128話 アイス
「「ただいま(です)」」
宿の戸を開けて入れば、4つの微妙に口調の違う「お帰り」という声と、どたどたという駆けるような足音が近づいてくる。丁度いい。
「手伝って」
手に持った……正確には持たされた? 荷物で向こうは見えないが、気配だけを頼りにそう頼む。
「うへっ!?何やってんだ、父ちゃん、母ちゃん…」
「あの…、その状況で前は十分に確認できているのですか?」
「「全く」」
「おとーさん達って、ボクみたいにー、視点変えられるようなー、魔法ってあったー?」
「「ない(です)」」
「何故に、他の人に頼まなかったんだ?」
「…それはいいから手伝おう。それが先だよ。…ガロウ」
「ああ。だな。手伝う」
「ボクもー」
「「ありがとう」」
子供たちが、俺達が持っている荷物を受け取り着々と山を安全に解体していく。
「では、私も…」
「…レイコ。これあっちに持って行って」
「え?はい。了解しました」
疑問も持たずにアイリに任された仕事をするレイコ。アイリもレイコに任せるのは何となくまずい気がしたんだろう。この山を崩しそうだもんね……。
割と丁寧に山は解体されて、何事もなく全ての荷物を降ろせた。
「あー。疲れた…」
畳の上に寝っ転がって伸びる。背筋が伸びて気持ちいい…。
「ですね…。落とさないようにすることがここまで神経を使うとは思いませんでしたよ…」
四季も俺の隣で伸びて気持ちよさそうな声をあげる。
「空間拡張されているカバンがあればこんなことにはならなかったのに…」
「今更言っても後の祭りですけどね」
「まぁ、そうだね」
寝転がっていると、畳の心地よい香りが鼻をくすぐる。あぁ…、癒される…。
なんか微妙に甘い女の子の香りも混じっている気がするけど気にしない。横でうつぶせになっている好きな子の臭いだろうけど気にしない。というか、うつ伏せやめて。どうしても一部が…、
ん? 影? 誰……ああ。レイコか。
「どうしたの?」
「おくつろぎのところ申し訳ないのですが、これらどうなさるのですか?指示がさえ頂ければ私達で対処いたしますが…」
「…冷やさないといけないものとか、凍らさないといけないものは?…やらないとまずくない?」
そういえば完全に忘れてたな…。ええと…。
「そういうのはほとんどないね」
「ほとんどー?」
「ほとんどないですよ」
「じゃあ、さっさと片付けないといけないモノあるだろ!?何やってんだ父ちゃん!?母ちゃん!?」
「すぐに使うし…。ああ、でもいつまでもこうしてたらやらないな」
「では、やりましょうかね」
気力も回復したし、必要な物だけ脇によけていこうか。
「何であんな大荷物なんだ?」
「リンヴィ様にもらった。聖地の詫びらしい」
「気にしないでいいとは言っているのですけどね…。アイスの材料を頼んだらねじ込まれましたよ」
「…そりゃね。…わたし達を暗殺しようとしたとか言われても困るから」
「ぶっそー」
「…施政者だからね。あの人。…普通、何かやらかしたら、被害者やら貴族やらから突き上げられる……のかな?」
今話題ふってくるの!? えぇ…、確かにここではリンヴィ様なら突き上げられない気がしないけどもさ、こういうのに一番詳しいのはアイリだよ!?
「…まぁいいや。突き上げられてることにしとこう」
投げた。ま、それが正解か。
「…でその感覚からしたら、わたし達、というよりかは、お父さんとお母さんが何も言わないから怖いんでしょ」
「怖いのか?」
「…怖い。…後から何言われるかわかんないし」
「まだ何かしてくるー?」
「…あの人ならしてくるでしょ、…罪悪感で死ぬタイプの人だと思うし。…ギルドカードもあるからね」
「あれ、父ちゃん達、ギルドに登録してんの?」
「銀行のために」
「斬新な理由ですね…」
「勇者だし…」
「「あぁ…」」
納得するんだ。
今までさんざん使ってきてるけどさ、勇者パワー。バシェルはすぐに連れ戻されそう&処刑になりそうだったから別だけど。フーライナからはバシェルからの追跡者もいたとしても、国際問題になりうるからガンガン使った。勇者と言っておけばだいたい何とかなった。それでいいのか、異世界。
ひょっとして、神が絡んでいるから悪人は召喚されないとかなんだろうか? ……愛の女神、ラーヴェ神絡みならありえそうだ……。
「カードで思い出したけど。ギルドはここにもあるの?」
「あるぜ?てか、でなきゃカードは作らないと思うぜ?」
ああ。それもそっか。
「でも、交流はあるの?受付嬢さんは、「お金はどこでも引き落とせる」とか、「領域関係なくランク同じ」とかそんな感じのこと言ってたけど…」
「交流?たぶん」
「思いっきり交流断絶していましたけど…?」
「魔道具が云々とか…」
「長い年月で基準変わったりしないの?」
「魔道具が何とかするらしい」
その魔道具便利すぎるだろ…。
「なんでも、獣人領域では、勇者様がいつ来られても問題ないように……。という理由だったと思います」
「そのためだけに魔道具?」
「お言葉だけどー」
「…勇者ってそう言う立場だよ?…勇者の権力はそう言うところに由来してるんだよ?」
それもそうか。勇者というだけである程度慮ってくれるのであればそれくらいは当然か。
パワーを使うだけの弊害が…。
「あれ?となると…、カード絡みで何かあるのでしょうか?」
「何かって?あぁ…。あれか」
「…ファヴ倒したからあると思うよ?」
「じゅーじんの推薦ももらえるんじゃないー?」
要らない。
「二人ともまるで喜んでないな」
「ですね。喜ばしいことだと思うのですが」
「…やっかみがあったら嫌だな。とかそう言うのでしょ」
正解。今までテンプレ的なことはなかったけど、これから先もないとは限らない。
「勇者なのにー、そういうことあるのー?」
「…どこにも一定数のちょっとアレな人はいる」
アイリがしみじみと実感の籠った声で言う。
「そんなのにいつ会ったの?」
「…近衛の時。…ルキィ様もそばにいた」
「「マジで(すか)?」」
「…わたしがお父さんたちに嘘を言うとでも?」
ああ、うん。色々察した。むしろよく今までそういうのに会わなかったな…。
「あの皆さま。話し込みすぎです。早くしまわなければならないものをしまってしまったほうが…」
「あ。そうだった。ええと、牛乳と卵、それに砂糖、で、後何が必要だった?」
「生クリームと、バニラエッセンスですよ。両方あります」
「了解。ありがとう。じゃ、今言ったやつ以外片付けて」
「牛乳と、卵と砂糖と、バニラエッセンス?と、それに生クリームを片付ければいいんだな!」
全然違う!
「ガロウ!逆です」
俺らが何かを言う前に、レイコがガロウの襟を掴む。その結果、ガロウは襟に首を引っ張られて「グエッ」と声をあげる。
「ごめんなさい。ガロウ。ですが、せっかちすぎますよ…」
「だな…。よし、手伝お「遊んでる間に終わらせたよー!」…はっや!?めっちゃ早いな!?」
「…ある程度整理して置いておいたからね」
「カバンに入れるだけですんだよー!」
「そうか…」
「ガロウ君、首絞められただけで終わっちゃいましたね」
「俺らも何もしてないけど。ただ眺めてただけ」
「父ちゃん…、母ちゃん…、俺の傷口に塩を塗り込むのはやめて」
首絞められただけってのが強調されるからなぁ…。了解。触れないでおこう。
「…ところで、何を作るつもり?」
「アイス」
「…もしかして甘いやつ?」
「ん?食べたことある?」
「…甘くて冷たいのだよね?」
「うん」
「…じゃあ、ある」
アイスは食べたことあるのか…。綿菓子とべっこう飴は初めて見た感じだったのに。
「…それは知らない」
何で心読まれた。
「…推測できるからね。…でも、アイス知ってても、その二つを知らない。そう言う事もあるでしょ」
「そんなこと…、あるなぁ…」
「ありますねぇ…」
俺らが「そういうこともあるよね」の体現みたいなものだった。勇者召喚然り、何故か、四季に会えてないこと然り。前者は勿論、後者も人為的なものを感じる…気がする。
「…それより、早く作ろ」
二人そろって遠い目をしていたら、アイリにクイクイと服を引っ張られる。
それにつられてアイリを見れば、キラキラした綺麗な目がそこにあった。ひょっとしなくても、「せかされてる」。
「姉ちゃんが珍しく嬉しそうだ…」
「ガロウ、アイリお姉さまはいつも嬉しそうですよ?」
「そーだよー」
「そうなのか?」
「だよー。基本むひょーじょーだけどー」
「じゃあ、何で分かるんだ?」
「オーラ!」
「はぁ?」
「ガロウ…、もうちょっと雰囲気を見ましょう?貴方、こういうのに鈍いでしょう?」
「む。俺だって、父ちゃんと母ちゃんの中のいい時のオーラ?はわかるぞ!」
「丸見えではないですか」
かはっ。
「見えなかったら節穴だよー」
まさかの追撃。そんなにわかるかな…。
「…自分では気づきにくい」
膝をつく俺らの横に来てしゃがみこんでそう言うアイリ。慰めてくれているつもりなのだろうか? 目が特別優しいような…。
「今は特別嬉しそだよー」
「これくらいは見破れるようになるべきですよ」
「何故引きこもっていたはずのレイコがわかる」
「感覚的なものですから。おそらく、私が神獣であることが影響しているのでしょう」
「なるほど。所で、何故に姉ちゃんは嬉しそうなんだ?」
「おねーちゃん、甘いの好きだからねー」
「ああ。それで…、いつも甘いのを食ってr「それは違うよー」ふぇ?」
「…知りたかったら教える。けど、それは後」
未だに膝をつく俺達に視線を送ってくるアイリ。
「話しにくい話は後で自分から…」という事だろう。既にアークライン神聖国で色々あったからか、ほぼいつも食べてなきゃいけない……というわけじゃない。だけど、食べる習慣が身に着いた理由は、重い。孤児院を追い出された理由とも関連するし。でも、自分でするというならば、俺らは彼女の意思を尊重したい。
……当の本人は吹っ切ったのか全く気にしていないのだけど。
現に今も、目をさっきよりも輝かせて、「早く、速く」と言わんばかりに熱い視線を注いできている。アイリが見た目相応であれば、机をバンバンする微笑ましい光景が見られるだろうと確信できるほどに。
うちの子はバンバンなんてしなくても、今のワクワクしている顔だけで十分すぎるほど可愛いのだけど。
「そろそろ作りだしましょうか」
「だね」
アイリの目がそろそろヤバい。キラキラ? いいえ、ギラギラだ。ここまでくると怖い。鷹が獲物を狙っているみたい。
「とりあえず、氷と塩は今、要らない。端によけといて」
「わかった」
これで机の上にはアイス本体の材料が残った。
「さて、まずは分量確認だけど…、四季、どう見てもこれ、卵が大きいよね?」
「卵黄の大きさやらなんやらによりますけど…、分量変わりますよね。これ…」
「鶏の卵の3倍はあるし…、たぶん魔物のだろうし……」
でも、こっちにもいる鶏によく似た生物の卵ではなく、わざわざこれをくれたってことは、こっちの方が美味しいはず。
「で、どーするのー?」
「とりあえず味見をしてみましょう。それで決めます」
卵を割って器に。卵白は魔法でどける。
「魔法の使い方ェ…」
「…ガロウ。二人にとってはいつもの事」
「卵白はどうされるのです?」
「メレンゲでも作りましょうか?」
「砂糖もあるし、丁度いいでしょ」
「作り方は、一個分の卵白と、砂糖30gほどを混ぜながら適宜入れて焼けばよかったのですよね?」
「多分そのはず。でも、俺、メレンゲはよく知らない」
「あれ?では、何故知っているようなことを?」
「単に、母親に「電動ミキサー壊れちゃったけど、作りたいから手伝って(意訳)」と言われてやっただけ。そん時に、卵白に砂糖いれてたっけな?という感じ」
「なるほどです」
「手動は地獄。腕が棒になる。魔法があってよかった」
混ぜるのは意外と力がいる。それに幼かったし、辛かった。
「…お父さん。それって甘いの?」
「普通、「美味しいの?」って聞かない?」
「気にするのはそこなのですね、アイリちゃん…」
「…?…二人が作ってくれるものが美味しいのは当然だよね?」
もしかしなくてもアイリって、「狂信者」では? 何故依存をやめてもらおうと決意して行動しているのにこうなっているの…。
「…で、甘いの?」
俺らの逡巡を理解できていないのか、理解できていて敢えて無視しているのか…、わからない。
「…甘いの?」
ダメだこの子。本当にそこに興味しかない…。とりあえず、答えなきゃ。
「甘くて美味しいよ」
答えを聞くと、アイリは目の輝きを一掃強くした。卵一個のメレンゲじゃ足りない気がする。まだ味見すらしてないのにそう思わずにはいられない目。
…アイスもメレンゲも、下手な物を作るわけにはいかない。集中せねば。まずは、分量を決めるための味見だ。
あれぇ? 息抜きだったはずなのだけど…、いや、気分転換だったかな? ならちゃんとできてるからいいや。
四季と目を合わせて二人そろって頷く。二人でしっかり美味しいものを作る。
「まず、卵黄の味見をしましょう。はい。どうぞ。習君」
「ん。ありがとう。じゃあ、四季もどうぞ」
互いに指ですくって舐めさせ合う。…うわ、美味しい。
「あれで赤面しない…だと!?本物かあの二人!?」
「集中してるんじゃないー?」
「お菓子作りなのに!?お菓子作りなのに!?」
「…わたしが好きだから」
「二重の意味で、ですね…」
「なるほど。二人がアイリ姉ちゃんが好きってのと、ア「おねーちゃんが、甘いの好きってことだねー」言葉を取られたー」
何で漫才やっているの……? 楽しそうだしいいけど。
「うーん、普通の卵よりも…滑らかで、コクがありますかね?」
「だね。言えることは…、普通の卵とは比べるべくもないほどおいしいってこと。上品な甘さが口の中に広がるね」
「ですね。ここまで美味しいと、卵黄だけでお菓子になりそうですよね…」
「…そうなの?」
「「でも、あげない(ません)よ」」
「…そっか」
「え゛。なんで納得する?」
ガロウの言葉にアイリはやれやれとばかりに首を竦める。何故かカレンも便乗。さらにレイコも。ガロウの頬が地味にイラっと来たのかヒクヒクしている。
「アイリ姉ちゃんはわかんのか?」
「…何故わたしに聞く?」
「何となく」
何となくで、実にまともな選択をしたな、ガロウ。便乗しただけの二人はあてにならないだろう。そもそも、レイコはわかってない。たぶんだけど。カレンはわかってても説明が雑すぎて理解不能だ。
「…簡単。卵黄だけ食べてるとかかわいくないから」
疑わしそうな目でこっちを見てくるガロウ。
「「正解」」
「うっそだろ!あんたら!?」
「ガロウ」
予想通りの反応をしたガロウは、レイコの冷たい声に背筋をピンと伸ばす。そして…。
「ごめんなさい」
「「いい(です)よ」」
俺らに対する言葉遣いぐらい気にしないが…。ガロウの嫁が気にしているのだから何も言うまい。
「話戻しましょうか」
「アイスの話だよね?」
「ええ。そうです。もともとの材料比は、牛乳:生クリーム:砂糖:卵黄=200:100:50:1でしたよね?」
「そのはず。中学の修学旅行の時の記憶と同じだよ」
これはしっかり覚えてる。真面目に作って美味しかったし。なのに、何故四季の顔色が悪いのか。まさか…。
「…四季も修学旅行?」
「はい。中学の修学旅行です。」
えぇ…。また同じところに行って、会ってないパターン? もうお腹いっぱいなんだけど。あ、でも、まだ、場所が同じと決まったわけでは……! 材料の割合があっているだけかもしれない。割合だけで同じと決めるのは早計すぎる!
…言ってて同じ気がしてきた。一発で判定できる方法…、あ。あれがあった。
「マスコットキャラは?」
「牛でしたね。雄雌計二匹。黒い雄が『スティアー』君で、ホルスタインの子が『クー』ちゃん」
「はい、同じー」
看板となるキャラクターにドイツ語で「牡牛」、「牝牛」とつけてしまう謎センス、もはや間違いあるまい。凹む…。
「…気分転換で凹んでどうするの」
おっしゃる通りで。さっさと作りますかね。
「この卵ですと…、生クリームと砂糖減らしますかね」
「それでいいと思う。となると、卵黄自体が大きいことも加味して…、牛乳600 ml,生クリーム200ml.砂糖 100gかな?」
「もう少し砂糖減らしましょう。多分甘すぎです。90gでどうです?」
「甘すぎるより薄いほうがいいか」
ちょいちょいとボールに投入。
「となると、次は卵白ですね。はい。どうぞ」
「ん。ありがとう。じゃあ、俺も」
先と同様に、卵白を指に取り相手の口元へ。
「本物なのですかね?」
「…ちょっと疑わしいけど、本物」
「本物のはずー。『ターゲッティング』できてるしー」
「なんかムカつく…!」
「…落ち着いて。ガロウ」
また何かやってる…。ガロウがアイリに取り押さえられてる。怪我だけはしないでよ?
「卵白ってこんな味でしたっけ?」
「違うはず。普段そこまで卵白味わうようなことなんてなかったけど…、甘くはなかったはず」
「ですよねぇ…。こっちはふんわりと柔らかい甘さですかね?」
「だねぇ…。でも、こっちの卵黄とは味が違うね?」
「ですね!あちらが花をめでるのが大好きなお姫様だとすれば、こちら《卵白》は本を読むのが好きな深窓の令嬢でしょうか?」
「な気がする。となると砂糖の量は…」
「半分の15 gでいいでしょう。5 gずつ入れていきましょ。念のため、両方とも再度味見しておきましょうか」
卵黄、卵白を指に掬い取って口元へ。…うん。ともに問題なし。
「むむー!父ちゃん!母ちゃん!」
「どうした?ガロウ?」
「何か怒るようなことでもありましたか?」
返事をしたら何が悪いのか、さらに頭をガシガシと掻きだした。えぇ…、何が悪かったの…?
「何で、二人ともそんなことしていて平然としてんだよ!?」
「「そんなこと?」」
「ぬぁー!ぬ!『護爪』!アイリ姉ちゃんたちに邪魔はさせないぜ!」
「…レイコ。焼いて」
「「「「え゛!?」」」」
「…焼け」
再度の宣告。ガロウは慌てて口を開く。
「味見と称していちゃついてたくせに!」
「味見と称して、」
「いちゃついてた?」
「仲良しか!客観的に思い出してみろよ!」
客観的に……「指につけて舐めさせ合いっこ」だね。…自分で味見ぐらいできるね。指ですくえばいい。何でこんなことしたんだ? 近かったから?
…四季の指、柔らかかったな…。卵黄の黄色や、卵白の白身でてかてかしてたけど…、それもまたよかった。って、俺は何考えてんだ。
やばい、めっちゃ恥ずかしい。意識せずにあんなことやってた分、余計に恥ずかしい。キスなんて目じゃないほどはずい!
「結局いつもどーりだねー」
「…幸せそうだね」
「姉ちゃん。なんかズレてない?」
「…レイコ。『護爪』ぶち抜いてこれ焼いて」
「あの、そんなことおっしゃられても困るのですけど」
「…だよね。冗談」
「目がマジだったよー」
「マジで!?」
「…カレンの冗談」
「私から見ても…、あ、ごめんなさい」
「出れねぇー!」
「自業自得な気がいたします」
「あ。そこは止めてくれないのね。レイコ」
「はい。だって、私に頼らなくとも、お姉さまなら、『護爪』貫けますし」
「『輸護爪』出しておこうかな」
「…大丈夫。…甘味が遠ざかったのは少々許しがたい。だけど、…幸せそうな二人見れてるから」
「なぁ、やっぱズレてねぇ?」
「…なら焼く?…いや、寧ろわたしが抜いて斬「ごめんなさい」…とりあえず出ておいで」
「斬らない?」
「…ん」
「…焼かない?」
「…ん」
「……」
「…信用ないの。わたし?」
「逆。信用ありすぎるだけ」
「…そっか。危害は加えないから出ておいで」
のそのそとガロウが出てくる。『護爪』は消さないままで。
「ガロウ、狼なのに怖がり過ぎですよ?」
「アイリ姉ちゃん、怒らせると怖ぇもん」
「それもそうですね」
「納得するんだー」
「カレンお姉さまがよく知っておられるのでは?」
「確かにー」
「…わたしの話題出されるのってむず痒い。…悪意じゃないから余計に」
沈黙があたりを包みこむ。
「ところで、あれ、いつ復帰する?」
話題を逸らすようにガロウが言う。
「…さぁ?待ってたら復帰するんじゃない?」
「いつまでかかるかなー?」
「…家だし、時間かかってもいいよ。…甘味遠ざかったけど。幸せそうだし」
「まだそれ言う?」
「…言う。とりあえずお茶飲む」
「では、私も」
子供たちが立ち上がり部屋の隅にお茶を飲みに行く。今更のように赤面してのたうち回る両親は放置だ。死にはしない。