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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
187/306

167話 クワァルツと渓谷

最初三人称です。



 皇帝の茶屋(ユルディアン)。クワァルツに存在する最高級宿の最上階の一室で、二人の男女が窓からジッと、彼らの主君であるリャアンが馬とともに駆けて行ったシャルシャ大渓谷を色気も何もなくただひたすらに見つめている。



「ねぇ、ワァンク。結局、わたくし達が選んだ方法は正しかったのかしら?」

「私には分かりかねます。ニーフィカ皇后陛下」


 ワァンクは殊更に尋ねてきたニーフィカに、これ以上なく皇后を強調しながら答えた。



「勇者様の世界の言葉で言う『賽は投げられた』そう言う状況ということかしら?」

「さぁ、どうでしょう?」

「何故?」


 ニーフィカが外を見たまま尋ねる。



「我々がどうしようと、勝手にサイコロは転がったと思いませんか?他ならぬリャアン様の手によって」


 ニーフィカはその言葉を頭の中で反芻したのち、深く頷いた。



「納得していらっしゃるところ申し訳ないのですが。」

「あら、どうかしたの?」


 互いに顔すら見ずに隣り合ったまま声だけ投げ合う。



「このお話何回目でした?」

「少し待って下さいませ。いち、に。さん。し。ご。ろく……」


 7本目の指を折った時、ニーフィカはワァンクを見た。



「手の指では足りませんわ」

「では、足を入れれば足りますか?」

「…無理ですわね。尻尾を入れれば何とかなるかしら?」


 ニーフィカの尻尾は一本だ。たかが一増えたところで数えきれるはずもない。既にこの話題が42回目であることを把握しているワァンクはため息とともに言う。



「不安なのはわかりますが、しつこくないですか?」


 いくら執事であっても、同じ話ばかりされるのはキツイ。しかも辛気臭い話だ。そんな思いを込めた言葉は実を結んだ。



「なら、話題を振ってちょうだい。どうしてもそっちに思考が引っ張られてしまうのよ。あぁ、これ皇帝勅令でいいわ」

「そんな斬新な勅令初めて聞きましたよ…」


 辟易した顔をしつつも話題を考え…、パッと思いかんだ話題を口に出した。



「この国はどうなると思います?」

「お言葉だけどね。ワァンク」


 ジトッとしたニーフィカの目がワァンクに突き刺さる。



「何ですか?」

「その話題も21じゃきかないわ」


 ですよねー。と言いながらぐたり窓辺に寄りかかるワァンク。



「結局、私もあなたも似た者同士。国が心配でどうしようもないのですね…」

「あら、わたくしと貴方が似ていると?不敬ですわよ?」


 明らかに冗談とわかる声色と、態度でニーフィカが言い放った。



「へーきですよ。だって、大絶賛、勇者様に不敬やらかした後ですからね!」

「せっかく気が逸れそうな話題に持って行けそうでしたのに踏みにじってしまうの!?」

「ハッハ。しつこいと言ったのは私ですが…、ええ。やはり気になりますからね」


 先ほどから言っている二人がやらかしたこと。それは「リャアン様を焚きつけ、習達のところへ行かせた」こと。言葉にすればそれだけだ。



 だが、これは同時にリャアンが勇者…、すなわち習達の逆鱗を踏み抜いて処分されることを願う気持ちがかなり入っている。だからこそ、習達に対して不敬をやらかした。と言っているのだ。本来なら自分たちの手で為すべきリャアン殺害を押し付けたのだから。



 とは言え、そんな彼らの想いを知りうるのは彼らだけである。



 張本人であるリャアンは二人を疑うことなどしない。また、習達は習達でこんな策謀の結果であるなんて知るべくもない。彼らが思うのは、「ああ。やっぱりリャアン様が(死にに)来たなー」である。



 その上、もし習達が策謀の結果であったと知ったとしても「渓谷のそばで無意味に野宿せずに済んでよかった」と言ってのけるのは間違いないというおまけつき。あの程度の緩い警告という、(二人にとっては)かなり杜撰なもので。いつまでも不確定要素としてあるよりすっぱり断ち切れた方が確実だからだ。



 要するに二人は特大に無駄な心配をしているのだ。あの程度の短い絡みで二人の人格を完全に推し量ることは不可能であるから、仕方ないと言えば仕方ないが。(出会ったばかりの習と四季は除く)



 なお、この窓辺の主従の心配は勇者様に迷惑をかけた。ただこの一点である。主君であるリャアン様への心配は一切無い。



 何故なら、リャアン様が生き残るなどとは考えていないから。その理由は勇者の方が強いと信じている…、というのもある。が、ただ単に、生き残った後の七面倒くさい場面を考えたくない! というアレな理由がないこともない。というか実のところこちらが主である。考えろ。主従。



「あら。光線が…」

「シャルシャ大渓谷からですかね?」


 二人の目線の先で光線が空気を切り裂き空へ飛んでゆく。ワァンクの推測正しく、光線の出所はシャルシャ大渓谷であり…、その光線は習達の触媒魔法『瘴気吸変焼却砲』である。



「威力えげつなさそうですねぇ…」

「ですわね。出所はかなり遠いはずですのに、これほどまで見えますものね…」


 見間違いと判断できるはずもないほどに、はっきり光線は見える。主従の額を冷たい汗がツーっと流れ落ちる。



 内心で「とんでもないことやらかしたのでは?」と思いつつも、表面上は極めて冷静に光線を小さくなることを祈りつつ眺める二人。



 そんな二人の目の前で「お前らの期待なんて知るかぁ!」と言わんばかりに微妙に、だが確かに太くなっていく光線。



 汗の量が増え、「これ以上大きくならないで!」と悲鳴を挙げそうになった時、光線が急に細くなった。



「「ホッ…」」


 揃ってため息をつく二人。実際には一切何も解決していないのだが。そこまで予期しろと言うのは酷だ。



 そして、二人が顔を見合わせた瞬間、城壁と城からパキンと何かが割れる甲高い音が鳴った。



「ニーフィカ様!」

「ええ!殺ってくださいましたわ!」


 嬉しそうに城の見える窓へ駆け寄り、パラパラと黒いモノが剥がれ落ちてゆく城を見て涙を流す。



「あぁ…。ついに。呪縛から解き放たれますわね…」

「ニーフィカ様のおっしゃる通りですね。まるで城も城壁も、感涙にむせび泣いているようではありませんか!」


 剥がれ落ちる黒は長年の汚れのよう。一枚、また一枚と剥がれ落ち、キラキラと光をまき散らしながら消えるたび、城が、城壁が、街が喜びに震えている気さえする。



「…?」

「どうされました?」


 はたり涙を止めたニーフィカに問うワァンク。



「物理的に街が震えていないかしら?」

「気のせい…ではないですね」


 元々いた窓へ駆け寄る二人。



「…光線、大きくなっていますわね」

「ですね。それに確かに揺れています」


 ツーっと目線を下に下ろすと二人の耳に聞こうとしていなくても聞こえてくるさまざまな群衆の声。



「何だあれ!?」

「世界の終わりダァ!」

「踊れや踊れ!あらさっさ!」

「おい、見ろ!城も、城壁も、剥がれ落ちてる!」

「一体何が起きてるんだ!?」

「わからん!祈れ!ラーヴェ様、シュファラト様、勇者様!お助けを!」


 城と光線を見て、何が起きているのかわからずパニックに陥る群衆もいれば、



「頭が…あら?私…、ひょっとしてリャアン様と寝た?」

「あれ?俺って結婚してたはず…。嫁は?俺の嫁はどこに行った?」

「変ね。私のかわいい息子と娘がいない!?どうして?」


 大切な何かを失ったことに気づいた者達は一時茫然自失したが、すぐさま我に返り怒りのまま元凶たるリャアンのいるであろう城へ列をなす。



「隊長!俺はどうすればいいですか!」

「知 る か!こっちが聞きたいわボケッ!」


 騎士たちはその対応に右往左往。言っちゃいけないことまで言う隊長さえいて、余計に群衆のパニックを加速させる。



「民が押し寄せてきています!どうします!?」

「皇后様、もしくはワァンク様はいらっしゃるか!?」

「いません!」

「じゃあ、ポンコツ(リャアン)は?」

「いない方がマシで、いません!ヒャッハー!」

「俺らが何しようと越権行為になるじゃねぇか!?詰んだ!」


 城の中は城の中で最高権力者が不在で、動きたくても動けず、機能停止。丸投げするリャアンではあったが「許可を出す」という部分だけは守った結果である。



 今、この街は脳死かつ、心停止。そんな状況である。



 ワァンクとニーフィカの二人はそんな惨状を前にそっと窓を閉めた。



「ニーフィカ様。リャアン様のシャイツァーである『エカーウィレン』、その効果って何でした?」

「エカーウィレン?火球発射と、覗きと領域支配ですわ」

「火球発射と、覗きは今関係ないですね。除いてください」


 覗きは天から覗くだけ。火球発射は火球を出すだけ。どう考えても関係ないからこそのワァンクの言葉。



「構いませんが…。何故?ワァンク。貴方もリャアンがペラペラしゃべっていた時にいたわよね?」

「いましたが…、確認したいからです」


 言いながらチラリ視線を外の喧騒にやるワァンク。それをみてニーフィカも頷き口を開く。



「領域支配は領域内の人物に対する干渉と言っていましたわね。外円部は国境でもある黒線。中央が城壁。最奥部が城でしたわね」

「その効果は?」

「全て認識阻害だったはずですわ。ただ…、内側へ行くほど効果は高まるとも言っていましたわね」


 揃って二人の目が城を向く。目線の先の城からは相変わらず黒いモノがペリぺリ剥がれ消えてゆく。



「外円部は思考能力低下で…、城壁がリャアン様にまつわることの色々への疑念排除と軽い服従。城がリャアン様への絶対的服従とか言っていましたわね。しかも、一度内側の領域に入ってしまうと、外に出てもその効果は継続したはずですわ」

「ですよねぇ」


 二人揃ってがくり膝をつく。



「これを聞いたとき、わたくし確か「まぁ、統治しやすくて結構ですわ!」って言いましたわね」

「どう考えても統治(笑)ですねぇ!」


 城の中は完全にリャアンの手の内に。城門の内側でもリャアンの意に背くことはしない。そんなリャアンの言いなりになる住民だけの街。



「そりゃあ、こうなりますわよ…」


 死んだ魚のような目で二人外を見る。今の外の状況は文字通り魔法が解けた結果だ。リャアン様が好き勝手やった結果のツケが噴出した。街が震える原因の大半はその怒りにある。一部、混乱する住人の仕業でもあるが。



 とりあえず二人の汗の量が増えた。



「あぁ、光線が、光線が…、ますます太くなっていく!」

「怒りじゃー!神の怒りじゃー!」


 ギョッとして窓を見る二人。ついには寒くもないのに二人の体が震えだす。



「神ではないことは確かですが…」

「わたくし達、とんでもない方々を怒らせたかもしれませんわね…」


 先ほどと同じく死んだ魚の目でこんなことを言っているうちに、



「ああ、城が、城が!」

「城壁もやべーぞ!?」


 城と城壁が壊滅的な見た目になった。赤に黄色、桃に小金にその他諸々…、実に目に悪い。原因は「どうせ黒くなるから」と色合いを調整せずに建築したからだ。外装()が外れればこうなる。



「おい!光線が消えるぞ!」

「一体何が始まるんだ…?」


 外の群衆の目の前で薄くなってゆく光線。それはそのままスッと消えた。



「一体何が始まるんだ!?」

「祭りだ」

「黙れ」

「うるせぇ」

「一人でやってろ!」

「そんなー」


 不安が場を和ませようとした人への怒りに転化する。壮大な鬼ごっこが始まり、周囲がますます混沌とする。



「いざ城へ!我らの怒りを叩きつけよ!」

「「「応!」」」


 革命勢力、そう呼称しても問題ない程、現体制への怒りを抱えた集団が武器を持ち、



「世界の終わりが始まるのだ!」

「助かりたくば祈れ!」

「「「我らに救いあれ!あれ!」」」


 シュファラトとラーヴェを讃え、道端でやみくもに祈りだす集団。混乱が混乱を招き、さらに混乱。街の中は完全に大恐慌状態に陥った。



「まずいですわ。戻りますわよ!」

「ええ!」


 宿の窓を開け放ち城へ走り出す。



「戻りながら対策を考えましょう。どうしますか?」

「まず、あれは勇者様の攻撃だと説明して…、わたくしたちがやったことも言いましょう。そして、民に土下座します」


 「光線は勇者様が為したことで、しかも怒り買うようなことしちゃった!テヘッ♡」なんて言えば余計に酷くなりそうであるが…、皇后が民に頭を垂れ、勇者へ命をかけて許しを請えば混乱は収まる。



 皇后の助命嘆願の方向で。この国の政治を司る人々は割と国民に人気がある。リャアンは除く。アレは別だ。



 だが、それで納得するのは光線で混乱している民のみ。



「暴徒は…、賠償や捜索の保証の上、土下座。これでよろしいですかね?」

「それしか打つ手がないとも言いますわ。リャアン本人が既に亡き者になり、もう一度殺すなど不可能ですから」


 二人が知る由もないが、そもそもリャアンは塵すら残ってない。



「最悪、肖像画を民の前で燃やしますわ。民に剣で刺してもらっても構いませんわ。リャアンは死んだ。それを知らしめるのです」


 これで半ば暴徒と化した民も納得する。…たぶん。



「お金、いくらかかりますかね?」


 死んだ目で言うワァンク。



「賠償や捜索にですわよね?考えるだけ無駄ですわ。あぁ。しかも城と城壁も改修しないわけには参りませんわね。この見た目は…、ないも同然ですが、国の威信に関わりますわ」

「何よりボロが出ていて防衛に難がありますよ」


 結論。さらに金が飛ぶことが確定。



「早急に、ナヒュグ皇帝陛下に土下座いたしませんと…。確実にお金が足りませんわ!」

「忙しくなりそうですから人員来てくれたりしませんかね?」

「何言ってますの?無理に決まっていますわ」

「ですよねー」


 そもそもの話、この二人はナヒュグのところが人員不足であるからこそ、リャアン暗殺後に降伏しようとしたのだ。あそこは妹…、最後の公称皇帝探しに忙しい。故にこそ統治は確実にリャアンを除く、クワァルツの統治機構が担うことになる。そんな考えで。



 そんなところに、「人貸してくーださい」なんて言えない。言っても「は?無理。仕事頑張れ!頑張らないと積み重なって死ぬよ?」と返されるだけ。…内乱がここまで続いている原因は最後の一人を今だに探しているからでもあるのだが。



「とにかく、急ぎましょう!帰れば忙しくなりますわよ!」

「やることの大半が土下座ですがね」

「優れた為政者は必要な時に必要な方に頭を下げるのですわ!民や、ナヒュグ陛下は勿論、勇者様にも下げますわ!」


 全ての議題──勇者に対する彼らを利用した謝罪。民への勇者に手を出した謝罪とリャアンがやったことの謝罪。ナヒュグに対する降伏とお金の無心──を土下座で解決しようとしている皇后陛下は、習達への怯えをにじませつつ、やけくそと称するのがぴったりの表情で言い切った。







_____


 さて、リャアン様は倒した。塵すら残っていないだろう。だが、もう昼を回った。今から入ってもすぐに這いずり出す必要がある。よって野宿。



 ぐっすり眠ったあくる朝、色々準備して、馬車に乗り込みいざ出発。



「セン。走るのが好きなのは知ってるけど…、悪いけどゆっくりお願い」

「見逃しがあると困りますから…」

「ブルルッ!」


 わかった! と言ってくれたのかな?ありがとう。セン。



「ブルルッ、ブルルルン、ブルルゥ」


 「瘴気の流れもまだ収まってない」…かな? ん?



「「え?」」

「おとーさん。おかーさん」

「「何 (ですか)?」」

「やりすぎたねー」


 カレンのジト目が突き刺さる。うん。やりすぎた。



「ごめんセン。今よりも落として。というか歩くよ」

「ブルルン」


 少し悲しそうにわかったとばかりに鳴いた。本当にごめんよ。



 馬車から降りて歩きながら怪しい場所を探す。谷底で昼食を食べて、捜索しながら歩いて、夜になる前にキリのいいところでガロウの『輸爪』で谷から馬車と脱出。ちょっと離れた安全なところで野宿。それを繰り返すこと3日。



 瘴気の流れが少しマシになってきたから、馬車に乗って競歩ぐらいの速度で同じルーティンを繰り返すこと2日。リャアン様との戦闘跡が完全に消滅。やっとあの時と同じところまで来た。



 ここから走る速度ぐらいにまで加速し、渓谷底を走るチャルチャ川に沿って進むこと3日。



「やっぱり何もない」

「ですね。私達が吹き飛ばした…というのもなさそうですしね」

「瘴気流でつぶれたかもしれねぇけどな!いっツェ!?」


 振り返ると、ガロウは既にレイコとアイリに頭をはたかれていた。それは言っちゃダメだよ。うん。完全に俺らが悪いけど…。アイリとレイコは俺らの気持ちを汲んでくれたんだろう。



「事実でも言ってはいけないことがあるでしょう、ガロウ!?」

「…ん。お父さんとお母さんが気づいてなかったかもしれないのに…」


 腕を組みながら説教をする二人。気持ちを汲んでくれたと思ったけどそんなことはなかった。二人の言葉でこっちはトドメ刺された。



「…お父さんもだけど、お母さんは特に天然なんだよ?」


 天然って…。それ、アイリが言う事じゃないよ?アイリも四季に負けず劣らずの天然だよね?



「習君。私、普通にアイリちゃんの言ってた可能性に気づいていたのですけど…」


 うん。知ってる。とりあえず頭をポンポン撫でて慰める。相変わらず美しい髪だ。



「もうすぐ不帰の滝と名高いヒュシャハ滝なんだけど…、緊張感ないねえ」

「変に緊張しすぎるよりはいいでしょう?シールさん」

「まぁ、違いないけどさ」


 変に緊張してしまうと、普段ならしないミスをする。だから、ある程度お気楽な方が良い。



「…そろそろ上がる?」


 アイリが聞いてくる。時刻は…そろそろ昼の3時くらいか。上がってすぐに安全地帯があるとも限らないし、用心するに越したことはないか。



「そうしようか」

「ですね。ちょうど、あのあたりでガッツリ折れ曲がってますし、あそこまで確認しましょう」


 四季の指さす先には、渓谷が狭くなったうえに急激に折れ、しかもここから見る限り半分以上、チャルチャ川に渓谷底が占められている部分がある。



 実に特徴的な地形。目印にちょうどいい。



「だね。あのあたりがよさそう。そこまでいこう。それでいい?」


 コクリ頷く皆。じゃあ、あそこまで行こう。馬車の車輪がからころ回り、ゆっくり進む。視線を谷底に彷徨わせながら、件の折れ曲がった部分に到達。



「ブルルッ!?」

「霧ー!?」


 センとカレンが同時に霧を警告。だが、俺らが何かをする前に霧は馬車を包み込む。



 この霧…、ただの霧じゃない!? 馬車の中のはずなのにみんなの気配がしない!?



 あ。まずい。意識が…。薄れゆく意識の中手を伸ばす。だが、その手は何もつかめなかった。

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