閑話 この時期の望月班
後書きに小ネタを入れてみました。
苦手な人は読み飛ばしてください。
…あれ? ここはどこだ? そもそも僕は…、何をしていたんだっけ?
「おや。目が覚めたか。おはよう」
「…おはようございます」
誰だこの人…? この部屋の主なのは間違いないけど…、服が豪華だし、一介の救護人ではないはず。てか、部屋の格がおかしい。
「モチヅキ コウタでよいな?」
「あ。はい。望月光太です」
名前がバレてる…。ということは雫が運んでくれたんだな。たぶん。じゃあ、安心してもいいはず。それにしても、この人の雰囲気、雫に似ているような…、あ。もしかして。
「聖女様ですか?」
「おや。何も聞かずに正解にたどり着いたか。いかにも。妾が聖女じゃ。まぁ、それは渾名のようなもの。妾の正確な立場を示す語は『アークライン神聖教皇』じゃな」
教皇…? 宗教で一番偉い人か。なるほど。納得だ。それよりも、
「雫はどこですか?」
「シズク?…あぁ。テンジョウインか。いるぞ。妹が呼びに行った」
「そうですか。ありがとうございます」
お辞儀をすると、「ばたっ」と乱暴に音を立てドアが開き、雫が飛び込んでくる。
「光太!何やっていますの!心配したのですよ!」
「ごめんよ。雫。えーっと、でも僕、何やらかしたんだっけ?」
「無理に思い出そうとしないほうが良いぞ」
頭に手を当てた瞬間に教皇様から声が飛んできた。
「そうですね。無理に思い出されない方が良いかと」
「私も同意します」
アレムさんとフランソーネさん……? あれ? どうしてここに? ルジアノフ夫妻は『フーライナ』の人のはず。ということは僕がいたのは『フーライナ』だよね? あれ? でもここって『アークライン神聖国』…。
スッと手に視線をやると、汗か何かで手が湿っている。ゾクッとした感じが背筋を走り、猛烈な吐き気が襲ってくる。
「何か受けるものをお願いいたしますわ!」
「これを使え」
「ありがとうございます」
サッと雫が僕のそばに受けるモノを持ってきてくれる。それを強奪するようにして顔に近づけると、口から吐しゃ物が溢れだした。
うえぇ…。口の中が酸っぱい。ものすごく気持ち悪い…。しかも何も吐けない。散々吐いた後なの? 胃液しか出ないよ…。うえっぷ。
猛烈に気分が悪い。
「わたくしがそばにいますわ。大丈夫です」
雫が手を握って、背中を撫でてくれる。あれ? 雫の手が震えている…?いや、違う。僕の手が震えているんだ…。
「げふっげっふ」
「これを飲むといい。安心するが良い。ただの水だ」
毒見をするように、というか毒見をしてくれているのだろう、グイっと一口飲むとそれのグラスを押し付けてくる。
「ありが…「いただきます」」
雫に取られた。雫も一口水を口に含みころころと口の中でかき回すと、ごくりと飲みこんで僕に渡してくれた。
お礼を言う元気もないので会釈だけ返す。二人に呑まれてかなり量が減っているけど、それでも口の中をスッキリさせるには十分。がらがらと口を洗浄してバケツモドキに吐く。
「もうしわけないですが、もう一杯下さい」
毒味すらせずに渡された水を、やっぱり雫が毒見して渡してくれる。
「あのさ。雫。わざわざ毒見してくれなくてもいいんだよ?」
「わたくしは杖のおかげで回復できますわ」
「それを言ったら僕も…。「おだまりなさい」あ。はい」
一応、僕の剣…、シャイツァーは聖剣だから、麻痺とか、毒とか効かないんだけどね…。
飲もう。あぁ、生き返る…。うげっ。このバケツモドキものすごく高そうなんだけど。
お母さんが「買っちゃった」って自慢してたあのお皿なんて目じゃないくらいに。
「落ち着いたか?」
「はい。ある程度は」
バケツの高さに気づける程度には。
「あの、今更ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか…?」
「まだ聞いてなかったのですか!?」みたいな目はやめておくれ。雫。だから、「今更」
ってつけてるんだよ?
「妾?そう言えば言っておらんかったの…。妾は『カチェプス=ヨエハ=ヴェーラ=アークライン』じゃ。呼び方は…、任せる」
「では、カチェプス様と」
鷹揚に頷くカチェプス様。
「ところで…、何で僕はこの国に?フーライナの北方で盗賊を…」
思わず口を手で押さえる。が、胃液すらも吐ききったのか何も出ない。
見ているだけで手があの鮮やかな紅に染まっていく気がする。ぐちゃっとしたあの生々しい感触が蘇ってくる。肉を切り、骨を断ち、そして命までをも絶つ、あの白を黒に染めるようなあの感覚。
うえっ…。
「アレム。フランソーネ。妾もコウタと同じく聞いておきたい。何故、フーライナ騎士団の隊長と副隊長のそなたらが、コウタらをここに連れてきたのじゃ?見れば大体の理由は察せるが答えるのじゃ」
「え。まさか、カチェプス様。理由も聞かずにわたくし達を受け入れたのですか?」
「ん?黒髪黒目じゃし。素性のはっきりした騎士二人。そやつらの顔も焦燥していたからの」
うぐっ。…適当すぎます。
「適当すぎるよ、姉様…」
ん? …誰。この子?
「ああ。おかえり。ブルンナ」
「ただいま。姉様。適当すぎるでしょ」
「勇者様じゃぞ?死なれると困るのじゃ」
「うわぁ…。ま、いいか…」
いいんだ。どこにいい要素があるのかわからないけど。いいんだ。
「お初にお目にかかります。この姉の妹、『ブルンナ=クリーナ=ヴェーラン=アークライン』と申します」
ちょこんとちっちゃな王女様は綺麗なカーテシーを決めた。かあいい。あ。痛い。足踏まないで。雫。悪化するから。
ちっちゃい子に懸想したりなんてしないから。
「で、コウタ。お主、何故ここに運ばれたかわかるか?」
「え。…あ。はい。僕が気絶したからですよね?」
「じゃろうなぁ。何故気絶したかわかるか?」
今のこのザマのせいですね。この症状は…、|PTSD《心的外傷後ストレス障害》? 違うのかな? どっちみち、PTSDでは通じないか。ならば言語化する。
「僕が人殺しの衝撃に耐えきれなかった…。そう言う事でしょうか」
この手に染み付く感覚が今も離れない。そして、それに引きずられるように、斬られる族の絶望に染まった顔が浮かび上がってくる。おえっ。
「そこまでわかっていれば大丈夫じゃな。そなたの言う通りじゃろうな。で、合っておるのか?」
「ええ。正解です」
「よかったの」
嬉しくないです。
「精神的負担が、我々がここにお運びした理由でもあるのですが」
「どういうことですの?」
「簡単な事じゃ。妾のシャイツァーは精神的な傷をも癒す」
精神的な傷も? 雫でも出来ないのに…。
「ええ。教皇猊下のおっしゃる通りです。完全にこちらの事情ですが、勇者様が使い物になられてしまうと我らとしても困りますし…」
「バシェルに喧嘩を売られでもしたら面倒なんですよねぇ…。私やアレムが出ないといけませんし」
「今は王様がちょっとあれだけど、有数の軍事大国だしねー」
「伊達に魔族と隣接しておらぬのじゃな」
うぐ…。迷惑をかけているのが猛烈に情けない。
「光太。落ち込む必要はないですわ」
「でもさ…、タクやルキィ様の前で大見え切ってこれだよ…?」
覚悟は出来てます。って言ったのにこれはさすがに…。うえっ。
覚悟は出来てます(キリッ)。とか言われても文句は言えない。
「ちゃんと自覚できているからよいじゃろ」
「ですね。教皇猊下のおっしゃる通り、自覚できているだけ上々かと」
「私も、アレムも最初から人を躊躇なく斬れた…、なんてことはありませんでしたしね」
「他人のせいにせず、自分で背負っている時点で偉いと思うよ!」
ブルンナ様に何故か撫でられた。…僕の方が年上だよ?
「それに…、どうせ嫌でも慣れてしまいますから」
「私も、ソーネも完全に慣れてしまっていますからねぇ…。それはおそらくよくないことでしょうが」
「じゃな…」
何でカチェプス様も同意しているんだろう…。
「姉様も粛清命じてるから…」
こそっと耳打ちしてきてくれたブルンナ様。なるほど。カチェプス様も間接的に人を殺して、その業を背負っているのか。
「じゃが、妾はこれだけは断言して置くぞ。最初っから躊躇なく人を斬れる輩も、人を斬った後に何の後悔もしない輩などおらぬ。いたとするならば…、どこか壊れているのじゃろうな」
「でしょうね。この後悔出来る事…、いえ、同族殺しに忌避感を覚える事。それが人間…なのではないでしょうか」
「蚊を殺そうと、熊を殺そうと、ここまでの嫌悪感というものは抱きませんからね…」
人間……か。
「それが人間の定義なら、僕はおそらく人間ではないですね…」
「何故じゃ?」
「僕は勇者として、同じ人間である魔王を殺す忌避感を、最悪の場合、使命感でもって打ち壊して殺させばなりませんから」
「ハッ。それがどうした?勇者である前に人じゃ。そこをはき違えてはなるぬ。じゃがのう…。妾達にはそれを強く言う資格がないの」
「ですね。今回の場合は、勇者召喚を為し、勇者に人殺しの責を押し付けているのですものね」
「今の時点で猊下や、アレム、私、いえこの世界の誰が言おうと、「どの口で言ってんだ?」としかなりませんからね…」
「強いて言うなら魔人族は言えるけど…」
「恨み辛みを叩きつけられるだけではないか…」
だよねー。とブルンナ様は肩を落とす。
「妾達も帰還方法を探すべきなのじゃろうが…」
「自分勝手ですが時間が…」
「そこまでは求めませんので」
こちらの世界の人々にもこちらの世界の人の生活がある。だからこそ、僕らの都合で破壊するわけにはいかない。
「この人、勇者勇者してるよ…。シズクは?」
「わたくしですか?わたくしも似たような考えですわ」
「お二人の使命感は美徳ですが…、私達並みに気楽にいかれれば少々楽になりますよ?」
「そうですそうです」
美人4人の呆れるような賞賛するような目。思わずしり込みしてしまう。
「私は男です」
「あ。はい」
アレムさんの目が俺だけに集中した。…男でも美形って使うんだけどなぁ。
「あ。そういえば、私達並みで思い出したのですが、アレム様とフランソーネ様はここにいて良いのかしら?」
「ああ。大丈夫です」
「リベールに押し付けてきましたから!」
「あのアホ上司ィィィ!」そんな叫び声が聞こえた気がした。
「話を戻すが精神回復は必要か?」
「いえ。大丈夫です。自力で呑み込んで消化します。僕はここで折れるわけには参りませんから」
「ならよい。妾のものとて完璧ではないからの」
「あら?違うのですか?」
「ふふ。シズクよ。そなたも同じ回復系として妾のシャイツァーに興味があると見える。どうじゃ?あるのか?」
「ありますわ!」
「正直でよろしい」
カチェプス様は楽しそうに笑うと、雫を近くへ招き寄せる。
「妾の回復は、この聖杯に出てくる水を飲ませることで効果を発揮する」
不思議なことにどぼどぼと、聖杯に水が溢れる。なるほど。だからさっき、わざわざ普通の水って言ってたのか。
「じゃがの、この水。肉体はともかく、精神の方は完全に回復出来ないのじゃ」
「何故です?」
「端的に言うと、回復方法が原因に蓋をする。そんな感じじゃからじゃな」
「え。その場合って…」
僕が飲ませてもらったとして、次に人を斬ったら再発しない…?
「その通りじゃの。だから普通は一般人にしか使わないのじゃ。もしくは…、折れた軍人じゃな」
「一般人に使うようなことってあるのですか?」
「あるぞ。犯罪で心に傷を受けた者が大半じゃ」
「この前は、シュウとシキのせいで大変だったけどねー」
え。何やらかしたのその二人!?
待って。何で4人全員遠い目をしてるの!? 僕ら完全に置いてけぼり喰らってるんですけど!? 聞かねばならない。
「何があったんですか?」
「同級生としてお聞かせ願いたいのですわ」
「怒って住民にトラウマ植え付けて行ったのじゃ」
「問題は解決して行ってくれたんだけどねー」
また遠い目。二人とも何をしているんだ…?
「二人は一体何に怒ったのですか?」
「子供が誘拐されたのじゃ」
「「はぁ?」」
意味が分かんないんですけど。僕ら同級生だよね!? 留年しているはずないから18歳くらいのはずなのに何で子供が!?
…まずは落ち着こう。子供の年齢を聞こう。
「…何歳ぐらいお子様ですの?」
あ。雫に聞かれた。
「ブルンナと同じくらいかの?」
「かも?」
余計に意味が!
「アイリちゃんでしたか」
「仲良さそうな家族でしたね…。滅茶苦茶でしたけど」
「ああ。アレム。フランソーネ。一人増えておるぞ」
「「へぇー」」
!??
「では今頃、また増えてそうですね」
「だね。ソーネ。私らも頑張って作ろうね」
「きゃ。アレムったら…」
驚く僕らを全力で置いてけぼりにして突如展開されるラブ空間。よそでやってください…。
「何で増えたんですか?」
「人徳?妾もよくわからんの。じゃが、二人の言うように増えるじゃろ」
「まぁ、少なくともカレンちゃんは偶然だと思うよー。エルフだしー」
エルフ……? 何だ。義理の子供か。納得。
「光太。しっかりしてくださいまし!義理でもこちらへ来てまだ3カ月も経っておりませんわ!にもかかわらず、子供が増えるだなんて少々おかしいですわよ!?」
「確かに!」
言われてみればそうだ。もうよくわからないよ…パトラss
「そこから先の思考放棄はいけませんわ」
「…はい」
目がマジだ。何とか話を変えないと…。あ。戻しちゃえ。
「皆さまのシャイツァーについてのお話をお聞かせ願えませんか?」
ピシッと空気が固まった。…あれ。…まさか。
「軍機…?」
ボソッと漏らした言葉。それを幸いとばかりにフーライナの二人が言葉を載せる。
「勇者様だけならいいのですが…」
「アレムの言う通りで…、大変言いにくいのですが教皇猊下がいらっしゃいますので」
「面倒じゃのう…。妾のシャイツァーとブルンナの分では…、だめじゃろうな。妾の物は有名すぎる。猫をかぶるのをやめればいいか」
!? 気配が変わった?
「ほら、話せ。なんならオレからいこうか?…どうした?なぜ黙る?」
キャラ変化が大きすぎません?
「姉様が猫かぶりやめたからだよ。猫かぶりをやめたら色気もクソもない、ただの胸のあるイケメンになっちゃうじゃん」
「ブルンナ。お前後で説教な」
「ひどい!」
「逃げたら問題難しくしておくから」
「!?」
内容がよくわからないけど…、これは機密では?
「おら、話せ」
「えー、じゃあ、僕が聞いたので僕から」
「逃げ道を断って行くのですね。やりますわね。光太」
そんなつもりはないよ。
「僕のものは聖剣です。魔物や魔獣に対して攻撃力が増します。ついでに毒とか、麻痺は効きません」
「ほう…。シズクはなかなかやるの」
「?何のことしょう?ねぇ。光太」
「そうだね。何のことだろうね?」
フーライナ組が「まさか…、天然!?」と恐れおののいているけれど、理由がよくわからない。
「…おいおい。まさかあの二人以上に鈍いのか…。まぁ、いい。それだけか?」
「基本はそんな感じです。後は、雷や、光などの光を放つ魔法に若干の補正ですかね」
でも、それだけ。状態異常無効の時点で強いけど。まぁ、酔いには効かないみたいだけど。
「では、次はわたくしですわね。わたくしのシャイツァーはこの杖ですわ。回復と、攻撃が出来ます。回復は肉体的なものと状態異常限定ですわ。トラウマはどうしようもないですわね…」
「攻撃とは?」
「杖で切り裂く。魔法を唱える。それくらいですわ。ただ、わたくしは未だに人を斬ったことがございませんので…」
「そのあたりはどうしようもねぇな。だが、この世界にいる以上は…」
「わかっております。覚悟はできています」
真っすぐな目。僕も前はあれくらいの目を出来ていたはずなんだけど。
「心配するな。お前の目は綺麗だ。間違っちゃいねぇ。現に今も折れていない。そして、オレの見立てでは、お前はこの程度で折れねぇよ。だから、もしもシズクが折れそうになれば支えてやれ」
「言われずともわかっております。さっきまでも支えていてもらっていましたから」
この手の気持ち悪さも、吐き気も今だ完全には拭えない。先のバカ騒ぎの中でさえも、意図的に意識の埒外へ追いやっていたけれど、消えはしなかった。
これを雫には味わってほしくないけど、雫は絶対に折れない。だからこそ、お返しをしないと。
「口の中が甘ぇ。…次はオレだ。聖杯は、さっきの説明に加えて、飛べる。ついでに闘技場も作れる。以上。詳しくは本を読め」
「ブルンナのも本読んで」
いきなり丸投げですか。
「本のタイトルは?」
「『現教皇のシャイツァー』だ。ぶっちゃけ纏める意味はないがな。作ったほうが今回みたいに面倒な説明を省けるからな!あ。最上級禁書指定されているが、お前らには許可を出しておく。ついでにそこの二人も。一日でいいよな。すぐに見つかるしな」
本当にぶっちゃけるんですね…。雫も同じ気持ちらしい。顔が呆れている。
「逃げ道ガッ…」
「諦めましょう」
フーライナ組の顔が暗い。何かに負けたのだろうか?
「心配せずとも戦争は起きぬ。馬鹿はこの前粛清したしな」
「そもそも、この国もフーライナの食糧に依存してるしー」
「「ですね!」」
ヤケクソ気味。こんな二人、始めてだ。
「では、私、アレムから。私のシャイツァーは『炎剣ムイ』です。炎の魔法に補正が入る、燃える剣です」
「フランソーネのシャイツァーは『大盾グドシルド』です。あらゆる攻撃から守る盾を召還できます」
知ってます。同行した際に見せてもらったので。あ。そういえば。
「お二人の魔法って、不思議なことに、最後の発動キー?みたいなものが、漢字だけのイメージで浮かぶ…というか、聞こえてくるのですが、どういうことなのでしょう?」
「あ。そうですわね。わたくしも気になっていたのです。普通の騎士様方の魔法はほとんどが漢字とルビなのですが…」
二人の顔が苦々しい。だからこそ、雫の言葉も先細り気味だ。
「はぁ…。それはですね、私達のシャイツァーは過去に勇者様が使っていたから…。だと思われますよ」
「ですね。私達のシャイツァーは両方ともどこかの本に載っていたはずです」
「ブルンナ。そんな本あったか?」
「あったと思うよー。魔人、獣人で活躍したみたいでかなり冊数の少ない勇者だけどねー」
「名前は?」
「忘れた」
「おい」
後で探そう。
「それと何の関係があるのです?」
「勇者様は基本、召喚された方ですし…、だから漢字なのでは?新しくない、こういった既に存在したことのあるシャイツァーは縁の深い者に受け継がれていく…らしいのです」
「その「縁」が何なのかは不明ですが!ただ、どうもこのシャイツァーから伝わってくる限り、我々の魔法は少々劣化しているみたいなのですよねー」
繋がり。ね…。
「もしかして、血縁かな?」
「少々オカルティックですが、魂かもしれませんわよ」
二人でこっそりひそひそ話。ファンタジーでオカルティックもありはしませんわね。と雫は小さく自嘲する。
「魂…?」
聞こえていた…!?
「つまり…、」
「私達は前世からの恋人…?なんて素敵な…」
2回目のラブ空間。よそでやってくださいよ…。
「失礼いたします!」
「入ってよいぞ。」
「「ちょっ!?」」
慌てる二人を無視してドアは開く。
「「げぇっ。リベール!?」」
「げえっとはなんですか、げえっとは!仕事溜まってんですから帰りますよ!」
「ヤダ!小生。帰りたくない!」
「子供ですか!」
「しかも今帰ったら負けちゃう!」
「何に負けるんですか!知りませんよそんなこと!はいはい。帰りますよ!失礼。教皇猊下」
走って窓際へ追い詰める。そしてじりじりと距離を詰め…、
「「さらばだ!リベール!」」
突然窓を開け放って飛び降りる。
「ちょっ!?」
「「あ」」
「ゲブッ!」
僕が驚く間もなく、走って間際に寄ったリベールさんの顎を膝うちしながら二人は戻ってきた。何の嫌がらせ…。
「「猊下本日はこれにて失礼いたします」」
挨拶をすると、返事も聞かずに窓から飛び降りた。
「あんにゃろうども!私もこれにて失礼いたします!」
ドアを開けっぱなしにして出て行った。
「嵐のようでしたわね」
「だね」
ところで…、「負ける」って何に?
「紅茶が旨い」
「勝利おめでとう」
「何に勝ったんです?」
「シャイツァーの情報を抜けた。彼らは抜けなかった。そう言う事だ」
「ブルンナ達のシャイツァーは国防にそこまで関係ないけど、あっちは騎士団。主力だよ。守りやすくなるね!」
うわ…。
「それに、本も本当にあるかどうか怪しいしねー」
「それは本当だぞ。ブルンナ。だが、見れるのは一日限定。しかも『現教皇のシャイツァー』なんて本。何冊あるかな?」
は……?
「…もしかして、何冊もあるんですか」
「当然。書かれた当時の教皇のシャイツァーが載った本だぞ。教皇の分だけあると思っていいぞ?」
この国の歴史は長い。神話決戦ごろからのはず。…悪辣としか言えない。
「それが、外交ですか…」
「ああ。ま、これであの二人も懲りるだろ。一応、リベールの依頼だしな」
「依頼ですか?貴方がたへの見返りは一体何ですか?」
「それは内緒だ。お主らには関係ないさ。…さて、ドーラ!」
「はい」
ドアからスッとメイドさんが入ってきた。
「ブルンナを縛って勉強させろ」
「ふぁっ!?」
あっという間に縛られるブルンナ様。そのまま出荷される豚のように引っ張られていった。
「哀愁が…」
「こうでもしないとあいつは勉強せん。ああ。メイドはいつでも、何かあれば呼べ。で、お主らはどうする?」
どうするって…、やることは決まっている。
「しばらく滞在させていただいても?」
「構わぬぞ。だが…、フーライナは?」
「フーライナはあれが終わると出る予定だったので。構いませんわ。リベール様にもそう伝えております」
「左様か。なら、部屋に案内しよう」
カチェプス様が椅子を立つ。その後ろを僕たちは歩く。
窓から西日が差し込み、手が朱色に染まる。思わず手を振り払うと、雫に手を取られた。
「不安ですの?」
「…うん」
「大丈夫ですわ。二人なら乗り越えられます。それに、わたくしの時は貴方が支えてくれないと困りますのよ?」
みっともない僕を安心させるように微笑む雫。…ああ。そうだね。僕がやることにしたんだ。だからこの重さは僕が背負う。そして、僕らは全員で地球へ帰る。
(思いついてしまった)小ネタ
カーチェ様 「最初っから躊躇なく人を斬れる輩も、人を斬った後に何の後悔もしない輩などおらぬ」
超親バカ二人「「え?」」
ルキィ様ラブ「え?」
化学好きな姉「ん?」
シスコンの弟「ん?」
扇持ち京美人「何か?」
山崩し大砲姫「?」
厨二機関銃士「え?」
大砲姫の許嫁「ゑ?」
大剣持ち天然「あ?」
両親好きっ子「い?」
苦労人拳闘士「う?」
青い魔法使い「えお?」
ブルンナ 「うわぁ…」
カーチェ様 「召喚失敗してんじゃねぇのコレ…」
終わりです。