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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
146/306

136話 2 VS 100

人に対する若干の残酷表現があります。

「双方、申しておくべきことは?」


リンヴィ様の声が降ってきた。



「「「ありませ()」」」


俺と四季、それとイビュラ爺は即答。あるはずがない。昨日のうちに済ませた。…はずだというのに。



「ない!」

「ありません!」

「なーでーす!」


イビュラ爺に続く戌群人たちの返答はてんでばらばら。特に最後。ちゃんと喋れ。



「イラつきますね…」


ぼそり四季が呟いた。おそらく彼女も無意識に呟いたのだろう。その証拠にまるでこちらを見ていない。だが、俺もそれに同意する。



眼前の戌群人たちの姿に猛烈に心がささくれ立つ。全員「ない」と言うなら揃えて見せろ!



…だが、それはこちらの都合か。やはりどう言いつくろうが、この流れを半ば無理やり作ったという事実は変わらない。



「話し合いでは解決の余地がない」その確信があった。だからこそ半ば無理やり戦いにした。あの無礼者がいようが、いまいがここは変わらなかった。



だけど、対話を望む人がいて、その人が不服に思っていることぐらいは俺も四季も理解している。



…はぁ。それを「面倒だ」と吐き捨てられたらどれほど楽だろう。だけど、「リンヴィ様が作った場?勇者?知るか。対話 (物理ではない)しようぜ!」そう思っている人を「面倒だ」と吐き捨て、斬り捨てていては、レイコもガロウも幸せになれない。正直なところ、それをするなら戌群全て、二人の故郷を焦土に変えたほうが早い。



だけど、だけどだ!



例えこっちが初手から、”「神獣(レーコ)を失いたくない獣人」と、「レイコ(神獣)を家族として旅に出たい俺達」の永久に交わることのない対話”を切り捨てることを選択したとしても、だ。場の雰囲気に呑まれてどうするんだよ!



ああ、確かに神前決議場(ジャミーダ)。その文字通りだよ。誰も改めて明言しないが、リンヴィ様の後ろ。そこの威圧感はすさまじく、拭いきれない。どう考えたって、神は、シュファラトは、そこにいる(・・)



だが、そうだとしても、こんな状況、受け入れられるか!



何のための神前決議場(ジャミーダ)だ! 後腐れなく決めるための場だろう!? だのに、「神が原因で気がそぞろになって負けた」などと、俺らにはどうしようもない言い訳を立てられてたまるか!



ギリッ


鈍い音が耳をついた。俺と四季の歯をかみしめる音……か。落ち着かねば。進むものも進みやしない。だが、今戦いを始めたところで…!



意味がない。そんな言葉が頭をよぎった時、俺と四季の二人と、戌群人約100名の間に突如として光が収束し始める。



光の色。其れは白。破壊と殺戮の限りを尽くす荒々しさにまみれた白。それでいて、血や憎悪からは守って見せるという不退転の意思が籠った白。そして何より、ここにあってはならないはずの白。



見た瞬間、「何これ?」などと言う間の抜けた疑問は全て無残にも吹き飛ばされる。一目でわかる(・・・)。わかってしまう。この白こそ、いや、これこそがこの世界(アークライン)の一柱。シュファラトだ。



誰もが息を呑む中で、光は漂ったまま。ハッと何かに気づいたように人一人分ぐらい、およそ直径180 cmにまで風船のように膨らむ。そして、うねうねと腕とも、触手ともつかない、白いものを伸ばし始めた。



それを俺らの方へ伸ばしてきては引っ込め、意を決したように伸ばしては引っ込め…を繰り返す。



「一体何がしたいんですかね?あれ?」

「さぁ?」


じーっと凝視したところで、ただひたすらに挙動不審。あ。



「俺らの方の触手?はさておき、戌群人たちの方では、盛んに腕が伸びてる……か?」

「確かに。その奥では、戌群の人たちが黙り込んでいる…んですかね?どう思います?」

「どうもこうも耳を澄ましてみても何も聞こえな…ん?」


声が聞こえる? 近くで話しているはずなのに、遥か彼方で話しているようなそんな不思議な声。



「どうしました?」

「謎の声がする。耳を澄ませてみて」

「声ですか…。戌群の人ではないですよね。こんなに静かなのですもの」


あ。疑ってるわけではないですからね。慌ててそれを付け足した四季は、うってかわってキリッと引き締まった顔で耳を澄ませはじめる。惚れ惚れするほど引き締まっていてかっこよくて、美しい。



「…なるほど。聞こえますね」

「内容は…何だろう?」

「不明瞭ですが…、一言で纏めてしまえば、「しっかり戦ってね!」ですね」


折角仰々しくまとめているのに、その纏め方はいささかシュファラト神が不憫な気がしないでもない。



「で、あれは何がしたいのですかね。視界の真ん中でゆらゆらされると鬱陶しいことこの上ないのですが」

「注意を引きたかったんじゃない?あれに焦点があったからか、落ち着いた」

「で、相変わらずの謎行動ですね。運動しているのですかね?」

「今、この場でやられると、果てしなくウザイだけだよ?」

「ですよね。知ってました」


だが、この触手? の謎の動きを見ているうちに、幻覚が見えてきだしたような。



何というか、悪いことをしてしまった好きな人に、気まずくて話しかけられない男性の姿とか、意を決して自分の決断を貫きとおせない男性の姿。そんなのが見える。



そんなどうでもいいことを考えていたら、優しい白い光が視界を埋め尽くし、何事もなかったかのように消えた。



「あれは何をしに出てきたんでしょうか…?」

「さぁ?でも、あんなのでも、あっちに対しては仕事をしてくれたみたいだ」

「ですね。ですが、これだけは言わせてください」

「何?」

「私達に用がないなら、あれ、あの場に突っ立っているだけでよかったのでは?」

「それがアレの役目なんだろ。さっきも言ったけど、前見てみて」


眼前にいる戌群人たちは等しく闘気を漲らせている。この場の神聖さにあてられていた者も、未だに納得できていなかった者も、俺らをぶちのめしたい奴も、全ての意志が統一された。戦える状況に、戦っても遺恨のない状況が出来た。



「あれの役目は、心理的な面のケアですか」

「だろうね」


だから、あれは俺らにはそれが必要かどうか、判断に迷っていたのだろう。後腐れはどちらに残ってもおかしくないのだから。



「となると、既に覚悟もやる気もある私達にかける言葉が見当たらなかった。そう言うわけですかね」

「おそらくは」

「やはり、あの行動無駄ですよね?」


…言わないであげて。



視線を逸らすと、戌群人たちが整列していた。四季を肘で小突いて二人で向きなおり、相対する。相手の人数はおよそ100。空気がピリッと張り詰め、引き締まる。



その緊迫感を感じ取ったのか、中央に光がスッと立ち上がる。誰も何も言わない。だけど、俺も四季も、戌群人たちも、そして、どこかでこの場を見ている子供達も群長達も察したはずだ。



この光が消えたとき。それすなわち、開戦だと。



虫の羽音でさえ聞き漏らさない。それほどまでの緊張感の中、双方の呼吸音だけが響く。息を吸い込み、吐く。それだけなのに、徐々に徐々に戦場にいる俺達の呼吸ペースが揃ってきて、さらに戦意が高揚する。



やがて全員の呼吸が完全に一致する。一回。二回…。三回目。光が消えた。



「やるよ四季!」「行くぞォォォ!」

「はい!」 「「「オオオオ!」」」


俺らの応答は、彼らの声にかき消された。



「先と違って息ぴったりだ」


横に差し出されていた紙を受け取りながら言えば、



「ですね。ですが、いいことでしょう?」


四季が答える。紙を完全に受け取ったのち、二人で『身体強化』全力でかけて、後方へ飛ぶ。飛びながらでも字は書ける。…四季の背中を借りねばならないが。



「確かに、いいことには違いない」


喋りながら着地。舌は噛まない。さらに四季から追加で紙を6枚貰う。



「では、勝ちますか」

「ああ」


四季の背中の陰に隠れて、剣の腹を下敷きに字を書く。



女性、しかも好きな人の後ろに隠れるって、どうなんだろう? と思わないでもないが、勝つためだ。仕方ない。



「来ましたよ!習君!…あれ?」

「どうした?」

「矢が濡れているような…?」


四季の陰から目だけ出して様子を窺う。…うん。濡れてるな。間違いなく。



「毒だな」

「触っちゃいけないやつですね…。切り上げを早くお願いいたしますよ?」

「言われなくとも!」


毒矢が飛んでくるならば、悠長に書いている暇はない。そして、飛んでくる矢を叩き落す余裕もない。折角、四季の背中を台にするのは避けたのに…。



「何書けました?」

「『火』、『回復』、『レーザー』、以上」


字数の多い『回復』の重いこと…。



「なら、選べるのは一つですね」


四季が俺の手から紙を一枚選び、手を繋ぐ。



「「『『火』』」」


壁のように火を俺らの前に展開。矢と遅れて飛んでくる魔法を焼き尽くし、そのまま突撃してきた輩も焼く。相手に与えられた損害は…、皮膚が少し焼けただれたぐらい。言うなれば中傷?



…やはり『火』では、『火球』に比べて威力が下がる! イメージと魔力量でゴリ押さなきゃならないから、いつもより魔力量はいるのに!



「対応力には優れますがね…。ですが、漢字でこれなら、平仮名は基本却下ですね」

「時間がないときだけだろうな…」


魔法と矢の混成を焼き尽くし、少し落ち着いた。その隙にさらに下がり、『壁』を書く。機会を逃すわけにはいわないから、一枚が限界か。



「左!」

「既に右を見ていますよ!」


それは頼もしい。おそらく、相手は火傷した人の回復をするはずだ。だから、目で回復魔法使いをあぶり出し、潰す。



「囲んで押しつぶせ!!だが、警戒は忘れるな!」

「手伝うぞ!だが…、味方に当てるなよ!当てたら恥ずかしい踊りを踊らせるぞ!」


微妙な脅し方だ。だが、じわじわと人の壁、魔法と矢の混成の壁が狭まってくる。露骨に人数差が出ている。だが、後ろは壁で、これ以上は下がれない。



「見つけました」

「俺も」


四季も俺も指で見つけた回復役の数を示す。3と3。6人か。後衛は40人ほど…、おそらくまだいる。だが、欲張っても仕方ない。着実に喰らう。



「来るぞ!」


手を繋いだところで、爺が叫ぶ。だが、この魔法はそんなこと関係がない。



「「『『レーザー』』」」


直径5 mmほどの細いレーザーが6本飛翔する。光速をもって、包囲してくる獣人の間を悠々と通り抜け、時に、邪魔な人の体を貫き…、回復役の心臓近辺や眉間を貫き、壁に命中して消える。



今まで『レーザー』に威力を持たせられそうになかったから使ってこなかったが…。今回はそんなことも言ってられないからな。



光の干渉だとか、そんな小難しい指摘は全部吹き飛ばして、アニメや漫画のイメージを流用すればよかった。



魔物相手にはレーザーは細すぎるだろうが…、人一人、殺すには十分だ。どの程度で即死するかなどわからないが、痛みで呪文を唱えることは出来ないだろうし、放置すれば確実に死ぬ。



他の人が救援に入るならどうぞ。ついでにその人ももらっていく。あ、消えた。…戦闘不能が確定しない限り、場に姿は残り続ける……のか?



「やってくれたな!」


さて、威勢よく飛びかかって来ている人の対処をするか。この人の名前は…、



「大将?」

「それは役職だと思いますよ…。イビュラですよ」


ああ。そうだった。イビュラだった。大将と呼ばれていた時の印象が…。



「おうおう!わしを前にしていい度胸じゃねぇか!」


威勢のいいことで。この人の相手は骨だ。後回しするに限る。



俺と四季は壁沿いを左右に分かれる。



「逃がすな!って、お前ら来すぎじゃ阿保がぁ!」


突っ込めっていたからだろうなぁ…。後続の量が大くて勝手に手間取ってくれている。それにしてもしまらない…。



後ろばかり気にしていたらダメだな。気迫のこもった声とともに剣が力任せに振り下ろされる。迫力はあるが隙だらけ。



こっちのが速い。剣が振り下ろされる前に、腰に差してあった剣を抜いて薙ぎ、首を切り飛ばす。男性の姿は一瞬で消え去る。…間違いない。死亡判定が出た瞬間、除外か。



…少しだけ腕が痛い。ちょっと首硬くないか…?



あぁ、でも、今までの『シャリミネ』やら『シュガー』やらに比べれば、吹き飛ばして衝撃を逃がせる分かなりマシか。



彼がいなくなって空白が出来たところにねじ込むように魔法が飛んでくる。誤射の恐れがあるはずだが…、それでも、機会は生かす方針か。



なるほど。じゃあ、借りるか。その場でターンすると、真後ろに厳ついチワワみたいな人がいる。



回避行動はさせない。ペンを彼の左足に投げつけ、縫い付ける。



「ぐっ!?」


俺が身を翻すと、魔法が彼に殺到する。これで終わり。って、目の前に人。剣を振るう時間はないか。しゃがんで刀? を回避。腰の辺りにタックル。持ち上げ・・・…、後方に投げる。



生きている人を切り裂くなんて出来ないよな! これで時間稼ぎは出来る。



「お前ら何をしてもいいから絶対に合流させるな!させたらめんどくせぇぞ!」

「「「応!」」」

「それと魔法隊!」

「わかってる!てめぇら!合流できぬように、二人の間に魔法を流し込め!俺は準備をする!」


何をしてもいい。…本気で額面通りに取るのか…。普通、俺と四季の間に魔法で大河を作るか!? こんなのは魔力の無駄遣い…とは言えない。少なくとも俺らにとっては。



寧ろ、実に妥当な指示。俺と四季は二人が揃っていないと、本領を発揮できない。二人そろっていないと、紙に字を書けない。それすなわち、「新たな魔法を作ることができない」ことを意味し、手をつなぐことも出来ず、「魔法の威力が下がる」ことも意味している。ろくなことがない。



これがアイリならば問答無用で鎌を投げつけ、全滅させるだろう。カレンでも矢を撃てばそれが出来るし、面倒なら、前のように自分ごとうちだしてしまえばいい。



ガロウは『輸護爪』で超えられる。レイコは…、他に比べれば厳しいが、それでも魔法連射でこの川の元を潰せる。相殺すらできないのだから。



やはり、一人である程度は何とかできるようになったほうがいい…か。今の状態では、一人になった時の対応力のなさが酷い。



…ま、今もしも、対応力が上がっても、使わないが。それはズルい。それに、なくても勝つ。



さて、とりあえず合流だ。あの後衛の主将が何かをやる前に抜けきってしまいたい。この大河を維持する魔力などそうそうあるものではない。



…唯一の不安は、作った紙を全て四季に押し付けていることだが、やってみせよう。



そろりそろりと、だが、気配を隠せずに後ろからやってきた人。その人のこん棒による打撃を横に飛んで回避。ついでに突進。前へ行かせてあげる。



「ちょ…!?」


大河の濁流をある程度受けさせ、その後ろを通る。首根っこを掴んでそのまま盾にする案もあったが、死んだので却下。自力でここを抜ける必要がある。



「中将!早くぅ!」

「馬鹿!中将…、ベイグ様は詠唱中だ!喋れるわけねぇだろ!」

「大将!」

「時間稼ぎだ!」

「「「おう!」」」


ああ、邪魔をしに来るか。この嵐の中、これみよがしに河の中洲のように安全地帯があったが…。そこにいた5人全員が出撃した。



俺か四季を安全地帯に釣って殴ろう。まぁ、釣れなかったら今のように殴ればいいか! そんな感じか。



…もっとも、俺らが釣れるなんて、はなから期待してないだろうが。安全地帯など、胸三寸で変えられるのだから。



時間稼ぎ。その言葉通り、俺が走っている横合いから殴りつけて、無理やり四季と距離を取らせようそう言う魂胆らしい。



だが…、悪手ではなかろうか? 彼らが近づいてくるということは、彼ら周辺の魔法密度は否が応でも下がる。だから、合流しやすくなるはずなのだが…。



まぁいい。とりあえず、ペンを一番体格の大きい男の腹に全力で投げつける。



「ぐっ…」


…刺された本人も含め、4人に「ペン…?シャイツァー!?扱い!扱い悪いぞ!」みたいな顔。



…まさか気を抜かせようという腹か? 残念だが、その視線は効かないぞ。シャイツァーの扱いはこういうものだ。少なくとも、俺らの中では。



というか、見てなかったのか。さっきも投げていたのだが…。

…ひょっとして、ペンを持ち込みの使い捨て道具だと勘違いした? …ありえる。



獲物 (予備含む)の規定はしてなかったな。そういえば。



まぁ、相手もこっちも、俺らは剣だけ。相手は何でも。なことは無意識の上で合意されていたはず。



それは置いておこうか。確かなことは、四季と離れている今、シャイツァー(ペン)の存在意義はとてつもなく硬い棒。それしかないということだ。



命中したシャイツァーを回収。…消えたから使い捨てだと思ったのかもな。彼らは目を丸くしながらも同時に攻撃を仕掛けてくる。



「行かせんじゃねぇぞ!」

「押し通る!」


叫ぶ意味などなかったが…釣られた。



鋭い突きを体の捻りで軽くいなし、斬りつけをペンで受け、逸らす。正面の男性を全体重の乗ったショルダーアタックで吹き飛ばす。



慌てたように右から飛んでくる魔法をその場で飛び跳ねて回避し、近場にいる男性を蹴り飛ばす。それに巻き込まれた男性が倒れこむ。



逆側の男性が斬りつけてくる。剣を剣で叩き斬る。唖然としている間に襟首を掴んで俺の進路上に放り投げる。



彼の陰を突き進む。



「またか!てめぇら盾にされてんじゃねぇ!」

「大将!人を平然と使い捨ての盾に出来るあいつらがエグイと思います!」

「犯罪者がよくやる手だろうが!」

「お言葉ですが、犯罪者は人質を取るんですぜ!」


…何故ここまで酷評されるし。獣人領域には奴隷制度がないのかね? あれば、犯罪奴隷を「ほーれ、逝ってこーい」と死地に行かせることぐらいはやっているはずだし…。



「大将!中将の準備が出来やしたぜ!」

「よくやった!」


ベイグさんの狸顔が、一瞬、「こいつら何で言っちゃってくれんの!?」とありありと語っていたが…、すぐさま彼の目が妖しく輝く。



「『風射眼(アハバーム)』!」


彼の宣言により、たちまちのうちに俺と四季の間。丁度誰もいないところを一直線に風が吹き荒れる。いや、これはただの風というより…、竜巻か!?



…見たところ竜巻のサイズ以上に影響はなさそうだが…、威力はどうだ?



「出た!中将(ベイグ)の魔法!」

「腕に当たるともげるぜ!」

「このドアホ!」


…情報ありがとう。当たってはダメそうだ。威力はある。そして、未だ消えぬ竜巻。そして、魔法発動時の目…、これらを踏まえると間違いない。



「「シャイツァー(です)か!」」

「仲のいいこったな勇者様がたよ!バレちゃ仕方ねぇ!そうさ!シャイツァーさ!」

「またかぁ!?なんであんたらタダで情報やってくれちゃってるの!?馬鹿なの?死ぬの?ねぇ。どうなの!?」

「ハッ!非難してくれるなベイグ!バレてるならばらしてもいいじゃねぇか!」

「まだ確証持ってなかったじゃねぇか!このスカポンタン!」

「…あ」


……。



「だが、この二人だ。確信してたさ!」

「証拠は?」

「勘!」


うわぁ…、勇者のゴリ押しよりひでぇ。



「大将!中将!漫才はおやめ下さい!そんなことしているから、魔法に巻き込まれて二人殺られていますよ!?」

「違うぞ!巻き込まさせられたのだ!」


うん。確かに俺も四季も、一人ずつ掴んで竜巻にポイ捨てしたけど…、きっと彼が言いたいのはそう言う事じゃない。



「…追いついたぜ!ベイグ!」

「あぁ!もう!わかってる!維持なら、俺が一番だ!」


…二人そろって情報をくれるのは一体何なんだ。ツッコミ待ち?



「一撃、喰らってけ!」

「遠慮する」


メリケンサックか何かの付いた殴打を回避。軌道が割と単純だから避けやすい。ただ、一撃とは、大将(イビュラ爺)のモノではなく、中将(ベイグさん)のモノらしい。かなり風射眼アハバームに寄せられてしまった。



「さっきのお返しだ!」


ペンを突き刺された人が帰ってきた。だが、これでいい。彼のアッパーを左に避け、肘で殴打し無理やりかがませる。彼にシャイツァーを突き刺し、思いっきり踏みつけ、跳躍する。



「ぬぁ!」


飛んできた俺に動揺することなく、腕を振りぬくイビュラ爺。だが、予想外だったからか、キレがない。飛んでいてもシャイツァーで受け止められた。


彼の胸に足を付け、グッと力を込めて跳躍する。



「習君!」


四季が手を伸ばしてくれる。なんとか腕を伸ばして彼女の腕を取れば強く引っ張ってくれた。足の方で「ギャギャッ!」という不快極まりない音が鳴ったが、風射眼アハバームは超えた!



だが、まだだ! 四季の後ろに敵がいる。無力化する! 怪我した足を彼女目がけて振りぬく。



「甘いよ!」

「貴方が、です!」


俺を引っ張った勢いで彼女の後ろに回り込んでいた四季の体当たり。俺の蹴りが竜巻の方に向かってよろけていた彼女をダメ押し、竜巻に押し込んだ。



これでまた一人。



「おい!ベイグ!」

「無理なのわかってるだろ!消せねぇよ!消えるまで待ってくれ大将!」

「畜生!ならわしも…」

「巻き込まれたらあんたでも重症だぞボケ!士気が崩壊するわ!」


やはりか。これほどの魔法だ。代償はおそらく「莫大な魔力」と…、「融通の利かなさ」。どことなく俺らに似ている気がする。



「「『『回復』』」」


足の傷を治しておく。重いものではなかったが、擦り傷やちょっとした切り傷のように無視できるものではない。



「これはチャンスですかね?」

「かも。一定時間たつまで消えない。そんな感じだろう」

「ブラフという可能性は?」

「ないだろ。イビュラ爺や、周りの反応を見る限り」

「となると…」

「間違いなくいい機会。こちら側に都合よく後衛が固まっているのだから」


後衛約30人。それのおよそ2/3がこちらにいる。



「ところで習君、何人減らしました?」

「3人」

「なるほど…、となると残りは85人ですかね」

「そうなの?」

「そうなのです。では、ちゃっちゃと減らしましょうか」

「ああ」


狙いは後衛。(イビュラ爺)の居ぬ間に削ろう。

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