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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
173/306

153話 チャユカ

 『中立(・・)都市 チャユカ』…か。



「シールさん。俺らが出ます」

「え?ごめん。なんて?」


 ちゃんと聞きとってください…。ちゃんと発音しましたよ?



「私達が出ます」

「…そうかい。なら任せる。君らが出たほうが早そうだし」

「ん?誰だ?それより何用だ?」


 そんなに門番さんは用件を聞きたいのか…。



 シールさんが簡単に俺らに交渉を譲ってくれた理由は、シールさんが明らかに『獣人』だと分かる見た目をしているにもかかわらず、そんなことを無視して、『中立』という事を主張し、用件を聞いてきたからだろう。



 だから俺も四季も速攻で出ると決めたんだが。



 馬車を降りて前へ…は、子供たちが許してくれなさそう。不意打ちされる可能性あるもんね。されても即死はしないと思うけど…、あ。駄目ですか。



 声に出してないのに泣きそうな顔しないでよ…。特にアイリ。一見無表情に見えるからこそ、瞳に宿る悲しみが尋常じゃない。無性に罪悪感を掻き立てられてそれだけで死ねる。



 諦めて御者台から顔だけだそう。かっこつかないけど。



「「こんにちは」」

「は?」


 挨拶をしたら固まってしまった。…銀髪で赤目、蝙蝠のような羽。吸血鬼だろうか? …多分違うか。職務に忠実そうな好青年といった感じ。



「えー、あー。失礼ですが質問よろしいですか?」


 お。再起動した。頷いて肯定を返す。



「お二人は勇者様ですか?」

「「そうです」」

「すみませんでした!今ここで胸を掻っ捌いて死にます」

「「待って」」


 いきなり土下座&自害宣告。訳が分からない。でも、とりあえず止めて。死なれても嬉しくないから。



「…え?なるほど、私だけでは足りないと!では、家族纏めて死んできます!」

「「もっと待って」」


 四季の敬語も、この人の好青年っていう印象も崩れてる。発想が突飛すぎる。自害すらやめてって言ってるの! だから家族諸共とか余計に不要!



「…戦いにはならなそうだけど、どうしたの二人とも?」

「この人がいきなり自害宣言してきて困ってる」

「…なるほど。なら、一般人で近衛だったわたしが適任」

「え。アイリちゃんって…、」

「…大丈夫。ちゃんとできる」


 止めようとするシールさんを手で制して胸を張ると、ふわりと馬車から降りてきて彼の横へ。



「…ねぇ」

「はい、なんで…、うぉぉぉぉぉおお!」


 何でアイリが声かけただけで泣き出すの。しかも感涙っぽい。恐怖だったらこっちも考えがあるけど…、喜び。もうこの人嫌だ…。



「…お父さん。お母さん。降ろして。びっくりしたけど平気だよ」

「「え?…あ。わか(りまし)た」」

「…無意識!?」


 アイリ。正解。俺も四季も、無意識のうちにアイリを抱っこしてこの人から遠ざけてしまったようだ。



「…で、どうしたの?」

「その目、その髪、その鎌…。貴方は『アリア』様の御子孫ですか?」

「…?違うよ。わたしは『アイリ』名前は似てるけどそれだけ。両親はこの二人。「あ。なら」…ん?」

「家諸共纏めて死にます」

「…何でそうなるの」


 全力疾走で街へ駆けていく彼の羽をガシッと掴んで引き倒す。怪我されても死なれるよりマシ。怪我させずに普通に止めることは不可能だった。そんなところに全力は出さないでください。



 アイリの顔は死んでいる。たぶん俺らの顔も死んでる。発想がヤバい。アイリでさえ死んでるのが得にヤバい。アイリはこっちの世界の子なのにこれ。ということは、この人は異世界基準でも意味不明。



「おねーちゃんじゃ、「勇者」にしか見えないからダメなんじゃなーい?ボクが出るよー」

「え゛。カレンちゃんもアイリちゃんとどっこいどっこいなんじゃ…」

「そんなことないよー」


 倒れ伏す彼にカレンが声をかけた。カレンはハイエルフだけど大丈夫か?



「一族郎党纏めて死んできます」

「駄目だったねー」


 カレンは男性を弓矢で服を射抜いて倒した。ダメって言うレベルじゃなかった。耳だけでエルフって察したな。



「では、(わたくし)が…」

「「「やめて」」」

「ですよね」

「わかってくれてよかったよ。レイコちゃん。さすがシュウ達のむすm「周辺の家を爆破して死にます」めぇえええ…。この程度でもダメなの?」


 みたいですね。神獣とは一言も言ってないのに。びったんびったん跳ねて服を引きちぎって街へ行こうとするからカレンがもう一本矢を増やした。うわ、まだもがいてる。



「俺が最初に出るのが一番マシだったんじゃねぇ?」

「かもね。どのみち変わらなかったんじゃない?」

「ですね…。馬車確認で私達に遭遇するのは避けられませんし。むしろ余計に悪化するかもしれません」


 だね。後からガロウが俺らの息子とわかるほうがダメージ大きそう。



「あ!最初の方は一体どんな方なのですか!?」

「え、僕かい?僕はしがない群長さ」

「街ごと死にます」

「「「やめて」」」


 何で言っちゃうんですかシールさん!? 絶対「しがない」とかいらなかったでしょ!? あ。服千切れそう、マズイ!



「縛って!縛って動き止めて!」

「後、口に死なない程度に何かねじ込んでください!」

「…ん」


 無表情のまま彼の口にアイリが石突をねじ込んだ。よし。よくやった。偉い。



 頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれる。癒される。褒めてる行為は鬼畜の所業だけど気にしない。舌を噛みきって死なれても困る。あ。口の中に毒薬は…、よし、ないな。



「門番さんにする所業じゃねぇ」

「ガロウ。感覚がマヒしていますよ。最初の方からおかしいです」

「うぼわぁ」


 変なところで落ち込まなくていいから!



「アイリ、石突抜いて」

「…ん。…自殺は許さないよ」


 アイリが石突を口から抜いた。



「何故です!?…ハッ!?なるほど、自ら手を下したいと!わかりました!好きなように嬲ってください!」


 うわぁ。



「住民も構いません!」


 うわぁ。



「私のせいですが、納得してくれるでしょう!」


 うわぁ。…ん?



「私のせいですが、」

「納得してくれる?」

「はい!納得してくれるはずです!」

「「何故です?」」

「それはですね、私がこの『中立都市 チャユカ』を治める『テクゥ=チャユカ』ですので!」


 何で領主が門番してるの…。



「…とりあえず入っていいですか?」

「どうぞ!全身全霊をかけておもてなしします!…あ。少しだけお待ちください」


 縛った縄を引きちぎり立ち上がり、走って門のすぐそばの道の右にある大きな屋敷に入るテクゥさん。20秒ほどで彼によく似た魔人さんを首根っこ掴んで戻ってきた。



「親父!理由説明しろよ!引きずんな!歩く、歩くから!」


 息子さん(仮)が叫んでるのにテクゥさんは全無視して戻ってきた。



「代われ。お客様だ」

「お客様かよ!理由さえ言ってくれれば走ってこっちに来るわ。糞親父。あ。どうもお見苦しいところを見せてすみま…、」


 む、嫌な予感。先手を打つ。



「「跪いたら殴りますよ?」」

「じゃあ、跪きます」


 何故。



「愚息のくせに生意気だぞ!?先に私だ!」


 テクゥさんも跪く…、というよりこれは土下座? 実に踏みやすそう。…踏まないけど。



「…無視して勝手に入ろう」

「ですね。最近、変な人に良く遭遇しますね…」


 ほんとにね。ガラガラとセンが馬車を引いて動き出す。テクゥさんの屋敷に門番さんはおらず、門は開けっ放しで哀愁すら漂っている。この哀愁は、背後から聞こえてくるテクゥさん親子の罵倒合戦によるものだろう。



「テクゥさんはアレだけど、嫁さんはたぶんまともだよな?父ちゃん」

「たぶん。屋敷にいるだろうし行ってみる?」

「行きますか。勝手に入ることになりますけど、多分怒られませんし」


 勝手に敷地の中へ。丁度よさそうなところに馬車を止めて、さて、玄関をノック…、あれ、戸が開いた。



「いらっしゃいませ」


 中から出てきたのは、金髪赤目で、尻尾の先が矢のようになっている女性。メイドさん? いや、でも、テクゥさんの息子に似ているような…。



「あ。どうも。勝手にお邪魔してます。」

「問題ないです。中に入られます?」

「お願いします」

「では、ご自由にどうぞ。私は少々外出してきますね」

「え?あ。はい」


 返事しちゃったけど、どうしよう。さすがに家の中は…。誰も出てくる気配がない。そして女性は上品に屋敷から門までの道を歩いていて戻ってくる様子がない。仕方ない。待つか。



 女性は門までたどり着いて左へ折れ曲がる、姿が見えなくなったと同時に「「ギャァァァー!」」という悲鳴。そして、ガッシリとテクゥさんの腕を掴んで楽しそうに戻ってきた。



「習君。あの女の人って、間違いなくテクゥさんのお嫁さんですね」

「だね。間違いなく」

「では、腕を組んで歩くという黄銅で微笑ましい光景のはずなのに、全く微笑ましく見えないのは何故でしょう?」

「簡単だよ。四季。わかってるでしょ?あの女性の顔が怒ってるからさ」


 「何していたんですか?」と言わんばかりの迫力で、ニッコリほほ笑んで一切目を逸らさずにテクゥさんの目をじっと見つめている。だからだろう。



「父ちゃん。母ちゃん。テクゥさんの精神って鋼なのか?」

「かもね」


 そんなことされてるのに一切動じてないし…、それどころか砂糖吐きそうな言葉を女性に投げかけているものね。お世辞でもなくご機嫌取りでもなく本心から言っているように見える。



「そう言う意味では、女性も鋼ですか」

「かもねー」

「恐るべき精神力ですね。私なら耐えれそうにないです」


 四季が俺を見る。サッと顔を赤くして目を逸らす。ごめんね。ここで「こんな風に?」とか言って実演できるほど俺は強くないんだ。



(わたくし)も無理そうですね」

「そうなのか?」

「言われ慣れておりませんから。

「ああ。そっか。そうだよな」


 あれ、ガロウとレイコは普通に流すのね。



「あら、お入りになっていてもよかったのですよ?」


 目をテクゥさんから逸らさずに声だけ飛んできた。



「勝手にここまで入りましたが家の中はちょっと、ねぇ?」

「はい。それに、失礼ですが貴方がそういう許可をちゃんと出せる人だと思わなかったので」


 この人がテクゥさんの嫁だと分かっていても入らなかったとは思うけど、言い訳としてはちょうどいい。



「あら、そうでしたか。私は『クアリ=チャユカ』この人の妻です。どうぞよしなに」


 見事なカーテシーを決めた。



「これはどうもご丁寧に。俺達は「勇者様だ!」「えぇ!?勇者様!?」うわぁ…」


 「死のう」「ええ。街ごと」とか物騒な会話を聞いた瞬間、黙って二人ともを柱に縛り付ける。そのまま自己紹介。舌は噛ませない。自殺はさせない。…何で自己紹介するだけなのに、拷問まがいのこんなことをしなければならないのか。







______


「やっとまともにお話が出来ますね。」


疲れた。何故か知らないけど猛烈に疲れた。獣人100人と闘った時よりも疲れた。応接間の椅子がフカフカでこの苦労を労わってくれ…、



「質問してもいいですか?」

「ゴッ!」


 なかった。クアリさんがテクゥさんをぶん殴って引きずって部屋から出て行った。…あぁ、調度品が綺麗だ。



「…死んだ目になるのはやめなよ」

「この程度の調度なら失礼だけど、僕たちの国にもあった、というか溢れてたよね?」

「イベアおーじょーにもあったよー!」


 知ってる。だけど綺麗だし、いいじゃん。ドアの向こうから聞こえてくる音に比べれば実に平和。



「貴方はッ!何をッ!いきなり!質問しているんですかッ!?」

「クアリ。今日も髪に艶があって美しいね」

「当然ですッ!ですがッ!それと、これとはッ!別ですッ!」

「この拳を振るう細腕も華奢なのに力のギャップがあって…そそる」

「知ってますッ!」


 …聞くのやめよう。猛毒だ。何で殴打の音よりも二人の声の方がはっきり聞こえるんだ…。



「…声をちゃんと出してるからでしょ」


 何言ってるの? そんなアイリの目。それはわかってる



「いちゃついてる時の二人はあれよりすごいぜ?言葉なしでも、互いを信頼してる、好きだ、大好きだって伝わってくるぞ」


 その情報は要らなかった。たぶん真面目な時の話か。その時は、確かに信頼してるって気持ちはある。だけど、好きって気持ちはあった…か? ガロウが言ってるから無意識に出してるんだろうか。



「お二人は何故虚空に視線を彷徨わせていらっしゃるのですか?」

「僕らと目を合わせるのが嫌なんだろうね。同意されるからね。恥ずかしいんでしょ。僕としては美味しい」

「失礼しました」


 クアリさんが戻ってきた。テクゥさんと一緒に。



 表面上テクゥさんは無傷だけど、何となくわかる。何本か骨とか神経とか逝ってる。何でニコニコ出来るのかがわからない。…問題ないっぽいし、いいか。



「質問構いませんよ?」

「よかったですね。ほら、貴方」

「単刀直入に聞きます。今回の勇者召喚、召喚者の望みは何ですか?」


 初っ端から答えにくい質問。相手が魔人でなければサラッといえるんだけど。困った。だけどぼかしたところで…、はぁ。



「非常に言いにくいのですが…、」

「私達がそれを言っても怒りませんよね?」

「ええ。私達は怒りませんよ」

「万が一、私達が反した場合、私は夫、息子諸共死んで詫びます」

「「詫びに死ななくていいです」」


 嫁さんもわかってたけど変だ。だが、言質は取った。一応、自殺されないように『回復』を用意しておこう。さすがに即死は出来ないはず。よし。



「私達を召還した者達の願いは『魔王討伐』です」

「「は?」」


 ありゃ。一切の焦らしがなかったからか理解できてない? ならもう一度。ついでに『回復』の紙を増やしておこう。



「ですから、俺達が召喚された理由は『魔王討伐』です」


 プルプル震えだした。…不味いか? カレンとアイリにすぐ抑えられるようにしておいてもらって…、



「「や…」」


 「野郎どもふざけやがって!戦争だ!」とか? そうなったら前言撤回して全部焼いて逃げる。



「「やったー!」」


 俺らの緊張感とは裏腹に、二人の口から出たのは喜色に溢れた声。…意味が分からない。



「やった!これであのクソ皇帝共が死ぬ!」

「そうですね!やっと統一されますわ!」


 ハイタッチの後に手を繋いで嬉しそうに手を振る二人。クソ皇帝()



「あの、待って下さい。皇帝って何人もいるんですか?」

「はい!いますよ」

「ここ400年程ずっと内乱中ですよ!」


 サラッと告げられるとんでもない事実。二人にはしばらく喜んでおいてもらおう。



「シールさん、どうします?」

「…どうしよう。引きこもってたからそんなこと知らなかった」

「私達は勇者ですから…」

「本で一応知識を付けはしましたが、結局『フープモーツァ』という国があるとしか書いてなかったので…」

「…わたしも知らないよ。魔人についてはお父さんとお母さんと同じ程度の知識しかないから…、魔族は統一国家だと思ってた」


 アイリの言う事は大人三人の総意。本当にどうしよう。



「何が問題なんだ?父ちゃん達」

「僕がどこと交渉したらいいのかわかんないのさ」

「あぁ。交渉したとこが負けたら困るもんな。」

「「お前らあいつら援助しただろ!だから死ね!」とか(わたくし)達に言ってきそうですものね」

「それだけじゃないよ、二人とも。交渉してから他の内乱勢力へ行こうものなら「こんにちは!君らスパイだよね?死ね!」の可能性がある」


 うん。そのうんざりした顔は正しい。



「逆に、相手が優しければ「こんちには、死ね!」はないですが、逆に「こんにちは!え?交渉!いいよ!中に遠慮なく入って!」で罠とか一切なく、こちらを疑いすらしないのは問題ですしね…」

「何故に?」

「…ヒント。ネジ」


 ものすごくストレートなヒント出したね、アイリ…。こっちでも同じような言葉はあるから伝わるだろうけど…。



「あぁ。馬鹿すぎるのか」

「交渉してもすぐ滅びそうですね…」

「そういうこと」


 早かったね。つまり、そう言う国とは交渉するだけ時間の無駄。お金稼ぎとか、勢力伸ばしたいとかだったら隣国の内乱はお祭り。だけど、今回は交渉がしたいから嬉しくない。チヌカに備えるなら纏まってくれている方がありがたい。



 それに「外征で国内纏めるぜ!」とか言って獣人領域──ペリアマレン連邦──に宣戦布告! とか目も当てられない。…あれ? 人間領域(バシェル)としょっちゅう戦争してるとか言ってたような…。なら大丈夫かもしれない。いや、でも警戒はしておくべきか。バシェルの対魔族戦線はクラスの皆に任せるけれど。



「あれ?俺ら都市に入っちゃったけどいいの?」

「ここは大丈夫です。ね?」

「ああ。ここ「ええ!大丈夫ですとも!」だって」


 放置してたのに戻ってきた。



「その根拠はどこに?」

「中立都市宣言をして400年、未だに保たれております。それが証拠です!あ。そうそうこの前、皇帝(笑)が来ましたけど、森林火災起こして帰っていきましたよ!ざまぁ。あ。でも、何で燃えたんですかね。魔物がいるから消えるはずなんですけど…。それに魔物、火事になってもこっちにそんなに来ませんでしたしねぇ…」


 一気にしゃべらないで欲しい。消化しきれない。



「燃えたのは獣人領域でスタンピードがあって魔物が減っていたからですね」

「だから僕がここにいるわけさ」

「え!?そうなんですか!?」

「そうだよ。全流しされたけど、僕の目的は交渉さ。…内乱中だからいきなり頓挫したけど」


 第一歩から躓いた感じが凄い。



「なぁ。テクゥさん皇帝陛下を凄く馬鹿にしてたけどいいのか?後、中立都市宣言ってそこまで効果あるのか?」

「ガロウ。口調が荒すぎます」

「お気になさらず。レイコ様。私と妻の方が位階は下ですから!」


 断言しやがった。



「貴方、説明。」

「わかってるよ。相変わらず艶のある美しい赤目だね。フッフッフ。ガロウ様甘いですね!あの自称皇帝(笑)なぞどうでもいいのです。私達さえ突破できないのですから」


 惚気からノンストップで質問の答えに繋いだぞこの人。違和感しかない。それにしても、見たことない皇帝陛下ボロクソに言われていて少しだけかわいそう。



「それに、中立都市は意味がありますよ。私達夫婦は先ほど夫が言ったように、この『チャユカ』で400年前からずっと中立宣言しています。それを維持するためにここだけで全てが回るようにしました。この意味がお分かりですよね?」


 二人の赤い目が値踏みするように輝いた。…あぁ、この人たち、間違いなく有能だ。今までの態度から、間違いじゃないか? と思うこともあったけれど。



 ここだけで完結させることで周りからの影響を一切断ち切った。だから中立でいられる。たまに来る侵略者はテクゥさん達が出るだけで事足りる。そんな状況を作って侵略しない。それが400年。俺らがあの時思った以上に中立(・・)だ。入ったのは間違いではない。



「なあ、父ちゃん。今この人400年って言わなかった?」

「言いましたよ。二回。それがどうされました?」

「長くねぇ?」

「そうですかね?私達夫婦は長命種なので…。種族名は…、何だったっけ?」

「全く、貴方…忘れたんですか?」

「ごめん。その麗しい漆黒の羽に免じて許しておくれよ」

「全くもう…、仕方のない人。私達は…」


 もしかしなくても。クアリさんも忘れた。



「皇帝(笑)の名前は『リャアン=フープモーツァ』ですよ」

「ちなみに全ての自称皇帝の国名は『フープモーツァ』だから区別するのに皇帝名で呼んでいます」


 ニッコリほほ笑んで話逸らした!?



「その上、私が門番をしていて知る限り、皇帝は大小合わせて200人はいますね」

「ちょっと減って180になってますよ。私達より小さい国家(笑)が滅ぼされましたし」


 話逸らされたのはいい。多すぎる。統一なんて出来るのか? 放置していても何も問題がなさそうなレベル。…チヌカのことさえなければ。



「中央に『ナヒュグ=ホグウィ=フープモーツァ』が居られますがね」

「「ちょっとその辺り詳しく」」


 敬語を使うという事は有力者のはず。ならば、せめてその人にだけは接触してもいいはず。ついでに人間としょっちゅう戦争してる皇帝も聞かないと。両方ナヒュグ様だったらお手上げだ。

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