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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
17/306

17話 雨

 とりあえずセンは無事に撤退させる!



「四季!」

「はい!」


 四季は俺が欲しかった紙をサッと出してくれる。よし。



「「『『土』』!」」


 出てきたのは巨大な一枚の土の板。速度はないし、攻撃力もない。ただ、頑丈さだけはある。センに攻撃を届かなくさせることぐらいは余裕だ。ついでに、今のうちに森へ移動しよう。



 「ぐちゃ、べちゃっ」と壁にアロスのぶつかる音がする。耳に残るあまり聞きたくない音だ。



 ボロスは躍起になって、壁を破壊しようとしている。だが、無意味だ。センは撤退したようだし、俺らはそもそもその後ろにいない。



 やつが無駄に命を消し飛ばすその横で、森の中で方針を話し合う。



「逃げるのはダメだ。確実に死ぬ」

「でしょうね。馬鹿に見えますけど、破壊力はありそうですもんね」

「…今、壊れたよ」


 土の壁が崩壊した。あいつはその後ろに誰もいなくて驚いているようだ。すぐに見つかってしまうな。



「とりあえず、核はどこだ?」

「わかりません…」

「…わたしがあてにならないのは知ってるよね?」


 目下の問題は「核はどこにあるのか」だ。核を破壊しない限り無限に出てくるだろう。出てくるのはアロスだけでボロスは出てこないかもしれないけど…、無駄骨はおりたくない。確実な方法をとるべきだ。



「ボロスがここにいる以上、核もこのあたりにあると思うんですよね…」

「そうだよな。今までの傾向的に何か目立つ地形のところにあると思う」


 岩山と湖。サンプル数は少ない。けど、試してみる価値はあるはずだ。



「…あそこに一際目をひく木ならあるけど…?」


 アイリが指さすのはこの道をまっすぐ行き、緩くカーブしているところをそのまま脱線して、直進したところにある森の深いところにある木。暗くてよく見えないが、一本だけ際立っている。高さは雲が下のほうまで下りてきているのかもしれないから、誤認しているかもしれないが。



「可能性はあるな」

「行きましょう」

「…ん」


 ビュッ!



「畜生!バレた!」

「どうせ、行くんです。行きましょう!」

「ああ!」


 ビュンビュンとアロスが飛んでくる。が、これくらいなら蜂のほうが面倒くさかった。



 速度はあっちよりもあるが、毒がなければコントロールもない。



 まじめにやれと言いたくなるレベル。でも、当たれば確実に蜂よりも痛いので避ける必要があるが。



 ただ、ボロスが命を消耗品のように扱うのが不愉快だ。魔物だが…。それでも生きてんだぞ。こいつを作った奴は相当頭が逝ってるな。



「キャッ!」


 足を滑らせた四季の手をサッとつかむ。



「大丈夫か、四季」

「ありがとうございます…。習君」


 四季は頬を赤く染めている。服が濡れていて普段にはないものがあって…ってそうじゃない。そうじゃないだろう!?今はそういう場合じゃない。



「行くよ」

「はい!」


 頭を切り替える。四季が滑った理由は簡単。四季は天然じみてるとはいえ、何もない平地で滑ったりしない。滑った答えは雨のせい。



 ボロスはノーコンだ。これはさっきも言った。

 

 

 だから発射されたアロスの雨の一部は、俺たちの進路上に来て、血、骨、臓物をぶちまけ、地面をえぐって死ぬ。



 これだけでも歩きにくくなるのにこの雨だ。こいつのせいで、地面はぬかるみ足を取られるし、アロスの血を広げてしまう。

 

 

 どうも、アロスには何もないと思っていたが…、血は滑りやすくする効果…スリップ効果とでもいうべきものがあるようだ。凶悪なコンボだ。



 ほんと、こいつマジでアロスの犠牲前提で作られてるな…。しかもアロス食ってやがるし。回復か?



「…ねぇ、そろそろ核見えない?」

「核は見えないが…、霧の発生源はほぼ特定できた。あの木の付近だ」

「…じゃあ、あの辺でいいのね」

「ああ」

「…よかった」


 ホッとした表情をするアイリ。思わずアイリの頭に手を伸ばして撫でる。



 アイリは一瞬だけきょとんとしたのち、ちょっとだけくすぐったそうな顔に。そしてすぐに、



「…まじめに」


 と言った。顔がころころ変わって面白いけれど、やめておこう。



 さっきから四季がしゃべっていないが…。四季は目を凝らして、木を見つめている。



「核ありました。どうもあの木の天辺のようです」

「…雷で勝手に壊れたりしない?」

「対策されているでしょうね」

「だろうな。となると、電気はもちろん熱もダメだろうな」

「風ならまだ使えますよ」

「わかってる。だが、距離がありすぎる。あの木が高すぎるからほぼ根元まで行かないと意味なさそうだ」

「…やることはさっきと変わらないね…」


 ああ、そうだな。と言おうとしたが、なんかあの木に違和感が。とりあえず『身体強化』を目に……うげぇ。



 見たくなかった…。



 四季も違和感を持っていたからか、俺と同じものを見てしまって顔色を変えている。



「…どうしたの?」


 アロスを叩き落しながら問うてくるアイリ。



「「できれば、見たくなかった…」」

「え?」

「アイリ。実はな、」

「あの木。葉っぱが全部アロスなんですよ。」

「………は?」


 アイリが俺たちに関する以外のことで、処理落ちしたのを見るのは初めてじゃないだろうか。



 いや、それより…。やはりアロスはあそこからきていたようらしい。核破壊が大変だ。



 ボロスは俺たちの様子を見て、あの木の秘密に気づかれたとでも思ったのか、



「グルアアアア!」


 全くかわいげのない叫び声をあげて、後退。そして、アロスが成長していない下のほうの枝をちぎり、口に放り込む。



 俺たちの攻撃は距離がありすぎて届かない。もしくは、ノーコンでも数うちゃあたるとばかりに、撃たれたアロスで打ち消される。



 俺たちが悶々とする中で、悠然とクッチャクッチャと品のない音を響かせる。食べ終わると、大きなゲフッっというゲップ。



 何かが変わる。それを全員が肌で感じ取った。



「グラアアアアアアアアア!」


 声と連動するかのように木の枝がしなり、枝から直接アロスが飛んでくる。



 頭おかしいんじゃねぇの!?



 投射量が激増した。こちらのやることは変わらないが…。



 ボロスに飛ばされるアロスと木から自力で飛んでくるアロス。こいつらは微妙に速度が違う。そのために、回避できる場所は時間とともに変化する。



 それだけじゃない。飛ばされるアロスは相変わらず、止まらず地面とキスして「グチャッ」という音とともに、命の灯を消している。残していくものは当たろうが当たるまいが非常に邪魔。



 飛んでくるアロスは外れると判断すると止まる。そして魔法で再加速して軌道を変える、撃墜する、もしくは魔力切れで落ちるまで止まらない。幸い魔力量が少ないためか、こちらを追跡できる時間は5秒もない。が、非常に邪魔。



 やることは変わらないが、要求される難易度が跳ねあがった。ゲームで言うなら、ノーマルからルナティックとかじゃないだろうか。



 ペンを使って自力で飛んでくるアロスを叩き落す。四季も自力で飛んでくるアロスだけを的確にファイルで防ぐ。早いやつはよければそれで終わるが、自力は落とさないとしばらく続く。

 

 

 返り血に毒とかなくてよかった。あればもう死んでる。なんだかんだあったけど、第一騎士団は強かったのだ。あんなごり押しが出来たからな。



「…どうするの?」


 飛ばされてきたアロスを切り落としながらアイリが尋ねてくる。さすがアイリ。とばされてくる奴にも対処できる余裕があるとは。



「逆に聞くが、このまま続けていけると思う?」

「…きつそう。ていうか二人とも、よくかすり傷程度ですむよね?」

「頑張ってよけているからな」

「そうです」

「…普通、戦ったことのない人は頑張っても、体をひねりながらジャンプして邪魔なものをはたき落としながら、着地したりしないと思うよ?」

「友人の父のおかげじゃないか?」


 あの人は色々教えてくれた。



「私は友人の母です」

「…えぇ…。二人の国は修羅の国?」

「「違う」」

「…うそだぁ…」


 とは言うものの…、さすがに無傷ではない。さっきの回転中、かすって傷をつけられた。しかも、木から直接飛んでくるようになって被弾回数は増えた。



 四季も似たようなもの。四季のほうがファイルなので防御範囲が広いからか、傷はましだけれども。服や体にそこそこ傷を受けている。

 

 

 ほんと、やりにくい…!



「…ねぇ、蜂の時みたいなのは無理?」

「「蜂?」」

「…ほら、最後、キラービ―はやる気失ってたでしょ」

「ああ…」

「ダメでしょうね…」

「たぶんな」

「…どうして?」


 納得いかない!という顔。そんな顔をしながらもしっかり回避している。君も大概な動きしてるよね。



「設計思想が違いますから」

「…何それ?」

「作った奴の考えと言い換えてもいい」



 ここで今までの敵をまとめて振り返ろう。



 まずはバッタ。こいつらは全員が全員、同じ地位を持ってて、リーダーがいない。が、種としては数で押しつぶしきってしまうことで存続する。そういうことを考えたタイプと言えるだろう。例えるなら直接民主主義か。

 

 

 こいつらは数で押しつぶす以外にない。だから、どんな状況でもそうせざるをえない。さすがに、触媒氷魔法は押しつぶせないと判断したのか回避っぽい動きしてたが…。まぁ、全部凍ったけど。



 次に蜂。こいつらはクイーンをトップとする2層。クイーンをリーダーとして、その指示に従う。クイーンの取った戦法は部下によるゴリ押し。バッタと同じに見えるが…、「巻き添えを積極的に戦闘に取り入れる」リーダーがいる点でまるで違う。そもそもクイーンはゴリ押し以外の戦法も取れた。先頭に立って戦うとかな。ただ、必勝パターンにこだわりすぎた。その結果があれ。蜂にも感情はある。例えるなら王政か。



 じゃあ、こいつらは?

 

 

 たぶん例えるなら蜂よりも強い王政。というか絶対王政…いや、洗脳か?

 

 

 部下がどんどん死ぬディストピア。だが、アロス達はそれを疑問に思わない。そいういうコンセプトで作られているからだ。



 木になって、飛んでいく。魔力が尽きれば落ちる。運が良ければ生き残る。もしくは、ボロスに飛ばされ死ぬ。か、食われる。



 絶対的リーダーに盲目的に服従を強いられる。これがこいつらの核。ゆえに、士気が落ちることなんてないし、そもそも感情すらあるかわからない。



 後のイノシシもどうせろくでもない。俺的にはこいつらの作られ方が一番嫌いだ。



 そういうことを長々とよけて、魔法ぶっ放して、進みながら四季と一緒に解説した。わかりにくいだろうが、わかってアイリ。



「…そう。じゃあ、ダメなんだね」

「いや、そんなことはないぞ」

「今のおかげでいいこと思い出しました」

「…何?」

「クイーンさ、途中でバラバラに撃ちだしてきたよな」

「…うん。そんなに意味なかったけどね」

「まあ、そうだけど…。俺たちが散開すればどうだ?」

「…狙いが散る…。あ、近づきやすくなるね」

「そういうことです。散ればフォローできませんけど。私達ならある程度さばけます」

「程よく近づけば合流。からの触媒魔法。これでどうだろう?」


 アイリは少し考えて、



「…わかった。やろう。真ん中は任せて。…一番マシでしょ?」


 提案してくれる。アイリに一番危険な真ん中を任せるのは心苦しいが…。それが最適解だ。



「すまん…、頼む」

「お願いしますね」


 一言謝ってから、俺たちは左右に散る。左右もデコボコだが、中央に比べればないも同然だ。



 さて、目論見通りボロスは俺たちがだいぶ距離をとったせいで、今まで通り攻撃をし続けても、アイリにしか当たらなくなった。奴も自分がノーコンな自覚があるのか、アイリをしばらく狙い続けるが、俺と四季がスイスイと前に進んでくるのを見て、狙いを変えてくる。



 だが、無意味だ。まだ『土』を始め魔法はある。避けられなければ使えばいい。だいぶ楽になった。このまま行けるか…。



 おっと!危ない。滑りかけた。油断大敵。油断するとすぐに死ぬ。気を抜いていい場面ではなかった。



 それがしばらく続くと、ボロスはあまりにも当たらなさ過ぎて腹が立ってきたのか、それとも、ノーコンなことを開き直ったのか、枝をさらに2本へし折って、食べ始める。



 だぁ!ピンポイントで妨害してくんなよ!このアロスどもが!ついに映画とかでよく見る機関銃乱射のようにアロスを撃ちだし始める。



 そして、アロスの奮闘で俺らに邪魔されることなく品性のかけらも感じない下品な食べ方で、アロスを食べ終える。そして、映画とかで見た機関銃掃射もかくや、という勢いでアロスを撃ちだし始める。




「弾速も上がった!?」

「上がりました!」

「…間違いない。上がってるよ」


 厄介だな!



 あ、避けれない…!?はたきおとす…のは、ダメだ!



「『ウインドカッター』!」


 飛んできたアロスは真っ二つになって、地面に激突した。危ない…。シャイツァーなんかではたき落としたら、シャイツァーは無事でも腕が死ぬ。



 だが、ここまでくればいいだろ。この距離なら確殺できるはずだ。後は四季と合流するだけ…。なんだが…。



 ボロスがやけくそになって撃ちまくってくるせいで、地面がボロボロだ。こいつ…もしかしてこれをわかっていたのか!?……ないな。



 まぁ、いい。やることは変わらない。ていうかやらないと終わらない。不安定でぐちゃぐちゃな地面を『身体強化』しながら、歩いて、飛んで、そしてたまに身をひねって一回転しながら、二つの飛び方をするアロスをいなして、叩き落す。



 アイリとの距離が狭まると、ボロスの射撃がうっとおしくなるが、十分に回避できる。最悪、また『土』で壁を作るか、文字通り、使い捨ての『壁』を作ってしまえばいい。



 よし、合流完了。



「『壁』!」


 使い捨ての紙が白い壁を築き上げる。これは、門の壁に影響受けたな。



「お疲れ」

「…ん」

「習くん!アイリちゃん!怪我してませんか?」

「四季と同じでかすり傷だ。問題ない」

「…わたしも。早く終わらせて」

「わかってますよ。やりますか」


 取り出したのは『竜巻』の紙。これならばボロスも木も根こそぎやれる。核にもダメージは入る。万一破壊できなくても落下ダメージで壊れる。



 手と手をがっしりと組み、


「「『『竜巻』』!」」


 唱える。瞬間、紙が狂ったように音を立て、風が渦を巻いていく。渦を巻きながら渦の中心に向かって、あらゆるものを引き込み、破壊する。こちらに飛んできていたアロスも、ボロスに撃たれて外れたアロスも、たまたまそこにあっただけの木も全てを巻き込み、舞い上げ突き進む。



 それを見たボロスはさらに枝をへし折り、スピードを上げて狂ったようにアロスを渦の中心に叩き込む。



 それでも足りないとわかると、さらに折って食べ、スピードを増加させる。



 しかし、竜巻は威力を衰える様子を見せない。それどころか、最初よりも大きく、真っ赤になってゆく。



 それを見て、諦めたのか、疲れてしまったのか…。どちらかはわからない。が、ボロスは脱力すると、声をあげることなく竜巻に飲まれて肉片と化した。



 ボロスを飲み込んだ竜巻は、なおも威力を保ったまま、木に激突。メリメリッ!という凄まじい音を立てて、木を地面から無理やり抜いていく。渦からはみ出た部分にあった枝葉もついでとばかりに全て巻き上げる。



 そうして、木の根っこをことごとく抜き去り、引きちぎってしまった竜巻は、そのまま空まで登っていき、雨雲さえも巻き込みさらに高度をあげる。空高く伸びていくとやがて、全てを弾き飛ばすようにして消えた。



 雨雲の水分が巻き散らかされたせいか、空には綺麗な虹が現れ、赤、緑のまだら模様が美しい。



「きれいな空だな…」

「そうですね…」

「…そうだね…」


 と感傷に浸っていたら、舞い上がっていたアロスの肉片や、木の一部。それに雲の中にあったであろう水がボタボタボタボタッ!と落ちてきた。



「一瞬で台無しだな」

「ですね」

「…だね」


 血まみれ、草まみれびしょ濡れになりながらも、それが面白くて全員で笑いあう。



「…ねぇ、ところで、いつまで手をつないでいるの?」


 手?…あ、やべっ。ん?何か来る?



「アイリ!よけろ!」

「何か来ます!よけて!」


 叫んだのは同時だった。



 だが、遅かった。黄色い何かがアイリを突き飛ばし、落ちてきている肉片の中から、竜巻に巻き込まれて割れた核の一部を探しだして掴みとった。



 俺はそいつを『ウォーターレーザー』で攻撃する。



 四季は突き飛ばされて木に激突したアイリに駆け寄り、声をかける。



「アイリちゃん!大丈夫?」

「…痛いけど大丈夫」

「目が真っ赤になってますよ!?」

「…目?あ…。大丈夫、元からだから」


 アイリは悲しそうな、それでいて慌てた声で四季にそう答える。木の根元にはアイリの目から落ちた壊れたコンタクトレンズのような魔道具が落ちていた。

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