144話 リザルト
静謐な図書館。群長達の頑張りによって整然と並べられた棚から一冊の美しい装丁がなされた本を取り出す。微妙に軋む板張りを歩き趣のある机の前に置かれた椅子を引き、座る。
さて、読むか。
「おい。シュウ」
久しぶりに聞く声。思わず顔をあげれば。
「久しぶりだな」
ここにいるはずのないイベア王族長子『フェルベル=ディナン=イベア』──すなわち、ディナン様が歯を輝かせて笑っていた。
「お久しぶりです。ディナン様」
「おう。ちゃんと我のことを覚えていてくれたか」
「色々とイベアではお世話になりましたからね」
ドカッと椅子を引いて座ったことへの不平はおくびにも出さずにそう言っておく。バレるかもしれないが、「色々残念だったから忘れられるわけがないでしょう」……なんて、よりバレるわけにはいかない内心がバレるよりはマシ。さっさと話をしよう。前に座ったという事はそれを要求しているのだろうし。
「どうしてここに?俺の記憶が正しければ、掴まっていた獣人達を送るのに1ヶ月程かかるといっておられませんでした?あ。それより獣人達はどうなりました?」
「おう。ちゃんと送ったよ。3日前だったかな?全員無事だよ」
なるほど。それならよかった。
「気にするんだな。あいつらのこと」
「関わりを持った以上は。身内以外は割とどうでもいいとは思ってはいますが、一応、俺も人なので」
「人並みの情はあると?」
「そういうわけですね」
敵に対する情はどっかに置いてきたけど。…あったかどうかも怪しいな。
「で、置いてきてから我とクリアナがこっちに来た。ついでに護衛も。あっちについたのは昨日だったか」
んー。話を聞いていると沸々と疑問がわいてくる。
「あの…、ここに来るまでが早すぎませんか?俺らがイベアを出て、内乱壊滅させて、『ニッズュン』で『シュガー』と闘って、連邦の首都『バミトゥトゥ』で歓待を受けて…、聖地でリンヴィ様によく似た『ファヴ』を仕留めて、6 VS 12をしてからまだ1週間しか経っていないはずなんですが…」
「おい。濃すぎるだろ」
「羅列している間に俺も思いました」
何故だ。怪しいところに足を突っ込んでいるからか?
「まだ一月…、いえ、20日も過ぎていないはずですよ?」
「我もそんな気がするな。その答えは簡単だ。急いだからだ!」
…あ。はい。…まぁそうだよね。急がなければ今の時期に来れないよね。
「呆れた顔をするな。実際問題『急いだ』ただそれだけなのだからな。我もすぐではないだろうと踏んでいたのだが…、主に祭りの影響と準備で」
祭り(粛清)。血生臭い祭りだ。俺らは特に関係なかったが、タクが何故かよくわからないうちに片棒担がされていたな…。
「だが、こちらの方が荒れるだろうから急いでこっちに行け。オスカルもラウルもフランシスカも言ったのだ」
「兄弟全員じゃないですか…」
ラウル様、フランシスカ様、オスカル様。全員が言うということはさぞ重要な理由が…。
「理由は、お前らがいるからな」
なかったー!
「冗談ではないのだが。勇者であるお前らがいるうちに、国交樹立宣言をしておきたい。それが狙いだ」
「箔付けでも狙っていますか?」
「ありていに言えばそうなる」
箔ねぇ……。勇者だからなぁ……。この世界の勇者という言葉の重さは重々乱用染みて使っているからわかっている。だけど、
「急いだところで俺らが立ち会うとは限りませんよね?利え「ハッ」」
「利益ない」って言う前に鼻で笑われた!?
「馬鹿言うな。我はお前らを見損なっちゃいない。レイコやガロウがいる。その二人は内乱でお前らに急いでほしがってもらったことから故郷が好きだと推測できる。お前らは二人の故郷の安定のため。絶対に動く」
…正解だ。二人がいつでも平和な故郷に帰ってこられるように平和であって欲しい。そのために、今でもここにいる。本をある程度読みたかったとか、ギルド絡みの報酬が決まってないとか、また馬車改装するとかもあるけど。
「打算的で悪いな」
「いえ。必要な事ですし、それで安定化するのであれば否はありません。死ぬわけではありませんので。…とはいえ、交流を持たせる時点で平和ではなくなるのかもしれませんがね…」
「そこは心配するな」
先ほどよりも音量を上げて、安心させるようにディナン様が言った。
「イベアも、獣人側もそこは承知している。だからこそ徹底する。下らない詐欺や拉致なぞはさせるかよ」
「差別もさせないといっていただければ完璧なのですが…」
「それは無理だろ。完全になんてのはな。何かデカいことでもあれば一発で払しょくできるだろうが」
「良くも悪くも単純ですからね。人って」
「そういうことだな。自分と他人を区別するのはいいが。ちょっとの違いを許容できずに、自分の中で消化しきれずに態度に出た結果、差別。そのくせ、何かあれば手のひらを返す。逆もまた然り。それが人間だな」
どうにもならないか…。差別が無ければ交流が増えてもある程度は安定するんだろうけどなぁ…。
「『チヌカ』が活発になっているからデカいことがありそうな気がしなくもないが」
「祭りとは程遠いでしょうがね。というか安定との対極じゃないですか」
一体どれほどここが荒れるかわからんぞ。そんなの。あの子ら関係ないが、少しだけレイコは病みそうだ。
「ま、差別やそこらは置いておけ。動かねばならないのは確かだが、お前一人だけではどうにもならん」
「まぁそうですね。最悪、子供らが幸せに平穏無事に暮らせればそれでいいので」
心に悩みを抱えているのが幸せに平穏無事だといえるかは微妙だが…。頑張って払拭すればいいか。
「ちなみに急いできた方法は簡単だぞ。貴族共から没収した金を使って物資をかき集めて、その間に獣人達を綺麗にして、砂の上を走れる馬車に物資と一緒に乗ってもらってひたすら走った」
ただのゴリ押し。
「転移魔法などないからな。ただ、砂漠に魔物がいなくて楽だったぞ。せっかくついてこさせた護衛の大半が獣人領域観光旅行と化したぞ」
「いいことですよね?」
「間違いないが。魔物暴走されたら死ぬ。…お前らのせいという可能性はないか?」
「単に護衛の数のせいでは?」
「総勢30。うちが今出せるギリギリの少し上。だが?」
ギリギリの少し上で30か…。関係ないか。…ん? ギリギリの少し上!?
「そんな数出して大丈夫なのですか?」
「ああ。…弟や妹が3日徹夜を繰り返せばいける」
全然大丈夫じゃないです。それ…。
「早く終わらせて帰りません?」
「たぶん終わってんだよな…。今頃、死んだように寝てんじゃないか?「兄さん。こっちは心配しなくていいよ!返って来るまでには終わらせるから!」って言っていたからな。…無理をするなとはあの眩しい笑顔の前では言えん」
悔しそうに俯いた。…この人弟妹のこと好きだからな…。眩しい笑顔で言われるとどうにもならないのはよくわかります。
「で、どうなんだ?」
「多分違いますが…」
「殺気立ってたよな?」
「…ような気がしないでもないですね」
急ぐ必要があったから。
「じゃあ大丈夫か。たぶんお前らのせいだ」
何でだ。
「そういえば」
流された!
「妙に獣人が積極的にこっちと繋がりを持とうとしていたのは何故?」
「え?ああ。政策の関係ですね。神獣殺しの湧き出る不満を、そちらに目を逸らして誤魔化したい。というのと、純粋に外との繋がりを欲していたからでしょうね」
「神獣殺し?」
比喩なのはわかってるから説明しろ。目がそうおっしゃっている。ならば、
「いい機会ですから、イベアを出てからの全てをお話ししますね」
「ああ。無駄に長くなりそうだが。頼む」
_____
「というわけです」
「長い」
ですよねー。知ってました。でも仕方ない。濃すぎるって言われた通り、濃すぎるのが悪い。
「ま、神獣殺しは承知した。通ってきた『イークッティヌ』がそこまで荒れていたのもな。あ。待機中の護衛は復興の手伝いに回した」
「旅行じゃないですね」
「…だな」
災害派遣か、ボランティアツアーだ。…地球よりもはるかに死にやすいこっちでそれを結果的になすことに成った護衛の方々の心境はいかに。
「結果的に、役立ってるな。政策上好感度稼げるし。人として助けないのはどうかと思うしな。話戻すが、『シュガー』と『ファヴ』は正直、よくわからんぞ」
やはり説明だけじゃキツイか…。
「絵d「御免なさい」お、おう」
絵でもあればわかる? 言わせません。書けないからな! 言い切られる前に謝る。察してください。
「シキは…「も。です」…なるほど。…あ。そうだ。お前が言う『トリラットヤ』だが。勇者が身に着けるのに相応しいだろう金属なぞ、我は知らんぞ。というかそもそも話を聞く限り『トリラットヤ』かどうかも怪しい」
取ってつけたように付け足さないでください。気まずくなるのはわかりますが!
「それはそうとだな。昨日あったリンヴィ様と今日のリンヴィ様で雰囲気が違うんだが…何故?」
さらに話題変えられた! 別に構いやしませんがね…。ええと、ディナン様がいるってことはクリアナさんもいるだろう。彼女は…、四季のところか。十分距離あるし大丈夫だろう。
「リンパスさん…、辰群副群長の彼を慕う女性に食われました」
ディナン様が戦慄した。
「美味しかったらしいですよ? リンパスさんはそう言ってました。もともとリンヴィ様が結婚するならば、立場的に釣り合う女性なんてほとんどいませんでしたが、これで確定するでしょう」
リンヴィ様は首長だから……。最低でも群長代理クラスでないと納得しない。神獣はリンヴィ様とレイコ以外に居るのかどうかは知らないが。既に死んだから本当に群長代理クラスでないとダメ。
まぁ、辰群副群長、実質辰群トップのリンパスさんが好き好き言っているから誰もリンヴィ様と結婚したいという人なんていなかったらしいが。
「お前が声を潜めたのはそのせいか…」
「ええ。ディナン様もいつか食われそうですし…」
「お店じゃダメ?」
「に決まってるでしょう。わかってて言っているでしょうに。というか心にもないことを言ってるんじゃありませんよ。貴方、割とあの人のこと好きでしょう?」
「残念でさえなけりゃなぁ…」
「そこは知りません。超ド級の方向音痴は多分治りませんよ。というかどうやって連れてきたんです?」
「馬車に乗せて縛り付けておいた。あいつの御者は御者しているというより馬が格別に配慮してくれている。そんな感じだからな」
予想通り過ぎて言葉もない。
「もう面倒ですから常に首輪しておくなり、手をつなぐなりして拘束しておけばいいのでは?」
「手で思ったが、お前も他人事じゃねぇだろ」
こっちに振らなくてもよかったのに。
「まぁ、そりゃそうですが、少なくとも帰還確定不能までは大丈夫ですよ。赤子連れの旅は地獄でしかないので」
「帰ってから、もしくは帰還不能確定後は?」
「何とかなります。というかします。たぶん。きっと」
語調が弱まるたびに強まるディナン様のジト目。いえ、本当にきっと何とかしますよ?
「というか、帰れることを疑わないんだな」
「愛の女神ラーヴェ神ですよ?あの狂ったカネリアにさえシャイツァーを与える。」
「そう言われりゃそう…か?我の知ってる知識も渡しておくべきか?」
「お願いします」
「家族は?」
「子供たちは宿舎でセンと遊んだり、勉強したりしてます。四季はあそこにいますけど?」
相変わらず熱心に本を読んでいる四季を指さす。…本を読んでいる四季って、普段と違って落ち着いた雰囲気が強調され、出来る人という感じで良い。特に本をめくるたびに靡く長い黒髪が。
「…すまん。わからん」
何故だ。あんなにわかりやすいのに。
「クリアナさんのそばにいますよ?」
「ならちょうど本の影になっているのか?」
「違うような気がしますが…」
俺からは普通に見えているのだが…。四季も本を山積みにしているわけではないし。まぁいいか。
「呼びますか。四季!」
「はい。何でしょう?」「うへっ!?」
クリアナさんが変な声をあげて倒れた。
「図書館ですよここ…」
「私がここにいる事よりもそっちの方が大切なんですね」
「クリアナさんじゃないですか。いつここに?」
「気づいてなかった!?」
クリアナさんが差し出された手をガン無視して崩れ落ちる。何やってるんだか。
「…お前の嫁。いろんな意味ですごいな」
「読書している最中は、基本周りが気にならないみたいですよ?重大な事でもあれば別でしょうが」
「後はお前か…。怖っ」
何故戦慄されるのか。…四季は俺が声かけたら反応してくれるんだけど。
「習君。私を呼んだのは、お二人がいらっしゃるからですよね?」
「そうなるね」
「了解です」
立ち上がると流れるように俺の隣の椅子を引いて座った。クリアナさんも遅れてディナン様の横へ行って座る。
「お久しぶりです。ディナン様」
「ああ。シキも久しぶり。二人とも全く変わってなくて安心したぞ」
二人が挨拶を交わす。なら俺も。
「クリアナさん。お久しぶりです」
「お二人ともお久しぶりです。私がこけたのは私だけのせいじゃないですからね!?ほんとですよ!?」
弁解が唐突だ。
「シキ様の気配がなさすぎるんですよ…」
「だな。気づけるのはたぶんシュウだけだろう」
…言い訳? けどディナン様も言っているし…。まぁいいか。
「割とどうでもいいという顔してるな」
「実感ないので。あ。でも、読書中の四季の姿を見れないのはかわいそうだとは思いますよ。いつもと違った凛とした雰囲気があって綺麗なので」
「ディナン様。いきなり惚気やがりましたよこの人。いつもとですって!ずっと見てるアピールですかね!?」
…言っておいてなんだが恥ずかしい。視線を向ければ、四季も頬をほのかに朱に染めている。
「え、えっとありがとうございます…?」
顔を伏せてしまった。…可愛いから見ていたいけど、顔が赤くなるのが自覚できてしまうというこのジレンマ。
「早く慣れろ」
「そーですよ!」
「えっと…、私は読書中に存在感が薄い自覚はあります」
話逸らしにかかってくれた。
「話逸らしやがりましたよこの野郎」
「私、野郎じゃないです」
四季が言い切った。ディナン様にガチで言っているのかわざと言っているのか、そう目で確認を取ってきているが…、たぶん両方かな。照れ隠しと天然の融合。ただし天然の方が強そう。
「友達や家族に何回か言われたことがありますからね」
「何でだろうね?」
とりあえず乗っかろう。二人に露骨に逸らしたなという目をされたが、いいじゃないですか。別に。
「神の関与ですかね?お二人ともシャイツァー持ちですよね?」
「…かもしれません。四季はラーヴェ神に似ているような気がしないでもないですし」
「となると、原因はシュファラト神ですか?あの方は割と嫉妬深かったような…」
「こっち見んな。知らん」
聞く前に先手を打たれてしまった。
「まぁ、いいか。実害もないし」
「私こけましたけど!?」
「迷子になるよりはマシでしょう」
「納得できてしまう私が憎い!」
解決不能と思ったけど、フラッとどこかに行ってしまうのを直せばいいような…。って、それが不能なのか。
「とはいえ、命に関わるような状況ならまずいかもしれんぞ」
「そこは問題ないです。流石に私もそんな状況で本なんて読みません」
四季に視線が集まる。そして、
「シキなら読みそうだと我は思ったんだが」
「私もです。…が、シキ様の目が悲しそうですよ」
「なら口に出すのはやめてあげてくださいな。思いっきり四季、聞いていますよ」
見るだけでこんなにも悲しそうな目を…、違った。「習君はどう思います?」そんな目だ。これ。
ええっと…、うん。そんなことないと思うよ?
「全員の総意じゃないですか…」
葛藤が伝わってしまったか…。思いっきり机に突っ伏した。
「四季。無防備すぎるよ。ディナン様や俺に変なことされるよ?」
「ディナン様割とヘタレなので大丈夫です」
「うっぐ!?」
直撃弾受けてる…。
「それにディナン様でなくても、誰かが私に何かしようとすれば、その前に習君が助けてくれるでしょうし」
「それは間違いないけど」
今度は即答できた。
「習君なら…」
黙ってこっちをじっと見るのはやめて。じわじわと赤くなっていくのもやめて。俺の顔もきっと赤いんだろうな…。
「またかですね。コンチクショウ!わたs「「図書館」」えぇ…」
妥当な反応だな。理不尽だもの。だけど、これ以上触れて欲しくない!
「本題に入りましょうか」
「そうしてくれ」
まだディナン様、引きずってる!? そこまでショックだったのか…。
「ディナン様。神話の話でしたよね?」
「あ。ということは我が喋れないとどうにもならねぇのか。ハッハッハ」
「「「図書館」」」
「はい」
空元気的な笑いだったけど叩き潰す。例えリンヴィ様人気が高すぎてもう片方の図書館に利用者はおろか司書さえも集中していて、この図書館に俺らしかいないとしても!
「とはいってもなぁ…。ないんだよな。あ。そういえばお前らって何で帰還魔法あるって思ってんだ?望み果たせば帰れるだろ?」
「会ったこともない魔王を殺すのはちょっと俺的には遠慮したいですね」
「私達は、ラーヴェ様がいるから帰還魔法もあると思っています」
「あの狂ったカネリアにさえシャイツァーを与えてしまうから…、どこかにあると思いません?」
根本的に甘い。望みが強ければ内容は問わないようだからな…。
「あの召喚魔法はラーヴェ神が用意したものって話は知ってるか?」
「はい。知っています」
「どこで知ったかなんてところまでは一切覚えていませんが」
「あの。本を読んで知られたのであればそれは少々不味くないですか…?」
「不都合はないので。大丈夫のはずです。というか無駄に本を読んで…」
あれって読むって言うのか…? 中身を深く見ていないが…。
「黙るな」
「あ。はい。どこで得たかは重要ではないでしょう。本であれ口伝であれ間違えている可能性はあるのですし」
「身も蓋もないな」
確かにその通りなのですが。
「こっちよりはるかに進んだ私達の世界でもありましたからね…」
「だね。専門家の書いた専門書でさえ間違えているなんて例もあった。何をかいわんや」
「…まぁ、専門書の方が本当に合っているかどうかの確認がしにくいので間違いやすいという面もあるとかないとか」
「それ、値段の話じゃなかったっけ?需要と供給の関係で」
「でしたかね?…いい加減お二人の目が死んで来たので戻りますか」
「だね」
このままだとどんどん逸れるって察したんだろう。
「そういえば、神ってシュファラト神、ラーヴェ神以外に居ました?私はそれ以外に居たという記憶がないのですが…」
「その2柱以外……。ん?言われてみると聞いたことないな」
「私もないですね。あ。私一応貴族ですからね!?」
「「知ってます」」
ディナン様の結婚相手として問題ない身分であるということまで知ってます。
「お二人でも知らない…となると、神話決戦で死んだ?」
「その時に死んだんだったら名前が残ってると思うが。人間でさえ残ってんだぞ?」
「『ウシャール=カーツェ=ラーヴェ』と『シャリア=コーエルミア=ハイコメリア』でしたか?」
「シキ様のおっしゃった二人が筆頭ですね。シャリア様はウシャール様と結婚されたので、『シャリア=コーエルミア=ラーヴェ』でもありますが」
…謎だな。
「そういえば、全能神はいたりしませんか?」
神話ではありがちで、それが始まりの神だったりするのだが…。
「いない」
「というか、この世界って神の記述がそもそも…。私は先の二柱と『チヌリトリカ』ぐらいしか知らないですね」
「アークライン神聖国でも見なかったような…。という事は、3柱以外は人の世には関係ないから載せなかった?」
「シュウの言う通りの可能性はある。というか昔のことだから当時の人たちが何を考えていたかなど我らにはわからぬ」
「元からいないという可能性は?」
「…クリアナ。それ2柱以外におわしませば我らへの不敬ってレベルじゃないレベルの不敬だぞ…」
ですね。
「この世界、付喪神や、民間信仰で誕生した神様ならいらっしゃいそうです」
「私も習君と同じ意見ですね」
「とりあえず土下座しときますねー」
椅子から飛び降りて土下座。…ここ図書館なんですけど。……もはやこの言葉がネタと化してきた。
「そういえば、お前らに今回の件でメリットあったのか?」
「二人が来てくれればそれで十分だったのですが、」
「おまけでありましたよ。魔力効率が良くなったり…」
四季がこちらを見てくる。…どこまで言うべきか。それの相談か。触媒魔法の待機時間が2日に短縮されたり、紙から10 m離れても起動するようになったり…、さらに魔法の射出点を紙の外2 mぐらいへ動かせるようになったり…。これらは言わない方が良いか。
「後、俺も四季も一人でそこそこ戦えるようになりましたよ」
「元から戦えてただろ?」
「それがですね…、違うんです。実演ってここでやると怒られますね」
「申し訳ないですが俺らと一緒に外に出ていただけますか?」
2人とも頷いてくれたので外へ。あ。そう言えば式典に立ち会うってことは段どり聞いておかなきゃダメか。…後でいいや。