140話 6 VS 12
「ところでさ。さっきかっこよかったけど…。6VS 12で勝てるのか?こっち半分しかいねぇし、絶対俺もレイコも二人よりも弱いぜ?戦力的には前よりも悪化してるし…」
「大丈夫。勝てない戦いはしない」
ただし、「命に関わらない限り」という注釈が付くが。命に関わるならそんなこと言っていられない。
「それに加えて自己紹介もされていますし…、十分やれます」
「自己紹介…?そんなんあったか?」
「ガロウ…、『バミトゥトゥ』に到着した時の夜の晩餐会で行ってくださったではないですか…」
「ああ。あの混沌とした…」
混沌って……。確かに色々と酷かったけど。他に言いようが…、ないな。主にあのドングリ狂いが悪い。
「でー、自己紹介が何なのさー」
「ああ、ごめんごめん。兎も角、あれで真っ先に狙う人は決まったよ」
「習君に紙を書いてもらいますから。潰すの、手伝ってくださいね」
「…ん」
「わかったー」
「え゛、書くの?」
「うん。書くよ」
「…触媒魔法?」
「当然」
最初に一撃でもって沈められるだけ沈めてしまう。「容赦ねぇな」って顔してるけど…、ありがちな戦法だ。というか、敵に容赦してどうするのさ。ただでさえ数の上では劣勢なのに。
容赦もとい舐めプが出来るのは戦力差が彼我の間で大きいときだけ。そんなことを師範が言っていたし。
「…狙いは?」
「アイリちゃんなら察しているのでは?」
「…ん。回復役、飛ぶの。飛ぶの」
「雑!?」
「惜しい、あと一人足りない」
「無視するの!?」
ガロウの問いには無言でもって肯定を返す。アイリはしばらく頭をひねっていたが…、「わからない」と首を振った。
「ドングリ狂い」
「…あぁ。なるほど」
「何で今ので分かるの!?」
「…わかるでしょ?」
「さも不思議そうな顔しないでくれよぉ!わかんねぇから聞いてんだぜ!?」
「ガロウ、落ち着いてください。アイリお姉さまですから…」
「そっか、アイリ姉ちゃんだもんな…」
「…その扱いは不服」
なんて言いながらアイリは頬を膨らませる。可愛いなぁ…。
「…お父さん?…お母さん?」
ちょっと睨みつけられた。…何故バレたし。
「…バレバレだった」
「さいですか」
ほんとこの子よく俺らのこと見てるよね…。だからこそ、その天然さと相まって「アイリお姉ちゃんだから」なんて言われているんだけど。
「ところで姉ちゃん。理由は?」
「アイリ。言ってみて」
「ついでに答え合わせしてしまいましょう」
四季の言う通り、折角だし、アイリと俺らの考えが一致してるかどうか見てみよう。
「…ん。サンコプは回復だから。…だよね?」
「だね。回復は邪魔」
「継戦能力は早期に奪っておくべきです」
「他は!?」
「?…これだけで十分だよね?」
「ですね。これ以上の理由などあるはずもないですし」
ヒーラーは潰しておくに限る。そうすればじわじわとすりつぶすことも出来るし。
「いちおー、あの人―、毒も扱えたよねー」
「そういやそうだった」
「毒は怖いですね…」
「…ん。だから潰す」
「さっきこれ全く言ってなかったけど!?」
「…必要なかった」
ガロウが頭を抱えて黙り込んだ。実際問題、「回復」という一点において理由は十分だからね?
「ええと…、では残りのお三方は?」
「…クヴォックとリンパスは飛べる。…上を取られちゃうとしんどい」
「ですね。飛ばれると鬱陶しいことこの上ないです」
「飛ばれるだけで鬱陶しいのか?」
「考えてみたらすぐにわかるよ?」
「例えばですね、羽虫が音を立てながら飛んでいたり、あまつさえそれが攻撃してきたりしたりすればと」
「何故羽虫に例えたし」
「空を飛ぶ煩わしいものの代表例ですよね?」
ですよね? みたいな目をされても……。ガロウが言いたいのはわざわざ群長である二人を羽虫で例えるなってことだと思うんだ。
「でー、他にはー?」
「…ガロウのシャイツァーも有効活用するため」
「え?俺?」
「ガロウ…、何故そのような反応なのです…」
「いや、だ、だって、いきなりだったし!『輸爪』だろ!?」
「そうなる」
「でも柔らかいぜ?…あぁ。だから二人が邪魔なのか」
「その通りですね。下から狙うよりは上から、横から狙ったほうが楽です」
「どこからでも変わらないよー?」
…カレンならそうだろうね。カレンなら。『ターゲッティング』出来るし…。
「どーして黙るのー?」
言の葉が見つからないからだよ!
「でもさ、下からでも偶然当たることもあると思うぜ?そんなとき絶対に『輸爪』壊れるけどどうすんだ?」
「「当たらなければどうという事はない(です)!!」」
「おいぃぃ!?」
「流石に冗談ですよ。自分の分の『輸爪』ぐらい守ることは出来る……はずです」
「ま、まぁ、ずっと飛んでなきゃいけないわけじゃないし…。最悪、ガロウに撃ってもらった『護爪』なり、『輸爪』なりを足場にして飛び回れば済む話だ」
「そんなこと出来ない…わけないよなぁ…」
出来ないことは言わないよ。
「…でもさ、それって出来るの二人だけじゃねぇの?俺、自分でもできる気しねぇぞ?…レイコは言わずもがな」
レイコの運動神経はよくはないからね…。でも、他の子はたぶん大丈夫。無理なら無理で足場を失ったら下を走り回ってもらえばいい。
「…で、どうなの?…二人は普通に出来るの?」
「少々タイミングを合わせるのが不安ですが、出来るでしょう」
「四季となら完璧に合わせる自信はある。だけどガロウだから…、ああ。ガロウが悪いわけじゃないぞ」
「あ。うん」
…何で目が「やっぱりか!」って死んでいるんだろうか。
「ま、失敗したらカレンにフォロー頼もう」
「やれるだけやるよー。過信はしないでねー」
それはわかってる。というか、お願いしておいてなんだが、頼らないでいいというのが最高だ。矢で空を飛ぶとか訳の分からないことは避けたい。
「ところでスーラ様を狙うのは何故ですか?」
「…何をしてくるかわからないから。だよね?」
「正解。あの人素を出しているくせにブラックボックスが多すぎる」
「ドングリに絡めばなんでも出来そうなんですよね…。それこそドングリ食べて回復とか出来そうですしねぇ…」
「ドングリ狂いの癖に面倒だな!」
否定はしない。
そうはいってもこれが完璧とは限らないんだよな…。自己紹介があったとはいえ、よくわからない人も多い。ズィラさんは首を使ってくるってのはわかる。が、どんなふうに? どのように? 使ってくるのか不明。
ハーティさんにいたっては姿が象。これだけという圧倒的情報不足。後は、「絶対豹変する」そんな確信だけ。終わってるな。
「見えてきたよー」
眼前には闘技場。その中に干支の順に整列する12人。
「威圧感がすげぇな…」
「ここで威圧されててどうするのさ。レイコに恥ずかしい姿見せる気か?」
「なぁ!?」
最後だけ耳元でささやいてやれば、わかりやすく顔を真っ赤にする。何か言い返したいけど、反論を聞かれちゃうと恥ずかしい。そんな感じ。実に初々しくて可愛らしい。
「張り切りすぎて空回り。そんなの笑えないからそれだけはやめてよ?」
「そんなのわかってるぜ!くっそう!父ちゃんのくせに揶揄いやがって!」
「緊張は取れるでしょ?」
「…あ。確かに」
妙に硬かったけど、それがとれた。緊張のせいだろうから…、
「戦闘が始まればどうせ今の威圧感なんて遊びみたいなものになるから。緊張するだけ無駄だよ?」
フォロー入れておこう。…げんなりした顔になってるからなってない気がするけど。
…で、何でこっちと四季を見るのさ。ガロウ。
「何とかなりそうだな!」
何で俺らを見てその結論に達した。いや、いいことだけど。いいことだけど…!
「…お父さんもお母さんも、わたし達のことになると豹変するから」
「いーから早くいこ―」
二人がせかせかと歩いて行く。だから少ししまらないが追従、こうして神前決議場の中央に群長12人、俺ら家族6人が整列…
「お前ら。服!」
「「「あ゛」」」
俺の服は傷だらけ、四季の服は傷に加えてレイコの涙とかでぐしゃぐしゃで、レイコは自分の涙でヤバい。
「「着替えてきます!」」
腕を掴んで全員で戻ってさっさと着替えて戻る。
「何してんのあんたら…。俺っち心配になるぞ…?」
サンコプさんのセリフに追従するように12人全員が頷く。自分でもそう思います。
「服に気を遣ってなかったのですよね…」
「普段の君たちならちょっとは動揺するはずなんだけどねぇ…」
「カプラ、ちょっときわどかったと思うの」
「だねー!というわけでd「どういうわけか知らねぇがドングリはいらねぇ」うわぁい!」
よくわからない言葉は全部無視。とりあえず整列すると、スーラさんの首をレディックさんがその犬耳をピンと張りながら掴んで無理やり整列させる。とにもかくにも、18人全員がお揃いの真っ白な装束を身にまとって整列。
怪しい儀式のようだと思う間もなく、先と同様、白い球体が中心に現れる。またか。
「引っ込め」
「貴方はお呼びじゃないです」
「辛辣ッ!めっちゃ辛辣だぜ!?あの光球めっちゃ動揺してないか!?」
あれは動揺でいいのだろうか。光球がただ単に上下移動しているようにしか見えない。人型とか、犬型を取ってくれればわかると思う。
「感じで伝わってるはずなのに無視しにかかってる!?」
「「気のせい(です)!」」
「えぇ…。何というかこう…、圧倒されたりとか、配慮しようとかそう言うのは!?」
「「ない(です)!」」
2回目だもの。
「即答!?」
いや、わかってたことだろうに。現に群長達も何も言ってないんだから。
…というか、これと近くで接するのが一回目なのにツッコめるガロウもなかなかいい根性しているよね。いついかなる場面でもツッコめる。そんな調教を受けたのか?
「…群長達が何も言わない理由はわかってたからじゃないと思うんだけど…」
「よねー」
「私も同意見です。威圧されているのだと思いますよ…」
そうなんだ。それはいい。
「ともかく、」
「「ここに貴方はいるべきではない」」
…ん? ショック受けてる? 心なしか球体の浮く距離が短くなったような。あ、落ち込んでる人影が見えたような……。俺らに言われただけにしては落ち込みすぎじゃない…?
「よく考えると、お二人の言う事は一理ありますね」
「だな。言葉がまるで足りていねぇがな」
「僕達も彼らも戦う理由が明確だからねぇ…」
「つまり、神の出る幕はない」
「イラス。違いますよ。リンヴィ様の名の下に!我ら総群!総力を決するのです!」
「訂正した意味が見出せねぇぜ!リンパス様ァ!?」
「このドアホ!?」
ガロウとシールさんの絶叫が響き渡った。でもな、ガロウ。あの人にそんな言葉効かない。効いてるなら、サンコプさんシールさん。イラス爺のリレーを台無しにする言葉をそもそも言うわけがないから…。リンパスさんはこの点においてはドングリ狂いと同レベルだ。
「習君」
「何?」
「さっきよりあの球体。悪化してません?」
いつの間にか球体が地面に接地している。えぇ…。メンタル弱くない? この場にいる人たちに否定されただけのはずなんだが?
「何か心に突き刺さったのですかね?」
「だとしたら、何だと思う?」
「…案外、「生まれて初めて否定された。死のう」とかだったり?」
「アイリ。本気で言ってる?」
「…全く。言ってみただけ」
「お姉さま…」
レイコとガロウのジト目にアイリは居心地が悪かったのか四季の陰に入った。
そんなことをしている脇で、球体は完全に地面に落ちてずぶずぶと潜り込むと、そのまま存在すら認識できないようなそんな微妙な白い光を立ち上らせて消えた。
始まった。
俺がガロウを、四季がレイコの脇に手を入れ後退。非難するように見てくる二人も俺らの顔を見てちゃんと察してくれたようだ。これなら降ろしても大丈夫。
俺と四季の前でガロウが短い呪文を唱えて盾を出現させる。その後ろで字を書く。一字目を書ききった。その段階になってやっと、
「配置!」
案の定、自己紹介の時とうってかわって迫力満点のハーティさんの声で体勢を整え始めた。
今回は魔力多めの紙。やっぱり書きにくい…が、ねじ伏せ、流して、よし、出来た! 2枚目は? そう目で四季に問う。
「皆!頑張って弾幕を張って全員を拘束してください!」
なるほど。ならば書ききってしまえ!
「…上はどうする?」
「適当に捌いてください!」
「じゃー。ボクだねー」
「狙うならリンパスからな!こいつはオレと違ってタフだ!」
「ちょっとぉぉx!サラッと肉壁にしようとしないでください!痛いものは痛いんですよ!?」
…仲のいいことで。二人を牽制するのはカレンか。上を狙っても落ちてくるから下も狙える。いい人選だ。
「それしても急な開戦でしたね」
「ほんとそうだよね。拗ねた?」
「のかもです。仕事出来ない上に否定されたのが嫌だったんでしょう」
「そりゃそうだ」
「…全ての元凶が無関係を装ってる」
いや、装ってないよ。自分でもちょっとまずかったと思う。…何で辛辣だったんだろう? 謎だ。一回目の時はどうだったかな…。
「そろそろー、限界―!」
早い。だが、丁度書けた! 書いた字は『乱気流』
盾からむこうの様子を窺う。後衛陣は後ろで前衛陣は前。遊撃に飛べる二人が上。か、遊撃のクヴォックさんとリンパスさんはすぐ狙えるからどうでもいいが…、サンコプさんとスーラさんは後衛で狙いにくい。
ならば、まずは下を押しつぶす勢いで確実に二人仕留めよう。
「上はいい!」
「援護を!」
返事も待たずに四季と手を組む。皆何をすればいいからわかっているから合わせてくれるはずだ。
「「『『重岩弾』』」」
土の触媒魔法。ただの『岩弾』ではなく、『重』も付けてやった。紙の代わりに出現した岩というより、金属のように滑らかで滑々した丸っこいものが多数、猛烈な勢いで飛んでいく。
「やっぱ狙いは俺っちか!」
「サンコプ大人気ー!」
「スーラ!」
「嘘だと言ってよ、ハーティ!」
声質だけでスーラさんに危機を伝える…、間違いなくハーティさんは厄介だ!
「俺様が防グッゥ!」
『重岩弾』の前に出てきた申群長リラさんに一つ止められた。マジかよ。さっきの100人なら誰にあたっても吹き飛ぶのに!?
「回避!!防御不能!」
「私は!?」
「お前もだ!」
「はい!」
『重岩弾』を止めに行ってくれれば楽なのに…。ハーティさんのせいでそれは期待できないか。重量級の岩であろうが、何であろうが、当たらなきゃ意味がない。…掠りはしている。しているが、致命傷には程遠い! だが、飛んでいくのは『重岩弾』だけではない。
「…ん」
ボソッと呟いたアイリ。スルリスルリと『重岩弾』を『死神の鎌』で掻い潜ったアイリの鎌が、突如大きくなる。
「え。ちょ…」
動揺するサンコプさんを頭からお尻まで切り裂き、返す刀で首を刎ねた。
「…取ったよ」
いつもより心なしか喜色の含まれた淡々とした声が吐き出される。同時にサンコプさんが消えた。
「ちょっとー!豚の仕事が増えるー!ドングリ食べ足りてないんじゃー」
「スーラ!」
「わかってるよー!スーラが命じる!『爆ぜるドングリ』!」
腰に取り付けられたシャイツァーであろう袋から取り出したドングリ。投げつけられ、『重岩弾』に命中して爆ぜる。
「ありゃ、足りない。ならー、スーラが命じる!『爆ぜるドングリ群』!」
袋に手を突っ込んで大量のドングリを取り出して『重岩弾』に投げつける。ドングリは全て同時に起爆。『重岩弾』を砕いた。
「どーだ!」
「魔力の無駄遣いしてんじゃねぇよ!」
「てへぺろ」
「スーラァ!」
「え。嘘っ!?ギャッ!」
残念でした。飛んで行っていたのは『重岩弾』にレイコの『ガルミ―ア=アディシュ』を重ねていたもの。
『ガルミーア=アディシュ』ならば、レイコの負担が魔力的な意味で大きいが…、俺らの魔法からも、スーラさんの魔法からも、他の誰の魔法からも干渉されることはない! ただ彼女だけを焼ける。…無駄弾が多いが許容範囲内だろう。
「とったー!」
カレンの言葉が響き、スーラさんに矢が次々と突き刺さった。…弱点ばかり抉られて、姿が消えた。これで2人目。さて、次だ。まだ『重岩弾』は残っているが下は任せて、上だ!
「「『『乱気流』』」」
本日二枚目の触媒魔法。紙が消え、猛烈な突風が闘技場上空目がけて吹き荒れる、ッ!?
「ちょ、父ちゃん!?」「お母様!?」
「「大丈夫だ(です)!」」
少々魔力を消費しすぎただけ。とりあえず、確実に酉と辰の二人は落とす!
「ちょ…!折角ここまで来たのに!クヴォック!何故牽制しなかったのです!?」
「やったけど!間に合わなかった!あ。すまん。隠れさせろ。」
「だから肉壁は嫌だって!あー、もう!仕方ないですねぇ!」
緊張感ないなあの二人。結局、なんだかんだ言いつつ、リンパスさんは肉壁になるんだな…。無駄だけど。
無駄に高耐久なところを見せてくれたリンパスさん。だから、あれは彼女用に構築してある。いわばアンチリンパスさん魔法とでも言うべき魔法。確実に肉壁は崩壊する。
吹きすさぶ風がリンパスさんとクヴォックさんの二人を闘技場の上へ上へと持ち上げ…、あっという間に天井と激突させた。
「グエッ…」
「クヴォック!?頑張って耐えてくださいね!」
「ちょ…、マジか…。お前…、重い…。」
「ちょっ!?女性になんてことを言っているんですか!?」
鯱の体重って確か、雄雌差はあるが約1~5トンぐらいだったような…。でも、昔見た鯱よりリンパスさんの方がでかい。…となると6トン? …頑張れクヴォックさん。リンパスさんが倒れるまで。
「…どのみち助からないよね?」
確かにそうだね。リンパスさんに押しつぶされるか、『乱気流』に押しつぶされるか。その違いしかない。
…というかよくこっち見てるね。アイリ。
「…二人を守らなきゃいけないしね」
「そーだよー!きゅーけーしててー!」
「何故ちゃんと休憩しなかったんだよ!」
それはノーコメント。視線をスッと逸らす。ガロウは器用にもあっちを援護しながら視線を追いかけてくる。
「終わったらいう「ぎにゃぁぁぁ!」あ」
視線を上にやると『乱気流』の本体がリンパスさんに襲い掛かっていた。
『乱気流』は最初こそ、でたらめに吹き付けるただの風だ。それでも、飛行機が巻き込まれると墜落する可能性は十分にある。
本体はその後に続く「乱」雑に形成された風の刃。それらをリンパスさんの体全体に叩きつけ、再生能力を奪いつつ、唯一狙って作ったアイリの鎌のような鋭くとがった風の刃。これで彼女の首を切断する。
「ううぅぅうう!だから!嫌だっ!たんでしゅよぉ!痛い痛い!ものすごく痛い!首!くびぎゃ!お二人の鬼畜!鬼!悪魔!魔神!」
「…鬼畜と鬼って一緒だよね?」
そこは気にしなくていいよ。アイリ。気にしないつもりだったけど猛烈に気になってしまったじゃない。
クヴォックさんは…、重さに耐えかねて先に脱落したか。
「もーダメ」
口だけがそんな風に小さく動くとリンパスさんも消えた。これで4人。
「父ちゃん!母ちゃん!立って!来るぜ!」
はぁ!? 早くないか!?
「『重岩弾』は!?」
「消えた!」
「それに、お父様たちがおっしゃっていた方々以外に倒れた方はおられないかと!」
マジか。4人削って怪我させただけか!
「…わたしのもレイコのも初見殺し性能は高いんだけど…」
「その後が続けにくいのですよね…。特に私のは」
初見殺しが通用しない。これが理由か…、だけどこれはもう一つの理由とほぼ同値。というよりも、怪我で済まされたのも同じだ。
「予想外にハーティさんが有能ですね…!
「違いない。『重岩弾』で聞き取りにくかったが指示出しもしていたみたいだし」
少しあてが外れた。ハーティさんを潰すべきだったか? …いや、回復と回復できるかもしれない人を残すのは悪手。
「なぁ。父ちゃん。「指示出しも」って何だ?」
「ん?そのままの意味」
「あの人のシャイツァーはどうやら鼻のようですね」
「しかも、重力を発生させることが出来るらしい」
俺らの言葉を聞いて、ガロウはポカンと口を開いて固まった。