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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
174/306

154話 続チャユカ

「詳しく…ですか?」

「具体的にどのあたりをお望みですか?」

「今お二人が言ったところ全部です」


 皇帝(笑)とか、内乱の話とか、そしてキーになりそうな『ナヒュグ=ホグウィ=フープモーツァ』とか全部。



「また範囲が広いですね…。私がクアリのいいところを聞かれて、全部と答えるぐらいには広いですね」

「貴方、褒めていただけるのは嬉しいですが、今そのときじゃないでしょう?」

「そうだね」


 突然の惚気。実に微笑ましい。クアリさんがテクゥさんにアイアンクローさえかましていなければという注釈が付くが。普通に痛そう。



「君の繊細で優美な爪が食い込んでるんだけど?」

「説明は出来ますよね?」

「そうだね」


 え。



「では、僭越ながら説明しましょう。まず、内乱の理由から」


 本当にそのまま喋りはじめるんですね。ならば、声は聞き取れるから気にしないことにしよう。



「とはいえ、割とよくある理由だと思います。先代が400年程前に崩御した際、権力を求めた者達が立ち上がった。それだけです」

「え゛。テクゥさん、180くらいいるって言ってなかった?」

「ええ。ですが、理由としてはそれだけなのですよ、ガロウ様。ここに付け足す情報と言えば…、ああ。精々「皇帝家に縁もゆかりもない馬鹿が皇帝を自称して立ち上がった」くらいですか」


 追加情報は日本でも戦国時代によくあったやつかな? あの時代、箔付けのために源氏平氏を自称する人たちが結構いたはず。実際に血縁関係にある人達もいただろうけれど。真偽は不明。そもそも当人たちにもわからないはず、鎌倉・室町と時代を経てるし。



「貴方、それだけじゃないでしょう。私達ならではの理由も言わなくては」

「ああ。そうだったね。さすがはクアリ。冴えてるね」

「シールさん。餌です」

「どうぞお食べになってください」


 貴方の好きな仲のいい夫婦像ですよ。



「食指は動かないかなー?だって、僕が欲しているのは今の君らみたいなやつで…、あの夫婦のではない」


 チッ…。二人を生贄に捧げてやり玉にあげられずに済むかと思ったのに。



「…そういうところだよ。二人とも」


 ?アイリの言う事がよくわからない。



「揃って二人で不満を表したり、疑問を呈したりするとこだぜ」


 なるほど。補足ありがとう。ガロウ。タイミングが合うのは偶然なんだよね、…うん、どうしようもない。あ。



「私達夫婦のことはお気になさらず、続けてください」

「私も夫と同意見です」

「僕も」


 夫妻を放置してたら、いつの間にかこっちの話題になってる。チャユカ夫妻の目が生暖かい。



「いえ、戻してください」

「魔人ならではの理由とは何ですか?」


 シールさん嬉しそうな顔しないで!いちゃつけば回避できる気がするけれど、「どうぞ」って言われていちゃいちゃ出来るほどの精神力があったら、間違いなく既にプロポーズしてる。



 それに言われてするのは違う気がする。



「どうやら必要ないようですので続けますね。私達ならではの理由。それは「寿命が長い」こと。皆さまならばこれで分かるのでは?」

「貴方、一つ抜けていますよ。子供は一人につき200年に一度ほどのペースという事が」

「ああ、そうだった。見た目だけでなく頭までいい、そんな君と4人も子供を儲けられて私は幸せだ」

「貴方…」


 二人の世界へ旅立ってしまった。…飛び火しないように放置しておこう。可燃物を周りに置かないようにしないと。



 寿命が長くて、子供が200年に一度ぐらい…ね。となると、アレか。先代がどのくらい生きたのか分からないけれど、たぶん合ってる。



「わかったみたいだし、教えてくれ。父ちゃん、母ちゃん」

「ん、いいよ。俺は「寿命が長いせいで皇位継承者が増えすぎた」事が原因だと思う」

「私も同感です。特に皇帝陛下のご子息が沢山いればさらに燃えやすいでしょうね」


 勿論、孫やひ孫、ご息女であっても燃えるけど、子息の方が間違いなく派手に燃える。家系図書けば皇帝陛下の真下になるし。



「でもさ、200年に一度だろ?そんなに増えるか?」

「側室なり妾なり愛人なりを取れば解決する」


 皇帝陛下と一緒に子供を作れる人を200人にすれば、超雑に考えると1年に一人は生まれる。で、その半分が男。400年あれば200人分の火薬が出来る。



「あ。言っておくけど、俺は浮気をする気はないからね」


 王と皇帝の側室とか、その辺りの人らとの関係が浮気になるかどうかは知らない。だけど、面倒だしひとまとめにしておこう。



「…知ってる」

「知ってるー」

「知ってるぜ」

「わざわざおっしゃらなくとも存じ上げております」

「知ってるさ」

「「でしょうね」」


 何でシールさんもチャユカ夫妻も混じってくるの…。しかも全員が「今更何言ってるの?」っていう目をしている。



「「俺はシキ一筋」って言ってシキを赤面させてくれれば、なおよかった。今からでも言う?」


 うるさいです。確かに俺は四季が大好きですけど、直接今、彼女に言えるような人種ならば、両想いってわかっているのに、告白に一カ月もかけてないです!



「コホン。で、正解なのですか?」

「どうなのです?私も気になります」


 話を戻そう。顔の赤みはたぶんまだ引いていない。



「ええ、正解ですよ。全皇帝陛下の在位期間は平和だったからか600年。その間に子供は…、子供は…、あれぇ?クアリ何人だったっけ?」

「貴方…。公称5人ですね。あ、ここでの「公称」は皇帝が母親を正室、側室にしたうえで、皇帝がその子の親であると認めたという意味ですよ」

「一般的にこの内乱で最も有力な5人を「公称皇帝」と呼びます」


 思ったより少ないな。



「非公称を含めると128~1024ぐらいだったような気がします」

「あれ、君ともあろう人が「気がします」なのかい?」

「仕方ありません。死んだはずの皇帝陛下のお子様がいつのまにやら現れてたり消えたりするのですから」


 「お子様だというのが本当なのか、自称なのかはわかりませんけど」と小さくクアリさんは付け加える。



 9割自称だろう。…わずかでも本当の可能性があるのが非常に面倒ではあるか。



「さて、そろそろ本題に戻ろうか。…ねえ、クアリ」

「何ですか、貴方?」

「そろそろ離してくれないかい?君の玉のように滑らかな指が私の頭の形になってしまいうと私としては大層困るんだけれど」

「貴方が困るならば仕方ありませんね。では、ナヒュグ様の話に戻りますか」


 アイアンクローをやめて二人とも座りなおした。



 指が当たっていた箇所がうっ血しているのか青色に染まっていて、非常に痛そう。でも、痛がる様子を見せないから大丈夫なのか? …何か問題があるなら言うか。



「『ナヒュグ=ホグウィ=フープモーツァ』ですが、この方が一番正当なのですよ。子供ができにくいため正妻・側室はほぼ形だけですが、正妻の子供で、妃は正妻の妹を母に持つ娘なのです」

「妃の続柄はナヒュグ様からすれば、異母姉になりますね」

「「異母姉」」

「そうです、異母姉です」


 異母姉となると血統的にかなり近い。ええと確か…、4親等だったか。遺伝学上は繰り返さない方がいいらしいけれど、4親等なら日本でも結婚出来る。



「…さらっと流したけど、正妻である姉を差し置いて妹が出産してるね」


 本当だね。妹さんよく姉に殺されなかったな。



「ああ、その理由はですね、姉妹仲が良好であったことと」

「妊娠発覚は姉の方が早く、姉が過期産、妹が早産だったために逆転した。ということで説明できますよ」


 なるほど。それなら納得できる。



「お妃さまの名前は『ジャンリャ=フィー=フープモーツァ』です」

「では、残る3人は?」


 公称5人以外は別にいい。おそらくたいした勢力もない。というか、最大1024で今180ぐらいという時点で、潰されまくったとしか思えない。



「一人は皇帝(笑)ですよ」

「確か『リャアン=フープモーツァ』でしたか?」

「ええ。一度しか名前を出していないのによく覚えていらっしゃいますね」

「だね。クアリ私はいつも皇帝(笑)って言っているから名前忘れていたのに」

「アレが鬱陶しいのは同意しますが、民の前ではかっこつかないのでやめてくださいね」


 ハッハッハ。と笑うテクゥさんに再度アイアンクローが飛んだ。先ほどとぴったり同じ場所。「ミシッミシッ」とかいう不穏な音が鳴っている気がするけれど放置。



「もう一人は『ジンデ=フープモーツァ』ですね」

「私も夫も詳しくは知りませんね。この方は領地が遠いので。ただ…、評価はリャアンよりはマシといったところです。」

「領地の位置は帝国の西です」


 西か。西…となると人間領域がある。いつも人間と戦争している皇帝はおそらくこの皇帝か。



「最後は誰ですか?」

「「存じません」」


 え。何で…。



「「お詫びに死にましょうか?」」

「「結構です。命は大切にしてください」」


 「責任取る=死ぬ」とかいつの時代だ。そもそも死んで詫びるレベルの罪ではない…というか罪ではないし。無知は罪と言うが、今回は知らなくても仕方ないだろう。だけど、理由ぐらい聞いておこう。



「何故知らないのかお聞きしても?」

「はい。構いません。というより、これがナヒュグ=ホグウィ=フープモーツァとジャンリャ=フィー=フープモーツァのお二人が機能していない理由でもありますから。どっちみちお話しする必要はあったのです」


 俺らが変な反応しなければそのままつながってたのか。



「最後のお一人は前皇帝陛下の崩御後に正妻からお生まれになられた姫です」

「ですが、彼女は生まれ落ちて間もないころに誘拐されてしまいました」

「下手人は?」

「やはり”自称”皇帝ですか?」

「はい」


 やっぱり。公称皇帝にどうあがいても勝ちようのない血統を補強したかったんだろう。補強できるのは次代からで、本人の血統は変わらないけど。…むしろ”自称”という点を強調している節さえある。あ、でも、摂政政治を狙うならあり…か?



 ああ、うん、ありだな。ただ…、摂政政治って、「何もわからない子供を道具に自分の権力を伸ばそうって言う輩が狙うもの」というイメージがあるから好きじゃない。まともな人が摂政になって子供の皇帝を補佐する…って構図なら上手くいくのはわかってるけど。



 今回は道具にする気満々。好きじゃない。



「おとーさんもおかーさんも不機嫌ー?」

「…だね。想像の中の子供の扱いに苛立っているんでしょ」


 何で分かった…とは言わないでおこう。言ったとしても



「…だから、わたしは二人が好き」


 …うん。知ってた。想像の中のアイリと現実のアイリの言葉が見事に被った。



 この子なら俺らが言わなくても考えてることを予想して重ねられるよね。声のした方を見れば無表情に見えるけれど、得意そうに少し顔を綻ばせたアイリが。



 可愛らしい。思わず手を伸ばせば、避けることなくそのままじっとしていて、アイリの頭を軽く撫でると手の下で、わずかに嬉しそうに身じろぎした。



「…続けて」

「はい」


 なら撫でるのはやめよう。話はまともに聞かないと。…撫でるのをやめたからか心なしか寂しそうな顔をしている。…後で遊ぶ時間を取るか。きっとアイリは自分がそんな顔をしていることがバレているとは思っていないだろうけれど。



「で、ですね誘拐されてしまった王女は行方不明になってしまったのです」

「何故?」

「謎です。専ら実行犯が追跡者から逃れられないと悟ったため放り投げたと噂されていますが…経緯不明です。ナヒュグ夫妻が実行犯も教唆犯を即血祭りにあげましたが。見つかっておらず今日に至ります」

「私もその辺りのことは知らないです。というか妻の知らないことを私が知っていると、痛、痛たあっ、クアリ痛い!」

「貴方の気のせいでは?」


 なんでわざわざ言ったんですかテクゥさん…。



「そっかぁ。で、ですね、」


 あ。そのまま続行するんですね。



「王女殿下行方不明から400年、両陛下は唯一の妹である殿下をずっと捜索されておられます。念のため長男の皇帝(笑)と次男のジンデ様に尋ねたこともあるようですが…、」

「戦闘になっただけだったそうです。幸い、二人とも殿下に興味はないということはわかったらしいですが」


 ん? 戦闘…?



「ひょっとして、ナヒュグ様ってノコノコその二人の前に行ったんですか?」

「らしいですよ。妃のジャンリャ様だけを連れて」


 自分の身を軽視しすぎでしょ…。いや、単に攻撃されても乗り切る自信があったのか。あれ? …となると、統一が進んでいない理由ってまさか…、



「あの、ナヒュグ様とジャンリャ様が統一に向けて動いていない理由って、まさかとは思いますが、」

「捜索に忙しくて統一や統治にまで手が回らない。というわけではないですよね?」

「さすがは勇者様ですね。それが理由です」


 当たっても嬉しくないなこの場合。となると、



「ナヒュグ様達に無理やり統一して貰ったとしても、」

「ええ。無意味でしょうね。統治に割ける時間がなく、しばらくすれば再度空中分解しますよ」

「今、統治されている領域内での評価は高いのですけれどね。手一杯です」


 これはナヒュグ様を使うのは無理だな。気持ちはわかるけど。俺だって四季か子供達が行方不明になったら統治なんて投げ捨てる。



「納得してるとこ悪いけど父ちゃん、母ちゃん。他の人を使うのはどうなんだ?」

「他の人って公称二人?」


 リャアン様とジンデ様の。



「そうそう」

「無理」

「同感です」

「何故です?お二人のジンデ様の判断基準は、噂のみが根拠のようですが」


 あ。サラッとレイコにリャアン様が除かれた。妥当な判断だけど、哀愁を誘う。



「ジンデ様ってさ、領地は西らしいから人間領域と接している可能性があるんだよね」

「さらにですね、人間領域…、まぁ、主にバシェルですが。よく魔族と戦争しているらしいんですよね」

「…お父さんたちが呼ばれたのもそれが理由だよね」

「戦争に嫌気がさしたのですかね?」

「たぶんね」


 ほぼ確定だろうけどね。想像しかできないけれど…、戦争が度々起きるとか絶対にしんどい。完全部外者たる俺らに頼るなとは思うけれど。



「なあ、父ちゃん、今の話で何が言いたいんだ?」

「つまり、人間と魔族はずっと戦争していた」

「戦争は勝ち戦のみ「勝ち」の規模によりますが、勝ち負け引き分け全てにおいて損害が出ます」

「うん。つまり?」

「戦争の被害、それに潰されないで済むような皇帝は?と考えると…、」

「該当者は公称皇帝に限られる。自称で付き合えるわけがない」


 資料を見る限りだけど。まぁ、戦争資料で嘘をつく意味がないし、合っているだろう。



 毎回勃発するファラボ大橋争奪戦、それによって双方少なくとも何千という単位の命を消し飛ばす、そこから侵攻、逆侵攻で何万と。累計で一体どのくらいの数がファヴェラ大河川で露と消えたのだろう。



「人が死んで、それに伴って金が消える。…命と金を並列するべきではない気がするけど」

「見舞金と、使い潰した武器と、消費した物資と。補給品は何万となると馬鹿になりませんからね」

「…だね。わたし達は数が多くないし、稼げるからわたしがいても平気だけど」


 反応に困る言葉を突っ込んでこないで。…大食いという自虐? アイリの頭を軽くポンポンと叩く。変なところで負い目は感じなくていい。



「ええと…、つまり公称皇帝じゃないと金で死ぬと?」

「早い話そうなる」

「残ってる公称皇帝って一人しかいなくない?」

「ええ。よって、戦争しているのはジンデ様という推測が立ちますね」


 悲しいことにね。


「融和は?」

「ない」

「です」

「だよなー」


 長い間戦争してるんだから、融和の芽なんてないだろう。というか下手すると「統一?なにそれ興味ない。それより、一緒に人間殺ってかない?」とか言っている可能性さえある。



 …幸いなのはジンデ様の領地だけか、その周辺という限られたところのみしか戦争に参加していないっぽいことか。全面戦争しているならばここに入るときに襲われただろうし。



「本当のところは会ってみないと分からないけど」

「ですが、未だに180程の皇帝がいらっしゃるのですから…、」

「戦争に忙しいぜぇぇ!とか言ってそう?」

「困った人だねー」


 だねー。武力よりなのに統一が進んでいないことを考えると、余計さっきの想像は当たっていそうだ。



「じゃあ、僕らはどうするのさ」

「俺らは放置でいいと思いますよ」

「わざわざ火中の栗を拾うようなことはしたくないので」


 下手に恨みがこちらにきたり、獣人領域に飛んだりする方がよくない。



「だよねぇ…。僕はどうしよう」

「一応、ナヒュグ様にだけこっそり会ってみればよいのでは?」


 一番まともそうなので。



「そうなるよねぇ。君らはどうする?」

「谷を目指します」

「習君、滝も。です」

「あ、そうだった。ありがとう」


 シュファラト神が作ったという谷、そして『不帰の滝』、どう考えても帰還魔法はなさそうだけど、行って確認したい。



「谷と滝ですか」

「ええ。そこの情報ってありますか?」


 自然と会話に混じってきましたね、テクゥさん。即、話題を振る俺も俺だろうけど。



「位置くらいならありますよ。クアリ。立つから離して」

「貴方、私が行きます」

「そう?ありがとう」


 手を離してクアリさんが立ちあがった。さらにテクゥさんの顔の傷が深くなっている。当然と言えば当然だけど。



「あ、地図は国家機密ですので口外は遠慮してくださいね」

「「そう言う事を言うのは広げる前にお願いしますね」」


 何で広げてから言うんですかね。そのくらいなら守るけれど。



 …思ったよりもしっかりしている。歴史の教科書で見た伊能忠敬さんの作った地図と雰囲気が似ているような、似ていないような…。



「父ちゃん達の絵より綺麗だな」


 うぐっ。



「…やめてあげて」

「そーだよ」

「ガロウ、貴方…」

「うっ。ごめん。父ちゃん、母ちゃん」


 下手な慰めが余計に刺さる。事実だから受け入れるしかないけれど、辛い。



「矯正できないのかい?」

「…根本的に感性が違う。…見るときはわたし達と変わらないんだけれど」

「あっ」


 その目をやめてください。シールさんだけじゃなくてテクゥさんとクアリさんまで加わるとか何のいじめですか…。



「…二人とも自分が下手って自覚してるんだけど…、わけのわからないところに線を加えたり、大切な線を歪めたりするから…」


 アイリの死体蹴り。泣くよ?



「……あ、お二人のおっしゃっていた谷は『シャルシャ大渓谷』と言うのですけれど、それはここ北西から南東に向かって切れているところになります」


 妙な気の使い方はやめてください。こういう時にどう声をかけたらいいのか、俺もわからないけど。



「滝はこの谷の最後、つまり南東部にあります。この滝の水源と思われる川の源流はこのそばのエルフ領域との境界『クアン連峰』にあるらしいですよ」


 なるほど。



「シャルシャ大渓谷と不帰の滝の詳しい情報はありますか?」

「私達魔人が谷に入ると死んでしまうので…あまりないです」


 死…?



「ええ。「死」です。罪人の処刑にも使われたことがあるようですよ?何でも内側から「バーン!」と破裂するそうです」


 擬音と内容の乖離がエグイ。テクゥさんは「クアリの動作が可愛い」って悶えているけれど。



「勇者様が残して行って下さった本はあったのですが…、運悪く内戦勃発直後に戦闘に巻き込まれ、ダメになってしまい…」

「中立宣言をしているから外から入手することも出来ないと」

「そうなります」


 となると別の街か…。



「なあ、何で、街中で戦闘があったんだ?」

「ああ、簡単ですよ。私達夫婦が統治するここ、チャユカは、獣人達が引きこもっているとはいえ、獣人領域との境界にありますから」

「外部の力を借りよう、もしくはそれを防ごうとする勢力が中央にいればいいのに、一定数居たのですよ」

「クアリを狙う不届き者を根絶していましたら、このザマです、…市民には悪いことをしました。後悔はしていませんが」


 テクゥさんが言い切った。



 …あれ、予想に反してクアリさん、アイアンクローしないのか。今のテクゥさんならアイアンクローされても「俺はこのまま死んでも後悔しない」って言い張りそうだけれど。



 となると、言われて照れているのか。…そう思ってみてみると心なしか頬が紅いような。



 …俺もテクゥさんと同じく四季に手を出されるようなら黙っている気はないけれど、本人を前に言える精神力はない。



「あ。市民に犠牲は出てませんよ?」


 出てないんかい。



「むしろグルグル巻きに縛られていました。これでも私達慕われているので。」


 でしょうね。謝罪で市民を焼こうとするのだから。嫌がる人を無理やり焼いても謝罪にはならない。…この人達の「死んで謝罪」はかなり軽い気がするが。…いや、違う。……「勇者」という称号が重いんだ。髪と目で判断していたし。



「本があるのはどこー?」

「一番確実なのはなんだかんだで皇帝(笑)のところですね」

「首都炎上はなかったので」


 ならそこでいいか。目的地である谷──シャルシャ大渓谷──の入り口も地図を見る限りそこにあるようだし、ちょうどいい。



「出発はいつされますか?」

「一応早ければ早い方が良いです」

「では、明日まで待っていただきたい。中立とはいえ獣人の方が来てくださった。色々とすり合わせをさせていただきたい」

「どうします?シールさん。俺は構いませんが」

「私も習君と同じく構いませんよ」


 子供達も一斉に続いた。



「なら、そうさせてもらうよ。宿は…?」

「お泊り下さい。たいしたおもてなしも出来ませんが」


 「お気になさらず」は、言っちゃダメか。頷くだけにしておこう。



 のんびりさせてもらうか。

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