156話 リャアン様の領域
途中でアイリ視点に変化します。
何で俺、あんなこと思ったんだろう?シールさんに申し訳ないなんて。
そんなこと思わなければよかった! くそう。いくら顔が見えないから、声質しか判断根拠がなかったとはいえ…。どこかで群長を少し甘く見たのか? 声質を変えるなんてお手の物に決まってるのに!
御者台の後ろ、そこにある荷台はとても楽しそう。俺と四季の心は現在進行形でダメージ受けているけど。何で俺も四季も特に何もないと思っている動作で、バカップル要素、イチャイチャ要素を見つけ出せるのか。…ソレガワカラナイ。
キスとか、お姫様抱っことかならわかるのに…。
「習君。この期に及んでは仕方ありません」
妙に四季の顔が真剣だ。…うん。そうだね。四季。互いを鼓舞するため互いに近いほうの手を伸ばしガッチリ組む。
「「耐えよう」」
「ブルッ!?」
ああ、今のセンの鳴き声、人間だったら「何で!?」という絶叫に相当しているんだろうなぁ。参戦したら直撃弾が来るからに決まってるじゃない。
「空があおーいです」
「内戦してるはずなのにねー。ああ。道以外何もない平原に吹く風が気持ちいい…」
「ブルルン、ブルルッ!」
「現実逃避してないで、ちゃんと前見て」って? 今まで何もなかったけど…、あ。街だ。
「シールさん!」
「何だい?いいとk。「街ですが、どうします?」街かー」
割り込んでやった。どうせ聞いても「いいところだったのに」って言った後、弄りに発展するのが目に見えてたし。言わせない。
「シールさん、次の街の情報貰っていますよね?」
「そりゃね。シキ。交渉なんてほぼしてないもん。テクゥとの交渉は内戦終わったら本格交渉で、今からでも「チヌカ」の情報は種族を越えて協力すべきという文言と一緒に広めてくれるって」
それなら曲解される要素もなさそうだし…、完璧かな。
「ギルドの方はうちと違いがないから「ギルドランクと貨幣の基準整えないといけないね。」以上」
大枠が変わっていなければそれで交渉は済んでしまうか。ギルドが変わっていないのはラーヴェ夫妻の影響力の高さのためなのだろうか。
「あ、本題に戻すよ。貰った情報から判断するに、今日は野宿で。明日早朝に起こすから、それから入ろう」
「了解です。皆もそれでいい?」
「私はもういい時間ですし、賛成です」
四季の声に続くように後ろから賛成の声が飛んできた。よし、準備しよう。今は17時くらい。明かりが欲しくなる18時ぐらいまでには終わらせたい。
街との距離を考えると…、18時までに街に着こうと思えばつけそうではある。だけどシールさんが敢えて野宿を提案してくれているのだし、それでいいか。
_____
「はい、起きてー」
シールさんの声? …ものすごく眠いんですけど…。
「「おはようございます」」
「はい。おはよう」
俺と四季の声に続いてシールさんの声。それを聞いた子供達ももぞもぞ起き出してくる。
空はまだ暗い。4時ごろだろうか? なるほど。今日こんなに早く起きるから昨日夕飯を食べるとすぐに「さっさと寝て」って言ったんですね。
いつもは子供達を挟んで川の字なのに、シールさんの陰謀か四季と隣り合わせになって、昨日午後に聞こえてきた会話を思い出して悶えていたから全然寝れてないけど。
「簡単に朝ご飯を作った…もとい、レトルトあっためといたから食べよ」
ありがとうございます。いただきます。うん。美味しい。…眠くて頭がろくに回らない。
四季も眠そう。放っておくと倒れてしまうか? 近くに寄っておこう。じりじりお尻を動かして移動してたら四季も寄って来てくれた。同じこと考えてくれたのかな? 今は食べよう。
暖かくて美味しい。…いきなり目の前に出されたこのスプーンは何だろう。ああ。四季のか。食べてるものが違うのね。貰おう。
スプーンを口に含み、上に載せてくれているスープを流し込む。上品な味で美味しい。じゃあ、おかえし。こっちもあげる。
頬を綻ばせて眠いながらに幸せ追うな顔をする四季。おいしそうで何より。シールさんがニヤニヤしているけれど一体どうしたんだろう。子供達も心なしかよそよそしいような…、たぶん気のせい。それにしても眠い。
「「「ご馳走様でした」」」
美味しかった。さて、簡単に片づけして…。レトルトだからゴミを集めるだけで終わった。顔洗おう。…よし、目が覚めた。
「君ら大丈夫?」
「ああ。おはようございます。やっと完全に起きました」
さっきまで寝ていたも同然だった。
「先に顔を洗っておけばよかったですね」
「だね」
「君らは顔洗えば眠気飛ばせるのね。あんまり無理しないでよ?」
「「はい。勿論」」
旅の途中で風邪をひいてしまったりすれば笑えない。さて、馬車に乗るか。いつの間にか…って、俺が眠たがってる間にか。シールさんが御者台に行ってくれてるしね。
「じゃ、いい時間だし出るよ」
俺らの同意とセンの声が早朝のまだ少し暗い平原に響き、馬車がゆっくり進みだした。
「それで何故このような早朝に?」
「皇帝陛下は僕が思ったよりダメみたいでね…。そのくせシャイツァーは面倒みたいなのさ。丁度あそこに黒い線があるでしょ?見える?」
「え?あ。はい。見えます」
幅1 mぐらいの黒い線が目の前にデーンと横たわって…、あれ、違う。この線まだまだ先に続いている。暗闇のせいで黒色だから同化して見にくいけれど…、ずーっと黒線を目で辿っていくとカーブを描きながら地平線の彼方に消えた。この形って、
「「円形…?」」
「らしいよ。この黒線はリャアン様の領地を表しているんだってさ。色々条件はあるみたいだけど、大地を焼いてこの線を作って囲めば領地なんだと」
なるほど、自己顕示欲が強い…ってだけじゃないですよね。そのためだけにこんな面倒なことはしないはず。
「御者台からでも君らの顔が想像できるね。そうだよ。この黒線はシャイツァーでつけたものなんだって。これより先、円環の中は彼の領域、何人たりとも彼の目からは逃れられない…。ってのが謳い文句で、実際そうらしい。だけど、今の時間帯ならさっきまでの君らみたいに寝ぼけているから越えてもばれないらしい」
えぇ…。そんなにガバガバで適当じゃだめでしょう。
「はい、越えたよー」
軽いですね…。あたかもそこに何もないかの如く越えましたね…。
「家臣たちのせい…というかおかげ?で国境管理が甘いけど、寝ぼけていたら大丈夫!とは言っても、さすがに敵意があったら瞬殺で侵入が露見するらしいよ。まぁ、僕らに敵意なんてないし、大丈夫。というか変に身構える方がダメそうでしょ?」
「確かに。意識してしまうせいで反応されてしまいそうですね」
「敵意」のレベルもわからないのが一番怖い。「絶対殺す」まで許されるのか、「うわ、この皇帝めんどくさい」ですらアウトなのかもわからない。変に意識しないのがシールさんの言うように正解だ。
「ふと思ったのですが、この国境のガバガバ加減をリャアン様はご存じなのでしょうか?」
「さぁ?たぶん知らないんじゃない?知ってたら何とかしようとするでしょ。自分の趣味を邪魔されてるようなもんだし」
「趣味って…」
「言い得て妙でしょ、ガロウ君」
趣味 (顔のいい人漁り)…好きになれそうにない。会わずに済めばいいけど…。
「…ところでシール。何で黒線越境がバレたらダメなの?」
「説明したくないんだけどダメ?」
「「「何故?」」」
俺達全員の声が揃った。「ダメ?」と聞かれて「はいそうですか」なんてなるわけがない。シールさんもそれがわかっているからか大きいな溜息を吐いた。
「声のトーンが怖いんだけど…、絶対怒らないでね?」
「どう考えてもシールさんは悪くないと思うので怒りませんよ」
「ええ、習君の言う通りです」
「嘘だぁ」
嘘じゃないです。ついさっきトーンが下がったのは不穏な空気を感じたからです。
「ええとね…、リャアン様って面食いらしくて」
「「察しました」」
わざわざ言うってことは、きっと初対面のディナン様の酷い版。ディナン様は王族の地位に興味のない人を探そうとしてああしているわけだったから、絶対に無理強いしない。したらバレる。…リャアン様はそれをするんだろう。本気で会いたくない。
改めて家族の顔を見てみる。…うん。四季は綺麗系、アイリは可愛い系でカレンは元気系。ガロウはかっこよくて、レイコは優雅系と、タイプは違うけど全員顔が良い。俺だけつり合い取れていない気がするレベル。
…うん。リャアン様絶対興味持つ。というか持たないと面食いって言わない。もっと言うなら見る目ない。
万が一、リャアン様に口説かれた本人が「付き合いたい」って言うなら、許可出すことも吝かではないけど…、絶対俺らが彼に靡くはずがない。
アイリは俺ら以外に興味がないし、カレンはそもそも無性で色恋の「い」の字もない。ガロウとレイコは相思相愛で割り込めるはずがない。四季は俺の事好いてくれているから大丈夫。
…だよね?
「…大丈夫に決まってるでしょ。二人とも」
「不安になる気持ちはわからなくもないけどさぁ…」
「お二人の場合は…、」
「はっきり言いなよレイコ―。気にするだけ無駄ってー」
断言された。
「…そもそも一回心の中で大丈夫って断言してたでしょ?」
「断言できるってすげぇよなぁ」
「私もそう思います。並大抵のことでは出来る事ではありません」
「特におとーさんとおかーさんみたいな奥手?な人はそーだよねー」
俺らの性格が子供達にまで理解されてる…。喜ぶべきなのか悲しむべきか。
「…わたしに読心されてることを驚けば?」
そういえばそうだね。思いっきり読まれてた。アイリの言ったことを鑑みると…、四季も俺と同じように俺を想ってくれて、不安を抱いた…ということ。
そっか。嬉しい。嬉しいけど…いつにもまして恥ずかしい!
「シールの好きなもの出来たよー」
「僕が言う前に言っちゃうんだね」
「うんー」
「そっか。あ。ちなみにこの情報はリャアン様の家臣がコッッッソリ広めているらしいよ」
何でこのタイミングで情報ぶち込んでくるんですかね!
「「コッソリ?」」
「…被ったね」
わざわざ言わないで!
「コッソリと言う広まり方ではないけどね。建前上はこっそりだよ」
…リャアン様本人に会うとロクなことにならなさそう。恥ずかしいけど今はそんな場合じゃない。確実にロクでもないことになる。頭を回せ。対策を考えろ。あ。あった。
「変装しますか?」
ガロウやレイコを参考に獣人に化けたときほどの精度は、観察が足りていないけれど…、テクゥさんとクアリさんを参考に魔族に違和感がそこまでない程度に溶け込む事は出来るはず。
「それとも、私自身あまりとりたくない手法ですけど、家族全員の顔面偏差値落としますか?」
「シキ、それは習がかっこよくなくなるから?」
「いえ?素顔が見れないのが悲しいだけです」
「うわ。恥ずかしがってるくせに素で返してきた。期待外れ」
「…お母さんだし。お父さんもたぶん同じ」
さすがアイリ。俺の思考を完璧に読んでる。今このタイミングで話題を振られると恥ずかしくて言いにくいけど。
「僕が脱線させたけど、戻すよ。両方不要。だってね、そもそもこの街って、リャアン様の目がどこにあるかわからない…って言われてる街なんだよね。だから無駄」
!? 「目がどこにあるかわからない」…?
「あのシールさん。まさかとは思いますけど…、」
「あの黒線で作られる、リャアン様の領域とは」
「想像の通りだろうね。リャアン様は黒線の内側、彼の領域内ならどこでも「見れる」のさ」
言葉にされると案外すごくない。でも、「目がどこにあるかわからない」だったら確かにそのレベルの力がちょうどくらいか。「領域内の生命を問答無用で従わせる」とかだったら困るわけだけど…、さすがにそれはないか。もしそうだったら家臣が情報漏洩するはずない。
あ、でも、緩やかな思考統制ぐらいはあるかもしれないと考えておくべきか。
「なぁ、それって風呂とか覗けんの?」
あっ。ガロウ。なんてこと口走ってるんだ…。
「ねぇ、敢えて聞くけど何があったの?後ろからの重圧がえげつないんだけど」
「シールさんの言葉が全てですよ」
「ガロウ君。強く生きたまえ」
レイコが絶対零度の目でガロウを見つめている。言葉にするなら「ガロウ…。貴方って人は…」だろうか。ガロウは蛇に睨まれた蛙のように委縮してしまい、言葉を紡ぐ余裕がなさそう。
「習君はどうです?」
「俺?四季以外に興味ない。まぁ、口先だけならどうとでも言えるって言われちゃうと、どうしようもないんだけど…、ってどうしたの」
四季の顔がびっくりするぐらい真っ赤。
「…即断言したからでしょ」
「シールー。おとーさん達からの新鮮な餌だよー!」
「わぁい!…って、何言わせてくれてるのさ」
無自覚って強いよね。今日だけで恥ずかしい思いをするのは2回目。しかも自爆。顔に血が上って熱くなってるのがわかる。さっきの比じゃないほど恥ずかしい!
「あ、あの習君。習君になら」
「待って四季。待って。今の四季の精神状態だとさらに自爆しかねない」
放っておいたらきっとあの後に「お風呂覗かれてもいい」って続いた。街が近いのに再起不能になる。
「で、ですが…」
それでも何か言いたいと。潤んだ目で俺を見ないで欲しい。その目に心を奪われて少し我を忘れてしまいそうになるから。
「ちょっと落ち着こう」
四季だけじゃなくて自分にも言い聞かせる。
「いえ、落ち着くと言えそうにないですから…、」
言葉を切って背筋を伸ばして俺の目をジッと見つめてくる。俺もつられてスッと背筋が伸びる。
「私が好きになったのが貴方でよかったです」
「俺も。この好きって気持ちを抱いた相手が四季でよかった」
自然に顔が近づき、そっと口と口が触れ合う。柔らかくて心なしか甘い。
「シールー、餌特盛だよー」
「僕でも胸やけ起こす」
「…幸せそうで嬉しい」
「踏み台にされた感」
「ですね…」
今日だけで何回言ってるかわかんないけど、言葉にして自覚させないで。…流石に今のは言葉なくても勝手に自覚するけどさ!
耐えろ。俺。欧米ではキスは挨拶。…今のは遅めの朝の挨拶だ。うん。
「シールさん、結局のところどうなのです?もし風呂場とかでも覗けるならば対策を取らないと」
「たぶん覗けるよ。あの街の家の建材ってさ、リャアン様のシャイツァーで一回焼いてるらしいから…、彼の視線は貫通するという専らの噂」
噂と言うかほぼ確定ですねそれ。
「住民は何も言わないんですか?」
「言わないみたいだね。言ったところでどうしようもないというのもあるかもね」
「皇帝陛下」だからか…。
「とりあえず、風呂場とトイレと寝室に対策すれば問題ないですか」
「うん。ほぼ全部だけどそうなるね。…そもそも、対策して無理だったらどうやっても無理なんだよね」
「何か言いました?」
「何も?」
「うん」って言った後が全く聞き取れなかったけれど…、気のせいか。
「ねぇ、そんなに対策取るってことはさ、シキ見て欲しくないの?」
「そりゃそうでしょ。誰が好き好んで好きな人の私的な時間を覗いて欲しいと思うんですか」
特に風呂。一応トイレもか。風呂の方がヤバいけど裸だし。裸は絶対やだな。そもそも俺も見てないし。…見る勇気もないけど。万一見てても見せる気はないけど。
「独占欲?」
「かもしれません。あ、でも着飾った四季なら見て欲しいかもしれません。俺の好きな人はこんなきれいな人だって知ってもらえるわけですからね。あ、でも…色欲の籠った目とか向けられるかもしれない」
それはうざい。
「…ねぇ、お父さん。」
「何?」
「…お母さん殺す気?」
四季が固まってる。何で俺はいつもこんな感じなんだろう。本格的に穴ないかな。あったら入りたい…。
______
…お父さんがお母さんを素直な発言で撃沈させてお父さんも自爆した。…いつも通り。耐えてたけどダメだったね。
「胃が痛い」
シールが漏らした小さな声。それを耳聡く聞いたレイコが訳を尋ねた。
「いや、だってさ…、リャアン様に二人の存在がバレた時のことを考えるとね」
「リャアン様って傲慢なの?」
「そうじゃなきゃ、家臣が情報流すと思う?」
…思わない。普通そんな主君にとって不利になるような情報は吹聴しない。主の頭の中がピンク色なんて醜聞でしかない。絶対に付け込まれる。具体的には勝手に子供が増える。
…あれ? それってお父さん達じゃ…。…ん。この思考は脇においておこう。
今も皇帝をやっているという事を踏まえると…、不満とかはねじ伏せてきた可能性が高そう。…ほぼ間違いなく傲慢。
「皆、沈黙は肯定だよ。…本格的にどうしよう」
「…まず、バレないのが無理じゃない?」
獣人と勇者。絶対に皇帝まで伝わる。…いくら皇帝が筆舌に尽くしがたいほど無能で、門番に「黙っててね」という賄賂や脅しが通用するほど街の機構が腐敗していようとも、変装していない以上、噂としてか、報告としてかはわからないけれど、絶対に伝わる。
「そうなんだけどね…。勇者ってことで自制してくれるかな?」
「さぁー?」
「突き放すようなこと言うねぇ…」
「…1:9ぐらいの割合で自制しないと思うよ?」
「どっちが自制するほう?」
分かってることを聞いてくるね…。
「「「「9」」」」
「だよねー」
わたし達の総意だね。…あんまり嬉しくない。
「でさ、まだ二人は復活しない?」
「…ん。まだ」
「恥ずかしくてこうなってるのに、寄り添ってるのが何とも言えねぇ」
「何故ここまで恥ずかしがっておられるのでしょうか?そう首を傾げたくなりますね…」
…幸せそうだし、わたしは好きだからずっと見ていたいけど。飴が溶けちゃったし、補給しよう。
…やっぱり美味しい。
「ねぇ、宿屋どうしよう?」
「…最高級しかありえないよ。…シール、舐められるわけにはいかないよね?」
獣人を代表しているんだから。「否」なんて言わせないよ。…最高級でないとお金がないって思われちゃう。
「だよねぇ。向こうも異種族ってことで交渉関係だと思うよね」
「…むしろ、思わなかったら無能」
宣戦布告であれ、貿易であれ、技術提携であれ、同盟であれ。わざわざ異種族が来ているんだからね。…シールがいなきゃ、わたし達は情報を仕入れはするけど「通過するだけ」なんだけど。…間違いなく異端だね。
「てことは、伝わったら来るよね?」
「…来るんじゃない?宣戦布告されたら殺してもいい?」
「宣戦布告って何?」
「…家族を無理やり引き裂こうとすること」
わたしは絶対にそれを許さない。わたしの帰る場所は死んだって守ってみせる。…勿論、死ぬ気はないけど。死ぬのはあっち。
「ボクもー」
「俺も」
「私も」
「無事に済みますように!」
…声が切実だね。
「あ。街に門はないから街に入ったよ。最高級の宿はすぐそばらしいからすぐ着くさ」
…変装していないわたし達にとっては好都合だね。…どうせすぐに噂が広まるけれど、皇帝に届く前にわたし達のお父さんとお母さんなら必要な情報を集めてくれるはず。なら、出発すればいい。
…出来なければその時はその時。皇帝がその地位にふさわしくない「自称皇帝(笑)」という唾棄すべき馬鹿ならば、血が舞うだけ。