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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
159/306

閑話 この時期の望月班

後書きに小ネタを入れてみました。

苦手な人は読み飛ばしてください。

 …あれ? ここはどこだ? そもそも僕は…、何をしていたんだっけ?



「おや。目が覚めたか。おはよう」

「…おはようございます」


 誰だこの人…? この部屋の主なのは間違いないけど…、服が豪華だし、一介の救護人ではないはず。てか、部屋の格がおかしい。



「モチヅキ コウタでよいな?」

「あ。はい。望月光太です」


 名前がバレてる…。ということは雫が運んでくれたんだな。たぶん。じゃあ、安心してもいいはず。それにしても、この人の雰囲気、雫に似ているような…、あ。もしかして。



「聖女様ですか?」

「おや。何も聞かずに正解にたどり着いたか。いかにも。妾が聖女じゃ。まぁ、それは渾名のようなもの。妾の正確な立場を示す語は『アークライン神聖教皇』じゃな」


 教皇…? 宗教で一番偉い人か。なるほど。納得だ。それよりも、



「雫はどこですか?」

「シズク?…あぁ。テンジョウインか。いるぞ。妹が呼びに行った」

「そうですか。ありがとうございます」


 お辞儀をすると、「ばたっ」と乱暴に音を立てドアが開き、雫が飛び込んでくる。



光太(こうた)!何やっていますの!心配したのですよ!」

「ごめんよ。雫。えーっと、でも僕、何やらかしたんだっけ?」

「無理に思い出そうとしないほうが良いぞ」


 頭に手を当てた瞬間に教皇様から声が飛んできた。



「そうですね。無理に思い出されない方が良いかと」

「私も同意します」


 アレムさんとフランソーネさん……? あれ? どうしてここに? ルジアノフ夫妻は『フーライナ』の人のはず。ということは僕がいたのは『フーライナ』だよね? あれ? でもここって『アークライン神聖国』…。



 スッと手に視線をやると、汗か何かで手が湿っている。ゾクッとした感じが背筋を走り、猛烈な吐き気が襲ってくる。



「何か受けるものをお願いいたしますわ!」

「これを使え」

「ありがとうございます」


 サッと雫が僕のそばに受けるモノを持ってきてくれる。それを強奪するようにして顔に近づけると、口から吐しゃ物が溢れだした。



 うえぇ…。口の中が酸っぱい。ものすごく気持ち悪い…。しかも何も吐けない。散々吐いた後なの? 胃液しか出ないよ…。うえっぷ。



 猛烈に気分が悪い。



「わたくしがそばにいますわ。大丈夫です」


 雫が手を握って、背中を撫でてくれる。あれ? 雫の手が震えている…?いや、違う。僕の手(・・・)が震えているんだ…。



「げふっげっふ」

「これを飲むといい。安心するが良い。ただの水だ」


 毒見をするように、というか毒見をしてくれているのだろう、グイっと一口飲むとそれのグラスを押し付けてくる。



「ありが…「いただきます」」


 雫に取られた。雫も一口水を口に含みころころと口の中でかき回すと、ごくりと飲みこんで僕に渡してくれた。



 お礼を言う元気もないので会釈だけ返す。二人に呑まれてかなり量が減っているけど、それでも口の中をスッキリさせるには十分。がらがらと口を洗浄してバケツモドキに吐く。



「もうしわけないですが、もう一杯下さい」


 毒味すらせずに渡された水を、やっぱり雫が毒見して渡してくれる。



「あのさ。雫。わざわざ毒見してくれなくてもいいんだよ?」

「わたくしは杖のおかげで回復できますわ」

「それを言ったら僕も…。「おだまりなさい」あ。はい」


 一応、僕の剣…、シャイツァーは聖剣だから、麻痺とか、毒とか効かないんだけどね…。

飲もう。あぁ、生き返る…。うげっ。このバケツモドキものすごく高そうなんだけど。



 お母さんが「買っちゃった」って自慢してたあのお皿なんて目じゃないくらいに。



「落ち着いたか?」

「はい。ある程度は」


 バケツの高さに気づける程度には。



「あの、今更ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか…?」


 「まだ聞いてなかったのですか!?」みたいな目はやめておくれ。雫。だから、「今更」

ってつけてるんだよ?



「妾?そう言えば言っておらんかったの…。妾は『カチェプス=ヨエハ=ヴェーラ=アークライン』じゃ。呼び方は…、任せる」

「では、カチェプス様と」


 鷹揚に頷くカチェプス様。



「ところで…、何で僕はこの国に?フーライナの北方で盗賊を…」


 思わず口を手で押さえる。が、胃液すらも吐ききったのか何も出ない。



 見ているだけで手があの鮮やかな紅に染まっていく気がする。ぐちゃっとしたあの生々しい感触が蘇ってくる。肉を切り、骨を断ち、そして命までをも絶つ、あの白を黒に染めるようなあの感覚。



 うえっ…。



「アレム。フランソーネ。妾もコウタと同じく聞いておきたい。何故、フーライナ騎士団の隊長と副隊長のそなたらが、コウタらをここに連れてきたのじゃ?見れば大体の理由は察せるが答えるのじゃ」

「え。まさか、カチェプス様。理由も聞かずにわたくし達を受け入れたのですか?」

「ん?黒髪黒目じゃし。素性のはっきりした騎士二人。そやつらの顔も焦燥していたからの」


 うぐっ。…適当すぎます。



「適当すぎるよ、姉様…」


 ん? …誰。この子?



「ああ。おかえり。ブルンナ」

「ただいま。姉様。適当すぎるでしょ」

「勇者様じゃぞ?死なれると困るのじゃ」

「うわぁ…。ま、いいか…」


 いいんだ。どこにいい要素があるのかわからないけど。いいんだ。



「お初にお目にかかります。この姉の妹、『ブルンナ=クリーナ=ヴェーラン=アークライン』と申します」


 ちょこんとちっちゃな王女様は綺麗なカーテシーを決めた。かあいい。あ。痛い。足踏まないで。雫。悪化するから。



 ちっちゃい子に懸想したりなんてしないから。



「で、コウタ。お主、何故ここに運ばれたかわかるか?」

「え。…あ。はい。僕が気絶したからですよね?」

「じゃろうなぁ。何故気絶したかわかるか?」


 今のこのザマのせいですね。この症状は…、|PTSD《心的外傷後ストレス障害》? 違うのかな? どっちみち、PTSDでは通じないか。ならば言語化する。



「僕が人殺しの衝撃に耐えきれなかった…。そう言う事でしょうか」


 この手に染み付く感覚が今も離れない。そして、それに引きずられるように、斬られる族の絶望に染まった顔が浮かび上がってくる。おえっ。



「そこまでわかっていれば大丈夫じゃな。そなたの言う通りじゃろうな。で、合っておるのか?」

「ええ。正解です」

「よかったの」


 嬉しくないです。



「精神的負担が、我々がここにお運びした理由でもあるのですが」

「どういうことですの?」

「簡単な事じゃ。妾のシャイツァーは精神的な傷をも癒す」


 精神的な傷も? 雫でも出来ないのに…。



「ええ。教皇猊下のおっしゃる通りです。完全にこちらの事情ですが、勇者様が使い物になられてしまうと我らとしても困りますし…」

「バシェルに喧嘩を売られでもしたら面倒なんですよねぇ…。私やアレムが出ないといけませんし」

「今は王様がちょっとあれだけど、有数の軍事大国だしねー」

「伊達に魔族と隣接しておらぬのじゃな」


 うぐ…。迷惑をかけているのが猛烈に情けない。



「光太。落ち込む必要はないですわ」

「でもさ…、タクやルキィ様の前で大見え切ってこれだよ…?」


 覚悟は出来てます。って言ったのにこれはさすがに…。うえっ。



 覚悟は出来てます(キリッ)。とか言われても文句は言えない。



「ちゃんと自覚できているからよいじゃろ」

「ですね。教皇猊下のおっしゃる通り、自覚できているだけ上々かと」

「私も、アレムも最初から人を躊躇なく斬れた…、なんてことはありませんでしたしね」

「他人のせいにせず、自分で背負っている時点で偉いと思うよ!」


 ブルンナ様に何故か撫でられた。…僕の方が年上だよ?



「それに…、どうせ嫌でも慣れてしまいますから」

「私も、ソーネも完全に慣れてしまっていますからねぇ…。それはおそらくよくないことでしょうが」

「じゃな…」


 何でカチェプス様も同意しているんだろう…。



「姉様も粛清命じてるから…」


 こそっと耳打ちしてきてくれたブルンナ様。なるほど。カチェプス様も間接的に人を殺して、その業を背負っているのか。



「じゃが、妾はこれだけは断言して置くぞ。最初っから躊躇なく人を斬れる輩も、人を斬った後に何の後悔もしない輩などおらぬ。いたとするならば…、どこか壊れているのじゃろうな」

「でしょうね。この後悔出来る事…、いえ、同族殺しに忌避感を覚える事。それが人間…なのではないでしょうか」

「蚊を殺そうと、熊を殺そうと、ここまでの嫌悪感というものは抱きませんからね…」


 人間……か。



「それが人間の定義なら、僕はおそらく人間ではないですね…」

「何故じゃ?」

「僕は勇者として、同じ人間である魔王を殺す忌避感を、最悪の場合、使命感でもって打ち壊して殺させばなりませんから」

「ハッ。それがどうした?勇者である前に人じゃ。そこをはき違えてはなるぬ。じゃがのう…。妾達にはそれを強く言う資格がないの」

「ですね。今回の場合は、勇者召喚を為し、勇者に人殺しの責を押し付けているのですものね」

「今の時点で猊下や、アレム、私、いえこの世界の誰が言おうと、「どの口で言ってんだ?」としかなりませんからね…」

「強いて言うなら魔人族は言えるけど…」

「恨み辛みを叩きつけられるだけではないか…」


 だよねー。とブルンナ様は肩を落とす。



「妾達も帰還方法を探すべきなのじゃろうが…」

「自分勝手ですが時間が…」

「そこまでは求めませんので」


 こちらの世界の人々にもこちらの世界の人の生活がある。だからこそ、僕らの都合で破壊するわけにはいかない。



「この人、勇者勇者してるよ…。シズクは?」

「わたくしですか?わたくしも似たような考えですわ」

「お二人の使命感は美徳ですが…、私達並みに気楽にいかれれば少々楽になりますよ?」

「そうですそうです」


 美人4人の呆れるような賞賛するような目。思わずしり込みしてしまう。



「私は男です」

「あ。はい」


 アレムさんの目が俺だけに集中した。…男でも美形って使うんだけどなぁ。



「あ。そういえば、私達並みで思い出したのですが、アレム様とフランソーネ様はここにいて良いのかしら?」

「ああ。大丈夫です」

「リベールに押し付けてきましたから!」


 「あのアホ上司ィィィ!」そんな叫び声が聞こえた気がした。



「話を戻すが精神回復は必要か?」

「いえ。大丈夫です。自力で呑み込んで消化します。僕はここで折れるわけには参りませんから」

「ならよい。妾のものとて完璧ではないからの」

「あら?違うのですか?」

「ふふ。シズクよ。そなたも同じ回復系として妾のシャイツァーに興味があると見える。どうじゃ?あるのか?」

「ありますわ!」

「正直でよろしい」


 カチェプス様は楽しそうに笑うと、雫を近くへ招き寄せる。



「妾の回復は、この聖杯に出てくる水を飲ませることで効果を発揮する」


 不思議なことにどぼどぼと、聖杯に水が溢れる。なるほど。だからさっき、わざわざ普通の水(・・・・)って言ってたのか。



「じゃがの、この水。肉体はともかく、精神の方は完全に回復出来ないのじゃ」

「何故です?」

「端的に言うと、回復方法が原因に蓋をする。そんな感じじゃからじゃな」

「え。その場合って…」


 僕が飲ませてもらったとして、次に人を斬ったら再発しない…?



「その通りじゃの。だから普通は一般人にしか使わないのじゃ。もしくは…、折れた軍人じゃな」

「一般人に使うようなことってあるのですか?」

「あるぞ。犯罪で心に傷を受けた者が大半じゃ」

「この前は、シュウとシキのせいで大変だったけどねー」


 え。何やらかしたのその二人!?



 待って。何で4人全員遠い目をしてるの!? 僕ら完全に置いてけぼり喰らってるんですけど!? 聞かねばならない。



「何があったんですか?」

「同級生としてお聞かせ願いたいのですわ」

「怒って住民にトラウマ植え付けて行ったのじゃ」

「問題は解決して行ってくれたんだけどねー」


 また遠い目。二人とも何をしているんだ…?



「二人は一体何に怒ったのですか?」

「子供が誘拐されたのじゃ」

「「はぁ?」」


 意味が分かんないんですけど。僕ら同級生だよね!? 留年しているはずないから18歳くらいのはずなのに何で子供が!?



 …まずは落ち着こう。子供の年齢を聞こう。



「…何歳ぐらいお子様ですの?」


 あ。雫に聞かれた。



「ブルンナと同じくらいかの?」

「かも?」


 余計に意味が!



「アイリちゃんでしたか」

「仲良さそうな家族でしたね…。滅茶苦茶でしたけど」

「ああ。アレム。フランソーネ。一人増えておるぞ」

「「へぇー」」


 !??



「では今頃、また増えてそうですね」

「だね。ソーネ。私らも頑張って作ろうね」

「きゃ。アレムったら…」


 驚く僕らを全力で置いてけぼりにして突如展開されるラブ空間。よそでやってください…。



「何で増えたんですか?」

「人徳?妾もよくわからんの。じゃが、二人の言うように増えるじゃろ」

「まぁ、少なくともカレンちゃんは偶然だと思うよー。エルフだしー」


 エルフ……? 何だ。義理の子供か。納得。



「光太。しっかりしてくださいまし!義理でもこちらへ来てまだ3カ月も経っておりませんわ!にもかかわらず、子供が増えるだなんて少々おかしいですわよ!?」

「確かに!」


 言われてみればそうだ。もうよくわからないよ…パトラss



「そこから先の思考放棄はいけませんわ」

「…はい」


 目がマジだ。何とか話を変えないと…。あ。戻しちゃえ。



「皆さまのシャイツァーについてのお話をお聞かせ願えませんか?」


 ピシッと空気が固まった。…あれ。…まさか。



「軍機…?」


 ボソッと漏らした言葉。それを幸いとばかりにフーライナの二人が言葉を載せる。



「勇者様だけならいいのですが…」

「アレムの言う通りで…、大変言いにくいのですが教皇猊下がいらっしゃいますので」

「面倒じゃのう…。妾のシャイツァーとブルンナの分では…、だめじゃろうな。妾の物は有名すぎる。猫をかぶるのをやめればいいか」


 !? 気配が変わった?



「ほら、話せ。なんならオレからいこうか?…どうした?なぜ黙る?」


 キャラ変化が大きすぎません?



「姉様が猫かぶりやめたからだよ。猫かぶりをやめたら色気もクソもない、ただの胸のあるイケメンになっちゃうじゃん」

「ブルンナ。お前後で説教な」

「ひどい!」

「逃げたら問題難しくしておくから」

「!?」


 内容がよくわからないけど…、これは機密では?



「おら、話せ」

「えー、じゃあ、僕が聞いたので僕から」

「逃げ道を断って行くのですね。やりますわね。光太」


 そんなつもりはないよ。



「僕のものは聖剣です。魔物や魔獣に対して攻撃力が増します。ついでに毒とか、麻痺は効きません」

「ほう…。シズクはなかなかやるの」

「?何のことしょう?ねぇ。光太」

「そうだね。何のことだろうね?」


 フーライナ組が「まさか…、天然!?」と恐れおののいているけれど、理由がよくわからない。



「…おいおい。まさかあの二人以上に鈍いのか…。まぁ、いい。それだけか?」

「基本はそんな感じです。後は、雷や、光などの光を放つ魔法に若干の補正ですかね」


 でも、それだけ。状態異常無効の時点で強いけど。まぁ、酔いには効かないみたいだけど。



「では、次はわたくしですわね。わたくしのシャイツァーはこの杖ですわ。回復と、攻撃が出来ます。回復は肉体的なものと状態異常限定ですわ。トラウマはどうしようもないですわね…」

「攻撃とは?」

「杖で切り裂く。魔法を唱える。それくらいですわ。ただ、わたくしは未だに人を斬ったことがございませんので…」

「そのあたりはどうしようもねぇな。だが、この世界にいる以上は…」

「わかっております。覚悟はできています」


 真っすぐな目。僕も前はあれくらいの目を出来ていたはずなんだけど。



「心配するな。お前の目は綺麗だ。間違っちゃいねぇ。現に今も折れていない。そして、オレの見立てでは、お前はこの程度で折れねぇよ。だから、もしもシズクが折れそうになれば支えてやれ」

「言われずともわかっております。さっきまでも支えていてもらっていましたから」


 この手の気持ち悪さも、吐き気も今だ完全には拭えない。先のバカ騒ぎの中でさえも、意図的に意識の埒外へ追いやっていたけれど、消えはしなかった。



 これを雫には味わってほしくないけど、雫は絶対に折れない。だからこそ、お返しをしないと。



「口の中が甘ぇ。…次はオレだ。聖杯は、さっきの説明に加えて、飛べる。ついでに闘技場も作れる。以上。詳しくは本を読め」

「ブルンナのも本読んで」


 いきなり丸投げですか。



「本のタイトルは?」

「『現教皇のシャイツァー』だ。ぶっちゃけ纏める意味はないがな。作ったほうが今回みたいに面倒な説明を省けるからな!あ。最上級禁書指定されているが、お前らには許可を出しておく。ついでにそこの二人も。一日でいいよな。すぐに見つかるしな」


 本当にぶっちゃけるんですね…。雫も同じ気持ちらしい。顔が呆れている。



「逃げ道ガッ…」

「諦めましょう」


 フーライナ組の顔が暗い。何かに負けたのだろうか?



「心配せずとも戦争は起きぬ。馬鹿はこの前粛清したしな」

「そもそも、この国もフーライナの食糧に依存してるしー」

「「ですね!」」


 ヤケクソ気味。こんな二人、始めてだ。



「では、私、アレムから。私のシャイツァーは『炎剣ムイ』です。炎の魔法に補正が入る、燃える剣です」

「フランソーネのシャイツァーは『大盾グドシルド』です。あらゆる攻撃から守る盾を召還できます」


 知ってます。同行した際に見せてもらったので。あ。そういえば。



「お二人の魔法って、不思議なことに、最後の発動キー?みたいなものが、漢字だけのイメージで浮かぶ…というか、聞こえてくるのですが、どういうことなのでしょう?」

「あ。そうですわね。わたくしも気になっていたのです。普通の騎士様方の魔法はほとんどが漢字とルビなのですが…」


 二人の顔が苦々しい。だからこそ、雫の言葉も先細り気味だ。



「はぁ…。それはですね、私達のシャイツァーは過去に勇者様が使っていたから…。だと思われますよ」

「ですね。私達のシャイツァーは両方ともどこかの本に載っていたはずです」

「ブルンナ。そんな本あったか?」

「あったと思うよー。魔人、獣人で活躍したみたいでかなり冊数の少ない勇者だけどねー」

「名前は?」

「忘れた」

「おい」


 後で探そう。



「それと何の関係があるのです?」

「勇者様は基本、召喚された方ですし…、だから漢字なのでは?新しくない、こういった既に存在したことのあるシャイツァーは縁の深い者に受け継がれていく…らしいのです」

「その「縁」が何なのかは不明ですが!ただ、どうもこのシャイツァーから伝わってくる限り、我々の魔法は少々劣化しているみたいなのですよねー」


 繋がり。ね…。



「もしかして、血縁かな?」

「少々オカルティックですが、魂かもしれませんわよ」


 二人でこっそりひそひそ話。ファンタジーでオカルティックもありはしませんわね。と雫は小さく自嘲する。



「魂…?」


 聞こえていた…!?



「つまり…、」

「私達は前世からの恋人…?なんて素敵な…」


 2回目のラブ空間。よそでやってくださいよ…。



「失礼いたします!」

「入ってよいぞ。」

「「ちょっ!?」」


 慌てる二人を無視してドアは開く。



「「げぇっ。リベール!?」」

「げえっとはなんですか、げえっとは!仕事溜まってんですから帰りますよ!」

「ヤダ!小生。帰りたくない!」

「子供ですか!」

「しかも今帰ったら負けちゃう!」

「何に負けるんですか!知りませんよそんなこと!はいはい。帰りますよ!失礼。教皇猊下」


 走って窓際へ追い詰める。そしてじりじりと距離を詰め…、



「「さらばだ!リベール!」」


突然窓を開け放って飛び降りる。



「ちょっ!?」

「「あ」」

「ゲブッ!」


 僕が驚く間もなく、走って間際に寄ったリベールさんの顎を膝うちしながら二人は戻ってきた。何の嫌がらせ…。



「「猊下本日はこれにて失礼いたします」」


 挨拶をすると、返事も聞かずに窓から飛び降りた。



「あんにゃろうども!私もこれにて失礼いたします!」


 ドアを開けっぱなしにして出て行った。



「嵐のようでしたわね」

「だね」


 ところで…、「負ける」って何に?



「紅茶が旨い」

「勝利おめでとう」

「何に勝ったんです?」

「シャイツァーの情報を抜けた。彼らは抜けなかった。そう言う事だ」

「ブルンナ達のシャイツァーは国防にそこまで関係ないけど、あっちは騎士団。主力だよ。守りやすくなるね!」


 うわ…。



「それに、本も本当にあるかどうか怪しいしねー」

「それは本当だぞ。ブルンナ。だが、見れるのは一日限定。しかも『現教皇のシャイツァー』なんて本。何冊あるかな?」


 は……?



「…もしかして、何冊もあるんですか」

「当然。書かれた当時の教皇のシャイツァーが載った本だぞ。教皇の分だけあると思っていいぞ?」


 この国の歴史は長い。神話決戦ごろからのはず。…悪辣としか言えない。



「それが、外交ですか…」

「ああ。ま、これであの二人も懲りるだろ。一応、リベールの依頼だしな」

「依頼ですか?貴方がたへの見返りは一体何ですか?」

「それは内緒だ。お主らには関係ないさ。…さて、ドーラ!」

「はい」


 ドアからスッとメイドさんが入ってきた。



「ブルンナを縛って勉強させろ」

「ふぁっ!?」


 あっという間に縛られるブルンナ様。そのまま出荷される豚のように引っ張られていった。



「哀愁が…」

「こうでもしないとあいつは勉強せん。ああ。メイドはいつでも、何かあれば呼べ。で、お主らはどうする?」


 どうするって…、やることは決まっている。



「しばらく滞在させていただいても?」

「構わぬぞ。だが…、フーライナは?」

「フーライナはあれが終わると出る予定だったので。構いませんわ。リベール様にもそう伝えております」

「左様か。なら、部屋に案内しよう」


 カチェプス様が椅子を立つ。その後ろを僕たちは歩く。



 窓から西日が差し込み、手が朱色に染まる。思わず手を振り払うと、雫に手を取られた。



「不安ですの?」

「…うん」

「大丈夫ですわ。二人なら乗り越えられます。それに、わたくしの時は貴方が支えてくれないと困りますのよ?」


 みっともない僕を安心させるように微笑む雫。…ああ。そうだね。僕がやることにしたんだ。だからこの重さは僕が背負う。そして、僕らは全員で地球へ帰る。

(思いついてしまった)小ネタ



カーチェ様 「最初っから躊躇なく人を斬れる輩も、人を斬った後に何の後悔もしない輩などおらぬ」


超親バカ二人「「え?」」

ルキィ様ラブ「え?」

化学好きな姉「ん?」

シスコンの弟「ん?」

扇持ち京美人「何か?」

山崩し大砲姫「?」

厨二機関銃士「え?」

大砲姫の許嫁「ゑ?」

大剣持ち天然「あ?」

両親好きっ子「い?」

苦労人拳闘士「う?」

青い魔法使い「えお?」



ブルンナ  「うわぁ…」

カーチェ様 「召喚失敗してんじゃねぇのコレ…」



終わりです。

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