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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
4章 獣人領域
124/306

115話 夕食

「移動しましょうか」


 リンパスさんの凛とした声に従って移動。移動先となる部屋は先ほどの部屋に隣接する塔の中にある。



 その部屋の中には中心に、人一人がくつろぐには十分な大きさの穴が開いた木製の円形テーブルが一つある。ここまではおかしくない。



 だけど、何故か、部屋の入り口からテーブルの中心に向かう部分に、人一人が通れる空間が確保されている。でも、これだけならテーブルの中央に落ちたものを拾いやすくする処置だと擁護できる。



 だが、何故か、何故か。穴の中に机と椅子がある。これでも、まぁ、まだ辛うじて配膳するための手助けの台だ。と言えないこともない。



 だけど、そんな言い訳を粉砕するのがこれ。パッと見てその机が一番高い。しかも高いのは、高さではなく値段! もはやわけがわからない。…いや、嘘だ。正確には何とかなく想像がつくけど当たってて欲しくない。



「今日は勇者様方がいらっしゃるので正面7席を開けておくように」

「あ?何で7席なんだ?」

「勇者様方は6人しかいらしゃいませんよ?」


 リンパスさんはやれやれとばかりに肩を竦める。「イラッ」そんな音がリンパスさんに問いかけたサンコプさん、キャンギュレイさんはもとより、11人全員から聞こえた。



「全く、皆短気ですね…。私が勇者様方にいろいろ説明する必要があるからですよ。説明するためには隣に座る必要があるでしょう?」

「確かにそうだ。だけど…、そもそも勇者様方が正面に座る必要があるのかい?」

「ありますよ。客人の正面にリンヴィ様。これが最も効率的にリンヴィ様を知ってもらえる方法だと、皆同意していたでしょう?」


 あ。やっぱり…。やっぱりあの真ん中の机はリンヴィ様用か。当たってて欲しくなかった。子供たちに真似されると困る。というか泣く。




「…心配しなくてもやらないから。…彼らのことを悪く言う気はないけれど…、…わたしは、ううん、わたしも。かな?…とにかく、食事をするなら、…例え二人が遠くても、お父さんとお母さんの顔を正面か、横から見ていたい」


 言うと恥ずかしそうに頬を染める。



 考えがまた読まれていたわけだけど…、それは今、いい。アイリと俺の考えが一緒なのが嬉しくて頭を撫で…、ようとすると四季の手が伸びてきていた。だから互いに干渉しないように撫でる。構ってもらえてうれしい猫のように目を細めるアイリ。…ものすごくかわいい。



 なんて思っていたらカレンとガロウ、レイコも混じってきた。よし、一緒に遊ぶか。だって…、



「そうだとしてみょ、べちゅに説明しゅるのが、リンパスしゃんである必要はないはずです!」



 静かになっていたのに、また言い争い始まりそうだし。



「え?あるに決まっているでしょう?私がリンヴィ様の次に獣人族に詳しいのですよ?」


 エヘンと胸を張るリンパスさん。



「証拠は?証拠はどこにあるのじゃ?おおん?」

「この前、獣人族検定試験したじゃないですか。あれ、私だけ(・・)満点でしたよね?」


 さらに火に油を注いでどうするんだろうか…。



「撫でろー」

「ああ。ごめんごめん」


 カレンの髪も指通りがいいな…。



「ああ?あれ辰群の出題が多かっただけじゃねぇか!」

「そーだよそーだよ!クヴォック!きっと、どんぐりを検定員に送ったんだよ!」

「送るのは賄賂な!どんぐりなんか送られて嬉しいやつなんていねぇよ!」

「豚は好きだよ!」

「あんただけだよそれ!?亥群でもそこまで大好きなやついねぇぞ!?あんたはもう黙ってな。あんなどうせアタイらの中で一番低かったんだから!」

「どーして?どーしてなの?」

「俺様ですら、全部の解答欄を「どんぐり」か「リンヴィ様」にしない。この愚か者!」

「むー!」


 …懐かしいな。中学生時代だったか。タクも一回、音楽のテストで、解答欄全部「ベートーベン」で埋めたんだった。確かにその時の暗記事項の中で、一番登場回数多かったけどね。だからといって、



問.この楽器の名前は?

A. ベートーベン



 はない。当たり前のように赤点取りやがったから、その後しばきたおして真面目に暗記させて追試突破させたんだっけ…。それと同じくらいスーラさん酷いな。



「撫でろー」


 ああ。はいはい。かわいいなぁ…。



「多いって…、貴方みたいに文句を言う人が出ると国体の維持に関わるのでものすごく苦心して問題作ってらっしゃるのですよ!?多いわけないでしょう!?よしんばあったとしても、せいぜい一問でしょう!?」

「はぁ?一問もあれば十分だろう!?」

「ねぇ。サンコプ。僕さ、君三問間違ってたと思うんだけど?」

「くっ…。裏切るのか!?シール!?」

「僕二問間違いだから…、裏切ってないんだよねぇ」


 ギリギリと口をかみしめる二人。…この言い争いいつ終わるのかな? 席順でここまで盛り上がれるとは…、「あんたら小学生か中学生か」と言いたくなる。たぶん通じないけど。



「ねー。まだなの?」

「…まだだと思うよ。お腹すいた…」

「そろそろキツイですか?」

「…ちょっとね」

「俺は少しだけ」

わたくしのお腹の加減もそうですが、あちらでずっと様子を窺っている方も不憫です…」


 レイコの視線の先には所在なさげに立ち尽くす給仕係の人が。時折こういう言い争いがあるのか、目が達観しているけれど…、まぁ、不憫な事には変わりない。だけど、もうちょい待ってみよう。ひょっとしたら終わるかもしれない。



「せめて座らせてあげましょう」

「だね。あの。俺らはどこに座っていればいいですか?」

「え…。あ。正面6席にご自由にお座りください」


 今の今まで俺らの存在忘れてたね…。これ。まぁ、俺らも遊んでたからな…。



「あ、そうだ!勇者様方!リンヴィ様の次に獣人領域に詳しい人が隣に座ったほうがいいですよね?」


 椅子を引いて子供たちを座らせているところに、「さぁ、言え!良いと言ってください!」と切実に目で訴えかけてくるリンパスさん。



 そうでもない。って答えたいけど…、実際問題、詳しいほうがすぐに聞けるし聞き取りやすいからなぁ…。そう考えて、俺も四季も頷く。



 瞬間、リンパスさんはガッツポーズを決めて、勝者の笑みを浮かべて口論から抜ける。



「終わった…?」

「ええ。私は」

「終わってませんよ。習君」


 えぇ…。



「順番とか決まってないのですか?」

「決まっていますよ。ですが、今日は皆さまがいらっしゃいますからね、順番は関係ないのですよ」

「じゃあ、順番通りに座れば…」


 いいんじゃないですか?と言おうと思ったが、言えなかった。だって、群長達の「そんな勿体ないことできるか!」という眼がグルッと一斉にこちらを見てきたから。子供か…。たぶん、俺らが正面占拠しているのに回数の勘定に入れるのが嫌なんだろう。あ。じゃあ…。



「では、今日は順番に入れなければいいのでは…?」

「だめだ。平等性が崩れる」

「そー。その人が得じゃーん」


 提案を折角レディックさんが上辺取り繕って蹴ったのにスーラさんが台無しに。子供じゃん…。



「というかだな、昨日リンパスがリンヴィ様の前だったじゃねぇか!」

「チッ。バレましたか…。ですが私が詳しいのは事実です」

「てめぇ!誤魔化す気だったか!」

「ですが、繰り返しになりますが、一番詳しいのは私ですよ?」


 絶対収拾つかないねこれ。はぁ。さっさと終わらせてもらおう。



 こんな時はサイコロで決めてもらおう。6面…だと少ないな。20面…も、ダメだな。絶対に同じ番号出る。一気に増やして100面にしよう。これでも全く被らない可能性は…、50%?



 低いな。まぁ、いいか。100面あれば2回で決着つく…と思う。それに、これ以上面が増えると見にくい。サイズをあげてもいいけど、今度大きくなるし。



「四季。紙頂戴」

「どうぞ」


 四季にお礼を言って字を書く…前に、目の出る確率の等しさ…、同様に確からしさを確保できるようにしておかないと。あ、後、割とすぐ止まるようにも。止まるまでに時間がかかると意味がないし。よし、イメージは固まった。



『100面サイコロ』


 サッサッと筆で紙を数回撫で、書けた。でも嫌な予感がするな。サッと終わらない気がする。



 チラッと四季を見れば、彼女は頷いた。というわけで、一緒に発動。100面サイコロを作った。これで備えはばっちり。さて、



「皆さん。これを12人全員が振って決めてください」

「数字の大きい人から好きな席を決めていきましょう。数字が被ればもう一回です」

「ズルが出来ないように俺達が見ていますし…」

「どの目が出る確率も同様に確からしいことは私達が保証しますから。ね?」


 ニッコリと二人でほほ笑んでいえば、そばにいたリンパスさんがおずおずとサイコロに手を伸ばし、群長たちの中に戻っていった。よし。これで決着つくでしょ。



「こわーい」

「…わたし達をだいぶ待たせているし…、流石に長い。…イライラしているんでしょ」

「リンパス様に有無を言わせてないしな…。「私もですか!?」なんて」

「その上、群長様達にすぐにサイコロを振らせていましたね…。サイコロの検査。サイコロを振る位置の調整などの時間のかかる動作はもとより…」

「異議を唱えさせることもなかったしな」

「…「勇者様のいう事にケチをつけるわけにはいかない!」ってのもあるだろうけれど…。カレンの言う通り、怖かったからね。…あ、でもわたしは怖くないよ」

「ボクもー」


 ガロウとレイコも追従する。わざわざそう言ってくれるのは、アイリが先に言ったみたいに彼女たちのためだと察してくれているからだと思う。



 完全に彼女たちのためではないのだけれど…、だって、俺達もちょっと面倒になってきていたしね。でもちょっと嬉しい。



「さて、このまま座って待ってよっか。


 席順は俺と四季がリンヴィ様の正面。その横に左から、アイリ、ガロウ、レイコ、カレンだ。







_____


「私の勝ちです!」


 お手本のような勝ち誇った顔でリンパスさんが勝ちを宣言する。



 一回目が全員100。二回目に10人が100、残りが99。とかいう奇跡的確率をはじめ、1対1で被るという割と現実的な確率(1%)を経て、ようやく決まった。嫌な予感が見事に的中した。魔力をかなり込めておいてよかった。絶対消えてた。



「リンヴィ様。席順が決まりましたよ」


 勝ち誇った顔のまま席に着いたリンパスさんが言う。



「…結局いつもの席順ではないか…。何のためにやったのだ?」

「うる…、ゲフンゲフン。納得するために必要だったのですよ。まぁ、いいではありませんか。入りなさい」


 リンパスさんからの合図でガラガラと台車が入ってくる。料理がその上に乗っているのだろうけれど、蓋のせいで見えない。



 そんなものが俺の前、四季の前…、と順に置かれていく。リンヴィ様へはリンパスさんが立ちあがって嬉々として渡しに行った。渡しに行くのもきっと席順で決まってるんだろう。慕われすぎも大変だな…。



 ま、それはいいや。料理が目の前に来たのに匂いがしない。完全に料理の情報が遮られている? そう考えると否が応でも期待が高まってくる。



 だって、相当な自信がなきゃこんなことしないはずだもの。…開けたいな。そっと手を伸ばして…。



「カレンちゃん。先に開けちゃダメですよ」


 ! …ああ。カレンか。俺が言われたのかと思った。



 カレンの方を見てみると、彼女は顔を蓋に当たるぐらいまで近づけていた。



「むー。わかってるよー。それくらーい。けどー、あったかいよー?」


 恥ずかしそうに頭を掻いて言った。ん? あったかい?



 そっと手を伸ばして蓋を触ってみる。うわ、本当にほんのり温かい。中の熱が伝わってきている…? あんなにこの部屋に移動してから時間が経っているのに?



「私達の給仕は有能でしょう?」


 得意そうに微笑むリンパスさん。



 …有能なのは間違いないけれど、これ慣れてるだけじゃあ…。慣れているのも優秀な証ではあるけれどさ。慣れているって、逆に言えば、給仕の人たちが慣れるぐらいこの言い合いを客の前でやっているってことの証左じゃないのか?



 そんな風に考えながらリンヴィ様をそっと見る。あ。目を逸らされた。推測は当たっているみたいだ…。せめてもの救いは、獣人族は引きこもっていたから、こんなことをやらかされたであろう相手が、獣人族でかつ、最も偉くても副群長クラスということか。



「では、皆様、「いただきます」と同時に開いてくださいね!合図してからですよ!?では、いただきます!」

「「「いただきます」」」


 無駄に機嫌のいいリンパスさんは、焦らすことなく合図。サッと蓋を取る。



 これは…。懐かしい。



 召喚されて、まだ一か月やそこら。経過した時間はまだそこまで長いものではない。それでもそう感じるのは、俺が米、味噌、醤油なんていう日本的な要素を感じられるものを欲していたからか。



 目の前にあるのは、日本の典型的朝食。白米、焼き魚に豆腐。それに味噌汁、出汁巻き卵。付け合わせに漬物に海苔。見事に一汁三菜。実際は面倒でこんなに用意することなんてないわけだけれども…、嬉しいな。それこそ、今は夜。なんてツッコミも忘れてしまうほど。



 まぁ、とりあえず食べよう。米を箸で口に運ぶ。柔らかすぎず硬すぎず丁度良い水加減で、噛み締めればしっかりと…、白米の味がする。もち米や、小麦粉を練ったものではない、食べなれた米の味だ。



「驚かれました?」

「はい。とても」

「まだご飯しか口にしていませんけど十分に」

「他のも大丈夫ですよ。なんてったって過去の勇者様が発展させてきたものですから」

「勇者と言うと…、ここに定住した勇者ですか?」

「ええ。そうです。米はもとより…、味噌や醤油。味醂といった調味料。それに加えて豆腐などの食材もです。まずは、ひとまず食べてみてください」


 リンパスさんだけでなく、他の群長やリンヴィ様も他のを食べて欲しそうにこちらを見ている。彼らだけでなく、子供達も。どうやら先に食べてもらおうと遠慮しているらしい。まだ、米しか食べていない。…アイリは既にお米おかわりしているけど。




 味噌汁、豆腐、出汁巻き卵。ポン酢をかけた焼き魚。それに加えて海苔に漬物…。順に口を付けていけば、子供達も俺達が口を付けた順に口に運んでいく。



 どれもこれも懐かしい味、香りだ。だけど、僅かに違う。もちろんいい方に。



「美味しいですか?」

「はい。とても」

「あちらで食べたよりも美味しいです」

「それはよかったです!」


 リンパスさんは顔を輝かせ、周りの群長たちはもとより、給仕の人もホッと息を吐くのが見えた。



「…ねぇ。ひょっとして勇者がここに定住したのって、お米や、醤油があるから?」

「お米はそうですが、醤油は違いますよ。なんでも、「米を育てるにはここが一番いい!だったらここで、俺 (私)は二ホンの魂を取り戻す!」とかなんとか言った勇者様がいらしたそうですよ」


 問いにリンパスさんが答えると、アイリは閉口した。「何その人?」と呆れているのだろう。



 俺としては、「まぁ、そういう人もいるよね」とか、「日本じゃないところで日本の魂 (食事)取り戻してどうすんだ」とか言いたいけど。でも、その人のおかげで食べられているわけだから文句は言わない。こういう質が魔改造に繋がるのかもしれない。



「それはそうとリンパス。もし夫妻が二ホン出身じゃなかったらどうしたんだ?」

「え?どうもしませんよ。私が恥をかくだけです」


 真顔で答える。何でそんなに男前なんだ…。いや、それより、



「勇者は俺達の故郷…、日本から以外もいるんですか?」

「ええ。いらっしゃいましたよ。ただ数が少なくて…。彼らの出身までは詳しくは残っていません。ですが、少なくとも、二ホンとチキュウには関わりがあったようですよ。二ホンの勇者様と謎言語で話していたという記録があります。あ、後、勇者様方は皆、黒髪黒目だったようです」


 なるほど…。勝手に勇者は日本人だけだと思っていたけど違うのか…。今の話から判断するに、勇者召喚は地球から限定で、日本人の比率が高いということか。



 黒髪黒目…はそれだけじゃ意味ないかな。確かに日本人は黒髪黒目が多いけど、生まれながらにして茶髪の人もいるし。逆もまたしかりで、西洋系でも黒髪黒目の人がいるから。出身地判別は出来ない。



 もし、絵とかが残っていれば、外見から判断できなくもないけど、絵はあてにならないし。



 俺みたいに下手なわけじゃない。そうじゃなきゃ残らない。だけど、残るような絵は美化されていたり、外見的特徴が強調されていたり…、権力者の手で改竄されたりするから。まぁ、自虐は置いておこう。それよりも…、



「人間領域でそんな本読んだ記憶がないな…」

「…あれだけ読んでたのに?」


 む。声が漏れていたか。独り言のつもりだったのだけれど。



「私も読んだ記憶がないですね…。無意識に除外していたんでしょうかね…?」

「単に勇者が故郷の話題を出さなかっただけじゃないのー?」

「姉ちゃんの言う通りだと思う。単に故郷の名前を挙げたうえで、目立つようなことやってなかったんじゃないか?」


 かもしれない。けれど勇者だ。記録から抹消された人は別として、何かを為せば絶対に残るとは思うんだけど…。あ、でも、故郷に対する思いがなければ、口にしない…かな?



「そういえば、姉ちゃん。あれだけって、どれだけ読んでたのさ。二人とも」

「…これくらい」


 アイリは机を指さす。もっと多かったような…。



「この机と同じくらいですか?案外すk」

「…違う。この机の真ん中の隙間も含めて、床から天井まで」


 レイコとガロウは床から天井までを眺め、そして俺と四季を見る。再度視線を戻し、床から天井までを見る。



「どれくらいの時間で?」

「うーん、どれくらいだろう?でも、全部合算しても48時間いかないと思うよ」


 何か変なものを見るような目で、口を開いたままこちらを見てくる二人。魔法あるのに、普通じゃないの? 俺だって地球でこんなの聞いたら嘘だと思うけど…。



「あ、でも、ちゃんと読んでいたわけじゃないからね」

「そうですよ。確かに、机は半径15m、床から天井まで20 mはありますけれど…、内容がダブっていたのでまるで読まなかった厚さ1 m級の本だってあります」

「それに、無理やり円形に長方形の物を押し込むから隙間出来ているはずだし…」


 慌てて俺と四季で取り繕う。が、



「魔法あるとはいえ、魔力をそんな無駄遣いすることなんてねぇぜ…。お二人さん…」

「…ん。そうだよ。…ドン引きされたの忘れてたの?」

「普通一人に一基つくサポートしてくれるやつをー、13とか稼働させてたじゃーん」


 サンコプさんとアイリ。カレンに無駄にされた。酷い。俺と四季は拗ねるようにご飯を口にかきこむ。噛むと、じんわりと甘さが広がって美味しさにほおが緩む。



「冷めないうちに食べましょうか」


 リンパスさんが言えば皆、止めていた手を動かして食事に戻る。奥の方で給仕の人が、「冷めないようにって…、お前が言う!?」みたいな目をしていたのがとても印象的だった。







______


「「「「ごちそうさまでした。」」」」


 挨拶をすれば解散だったらしい。銘々が立ち上がる。



「リンヴィ様。私は勇者様方を部屋に案内いたします」

「ああ。任せた」

「と言うわけでついてきてください」

「ちょっと待って下さい。リンパスさん。えーと、サンコプさん。いいですか?」

「ん?ああ。いいぜ。あっちでいいか?」


 サンコプさんは察してくれたらしく、部屋の隅を指さした。これで弄るのが好きでなければいい人なんだけれど…。



「ごめん。皆先に部屋に行ってて」

「あ。すまん。わしもいいか?そこの…、わしの同族と話がしたい」


 したいけれど、無理だろうなぁ…、そんな風にレディックさんが声をかけてくる。レディックさんなら大丈夫だろう。


「いいですよ」

「やっぱり無理…、え?よいのか?」

「はい。構いませんよ」


 目を丸くする彼に四季が答える。彼は俺も見てくるので頷いた。



「…一応わたしそばにいてもいい?」

「ボクもー」

「ああ。構わない」

「では、私も同席いたします。ご子息様達をお守りせねば…。あ、同席よろしいですか?」


 確認してくるリンパスさん。二人で首肯すれば、子供たちが用を済ませてきなさいとばかりに顎で俺達を押し出す。心配は要らないよってことだろう。



「嬢ちゃんの話だろ?いいぜ。何が聞きたい?」


 隅によるなり、真面目な顔でそう言うサンコプさん。やはり察してくれていたようだ。さて、何から聞こうか。

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