146話 慌ただしい出撃
あー、よく寝た。さて今日は何をs、
「おはよーございまー「ドォォォン!」」
何かが上から降ってきて庭に穴をあけた。昨日穴をあけないように配慮した意味よ…。
「良い朝ですね!」
何事もなかったかのように、破壊した穴から出てくるリンパスさん。浮く鯱って便利ですね。手が届かなかろうが問答無用で出てこれますもの。
だが、それが悪かった。リンパスさんを真っ二つに掻っ捌ける軌道で鎌が飛来し、的確に心臓と頸動脈を狙える軌道を矢が辿り、あらゆるものを内部から焼き尽くす光球がそれらよりちょっと遅れて発射されて、爪が俺らを守るように浮遊する。
「にょわっ!?」
変な声をあげつつもリンパスさんはアイリ、カレン、レイコの攻撃をころころっと転がり回避。
「何するんですか!?特にレイコ様!?」
「…なんだリンパスか。お父さん。今何時?」
「まだ1の鐘にもなってないけど?」
「おやすみ」
「みー」
アイリとカレンは抗議を当然のように無視して本当に二度寝する体制に入り、
「何でリンパス様は非難していらっしゃるのでしょうか…?」
「おまいうなのにな…」
ガロウとレイコは「謎ですねー」などと言いあいながらも同様に寝ようとする。
「え。待って下さい。寝ないで。汚染されすぎで」
「ひじょーしき」
「え?あー。ごめんなさい」
腰を直角に折り曲げた。…わからないでもないけど、ちょっと落ち着いて欲しいかな。大好きなリンヴィ様と結ばれたとはいえ、何をどうしたら上から降ってくるんだ。
「…ん。お父さん、起きててよかったね。もしみんな寝てる時だったら殺しにいった」
「怖っ」
「え?寝込みを襲う不埒ものなんて基本暗殺者では…?」
「え?………………確かに」
間。
「失礼。その可能性を失念しておりました。なんせ「「その先は結構」」あ。そうですか」
もうその言葉と態度で察せる。失念していた理由なんて。
「ところでリンパス様は何をしにいらしたのです?」
「だよな。こんな朝っぱらから」
「あ。それですか。それはですね。本日式典があるので!その準備をしていただきたく!」
…耳が悪くなった?
「すいません。もう一度」
「本日式典があるので、その準備しましょう!時間がないので超特急で!」
聞き間違いではなかった。
_____
「服は父ちゃんとお揃い?」
「みたいだな」
リンパスさんの勢いに引かれるまま式典会場に到着。そして服を着させられた。今着ているのは…、羽織袴? 服には詳しくないから自信がない。
ただ、この服についている紋って…、どっかで見たことのある紋なんだよなぁ…。たぶん徳川とかの。
紋の数は5つ。それに白足袋に白草履。これは……嫌な予感がする。
「ところでさ。どうしてこうなったんだ?」
「簡単な話、昨日俺らが聞きそこね、そしてディナン様達が伝え忘れた。それだけ」
「うわぁ…」
「うん。ごめん。ディナン様達は俺らが魔法見せた後だったから俺らがもっとしゃんとしておくべきだった」
「違いねぇ」
断言された。つまり、それだけあれが衝撃的だと? そんなことないと思うんだけどな…。
「着替え終わりました?」
「あ。はい!」
「では、出てきてください!」
え。ちょっと待って。打ち合わせとか一切してないんですけど!?
「打ち合わせなどせずともリンヴィ様の威光と、リンヴィ様とリンパス様の結婚で何もかも回ります!」
副音声がヤバいぞこの辰群人さん!? 完全なリンヴィ様信者だ!?
「え。ちょっと。まじで行くんですか」
「ちょ、待って下さいよ。きゃっ!」
四季の声? うげっ、押し出されるっ。足を伸ばして腕広げて、踏ん張っていれば、そこにすぽっと収まる。
よし、セーフ!
「大丈夫?」
「はい。無事です」
それはよかった。それにしても…、やっぱりか。
四季が今着ているのは白い着物に、白い綿帽子、そして白粉。…どう見ても白無垢です。本当にありがとうございました。否応なく頭の中を「結婚」という字が駆け巡り、顔が紅潮する。
「ええと…、どうですか?似合っていますか?」
顔に白粉が塗られているにもかかわらず、頬をうっすらとピンクに染めて四季が言う。…うん。反則過ぎる。
「素敵だよ。いつまでも見ていたいくらいに」
言葉がうまく見つからない。この展開は半ば予想できていたのに、こんな言葉しか出せない自分が恨めしい。
だというのに、彼女は嬉しそうにはにかむと、
「習君も惚れ直すくらい似合っていますよ」
頬を真っ赤にして一言。…元からない語彙が融ける。嬉しいけど恥ずかしい。くすぐったいような気持ちにさせてくれた。
「シュウ。シキ。早く来てくれないか?」
「既に式典は始まっているのだが…」
視線を声のする方に向ければ、俺らの衣装と同等レベルの質の高い着物に身を包むリンヴィ様とリンパス様、そして高価なタキシードに身を包むディナン様と純白のドレスに身を包むクリアナさん。
合同結婚式かな? と思ってしまう光景の後ろに獣人とディナン様の護衛らしき人間30人ほど。
うわぁ。見たくなかった…。この大衆の前で何やってるんだ俺ら…。
沸き上がる羞恥心を「俺ら3組の服の質が同じなのはそれだけ勇者の立ち位置が重要視されているんだなぁ…」などとどうでもいいことを考えて現実逃避。そのうえで羞恥をねじ伏せる。
背筋を伸ばして四季の手を取り皆のいる方へ。リンヴィ様の右隣り。そこに来て欲しいとばかりスペースがあるのでそこに家族で収まる。
「ではこれより、我ら獣人と、」
「我ら人間の国交復活宣言と!」
「リンヴィ様、リンパス様の婚姻を行います!」
「「「いええええええ!」」」
「「「「いやぁぁあぁぁ!」」」」
ちょいちょいと四季に袖を引かれる。何?
「歓声に悲鳴混じっていませんか?」そんな口の動き。…うん。混じっていたね。リンヴィ様が結婚するからだろう。女性の悲鳴ばかりだったから。
「特別なお客様として、勇者であるシュウ様と!シキ様の一家にもご来場いただいております!」
「拍手ー!しないとドングリの刑だよー!」
わー! とノリのいい集会でもそう起きないレベルで巻き起こっていた拍手が一層激しくなった。…もうよくわかんない。
「まずは国交復活の宣言だな」
「ああ。というわけで」
「「名前を決めてくれ」」
? この二人は一体何を求めているの? 名前…? あ。いやいやまさか……。よし、聞くか。
「まさかとは思いますけど、獣人の国の名前ですか?」
「そうではないですよ…ね?」
縋るような俺と四季の問。しかし、無情にも「合ってる」の一言で打ち砕かれた。
「『バミトゥトゥ』ではだめなんですか?」
「…お父さん。ダメだよ。首都と国名が一緒だと、紛らわしい」
だよねー。
「ついでに威信にも関わってきますので…。都市国家だと思われ、侮られる可能性があるのですよ」
「小さいの?ならプチっと踏み潰そうぜ!的な考え方をする輩が多くてな…。アークライン神聖国は似たようなものだが例外だ」
うわぁ…。地球には首都と国名が同じ国は8つばかしあった気がするのだが…。それも今の世界のありようのおかげか…。
「それは理解しましたが、なぜ事前に決めなかったのです?」
四季の問いに群長たち全員の目が、「争いの起きない方法が思い浮かばなかった」と切実に訴えてきた。ついでに、「これ以上の争いのタネは勘弁してくれ」とも。
今の争いのタネは…、「国交復活」に「神獣殺し」。それに「国名問題」を加わると3つ。…死ねる。
「俺らでよろしいので?」
「お前らだからいい」
「ああ。異世界からの勇者であれば、我々の世界との柵が少なく、」
「名声もあります。文句は出ないでしょう」
長二人と長の嫁の言葉。ならば、考えよう。
「少し時間をいただきたく」
さて四季とこしょこしょ話をして決め…あ。その前に。
「どんな国にしたいですか?」
これだけは聞いておかねば。折角付けるのだ、その望みを汲んでおきたい。
「人々の、特に子供たちの笑顔があふれる国だ」
「平和であればなおよし。です!」
実にお二人らしい。よし。決めよう。
「平和と笑顔ですか…。私達らしさを出すなら日本語ですが。少々キツイですかね?」
「そもそもこっちで漢字を使ってもな…。どうも日本語は日本人だからか、合わない気が…」
「英語やこちらの言語を混ぜてみますか?」
「それも一案だね。…どう思う?アイリ。レイコ。ガロウ」
「…混ぜてもいいと思う。どのみち、こっちの言語は方言ぐらいの違いしかないし」
「俺も同意見。あまりにも地域で意味が違いすぎる単語であれば俺や姉ちゃんが指摘する。ついでに、父ちゃん達の意図に沿ってるかどうかも」
助かる。言語の加護は微妙にニュアンスが違うから。…まぁ、対訳が存在しない言葉とかもあるしね。
「ちなみこちらでは、平和は『ペアリデス』、笑顔は『スマレルン』と言います。」
「れんぽーは、『フェブデン』だよー。」
それは知ってる。意識すればこちらの発音もちゃんと出る。
さて。全部くっつけたら簡単に出来るけど…、俺ららしさがない。四季も言っていたが「俺ら」……すなわち「勇者らしさ」は必要だろう。おそらくそれを求められているはずだ。「国名問題」が出ないようにするにはそうする必要がある。
「てめぇが勝手に~群よりの名前つけたんだろ!?」
「あぁ!?全群に配慮されてんじゃねぇか!?」
「俺らの群が一文字少ない!」
「群を示す語の語数的に言えば俺らが一番」
等という不毛だが、当事者からすれば大切な争いを、
「うるせぇ!名前見ろや!『勇者』様がつけて下すった名前だぞ!」
で一撃できるような。そんなものを。…うーん。
「母音に合わせますか」
「平和と笑顔?」
「ええ。そうです。連邦はいいとしまして…」
だね。そのままつけても何ら問題ない。となると…、
「「平和」の母音「えいあ」と、笑顔の母音「えあお」に合うようにこっちの言葉から字を拝借してつなげて…。『ペリアマレン連邦』?」
「いいと思いますよ」
視線を子供たちに向ければ一斉に頷き、
「…ん。『ペリアマレン』に変な意味はないよ。…というよりそんな言葉はない」
アイリが代表して一言。ならば問題ない。
「『獣人』とか入れなくてもいいのか?」
「要らないでしょう」
俺も同意見だ。必要なら先に言ってくるだろう。だけど、言ってこなかった。なにより、リンヴィ様達の目指す国とは合わない気がする。
「…決めてから改めて見てみますと、平和笑顔連邦って安直すぎやるような…」
「大陸帝国やら侵略帝国よりはいいでしょ。それに、あっちでも「~人の土地」って訳せる国名結構あるし…、何より、一番伝えたいことを表に出すという意味からいうと、最高じゃない?」
敵意がないことは伝わるはずだ。新語らしいけど。
「それもそうですね」
「決まったか?」
「はい。『ペリアマレン連邦』はいかがでしょうか?」
「理由は?」
さっきの会話をこういう場にふさわしいようにまとめ上げて話せばいいか。少しだけ話を大げさにしつつ、でも骨格は忘れずに。そんな話をした。
「「というわけです」」
「では、これより、『イベア』と!」
「『ぺリアマレン連邦』の国交復活を宣言する!」
今まで以上の拍手がドッと巻き起こる。…反応を見る限り、名前は悪く思われていないっぽい。
「…勇者だしね」
「だねー」
「表立って文句は言えないわな…」
「精々が後世でネタにされるぐらいでしょうか…?」
「…お父さんやお母さんが盛った以上に、無理やり意味を見出そうとしそう」
「適当なこじつけか…」
「だいひょーれーが。絵だねー」
…そんな目でこっち見ないで。しかも全員。心配しなくても描かないし、描いても絶対焼却処分するから。
俺らが子供達と戯れている間にも式は進む。ディナン様とクリアナさんが紙にサイン。その後、華美なスラっとしたシルエットのハンコを3つ押した。おそらくあの3つはイベア3王族の分だろう。
そして、リンヴィ様をはじめ群長方全員がサイン。そしてその紙が俺らに…、え。俺らに回してくるの!?
「立会人として、一家の署名をお願いいたします」
え。こういう場合どうすればいいの。結婚する気はあるけど、まだしてない。そう言う場合は…? こっちでも基本苗字は統合されるはず…。
「関係性で迷ってんなら、適当に家名でも付けろ」
あ。なるほど。ありがとうございます。ディナン様。適当…。うん。思い浮かんだし『ラーヴェ』でいいか。許してくれるでしょ。愛の女神だし。…誘拐してくれやがったぽいしね!
森野習=ラーヴェ
っと。=でよかったよな? ・でもよかった気がするが…。そんなことより、漢字の後ろにカタカナの違和感。
「次は私ですね」
清水四季=ラーヴェ
四季の顔が微妙に歪んでいる。…やっぱり微妙だよね。頷いている間に子供達がすらすらとまとめて署名。
森野=清水=( )=ラーヴェ
( )の中は子供たちの名前。すなわち、愛理, 華蓮, 牙狼, 礼子。
…ツッコミどころしかない。漢字で書いているのは置いておこう。練習してたものね。何故俺らの名字を引っ付けた。
「…結婚したら森野か、清水でしょ?」
「違ったらかなしーもん」
「それにどっちかに絞るなんてのは…」
「私達にはできませんもの」
屈託のない笑顔を向けてくる。羞恥を煽らないで…。
「ここに、国交復活はなされた!」
「次は我らの立ち合いの元、リンヴィ様とリンパス様の婚姻の儀を行う!」
「「「イエエエエエエ!!!」」」
「「「イヤアアアアアアアア!!!」」」
さっきよりも明確に「嫌」ってのが混じってるぞ…。
ぼさっとしていると俺らの前にリンヴィ様とリンパス様が出てきた。……なるほど。神父役?をしろと。やってみせましょう。一切経験も知識もないけど!
「…それっぽいこと言って、誓約書にサインさせて。列席者とお父さんお母さんが名前書けば終わり」
なら出来そう。ありがとう。アイリ。
「この目出度き日に、夫リンヴィと、」
「妻、リンパスはこれから先ともに歩むことを誓いますか?」
恥ずかしそうに二人は頷く。…む。頷くだけじゃダメだ。
「「誓いますか?」」
言葉に少しだけ「おら、誓えよ」的な威圧を込める。
「「誓います」」
恥ずかしいからかリンヴィ様の声が小さい。
「「誓いますか?」」
今更恥ずかしがってんじゃないですよ。はっきり言え。…ああ。すごいブーメラン。
「誓います!」「誓う!!」
半ばヤケクソのような声。
「「よろしい。では、誓いの署名を」」
重々しい雰囲気を纏った紙を渡せば、ペンをすらすらと動かし書いてゆく。それが終われば、ペンと紙は会場中をぐるりと廻る。
長い。たぶんこの場にいる人の署名全部集めるんだろう。一枚の紙に書ききれないからか、大量に下に紙あったもの。
時折、ギリギリと歯ぎしりをして血を流す人や、感極まって涙を流す人なんかもいたけど、中止されることもなく紙は戻ってきた。…紙は無事ではない。血や涙、汗でなかなか悲惨だ。一瞬だけリンパスさんの名前を消そうとしたのかペンがつるっと滑ったような後さえある。
……そんなことしても消えないけど。間違いなく書いた本人しか消せない。そういうペンと紙だ。
返ってきた紙に子供達が名前を先に書いて、俺らが書く。俺らが同時に名前を書き終えると紙はふわりと舞い上がり、リンヴィ様とリンパス様の頭上へ。パラパラと署名を確認するように紙がめくれ上がると、二人を祝福するかのように紙とインクが白と黒の光となって降り注ぐ。とかく幻想的な光景だ。
「いいなぁ…」
四季が俺の横でぼそりと呟いた。……こういうのに憧れているのだろうか。それとも、本当に夫婦となった二人が羨ましいのだろうか。それともまた別か。
俺にははっきりとはわからない。
だけれども、「ごめん。もうちょっとだけ待って。これに負けないくらいの素敵なものを用意するから」そんな気持ちを込めて、四季の手を握る。
一瞬、驚いたようにこちらを見てきたが、「仕方ないですね」というように微笑むとしっかりと握り返してくれた。穏やかな気持ちに包まれる中、光は徐々に消えてゆき最後の一滴が…
「伝令!」
「何だ!」
あと数拍で式が終わる。そんなときの突然の乱入者。もとより静かだった会場の空気が一層、静まり返る。
「ヒラ大森林および、メピセネ砂漠にて魔物が大量発生!こちらへ雪崩込んでくるものと思われます!」
「はぁ!?おい。メピセネのどこからだ!」
「はっ!申群および酉群の境付近です!」
種族の違うディナン様の声に従って伝令の獣人がそう言った。…うん。うまくやっていけそうだな。
「糞ッタレ!通りで魔物と会わないと思った!」
俺らのせいにしてませんでしたっけ?
「私達が侵入した経路は戌群の亥群よりでしたから…」
「西南西~西だな。南南西と南西では鉢合わせもしねぇわな。地下道だったしな」
ああ。あの道か。やたらめったら分岐してるから位置が変わるのか。俺らは南西ぐらいから侵入したのか。…あれ? 俺らのせいでもおかしくないような…。
「魔物暴走ですか?」
「ああ。スタンピードともいうが」
四季が問い、ディナン様が答えた。こっちでもスタンピードで通じるのか。
「砂漠は力押しで何とかなる。我が出る」
「我も出よう。力押しなら任せろ」
確かに、二人なら余裕だろう。砂漠の砂が舞い上がることに目をつむれば……だが。なら、森側は残りの群長達か。燃やそうものなら火事になって面倒そう。ならば。
「俺達も出ますか」
「良いのか?」
「はい。俺らとて、子供の故郷が蹂躙され…はしないでしょうが。黙ってみているのは嫌なので」
「力があるのに、おちおち本を読んで…なんてのは嫌ですから」
四季の冗談めかした言い方のおかげで少々張り詰めていた空気が弛緩する。
「助かります」
「お気になさらず。それよりリンパスさん。馬車の準備は出来ていますか?」
「このまま出て行かれるおつもりですか?」
驚いたような顔でそういうリンパスさん。…いや、確かに驚いているのだろう。群長達もそんな顔だから。
「急ぐ旅ではないですが、このままだと私達、定住したくなってしまいそうなので」
「残った歴代勇者の多くがここに骨をうずめた理由がよくわかります。ここは日本のようで、日本でない。そのバランスが絶妙すぎる」
だからこそ。この機会に出立したい。旅が終わるまで、この世界に骨をうずめるしかないとわかるまでは、帰るのを諦める気はない。
「畏まりました。馬車の準備、お土産の準備は出来ております」
「土産受け取り拒否はこちらが拒否する。ついでにその服も持ってゆくがいい」
馬車に積んだ土産はもってけと。ありがたく頂いていきます。
「ついでに我らで協議した結果、ギルド間の調整も出来た」
…ん? それって…。
「今回の件で文句なしで推薦できる。昇格確実だぞ」
「やりましたね。ここ数百年来の試験免除での昇格ですよ!」
数百年来なのは、試験免除昇格条件が、「人間、獣人、魔人、エルフの4種のうち2種から推薦を貰う」だからだったはずなんですよね……。また、使わない銀行カードが豪華になるのか。
というか今ランク何だったっけ…?
「…銀?」
「かなー?」
読心術を受けたことにはツッコまない。だけど、二人とも興味なしか…。
「銀だぞ」
リンヴィ様の呆れたような声と、親しい人たち全員からのジト目。…興味なかったので。
「とりあえず戻って準備します」
逃げるように宿舎に戻り、少しだけ部屋に散乱している荷物をカバンにねじ込む。豪華に頑丈に、そして何故かサイズアップした馬車を嬉しそうに引くセンを連れ出し、最初に『バミトゥトゥ』に来た時に行った塔の前へ。
既に全員の出撃準備は出来ている。
「バタバタと慌ただしいですが、これで」
「ああ」
「皆様もお元気で」
さて…と。
「我らも忘れていないよな?」
「ええ。もちろん」
忘れられるわけがないでしょうに。
「では、ディナン様もクリアナさんもお元気で」
「はい。シキ様。機会があればまたお会いしましょう」
「皆。シュウ様達の援護を頼みますよ」
「わかってるよ。リンパス。君こそ旦那様のフォローをしっかりとね?」
あ。いじられて真っ赤になってる。
「号令を」
俺らの横についたハーティ様が促す。では…、別れも済んだし行くか。
「「出撃!」」
俺らの号令に合わせ歓声が上がる。地面を鳴らし、揺らしながら軍勢はヒラ大森林へと進む。
その掛け声や、地鳴りといった喧噪の中でも、リンヴィ様やディナン様、リンパスさんにクリアナさん達の惜別を惜しむ声は、確かに俺達の耳に届いた。
後ろを振り返れば、声をあげ手を振りつつもあちらも砂漠の方へ着実に歩みを進めている。
「次は魔人りょーいきだねー!」
だな。このスタンピードを片付ければ、カレンの言うように魔人領域だ。