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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
18/306

18話 リブヒッチシカ

「ヒヒ!何とか間に合ったのネ!」



 ああ、そっか。アイリには「俺たちがアイリの本当の目の色が赤だと知っている。」ということを伝えていなかった。あの声色になったのはそのせいだ。



「アイリ。俺たちはお前の目が赤いことを知っていたよ。黙っててごめん」


 アイリの目を見てそう伝えると、アイリは確かめるように四季を見る。四季は間髪入れずに頷く。



「お前達がこれをやったのかネ?」


 アイリは何かを気にしつつも、こちらのほうが気になるのか、



「…なんで黙っていたの?」


 と聞いてきた。



「いつか話してくれるのを待ってた」

「アイリちゃんが言いたくなさそうでしたからね…。無理に聞くのもどうかと思って…」


 答えながら四季は今まで幸いなことに出番の全くなかった『回復』の紙を使う。これ、いつ作ったっけな…。



 大丈夫。とは言っていたけれども、ひょっとすると骨が逝っているかもしれないし。



「お前たち!この破片の一部どこにやったのかネ!?」


 いい加減うるさい。どうせぶっ飛ばす奴だ。今吹っ飛ばしても変わらんか。全力で『身体強化』してぶん殴る。



 うん。吹っ飛んだな。



 四季は手当をして、そのままアイリの頭を優しく撫でていた。俺が振り返ると、



「…黙っていてごめん。これが本当のわたし…」


 少しばかり胸を張りながら言うアイリ。



「かわいいな」

「ええ、すごくかわいいです」

「…ありがとう」


 はにかみながら答えるアイリ。小動物的なかわいさがある。うん、子供はやはりこうではなくては。



「まだ何かあるとしても、またあとでいいぞ」

「…ん」

「で、あれ何なんですかね?」

「さあ?」


 全員、さっき何かを殴って吹っ飛んで行ったほうを見る。その何かは怪我をしてます!とでも言いたいのか、よろよろと立ち上がる。



「お前たち…。人の話も聞かないデ、ぶっ飛ばすなんテ、どういう神経してるのかネ?」


 神経を逆なでするような声。アイリを吹っ飛ばしたことも含めて非常に忌々しい。



「黙れ。あれでピンピンしてるのか…足りなかったかぁ」

「これ敵ですよね?敵じゃなくても、私、一発ボコる気満々ですけど」

「敵だろ。とりあえず泣くまでボコる」

「そうですね」


 にっこり二人で笑いあう。



「ム、ムムッ!?この既視感…。お前たち…もしかしなくてモ、私たちノ、そして、私の永遠のライバルでハ、ありませんカ?」


 は?こいつはいったい何を言っているんだ?



 俺はちらっと四季を見る。目でこいつ知ってる?と聞いてみる。四季は首をかしげる。反対に同じことを聞かれる。俺も首をかしげる。

 

 

 まぁ、そんなことはどうでもいいや。



「お前みたいなやつは知らん。とりあえずアイリを吹っ飛ばしたから、お前も、」

「私たちに吹っ飛ばされてくださいな!」


 一気に距離を詰めにかかる。しかし、



「すごイ、暗黒笑顔ですネ。実に懐かしイ。あ、嘘でス。昔よりモ、悪化してますネ。まぁいいでス、これを見テ、思い出しなさイ」

 

 奴は意味不明なことを言うと、バラバラとアベスを数匹ばらまく。



「「『『ファイヤーボール』』」」


 アベスを一瞬で焼き尽くす。しかし、その隙に距離を取られた。あいつ、何をする気だ?



 ジャンプしながら肩に手をかけ、着ていた外套と脱ぎ去り、背中をさらす。



「どうでス!?思い出しましたカ!?この文様、忘れられるはずがないでしょウ!?」


 いつもの汚い白に黄色が混じったような色。それで何か文様が書いてある。気持ちの悪い文様だ。まるで生き延びようとしている人をあざ笑うかのように飲み込もうとする、目のついた波のよう。



 なぜか期待にあふれた目で見ているが…。見たところで何も思い出さない…。ん?どこかで見たような…?どこだろう?昔行った近所の美術館かな?ちょくちょく「何とか美術館展」とかやってた。しかし、こんなもの見せられてもあいつのことはまるで知らない。



「この印を見てますネ。いいことでス。どうでス?いい加減思い出したでしょウ?」


 笑いながら言う。実に腹の立つ笑顔である。あ。ひょっとすると…。



「お前…もしかしてチヌカか!?」

「そうでス!何今更なことを聞いてるのでス!?」

「あなたの名前は知りませんが…、何故生きているのです?」

「ゲフッ、本当に忘れたのですカ…?」


 さっきからそう言ってるけど。



「私今、すごーク、悲しいネ…。ならば名乗りましょウ!私はチヌリトリカが眷属!チヌカの一人!リブヒッチシカでス!」


 どやぁ……。いや、そんな顔されても知らんし。



「うん、知らないわ。でも、はっきりしていることが一つある」

「なんですカ?私は今、すごク、心が痛いのでス」


 人間なら心臓のある位置を手で押さえて大げさにのけぞる。



「フフ、面白い冗談を。どの口が言っているんですか」

「まぁ、方針は決まったな」

「「死ね」」

「「『『ロックランス』』!」」


 何本もの岩の槍が奴に殺到する!



「おおウ、相変わらず仲がよろしいのネ。って、この槍。殺る気がすごいのネ。本気で殺す気なのネ!?今の私全盛期よりもすごく弱いのネ。復活したばっかなのネ。そんなのくらったら死ぬのネ。ていうか質問に答えt」


 全部避けたか、まあいい。



「死ね」「死んでください」

「「『『爆発』』!」」


 瞬間、奴は煙に包まれ、轟音があたりに響く。音がうるさい。

 

 

 周りの被害も段違いだから自重していたが。跡形もなく消し去りたいときにちょうどいい。耳ふさいでいてもちょっとキンキンするが。



「…やった?」

「ダメだろうなぁ…」

「でしょうねぇ…」


 言いたくないけど、フラグ立ったし。



「おオ、危ないかったでス。また、死ぬかと思いましたヨ。とりあえズ、私の邪魔をしたのハ、あなたたちですカ?」

「おお、まだ元気そうだぞ」

「面倒くさいですねぇ…。殴りがいがあるというべきですかね?」

「スルースキル高すぎるのネ…」

「…マイペースなだけ。とりあえず、斬る」


 アイリがぼさっと突っ立っていた、奴の後ろから斬りかかった。



「オオウ!あなたもひどいですネ!どんな教育を…。あア、こういう教育ですカ」


 なんで憐憫の籠った目をする。



「…?よくわからないけど、斬る!」


 アイリはそんなこと無視して引き続き攻撃をかける。俺たちも追撃しようとしたが、奴の次の一言で中止せざるを得なかった。



「む?マドモアゼル、あなた目の色赤なのネ。そして髪、これハ僥倖。計画が一気に進むかもしれなッ!」


 奴の顔すれすれを『ウォーターレーザー』が横切る。



 チッ。当たらなかったか。まあいい。奴が気になることを言っていたし、それを確認するまで死なれちゃ困る。



「ほんとに容赦ないのネ。再会を楽しむ余裕もないのネ」

「面識がないからな。お前と」

「とりあえず、思う存分計画とやらを話してから死んでください」


 まずは捕えるか。死なれると困る理由ができてしまった。



「ちょっと待って、待っ。オオウ、危ないのネ。このままじゃ捕まるのも時間の問題なのネ。この相変わらずの魔力馬鹿メ…。いや…、でも減ってる…?のネ?わからないのネ」


 ぶつぶつうるさいな…。徐々に日が傾いてきた。雨は止んだ。もとい吹っ飛んだ。

そろそろ夕暮れだ。夜までに終わるか…?いや、終わらせる。



「ムム…。どうしても体力の限界値が低すぎるのネ。完全復活のためニ、残しておきたかったけど仕方ないのネ。はぁ、どうしテ、回収前ニ、西以外全部壊されるのかネ…」


 独り言が多いやつだな。奴が聞きたかったことは誰がそれを壊したかだろうな。西のイノシシ以外は成り行きで俺らだぞ。言わないけど。そんなことより、早くしないとまずい!



「とりあえず、離れて欲しいのネ!『セイコブゲン』!」

「『ファイヤーボール』!」「『ロックランス』!」


 ちっ、一歩遅かった!目の前が比喩でもなんでもなく真っ白になった。絶対外れた!



 しかも若干肌がひりひりする。しばらくたっても視力が戻らない。あ、これダメな奴だ。



「「『『回復』』!」」



 よし、見えるようになった。



「あいつやばいな。目をピンポイントでダメにしてきやがったぞ。軽度の火傷付き」

「回復できなかったら今のだけで詰みですね…」

「で、目の前の奴どうする?」

「方針は変えません。吐かせて、殺しましょう」

「それでいいか。アイリをボコった分、少し苦しんでもらおうか」

「…すっごい物騒だね…。そんな性格だった…?」

「「そうだよ(ですよ)?」」

「…う…うん」


 アイリがちょっと後ずさった。なぜだ。チヌカに遠慮はいらないというのに。まぁ、今は置いておこう。



 俺らの目の前には高笑いしている黄色っぽい服をきた残念な人間がいる。たぶん、目くらまし…もとい目つぶし中に、あの破片でも使ったのだろう。



「なんとかなったのネ。これで、完璧じゃなさすぎるけれども、戦えるようにはなったのネ!『シウンカブ』!」


 奴の持っている籠 (動物を運べるタイプ)の中から、見たことのない魔物が出てきた。首の長いの。10mぐらいはありそう。ミニブラキオサウルスとでもいうべきか。

 

 

 質量保存則が息してないな。あ、俺らもあいつのこと言えねぇわ。紙からばんばん竜巻とか、火球とか出してるし。



「見たことない!みたいな顔してますネ。それも当然!今私が作りましタ!」

「…興味ない…」


 アイリがでてきたばっかりの魔物の首をバッサリ斬り落とし、腹を掻っ捌く。



 「ちょ…」と言っている奴の首もついでとばかりに斬り落とす。



「…やった!?」

「やってない。てか、やっちゃだめだよ!」

「あ…」

「大丈夫です!チヌカは一回首を落とされたぐらいで死にませんよ!」

「あと1回は確実に落とせるぞ!」


 追撃にでようと思ったら、何かに噛まれた。ん?セン?まぁ、いいか。とりあえず今は奴を弱らせる。



 作っておいた魔法を奴のいるところに雨あられと叩き込む。チヌカだし、パワーアップしたみたいだし、とりあえず弱らせる。



 はたから見たら、馬に俺と四季の間で結んだ手をはむはむされながら、空いている手から割とえげつない威力の魔法が放たれているという光景。滑稽極まりない。

 

 

 「…おお、やっと自覚した」ちょ、何言ってくれてんのアイリ。



「はぁ、まったく!人の話を聞かないやつばっかッ!」

「やっぱり無事かー」

「人じゃないですからね。人じゃ」

「相変わらず辛辣な突っ込みですネ。まぁ、事実ですけド。おお?そこにいるのは!失敗作君じゃないですカ!元気そうですネ!オオウ!そんなに元気にかかってこなくてもいいですヨ?逃げますかラ!」


 こいつバカだわ。重要な情報をポロポロこぼしていきやがる…。その上、なぜか人を煽る。



 そして、また聞き捨てならない言葉が出てきた。



 『身体強化』を使って殴りかかれば、奴は逃げ回って疲れてきたのか、ぼこぼこにされて回復に力を回しすぎたのか、逃げずに俺と四季との殴り合いに応じる。



「さっきのはどういうことだ!?」

「さっきノ?ああ、馬のことですネ?そのままの意味ですヨ。ハッハ。私ハ、自分でオリジナルの魔物を作れるんですヨ。これを使ってネ!」


 意気揚々と何かを掲げる。



 それを見て、俺も四季も一瞬停止する。掲げたのはさっきの籠だ。ここまで誇らしげにされると…。

 

 

「「まさか…、シャイツァー!?」」


 思わず声をあげてしまった。



「ノンノン!そんな汚いものと一緒にしないで欲しいネ!これはチヌリトリカ様から授かった、白授の道具…。『ノサインカッシュ』!前よりも楽に魔物作れまス!」


 要約すればチヌカが昔より面倒になった。以上!



 もっと別のことを聞こう。殴り合いしながらだと、色々聞けそうだ!



 お互いにさっきから全く攻撃が当たらない。いや、こっちは当たりかけているが、それをシャイツァーでそらしている。耐久力無限のありがたさ。でも、奴はそんなこともなく、すべてを見切ってよけている。こっちが素人だからか?



「で、それと何の関係があるんです?」

「これを使って神気なしで、魔物作れないかの実験でース!まぁ、失敗しましたガ!普通の生き物ジャ、この力に耐えきれずに死にましタ。だかラ、由緒ある馬。それを使ったのでス!でも、神気なしじゃ全然意味なかったのデ!神気ぶち込んだラ、魔物化したけド、すっごい弱かったので放置でス!でも今はすっごく強くなってますネ!びっくりでス。こんなことなら置いとけばよかったのネ!あ!?もしかしテ、私のためノ、神気使ったネ!?」

 

 絶叫するリブヒッチシカを尻目に、センが「美味しかった!」という目を向けてきた。正解っぽい。まさか蜂、バッタを倒した後はむはむが長かったのは…、俺らの魔力でそれを改変してたのか?そうなるとこの子、スズメの分の破片も食べてるな…。さっきのはむはむ長かったし。



「ブルルルルルッ!」


 2つとも正解か。



 俺らからしたら、あんな気持ちの悪い白い霧「神気」なんかじゃない。おそらく奴の言う「神気」が俺たちのいう、「瘴気」だ。



「こいつ…!?そんなことができるだなんテ…。じゃア、普通の神気を私色ニ…。できないのネ!なぜそんなことができるのネ!?もはや二人の子供と化したからなのかネ…?わからないのネ。わからないことハ、調べりゃわかるのネ!」


 センに向けて、飛び掛かるリブヒッチシカ。



「んなことさせるかこの外道。ふっとべ!」

「ハッハッハ、褒めても何もでないでス!」


 間に魔法を打ち込むことで妨害には成功したが…。やっぱり腹立つ!さっさと殺りたくなってしまう!



「褒めてませんよ?で、ついでに計画とやらも聞かせてもらいましょう」

「ん?ああ、エルモンツィ完全体計画ですーネ?私はとても懐疑派なのでス。でも、それを進めればチヌリトリカ様の役にたてまース!」

「ろくでもないことはわかった」

「情報提供ありがとうございます」

「もうちょっと付き合ってもらおうか」

「え!?いいヨ。終われば解剖するけド!」


 殴り合い続行だ。もう知りたいことは知れたし…。殺ろう。



 俺が顔を殴ろうとすれば、奴はしゃがんで回避する。四季はそれを見越して、顎を蹴りあげようとするが、持ち前のスピードで回避される。そこに『ロックランス』を叩き込む!



「危なイ!やっぱり付き合うのはなシ!さっさと素材を持って帰るのネ!」


 クルリ体をひねって回避する。よし、終わった。



「チェックです」

「は?何言ってるのーネ?」


 きょとんとするリブヒッチシカ。その後ろには、俺たちの誘導で背後に出たアイリとセン。



 センが後ろ足で思いっきりリブヒッチシカの心臓付近を蹴り上げ穴をあける。さらにアイリが思いっきり鎌で切りつけ、首の半分ほどまで切り込みを入れる。そして切断しないような絶妙な加減で、地面にたたきつけるようにこちらへ飛ばす。



 切れ込みにペンを投げつけ、さらに刺さったところを思いっきり四季が蹴って吹っ飛ばす。これで終わるだろ。



「「『『爆発』』!」」


 ドゴォォォォォ―ン!再びの爆音が森に鳴り響いた。



「げほげほっ…。本当に人の話を聞かないのーネ」


 ちっ、まだ生きてるか。どう見ても満身創痍だが…。ちょっと甘く見たか。



「どうせ私の代わりはいくらでもいるのネ…。ならば…」


 あ、まずい。



「「『『爆発』』!」」


 今までで一番大きい「ドゴォォン!」という、音が響く。



 ちっ、紙がやられた。こんなこともあるのか。後から注ぐ魔力にも許容量があったようだ。まだ回数は残っていたはずなのに、一発でおじゃんだ。

 

 

 紙を失ったペナルティは変わらないけど。



「ああ、やっぱり駄目だったかぁ…」

「そんな気はしていましたけどね…」


 俺たちの目の前にあるのは、奴が持っていたノサインカッシュ。そしてその中に破壊されていなかった核。それもリブヒッチシカの色である黄色に染まった物。



「…何が起きるの?」

「とんでもなく面倒な奴が出てくるぞ。たぶん」


 額をツーっと汗が流れる。嫌な予感が止まらない。



 のに、魔法は使えない。確実に吸収されてしまう。

 

 

 物理はいけそうだが…、近づくのは危険。投げるしかない。投げたらそれっきりだ。この距離での回収にもわずかながらに魔力がいる。



 俺たちの目の前でノサインカッシュは黄色い光を放って、浮かびあがる。



 頭、腕、足がニョキニョキっと生えてきて、人型を作り出した。人間で言うと心臓の位置にはノサインカッシュがある。



 現実逃避気味に、「ロボットか何かかな?」と考えたと同時に、ゴリラのようになったノサインカッシュ──仮にノサインカッシェラとしておく──が雄たけびを上げた。


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