13話 バッタ
「もしもーし、起きていらっしゃいますかー!?」
誰だ、こんな朝早くから大声を出す馬鹿は…。
鍵を開け、取っ手をひねろうとすると…、勝手に開いた。ここ自動ドアじゃないぞ!?
「お迎えにあがりました!」
ハイテンションで部屋に入ってきたのはフランソーネさん。リベールさんはどうしたんですかね…。
「ふわぁぁ、あ、フランソーネさんおはようございます」
四季があくびをしながら、起きだしてきた。
「む?今起きられたのですか?おかしいな、もう一の鐘は鳴っているのにな…。さては!?」
「「黙れ」」
「あ、はい。すみません」
「リベールさんからは、2の鐘が鳴るころって聞いてたんですけど?」
「?問題ないでしょう?しばらくしたら2の鐘が鳴りますし…」
しばらく(だいたいあと1時間半後)というのは突っ込まないほうがよさそうだ。精神安定的な意味で。
「とりあえず、早く準備してください。行きましょう!」
あー、テンション上がると面倒くさいタイプの人だ。間違いない。
部屋の外に追いやって、部屋の外からせかされながらさっさと身支度を整え、ご飯を食べ、こっそりセンにご飯(魔力)をあげた。やっぱりセンは小食なようだ。1はむで終わる。
「準備できましたよ」
途中で待ち切れずに道へ飛び出していったフランソーネさんに声をかける。
カランカラン、ゴーンゴーン。
「あ、二の鐘が鳴りましたね」
とフランソーネさん。いやいや、そんなことよりもいつの間にか全力疾走でこっちに向かってきているリベールさんを何とかするべきだと思うんですけど。
「フランソーネ様ァァァ!『私に』迷惑をかけるならまだしも、人様に迷惑をかけるなっていつも言っているでしょうがぁ!」
リベールさんはフランソーネさんに突っ込んでくる!
しかし、フランソーネさんは口を動かすだけで微動だにしない!
「…敵を通さぬ盾を…『大盾』!」
なんか呪文唱えてた!?いつの間に…。優秀なのかこの人!?魔力でできてるっぽい金の盾が、リベールさんを行く手阻む!
「ムムムッ!しかし、この程度で『私の』怒りは止められませんよォォォ!」
叫びながらジャンプ!そのまま飛び蹴りをしながら盾に突っ込む。一瞬膠着して、突き破った。でも、靴が焼けたみたいになっている。なかなか怖い防御魔法のようだ。
しかし、フランソーネさんはもうそこにはいない。少しずれたところでケラケラと笑っている。
が、流れるような動作でリベールさんは殴りかかる。
「はぁ、全力出してないとはいえ、怒ったリベールは止めにくいですねぇ…」
「誰のせいですか!いっつもっ!アレム様にもっ!言っているっ!じゃないですか!」
「まぁ、リベールが片付けてくれますし、いいではありませんか。それよりもリベール、仕事は?結構あったと思うのですけども」
「終わらせましたよっ!シュウ様方にっ!ご迷惑をっ!おかけするわけにはっ!いきませんからねぇ!とりあえずぅ!謝ってくださいなっ!」
「もう、謝っていますよ?」
胸を張ってこちらを見るフランソーネさん。リベールさんも攻撃をやめてこっちを見てくる。
そんな記憶はないぞ。でも、フランソーネさんの放つ謎のやり切った感にどうでもよくなってくる。ちなみに、胸を張ったところでアレムさんと変わらない。
俺らの態度からリベールさんは察したのか、
「ごめんなさい。こんなのでも、一応駆除時にはしっかり仕事するので、許してやってください」
悲しそうに言いながら頭を下げた。うん、やっぱり不憫だわ。
「で、習君?さっき何考えていましたか?」
四季が若干怒気のこもった目でこっちを見てくる。
さっきのくだりでチラチラと四季のほうを見ていたのがばれた…!?そら、怒られるよね。不快だろうし。なお、四季のほうがある。着やせするタイプみたい。
とか考えているうちに四季の目がさらにやばくなってきてる。
「えーと、四季が鎧来たら似合うかなって…」
これでごまかされてくれないかな…。
「そうですか…。わかりませんね。後で着さしてもらいましょうか」
ごまかせたっぽい。
「…それでいいの…?」
いいんだよ。
駐屯所に行った際、駆除に参加しなかった人の鎧がちょうどぴったりだったので、早速、着てくれた。着物の似合いそうなスタイル、顔にもかかわらず、スラッとした体形のためか、非常によく似合っていた。
それを見て、
「こんな人が上司だったらいいのに」
「あ?何か言いました?」
「いえ、別に」
「…あれ?リベール昨日のこと忘れてる…?」
「あ。ダメみたいですね…」
「ちょっと待って。それはひどくないですか?」
という会話が繰り広げられていた。俺?参加しないことで誘爆を避けた。君子危うきに近寄らず。
_____
二人の案内によって人の多い大通りを東に進むと、門がありその手前に出発の準備を整えたアレンさんがいた。既に馬に乗って、やる気満々といった様子。
「おはようございます。皆様。じゃあ行きましょうか。」
だから早い。何もかもすっとばそうとすんな。
「薬はどうなったんですか?」
「薬?そんなものあったかな…?」
リベールさんの問いにかわいらしく首をかしげるフランソーネさん。
「フランソーネ様…。あなたが昨日、持って行ったんですよ…。」
リベールさんが膝から崩れ落ちてorzとなりながらそう言う。…やっぱりポンコツじゃないか。
さらに首をかしげるフランソーネさん。それ以上やると折れますよ。
「フランソーネ様…」
リベールさんの悲しそうな声を聞いて、手をポンと叩く。
「ああ、思い出しました!重症の人もいますけれども、後でアークライン神聖国の神官さんに頼めばどうとでもなるレベルですので、全員無事ですよ」
「そうですか…。よかったです」
そんなものあったね。昨日はお酒のせいでいろいろ疲れたから記憶があいまいだ。
「そろそろいいですか?行きましょう!」
そして、アレムさんのこのテンションである。
「…この二人面倒だね」
激しく同意したいけど、聞こえそうなのでやめて欲しい。ん?別に聞こえてもいい気がしてきた。
俺たちは特に準備することもない。だから、
「じゃあ、駆除部隊出発!」
アレムさんのかけ声で、隊列がゆっくりと前に進みだす。
門を出てほんの数分すると、リベールさんがこっちに来た。
「お三方とも、作戦というよりも、行動指針は聞いておられますか?」
「なんですかそれ?バッタの殲滅ぐらいしか聞いてませんよ?」
「あー、やっぱりかぁ…。あのアホども…。まぁ、いいです。申し訳ないですが、今説明しますね。バッタは一匹ならすぐ殺せます。でも、まとまってこられるとかなり面倒です。しかも、なぜか数が減りません。なので、まずは奴らの巣を探す必要があります」
「巣ですか?巣ならたぶんあっちですよ?」
四季が森の中を指さす。
「俺もあっちだと思いますよ」
「理由は?」
「「霧」」
俺らの答えにリベールさんは目を丸くする。
「正確には白に、黒と黄色の混じったものなんですけど」
「…いわゆる瘴気みたい」
と言ったあと、アイリはすぐにべっこう飴を取り出し食べ始める。幸せそうな顔をしているので気に入ってくれたようだが消費量が心配だ。
「霧?瘴気?私には見えないのですけども…」
「そうなんですか?あれ?なんでだろう」
「…わたしも見えないよ?言われたら見えるけど」
「そうなの?私たちはこないだの蜂の時に見えるようになったんですけど…」
あの時は暗かったけどね。この明るさなら問題なく見える。『身体強化』必須だけどね。
「そうなのですか…。まぁ、いいです。そちらを目指します。だいたいあの森のどのあたりですか?」
「「中心付近」」
声をそろえて答える。
「は?そうなのですか…。そのあたりは確か湖だったような…。まぁ、いいです。行ってみましょう」
しばらく馬車に揺られながらも腹ごしらえをすれば、いよいよ森だ。
「ここ、街道が通っていて進みやすいですね」
「そりゃ、ここ魔物や魔獣でませんからね。今はなぜかアベスホッパーが出ますが…」
「アベスが出た!」
「皆さん戦闘準備を!」
よく通る声で、ルジアノフ夫妻が叫ぶ。
バッタつまり『アベスホッパー』、愛称アベスはだいたい体長が3cmぐらいの小さなもの。
すごくやわらかいので、騎士団の皆さんが振るった槍や剣がかすっただけどころか、風圧ですぐにバラバラになる。生き物としてその強度はどうなのだろう。
しかし、恐ろしいのはバラバラになってから。まき散らされた体液が地面に落下するや否や、「ジュッ!」という音とともに地面から白煙が上がる。
「地面が溶けてるな」
「ですね。アイリちゃん。今回は深入りはやめておいてね」
「…わかってる。さすがに行く気はない…」
蜂と違って、死ねばばらまかれる。蜂は針に刺さらないと意味なかったし。そのせいで俺たちは気づかなかった。クイーンは別。
服とかならともかく、皮膚にかかるとまずい。特に目とか口。
「?何か奴らいつもと行動が違いますね」
「皆、一回私たちの後ろに下がれ!」
なんでわかるんですかね、フランソーネさん。場数の違いか。
そして、アレムさんが無駄にりりしい。
「我が魔力よ、盾を成せ。我らに害をもたらす敵を通さぬ盾を…『大盾』!」
呪文完全版。それによって、リベールさんの攻撃を止めたのよりも分厚くしっかりした盾が、フランソーネさんの前に出現する。
出現と同時ぐらいに、たった3cmほどしかないバッタの口から、お前どこにそんなに持ってたんだよ。と思わず突っ込みたくなるような液体を吐き出す!
たかが3cmほど。そんなサイズのバッタだがそれが数十、数百と集まれば相当な量となる。
そんな相当量の液体がゴリゴリとフランソーネさんの盾を溶かし、あふれて地面に落ちた液が地面を溶かす。
「なるほど、奴らよほど進まれたくないらしい。皆、ここを押し通るぞ!」
アレムさんが号令をかけ、
「「「応!」」」
騎士団の声を重ねて答える。
「「「我が魔力よ、盾を成せ。我らに害をもたらす敵を通さぬ盾を…『大盾』!」」」
騎士団全員で詠唱する。詠唱によって、一人一人の前に盾ができる。その盾は、他の仲間の盾と合体して大きな一枚の盾を形成する。そして、大きな一枚の盾が、隊列の前面を覆うように盾が変形してゆく。
でも、なんかさっきのソーネさんより規模が小さい気がする。
「突撃!私に続け!」
アレムさんが掛け声とともに突進を始めると、盾が隊列の形に変化、「く」の字型になった。
「お三方とも、行きましょう」
「あ、フランソーネさん」
「アレムはこの先に巣があると思っているようです。」
「「あると思います」」
「あ、そうなんですね。飛び散る体液は私が防ぎますので、お三方とも邪魔なバッタを駆逐していってくださいね。『我が魔力よ、球を成せ、我と、彼らに害をもたらすものを通さぬ鉄の守りを今、ここに!『球状鉄壁』!』」
わりと長い詠唱が終わると、俺たちの周りに白く光る球体が現れた。
「私はこれの維持でいっぱいいっぱいですので…。よろしくお願いします!」
「了解です」
俺と四季はいつも通り、魔法で。アイリは鎌を投げて敵を倒す。
体液が「べちゃっ」と音を立てて、フランソーネさんの盾にあたるが、盾は酸の量が少ないからか、全く影響を受けているようには見えない。
「うーん、フランソーネさんの盾はすごいですね…」
「そうだな、たった一人なのに前にいる騎士団全員で作っている盾に負けないぐらいの強度がありそうだもんな。あ、今のうちに実験しておこう。『ファイヤーボール!』うん、大丈夫そうだな」
「どうしたんですか?」
「ん?体液は気化しても影響があるかどうかの実験。たぶん気化させれば問題ない」
「なるほど、じゃあ今は火系の魔法は置いておきましょうか」
「…そうして」
会話の合間合間に魔法をぶっぱなしているので、会話していても問題はない。今のところは。
そもそもさっきの突撃の後ろから続いているから絶対数が少ないし。
「…お二方に言われると褒められている気はしないんですけど…。まぁ、そうですね、30人分ぐらいなら一人でできます。逆に言えば、これしかできなくなるんですけど」
「やっぱり、シャイツァーですか?」
「そうです。『大盾グドシルト』それが私のものです」
「名前あるんですね」
「一応です。勇者様のものとは比べるだけ無駄ですけど」
「あれ?そ「止まれ!」話の腰を折られた」
話を続けようと思ったが、アレムさんの叫び声で遮られた。
「この湖のど真ん中。その底の穴が奴らの巣だ!」
湖の中心の底。そこに大きな穴がぽっかりと開いていて、そこから絶え間なくバッタが出てきている。間違いないな。
「アレム様どうされます?ここであまりにもアベスを倒しすぎると、下流が毒で悲惨なことになりますよ?」
「私のシャイツァーはなぁ…。やろうと思えばやれるけど…。環境破壊しすぎてどっちがましかわからなくなるからなぁ…」
「どんなものなんですかそれ?」
「あ、追いつかれましたか。どうです?ソーネはすごいでしょう!」
「ですねー。数百匹の体液くらってもびくともしませんでしたもの」
「でも、お二人のほうがすごいですよね」
「「そんなことないです」」
答えると、皆複雑そうな顔になったが、
「…諦めて」
というアイリの一言によって、
「「「はい」」」
そろって立ち直った。なんでや!アベスを体液ごと気化させたり、蜂を消し飛ばしただけやろ!解せぬ。
「私のシャイツァーも火系なんですけどね…。お二人のほうが火力も効率もいい気がします…」
「?魔力効率悪いですよ?」
実際、紙を作るときに大量に魔力を消費するし。作った後は、貯金を引き出すか、それにすこしお金を加えて引き出すお金を増やす感じになるのだけど。
「は…?」
こいつは何を言っているんだ。みたいな顔はやめて。実際そうだから。紙使い切った後の、同系統魔法はできるだけ使いたくないぐらいにひどいから。一日で治るけど。
「まぁ、いいです。作戦を立てましょう。湖完全蒸発以外で」
「最も雑な案ならありますよ?」
「何ですかそれは?完全蒸発以外ですよ?」
信用ないな。なんでだ。
「アレムさんは火魔法使えるのですよね?さっきの話の流れ的に」
「はい、そうです。『きっちり』詠唱すれば、さっきからお二人が片手間でぶっ放していらっしゃる火や水魔法を超える威力はあります」
なにか言葉にとげがあるな…。気のせいか。俺らの火の触媒魔法は、絶賛クールタイム中だし。心配されなくてもやらないよ。ていうかできないよ。
「それで、湖の中心の水をすべて蒸発させてください。私たちは、周囲から水が流れ込まないように、周囲を凍らせますので」
「はぁ」
「その後、私たちがついでに凍らせた氷の道をフランソーネさんの魔法を軸にした盾でごり押しで穴に飛び込みます。それで、巣を叩きます。以上です」
俺が言うと、四季を除く全員が、こいつはいったい何を言っているんだ。という顔をして、何かを思い出す&かみしめるような顔をした後、
「それでいこう。皆異論は?」
「ないです!」
「じゃあ、やりましょう」
何この即断即決。まぁ、早いほうが紙の魔力消費少なくていいのだけれども。あぁ、それは騎士の皆さんも当てはまるか。
バッタがこうしている間にもどんどんわいてくるからね。