閑話 この時期の百引班
「ねぇ。アキ。変なこと言ってもいい?」
私の親友羅草愛ちゃんが深刻そうな顔でそう言った。だから私、百引晶は、それなりの顔をして頷いた。
「あたしね…。」
「うん…。あ。男子共どけた方が良い?」
男子、すなわち久我謙三と神裏瞬の二人。そこそこスタイルに自信のある私よりも普通に身長が高くて美形に見えないこともない二人。思い至らなかったけれど、こいつらがいたら話しにくいかもしれない。
頷いた…だと!? 余程な気がする。とりあえず男子共を追い出そう。というわけで、キーック。
「この扱い!?」
「いつものことじゃん。ケンゾー」
ハッハ。よく瞬はわかってる。
「で、何?」
「あのね。アキ。怒らないで聞いて欲しいの…」
重々しい雰囲気。ごくりと唾を飲み込む。
「あのね。あたし…」
ツーっと汗が額から流れ落ちて頬を経由、顎に達して地面に落ちた。
「あたしね…」
う、うん。
「あたしね…」
スッと悲しそうに目を伏せる。……一体何なんだろう。
「あたし…、えっと、絶対怒らない?」
「え?うん。怒らないよ」
「ほんとの本当?」
「うん」
「絶対?」
「うん」
「天地天命神様に誓え「ぐぎゅるるる」」
素敵なお腹の音だね。愛ちゃん。恥ずかしそうに顔を伏せてる。…えっと、つまりこれは……。
「頼みって昼食?」
「そ…、そうなの」
イラッ☆とりあえずデコピン。
「痛いよ!怒らないって言ったじゃん!」
「これはスキンシップ!」
異議は認めないもーん。というか、愛ちゃんのシャイツァーが魔導書。しかも回復の出来る青魔法なるものだからと言って、全力でぶん殴らない私の優しさにひれ伏した方が良い。
まぁ、青魔法なんて区別はないっぽいけど! 単に、回復と水、氷系の魔法が使える本だ。
「とりあえずさ、昼ご飯ぐらいサッサと言おうよ」
「そうだぜ!俺だってべっこべこだぞ!」
一斗缶が凹んでいるのかな? 音がおかしい。
「というか、僕らが追い出された意味」
……ないな!
「「テヘペロ」」
軽く小突かれた。私悪くなくない!? …あ。蹴りだしたか。はは。あーそれにしても痛いよー。重傷だよー。あー。動けないよー。頭裂けてるよこれー。
「仕事放棄お疲れ様でーす」
「どうでもいいからさっさと作って食おうぜ!ベッコベコだから!」
「お前は余計な事すんな。ケンゾー。座ってろ。ついでに羅草も」
瞬の選択は間違いない。二人とも料理できないしね!
「にゃんで?」
不思議だ。という顔を隠しもしない謙三。そして、料理が出来ないことを吹っ切ったのか、ない胸を張る愛ちゃん。
「もぐ」
あ。ちょっと待って。愛ちゃん。やめて。そこ触っちゃダメ。男どもいるから! いるから! あ。くすぐったい。やめて。ヤメロー!
「許さん。この罪は高くつくわ!」
にゃー! やめて。やめて。あ。これダメなやつ。
「離せばわかる。離せばわかる!」
「何あんた、離せっつってんのよ!話すじゃないのそこ!?」
「離せばわかる!」
「逆に新しいわ!」
ぎにゃー! もげる。服が破れる。ちょ。
「強行突破!」
顔めがけてキック! てえぃ! 命中! やったね!
「うぅ…。女の子なのに…」
「私も女の子!問題ない!」
それに、愛ちゃんなら回復できるし。
「ケンゾー。お前はそろりそろりと近寄ってくんな。正座してろ」
「座ってるだけってのは、時間無駄だし、走ってくる」
「あんまり遠くまで行くなよー」
男ども、助けもしやがらねぇ…。
「お前が言うな。僕を除く3人の中で唯一料理が出来るのに」
謙三は砂糖と塩を間違えたり、酒と味醂を取り違えたりするしねぇ…。砂糖は、折角真っ白ではなくて、茶色のザラメ使ってるのに。
愛ちゃんは…。うん。まぁ、人には苦手なこともあるよね。料理の才能が胸と同じくない。
「よし。殺す」
え。ちょ、何で。口に出してないのに!
「目が笑ってるのよ!畜生がぁ!」
ギャー! 今度こそもげる!
「…ハァ」
助けてー!
_____
「ただいまー!走ったから余計にベッコバコだ」
「それドラム缶砕け散ってそうだな…。まぁいい。出来たぞ。座れ。……羅草も。百引は…。うん。着替えてこい」
見ーらーれーたー。謙三は阿保の子だからわりかしどうでもいいけど、瞬に見られたー。
「幼馴染だからしょっちゅう見てたよ?」
羞恥心皆無の幼児期と今を一緒にしないで…。
「まぁ、綺麗だし。あるし。いいよな!いただきま、ゲブェッ!」
「神敵滅ぶべし」
キリッ。とチラッと胸を見た謙三の顎に魔導書でアッパーカットをかけ、そう言い放つ愛ちゃん。容赦ない。男だから…、ん? 私にも容赦なかったわ。はっは。
それでも弄るけどな!
「どうしようもないコンプレックスで弄る奴は許さん!天誅!」
ゲブッ! うぉう…。今の良い一撃だったよ。愛ちゃん…。
「我ご飯時に暴れる者を滅す」
あ。まずっ。瞬が。瞬が!マジギレしてる!とりあえず謝ろう。
「「「ごめんなさい」」」
「問答無用!死にさらせぇ!」
「「「ドブルジャデバッ!」」」
色々酷い。
______
料理は冷めても美味しかった。料理人の鏡!
「そういえば」
「何?ケンゾー」
「走っている最中にお腹を空かせた熊を見たぞ」
「どんな?」
「5 mくらいで、目が真っ赤で。背中から触手生やしてた」
「馬鹿なの?」
思わず口から罵倒が出た。赤目の時点で魔物か魔獣じゃん。で、この道、魔物も魔獣も出ない道じゃん。見つけたら処分してって言われてるじゃん!
「その熊どっち行ってたのよ?」
「知らないぜ!」
元気よく愛ちゃんに応えた。…イラッ☆とした。とりあえず一発殴ろう。そうしよ…、
「待って。後ろ見て後ろ!」
「後ろ…?」
なんかでかいブツと目が合った。…こんにちは。
「グルゥ!」
まぁ襲ってくるよねー。「こんにちは!死ね!」を地でくるよね。そりゃそうだ。お腹空いてたんなら、私達の方に来るよね! だってさっきまで料理してたもの! いい匂いしてるし!
「何でこんなところで料理したのよ!」
「生野菜と生肉だけでよかった?」
「「「よくない!」」」
良いわけないでしょう!
「ね?」
ならしかたない。兎に角、熊だ熊。あいつの触手、伸びてて気持ち悪い。しかもうねうねしてる。
「愛ちゃん。あれこそもぐべきだと思うんだ」
「嫌よ。触りたくもない」
「僕は触らなきゃいけないんだけど?」
瞬のシャイツァーはグローブ。攻撃方法は殴るだけ。…ドンマイ。
「うわぁぁん!」
「大丈夫だ!俺がいる!」
ぬん! と謙三が2 mはある大剣を振るった。が、見事に空を切った。
「当てろよ!」
ヤケクソ気味にグローブをしながら熊の触手をむしり取る瞬。
「やっぱムズイ」
みんな知ってる。謙三が肝心な場面だけは当てるけど、普段は空気を刻むのが上手すぎることぐらいはね!
「てか、あんた道場やってんでしょ!?久我道場!」
「俺は道場やってない。爺ちゃん。それに道場やってる=強いとは限らないぞ」
「正論吐いてんじゃねぇェェェ!どうでもいいから当てろぉ!めっちゃこの触手ぬちゃっとして気持ち悪い!」
頑張れ。瞬。
「めちゃキモイ!でもキモイ以外に何もねぇのが余計に気持ち悪い!」
毒ってわけでもなさそうだしね。瞬の言うようにきもいだけ。あ。そうだ。
「愛ちゃん。凍らせてあげらたら?」
「それもそうね」
忘れてたなこの子。
「あたしの魔力に従いて、水よ、凍てつけ。もげろ。『アブソリュート零』!」
何故。私を見る。まだ引きずるの? …はっは。私がいつまでも引きずるからか。
まぁいいや。どう考えても絶対零度(氷点下297℃)もないけど、冷気が熊の体を覆う。目論見通り、ねちゃねちゃがマシになったみたい。
「ナイス助言!」
「あたぼーよ!助けいる?」
「多分いらん!」
「りょーかーい」
なら、いつでも割り込めるようにはしておきつつ、見ておこう。私のシャイツァーだとそれが最善。
「勇者3人がかりでも強いぞこいつ!」
「あんたの攻撃当たらなさ過ぎてヘイト全く稼げてないけどね!」
「僕と羅草だけが狙われてて壁にすらならないとかもう笑えるんだけど。というか触手多すぎて笑ってるんだけど」
実質2人。うん。いつものことだ!
「愛ちゃん急いで凍らせて!瞬が壊れちゃう!」
ぬるぬるになりすぎて。
「わかってるわよ!魔力よ、もげ。もげ。凍てつかせて、もげ。あたしの気に入らないものは全てもいでしまえ!『絶対氷結』!」
だからさ。愛ちゃん。こっちを忌々し気な目で見ないで。
…まぁいいや。何をしたのかは知らないけど、熊の触手が寒さでもげてる。…うん? あれただの水だ。凍らせると見せかけて、ただ単に水の圧でもいでるだけだ!
「魔力よ。清浄なる水よ。瞬を濯げ。『ウォッシュ』!」
何の捻りもない呪文で水がザバーっと滝のように降ってきて瞬を洗った。
「やった!ぬめりが取れた!」
「すぐ汚れるけどな」
「だな!だから羅草!頑張って!」
「俺は!?」
「お前はまず攻撃を当てろォ!」
さっきから全然当たってないもんねー。それにしても…。この熊硬い。効いてる?
「ひょっとして触手はいくらでも再生できる系?」
「うそん。なら僕、絶対あいつ突破できないよ!?遠距離攻撃ないもん!」
「あたしは行けるかな。ヌルヌルに耐えながら待ってて!」
「え、えと俺は…」
「「「謙三はまず当てろ」」」
「ちくしょーー!」
頼むから当てようよ。…何もしていない私が言う事じゃないけど。シャイツァー泣くよ?
「離れて!」
「おう!」
愛ちゃんの言葉に瞬が離れる。
「貫き穿て、氷の華。あたしの魔力よ、形を成して全てを喰らえ!」
まともな呪文キター! ……こっち見んな。何も変な事考えてないから。
「『氷華風嵐』」
向きなおった愛ちゃんの呪文。熊の周りに氷でできた花が咲き乱れ、一瞬にして強風にあおられたように花びらが散る。散った花弁は風に煽られ細かく砕け散り熊の体へと次々に突き刺さる。だけどこれじゃあ…、
「火力足りない!」
「まかせろー!」
「グルァッ!」
謙三の一撃。熊が右に飛んだ。流れるように外れた。何で大上段から振り下ろすの…。
「なー!もう!兄貴みたいにうまくいかねぇ!」
森野君ね。会ったことないけど。このおまぬけが事あるごとに言っているから知ってはいる。私も長かったけど、それよりも寝込んでた人だったっけ。ついでに清水さんも寝込んでたか。
「くっ…」
愛ちゃん!?
「魔力がちょっときつい。ちょっと魔力配分失敗しちゃった」
もしかしなくても、「呪文に殺意乗せすぎた」
はぁ。私のせいかー。
「仕方ない。出ますか」
「愛ちゃん!?」
「百引!?」
「え!?」
「仕方ないでしょ。こいつはほっとくわけにはいかないし、メイン火力もばててんだから」
だから出る。さっさとでときゃよかった。
「百引!まさか、水晶で殴る気か!?」
何言ってんのこの子。確かに私のシャイツァーは水晶だけど。
「ケンゾーの間抜け!触手が邪魔で本体に攻撃できないのに水晶なんてどう使うのさ!」
「口にこう…ガッっと」
「あっち見てそんなこと言えんの?」
愛ちゃんが呆れた声で指さした先。その先にはもうよくわからない状態になった熊。
口からにょろにょろ。目からにょろにょろ、耳からにょろにょろ、体中の穴からにょろにょろ。触手だらけ。
「うわっ。キモ…」
今更過ぎる! その鈍感さだけはちょっと羨ましいかも?
「とりあえずあんなよくわかんない失敗「グウォッ!」にゃ!」
危ない。猫みたいな声出た。飛んできた触手は瞬が潰してくれてよかったね。
「とりあえず、潰すよ。出力は…、ギリギリ黒字になるレベルで」
本当に黒字になるかどうかはやってみるまで分からないけど。
「魂よ、御霊よこの手に集え。私と私の魔力が示すは、一条の光。全てを捧げ薙ぎ払え」
詠唱と同時に体から力が抜けて、代わりに水晶が煌々と輝く。…うん。これなら。いけるかな? …瞬も謙三も射程外。撃って良し。
「『死した者達の輝き』」
こっちの言葉で経験値…、ううん、魂に呼びかけ、無理やりエネルギーを引き出し、水晶からを開放。これで……どう!?
熊が光に包まれる。熊の触手が根元のもっと奥から蒸発する。これで…、ああ。ダメだ! 鼓動を止められてない!
「ダメ!倒しきれてない!」
「でらぁ!」
謙三が剣を投げた。そんな破れかぶれが当たるわけが…。
「グムッ」
当たったー! しかも体に力が溢れてきてるー!
「アキ。勝ったの?」
「みたい…。経験値入ってきたもん」
「赤?黒?」
「ギリギリ黒」
本当、やりくりが面倒くさい私のシャイツァー。
敵を倒せば、経験値が入る。だから倒しさえすれば無制限に強くなれる……んだろうけど、魔法使うのに経験値使うというクソゲー仕様。何とかならないのかな? 普通、ゲームならMPでしょ!
まぁ、そんなの叫んでも変わらないけど、というか、「MP?ああ。魔力ね。貰ってるよ」てな感じで魔力も持ってかれるし!
「さっさと解体するぜぇ!」
「任せた」
ん? 今、解体するの? 魔石以外使い道ないと思うけど…。ま、いいか。解体は謙三に任せよう。終わるまでのんびり待機。
_____
「もうこんなに真っ暗になっちまったゼェェェェ!」
空は真っ暗。満点の星が輝いていて実に綺麗である。倒したの昼なんだけどね !てか、気づくの遅すぎ。3時間以上前からこれだよ。
「もし…」
「お腹空いたァァァ!」
「「「喧しい」」」
あ。思わず結構な勢いで殴っちゃった。
「もし…」
「兄貴に比べたら屁でもねぇぜ!」
謙三。貴方…。何やらかしたの…、ツッコミだから痛くないのは当然だけど…、それでも…、って。ああ。魔力で自分を強化したのか。なるほど。それなら痛くはないか。
「あの…」
ん? なんか人がいる。
「おお。やっと気づいてくれましたか。先ほどから声をかけていたのですが」
誰だこいつ。
「ほっほ。私は怪しいものではございません」
3人の目が私に集中する。私は首を横に振る。詠唱よろしく。
「貴方って、盗賊?」
「はは。まさか違いますよー」
私にだけ見えるようにピカッと水晶玉が光った。嘘だね。さて…。
「何で立つのです?」
「ちょっと着替えたいので後ろ見ててください」
「はぁ?まぁ…」
はい。ドーン!「ゴッ」という音を立てて水晶が頭にクリティカルヒット。割と経験値がうまい。
「私の水晶の前で嘘が吐けると思うな。ばーか」
「「「かかれぇー!!」」」
やっぱり囲まれてるよねー。でも、残念。皆の詠唱は終わってるんだ。
「凍てつけ。『氷檻』!」
氷でできた檻が降ってきて賊を閉じ込め、
「失せろ。『雷突』!」
瞬の突きで痺れて動けなくなり、
「ええっと、『なんかすごいビーム』!」
謙三のなんかすごいビームで敵が薙ぎ払われる。名前ェ…。というより、
「「「熊で使え」」」
「忘れてた。テヘペロ☆」
「アキならともかく、てめぇが、テヘペロ☆っつっても似合わないわよ!」
「しかもオーバーキル。ギルティ」
愛ちゃんと瞬がじりじりと謙三に詰め寄り、一撃。謙三はそれを反復横跳びの要領で躱す。余計に煽られてるみたいで腹立つ。
「あ。アキ。トドメ刺しといて」
「ほいほい」
謙三は失敗してるけど辛うじて生きてるのもいるし、先に殺るか。えい。えい。とうっ。これで緊急性のある奴は全滅。
「さて、次々」
「まっ、待ってくれ!降参する!降参!」
「知らないよ。今更とか馬鹿なの?大人しく経験値になりなさい」
って、殴りにくいぞこいつ。檻が邪魔。
「愛ちゃん」
「りょー。謙三を〆るのも終わったし、そっち手伝う」
〆終わった? あーあ。謙三、軽くたんこぶできてるじゃん。治療担当が愛ちゃんだから、自然治癒待つしかないかな。
愛ちゃんが檻を圧縮。ほぼ身動きを取れないようにして、心臓付近に包丁を突き刺す。
「どうぞ」
「あいあい」
そのまま押し込んでザクっとね。
「お…、お前ら…、悪魔か!?」
「「「「勇者」」」」
あ。絶望してやがんの。勇者に喧嘩を売ったから? それとも…、
「勇者は高潔ではなかったのか!?」
あー。そっちね。知らないよ。少なくとも私は高潔じゃないもん。あ。でも、
「愛ちゃんは高潔だよ。私にだけ手を汚させたくないからって、素手で包丁持って突き刺してくれるんだもん」
そんなことしなくても、檻で圧縮すれば片棒担いでるも同義なのに。「素手じゃないとダメじゃん!魔法や、銃器越しと感覚は違うよ!?」だったかな。間違いなく高潔だ。
私は水晶で撲殺するのが基本だけどな!
「くっ。勇者だと分かっていれば…」
はい。ドーン。クズ宣言じゃん。そもそも黒髪ばっかの時点で疑えよ。黒髪は貴族多いとか言われてなかったっけ? まぁ、いいや。ぎゃーすか騒いでるのは全無視。まとめてすっきり経験値!
死体は燃やさなきゃね。アンデッドになられたら申し訳ないし。通る人に。
「全く、私達の邪魔をするとは…」
「でも、いい経験値になったでしょ?」
「謙三がやらかしてくれたからちょい少ないけど」
私が少しでもダメージを与えていれば経験値は普通に入るけど、何もしてないとちょい減る。そこはかとなく某モンスターゲームの香りがしないでもない。
あれと違って、ちょっとでも殴ってたら経験値は全部私に入るけど。
「スマンノ」
謝る気ないじゃん…。もう一発殴ろうかなこいつ。…ああ、でもたんこぶが痛々しいな…。やめとこう。
「でどうする?百引?寝る?」
「そんなノリじゃない。進もう」
「早く帰りたいもんね」
「だな」
「ああ」
「私は…、」
「ああ。はいはい。アキ。お父さんとお母さんに会いたいんでしょ」
わかってるわよ。と愛ちゃんは笑う。むぅ。間違ってはないけど…、
「私はお父さんとお母さんと遊びたいの。やり残したことがいっぱいあるもん」
「積みゲーか?」
「いや、百引は積まないだろ。性格的に」
「じゃあ何だろう?…稀代のマザコン、ファザコンの考えることはわからないわね」
愛ちゃんにディスられた…。むn
「アキ?」
「あ。ごめん」
これはダメなやつだ。包丁手に持ってる。降ろして。プリーズ。
「回復できるから一回ぐらい、いいわよね?」
いいわけないじゃん! 逃げろー! バシェルの方に!
「あ。逃げるな!」
「僕らも追いますか」
「ああ。いくら灯があるとはいえ小さいからな!」
「…ケンゾー。君が言う?」
「……とりあえず灯持つ」
走っても大丈夫。ちゃんと追いかけて来てくれるし。いつもの戯れ。…さっきみたいな熊や盗賊みたいな例外があってもきっと大丈夫。