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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
135/306

125話 続々ファヴ

ガロウ視点です。

「だね」


 それだけ言って父ちゃんと母ちゃんは悩み始めた。俺に飛んでくる5倍ほどの量の泥を俺よりもはるかに悠々と回避しながら。



 なかなかイカれてる。二人のようには絶対に出来ない。それがわかる。わかってしまう。俺が魔法を使わせてもらってようやく無傷で避けられるような状況でも二人は避ける。



 俺だって足元がぐっちゃぐちゃであることぐらいはわかってる。だけど、それを何とかしている時間がない。足元に魔法を撃って足場を多少マシにしている時間があるなら、出来るだけ父ちゃん達からもらった紙を消費しなくて済むように立ち回るべきで……、



『ファイヤーボール』


 火球が泥と激突して消える。足元に使っている魔法があるならば、今のように一発でも多く飛んでくる泥へ撃たないといけない。



 悔しい。今の状況がものすごく悔しい。どう考えても足を引っ張っている気しかしねぇ。

飛んできている泥の量が如実にそれを示しているようで悔しい。



 アイリ姉ちゃんは俺の3倍ほど。疲れた様子も見せず泥を切り払い吹き飛ばししているから俺の5倍量になっても余裕だろう。



 カレン姉ちゃんは俺の2倍。矢を同時に番えて泥を霧散させたり、自分を射出して回避とかよくわかんねぇことしている。けど、増えても大丈夫だろう。



 しかも、この二人はちゃんと足元を見ている。そのくせ、泥に自分から対処しようとはしない。泥に対処するためには紙がいるからだろうけど…、的確に泥のないところを踏み抜いている。



 そして、そろそろキツイという顔をすれば父ちゃんも母ちゃんもそちらを一瞥することなく、タイミングよく泥を蒸発させている。



 俺やレイコの時も欲しいときにくれるけれども、流石にちょうどとはいかねぇ。こちらを見てから撃っているのだから当然か。二人と息が揃えられていないようで悔しいぜ…。



 レイコは俺の泥の1.5倍。でも、自前の魔力と魔法で泥を霧散させられるから問題なさそう。足元を見ている余裕はねぇだろうが。



 ……はぁ、何度見ようが、泥は俺が一番少ない。ファヴにとって俺が一番取るに足りない相手だと思われているんだろう。俺がレイコを守らなきゃいけないのに…。クソッタレ!



 だが、実際、俺には父ちゃんと母ちゃんのくれた紙がなければこいつに対する攻撃手段が何一つねぇ。遠距離攻撃なんて出来やしねぇ。接近戦なんざ泥に落ちるだけなのが目にみえてる。出来るか!



「レイコ。そういえば無視する能力にッ、何か制限ある?」


 父ちゃんが泥を避けながら平然とレイコに尋ねる。



「あの…、申し訳ないのですがよくわかっておりません…。ですが…、」

「わかりました。レイコちゃん」

「あぁ、最近得た力ですから仕方ないさ」

「面目ないです…」

「レイコちゃん。気に病むことはないですよ。私達とて十全にシャイツァーを把握しているとは言い難いのですから」


 母ちゃんがレイコを宥めるように。優しく落ち着いた口調で言った。



 今も泥を避けているのに何でそんな余裕があるのか小一時間ほど問い詰めてみたい。



「確かにそうですが…、では、お二人はどうなさるおつもりですか?」

「能力がよくわかっていないのでしたら、レイコちゃんに接近してもらってコア狙いますってみます?」


 え゛。母ちゃん、まさかの脳筋…? レイコにそんな危ないことをさせるのか!? させないよな!?



「そうすれば、距離による威力減衰だとか、貫通による威力減衰があるかもとか考えずに済みますよ?」


 うわぁ。させる気だぜ、これ……。母ちゃんが「名案ですね!」とばかりに胸を張ってるもの。微妙に理屈通ってるのがムカつくぜ…! 父ちゃんは…!?



「何回か実験してみて魔力足りないとかになればお話にならないしな…」


 同じだった。



「…時間かけすぎて危険になるよりはいいだろうけど」

「だねー」


 姉ちゃんたちも賛成かよ。じゃあ、レイコは? レイコ本人は……、



わたくしに出来る事なら!」


 超ノリ気。



 わかってたけど! わかってたけど!!



 レイコは役に立てるのが嬉しい。だからこの提案は渡りに船だろうってことぐらいはわかってたが! 悔しい。この感情をどうすればいい?



「さて、中身詰めようか」

「焦点はどうやってレイコちゃんに近づいてもらうかですが…」

「魔法で橋作るしかないだろ。進んでやりたい行為ではないが」

「泥に落ちたら死にそうですしね」

「溶かされるな。四季もわかってるでしょ?」

「そりゃそうです」

「あの…、わたくし一人で近づくのですか?」

「「それはない」」


 二人の声がぴったり重なった。俺も「ない」と思う。



「何故です!?」

「いや、常識的に考えて…。ねぇ」

「ですよね」

「…だね」

「ねー」


 敢えて断言を避ける皆。「むー」とむくれるレイコ。



 でも、レイコ……、普段のレイコ見てて「鈍そう」って思わない奴は、うちにはどう考えてもいねぇぞ?



 なんかレイコから視線が飛んできそうだ。視線を壁で切っておこう。って、溶ける泥か! タイミング悪いな糞が!



「『ロックランス』」


 岩の槍が泥を穿つ。ぶつかった衝撃で泥ははじけ飛びこちらには一滴もかからなかった。ふぅ…。



「近づくときは私がレイコちゃんをおんぶしますよ。」


 一体この人(母ちゃん)は何を言っているんだ?



「だよな…。アイリとカレンは体格的に無理あるし…」


 父ちゃん。あんたもか! だけど、俺の声にしていないツッコミは届かない。



「習君も、ガロウ君も男性ですからね…」

「出来れば俺が行きたいが…」

「ダメです」

「何故」

「私のシャイツァーの方が、防御に向いています」


 キリッと言い放った。翻意するつもりがないことを察したらしい父ちゃんはガシガシと頭を掻き、了承した。



 え。ちょっと待って。そんな無茶苦茶で荒唐無稽なことをマジでやるつもりなの!?



「じゃあ、レイコは四季におぶってもらって」

「アイリちゃんとカレンちゃんとガロウ君は援護を頼みます」

「俺も援護するけど、不測の事態に備えなければいけないから、少し控えめになる」

「わかっています。ですが、そのおかげで私達が安心して突っ込めるのです」


 父ちゃんはポリポリと頬を掻く。



 なんか空気が甘い。さっきから飛んできている泥が、チョコレートとか言う甘い菓子なんじゃないかと錯覚してしまうほどに。



「とりあえず、『橋』は書きたいから紙頂戴」

「いつものでは耐久に不安が残りますからね。では、どうぞ」


 父ちゃんは紙を受け取ってしまうと、つないだ手を深く握りしめる。



 いつも思うけど、二人だからこそ、これの意味理解できるけど、二人じゃなかったら意味が分からんな。敵の攻勢下でいちゃつくとか。



「「『『壁』』」」


 二人の目の前に壁が出現し、泥を遮る。その隙に父ちゃんは紙に猛烈な勢いで字を書きなぐり、母ちゃんはレイコをおぶる。アイリ姉ちゃんとカレン姉ちゃんは少しでも壁に対する圧が減るよう、鎌で斬り飛ばし、矢を放つ。



 見てるだけじゃダメだ、俺もやらないと…!



「『ウォーターボール』」


 水球が一発飛んでいき、偶然飛んできた溶ける泥に直撃して消え去った。



「…ガロウ偉い」

「すごーい!」

「ただの偶然」

「…そう」

「そっかー。でも、すごーい」



 褒められても偶然だし、しかも、偶然ではなく、狙ってやれそうな姉ちゃんたちに言われてもな…。それに、俺がレイコを守るのは当然なことで…、だから褒められても困る。



 …チッ、やっぱり俺がレイコの代わりに危険な場所に行けないのが悔しい。それもものすごく。



 いつもレイコの敵は俺が倒していたのに…、レイコが強くなったのはいいけれど、俺のやることが…。



「ちょっと粘りすぎたか」

「危なかったですよ。習君。もう少し余裕を持った方がいいです」

「四季の言う通りだね。次は気を付ける。じゃ、やるよ」

「はい」

「「『『橋』』」」


 二人の口が言葉を紡ぎ、紙と魔力を代償にして橋を紡ぐ。橋はファヴの脇を通り抜け、対岸に繋がった。…いつもより頑丈そうだが、ファヴに比べると脆く、すぐに落ちそうに見える。



「手順はほぼ先と同じです!」

「違うのは、四季とレイコが突っ込むこと!」

「では、行きます!援護をお願いいたします!」

「わかってる!アイリ!カレン!やるよ!」

「ガロウ君とレイコちゃんは橋を守ってください!」

「当然、レイコは可能ならでいい!最後のアタックをしくじることがないように!」


 行動が早い。早すぎるぜ……。橋を守るって具体的にはどうすりゃいいのか。俺もレイコも何をどうすればいいのかよくわかっていない。でも、他の皆は動き始める。



 …要らない子扱いされたみたいで辛い。絶対に違うだろうけど。とりあえず、絶対に母ちゃんにも、レイコにも俺の攻撃が誤爆することがない。そう確信できるところを狙おう。



 母ちゃんがファヴの首の横を通り抜けたとき、アイリ姉ちゃんが鎌を上から下へ振り下ろし、切り上げる。



 たったそれだけでファヴは腹を3枚に掻っ捌かれ…、ついでとばかりにコアまでもがカチあげられた。橋に一切の傷を付けることなく。



 だが、ファヴもそれ以上を見逃す気はなかったらしく、鎌を多量の泥で弾き飛ばす。



 カレン姉ちゃんは、カチあげられたコアを出来るだけ橋の方へ近づけようと大きな矢を撃って跳ね飛ばす。俺が見る限り橋の上に落そうとしていたみたいだけど、泥に溶かされ消えた。



 父ちゃんと鎌を弾き飛ばされたアイリ姉ちゃんは母ちゃんの援護。母ちゃんに飛んでいく泥の量は俺と比べるのもおこがましいと思えるモノ。だが、それらをほぼ意に介すことない。二人を完全に信頼して、橋の上を猛進している。流石に無回避とはいかないが、どの泥を残すのかを把握しているかの如く、最小限の動きで避ける。



 ……悔しい。ほんと、それしか言えない。いや、「眩しい」とは言えるか。



 父ちゃんも母ちゃんも姉ちゃんたちも、皆が皆、誰が何をして欲しがっていて、どうすればいいかを完全に把握してる。



 さっきの、レイコを背負ってなかった時にコアを穿った連携からも明らか。4人が4人、何をすべきかわかってた。だからまともに指示をする必要なんてなかった。



 アイリ姉ちゃんのコアを魔法と鎌で挟み撃ちにしたのだって、パッと見、意味なさげにだった。でも実のところは、空中で衝撃が弱まるのを抑えるためのものだった。



 それに比べ、俺は一体何をしているのだろう?



「習君!橋が持ちそうにないです!」


 !? 橋!? 嘘…、うわっ、見てなかった! 末端がぼっろぼろじゃねぇか! 紙、紙…、ん? あれ? …紙がない? 嘘だろ? しかもよりによって今? 畜生! …敵を打ち破ることは勿論、守ることすらできないのか、俺は…!



「「撤退!」」


 ぴったりと二人の声が重なり、一目散に母ちゃんが戻ってくる。それを全員で援護する。母ちゃんが戻ってきて横に飛び跳ねた直後、溶ける泥が、橋の根元を溶かし、橋を奈落へ叩き落した。



「ダメだったか…」

「ひとまず紙を補給しましょう。皆、今のでほぼ使い切ったはずですから」

「ああ。レイコとカレンは大丈夫だろうが…、アイリとガロウがまずいだろう」

「ひとまずレイコちゃん降ろしますね」

「了解」


 例の如く二人が手を繋ぎ…、



「「『『ファイヤーボール』』」」

「「『『壁』』」」


 穴にへばりつく泥が消え去る。さらに、『壁』のおかげで一時的ではあるが安全地帯が誕生した。



 べちゃっ! べちゃっ! と不定期に不安にさせるような嫌な音が鳴る。にもかかわらず、母ちゃんはレイコを降ろすと、父ちゃんと一緒に『壁』の後ろから躍り出た。



 ちょ…、止める間もなかったぞ…。ん? 音が弱まった?



 まさか……、いや、おそらくそうだ。二人とも壁への圧力を減らすために自分から出た!? うぅ。俺よりよっぽどちゃんとレイコを守れているじゃん。俺がやらなきゃないけないのに…。



「どうしました?ガロウ?」

「ん?ああ。何でもない。何でもないよ」


 ジトっとした目でこちらを見てくるレイコ。何とか誤魔化せた……と思いたい。



 というか、そもそもだな。「お前(レイコ)が守れなくて辛い」なんて言えるわけねぇだろ! 俺にだってそんなちっぽけな矜持ぐらいはある!



 ……まだジト目か。だが、言わない。



「そうですか…。では、わたくしが持っている紙を数枚渡しておきます。わたくしよりもガロウの方が必要でしょう?」

「じゃー。ボクも―。アイリお姉ちゃん、あげるよー」

「…ん。ありがとう」


 ジト目で見るのは止めてくれたが…、紙を貰うのを拒絶できなくなった。主にアイリ姉ちゃんが貰っちゃったから。ああ、やっぱり悔しい。悔しい。今まで俺がレイコの剣で盾だったのに。



 今や、レイコは自分で剣を持った。そして、家族という俺一人とは比べる必要すらない強固な盾を得た。……一体俺はどうしたらいいのだろう。いや、俺はどうしたいのか…。



 メキッ!

「ガロウ!」


 え?



 ドン。と勢いよく突き飛ばされる。突き飛ばされ壁からはみ出た俺を襲ってきた泥は父ちゃんか母ちゃんが放ったと思しき魔法と相殺しあって消えた。



 だというのに、俺の目の前でレイコが泥に貫かれた。



 何故……!? 何故レイコは俺を庇った!?



 衝撃のあまり声もあげられない俺。幸いにもいまだに切り傷、擦り傷ですんでいる俺を見て、へその右側、わき腹を抉られてどう見ても重症にしか見えないレイコは、俺を安心させたかったのか、安心したのかはわからない。だけど、ホッと息を吐いて微笑むと、血を吐いて倒れて、泥に濡れる穴を滑り落ちてゆく。



「習君!」

「ああ!」


 未だに動くことも出来ない俺の横を母ちゃんが飛ぶように滑って行く。



 母ちゃんは紙を取り出し、レイコに向かって『回復』と唱えた。緑の光がレイコを包み込むと、光の代償に紙が消えた。



 だけど、レイコの治療にはそれでことがたりたらしい。母ちゃんは嬉しそうに微笑み、レイコを抱き上げる。



 ああ、よかった。本当によかった。



 ……だが、動けなかった。レイコの危機という今の状況にもかかわらず、動けなかった。……いや、動けたところで俺にはどうしようもなかった。回復も自力じゃできやしないし、レイコを受け止められるような足場も作れないのだから。



「レイコちゃん、ちょっと揺れますよ!」

「え?え?」


 困惑するレイコを尻目に、母ちゃんは足を斜面に叩きつける。間髪入れずに父ちゃんが『壁』と唱え壁を出し、さらに、絶対に通さないとでも言うように二人の周囲目がけて父ちゃんも姉ちゃんたちも魔法を放つ。



「くっ…」


 母ちゃんが痛そうな声を漏らす。



 何で? ……ああ! レイコを助けるために飛ばしすぎたから止まれないのか! やっと皆の行動の意図が分かった。わかったところで一人では何もできないのだが。いや、今はそんなこといい。ともかく、レイコから貰った紙を使って援護しないと…!



 …マジでさっきから足を引っ張ってばかりだな! 俺よぉ!



「ぐっ…!」

「お母様!?大丈夫ですか!?」

「これくらいなんてことありませんよ」

「ですが、お顔が辛そうです…」

「ちょっと痛みが堪えるだけですよ。お気になさらず」

「あの…、足…」

「足ですか?大丈夫ですよ『身体強化』していますから。斜面ですので、止まるために岩盤を蹴り砕き、ほぼ二人分の体重を支える必要がありますが…。この程度造作もありません」

「あの、そう言う事ではなく怪我が…」


 母ちゃんはレイコを安心させるためか、レイコを見て優しく微笑むと、ファヴを見て口角を上げる。



「滅ぼしますか。ねぇ、習君」

「ああ」


 その声を聞いた俺の背中を何か冷たいものが走った。さらに二人の顔を見て絶句する。



 夫婦そろって凶悪な……、いや、そんな言葉では足りない。



 俺は今の酷薄で冷徹で加虐的で残忍で冷血で猟奇的で心胆を寒からしめるような顔を浮かべる二人を、言葉をいくら重ねても翻意させる自信がない。それを断言できる、出来てしまう。そんなある意味壊れた笑み二人は浮かべた。



 そして姉ちゃんたちも。二人よりは数段劣るが怒りに燃えた顔をしている。はっきり言って怖い。俺もレイコもこんな4人を、家族を見たことがない! だからこそ怖い。自分にそれが向けられているわけでもないのに。何故か無性に怖い!



「「ガロウ」」


 いつの間にやら俺の横に来ていた父ちゃんと母ちゃんが言った。



 声をかけられただけなのに…、肌が粟立ってる!? 父ちゃんの目が、母ちゃんの目が、姉ちゃんたちの目がこちらに集中するのを感じる。そして何故かはわからない。だが、何故かはわからないが、俺に対してわずかに怒りを持っていることはわかる。



 息が出来ない…!



「ガロウ。自分がこれからどうすべきか。悩むのは構わない。立ち止まって考えることもいい」

「ですが、「役に立たないのではないか」そう思って立ち止まるのはおやめなさい。はっきり言って、それは当然です」

「明らかに一緒に戦った回数が少なすぎる」

「…わたし達もそんなにないけど」

「0よりはマシだろ」


 茶化すように言ったアイリ姉ちゃんのおかげで、一息つけるようになった。父ちゃん達と戦ったことは……。ああ。確かに。一回もなかった。ハールラインのときは二人はいなかった。



 一緒にいたのに、何で合わせられないのかとやきもきしていたが…、そりゃそうだ。一回も一緒に戦ったことがないのに、合わせられるわけないじゃん。そんなことができるのは天才だけだ。俺は天才じゃない。



「それに…、いつまでも自分に課した役目に縛られるのもおやめなさい」

「全部を出来るのは天才だけだ」


 !? タイミング良すぎだろ…、今考えてたこととダブるとか…。



「そして、私達はレイコちゃんを守る盾です」

「だが、剣でもあるんだぞ?」


 二人はほほ笑む。



 一人で悶々と考えていたことを、多少の差異はあるとはいえ的確に言われているのに少しだけ恐怖を感じる。だけど、その恐怖を上回る、ちゃんと見てくれているという安心感があった。



 その安心感を自覚したからか、ストンと頭の中で色々まとまっていくような気がする。



 あぁ。なるほど。「皆を盾とは認識していたのに、剣とは認識していなかった」これは母ちゃんの言う通り。俺が縛られ過ぎていたことの象徴なのだろう。きっと、認めたくなかったんだろう。何をかはよくわからねぇが。



 じゃあ俺はどうすればいい?



 レイコを傷つけるものを滅ぼす剣はもはや過剰だ。父ちゃん達をはじめ皆、攻撃手段があって火力がおかしいことになってる。



「ガロウもいい意味で悩みだしたみたいだし…、」

「私達でガロウ君を守りつつ、あいつを滅ぼしますか」

「その前に準備がいるけど」

「レイコも降ろしたほーがいーよ」

「ですね」


 レイコを降ろすと、再び『壁』を作り、再び『壁』の外へ出る二人。そして、強まっているはずの暴風を、より強くなった連携で制圧していく二人。



 …今この家族に何が足りてないんだろうか? 剣は足りてる。だったら…、守る? でも、それだけじゃ…。もう、すべてを俺だけがやれると自惚れるのはやめる。だけど、二つはやりたい。



 皆、何かしら二つは出来るから。俺も皆と同じがいい。



「…ところで、紙を作った後はどうするの?」

「再度同じ手段…、は意味がないな」

「じゃあ遠距離でやるー?」

「確実じゃないので却下です」

「…だね」

「じゃー逃げるー?」

「一番ないですね」

「もはや俺らに尻尾を巻いて帰るという選択肢は存在しない」

「だよねー。言ってみただけー」


 物騒だな皆!



「あの…、わたくしを心配してくださるのは嬉しいのですが、死んでしまっては元もこもありませんよ?」

「大丈夫。何とかなる」


 なるの…? いや、それよりも…、俺に出来そうなこと…。



「時間かかりますけどね。なので、さっさと終わらせる方法を思案中です」

「接近するにしても橋がな…。ちゃんと橋を架けられて守れるならいいんだが…」


 橋…? 橋…。そうだ、橋系列なら…! 皆の役に立てる! 何かがカチリと俺の中ではまったような。そんな気がした。

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