14話 続バッタ
VSアベスホッパーの続きです。
即断即決されても、紙が準備できていない。少しだけ待ってもらう。
「早くしてくださいよ!」
わかってますよ。できるだけ失敗しないように書く。一発でミスなく書こうとすると、なかなかストレスがかかる。
ある程度、俺が書き終えたのを四季が確認し、
「アレムさん!そろそろ詠唱始めといてくださいね。」
と声をかけた。ちょっと待って。プレッシャー増やさないで。
「わかった。」
アレムさんは剣を取り出して、呪文を唱え始めた。あ、俺の願いは通じないみたい。
『炎剣ムイ』それが彼のシャイツァーの名前だ。炎を出して切ったり、周囲の火魔法を吸収、増幅させることもできるそうだ。
変なプレッシャーの中、書き損じることもなく、後一画。
「そろそろ、詠唱終わりますけど大丈夫ですか?」
「ええ、ばっちりですよ。」
「じゃあ、やりましょうか。そろそろ火魔法も使用回数を超過しそうですし。」
「書いたばっかりなんだけどね…。まぁ、あんだけ打てばなぁ。触媒氷魔法でいいよな?」
「そうじゃないとだめでしょう。アレムさんの火に耐えられないとだめなんですから。」
「それもそうだな。土が使えればよかったのにな。はぁ…。」
土、もとい岩なら火の影響を受けない。ガラス化したりはするけれども。圧倒的に火に対する安心感が違う。
使えないのは仕方ないので、二人で紙に魔力を流す。
『『アイスサークル!』』
紙がいつものように発光すると、大きな氷でできた輪が出現する。回転しながら冷気をまき散らし、接触したバッタたちを凍らせながら、湖の中心へと飛んで行った。中心へ到達した輪は、そこでくるっと下に向きを変えて、湖の底まで沈みこみ、想定通りしっかり外と内を区切ってくれた。
「…炎による地獄を!『煉獄地獄!』」
アレムさんの剣から飛び出た熱線が、氷でできた輪の中の水を一気に蒸発させる。白い煙がもくもくと立ち上る。こっちまで熱気がとんできたぞ。氷は…。大丈夫そうだ。
「橋掛けますよー。『ウォーターレーザー!』」
『凍結!』
四季の放った『ウォーターレーザー』を『凍結』させることによって橋を架ける。普通に架けたらいいのだけれども、まぁ仕方ないよね。『ウォーターレーザー』で数匹巻き込んだけど…。許容範囲ということで許してもらおう。
「ハハッ、なんで氷が残るんですかね…。」
「アレム!しっかりして!あの二人に関しては諦めたら幸せになれるって娘さんが…!」
「申し訳ありませんが、フランソーネ様、この機会を逃してはなりません。突撃の指示を。」
「そうね。皆!私に続けー!」
「「お、おおー!」」
リベールさんがフランソーネさんを正気に戻らせたおかげで、雑な作戦は第二段階へ移行した。騎士団の人たちの声が若干変だったのが気になるが…。士気は高そうなので大丈夫そう。アレムさんは勝手に復帰するでしょ。
「アレム!しっかりしなさい!」
フランソーネさん、リベールさんは呪文を唱える準備をしながらもアレムさんをべしべし叩く。
「しっかりしてくれないと明かりがないでしょうがぁ!」
「そうですよ!明かりがなくて困るんですよ!」
えぇ…。
「明かり扱いなのな…。」
「仲のいい騎士団だと思った私がおバカだったんでしょうか…。」
「…原因がさも「私何も関係ないです。」みたいな顔で何かほざいてる…。」
アイリが辛辣なのはよくあることだ。
「はっ!私は正気に戻った!」
「「それダメな奴!」」
「…穴からバッタ出てきたよ…。」
全滅したはずのバッタが穴から出てくる。ここも前のように工場なのか?
「お遊びが過ぎましたね…。でも、呪文はしっかり完成しています!いきますよ!『大盾!』」
『『『大盾!』』』
フランソーネさんと、正気に戻ったアレムさん。そしてリベールさんをはじめとした騎士団全員の詠唱が重なる。
「突撃!」
号令で、馬で駆け出して行った。
ぶっちゃけ馬で氷の上を走るとか非常識極まりない気がするが、今回は時間をかけすぎると、橋がバッタに落とされそうなので、このような形になった。
ガン、ガンと出てきたバッタと盾が衝突する。その場で粉々になる奴、後ろ足や前足、羽などがちぎれた後、弾き飛ばされる奴など、いっぱいいる。が、衝突したアベスで無傷の奴はいない。
「で、突っ込んだらどうするんですか!?馬に足折れとでもいうんですか!?」
「センなら折れないと思いますけど…。大丈夫です。あ、穴が見えてきましたね。」
『『ウォーターレーザー!』』
「そして、もひとつおまけに『ウォーターレーザー!』」
「これで、終わりです。『凍結!』」
二人で放った『ウォーターレーザー』が壁に少し斜め上から大穴を空け、追加の『ウォーターレーザー』がその傾斜を少し緩やかに。そのあとの『凍結』によって、先の穴。つまり仮設馬置き場への道ができた。
「やっと、非常識にも慣れて、もとい諦めたけどさ…。」
アレムさんが悟りを開いたような顔でいうと、
「変態二人を相手しないといけないアベスに少し同情するよね…。」
フランソーネさんがすこし悲しそうな顔になる。
「そうですか?私は、こいつらのせいで『私の』する仕事量がなぜか倍じゃすまないくらい増えたので、ざまぁみやがれ!なのですが。」
リベールさんは本当に「スッキリ!」みたいな顔をしている。残念イケメンだなぁ…。
残りの人たちは、人によってまちまちと言ったところ。
さっきから一言もしゃべっていないアイリは上にいる運よく生き延びているバッタや、そもそも巣にいなくて無事だった、帰ってくるバッタの始末をしている。俺らもちょくちょく手伝ってはいるが…。いかんせん今のようにやることがあるため手伝えていない。
「ここに馬を置いていきます。」
「わかった。部隊を分けるぞ。AとBがついてこい。残りは防衛だ。」
「あ、防衛だけじゃなくて、できそうなら援護もお願いするわ。」
アレムさんとフランソーネさんが指示を出し、俺たちもセンを置いていく。
センは来たがるかと思ったけれど、空気を読んでくれたようだ。
さて、一気に下まで行きますか!飛び降りは底が予想できないため却下。じゃあどうするかといえば、ほぼさっきと同じ。
『『ウォーターレーザー!』』
先ほどよりも下に向けて放たれたレーザーはバッタを巻き込みながらも、壁に穴を空けた。
『ウォーターレーザー!』『凍結!』
これで、再び道ができた。というか、滑り台だな。仕方ないけど。
例のごとくバリアの使える騎士さん方が先に降りる。アベスの群れに突撃するためか目に生気がない人がちらほらと。
俺たちはフランソーネさんと降りる。
騎士たちは例のごとくバッタを弾き飛ばしながら、下っていく。
「じゃあ、お三方はソーネとほぼ一緒に来てくださいね。」
とだけ言って、アレムさんも降りていった。
「ヒャッホー!」
あの人だけ無駄に楽しそうだ。
滑る順は、俺たちが最後。氷の滑り台に足をかける。横幅が狭いので2人ずつになってしまうけれど、バリアの範囲とかそれによる許容間隔とかは、運動神経が圧倒的にいい二人が何とかしてくれるだろう。
滑るときになって、四季が
「絶対に押さないでくださいね!」
と言い出した、怖いか。
でも、四季には悪いけど、早くいかないとバッタが上がってきて面倒。
かといって「じゃあ、押すね!」は、嫌われそうでダメ。最悪怪我するし。
仕方あるまい。
「四季、ちょっとじっとしてろよ。」
「ふぇ?何ですか?」
とかわいい声を出して動揺している四季を、抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。
「ちょっ、習君!?」
盛大に動揺しているが…。ここは心を鬼にして…。
「四季。舌噛まないように口閉じとけ。」
と言うと、俺は勢いよく滑り台のような坂を滑り始めた。アイリとフランソーネさんも後ろから追従してくれているようで、きちんと俺ら二人も盾の中に入っている。
バッタがびったんびったんと盾に当たって体液をまき散らして…って、やばい!
穴の底にアベスの体液溜まってるよな!?
後のほうの騎士さんの挙動が変だなと思っていたが、こういう理由か。
ああ、もう距離がない。仕方ない。
「四季しっかり捕まってろよ!」
俺は、四季の反応を確かめもせずに、『身体強化』を全開にして立ち上がり、思いっきり氷を蹴って飛びあがる!
いけるか?あ、微妙。
言いたくないけど、四季の分だけ重いし。その分調整ミスったかな?
「四季、酸の中に落ちるかもしれないからその心構えだけお願い。」
「いや、無理でしょう!?」
という反応が返って来るかと思ったが…。
四季は顔を真っ赤にしながらも頷いた。
そんな顔をされたら、落ちるわけにはいかない!
しかし、現実は非情である。思った以上にギリギリじゃねぇか!
地面につく前に四季を素早く安全なところにおろす。
そして華麗に着地!はできない!
「痛ってぇ!」
着地の衝撃に悲鳴を上げた。そのせいで穴に落ちそうになる。
「習君!」
四季が必死の形相で手を伸ばしてくる、俺はその手を何とかつかむ。
そして無事に四季ひっぱりあげてもらったが…。
いかんせん勢いが強すぎた、俺は四季に覆いかぶさるような形で倒れてしまった。
いわゆる床ドンの体勢。しかも唇が接触しそうなほど顔が近い。
「あ、四季ごめん!」
すぐに立ち上がる。顔が赤くなっているのが自覚できる。
「あ…うん。大丈夫ですよ?私は大丈夫です。」
とすこし焦ったように、というか、自分に言い聞かせるように真っ赤になりながら言う。
「私…。帰ったらソーネとイチャイチャしようと思います。」
「アレム?奇遇ですね。私もアレムとそうしたいなと思っていたんですよ。」
「私には嫁さんがいないんですよね…。ああ、目に毒です。」
「リベール様…。まぁ、私は嫁がいるので、帰ったらラブラブしようと思います。」
「エルマン…。貴様ッ!よかろう、ここで死ぬがよい。」
と俺らを見て、謎の盛り上がりを見せる騎士団の皆さん。だが、
「…皆。しっかりして…。まだ、巣の中だよ?…そういうのは全部終わってからにして。」
というアイリの至極もっともな意見と、
ドン!という大きな音を立てて降りてきたセンに気を取られて緊張感を取り戻した。
「セン…?どうしてここに…?」
「ブルルゥ、ブルルッ!」
「ああ、なるほど、あの核?みたいなのの破壊を手伝いたいんだな…。」
核とは、霧の発生源になっているであろう物体のこと。色々推測した結果一番もっともらしいのがこれ。
「どれだけ嫌いなんですか。セン。」
「…簡単に引き下がったのはこうすればいいと考えたからだろうね…。」
正解!みたいな顔をする。ちょっと殴りたいけど…。子供のように純粋な目で見られたら無理。
「仕方ない…。乗せてくれ。そのほうが下るのも早そうだ。」
「アイリちゃんもおいで。」
いつものように三人でまたがった。
底までまだまだあるので上の人たちから援護をもらいながらも同様のことを数回繰り返す。
センがいるから俺たちは滑り台を滑る必要はない。他の皆のために用意するけど。
だからといって、楽になったかといえば、そうではないといいたい。着地の衝撃がやばい。
センはいい。魔物だからか、無傷だ。俺たちは着地のたびにしたから突き上げられるような「ズン!」という衝撃を受ける。
これが痛い。痛くて少しばかり思考放棄していると、
「全員そろったな!皆、底らしきものが見えるぞ。ゴールだ。」
「やっと底が見えましたか…。明かりは?」
「まだだ!どうせなら全員で見よう。」
「そうですね。」
とリーダー格の二人が言っているのを耳にして我に帰った。
やっとついたか…。今度はこの高さから自力で降りられるようになりたい。
よろよろと、淵に行って、身を乗り出して下を見る。
うわ!アベスが飛び出してきた!?
『ファイヤーボール!』
反射的に放った火球はバッタを殺すついでに、はっきりと見たくないものも照らし出した。
「底じゃない…。」
俺か、四季か、はたまたフランソーネさんか、それとも他の誰かか。
声の主はわからなかったが、それは俺たちの気持ちを端的に表していた。
「え?じゃあ何?」
呪文の準備で出遅れていたアレムさんが言う。
「「「「全部アベス。」」」」
その場にいて、見てしまった人全員の声がそろった。
沈黙がその場を支配する。一人は見た瞬間気絶。2人が聞いてこれまた気絶。
まぁ、そうなる。普通にキモイ。気持ち悪すぎて吐きそう。
「…ねぇ、どうする?」
アイリの一言で、再び皆正気に戻る。
さて、どうしようか。ひょこっと頭を出して下を見れば、アベスは底?でぎゅうぎゅうに詰まっている。
たとえるならピーク時の東京メトロ東西線とか大阪の御堂筋線だろうか。まぁ、両方ともピーク時になんか乗ったことないけど。
あ、今の嘘。それよりもひどい。
アベスがぎゅうぎゅうすぎて圧力に耐えきれずに砕け散った。
「あ、核らしきものがありますよ。」
「本当だ。これぞ核!っていう核だな。」
モクモクと黄色と汚い白が混じった霧が出ている。
「え?どこにありますか?」
「私には見えないんですけど…。」
「残念ながら私も。」
「…わたしも。あ、でも、アベスの後ろ脚に小さく紋があったのは確認したよ。」
順にアレムさん、フランソーネさん。リベールさん、アイリ。
「…どうする?二人にしか見えてない以上、二人がやるしかないと思うけど…?」
「私もそう思います。ねぇ、ソーネ。」
「ええ、アレム。」
「理由は、まず、当てられる気がしないこと。次に、当てられても破壊できる気がしないことです。」
「それに私は盾維持しないといけませんし。」
「「なるほど。」」
「ちょっと四季と相談させてください。」
「了解した。なるべく早くしてほしい。核破壊後は任せて欲しい。」
「了解です。」
俺ら二人はその場で会話する。あまり離れると、盾の外に出てしまうからね。
「触媒魔法はどうだろう?」
「やめときません?こんなところでやると、大崩落しそうですよ?」
「あー。そっか…。」
どうしよう…。
「…シャイツァーでも投げる?」
とアイリ。
「いいね。やってみよう。」
「そうですね。」
シャイツァーが雑な扱いを受けるのはいつものことだ。
というわけで思いっきり投げてみた。が、全然届かなかった。バッタ数匹に激突して推進力を失ってしまった。
なんとなく帰ってきたペンが湿気ている気がする。ちょっと布で拭いておこう。
「推進力でもないと無理だな。これ。何かない?」
「『ウォーターレーザー』で押してみますか?」
「うーん、今使っているその紙って後何回使える?」
「これですか?後一回ですね。」
「うげぇ…。降りるときに使いすぎたか。まぁいいや。とりあえずやってみよう。うまくいかなければそん時はそん時で考えよう。」
「そうですね。」
「…え。そんな曲芸じみたことするの?本気?」
「ん?本気だぞ?」
「そうしないと届きませんから。あ、皆さん試してみるのでまた準備お願いします。」
騎士団の皆さんに殲滅の準備をしてもらう。
「え、本当に?」とか「あの二人の仲の良さ的に大丈夫だろ。」いう不安視する声と、謎の信頼にあふれた声が聞こえる。けれども、集中するためそれらは無視だ。
「じゃあいくぞー。」
「いつでもどうぞー。」
声を掛け合ってすぐに俺は再び全力でシャイツァーを投げる。そして俺がしゃがむと間髪入れずに四季が俺の後ろから『ウォーターレーザー』を放った。
紙は幻想的な光の粒子となって消ながらも、水の光線を残す。
ウォーターレーザーはペンを後ろから包み込むように押す。
アベスにぶつかっても、さっきとは違い勢いが落ちる様子は全くない。
それ気づいたのかアベスも止めようと軌道上に割り込んでくるが、全く意味がなかった。
最後の悪あがきとばかりにペンに横から体当たりをかます固体もいたが、包み込むようなウォーターレーザーの前に消し飛んだ。そして、コアのあるところへ一直線に飛び込む!ド同時に「ギャリギャリギャリッ!」という金属同士がこすれるような音が鳴り始める
「いけるか?」
「いけんじゃないですか?」
「なんでそんなに楽観的なの!?行ってくれ、お願い!」
フランソーネさんを除く騎士団の人たちは詠唱しているので、声を出せない。
だが、皆、同じことを祈っている。
「あ、消えちゃいそう!待って。もう少し!」
そのフランソーネさんの声にこたえたのか、
「バキッ!」という甲高い音が鳴ったかと思うと、即座に「パリィィィン!」という音が穴、いや、おそらく国中に響き渡る。破壊完了。
「今だ!総員殲滅せよ!」
『『『大魔法 灼熱地獄!』』』
騎士団全員で唱えられた大魔法は、一旦、アレムさんの剣に集まる。
アレムさんが穴の中に向けて縦横無尽に剣を振るえば、その軌跡をなぞるかのごとく、灼熱の炎が生成しアベスが焼かれていく。そして、アレムさんが「フゥ。」と息を吐いて、汗をぬぐうと、穴の底はすでに地獄の釜の底のようになっており、無事でいられる場所などない。その炎は全て燃やし尽くすと、たちまち消え去る。
「殲滅終了。任務達成だ。これより帰還する!」
「「「やぁぁぁぁぁぁ!」」」
穴の中に歓声がこだました。
「やったな四季。」
「はい、よかったですね!」
「ブルルッ!」
と全員で喜びを分かち合う。
ん?霧がセンにまとわりついている?と思ったら、魔力をセンにねだられた。
今回も蜂の時のように30秒ぐらいはむはむされた。
魔力を食べると元気になるようで、毛の艶や、白さが増した気がする。あれ?霧が消えた?気のせいだったか。
「…ところで、これどうやって登るの?」
あ。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字などあれば知らせてくださるとうれしいです。
明日もこの時間の予定です。