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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
5章 魔人領域
167/306

147話 スタンピード

 馬車は進む。森を凪ぎ払いながら。



 馬車はセンのバリアで無傷。だが、馬車の図体が12人は余裕で乗れるサイズになったためだろう、森の奏でる音が派手になった。木の根が車輪に轢断され、枝葉が暴風にさらされて散る桜のようにいとも簡単に舞う。



「まともな道はないんですか!?」

「私達、好き好んで森を破壊する趣味はありませんよ!?」


 俺達の叫びに、この場にいないリンパスさん、リンヴィ様を除く群長達は苦笑い。



「あるにはあるよ」

「じゃが、それは儂らの午群の都『クーラン』と、」

「ミー達未群の町『ピード』への道なの」

「そして、スタンピード発生地点はその二つの中間地点さ」


 キャンギュレイさん、イラスさん、カプラさんときて、何故かシールさんがキラッと白い歯を見せて〆た。端的に言ってうざい。



「となると、現状が最短ルートですか…!」

「森も生きてるけどー。人命優先ー。最悪、後でドングリ撒けば」

「やめろスーラ。人命優先は同意するけど、ドングリはやめろ」

「何でさー?サンコプ―」

「単一樹林にでもする気かな?かな?」

「キャンが怖いー」

「お前は黙ってろ。後で俺っちが頑張って回復させるから!」


 サンコプさんは森の回復も出来るのか。尤も、回復というよりは、栄養を与える感じではあるのだろうが。



「そういえば。今更な気がするけど、カレンは森の破壊に対して何も思わないの?」

「どーして?」

「創作の世界では森の民で、バッサリ言ってしまえば森以外どうでもいい種族という事が多いからですね」

「なるほどねー。んー。ボクらのほーが極端かもー。世界樹以外どうでもいーし。緑が多いほーが、世界樹にとってはいーけどね」


 なるほど。…というか、獣人領域来るときも環境破壊していたけれど、悲しそうな顔はしていなかったな。



「…お父さんとお母さんはどうでもいいの?」

「いじわるだなー。おねーちゃん。そんなわけないよー。もちろん、おねーちゃんほどじゃないけどねー」


 「エイッ」と満面の笑みを見せ、こちらへ抱き着いてくる。二人で受け止めると、顔をグリグリ押し付けてくる。可愛いなぁ…。



「なあ。父ちゃん。母ちゃん」

「ん?何?」

「どうしました?」

「何で誰もズィラさんにツッコミいれねぇの?」


 馬車の外をジッと眺めながらガロウが言う。うーん、



「いつものことだからではないですかね?」

「そんな気がする。現に、言われたズィラさんも、他の群長達も首をかしげているもの」


 つまり誰もこの光景に違和感を覚えていないという事。たとえ、ズィラさんが首だけ(・・)伸ばして並走してきていても、いつものことなのだ。シュール極まりないけど。



「うへぇ…」


 俺も同じ気持ちだけど、そう言う事もあるさ。うん。



「ああ。アタイの話か。理由が知りたいかい?」


 馬車に乗っている俺達が全員揃って頷く。



「アタイが森に突撃すると木が目に刺さるのさ。だから、首だけを伸ばす。普通の道なら歩く」


 普通の道なら歩くのは言われたくともわかっております。…というか、普通の道で首だけ伸ばして移動の代替とするなんて、ホラーでしかない。



「丑群に群長帰ってきたよー!」

「「「「わぁい!」」」」


 と門? に駆け寄った子供たちが、



「「「「ギャー!!!」」」」


 と泣きわめく光景が容易く想像できる。まぁ、ここで、



「丑群に群長帰ってきたよー!」

「「「「わぁい!」」」」

「お話聞かせてー!」


 って、首だけ伸ばしているズィラさんの顔の周りではしゃぎまわられても、それはそれで反応に困るが。



「あの…、ズィラ様。首だけ伸ばしたところで、目に刺さるのは変わらないと思うのですが…」

「そうでもない。歩いていたら首の位置が固定されちゃうから避けにくいけど、今ならこう、首を上下左右に動かせば回避できるよ」


 わざわざ実践してくれる。首だけ伸ばして、曲げて木を回避。実際に見てみると、確かにこっちの方が避けやすそうではある。



「胴体は大丈夫なのですか?」

「戻るのは一瞬だし、問題ないよ。胴体は安全地点に置いてあるし」

「安全地点?」

「塔の最上階さ」


 どこから伸ばしてるんですかね…。どおりで微妙に首が斜めだと思った。



「…一瞬で戻せるのは、忌ま忌ましいよね…」

「この子、どんだけアタイの首を刈りたいのさ…」


 ドン引きなんだけど。とズィラさん。



「試合でかなりズィラさんに手こずらされたから…だと思いますよ。」

「…ん。お母さんの言う通り。…今ふと思ったんだけど、そんなに首を伸ばして強度大丈夫?」

「大丈夫。伸ばせば柔らかくなるとはいえ、そこまでではないさ。シャイツァーやら、シャリミネなら危ういけどそんなものは早々ないさ。」


 何でフラグを…。



「「あ」」

「どうしたんだい?」


 早速フラグ回収か? これは…。



「いつもの気配がします」

「いつも?なんのことさ」

「このスタンピード、おそらくチヌカもしくはそれに類するものが混じっていますよ」


 今回で何回目かなんて数えてないけど、今まで何度も感じたことのあるあの白と黒の気持ち悪い感じ。それが俺達の進行方向から漂ってきている。



「とりあえず矢を飛ばすよー」


 カレンが思いっきり矢を引き絞り、猛烈な勢いで発射。



「では、オレも」


 続いて木の枝をへし折りながらクヴォックさんが飛び立つ。二人で偵察。…たぶんカレンの方が早い。



「おー。敵がいたよー。接敵まで後40分かなー」


 やっぱりカレンの方が早かった。



「規模は?」

「そーとー。森焼き払ったほうが早いかもねー」

「そんなこと出来ないよー!?」


 スーラさんの絶叫が響く。この人の絶叫って割とレアなのでは…?



「何で?」

「ガロウお前な…。この森を燃やしてみろ。魔人族が最悪攻めて来る」

「儂らがあちらへ侵攻するには森が邪魔じゃからのぅ…」

「森火事の可能性は考慮されないのですか?」

「レイコ様。どこにもとんでもない馬鹿とはいるものなのですよ」


 レディックさんがそう言えば、全員が揃って遠い目をする。この人らも苦労した口っぽいしね。ハールラインとかハールラインとか、ハールラインとか。



「…死体蹴り?」


 になるな。やめておこう。



「とはいえ、何らかの要因で目が曇ることはよくあることですので…」

「例えば?」

「俺は、メジャーなもので言えば恐怖を挙げますが…。って、その目は何ですか皆さん」


 視線が俺と四季に突き刺さっているんですが。



「いや、のう…」

「その言葉から一番程遠そうなお前らが言っても…」

「ねぇ…」


 言いにくそうにしながらも全員が消極的賛成を示した。何でさ。



「あー。いたよー。おとーさんとおかーさんが言ってるのこれかなー?」

「どんなの?」

「泥でできた生きものー」


 また泥か。



「『ファヴ』がいましたから…、」

「多分それだな。カレン。数は?」

「いっぱーい。この生き物がー、群れをとーそつしてるみたいー」

「ならば、そいつらを全部倒しちゃえばこのスタンピードは収束するのか?」

「ガロウ。いい考えだ。俺も同じ結論。スーラ!」

「どんぐりだね!ハーティ!」


 互いに声をかけあうと、スーラさんは呪文を唱えると袋からごそごそドングリを取り出し、ハーティさんの鼻にグリグリと押し込む。乗せるだけでいいでしょう…。



「ド阿保」


 案の定、ズィラさんが首をぶん回して派手にスーラさんを小突く。ハーティさんはそれを無視、何故か上空を向く。その時、クヴォックさんが降りてきた。



「無意味な偵察乙!」

「俺とお前の空中用伝令も無駄だがな」

「ちくせう!」

「?何故無意味?」

「あー。言いにくいんだがよ。カレンの嬢ちゃんが偵察できたぜ」


 サンコプさんの言葉にクヴォックさんが崩れ落ちる。



「じゃあ、情報、要らない感じ?」

「距離と泥は要らないね」

「泥…?負けた…」

「見にくい色をしてるから仕方ないよー」


 ポンポンとカレンが慰める。…実にシュールな図である。というか、置いて行かれないように馬車の上で落ち込んでいるあたり、かなり余裕はある。



「数は?」

「多すぎる。200からは諦めた」

「概算は?」

「5000以上。下手したら万を超える」


 多いな…。



「わかった、爆撃して来い。泥を狙え」

「わかった。スーラ!」

「ドングリ食べろー!」


 クヴォックさんの羽の隙間にドングリを押し込んでいくスーラさん。この人のノリはよくわからない。



「じゃあ、行く」


 馬鹿みたいにドングリを詰め込まれたにもかかわらず、先ほどと変わらぬ飛翔速度で飛び上がっていった。



「ボクも負けないよー!」


 カレンが弓に矢を番える。『ターゲッティング』からの射撃。確実に泥に命中するだろう。ただ…、今ふと思ったが。



「射撃して意味あるか?」

「私もそのような気がします」

「だよな。ただの射撃じゃな…、泥だし」

「先のファヴ同様、コアを破壊しないといけない気がしますね」

「早く言ってよー!」


 貫通したのに再生されたー! と怒るカレン。ごめんよ。



 ズガアァン!



「獲物取られたー!」


 クヴォックさんが爆撃開始したようだ。



「…それより、魔物の様子は?」

「あの泥と似た魔物のとーそつは乱れたかなー」


 えい。そう呟くと、ものすごくいい笑顔を向けてきた。



「一匹倒したー!ばらばらになったー!」

「!?「隊列が」だよな姉ちゃん!」

「そーともいうー」


 そうとしか言わないよ。今の言い方だと、何故か矢の一撃で一匹が肉片になったように聞こえる。



「作戦変更。泥を潰せ。これは継続。その後、周囲を圧迫。群れを壊乱」


 ハーティさんの重々しい声に全員が同意する。



「じゃあ、私がクヴォックに作戦続行の合図送るね。爆撃だし、壊乱までできるから。『|竜巻拳《ヴェヴァンダ=ムッティー》』!」


 理不尽なまでの拳速によって竜巻が生成。そこにスーラさんがいつの間に取り出したのか、追加でドングリをばらまき、舞い上げる。



「これでよし」

「どこが!?」


 ガロウのツッコミ。だが、ようやく聞こえてきた猛烈な足音にかき消され、消えた。



「カレン。敵の範囲は?」

「広いよー。だいたい1 kmくらいに広がってるー?」

「なら散開しろ!絶対に通すな!」

「「「「応!」」」」


 ハーティさんの指示に応える力強い声。それによって群長達が広範囲に散る。では、俺らもやりますか。



「各自自由行動!」

「自分が最善だと思う行動を!」

「…ん」

「わかったー!」


 颯爽と飛び出していく二人。それと対照的にガロウとレイコは不安そう。



「方向性は示そうか?」

「お願いいたします」


 即答か。なら…、



「ガロウは『護爪』を壁に。通さないように。これで200 mはカバーできると思う」

「レイコちゃんは火災を気にする必要がないのですから、思いっきりやっちゃってください」


 それだけ言って二人の背中を押す。もう既に二人なら出来るはずだ。



「ブルルッ!」


 「忘れないで!」と鳴くセン。…ごめん。忘れてた。センは…、センはなぁ…。



「馬車がなぁ…」

「ですよね。どう考えてもこの馬車が邪魔ですよね」


 獣人領域を出ることしか考えてなかった弊害だな。



「あ。その馬車の強度はかなり高いよ。アタイの首ほどじゃないけど」

「なら…、」


 決まったな。二人で顔を見合わせて頷く。



「蹂躙してきて」

「馬車はバリアで守っててくださいね」


 最初からそれを言われることを予期していたように、楽しそうに鳴くと全速力で突撃、早々に魔物の肉片と木の枝が舞う。



「まったく、掃除が大変そうじゃの」

「どんぐり食べる?」

「食べぬわ!」


 ここで「森を焼く?」と言わないだけ、まだスーラさんは理性がある。…ただドングリのことしか頭にないだけかもしれないが。



「さて、私達は…、」

「いつも通り二人で行きますか」

「後ろは任せろ!父ちゃん!母ちゃん!」

「ですが、過度な期待はよしてくださいな!」

「大丈夫だ」


 俺らが何か言う前に、ハーティさんの力強い声が響く。「俺を倒したんだから」わざわざその言葉を付けなくても、そう言いたいのだと主張する程の圧倒的な質感の籠った声。



 それを聞いて、二人の顔は引き締まった。



「ありゃ。仕事を取られてしまいましたね」

「だね。でもせめて、」

「「任せ(ました)!」」


 とだけは伝えておこう。



 手近な群れに水球を落として圧殺。あっ。泥が…。水じゃダメか!



(アムン)


 水が降ってきてコアごと泥が溶けた。声のした方向ではサンコプさんが親指を立てている。会釈だけしてさらに奥へ!



 断続的にクヴォックさんによる空爆の音が響いてくる。音がするごとにあの白と黒の汚い気配が確実に一つずつ消えていく気がする。数が多すぎるな…。



「試合の時、真っ先に潰しておいてよかったですね」


 全くだ。



「即死させられたスーラもいいとこ見せるよー!」


 あ。スーラさん。いつの間に。って、木の上に猿らしき魔物がいるだが、気づいているのか?



 ダメだな。気づいてない。なら…、



「あひゃっ!?」


 あ。俺らが何かをするよりも早く、飛んできた羽がスーラさんの頬を掠め、彼女の後ろにいた猿、および周辺の魔物を一撃で仕留め切った。



 あの魔法は確か…、『羽のパンクシュヴァリシュ』だったか? リンパスさんとじゃれていた時に聞いたせいか、いまいちイメージがわかない。だが、狙いの正確さは驚嘆に値する。



 ビュッ!と 俺達の目の前を巨大な矢が横切る。そのまま、変態的軌道を描きながら泥の獣の持つコアを射抜き、周辺の魔物の脳、心臓などの弱点を一撃で射抜き葬り去っていく。



「カレンちゃんの方が正確ですね」

「…だね」


 どこから見ていたのか、カレンが珍しく妬いたようだ。ただ、一つだけ言っておきたい。目の前に矢を通過させるのはやめて。びっくりするから。



「むー!スーラだってすごいとこ見せる!スーラの魔力、スーラの好きな形を作れ!いくよ!『食べたくなるドングリ(ロルーフバル)』!」


 子供みたいな理由を唱え、子供のような詠唱を経てドングリがばらまかれる。



 どう考えても怪しい、というか安心できる要素が微塵もないドングリを魔物たちは一切、躊躇せず食べる。そして、爆ぜる。内部から破壊されて魔物は即死した。



「どーだぁ!」

「「『『ロックランス』』」」


 後ろから爆音を立ててスーラさんに迫ってきていた馬っぽい魔物をリーダーである泥馬もろともまとめて粉砕。



「油断大敵です」

「だねー!あ。次いっていーよ!」


 本当にいいんですかね…。いささか不安ではあるが、腐っても群長だ。次へ行こう。



「さっきのはドングリを食べさせて、体内爆破。ついでにドングリは無性に食べたくなるような仕掛けがされていた。こんな感じで良いのですかね?」

「おそらく。人間には食欲増進は効かないだろうけれど、原始的な食欲で動いているような奴らには効くだろうね」

「三大欲求を直接刺激するようでしたしね」


 人間には効かなくとも、今回みたいなケースでは間違いなく役に立つ。



 話しつつも走ることはやめない。さらに剣の一撃で敵を刻んだり、魔法で敵を刻んだりと言ったことも並行してやる。



 忙しい。ペンやファイルから直接火を出したりするのは燃費が最悪。だから使用は控えねば。取り回しはいいのだが。あれ。



「砕けなさい!」


 キャンギュレイさんの声。彼女の周りは死屍累々。力押しで普通の魔物はおろか、泥の魔物まで粉砕している。



 何やってんだあの人。



「あ。こっちは平気だよ。他を当たって。『連続拳《エンデル=ムッティ―》』!」


 技名を叫び、近づいてくる牛の腹を一撃、横を向いて別の牛に一撃。それを飛び越えて3頭に連続でパンチを放ち、首をへし折る。仕上げとばかりに、



『|風爆拳《ハヴィスコ=ムッティ―》』!


 と叫んで、泥の魔物を先ほどほぼ瀕死にした魔物群の上へ吹き飛ばす。一拍の後に何故かまとめて弾け飛んだ。



「滅茶苦茶やりますねあの人…」

「どうやったらああなるんだか…」

「おそらくのうk…、コホン、愚直なまでの力一辺倒な方ですから…」


 あえて脳筋という言葉を避けたのだろうが、余計に酷くなった気がする。



「一撃を極限まで圧縮して叩き込み、吹き飛ばす。そして、圧縮された力が一気に解放されて炸裂!そんな感じでしょうか?」

「吹き飛ばしてから、炸裂までのディレイは?」

「圧縮されたからじゃないですかね?」

「やっぱり?」

「おそらく。マネできる気なんてしませんが」


 同じく。というか意味わからん。



「無駄だぞ」

「リラさん?何が無駄なんです?」

「すまん。あいつに聞いても無駄だ。前に聞いたが…、『原理?知らないよ。出来るから出来る』って言われた」


 意外と声マネが上手だ。言葉足りてなかったけど。



「変な事考えてねぇか?」

「あ。すみません」

「ちゃんと動いているからいいけどな!」


 いいのか。さっきの顔とのギャップが著しい。それにしても減らない。倒しているはずなのに減っている気がしない。



「減りませんね…」

「泥のやつは倒しているんだけど」

「壊乱したら放置だからだろ」


 でしょうね。弱い魔物は獣人領域に行かない限り走るに任せている。だからこそ減っている気がしないのかもしれない。



 …キャンギュレイさんの動きを見た後だと、リラさんの動きがものすごく繊細に見える。魔物の形がきちんと残ってる。



「違うだろ?」


 爽やかな笑みを浮かべて笑って、言葉を続ける。



「キャンの方が繊細そうだが、俺様の方が繊細。俺様の魔力よ、敵を内部から打ち砕け。『浸掌波(リサティヘル)』!」


 突然詠唱。そして掌を犬っぽい魔物に押し付けると、泥の犬は電撃に撃たれたように倒れた。



「殺せねぇがこんなもんだろ」


 コアのある頭を踏みつけコアもろとも粉砕。



「いきなりすぎて見逃しかけました」

「同じく。やるならやるでもっと明確に指示をいただきませんと…」

「すまん」

「この子も大雑把だしね。『猿帝槌(バゴサ―ト=ハトダ)』見ればわかると思うけど」

「あれはあれで気を遣っている。お前とは違う」


 なんか雰囲気が険悪になっている気がする。というかメンチを切り出している。



「ここは俺様とキャンだけで何とかなる。そろそろ餓鬼どもを見て来てやったらどうだ?」

「いやいや、絶対喧嘩をしますよね?」

「大丈夫。私達はそこまで馬鹿じゃないよ」


 ここまで信用のない言葉は久しぶりに聞いた。



「行け」「行って」


 …嫌な予感しかしないけれど、戻るか。確かにあの二人が心配なのは事実だ。だけど、喧嘩は許さない。



 そんな意思を込めて二人の間の魔物を全て『ウインドカッター』で斬り刻んでおく。



「仲良くしてくださいよ!」

「「善処する」」


 …はぁ。



「なんだかんだで、喧嘩は終わってからするでしょうね」

「群長だしね…」


 もはや「群長」という言葉に夢を見すぎというレベルでこの言葉に縋っている気がするが。



「戻ると「何で戻ってきたの!?」と開口一番に言われそうですねぇ…」

「ま、そん時はそん時。適当に言い訳をでっち上げよう」


 恐らく、非難されることはないはずだ。

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