閑話 この時期の臥門班
臥門視点でお送りします。
スコープを覗き、狙いを定める。見える、見えるぞ! 死線が見える! …銃身を固定。
死を齎す引き金に指をかけ、そっと引く。死神が移動するがごとき、極小のスルスルという音を立てながら鉛弾が飛翔。目の前に立っていた盗賊の見張りを一瞬にして肉塊に変えた。
…完璧だ。
「ふっ…、どうやら、奴はこの我、臥門 芯の『必中魔弾ザミエル』から逃れることは出来なかったようだ…。フッフッフッ…」
「おま…。ザミエルって、ザミエルの魔弾、魔弾の射手だよな?」
「もちろんだとも」
寧ろそれ以外に何があるというのだね。
「…その場合、7発目を撃てばお前が撃たれるぞ?」
……ザミエルの魔弾。6発目までは思った通りのところにあたる魔弾。なお、最後の一発は悪魔の思い通り──魔弾使用者にとって最悪の結末を齎す──だったか。
「うるせぇぞ!旅島順!」
「いや、でも本当のことだろ?」
……うむ。確かに。7発目は間違いなく我を射抜くだろう。姫が我を愛するがゆえに。だが…、
「魔弾でぶち抜くぞ?」
「一応、心に止めとけよ。」
うぐぐ…。確かに。そうだな。
「で、魔弾ってなんぞや。魔力で作っているから確かに魔弾なんだろうが。今、お前が使ったのは『消音』だろ?」
お前の腕のゴリ押しじゃねえか。とため息を吐く順。何故掘り返す。…このロマンがわからんのか。
「ロマンじゃ飯は食えねぇよ。まぁ、お前のシャイツァーは狙撃銃だから、そういうことする余裕もあるんだろうが」
「なぬ?お前…、我の魔眼が見えぬのか?」
「きわめて日本人として一般的な黒からこげ茶ぐらいの目ですね。目に悪いけど、カラコンでも入れる?」
こいつ…!
「それに、魔眼なら赤色だよねー」
「おい、順」
俺の重い声に順は黙りこむ。全くこいつは…。
「ルキィ様がおっしゃっていたではないか。赤目は、少なくとも人間の間ではタブーだと」
「そうだったな。すまん」
「わかればよい」
禁忌を踏み抜く。字面がカッコいいのは認めよう。だが、大抵ロクなことにならぬ。近畿にはそれ相応の理由があるのだ。我はそれを幼き頃より身に染みている。
魔眼だとか、波動だとかそういうレベルではなく。
「ところで、あの爆弾娘どこいった?」
「ん?列か?」
「当り前じゃねぇか。蔵和列。お前の彼女」
あれは彼女と言ってよいのか? 確かに半身的なものではあるが…。
「というか、彼女って言うのであるならば、彼氏である我の前で悪口言うのはどうかと思うが」
「ハッハッハ。お前がこの程度で波動解放しないのはわかってるから問題ない。あっちのがヤバイし。てか、マジでどこよ?」
「列は、今次作戦、コードTOBすなわち、『|Total Extinction Barbarian』では、我の護衛だったはずであるが?」
「無駄に発音がきれいでうぜぇ。そしてただの盗賊殲滅作戦の名前が大げさすぎてさらにうぜぇ。そして、バーバリアンは、野蛮人だぞ?盗賊ならシーフだと指摘しておく」
「BarbarianとThiefであるな」
「発音がうぜぇぇぇぇ。わかってんなら揃えろや」
細かいことは気にするでない。
「どうせならドイツ語にしろよ」
「我は独語を解さぬ」
「知ってた」
「では、言うな」
おい、その哀れなものをみる眼をやめよ。えぐり抜くぞ。
「で、列は?あいつのシャイツァー大砲だろ?連れていけねえぞ」
「うむ。かの暗黒魔弾砲改3ならば、容易く崩壊させるだろう」
「列の大砲にそんな名前はない」
「知っているが?」
…その目をやめよ。
「あ?てめぇ、どこのガキだ?」
「戦艦、戦艦」
うげ、この「戦艦」→「大和&武蔵」→「蔵和」とか言う連想ゲームの必要な言葉、そして高い声…。列だ。いつのまにあいつ、入り口に接近してんだ!?
「俺らが遊びすぎたな、タイミングも悪かった。見張り交代の時間だったんだろ。幸い、死体はばれてないようだが」
バレていたら即死だった。相手が。
「急ぐぞ、順」
「あぁ、我らが爆弾姫の琴線に触れないうちに…な。クカカ。我は、|ヒドゥンアナザーゲート《ただのもう一個の出口》を探すことにしよう」
ちょ。順!?
「カエサルの物はカエサルに!我らがプリンセスの管理はプリンスに。余はミッションTOBを遂行する」
何こいつ引用してやがる!? 確かに受けた仕事は、盗賊の殲滅だが! 手伝えよ!
「アンアクセプト。余の言葉では、お嬢を止めるにインサフィッシエント!」
「不十分でも手伝え。というか、順、おまえは、不十分を認めるのか?」
「ふむ、確かに我はサーチスィングは容認せんよ。「なら、」|イグジスタイクセプション《例外がある》」
英語うぜぇ。何が例外なのか言え。
「それは我らが姫のことだよ。そもそも、貴様は、『常華高校の非リアが選ぶ、普段なら爆発してしまえ!と絶叫する俺らでさえ全く持って羨ましくない夫ランキング』堂々の殿堂入りであるぞ?」
なんだそれ。
「まだ結婚してないんだが?」
「その回答がアンサーではないか。そも、オールウェイズ一緒にいるではないか」
判断基準が中学生か! いや、中学生ならするとしても恋人判定か? とりあえず、雑だ! 横暴だ! っていねぇ! 逃げやがった!?
「あ?この声…、ばれたか?」
「九九」
いつものことだが謎の返しをしてるんじゃないよ!! 伝わるわけねぇぞ! 会話のドッジボールすら成立してねぇから! ああ。もう…。何であいつ寝込んでたんだ…。寝込んでなければ宝珠使えただろうに…。
九を英訳。さらに発音繋がりで独語neinとかわかるか! 俺ですら危ういわバーカ! 辛うじてわかったけどな! というか、よく考えなくともこっちに日英独全ての言語が存在しねぇ!
あっちでも伝わらねぇのに…。ああ。召喚時の宝珠未使用とか関係ないわ。ははっ。
「ムカつくなこの餓鬼…?ん?餓鬼じゃねえ?よく見りゃてめぇ、女じゃねぇか」
返事もせずに黙ったままの列。
「あ?今更怖じ気づいたか?ハハッ!今更だな!ここには俺みたいなやつしかいねぇよ」
「剣、剣?」
(真)剣から、「本当?」って聞きたいんだな。伝わるかぁ!
「あ?何だ?恋人か何かの名前か?無駄だぜ!俺らを忘れられなくしてやる。いろんな意味で」
下衆な笑い声あげやがって…!糞野郎のド頭ぶち抜いてやりてぇが、列が邪魔! 俺に跳弾させる技術か、列を無視して当てる能力が、ありゃ別だが! 撃てねぇ!
「あ?てめぇの後ろにあるのは大砲か?」
「ペンギン、ペンギン」
皇帝《肯定》ペンギンですね。わかりません。というか、マジでどけよ列!
「小さいでちゅねー。玩具かにゃー?これじゃ唯一あるもう一個の出口すらつぶせまちぇんよー?」
揶揄いたいがためにわざと赤ちゃん言葉を使っているようだが、脳まで融けたか? アホすぎてぽろぽろ情報が転げ出てくる。列相手に油断しすぎだ。確かにあいつちっせえけど。身長もないし、むn
よし。考えるのもやめとこう。死にそう。
「どこを見て…?ってあんなとこにいやがるじゃねぇか!あれ、貴様の恋人か?」
「違う。夫」
違う。
「そうなのか…、ならあいつの目の前で遊んでやるよ!その後、その大砲の弾がわりに詰めて、虐めてやるよ」
「芯を?」
ゲラゲラと笑い出す阿保。あーあ。地雷を踏みつけた。まだギリギリ点火していないが。何で気づかないのか。頭が足りないのか? だからこんな下っ端なのか? 列が黙っている理由は…。
「おい、バース。なに笑ってる?」
「おや、ワッドの頭。見てくだせぇ小さいですが上物ですぜ!あそこにいやがるのも男ですがなかなか…」
「おお。だな!両方壊れる「殺す」あ?」
「『グドストラ』」
列が大砲で殴り付け、バースを大砲に詰める。
「おい!貴様何しやがる!」
「死ね」
酷薄な氷のごとき声。完全に列がキレた。このいつ敵が出てくるかわからない状態では、最後の切り札『強力麻酔弾』で止めることも出来やしない。さよならだ。
「障壁展開。仰角30」
大砲と列の前に緑のバリアが展開され、大砲が冗談のような早さで「ガランガラン」と音を立てながらきっちり30°回転。
「て、てめぇ!なにしやがる!ぐうっ!」
列に襲いかかろうとした賊が振り下ろした武器ごとバリアに弾かれ、崩れ落ちる。
「対象。ゴミ箱」
「野郎共!でてきやがれ!敵だ!」
「弾、大型生ゴミ。魔力充填開始。0。 10。 20」
「殺せ!なんかわからねぇがあれはやべぇ!」
わらわらと盗賊が沸いてくるが、火力が足りない。そして何より手遅れだ。
「100。充填完了。穿て。『ドグストラ』点火」
淡々と発せられた列の合図。刹那、文字通り巨砲が火を噴く。
巨砲から射出された猛威は一瞬で山を灰燼へと帰した。その衝撃による暴風が砂塵を舞わせる。
破壊力がおかしい。…さすがは世界最大の巨砲の名と外見を模するだけはある。冗談のつもりだったんだけど。
何で俺はあのとき「列車砲の砲作れぬか?」なんて言ったんだ…。
何で、「9849」って言われて、
「クハハ!聞いて驚け!列車砲とはな!あの最悪の戦争中に第三帝国が開発した世界最大のカノン砲のことだ!」
って、グダグダ説明したんだ…。原因なんてわかっているが。俺が調子に乗って説明して、列も当然のように文句を言うことなく聞いてくれたそれだけだ。
『グドストラ』も実際に運用された二門『グスタフ』、『ドーラ』から取ってやがるし…。笑顔で『列と芯の愛の結晶!』とか言われたっけなぁ…。愛の結晶とはなんぞや。育んだ覚えはないぞ。翻訳も出来ねぇし。
列のシャイツァーは『夢幻大砲 ファティネン』とかいう名前だったが、出来るとは思わなかった。
夢幻の名の通り自在に形を変え、ありとあらゆるものを射出し、一切合切破壊する。そんな大砲。
翻訳ミスだと思っていたが、弾もなんでもいいようだ。さっき人を撃ってしまって図らずも実証された。されなくてよかったのになぁ…。
ここまで来たらもう、文字どおり何でも、すなわち、自分の魔力や生命力。果てはその辺りに散らばっている怨念までも弾とするだろう。……そういえばあいつの大砲って、弾をエネルギーとして貯蔵できたような。有形物は貯蔵できないらしいが。
…あれ? 列って既に怨念やらを弾にして保存してる? …そうじゃないとこんな威力出ないよな…。
うっわ。やべぇ。想像しただけで汗が出てきた。暴走したら俺に止められるか? いや、俺が止めねばならない。
幸い魔力消費はあほだし。うん。何とかなるな。弾を魔力に変換できるとか言ってた気がするけど気のせいだ気のせい。
煙が徐々に晴れてくると、列は彼女が巻き起こすあれこれ──破壊音、衝撃波、熱風、叫び声、舞い散る土砂etc──を完全に遮るバリアを消した。列の立っている地面には何の損害もない。さすが幻想だぜ。反動が息してない!
バババッという連続音も響いている。確実に裏切り者だな。よく無事だったな。このクレータなのに。
「芯」
「ん?ぎゃっ!?」
いきなり何しやがる。…あ。腕が動かねぇ。あー。嫌な予感しかしねぇなー。恐る恐る視線を下げればすっぽりと俺の体を覆う砲。
だよねー。
「列?一応聞くけどなにするつもり?」
「図形、図形。山、山。」
図形…、ああ。相似で掃除ね。となると、山は尾根からの「お願い」か。群を抜いてわかりにくい。
「俺を撃つ意味は?」
「甲府、甲府」
甲府といえば山梨県。なしってことだな!
「魔力?」
「雲、雲」
なるほど、生き残りがいたら面倒だから確実に殲滅しておきたい。が、魔力がなくて無理と。だから俺が上から探せということか。順もいるが、あれは入り口を一つしか潰せないしな…。
溜息を吐いて空を見やり、視線を降ろして列へと視線を向ければ、こちらを見てすらいやがらない。「やってくれるよね!」そんな風に確信されてますわ、これは…。
はぁ。全力でお断りしたいがやるか。列は俺が怪我をするようなことはしない。「怖いの?へぇー」って感じでその辺りはガン無視してくるが、その一点は信用できる。
「わかったよ。いいよ。」
「発射!」
躊躇いすらしやがらなかった。許可を出した瞬間これだよ。
ぐんぐん高度が上がる。しかたない、愛銃『Chaos Night War bringer』を構える。
「ふっ。刮目せよ雑魚ども!我の天より飛来せし、断罪の使者の前にひれ伏すがいい!」
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「ぎゃぁ!」
「昼湖、昼湖」
昼→hill→丘と湖→エリー湖の混合で、丘エリーと。喧しいわ。
「お帰り。芯」
「裏切者…。死ぬ。死んじゃう」
「いつから仲間だと錯覚していた…?」
「なん…「親友だ」ほげぇ」
じゃあ余計に助けろ。
「戦果はどうだ?」
「聞いて驚け!我の『Nightmare Chaser』により殲滅完了だ!」
「おー。また銃の名前変わっているうえにほぼ列のおかげな点を除けば最善だな」
うるせぇ。文法についてツッコんでこないところは評価してやる。
…で。
「列。そろそろ離れてくれない?」
帰って来てからずっとベタっと引っ付いてきてんだけど。怪我無い? 的な感じで。…列が吹き飛ばしてくれたんだけどな!
「ぃやー」
Ja?何でまだドイツ語の肯定?
「ちゃんと聞け。「ぃやー」だ」
ですよねー。
「で、次はどうすんだっけ?」
「我らが本拠へ戻る。そしてそののちに我らはこの血塗られた大地…、『ファラボ大橋』へ帰還する!」
「血塗られたって…」
「歴史紐解けば血塗られているから正しいぞ?」
「まぁな。ここ…、まぁ厳密にはもうちょい東だが。そこには人間領域と魔人領域を隔てる『ファヴェラ大峡谷』があるもんな」
「峡谷というよりは神の怒りだが」
「底には激流があるもんな」
我の言葉を無視するとは…。
「大峡谷の最峡部。かつてはそこに存在した大陸を繋ぐ橋はもはやなく。名前が痕跡を示すのみ…か」
「Exactly!橋は戦火に呑まれて消えた!故にこその…!」
あ。まって。首掴まないで。
「羊…、羊…。
ふわぁと欠伸。ああ。もう眠いのか。羊と言えば「眠り」実に安直。
「帰るか」
「だな」
列を背負い宿へ。バシェルに戻れば…、いよいよ魔人領域に突入することになる。背中に背負い込むこのふにゃりとした柔らかい爆弾を抱えて。
……ザミエルの魔弾か。先刻自分で言った言葉。だが、それは先とはまるで違った様相を俺に呈している。
ああ。間違いないさ。間違えようなどあるものか。その7発目は確実に俺を射抜く。列がいる限り。例え俺が自爆したとしても…、列はその激情を世界へと叩きつける。自惚れでもなんでもなく、列はそこまで俺を好いてくれている。
それは地球にいたころから変わらない。俺に危害を加えようとする奴がいるならば列はそれを潰した。例え遊びの中であっても、俺を狙ったボールは全て列がとった。投げた相手が内野ならばすぐさま潰しにかかった。外野ならば怒りを目に宿しながら、内野を理不尽に粉砕した。
今は大砲を持った。順の言う通りだ。爆弾だよ。超ド級の。山を潰したように、怒りを世界へ向けるだろう。
それが怖い。だが、行かねばならない。そして、俺も列も無事に帰って還る。そうじゃないと、列の両親に顔向けできないからな…。
本文中に出てくる英語関係は全て、綴り以外は適当なのでその辺りのミスはスルーお願いいたします。名詞だけの文に助詞付けた訳書いてたりしますし、形容詞使うべきであろう場所も名詞でゴリ押ししていますので。
ついでに英語を模したカタカナの部分(主に順のセリフ)もノリと勢いなので、ここのミスも同じくスルーお願いいたします。