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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
133/306

123話 ファヴ

「どんどん暗くなってきたけど…、何もないな父ちゃん!」


 穴の中にガロウの声が嫌に響く。それフラグなんだよなぁ…。



「ガロウ君…。フラグって言葉ご存知ですか?」

「え?なにそれ?」


 俺と同じことを思ったらしい四季が聞いてくれたけど、やっぱりフラグなんて言葉知らないよね。



「姉ちゃんは知ってる?」

「もちろんー!」

「…ん。もちろん。お父さんとお母さんから聞いた。…フラグを立てるとは、…物語で読者が次に何かあると思わせるような、…思わせぶりなセリフを登場人物に言わせる、もしくは、…思わせぶりな象徴的な出来事を起こすこと。…だよね?」


 可愛らしく確認を取ってくるアイリ。一にもなく頷く。安心したらしいアイリはさらに言葉を紡ぐ。



「…具体例としては、…やたらと安全性を強調するとか、…一人ぼっちの状況を作るとか」

「あとー。今のガロウが言ったこととかー」


 「うぇっ」とガロウが息をのむ。



「ガロウ…、貴方…」

「し、知らなかったし…。あ、で、きっと大丈夫だって。何もないって!」

「ガロウ。それ今度は、フラグ林立って言うんだ…」


 これもダメなのか! と頭を抱えるガロウ。伝えてないけど、重ねたらダメなのわからないかなぁ…。



「逆に、過度に立てると今度は何も起きないんですよねぇ」

「死亡フラグの逆の生存フラグか。あったね、そう言うパターンも」

「フラグを折るでしたっけ?その場合、折れるフラグは死亡フラグですね。ッ!習君!」


 伸ばされた四季の手を掴む。彼女が何をして欲しいのかは、彼女の必死な顔を見れば言われずとも察せた。



「「『『壁』』」」


 紙から壁が出現した瞬間、ベドベドベドッ! っと、嫌な音が響く。音からして飛んできたのは液体か?



「敵ですかね?」

「まだ敵と確定してないけどねー!」

「姉ちゃん…。聖地に味方がいるとでも?」

「そうですよ。リンヴィ様は何もおっしゃらなかった。であれば…」

「だよねー。言ってみただけー!」

「一応確認はするけど」


 もしも人であれば殺すわけにはいかない。レイコとガロウとの約束に反するから。



「攻撃が来ませんが…、それにしても接敵パターンはこれしかないのでしょうか?」


 大抵先制攻撃を受けている。その気持ちはわかる。



「でも、先制攻撃は基本だ」

「確かにそうですがね」

「殺伐とし過ぎではありませんか…?」

「父ちゃん達の世界殺伐としすぎじゃね…?」

「ゲームの話だよ」


 引かれるのは心外だ。もちろん、先制攻撃が基本かどうかはゲームにもよるが。殴ってもらってからぶん殴るほうがいいものもあるし。



「…余計な事考えている?」

「少し思考が逸れた」

「現実では大抵先制攻撃した方が優位に立てますけどね」

「そりゃね、足なり腕なりやってしまえば行動阻害できるし、ヘッドスナイプしてしまえば反撃されない」

「…先に手を出しちゃうとダメな時もあるけどね」

「そりゃね。だから反撃できないわけだし」


 相手がチヌカかそれに類するものであれば即潰しにいけるのだが…。



「先に手を出すと、相手に「正当防衛」という大義名分を与える事にもなりますけど」

「それは外交とか組織が絡む。1VS1のデスゲームなら大義名分なんて」

「父ちゃんも母ちゃんも、アイリ姉ちゃんも話逸らしすぎだ!」

「わかってるよ。カレン。どう?」

「既にやってるー」


 弓を構えながら言うカレン。いい判断だ。既に矢を飛ばして情報を拾いに行ってくれているようだ。



「で、結果はどうです?」

「見えないよー」

「明るかったら見える?」

「たぶんー」


 たぶんか……。最終的には相手が何か確認できねばならない。今のまま安全に探るか、それとも危険だが、壁を消して直接か。どっちがいいだろう?



 ベタベタジュワッ!



「ちょ…、壁溶けてねぇか!?」

「溶けてるな。仕方ない。壁を消した後、明かりを使う!」


 いつかは壁が溶ける以上、悩んでいた理由がない。溶解速度もかなりのものだしな。



「壁を消すタイミングはどうしますか!?」

「これで。単位は秒だ!効果があるかどうかはわからないが、目くらまし代わりに一瞬強烈な閃光を放つから、目は閉じてろ!」


 言いながら指を一本だけ立てる。魔法を使うのは壁を消した一秒後。そう言う意味だ。



「皆ちゃんと習君の合図見ましたか!?」

「…ん」

「りょー」

「はい。しっかりと」

「もちろんだぜ!」


 よし。では、消えろ。そして、



「「『『明かり』』」」


 発動と同時に目を閉じる。瞼の上からでも光を感じるほど圧倒的光量。それが穴の底を覆う。一拍の後、紙から出た光は聖地の底を照らす。



 で、相手は…。チッ。



「「『『壁』』」」


 ベトベトッ! と泥が落ちる。ノータイムで反撃か。朧げな全体像しか見れなかったぞ…! しかもまだ飛んでくる!



「あいつ…、光見てなかったのか!?」

「…違うよガロウ。そもそもこいつ、光で見てない!」


 目を使わない生き物か。穴の中という事を考えれば普通。だが、相対すると結構面倒くさい…! どうやって視認してるかがわからん。



 あっちでさえ、狼などに代表される「臭い」、蛇に代表される「温度」、イルカや蝙蝠などの「音」で見る(もしくはそれに類すること)が出来る生き物がいる。なら、魔力のあるこっちはどうなるか想像もつかない。



「あれを知ってる子はいませんか!?」


 四季の声に首を揃って横に振る。誰も知らないか…。



「でも、龍だぜ!たぶん!」

「チラッと見た感じはね」


 龍は龍でも、割と珍しいような気がする、ウェールズの旗にあるような4足歩行の龍だったが。…でも、あいつどっかで見たことあるような…。



「…リンヴィ様?」

「俺には、4足歩行で、スラッとしてることぐらいしかわからねぇぜ!」

「ガロウ…。しっかりなさい。細部は異なりますが…、確かにリンヴィ様に似ていると思いますよ」


 同意する声に胸にすとんと落ちた。鱗、爪の質感、目がないこと、三日月のような尻尾と翼等々…、色々異なってはいるが、大本はあの幽玄なリンヴィ様の姿に似ている。当然、本物の方が何倍も魅力的だが。



「あれ?皆、リンヴィ様っぽいと思ったのか?」


 ガロウを除く全員が同意する。



「そっか、じゃあ、倒す?」

「そりゃね…、逃げるって手もあるけど、討伐隊が組まれたときに、リンヴィ様に似ているという理由であいつに手が出せなくて無駄に犠牲が出る可能性がある」

「…そもそも逃がしてくれるかどうか微妙だけどね」

「おとーさんと、おかーさん大人気だもんねー」


 明らかにこっちに飛んでくる量が多いからねっ! 避けることは出来るが…、面倒。



「こいつの人気なんざ、全くうれしくないが!」

「同意します!どうせ好かれるなら習君の方がいいですッ!」

「全く同感。子供達や、友達でもいいけどッ!」

「「あんなのはごめん被る(ります)!」」


 子供達に比べてこっちに飛んでくる泥の数はだいたい3倍? どうなってんだろうな! そのぶん、皆が楽できているなら嬉しいが。



 ん? ガロウだけ、他の子に比べて泥の量が薄い…? いや、気のせいか。って、何で動揺してるのガロウ。



「ガロウ!シャキッとしろ!」

「うぇっ!?あ。おう!」

「…ガロウ、お父さんとお母さんはきっと集中してて気づいてない!」


 俺らのせい? …まぁいい。兎も角、触媒魔法がないなら、攻撃方法の吟味は必須だ。龍っぽいやつを倒すのに下手な手は魔力の無駄。…火でいいか。



「四季!火は!?」

「火ですか!?そうですね…、カレンちゃんの矢が効いている気がしないのでいいと思います!」

「むー!ボク、ちゃんと当ててるからねー!」

「知ってる!だから火を選んだ!」

「そっかー」


 カレンは俺らの答えにまんざらでもなさそうな顔をしている。それでいいのか。矢が効いているように見えない上に、原理不明なのに。



 にしても、どうなってる? 刺さったはずの矢はずぶずぶ消えていってしまう。飛んでくる泥をはたき落とす分には問題ないのだが。



「『爆発』でいい?」

「はい!あいつ、聴覚もあるかどうか怪しいのでついでに確認しましょう!」

「了解!」


 さらに続けて『5』と日本語で叫ぶ。日本語での数字の数え方は既に教えてある! だから、皆理解できる中、あいつは理解できないはず。



 散発的に飛んでくる泥を回避。叫んでから3秒後に四季と合流。片耳に栓としてくしゃくしゃに丸めた紙を突っ込んで、もう片方に開いている指を突っ込む。できるだけ音がでかくなるように…、よし。



「「『『爆発』』」」


 カレンのサポートで、紙から出た弾が奴に直撃。いつもよりも小規模な爆発を起こし…、穴中を爆音が木霊する!



 耳塞いでいてもこれか…! 耳がキンキンする…!



「音に怯む様子なしです!」

「という事はあいつ耳もなしか!」


 相手が言葉を解する生き物かもしれないと考えて、日本語で指示を出した意味が…。



「父ちゃん!あの音は俺らにはマズイ!」

(わたくし)も同じく…」

「あ、耳は塞いでたぞ!」

わたくしも塞いでいましたから!」

「了解」


 わざわざ付け足してくれなくてもそこは信頼してんのにな…。ま、とりあえずこれで、爆音はこちらにしか悪影響を与えないことが明らかになった。



「で、肝心の爆発は…!?」

「効果なしっぽいです!」


 …威力抑えたとはいえ、爆発なんだが。



「…ううん。お父さん!お母さん!違う!…爆発した瞬間、肉というか…、泥が飛び散ってたけど再生してた!」

「じゃあ、完全に効果なしではない?」

「…確証はないけど」

「それにしても…、泥ですか!」

「アイリ!泥は全部?一部?」

「…わかんない!」

「他の皆は!?」


 全員が首を横に振った。ならば、試すだけ!



「もう一回!」

「はい!5秒!」


 合流には飛んでくる泥が邪魔だな! シャイツァーではたき落とすと、溶かしてくる泥が手にかかってしまいかねないから余計に!



 だが、なんとか合流。



「「『『明かり』』」」


 眩しい閃光が聖地を駆け巡る。よし、これで…、って潰された!



「チッ。ごめん!一部しか見えなかった!」

「私もです!」

「ボクが全部見たよー!全部泥だったー!」

「ありがとうカレン!」


 想像はしていたが、真っ当な生物ですらない!



「ついでにー、底のほーにいっぱい泥溜まってるのー、見たよー」


 ……あいつは泥で出来てる。そして、攻撃しても泥をかき集めて再生できる。……ならもしかして、あいつ泥がある限り再生し続けられる?



「その情報は欲しくなかった…!」

「同感ですねっ!ですが、現実から目を逸らしていてもダメですよっ」

「わかってるさ!逃げたところで逃げ切れないだろうしね!」


 というか逃げられない理由が増えた。



 さっきまでは背後取られるだとか、獣人の皆に余計な被害出るかもとかだった。だが、あいつが全身泥で出来ているならそんなことは些末だ。最悪、あいつが聖地を抜け出して暴虐の限りを尽くすかもしれない。流石にそれは見過ごせない。面倒でも倒すすべはきっとある。



「ひょっとしてー、ボク役立たずー?」

「どうしてだ、姉ちゃん?」

「だってー、矢はあいつに呑まれちゃったんだよー?」

「それは違う。カレン!」


 俺の声に首を傾げるカレン。



「こういう泥で出来た生き物は大抵コアがある!」

「そして、こいつもコアがあるような気がします!」

「じゃー、それ探すー?」

「そう言う事です!お願いカレンちゃん!」

「わかったー!」


 コアはカレンに任せる。だが、万が一コアがなかった時の対策は必要。それを試す。



「「『『ファイヤーボール』』」」


 火球が飛んでくる泥もろとも奴の体を焼いた。水分が蒸発したからか、泥が消え…、すぐ再生した。



「…なら。『死神の鎌』」


 アイリが勢いよく振りかぶり、鎌を投げる。それはやつの首を切断し…、『死神の鎌』で戻ってくる途中で胸の辺りを切り裂く。…が、



「…ダメだね」

「だな」


 切り口の辺りの泥は使い物にならなくなったからかポロポロとはがれ落ちたが…、それだけだ。すぐさま泥が寄り集まって再生した。



 きついな…。



「お父様!お母様!凍らせるのも効果なしです!」

「何で!?」

「見ていただいたほうがわかりやすいかと!」

「四季!」

「はい!」


 都合よく至近距離にいた四季の手を取って、



「「『『アイスランス』』」」


 声とともに出現した氷の槍が、飛んでくる泥さえも凍てつかせ奴に突き刺さる。氷の槍は刺さったところから凍てつかせてゆく。……が、奴は凍てついた泥を切り落とし、被害拡大を防ぐ。あげく、凍った泥が融けると何事もなかったかのように奴の体の一部に戻った。



「…これを見たらレイコも凍らせるのはダメって言うよね」

「だな」


 完全に泥を破壊できる熱の方がいいようだ。後、矢が通じなかったから通じる気はしないが、物理攻撃も試してみようか。



「わかってます!やりましょう!」


「「『『ロックランス』』」」


 岩の槍が奴に突き刺さ……ってないなこれ。当たった瞬間呑まれた。物理攻撃は無価値っぽい。アイリの鎌は受け付けていたようだが。



「聖弾はー?」

「これから!」


 飛んでくる泥を避けやすいように離していた手を再度握りしめ…、



「「『『聖弾』』」」


 言葉とともに現れた神秘的な光が…、撃墜された。しかも新攻撃で。泥ではなく、翼を高速で動かしたことによる風の一撃で破壊された。ということは…、



「聖なるものは当たりたくないみたいだねー」

「おそらくそうだろう」

「泥に当てたくないというのが本音でしょうかね?」


 だから試す。幸い? にもあいつに直接当てずとも泥の性質を確かめる程度なら床に散乱している。



「「『『聖弾』』」」


言葉を聞いて慌てたように風刃を飛ばしてくるが遅い。聖弾は風よりも早く、泥に命中。ジュワジュワッ! と音をあげ、泥もろとも消え去った。効果はありそうだ。



 癪にさわったらしくこちらにやたらと泥を飛んできたが…、遅い。かなり余裕を持って避けられる。泥が当たった地面がジュワッと音を立て溶ける。




 久しぶりにこの音を聞いた気がする。ということはあいつにとってこの溶ける泥はあまり撃ちたくないモノなのだろう。



 使う力はおそらく呪い的な力のはず。ならば。



「「『『聖弾』』」」


 未だにジュワジュワ音を立てている泥に向けて発射。さっきと同じくらい泥はあったように見えたが、先ほどと同量の魔力では消しきることは叶わなかった。



「呪いの力であることは間違いなさそうですね」

「だね。でも、いったいどこから…?」

「「あ゛」」

「…どうしたの?」

「なぁ、四季。サンコプさん、図書館から持ち出された本はリンヴィ様に処分された奴が持ってるはずって言ってたよね?」

「はい。ついでに、リンヴィ様は、そいつを聖地に捨てたとも言ってましたよ」


 サンコプさんの推測が正しければ、呪いの原因は図書館から持ち出された本に封印されてたものになる。ならば生半可な呪いではないはず。



「…本当にどうしたのさ!」

「あ。ああ。ごめん。言葉にしにくいが…」

「あの呪いは図書館の禁書2冊分の呪いの可能性があります!」


 禁書がどういうものか詳しく知っているアイリだけがわかりやすく顔を引きつらせた。



「姉ちゃん!父ちゃん達が言ってるのはヤバいのか!?」

「…ヤバいよ!…ここが聖地だからか呪いの威力は大したことないように見えるけど…、…呪いによっては街一つを破壊するものも…」


 普段飄々としているカレンさえ呪いの恐ろしさで顔を引きつらせる。



「皆、心配することはない」

「そうです!こいつをここで倒しきる必要が出てきただけで、やることは変わりません!」

「『ロックランス』」

「『聖弾』」


 岩の槍で聖弾を覆い、奴の攻撃から守る。これが効くならば楽なのだが。どうだ!?



 奴は迎撃しようと風の刃を飛ばしてくるが、岩の槍に傷を付けるのみで、意味がない。むしろ、破壊しようとしたために回避不能になった。結果は……ちっ。駄目か。



 音を立て、丁度直撃した胸のあたりの泥を消し飛ばしたがそれだけだ。しかもすぐに再生された。浄化すれば再生不能になるなんてそんな都合のいいことはないらしい。



「カレン!コアは!?」

「まだ探してるー!でも、きっとコアはあるよー!」


 了解。



「最悪、削り殺すか」

「いつものことですね」

「うそん」

「その覚悟はして」


 露骨にガロウとレイコの顔が歪む。気持ちはわかる。面倒だし、集中力切れたら死ぬ。



「それにしても、…私達削り殺しに縁がありますね!嫌になります!」

「…お母さん。愚痴?」

「そうですね。ですが、言いたくなるでしょう?」

「だね…」


 今まで削り殺したやつ、もしくは削り殺しを視野に入れたやつは、リブヒッチシカ、シャリミネの鎧、それにシュガー……、既に3体。もっと一撃で殺せればいいのに。はぁ。



「…二人が高耐久の敵に会いすぎ…」

「だろうね…。旅してるから?」

「…もしそうなら旅なんて誰もしない」


 む。なんか言外に、俺らのせいってディスられた気がする。



「…気のせいだよ。…そういえば、あれの名前は?」


 話逸らした!? でもまぁ、いつまでも「あれ」とか、「あいつ」では不便だよな…。



「じゃあ適当に決めようか」

「ですね!」

「え゛それ、戦いの最中にすること!?」

「…二人だからね」

「そーだよ」


 言い出しっぺが「わたし関係ないです」みたいなすましが教え散るのが少し気になるが…、まぁいい。



「リンヴィ様に似ているからその線で攻める?」

「いい案ですが…、やめておいたほうが良いかと。…狂信者と化されたら手に負えません」


 苦々しい表情を見せる四季。四季の言いたいことはつまり…、リンパスさんとかが、「リンヴィ様に似ているだけで、それにあやかった名前を付けた!?許せん!」とか言って暴れまわるってこと。



 ……間違いなく手に負えない。そのままの勢いで倒してもらえたらいいけど、無為に呪いに突っ込んで死ぬだけな気がする。



 まぁ、もちろん、彼女たちはそんなこと言わないだろうけど、中にはそういうのもいそうだし。



「…泥でできた呪いのドラゴンという点から行くべきじゃない?」

「そっちのが無難だね」

「では、どうします?英訳すれば『カースマッドドラゴン』ですけど」

「…言いにくい」

「長ーい」

「どことなく響きがダサい」

「美しくないですね…」

「不評ですね」

「大をつけて大不評って言おう?」

「習君…」


 ジト目で見てくる四季。ふざけが過ぎた。



「コホン。じゃあ、適当に伝説の龍から取ろう」

「…そのほうがいいと思う」


 泥といえば土属性だろう。じゃあ、土属性っぽくて呪い持ってる伝説の龍って何だ?



「ファヴニール?」

「後、ニーズヘッグもいますよ」

「それにヨルムンガンドも」

「それ蛇です」

「だよねー」


 ヨルムンガンドは別名、世界蛇。龍じゃない。



「よく考えてみると、ファヴニールもニーズヘッグも両方とも、蛇とする説もありましたね」

「あ。そういえばどっちか人間だったかドワーフだったかが変身したやつじゃなかった?」

「どっちでもいいよ!父ちゃん!母ちゃん!」


 相変わらず散発的に飛んでくる泥を回避。足場がべしゃっとして面倒だ。『ファイヤーボール』で蒸発させる



「まぁ確かに、どっちでもいいな。じゃあ、略した時に言いやすいほうにするか。最終決定は四季に任せた」

「丸投げですね…。では、ファヴニールから、『ファヴ』に」

「了解」

「コア見つけたー!?」


 カレンの嬉しそうな、それでいて複雑そうな耳をキンキンさせる声が響く。



「どこ!?」

今は(・・)あのあたりー」


 カレンはファヴの尻尾の辺りを指さす。ならば一斉砲火で沈め…ん? 今カレンなんて言った?



今は(・・)?」


 自分でも驚くほど、聞き間違いであってほしいと縋る声が喉から出た。だが、我らの愛しい娘から返ってきた答えは無情だった。



「そだよー」


 たった4文字。だが、それだけでさっきの一撃で決着を付けようというある意味甘い考えは粉々に破砕された。

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