119話 これから
子供たちが泊まっているというかなり大きな平屋。それを囲む塀には門があって、その前には衛兵さんっぽい人が二人立っている。が、サンコプさんは一切に気にせず近づき、
「俺っちだ。通してくれ」
オレオレ詐欺を彷彿とさせるような一言。そんなんで通れるの?
だけど、俺の疑問も何のそのサンコプさんはそのまま通ろうとして、
「ダメです。勇者様から勇者様だけを通すようにと厳命されております」
衛兵さんに無慈悲にも槍で通せんぼされた。やっぱりダメじゃん。
「夫妻ー」
そんな情けない声と目で助けを請わないでくださいよ…。
「だって、槍で止められた……」
「はぁ?二人とも槍をクロスさせているだけじゃないですか……」
よくある止め方じゃないの? 槍の穂先を向けられていないだけ、温情でしょ。
「というかですね、サンコプさん。今までこういうことなかったのですか?」
「ねぇよ。いつもはあれで通じるんだぜ?」
あれで? …あぁ、でも、群長だし普通は通れるか。普通は獣人族しかこの建物の中にいないだろうから、拒否するような人もいないのか。でも、
「子供らが拒否するぐらいでサンコプさんが入れなくなるんですか?」
「みたいだな。きっと俺っちの偽物とか警戒してんじゃね。群長の身分を偽る奴は極刑だけどな!」
「サンコプ様。極刑であっても、捕まえなければ意味がありませぬ!」
「ああ。そりゃそうだな!ハハハ!」
ブラックジョークかましてるし…。まぁ、それは置いておこう。子供たちが言ったぐらいで止められるんだったら、他に泊まっている人に面談したい人も止められちゃうのはどうかと思うんだけど。……勇者を優先してるのかな? じゃあ、
「リンヴィ様がきたらどうするのです?」
まだ笑っていたけど無視して純粋な興味で聞いてみる。衛兵さん二人は目をぱちくりさせると、すぐさま背筋を伸ばして答える。
「当然。お通しいたします」
「当然、我々は、リンヴィ様のお姿は完全に、何も見ずとも完璧に脳裏に思い浮かべることができます。そして何より、あのお方から出る独特の気?とでも称しましょうか。それは誤魔化せませんから…」
「間違いありません。さらに、もし。もしもですが…、万が一、完全にリンヴィ様のお姿を不敬にも完全に…、複製のようなことが可能な人物がいたとするならば、我々がここにいよといまいと変わりません」
リンヴィ様狂いな気がする。台詞もそうだけど、わざわざ背筋を伸ばしたあたりが! 理由としては割とまともな気がしないでもないけど。
…完全にリンヴィ様の姿形を覚えているのがまともと言うべきか、ストーカーと言うべきか、ただの信者と言うべきか…、そのあたりの呼称は置いておこう。
「ところで衛兵さん。私達は通ってもよろしいので?」
「「どうぞ」」
「衛兵!ちょっとは確かめろよ!」
「そう言われましても…、お二人のお子様からお二人の容姿を、特徴的な部分は何も見ずとも思い浮かべることができるほど聞いていますので…」
なんかごめんなさい。
「サンコプ様。サフィーの言う通りなのです。そもそもわたしが、「勇者様は人間なのですよね?でしたら大丈夫です」と言っても聞き入れていただけませんでしたから。しっかり頭に焼き付いています」
超ごめんなさい。心の中で二人に謝る。口には出さないけれど。
だって、この行動も俺らを心配してのことだろうから……ね。ここで謝っちゃうのは何か違う気がする。にしても、アイリは俺らにちょくちょく過保護とか言ってくるけれど……、どう考えてもアイリも人のこと言えない。
ああ、でも、謝らないにしても、子供達には一言ぐらい言っておこう。仕事でここから動けない人に新手の拷問をしたようなものだし。
仕事中に横で延々と何かされると非常にうざい。俺はそれをタクから学んだ。
……人が宿題やってる横で、「宿題分からん教えて!」って言われまくっても、まだやってる途中じゃ教えようがないんだよ。
「なぁ、夫妻。案内してぇから、俺も通っていいか?」
「あ。どうぞ」
「というわけで、衛兵さん。通してあげてください」
「「畏まりました」」
衛兵さん達は門の脇へ退避。そして、直立不動に。うん? 無駄に練度が高いような。イベアで見た、王の間を守る兵隊さん並みだ。
俺ら以外にお客さんがいっぱいいるのかな? それか副群長クラスの偉い人が来ているか。そうじゃないと、こんな二人置かないよね…。
「おい。いい加減入れ」と言いたげなサンコプさんの視線に促されるように門をくぐる。門前には石畳で短い道。それがだいたい10 mぐらい。その向こうは建物だ。
建物がでかいからかものすごく近く感じる。道がないほうがいいんじゃないかと思えるぐらいに。
「ブルルッ!」
ん? セン?
鳴き声がした方を振り向くと犬みたいに尻尾をぶんぶん降るセンがいて、頭をぐいぐい押し付けてくる。とりあえず、四季と二人で撫でる。
「懐かれてんな…」
「そうですか?」
「ああ。馬小屋は建物の裏だ。なのにわざわざ会いに来てくれたみたいだぜ?」
「へぇー。センありがとう」
「私からもありがとうね。セン」
「ブルルンッ!」
「そうでもないよ!」と嬉しそうに鳴く。それと同時に、ガラガラガラッ! と戸が横にスライドされ、「とー!」とカレンの声が響いた。
「とー!」ってことは飛びかかって来る気か! 前に危ないからやめなさいって言ったはずなのにな…!
声の方を振り向くと、かなりの勢いでカレンが突撃してきている。真っ向から受け止めるのは無理だ。確実に俺の後ろにいる四季まで巻き込む!
だったら…、カレンの体を受け止めずに、俺の体の横を滑るように移動させて、四季を信じて四季に回す! 四季も同様に体の周りを移動させ…、終端の方で持ち上げてセンに乗せる。
横にセンがいてくれてよかった。
「カレンちゃん!危ないでしょう!?」
「うー。ごめんなさーい。遅かったから嬉しくて…」
目に見えてシュンとするカレン。うっ…、1冊にしとけって言われてたのに2冊読んだ挙句、浄化作業でさらに遅れた俺らに怒る資格がない…。
アイリがそんな俺らの複雑な気持ちを察してくれたらしく、お説教してくれるみたい。世話かけてごめんよ…。
「で、俺っちは案内終了ってことでいい?」
「「え?」」
「夫妻仲良く「いたの?」みたいな目をするのはやめてくれ」
「あの…、俺らの部屋は…?」
「無視かよ…」
正解の対応がわからなかったので……。というか、これも間違いだ。子供たちに聞けばいいんだもの。
「まぁいいけどよ。宿舎はこの建物全部だ。自由に使え。ただ、部屋は大部屋一つとトイレ風呂ぐらいだがな!仕切りあるから仕切り活用してくれ。ただまぁ…」
何でそこで言葉を切るのです? …目が今日何回見たかわからない目になってる。この人、「まぁいいけどよ」とか言ったくせに、根に持ってる…!?
性分だぜ! と言いたげに目が光ると、口角をあげて言葉を紡ぐ。
「まぁ、夫妻。超いちゃつきたくて、子供たちが一緒の部屋にいて欲しくないとか言うなら、ちゃんと部屋が分かれてて、防諜ばっちりの他の宿舎も用意できるぞ?」
「「結構です!」」
予想通りと言えば予想通り。だけど何言ってんのこの人!?
「何って…、気遣い?どうせ、夫妻のことだから、人間領域を出てずっと子供たちと居たんだろ?」
俺らが恥ずかしがるだけなのわかってる癖に……! さも、優しさで言ったんだぜ? 的なオーラだして! やっぱこの人性格最悪だ!
「そう。じゃ、用があれば衛兵に声をかけな。対処してくれっぞ。朝飯は…、たぶんリンパスが呼びに来るさ。じゃあ、おやすみー。今日は楽しかったぜぇー!」
飛び出るように出て行った。ひょっとしてあの人、飽きた? ちょっとむかつく…! 本の整理に二日ぐらい忙殺されてしまえばいいのに!
「…ちっちゃくない?」
「肉体的、精神的に危害加えられたわけでもないし」
「私達がはずかしがってるだけですので…、それで死ねなんて言えませんよ」
「逆に、この程度の報復で殺すようじゃね…、野蛮すぎるでしょ?」
いっそ開き直って「お願いしまーす!」とか言えればいいんだろうけど、無理。あの人もきっとそれをわかってやってる。「お願いしまーす!」で喜ぶのはシールさんだろう。
「…口では高尚な事言っているけど、目をわざと逸らしてるよね?…恥ずかしいから。…ねぇ。…もし二人がそのままなら、わたし、元凶である彼をどうにかしに行くけど?」
「「いや、そこまではいい(です)」」
「…そう」
どういう気持ちで言ってくれたのかは完全には推し量れないけど…、この子はやるって言ったら絶対やる。
今、目をそらしているのは、恥ずかしくて気まずいから。ただそれだけ。ちょっと気持ちを入れれば大丈夫。…いつまでも恥ずかしがっているようじゃ子供もできない。
「…あ、そうだ。…言うのだいぶ遅れたけど…。お帰り」
アイリの声に続いて子供たちが追従。
「「ただいま」」
「じゃあ中に入ろー!」
「私達が中を案内いたします」
「俺らが昔住んでたとこよりも豪華だぜ?」
「じゃあお願いする。いいよね。四季」
「もちろんです。お願いしますね。皆」
俺らが返事を返せばカレンを除く3人は建物中へ入り、カレンが俺らの腕をぐいぐいとひっぱる。
つまずいてこけるかもしれないな…。なんて思いながらも、俺も四季も、ちゃんと帰ってきたという実感に包まれた。
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皆の案内は、子供にありがちな言いたいことを言うだけのモノではなく、ちゃんと理路整然としたモノだった。アイリとレイコの采配だろうか?
案内されるついでに衛兵さんへの対応に触れてみた。やっぱり心配から来る行動みたいだった、けど、言ったからマシになるはず。たぶん。
この建物についている風呂とトイレは両方とも和風、そして唯一の部屋は和室だ。
部屋はよくある旅館みたいな感じ。畳があって、障子があって、襖があって…、その中にふっかふかの布団が収納されていて、なおかつ寝屋の脇に縁側がある……というような。
まぁ、部屋の大きさは比較にならないけど。だって、部屋の真ん中にある3 mぐらいの机やら椅子やらをわざわざ縁側まで運ばなくても、5人分の布団がひけ、さらに俺らの荷物も置ける。そのくせまだ空間が残っているっていう広さなんだから。
後、サンコプさんの言ったように仕切りが部屋の隅に置いてある。広げて伸ばして立てるやつ。絵は美術館で見たようなことのある綺麗なモノが書かれているけど、倒れそう。
立てるなら魔法を使うかな? まぁ、塀があって外から覗くような人もいないだろうから使うことはないだろうけれど。
「ブルルン!」
あ、人じゃないけどセンがいた。なんてタイミングだ…。偶然鳴いただけだろうけど。さて…。
「そろそろ今日別れてからの話を聞きたいけどいい?」
「…いいよ。二人とも落ち着いたみたいだからね」
俺も四季もその言葉でサッと目を逸らした。
確かにテンションが上がって四季と二人ではしゃいでいたけど、真正面から真顔で言われるは…、何やってたんだろうってなるからやめて欲しい。
「ま、まぁ。たまにははしゃぐのもいいと思うぜ!俺!」
「で、ですよね!私もそう思います」
「そーだよ!」
「…む。わたしだって悪いとは言ってない」
慌ててフォローしてくれなくていいよ! 気を遣われてるのがありありと伝わってきて逆につらくなる。
「ええっと、今日の話。今日の話しよう!」
「わたし達からしますよ!」
逃げるために大声を出して、了解を貰うや否や今日のことを話す。俺の話はサラッと流した。四季の話は要約すれば、「調味料は製法も含めて完璧に、レシピもだいたいは覚えました!」という感じ。
子供たちに「一緒に作ろう!」的なことを言われたときに、俺が似たようなことを言った時ほどではないにしても、少し顔を強張らせていたのは…、やっぱり最初ぐらいは自分の作った料理を食べて欲しいと思っているから……かな?
その後の図書館の話は、「浄化してきた」で簡潔に流す。
「じゃ、次は皆だね」
「…わかった」
アイリの目が少し冷たい。「サラッと流したけど、絶対何か余計なことしたよね?…わたし知ってるよ」って言ってる。よし。頑張って黙っておこう。
「…むぅ」
「どうしました。お姉さま?」
「…ん。特に何もない。…で、話だよね。話なら…」
「レイコからー。だよねー?」
カレンが言えばアイリも頷く。
「だよな…。俺らのことだもの」
「ガロウ。これは私の希望です。私から言わせてくださいませ」
「え?あ。うん。もはやレイコだけのモノじゃないけど…。了解だ」
これからされる話は二人の未来に関わる真面目な話。二人の雰囲気からそれを察した俺らはそっと姿勢を正す。
「お願いです、私達もお二人と一緒に行かせてくださいませ!!いろいr「「いい(です)よ」」って、いいのですか!?」
レイコが猛烈な勢いで詰め寄ってくる。ちょ、近い! 近いって! 嬉しいのはわかるけど! 近い! 漫画じゃないんだよ!?
手で引き離して制すと、落ち着いたらしく、レイコは彼女の少しくしゃっとなった衣服を手で直しながら、
「あの…、頼んでおいて言うのもあれですけど、私達…、お二人が地球に帰られる時もついていく所存ですよ?」
気まずそうに言うレイコ。だけど…、
「当然、知ってるよ」
「むしろ、置いていくという選択肢がないです」
何で二人してわたわたしてるんだ?
「あ、あの、絶対にご迷惑おかけいたしますよ?」
「そうだぜ。こんな耳あるんだぜ?」
もふもふの耳を触る。
「問題ない。獣人化できたんだし」
「他の尻尾とかも同じですね。消費魔力関係をもうちょっとどうにかする必要がありそうですが」
前々までは耳とかをどうにかする必要があったけれど…、今は手段がある。だからどうとでもなる。
「本当にいいのですか?」
二人して期待と不安が入り混じったような目で見てくる。俺としては、四季もだろうけれど、二人にそんな目はしないで欲しい。だから、
「今更、何言ってるのさ」
「ですよね。それだったら、最初から私達を「親」として呼ぶべきではないでしょう?」
揶揄うように言ってみた。
だのに、顔色が良くない。「そうですね!」とか言って笑って欲しかったんだけど。無理やり俺らを「親」にした見当違いな罪悪感からか、目がさっきよりも死んでる。
「レイコ。ガロウ。いい機会だから言っとくよ」
「アイリちゃんとカレンちゃんも聞いておいてください。ひょっとしたら既に言っているかもしれませんが……」
「…ん。わかった。カレン」
「わかってるよー」
続きを促してくる4人。よし。
「俺らは皆に「親」にされたわけじゃないぞ」
「確かに、始まりはそうかもしませんが…、皆と接してみた結果、私達が望んで「親」になったんです」
そう言う意味で、俺らは幸せだといえるかもしれない。
子は親を選べないが、逆に、親も子を選べない。……まぁ、親は作るか否かとか、人工授精なら性別まで選べるけど。
でも、自然に任せるならほぼ運任せ。作る意思をもって儀式するかどうかしか選べない。……それがより深い関係を築き上げる一助になるのかもしれない。けど、今は置いておこう。
兎も角、4人のうちカレンを除く3人──アイリ、レイコ、ガロウ──の誕生には、俺らが関わっていない。だけれども、カレンを含め、全員の「親」になることは俺ら自身が決めたのだ。幸せと言っていいだろう。
結果的に4人と全員家族として過ごしているけれど、それは触れ合った結果。万が一、
「俺らが絶対子供引き受けるなら、適当に作って投げていいよね!」とかいうやつがいたら……、思い知らせてやろうとは思う。
「だから、気にする必要なんてないのさ」
「ええ。私達は今、それが幸せなのですから」
俺達の言葉を噛み締めるような顔をする4人。
「それに…、子供はある程度は親に迷惑をかけるモノだろ?」
「ですから、私達は貴方たちが望むならば……、一緒に連れて帰りますよ」
「…たまに迷惑かけられてるけどね」
あ。うん。ごめん…。カレンも、涙を瞳に溜めていたレイコもガロウもそれにつられて笑う。笑ってくれたのはいいけど。何で今それを言ったのさ…….
「…二人は、わたし達が鳴いているのを見るのは好きじゃないでしょ?」
「「うれし泣きは別だけど?」」
「…それでも、泣き顔より、本当に嬉しそうに笑ってる方が好きでしょ?」
と、昼間に照り付ける太陽に負けないぐらい心底幸せそうな柔らかい笑みを浮かべる。
ずるいなぁ……。こんな顔見せられたら否定できるわけがないじゃないか。
俺も。四季、二人で頷きを返すことしかできない。
「親も子も、迷惑をかけてーかけられるものー。でしょー?」
「そりゃそうだ。人間関係なんてざっくり言っちゃえば基本はそれだ」
「知り合いであろうと、友人であろうと、他人であろうと、家族であろうと変わりませんからね…」
「…話逸れてる」
それもそうだ。
「まぁ、色々言ったけど…、これからもよろしくね」
「私からもよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。お父様。お母様」
「宜しく」
「む。ガロウ。貴方淡泊ではありませんか!?」
「ちょ、レイコ…、こっぱずかしいじゃねぇか!だって!」
別に俺としてはあれでいいのだけど…、楽しそうにじゃれあっているから放っておこう。
そっと俺の肩に二つの手が置かれる。今の状況ならアイリとカレンか。
「どうしたの?」「どうしました?」
俺らの声が重なる。アイリもカレンもそれを見てクスリと笑う。……本当にどうしたのさ。
「…ううん。少し面白かっただけ」
「そー」
「…でも、それだけじゃないよ」
「ボクもー」
「…これからもわたしをよろしく。お父さん。お母さん」
「ボクもよろしくねー」
「うん。よろしくね」
「よろしくお願いしますね」
「いきなりどうしたの?」と聞くことも出来たけど、やめた。
二人の……、特にアイリの赤い目が、彼女の今の気持ちを語っていたから。彼女の気持ちは、俺だけでなく、四季も、そして、たぶん皆も抱えている言語化しにくいモノ。
すなわち、「いつも心では思っていて、言わなくても相手に伝わっているはずで、だけど、本当に伝わっているかどうか不安で、そのくせ、いざ顔を見て直接言うとなると恥ずかしくて、そもそも口にするような、言うべき機会がなくて、結局なあなあで流れて、言えずじまいに終わることが多くて、だけど、言葉に出来ないともやもやして、言えるようなときに言えなくて、後で言わなかったことを後悔してしまう。そんな、ある意味ふざけた言葉。それを言ってみただけ」というモノ。
だから俺も四季も、同じように「宜しく」を返した。
……ついでだ。四季にも伝えておこう。最近伝えた気がするけれど、何度伝えたっていい。ついでってのも失礼な気がしないでもない。だけど、言っておかなきゃダメだし、今、俺が言いたいのだ。
体を四季の方に向け、四季の手を取る。そして真っすぐに彼女の綺麗な黒い目を見ると、彼女の瞳もこちらをじっと見つめてくれる。
「四季、ついでみたいで悪いけど…、俺は貴方が好きです」
ちゃんと言えた。恥ずかしいけれど、顔を見て直接。
……あれ? もうちょっと四季、動揺するかと思ってたのに…。割と落ち着いてる? 予想できたのかな……? まぁ、出来るよね。でも、どうしてわざとらしく頬を膨らませているの?
「ついでって…。ちょっと失礼ですよ?」
呆れるような声。
「わかってる。でも、実際、ついでみたいだったのは変わらないでしょ?」
「ですね」
頬を緩ませ笑う四季。やっぱりわざとだったみたいだ。
「では、私も。ついでみたいで悪いですけれど、私もあなたが好きです」
俺の顔を見て、取ったまま放してなかった手を強く握りしめ、まっすぐに優しい笑みを浮かべてそう言ってくれた。
わざわざ「ついで」って言っているのが、少しだけ頬が赤くなっているを誤魔化すためのようで、また可愛らしく、幸せな気持ちに包まれる。
……のはいいけど、どうしよ。こっから。感情のままやってみたはいいけれど、次に続かない。四季も…、あ。ダメみたい。繋いだままの四季の手が徐々に赤くなっていっている。
って、それを見たからか、つられるように俺の手も同様に赤くなっていく。
「むー。ボクらに言うときは赤くなってなかったのにー」
「…それは、二人のわたし達の「親」としての覚悟の賜物」
「まー、そーだよねー。でもー、なーんとなーく、悔しーい!」
「あ!カレン!」
「とー!」
突然カレンが飛び込んできた!? っと、よし、今回はちゃんと受け止められた。
「ちょ、カレン!?何やってんの?」
「楽しそうだったからー。」
「「楽しそうって…」」
楽しそうだったか? あれ。
恥ずかしくて徐々に互いが赤くなっていってただけだよね…。目線を逸らすのもなんか嫌だっただけ。
「…じゃあ、わたしも」
「俺も!」
「ガロウ!?…ガロウが混ざるのでしたら私も…」
え。ちょっと待って。流石に1人いる状態で3人に飛びかかられたら支えきれないって! タイミングがわずかにズレてるからなんとか…、ならないね。どうあがいても何とかしようとすると、子供の誰かが怪我しそうだ。
それなら諦めてつぶされようか。出来るだけ子供たちが怪我しないように。
もちろん、四季も怪我して欲しくないけど…、彼女も俺と同じように、子供に出来るだけ怪我をさせないことを選んだみたいだし…、都合のいいことに布団敷いてあるし。