自重すべきか? …いや、使おう。自分の底がわからないが、触媒魔法にするつもりで紙を作ったり、触媒魔法を使うときにダメ押しで込めたり、諸々で少し魔力が減りすぎている。…普通の人と比べるとかなり余裕なんだろうが。



 『ロックランス』使おう。これならこの洞窟がより深くなるだけで済む…はず。四季と手を…!? こっち向いた!?



 こっちの方が、始動早いんだから何とかなるだろ! 手を繋いで一撃を…、



「マ゛ダオ゛マ゛エ゛ラガア゛ァァァァァ!ユ ル サ ナ イ!」


 嘘だろ!? こっちよりも攻撃の出だしが早い!? 構うか、諸共吹き飛ばす。



「「『『ロックランス』』」」


 紙が消え、代わりに白銀に輝く巨大な槍が出現。槍は俺らの視界を完全に覆いつくし、高速回転し飛んでゆく。



 ワンテンポ遅れ「ギャリッ!」と泥と岩が衝突したとは思えない音が響く。…これでは足りなさそう? 既に作っていた紙だからか、泥の量が多いのか、それとも両方か。



 原因は定かではないが、出力不足。既に槍の端っこが削られ…、そこから泥が溢れてくる!



「全部潰して!」


 掛け声に従って、攻撃が飛ぶ。鎌と矢と爪が泥の飛沫を叩き落し、シールさんの拳とセンの光球が浄化し。レイコと俺と四季の炎が泥を焼き尽くす。



 …チッ、やっぱり出力不足。いつもなら既に『ロックランス』は走り抜けているはずなのに、今だに残っている。その上走破距離はまだたった7 m。彼我の距離はたった10 mほどだったはずだが…、泥の量がふざけているのか?



「チイッ!」


 槍の向こうからそんな声が聞こえると、一瞬槍が停滞。そして、猛烈な勢いで洞窟を掘り進み、消えた。



「マタカ!また…、マタお前らは、このマカドギョニロの邪魔をするのか!」


 土煙の中から吐き捨てるように言いながら出てきた敵。俺らはこいつが誰か知らないが…。この茶色いよぼよぼの爺さんみたいなやつは俺らを知っているようだ。

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