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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
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116話 アリア

「聞きたいことがありすぎるって顔してんな。あんたら。ひとまず、俺っちがまず適当に話そうか?」


 …そのほうがいいか。脈絡もなく俺と四季で質問していけば脱線してしまいそうだ。だから、俺も四季も首肯した。



「俺っちが、嬢ちゃんのことを…、鎌ちゃんと呼ぼうとしたことにたいして意味はない。その方がわかりやすいと思ったからだ」


 「鎌ちゃん」その部分だけは他の部分よりも声を潜め言ってくれた。



 だけれども、知らないにしても、知っていないにしても…、大した理由がないと言われてしまうと、どうしようもなく腹が立つ。彼からしたら理不尽極まりないことは、頭では十全に理解している。



 だけれども! それでも! ムカつく!



「はぁ。ほんと、あんたらあれだよな…。俺っちたち獣人族の親よりも獣人族の親らしい。ぎりぎりと歯をかみしめ、俺っちへ殴りかかろうとするのを自制している姿。それを見れば、「あんたら本当は、獣人族で、本当に仲のいい家族なんじゃないか?」って言いたくなるな」


 俺達を赤面させたかったのか、飄々とした声で言った。だけど、



「…とはいえ、完全に意味がないわけじゃないぜ?」


 声が突然、まともな、硬質なものになる。なるほど、頭に上った血を落ち着かせてくれようとしていたのか。



「いや、そんなことないから。俺っちの趣味」


 うわぁ……。彼の台詞が、本心からのものかどうかはわからないな。くっ…、タクがいれば…。



「それより、続き言っちゃうよ?いいの?聞かないの?そんな呆れていて聞けんの?」


 呆れさせたのはあんたでしょ! と言いたいのをグッと二人でこらえて続きを促す。



「俺っちはだな、獣人領域にかつて人間の鎌の勇者がいたから、嬢ちゃん…、アイリ嬢ち

ゃんのことをそう呼んだんだよ。決して、悪意からじゃない。それは断言する。ただ、それが彼女の心の傷だとは知らなかった。だが、知らなかったとはいえ、すまなかった」

「それ2回目です。もうアイリが許しています」

「それに、私達も思慮不足でした。申し訳ありませんでした」

「…だが、思慮不足と一口に言っても、場合によるんだぜ?即断即決で功をあげれば、迅速な決断と持て囃されるぞ?」

「…ですが、失敗すれば短絡的な暴走と、非難の的になりますよね?」


 ジト目で言えば、彼は嬉しそうに口角をあげた。



「ああ。わかってればいい」


 だけど…。



「あ」


 サンコプさんが言い忘れていたとばかりに口を開く。



「そうそう。どうせあんたらは、「娘や息子の危機を見逃せない」って言うんだろ?わざわざ言わなくても結構。知ってるぜ」


 …やっぱり察されてるよね。事実、その通り。完全に見通されていて、四季と顔を見合わせて苦笑いすることしかできない。



「だーかーらー。獣人族の家族よりも獣人族の家族らしいと言ったんだぜ?」


 そう言われてもな…、俺達は獣人族の一般的な家族を知らない。



 というか、人間の家族でも、完全に知っているといってもいいんじゃないかと思えるのは、地球に置き去りになっている自分の家族くらいだ。他は、腐れ縁のタクの家族とか、中学の時の家に遊びに行った時に見た家族。アークライン神聖国教皇家に、イベア王家ぐらい。でも、上辺だけだ。間違っても「完璧に知ってるよ!」なんて言えない。



「なんか、小難しいこと考えてんな…。何で家族の形を考えだすのかねぇ…」

「そういう質なんですよ。きっと」

「死んでも変わらない気がします」


 俺らの答えにサンコプさんは、「さよか」とだけ言って、頭を掻きむしる。



「ま、あんたらの思うようにやりゃあいいんじゃね?後悔ないように。あの子らはあんたらが好きなんだから、きっとあんたらが一番いいと思うことをしてやるのが一番いいさ。ところで、話しを戻そうぜ。逸れちまったし。さっきの勇者の話。まぁ、戻そうと言ったとはいえ、情報は少ないけどな。何しろ本に載っているものだけだからな」

「それでも、俺達に聞かないという選択肢があるとお思いで?」


 家族に関係のある話なのに? なんて言葉にせずに目で伝えれば伝わったらしく、サンコプさんは「だよな」と言って、小さく笑った。



「彼女の名前は『アリア』。人間の勇者にして、アイリ嬢ちゃんと同じく鎌を携えた…、黒髪黒目の獣人族の英雄だ」

「…アリアですか?」

「マリアではなく?」


 四季。何でボケた。確かに一瞬、マリアって聞こえなかったこともなかったけど! 顔を赤く染めてるのがちょっとかわいそうだ。えーと、話題を逸らさないと…。



「あ、そうだ。アリアは日本人ではないのですか?」


 何でこんな質問した俺!? どう考えてもアリアなんて、日本人名じゃないじゃないか! ていうか、アジア圏ですらない!



「よくわかんねぇけど、違うんじゃないか?シュウの考えている通りでいんじゃねぇかな…。すまん。俺っちも詳しいわけじゃねぇんだ。ひょっとしたら、勇者召喚すらされてねぇかもしれねぇ」


 あ。そっか。ひょっとすると勇者召喚すらされてないのかもしれないのか…。



「ところで、マリアって誰?」

「マリアはうちの世界で有名な聖人です。」

「救世主の母だったような気がします。」

「へぇ…。聖人かぁ。アリアもそう呼べるぜ?」

「む。何故です?」

「そういや、具体的に何したかを説明してなかった。俺っちが読んだ本によると…、彼女は魔人領域からフラリと仲間たちとやって来て、身重であるにもかかわらず、我らが領域内の瘴気…、いや、呪いというべきか。ともかく、それを取り除いてくれたそうだ。その後は、人間領域に行ったらしい」


 身重……となると、妊婦さんってこと。



 妊婦さんに何させてるんだ…。って、違うだろうなぁ…。周囲が止めたのに強行したんだろう。



「ところで、人間領域で聞かなかったのか?…って、聞かないわなぁ…。聞いてたら普通、嬢ちゃんのトラウマになんかならねぇよな…」

「正解です。そんな話、残念ながら聞いたことも見たこともないです」


 聞いていたら少しはマシに…、ならなかっただろうな…。



「何故にそこまで落ち込む?」

「いえ、単に、アリアの話が人間領域にあっても、アイリにとっては意味がなかっただろうな…。と思いまして」

「『エルモンツィ』とかいうのがいますからね…」


 二人で顔を見合わせてため息をつく。あいつ、話聞いているだけで殺り過ぎとしか感想でないからな…。



「そいつ、何やらかした?」


 流石に悟れなかったらしく、質問してきた。だから、四季が端的に答える。



「黒髪赤目の殺戮者。幾多の街や村を滅ぼしました。ちなみに、アイリちゃんも、黒髪赤目です」


 それを聞いて、サンコプさんは一瞬で察したらしい。「あー」と言いながら天井を見上げる。言葉にすれば、「超やっちゃったぜ☆」とかだろうか? もちろん、ここでの☆は、ただのヤケクソ。



「…マジですまんかった」


 頭を地につけて平謝りするサンコプさん。一瞬、土下座だから、勇者が伝えたのかな? なんてどうでもいいことが頭をよぎったけれど、すぐに振り払う。



「先も申し上げましたが、アイリも謝罪を受け入れています。これ以上は野暮です。ですから、立ってください」


 四季と二人で無理やり立たせようとするけれど、立つ気がないのか重い。まだ、土下座を続行しようとされない分まだマシだけど…!



「…俺っちの気がすまないんだけど…。でも、これ以上も二人の迷惑だろうからやめる」


 スッとやめると立ち上がった。かなりいきなりだったので、俺と四季は衝突する。



「「痛い(です)…」」

「すまん…。で、エルモンツィはどうなったんだ?」

「人間を虐殺した後、勇者に討伐されたとかなんとか。繰り返しになりますが、アリアの情報はなかったです」

「そうか…。こっちにも、アリアが出産したという記録はなかった。となると…」


 十中八九、人間領域に来る途中──おそらくはメピセネ砂漠──で死んだんだろう。身重のときでも、過保護にしては逆にだめだと聞く。けど、流石に呪い除去と、砂漠横断は止めなきゃダメな事案だっただろう。…強行する理由でもあったのかね? 想像しかできないけど。



「あ。そうだ。獣人族の方に、赤目が多いのは何故でしょう?」

「何故それを?」

「人間領域では、赤目は魔物の象徴として忌避されているのですよ」

「うへぇ…。嬢ちゃん絶対苦労してたろ…」


 間違いなくね。俺の貧弱な想像でも、苦労していたのは明らかなのだから、実際のしんどさは如何ほどか…。



「俺らと会って、多少はマシになった…、と信じたいですね…」

「多少マシになったとはいえ、それでも、今も苦労してますけどね。私達といたところで、偏見と食欲からは逃れられませんから」

「マシになっただろ。それは信じろよ。嬢ちゃんのいい笑顔を見てれば、それくらい明らかだろ?自己評価を下げ過ぎるのは、良くないぜ?」


 確かにそうだけれども…。自己評価を上げすぎて、傲慢になるよりは…。



「そこは、匙加減だろ。普通に考えて。頑張って調整しな。…まぁ、獣人領域でも嬢ちゃんが苦労するのは変わらないだろうぜ…。今度は、「悪意に満ちた偏見」ではなく、「勇者に向けられる視線」だけどな。どっちみち、嬢ちゃんからしたらうざいだろ?」

「…大丈夫。有象無象の視線なんて気にしない」

「うわおぅ!?」


 ヌッとアイリが割り込んできて、俺も四季も、サンコプさんもびっくりして飛びのく。聞かれた…!? 聞かせたくなかったのに!?



 だけど、アイリはそんな動揺する俺達を見て、クスクスと嬉しそうに笑う。



「…そもそも聞こうとして『身体強化』してたよ。…というか、わたしの身長じゃ二人に気づいてもらえない可能性があったから、飛んだんだよ?」


 悪戯の種明かしをする子供のように、楽しそうに笑う。折角、サンコプさんが配慮してくれたのに意味なくなった!



「…そうでもない。配慮してくれたのは嬉しかった。…サンコプの言うように、今、わたし、幸せだしね」


 浄化されそうなほど、透き通った笑顔を向けてくるアイリ。その目は雄弁に、彼女が今語った言葉が、本心からの物であることを訴えてきている。



 嬉しくなって、照れ隠しで少しだけ乱暴にわしゃわしゃと撫でる。3秒ほどだけ、そのまま、俺と四季に撫でられていたが、



「…まだ、かかりそうだよね?…先にリンパスと部屋に行ってるよ。いい?」


 と、顔をいつもの無表情に戻して言った。む…。さっきの顔の方が何倍もよかったのに…。そのままだと進まないって、思われちゃったんだろう。その推測は間違いじゃない。残念だけど、思考を戻そう。



「じゃあ、レディックさんの話はもういいのか?」

「…ん。すんだ。直接二人から聞くと良い」


 そっか…。じゃあ、先に戻っていてもらってもいいかな。四季に確認を取れば、彼女も頷いた。



「いいよ」


 とだけ言えば、4人は嬉しそうに手を振って部屋から出て行った。そして、完全に給仕の人によって扉が閉められる。



「あの子、つえぇなぁ…。芯もしっかりしてる」


 ため込んでいたものを漏らすかの如く述べるサンコプさん。だから暴走したら怖いんだよね…。



「あ。対処法なんてないから。嬢ちゃんの自制心に期待してな」


 うわ…。何か手段がないかと聞こうと思ったのに先手を打たれた。しかも答えに救いがない!



「俺っちもまぁ、大概だけど、リンパスとか、クヴォック見てみ?特にリンパス。それかあの、ドングリ狂い(スーラ)か」


 説得力が尋常じゃないな…。あれ? それって言外にどうしようもないって言われてるのと同じじゃ…。いや、依存を何とかやめさせれば…。



「まぁ、俺っちはよその家の子育てには口出さないから。頑張りな」

「正解なんてないのですものね…」

「その通り!そもそも、成功する子育て法なんてあれば誰もが真似するぜ?そうなりゃ。外見が違うだけの人間の完成って寸法だ。そんなの、つまらないじゃねぇか?弄りがいもねぇしな!」


 結局、いじるところに着地するのか。まぁ、この人らしい。そう思うと、予期せず笑いが俺と四季からこぼれる。



「お。ついに無駄だと察して言わなくなったか。いい傾向だぜぇ。あ。そうだ。これからどうする?部屋に戻る?」

「あ。アイリ乱入で流れましたが、ここでの赤目の扱いってどうなんですか?」

「そういや、あったな」

「ありましたね…。危なかったですね」


 3人とも忘れてたのか…。それだけアイリ乱入のインパクトが大きかったんだろう。サンコプさんだけ、きっとインパクトのベクトルが違うけれど。



 …主に俺らの八つ当たりを怖がる。的な意味で。



「で、どうなのです?」

「どうって言われてもな…。俺っちはまぁ、アメジストだけど、群長たちを見てもらえりゃわかるように、そんなに珍しいもんでもねぇぞ?獣人族の半分…、正確には5分の2か?が赤目だ。しかも、勢力的には最大だぜ」

「となると、扱い的にはどうなんですか?」

「そりゃ、魔物と一緒だからって特に何もないぜ。一部嫌がるような奴もいないこともないが、ごく少数」


 迷うそぶりも見せずつらつらと語った。



「てかさ、あんたらもあんだけ、本読んでたら…、知ってるだろ?俺っちたちがさ、人間のなれの果てってことぐらいさ。嫌ってたらそれ、自分の根幹を否定することになるぜ?」


 あー。確かに。言われてみれば。アイデンティティクライシス? だっけ?それになっちゃうな…。



「まぁ、確かに、「俺っちたちは魔物と違って、普通に魔物が出る領域じゃなくて、人間が住むようなところに住んでいるわけだ!だから魔物と同じなんて絶対嫌!」とか言うやつもいるけど。俺っちとしては、割とどうでもいい」


 どうでもいいって…。貴方、獣人族のほぼ最高の地位の人じゃないですか…。



「だって、どうでもいいもの。ただでさえ少ない、赤目に忌避感を持つような奴のごく一部だぜ?ほぼいねぇも同然だ。当然、変な行動にでりゃ粉砕してやるが。出れねぇし」


 何故? って、聞くまでもないな。赤目の群長を担ぐ群に喧嘩売るようなものだもの。というか、同群からも袋叩きにあいそう。



「まぁ、概ねその通りだぜ。あ、そうだ。ついでに、魔人は獣人よりも赤目の比率が増えるらしい。ほぼ赤目なんだと」

「違いは…、瘴気の汚染度ですかね?」

「私も習君と同意見なのですが。どうでしょう?」

「たぶんそうなんじゃね?完全に瘴気に負けたのが魔物になるんじゃねぇか?」


 自分で言っててなんだけど…、これ、もとから赤目の人とかどうしようもないじゃん…。生まれた瞬間に差別確定? ないわ…。ああ、でも地球でも普通にあったな…。具体的には言わないけど、過去にも、今にも。



「そろそろ戻ろうぜ。子供たちが待ってるだろ?」

「その前に、俺らに少しだけ本を読ませてください」


 サンコプさんは首を一瞬だけ捻ったが、すぐに合点がいったらしく、



「なるほど。俺っちの情報の裏取りね。いいことだぜ。いいぜ。来な。あ。当然一冊だけだぞ!?嬢ちゃんたち曰く、馬鹿みたいな量の本読めるらしいけれど、あんまり待たせちゃかわいそうだからな!」


 と言って、歩き出した。やっぱりこの人はいい人だ。そう思う。四季に目で同意を求めると、四季も目で返してくる。



 …って、あれ? 何で振り返ったのでしょう? 忘れ物?



「おい、一冊だけだぞ!?返事なかったが!?絶対だぞ!?わかってんの!?後、一冊も読まずにいちゃついて時間潰すなよ!?いや…、多少は自由時間が必要か?ええい!このバカップル!?」


 …返事しないからって、よくわからない理論をこねて不意打ちしてくるのやめてください。



「目で会話してんの見て不安になったんだよぅ!」


 えぇ…。いちゃついていたつもりはないんだけど…。



「それならいいが、マジで一冊だけな!待たせちゃかわいそうだぜ!?」


 なぜか念押しされた。信頼ないのか…? 解せぬ…。



だけど、サンコプさんは歩いて行く。振り向くそぶりすら見せないので俺達は慌てて追いかける。

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