120話 聖地へ
「朝ですよ!起きてくださーい!朝ご飯ですよ!」
この声は誰のだ…? …ああ、リンパスさんか。どうして入ってこないのだろう? 叫んでないで入ってこればいいのに。まぁ、気づいて入って来るでしょ。
子供たちは……、まだ寝てる。ぐっすりだ。
昨日は確か……、皆に飛びかかられた後、一番に飛びかかってきたカレンがおねむだったし、他の子らも凛とした真面目な空気が霧散したせいか、眠そうだったから、皆で服を着替えてそのまま寝たんだった。
何故か6人もいるのに2枚の布団で寝る羽目になったけど。
……四季と二人でカレンをまず寝かせようとしたのがまずかった。昨日の皆の喜びにあふれた精神状態的に、ああなるのはほぼ自明だった。まぁ、嫌じゃないからいいんだけどさ。
子供たちを起こさないよう、もぞもぞ動いて……よし、何とか上体は起こせた、
手を頭の上で組んで……伸ばす! ぐいっと体が伸びて気持ちがいい。眠気もほぼ吹っ飛んだ。
……なんか足の方が無駄に暖かい、というか暑い。そして重い。ああ、皆、布団に潜り込んでるのね…。苦しくないのかな? 出てこないってことは苦しくない…のかな?
何で皆が潜り込んでるのか考えてみるか。
ガロウは寝相で四季の胸にあたることを恐れたのか、最初から足の方だった。で、レイコはガロウがそんなんだったから、下。ガロウが何かをしそうになったら止める気だったんだと思う。
まぁ、ガロウの寝相はいつも通りいいんだけど。…毎日好きなレイコと寝ているからだろうか?
でも、カレンとアイリがよくわからない…。カレンは最初俺らの間にいたはずなのに、目を離した瞬間に何故か足元に行っている。さらに、アイリはいつの間にやら俺らの間とか言うある意味でベストポジションに来てる。
でも、どの位置でもわざわざ頭まで布団にうずめる意味はない。……もしかしてあれだろうか? 布団の中の方が俺らの成分に包まれている感じがするとかいう謎理論でもあるのかな。
さすがにそれはないことを祈りたい。それはちょっと引く。
「いらっしゃいませんかー!?」
「「あ。はーい!」」
ん? 四季?
「入ってもいいですかー?」
体を捻ると俺と同じく上体を起こした四季が。いつの間に起きたんだろう? まぁいいや。
「おはよう」
「はい。おはようございます」
「入りますねー!」
ガラッ!
ん? 誰…、ってリンパスさんか。衛兵さんも俺らが返事をしたから通したのだろう。
「「おはようございます」」
「おはようございま…って、失礼しました!先にお子様の方へ行ってきます!」
「「え゛!?」」
「あ。私のことはお構いなく!お子様たちは馬小屋ですね!そうですねわかりますわかります」
顔を赤くしてわたわたして意味不明な事を宣ってる!? 何もわかってないじゃないですか! って、ツッコんでる暇があったら止めないと! 盛大な勘違いを広められたら死ねる。
「ちょっと待って下さいよ!」
「そうです!私達、子供を馬小屋で寝かせるような鬼畜ではないですよ!」
四季ぃ! 言葉のベクトルがちょっとズレてる! …よく考えたら四季、天然入ってた!
「え!?では、子供たちはこの部屋ですか!?子供のいる部屋で!?」
「?子供達も一緒に寝てますよ?」
ツッコんでたらなんかさらに悪化した気がする! 完全に止めどころが無くなった!
「何やってんですか夫妻!?」
「落ち着け。リンパス」
「グエッ!」
クヴォックさんが脱線してなおも暴走し続けそうだったリンパスさんの脳天に一撃を加えて強制的に止めてくれた。
「これに任せていたら心配だったから来たぞ。これ、真面目な時は真面目なんだがな…」
天井を仰ぎ見るクヴォックさん。足元で悲惨なほどのたうち回っているリンパスさんは無視だ。転がりやすいからか、わざわざ鯱に戻ってるのに……。
「リンパスさんってこういう人でしたっけ?」
「出来る人なのは間違いないけれど…、リンヴィ様が絡むとダメっぽいね」
「リンヴィ様ですか…?あ。ああ。なるほど。いささか拡大解釈な気がしますが…」
「暴走したのはそれだろう。子供たちの手前、敢えて言う事ではないが」
「おはよー」
「…おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
リンパスさんが騒ぎ立てたからか、のそのそと子供たちが起き出した。クヴォックさんの気づかいは割と意味があった…かな。それはともかく、
「ああ。おはよう」
「おはようございます。皆」
「おはよう」
「お…、おはようございまっ…す!痛い痛い!」
挨拶されたら返さないとね。皆寝ぼけなまこではあるけれど…、二度寝しそうにはない。そして、のたうち回るリンパスさんを気にする様子もない。…たぶん頭が働いていないのだろう。さっきの俺みたいに。
「おい、リンパス、見ろ。子供たちが布団から出てきたぞ」
「う゛う゛…、わざわざゲシゲシ蹴っていただかなくても…ちゃんと見ますよ…。どうやら私の勘違いだったようですね」
蹴っているのはさっき一撃加えたところ。容赦ない。見た目通り防御力が高いからか? それともただの嫌がらせか…。
「「甚だしい」という形容詞を、勘違いの前につけろ」
「かわいそうなほどのたうち回っていたあげく、さらに塩まで塗り込まれた私に何か慰めの言葉はないのですか?」
ジト目でクヴォックさんを見つめるリンパスさん。四季と出会っていなくて、さっきののたうち回るさまを見ていなければ思わず惚れてしまいそうな顔をしている。が、クヴォックさんは、
「必要か?」
の一言で切り捨てた。
「ですよねー」
彼女の声は俺と四季の心の声と重なった。
「そもそも…、お前、昨日オレが殺気を叩きつけられた時も助けてくれなかったし、その前も、オレが木に引っかかった時も助けてくれなかったろ?」
「…それと同等に扱われるのは釈然としませんが…、それ、自業自得ですよね?」
「ああ。となると、お前のも自業自得だろう?」
リンパスさんは反論したそうにしていたけれど、暴走を自力で止められなかった負い目があるのか黙った。
子供たちの件のことを例に挙げられるとちょっと複雑な気分だけど…、クヴォックさんは見事にリンパスさんを封殺した、獲物が逃れられないように空中からじわじわと追い詰めていく鷹の狩を見たような気分だ。
「だって、暴走を止めれなかったのだから」
トドメとばかりに言い放った言葉に、思わず「貴方が言うな」と言いそうになったけれどなんとかこらえた。だけども、リンパスさんは俺らの視線、態度に目ざとく反応する。
「クヴォック。最後の一言は余計だったみたいですよ」
「何故!?」
そんななクヴォックさんを見て「勝った!」とばかりに笑うリンパスさん。貴方も人の事言えないんですよね…。リンヴィ様が絡むと暴走するから。
「あれ?何故でしょう、空気が…」
「お前が言うなってことなんだろ」
「……、あ。朝食です、皆さま。行きましょう!」
話逸らした…。
「リンヴィ様が昨日の部屋でお待ちです!」
うん。って言うまで続ける気だろうな…、リンパスさん。まぁ行こうか。皆もそろそろ眠気が取れて暇になってきているところだし。
「了解しました。皆、行くよ」
「習君、服!寝巻のままですよ」
「あー。すみません。先に戻っていてもらっていいですか?」
「もちろんです。私は先に戻っていますね」
「オレは作業に戻る。さらば」
二人は建物から出ると飛んで行った。そういえば、あの人たち飛べたね…。
「ねー。門の存在意義ってあるのー?」
「さぁ…?」
「門の外側からであれば、空を飛んだところで中の様子は見えないのであります!」
えらく食い気味な衛兵さんの声が飛んできた。わかるけど……。「折角衛兵として立っているのに意味がないと思われたらいや」ってのと、「泊まっている俺らに不快感、不信感を抱かれてたまるか!」という意思の現れなんだろう。
着替えて、四季がカレンの着替えを手伝っている間にセンに軽く魔力をあげて出発。衛兵さんに、さっき教えてくれたことへの感謝を伝え、外出する旨を伝えて昨日の部屋へ。
「おはようございます」
俺の挨拶に追従するように皆挨拶をすると、リンヴィ様とリンパスさんの挨拶が返ってきた。とりあえず席に座って気付く。
昨日に比べて机が狭く、人数が少ない。俺ら入れて8人しかいない。
「…他は?」
「作業中です。お気になさらず」
「リンパス様はいいのですか?」
「はい。私は食事の際は皆様におつきすることを優先いたしておりますので。あ、後、レディックは別件でいません」
「別件…ですか?」
「あれ?まだお伝えしていないのですか?」
咎めるような目で子供たちを見るリンパスさん。レイコとガロウはその目に非常に居心地悪そう。今日に回そうって言ったのは俺らなのだし、助け舟を出さないと。
「あの、リンパスさん。一緒に来たいとは聞いていますよ?」
「私達が、後は明日にしましょうと言ったのです。カレンちゃんが眠そうだったので」
「そうでしたか…。差し出口でしたね。申し訳ありません」
頭を下げるリンパスさん。だけど、二人はまだ居心地が悪そうだ。まだ伝えていないことがあるのは事実だしね…、さっと解決してもらおう。
「レディックさんはどうしたの?」
「私達が、お二人についてゆきたいのなら、せめて3日ほど待って欲しいとのことでした」
「だからその関係だと思う?」
「…返事はわたしがした。図書館や、米、穴の関係で3日は必要だと思ったから…」
勝手に返事したのはわたしだから、二人を責めないでとアイリの目が訴えている。そもそも責めるなんてないんだけど。
たぶんレディックさんは群を説得しに行ってくれたんだろう。俺らの見立てが間違ってなければ……だけど。まぁ、昨日レディックさんに皆が何かをされた様子もないから…、間違いないはず。その工作の時間をくれってことだろう。
そんな必要なことに時間がとられることに否はない。だって、戌群が荒れることはレイコとガロウが望まないんだから。
「了解。大丈夫だよ」
「元から長期滞在の予定でしたしね…」
それを聞いてホッと息を吐く3人。そんなことをしている間に、朝食が運ばれてきた。
わさび付きの和そばだ。和だけど、米よりはインパクトがない。嬉しいのだけど。ひょっとすると、わさび入れ過ぎて「かっらーい!」って騒いでいたカレンに全部持って行かれたのかもしれない。
「「「ご馳走様でした」」」
「リンヴィ様、私も作業に戻ります」
「ああ。頼む」
リンパスさんは立ち上がると、ただでさえ伸びた背筋をピンと張って礼をして出て行った。
「そなたらはどうする?」
今日の予定……、どうしよう?
「…あれ?図書館に行かないの?」
「アイリ嬢、残念ながら今日は閉館だ」
「では、群長様達からお話を伺うのは…?」
「レイコ、それ、昨日で済んだろ?」
「ですが…、何かためになるお話があるやもしれませんよ?」
「レイコ嬢。申し訳ないが、それも出来ぬ。群長たちは図書館で作業中。少なくとも今日は手を離せぬ」
…アイリ、そんな目で見ないで。「…昨日、図書館で何をしたのか吐いて?」って雄弁に訴えかけてくるような目は止めて。
でも、呆れられること請け合いだから、絶対に言わないよ。少なくとも、家族以外がいる場では!
「石筍だっけー?それを見に行くのは?」
「姉ちゃん、いいと思うぜ!」
「私も賛成です!」
都合よく話が流れた、石筍…? 何で石筍…。ああ、この前渡した紙の魔法ね。少し消費されていたから、それで興味持ったのね。
アイリだけ別行動をしていたからか、わかってないからそれを伝える。
「…なるほど。で、どうするの?石筍見に行くの?…二人が決めたことならわたしに否はないけど」
「リンヴィ様、聖地に石筍はありますか?」
「知らぬが…。おそらくはあるだろう」
おそらく……か。どっちみち帰還魔法を探す目的もあるから聖地に石筍がなくても行かなきゃならない。最悪、石筍はメピセネ砂漠の通路にもあったはずだから少し戻ればいい。
「聖地への立ち入りは可能ですか?」
「勇者であれば阻む必要もあるまい。ただ、聖地とは、不浄なモノを捨てる場であるのだが……」
それでも良いか? と尋ねてくる。リンヴィ様のセリフから、聖地って言葉の印象からかけ離れた扱いを聖地が受けていることが発覚した。ついでに、元から帰還魔法はないだろうと思っていたけど、ほぼないことが確定した。
それでも直接見ておきたいから、入れるなら入れる方がいい。
その考えの下、頷きを返すとリンヴィ様は立ち上がり、後をついてくるように言った。昨日情報交換をした場所に戻ると、床にしゃがみこんで、床を外す。
「この下が聖地だ。謝って落ちると困る故、入った後は蓋を閉めよ」
聖地なのに扱いが……。本当にゴミ箱並みの扱い受けてない?
「聖地とはいえ、言ってみれば「シュファラト神の開けた大穴」でしかない。とはいえ、ある程度の礼節を持って接するが…」
建物で囲われているから、一応礼節はある……のだろうか? でも、一理ある。神話決戦で出来た傷をいちいち聖地になんてしてられないし。『チヌリトリカ』を縫い付けた。この事実が穴を聖地たらしめている。
「あの、他に注意は?」
「成り立ち上、斜面が多い。足元に気を付けよ。ああ、後、聖地とはいえ、扱いは先の通りだ。傷つけても構わぬ」
傷つけても構わぬ? 何故? まぁ、いいか。
「了解です」
「構わぬ。我はこの建物で仕事をしている。困ったことがあれば来るがよい」
とだけ言って部屋を出て行こうとして、俺の耳元に口を近づけてきた。
「破壊許可は、そなたのためだ。シキに贈り物をしたいと思っているのであろう?」
「なっ…!」
「何故それを!?」と続けようとしたが、苦笑いしながら手で制された。
「勇者様方が作られた習慣であるが…、こちらにも夫婦は揃いの指輪を左手の薬指にはめる。もちろん、荒事の時などは外す故、常にしているわけではないが…。シキは昨夜のような食事の席でもしていなかったであろう?」
あれ? 根拠としては弱…、
「根拠としては十分であろう?彼女がそなたから贈られたモノを理由なしに外したままとは考えられぬ」
根拠に俺と四季の関係性をあげるのはやめて欲しいです…! そんな目で見ても、リンヴィ様は苦笑いして無視。
「確かにこの穴の扱いはアレであるが…、『シュファラト』神の影響を受け、良い鉱石が見つかるやもしれぬ。指輪の材料に良いのではないか?」
「あのー」
「なんだ?」
「俺達の、正確には俺のためにそこまで配慮してくださるのは嬉しいのですが…。どうやって四季から取ったモノ隠しましょう?」
「魔法で何とかならぬか?」
どうにかなるかなぁ…。いけるとしたら、それ空間系列の魔法になるんだよね…。いけるのか?
「ほかならぬシキのためであろう?何とかなるかな?ではなく、なんとかせよ。…そろそろ待たせすぎか、ではな」
そういうと伝えたいことは言い終わったとばかりに、手を振りながら部屋から出て行った。
何とかなるかな? ではなく、何とかする。…ね。
「習君。何を言われていたのですか?」
「んあ?特に何も。それより、穴覗いてみよう!」
間抜けな声が出たけれど、強引に話を逸らす、やっぱり、贈り物──指輪──はこっそりといいものを用意したい。
内緒だけど話は逸らしたい。そんなある意味不義理な気持ちを四季も感じ取ってくれたらしく、これ以上の追求はなく、俺の横で穴を覗き込む。
「四季。穴の中明るいよ?」
「本当ですね…。壁が白いせいでしょうか?」
「わからない。だけど…、聖地って感じがするね」
「ですね」
いつの間にか覗いていた子供達も同意する。
「覗く限り…、危険はなさそう?」
「ですね」
「変な音もしないぜ」
「ボクの目にも見えないよー」
「変わった臭いもいたしません」
耳、鼻、目が俺らよりもいい3人が言うなら大丈夫か。穴の傾斜もそこまで酷いわけじゃなさそう。
「降りる前に、とりあえずシャイツァー投げて確認しましょ。えい」
サッと取り出され、流れるように穴に放り投げられるシャイツァー。少し哀れ。でも、目線を下げると、俺のシャイツァーが目に入った。…うん。憐れむ資格なかった。というか、四季より扱いが酷い気がする…。敵にぶっ刺したりしてるし。
ファイルは俺が余所見している間に、コツンと寂しげな音を立てて穴の底を抉った。
「床にも何もなさそうですね」
「じゃあ、俺から降りるよ。一応手を掴んでおいて」
高さはそこまでではないから飛び降りれる。けれど、傾斜がやっぱり心配なので頼んだ。
四季は「仕方ないですね…」という顔をしながらも、俺の見栄を張りたい気持ちを察してくれたようで、諦めたように手を取ってくれる。
そして、子供達も同じく、不満そうにしながらも、諦めて四季のもう片方の手を握る。全員がちゃんと握ったことを確認して…、よっと。
・・・・…セーフ。ちょっとこけそうになったけど耐えれた。傾斜は5%ぐらいか? 結構急だ。ここから見える、穴の中央付近はもっときつそうだけど、この辺り程度であれば問題ない。
「では、次は私ですね。習君。ちょっと移動しておいてください。皆は、私の後に」
四季がぴょんと飛び降りる。おっと、ちょいバランス崩した? 急いで手を伸ばして、彼女の手を取って支える。
「大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
「ところで、子供たちは受け止めた方がよさそう?」
四季は地面と穴の入り口を交互に見比べる。
「そうしましょっか」
「了解。おいで!」
声をかけるとちゃんとアイリ、カレン、レイコ、ガロウの順に降りてきて、俺ら二人に受け止められる。受け止めるときに足元が少し砕けたけど……許可貰ってるからいいよね! たぶん!
「じゃ、行こうか…。って、どうしたのカレン?わざわざ服なんか引っ張って?」
カレンは俺の声に、一拍置いて、
「ねー。おかーさんはおとーさんに飛びついたりしないのー?」
と宣った。!?
「え゛?カレン。何を言ってるの?」
「ええ、いったいどういう意味です?」
「えー?おかーさんが、ボクらみたいにおとーさんに受け止めて欲しくないのー?ってことだよー?」
何で今? 何で今なの!? だけど、俺の動揺をよそに四季は答える。
「え…、そりゃ…して欲しくないなんてことはないですが…」
「母ちゃん。何でそんなに遠慮気味なんだ?」
「え?だって、最悪習君が折れますよ?」
「折れるって…、母ちゃんそんなに重くないだろ?」
ガロウがそう言い放つと空気がぴしりと固まった。
「ガロウ?お母様に…、というより、女性に体重の話はダメですよ?」
「へぇー」と納得するガロウ。そこにアイリが近寄っていく。ひそひそ話でも聞けるように、『身体強化』しとくか。……あ。完全に失念してたけど、さっきの話聞かれてないよね? 四季は今、少し落ち込んでるようだから確認とれないけれど…。
「…お母さんは大きいの気にしてる」
「そんなにデカい?」
アイリの配慮をぶち壊すガロウの声が穴に響く。
「「「ガロウ?」」」
「……」
{女性3人《アイリ、カレン、レイコ》の圧で顔を蒼くして黙り込むガロウ。人のこと言えないだろうけど、ガロウは無意識に女性の地雷踏み抜くタイプなんだろうね…。
それはともかくとして、四季はダメージを受けたみたいだから、手っ取り早く復帰してもらおう。『身体強化』して……、四季を後ろから抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこ。
「え。ちょ!?しゅ…、習君!?」
可愛らしい声を出しているけれど黙殺。そうじゃないと恥ずかしくて平常心を保てない。無言で抱えたままその場で平気だと示すために一回転の後、歩く。
「俺としては、これくらいの方がちょうどいいよ」
「そ…そうですか?」
「そうだよ」
根本体な解決にはなってないけれど…、焦点を逸らしてしまえ。勿論、四季は聡いから今の混乱が収まれば気づくだろうけれど…、俺の言っていることが本心であることも察してくれるだろう。
というわけで、目下の問題は、いつ四季を降ろすか。ま、迷ってるのも馬鹿らしい。そのまま行こうか。降ろしてもいいけれど…、俺だってたまにはこういうことをしてみたいのだ。たぶん俺だけじゃなくて四季も。
「皆!行くよ。」
「…ん」
「んー!」
「わかりました」
「え゛、それで行くの?」
四季は恥ずかしいからか何も言わなかったし、俺もそれ以上何も言わなかった。そのせいか、ガロウの声だけがやけに穴に響いた。