表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
16/306

16話 別れと出会い

 翌朝、ご飯を食べようと三人で食堂まで下りると、またルジアノフ夫妻がいた。



「「おはようございます!」」

「あ、はい。おはよう」

「おはようございます」

「…早い」


 アイリが言ってくれた通りだ。早い。まだご飯食べてないぞ。



 ていうか、どうせこうなるだろうと思って前みたいにならないように早く起きているのに、どうしてこの人たちはここにいるんだよ…。



「まだご飯食べていないので待っていてください」

「あ、そうですか、それなら食べ終わったら北門にきて下さい」

「向こうで仕事して待っていますので」


 言うだけ言うとドダダダッと嵐のように去っていった。



「また、リベールさんがんばってるんだろうなぁ…」

「でしょうねぇ…」

「…食べよ」


 リベールさんが不憫すぎる…。



 さっさと朝食を済ましてしまおう。これもあの二人の策略だったり…、しないだろうなぁ。あの二人はそういうタイプじゃない。



 今日のメニューはパンとオニオン(もどき)スープとハム。俺も含めてせっせと食べていたので無言だったが、顔を見る限り、口に合った様子。俺も好きな味だった。



 さぁ、北門まで行きましょうか。



 センのひく馬車に揺られることしばし、北門までたどり着いた。案の定二人は怒られているようだ。あの二人は人の話を聞かないからな…。



 リベールさんがこちらに気づいた。



「おはようございます。お三方。確認したいのですけれども、お三方ギルドカード持っていらっしゃいますよね?」

「はい。持っていますよ?それが何か?」

「あ、じゃあすこし貸してください。『私が』手続きサクッとやっておきますので…」

「あ、はい」


 みんなのカードをまとめて手渡す。時々この人目が怖いんだよな…。出世欲とかではないんだろうけど。というか「上司二人に任せてしまうと無駄な仕事が増えるから先手を打ちたい!」という気持ちの発露かな?



 考えている間に、リベールさんは後ろの建物。たぶん詰所に入っていった。



 夫妻は怒られてへこんでいると思いきや、そんなことはなかった。仲のいい姉妹が遊ぶかのようにいちゃついている。それでも、リベールさんを放置していかないだけの分別はあるようだ。



 もしその分別がないといろいろやばいのはこの際おいておく。



 センを撫でて待ってよう。四季も同じことを考えたのか手がぶつかりそうになる…けど、回避してセンに触れる。センはおとなしくなでられてくれる。



 鬣がフサフサだ…。心なしかこの前よりも毛艶や手触りが良くなっている気がする。幸せな気分になれる。



「カードできましたよ。って、何ですかこれ」

「…知らない。この雰囲気は潰してくれても構わないよ」

「えぇ…。申し訳なくないですか?」

「…じゃあ、わたしがやるよ。えい。えい」


 コツンと頭に何かがあたる。アイリの鎌の後ろ部分、石突になるのかそこで怪我をしないように本当に軽く突かれたようだ。



「何?」

「何です?」


 クイっとリベールさんのほうを顎で示すアイリ。



「あ、できました?」

「あ、はい。できましたよ。ブロンズです。おめでとうございます」

「そうですか…。銀行のカードがランクアップしたな」

「そうですね…。できること変わりませんけどもね」

「…まぁ、ランクが何でも銀行使うだけなら関係ないしね…」

「まるでランクに興味なさそうですけれども一応説明しますよ。受けられる依頼のランクが上がりました。ブロンズは特定の施設を使うときに若干の割引が付きます」


 何それ。なにかの会員カードかな?



「アイアンを飛ばした理由は…」

「「いらない(です)」」

「ですよねー」

「蜂を3人で壊滅させてアイアンはないですよね」

「バッタも何かよくわからないことになっていましたしね」


 会話をしていると、不意に「バリィィィィイイイン!」という甲高い音が響き渡った。



「お、どっか破壊されたみたいだな。あとは…」

「一つですね。まぁ、私たちは『アークライン神聖国』に行くので関係ないですけど」

「…あ、これダメなパターン」

「私もそう思います」

「私も」

「私も残念ながらそんな気がします」


 俺もそんな気がしてきた。



「ま、準備もできたし行きましょうか。何かあってもお三方なら大丈夫ですよ」


 若干不安のある言葉をアレムさんが言うと、隊列は動き出した。



 しかし!フラグにもかかわらず、何にも会わなかった。普通に分岐点が見えてきた。



「何もなかったな」

「そうですね」

「たぶん荒れた畑の中央を横断する道を使ったからですよ」

「どういうことです?」

「滅多にいませんが、盗賊がいるなら隠れる場所の多いところを狙いますし、狂暴な熊、イノシシの野生動物も食べ物がないここにはきませんよ」

「なるほど」

「あの魔物4種がいなければここもいま時なら一面の黄金色の小麦畑で夕暮れ時はたいそう美しいんですけどね…」


 空を仰ぎ見るように言う。



「リベール。でも、お三方が蜂を、我々との合同作戦でバッタを殲滅したではありませんか」

「アレムの言う通りですよ。そもそも、バッタはお三方、戦いは好きではないはずなのに、無理を聞いてもらったではありませんか」

「そうでしたね。あとはスズメ…『アロス』だけですものね」

「それに、イノシシは第二騎士団と未確定だが、勇者様の合同作戦でつぶしたそうだ」

「アレム。それ機密情報よ?」

「問題ない。お三方に聞かれても問題ないだろう。一回、首都でパーティをして、それからスズメ討伐に出る予定らしい」

「……なんでこの人たちたまに目を見張るほど有能なんでしょうね。少し腹が立ちます」


 リベールさんが言うが、こっちは割とそれどころじゃない。タクや、クラスメイトだけなら問題は少ないけど…。付き添いがいたら面倒だぞ…。何故わざわざ殺しにかかってきた国に戻らねばならないのか。…急ぐか。



 話している間に分岐点についた。



「では、ここで、また縁があれば。あ、雲行きが怪しいので途中で村か、町によることをお勧めしますよ。我々も少し急いで、次の町で様子を見ます」


 アレムさんはかわいらしい表情で言うと、騎士団はそそっかしい夫妻を先頭に、先ほどよりもスピードを上げて走り去っていった。途中で馬車横転しそうな速さだけど、大丈夫かあれ。

 

 

 …リベールさんがなんとかするか。



「じゃあ俺らも行きますか。急ぐぞ」

「そうですね」

「…ん」


 さっきの情報は非常にありがたい。俺たちは北へ向かう街道を一路センに走らせる。



 センはやっぱり賢い。馬車の耐久性とか、安定性を考慮して、可能な限り早く走ってくれる。休むにしても、可能な限り遠くで休みたい。



 …中の荷物のことは考えないことにしよう。どうせ全部魔法具の中に詰め込んでるし…。



 あまりにどったんばったん揺れて酔いそう+お尻が痛いので、全員でセンに乗りながら走る。少々アクロバティックな動きを含むため、始めてみんなで乗ったときほど気持ちよくはないけど、それでも楽しい。



 俺たちが馬車から降りたせいでおおよそ120 kg ほど軽くなった馬車。それが痛まないようにセンが何も言わなくてもスピードをわずかに下げていたのは少しだけびっくりした。



 さすがに揺れるセンの上でご飯を食べるのは無理だし、馬車の中はもっと論外なので、昼食の時間は馬車を止める。

 

 

 魔物とはいえ、センも少しは休ませてあげないとかわいそうだし。そんなことを考えながらセンと馬車をつなぐ縄を外すと、「平気だよ?ほら!むしろもっと遊びたい!」とでも、言うように走り回り始めた。



「元気だな…」

「元気ですね。まるで子供みたいですね」

「そうだな…、落ち着きのなさが小1の従妹と同じくらいだよ」

「女の子ですか?」

「そうだよ。男女どっちかは、漢字だと一発で分かるのにな」

「そうですね」


 クイクイと袖を引っ張られる。アイリか。センはあっちで楽しそうに走っているし。



「…わたしとどっちが良い?」

「ん?そりゃアイリだろ。自分の子供のほうがかわいいのは当然だろ?」

「ええ。そうですよね」

「…一般論で言ってるの?」

「そうじゃないのはわかるだろ」

「そうですよ」

「…そっか」

「わかればよろしい。はい、お昼」


 と完成品を取り出す四季。アイリはやっぱり色々あってこじらせているな…。



 楽しそうに走り回り雑草の群生地でもあったのか、そこで横になって犬がするようにもぞもぞしたりするセンを見ながら昼食を食べた。



 まずくはないんだけど…、そろそろ飽きる。



 昼食後、俺たちは再び、センに乗って進み始める。



 しばらく道なりに進めば、道はいつしか森の中を縦断し始めた。道が通っているだけあって、普段なら魔獣も魔物もでない道だ。今はアロスが出るかもしれないけど。







______


「あ、ダメだ。雨が降るぞ」

「ですね」

「…だね」


 進行方向に黒い雲。『身体強化』した目で見てみると、その下は豪雨というほどでもないが、遠慮したいレベルの雨は降っている。



「中に入るか。セン。止めてくれ」

「雨雲に突っ込んだら、とばさないでゆっくり行ってね」

「ブルルン」


 わかってるよ。とでも言いたげに鳴く。さすがはセンだ。



「あ、雨は大丈夫か?」


 俺が聞くと、センは首をかしげ、「ブルルルッ」と鳴いた。え、「好きだよ?」そういう意味じゃないんだけど…。ま、いっか…。俺とアイリが馬車に乗ったが、四季はそうではないようで、



「セン。そういう意味じゃないんですよ。風邪とかあるでしょう?」

「ブル?ブルルルルゥ。ブルルル。ブルルルッ」


「え?そうだったの?問題ないよ。魔物だし」…かな?



「そう…じゃあ、悪いけどお願いね」


 四季は面食らった顔をしたけれど、すぐに少し心配そうな顔をしてセンを一撫で、馬車に乗り込む。



 その少し後に、馬車は雨雲の下に入った。雨が中まで入ることはないが、速度はグンと落ちる。ただ、センは楽しそうだ。雨でぬかるんで走りにくくなった道を走るのが楽しいみたい。



 センの少しだけ浮ついた足音が急に止まった。どうしたんだろうか?



 顔を馬車の外に………ん?



「なぁ、見間違いじゃなければいつもの霧が立ち上っているんだけど…」

「私も見えますね…」

「…また?」


 なんというフラグ回収。暗雲が背景なのでいつもより少しばかり見にくいが、ここ数日で何回も見たものだ。



「一応降りるか。雨降っているけど。ひょっとすると見間違いかもしれない」

「そうですね」

「…そうだね。違うかもしれないし」


 皆の心は一つ。気のせいであってほしい。



「セン、少し道のわきによけといてくれ」


 引き返して道を変えることも視野に入れて声をかける。



 皆、馬車から見た位置よりも少し前に出た。うん。見えるな。



 じりじりと前に出る。見えている。見えてる。見える。諦めきれずにもう少し。50 mは進んだ。



「ダメだ、気のせいなんかじゃない」

「道変えますか?」

「なんか飛んでくるよ!回避!」


 アイリが叫んだ後、俺たちがいたところを何かが通り過ぎ、地面に衝突すると「グシャッ!」と嫌な音を立てる。



「なんだったんだ、今のは…」


 恐る恐る音の立った地点を見てみると…。スズメのようなものの肉塊があった。グロイ。



「…またいっぱい飛んできたよ!」


 ちょっと待て。



 ちらっと上空を見ると、黒色背景に焦げ茶色と見にくいが…、またスズメが飛んできている。しかも大量に。



 なるほど。どうやらこの間倒したスズメ=『アロス』は弾だったようだ。



「…奥に何かいるね」


 アイリが呟く。

 


「そうなの?」


戦闘経験はアイリのほうが圧倒的。じゃあ、アイリを信じるべきだろう。



「「『『ファイヤーボール』』!」」


 明かりよりもこっちのほうがいい、攻撃もできる。雨に弱いのはどっちも同じだ。そういう理由で、使った『ファイヤーボール』は暗雲に遮られた太陽に代わってあたりを煌々と照らし出す。



 アロスが飛んできたあたりに、巨躯を持った目つきの悪いスズメがいる。



 あいつがアロスをどうやら弾として撃ち出してきたらしい。現に、ファイヤーボールを止めようとアロスを叩き込んでいる。



 名前は『ボロス』でいいか。「ボス」+「ボウ」+「スパロー」でいい感じ。



 …『アロス』もそういう意味では的を射ていたな。「アロー」+「スパロー」だし。偶然だろうけど。



 ジェット機で言うと、エンジンのある部分が砲台のようになっていて、そこから弾を撃ち出してきているようだ。確認しにくいが…。ボロスの足に紋もあった。あのいつもの白に黒と黄色の入った霧と合わせて考えると、核もあるだろう。どうせ蜂のところにもあっただろうし…、これで、3個目だぞ!?しかもこの短期間で!



 仕方ない。覚悟を決めて戦おう。センとは距離がありすぎる。確認に時間をかけすぎて『ファイヤーボール』も消えて、攻撃が始まっている。後ろを向いたら即、射抜かれてしまいそうだ。



「セン!馬車を頼んだ!俺たちはこいつと闘う!」

「お願いしますよ!」

「…やるのね。わかった」


 センが不承不承といった感じで走っていく。足音が不機嫌だ。ボロスは獲物が逃げると思ったのか定かではないが、



「グオオオオオ!」


 と全くかわいげのない声をあげた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ